閉じる

報告書&レポート

2017年11月2日 調査部 ジャカルタ事務所 南博志
17-27

Argus LiCoNi Markets and Investments 2017 参加報告

―電気自動車とLi, Co, Niの需給―

<ジャカルタ事務所 南博志 報告>

はじめに

Argus Lithium, Cobalt and Nickel(LiCoNi) Markets and Investments 2017は、Argus Media社が世界各国で開催している様々なコモディティの市場・投資に関するカンファレンスの一つである。本カンファレンスは、リチウムイオン電池関連材料に焦点を当て、電極材料となるリチウム、コバルト、ニッケルの需給、電気自動車(EV)向け電池技術の最新動向等、関連する分野の講演を中心として開催された。本稿では、そのカンファレンスの講演の概要について、報告する。

写真1.講演会場

写真1.講演会場

1.カンファレンス概要

本カンファレンスは講演のみで構成され、リチウムイオン電池のサプライチェーンの様々な部門から計100名(事前登録者数)の参加者を得て、開催された。シンガポール、中国からの参加が特に多く、また、講演者は、ブラジル、ドイツといった国からも招かれていたほか、豪州、日本、韓国、カナダ等からの参加が主だったところであった。日本からは全部で10名弱参加をしていたが、日本企業による講演は無かった。参加者の業種は、リチウム等探鉱ジュニアカンパニー、リチウムイオン電池生産会社、関心を持っている商社・金属専門商社、自動車メーカー、金属関係の情報会社・研究機関等であったが、特に投資会社からの参加が多かった。また、ネットワーク作り、ひいては実際の取引・契約に結び付けるため、ホテルのロビー等で個別に面談を行っている姿も散見された。

2.講演概要

講演は1会場で約1日半にわたって行われ、全15件の講演があった。また、パネルディスカッションも2回行われた。全体を通して、各々の講演分野に関して概要を理解するのにわかりやすい内容のものが多かった。

講演内容は、1日目の午前中の講演の大半が、リチウム探鉱・生産等を行っている企業によるプロジェクト進捗状況に関するものであった。表1に、それらプロジェクトをまとめる。なお、リチウム以外にコバルト等のプロジェクトの紹介もあった。

表1.主要リチウムプロジェクト進捗状況

表1.主要リチウムプロジェクト進捗状況

1日目午後以降の講演では、対象鉱種の中でもリチウムの需給・マーケットに関するものが最も多く、次いでコバルトに関するものが多かった。また、電極材料技術の動向、リサイクルに言及したものもあった。

主要な講演について概要を記す。

(1)『The Current and Future Outlook for Lithium-ion Battery Technology and its Key Elements』
<講演者: Dr.Yuan Gao, President&CEO, Pulead Technology Industry Co. Ltd.>

リチウムイオン電池の需要は着実に増え続けている。主要因は、電気自動車(EV)の需要増加と消費者の動向、そして、フランス、イギリス等に代表される政策の後押し、である。これら政策は二酸化炭素排出抑制を意図している。

中国におけるEV需要は、持続的かつ急激に増加している。日本は、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、バッテリー型電気自動車(EV)の合計に対して、HEVの占める割合が90%となっているので、中国が世界で最大のEVの生産・販売国になる。中国政府のEV等新エネルギー自動車の販売目標は、中期的には2020年に年200万台、長期的には2025年に年700万台である。中国における電気自動車・バスの電池コストは下がっており、これが海外自動車企業を呼び込んでいる。

リチウムイオン電池のカソード技術は発展してきており、現在LCO(Co)、NCM(Ni,Co)、NCA(Ni,Co)、LFP(Fe)、LMO(Mn)が主流である(Li以外に各金属が要素)。NCMは発熱が少なくEV向けに使われている。LCOは安定しており、どのような車にも対応可能である。また考慮しなければならない点は、Coは供給不安定性が高く、Ni、Mnは安定しているということである。その他にLFP、ポリマーを用いた電池、新しいアノード材料等で技術開発が進んでいる。つまり、EVが広く受け入れられるためには、高エネルギー密度の電池材料の開発が不可欠である。

電気自動車等の需要増加に対応するためには大量の電池材料を必要としているため、リチウムイオン電池の状況は大きく変化している。リチウムイオン電池産業では、Coの使用を減らしてNiで代替させようとしているが、電池材料の安定性(安全性および寿命)のためにはCoが依然として必要で、このことはCo需要を大幅に増加させる可能性がある。

(2)『Key Trends in global Li-ion battery technology and application』
<講演者: Bernrdino Ricci, Director, Strategy Planning Group, Samsung SDI>

リチウムイオン電池の電力当たりの価格は、2010年から73%も下落している。産業の発展により、2030年までにさらに75%下落する可能性がある。

実際、2017年において中国のリチウムイオン電池の製造能力は実質的に倍増しており、コストも改善している。また、リチウムイオン電池の性能はエネルギー密度に関係しており、エネルギー密度を損なわないようにCoをNiに置換していくことが今後の技術の傾向になるであろう。これには表面処理技術の進展も貢献する。

リチウムイオン電池価格の低下により、EVは2020年代にはガソリン自動車より安価になるだろう。市場は既にそれを評価し、テスラ社の時価総額はフォード、GMに追いついている。現在、EV向け電池需要が電気電子機器向け電池需要を上回ろうとしている。中国では、EV向け電池需要はこれまでになく成長する。

リチウムイオン電池材料関連金属の価格は現在上昇している。特にCoは顕著であり、Liも例外ではない。需要増加局面であるにもかかわらず、カソード材料の価格はそれほど上がっていない点は、材料メーカーにとっては利益をあげることが難しくなり問題である。また、コバルトの生産がDRコンゴ(コンゴ民主共和国)に集中しているのも問題である。

そこで、Samsung SDI社は責任あるCoサプライチェーンの進展にもコミットしている。DRコンゴの問題、児童労働と人権侵害、健康と安全保護、環境汚染リスクについて問題意識を持っている。なお、Coのサプライチェーンを把握するには、1,000社以上ある鉱山ではなく、10数社しかない製錬所を把握するのが良い方法で、これら企業のリスク評価を行い、責任ある鉱業をサポートしている。

(3)『The Outlook for lithium metal markets – is it all about batteries?』
<講演者: Mark Seddon, Senior Manager, Consulting (Metals), Argus>

リチウムの埋蔵量は、上位からチリが世界の50%以上、中国が20%以上、豪州が14%、アルゼンチン10%を占める。USGSによると、今の生産状況が続いた場合、まだ400年間生産可能な埋蔵量である。リチウムの生産量は、埋蔵量と異なり、上位から豪州が39%、チリが29%、アルゼンチンが14%、中国が11%と続く。1位の豪州はかん水ではなく鉱山(spodumene)からの生産である。2016年は世界全体で41,250tの生産量だった。過去、2005~2012年で平均年8.6%、2013~2016年で平均年11.3%伸びてきている。2017年はさらに25%伸びると期待されている。鉱石からの生産とかん水からの生産の比率は2017年で55:45と予測。特徴としては、世界生産の70%を上位4社で占めていることが挙げられる。リチウム需要量の伸びは2014~2017年で平均年15%。2017年の生産量は44,750tである。電池以外の分野の伸びは年4.5%だがEV向けを含む電池分野の伸びは年32%。2016年でも全需要中50%以上を電池以外の分野が占めている。リチウムの価格について、炭酸リチウムはこの20年上昇しており、直近でも上昇している。一方、水酸化リチウムはそれほど上昇しているわけではない。特筆すべきは、中国でのコバルト酸リチウム価格の直近の急上昇である。

リチウムの生産は、2015年以降は年平均13%の伸びと予測している。鉱石とかん水の比率は、若干かん水が増えるがそれほどは変わらない。需要面では、電気自動車が様々なスタイルで出てきており生産台数が急増するため、世界のリチウム需要は2025年まで年平均11%のペースで増加売ると予測している。

今後のリチウムの価格を考える上でポイントとなるのは、炭酸リチウムを始めとした中間材料は一般的に供給者と需要家の間で半年か1年間の固定価格契約になること。これは取引の多寡にかかわらず同様の傾向がある。よって、価格のヘッジは簡単に可能だが、第三者による価格設定がないため価格の制御ができなくなる可能性があり、この方法が長期的に持続可能かに疑問が残る。問題点には、炭酸リチウム、水酸化リチウム、その他、どの価格を一番重要と扱うかという点もあると思われる。特に多数の生産者が存在する中国では市場流動性があるので、第三者による価格設定の存在を検討すべきではないだろうか。

(4)『The development of NEV drives the consumption of nickel and cobalt』
<講演者: Xu Aidong, Research Team, Beijing Antaike Information Development Co.Ltd.>

[ニッケル] 2017年には、電気ニッケル170千t、NPI(ニッケル銑鉄)360千t、そしてニッケル塩41千tを含め、中国のニッケル生産量は約570千tとなる。また、中国の硫酸ニッケル生産能力は2017年に440千tになり、生産量は約300千tになる予定。中国の硫酸ニッケルは最新の情報では、需要のうち電池用途が占める割合は80%にもなり、価格も2009年にはディスカウントされていたものが、2016年からプレミアが付くようになっている。

中国のニッケル消費量は、2017年に5%増加して1.13百万tになる(うち、ステンレス85%、電池3%)。2017年、電池では、三元系材料でニッケル増、コバルト減を図るのがトレンドになっている。エネルギー密度を高め、コストを下げることが目的である。2020年には、中国の電池部門のニッケル消費量は42千tになっており、その推進力は、うち80%を占めるであろう電気自動車向け三元系材料になると予想される。

世界的にニッケルのステンレス鋼需要は、シェアは2015年の68%から2025年の62%に減少するが、電池需要のシェアは3%から10%に増加すると予測している。LME等でのニッケル生産者や投資家の戦略は電気自動車の動向と密接に関わるであろう。

2016年から2017年にかけて、世界のニッケル市場は緊密なバランスを保っている。将来は高いステンレス鋼シェアはそれほど変わらず、また、インドネシアのNPIプロジェクト、インドネシアとフィリピンの鉱業政策等の影響により、ニッケル価格は2017年と2018年に上昇すると予想している。

[コバルト] 2017年の中国コバルト消費量は前年比13%増で54千t、うち電池向けは80%を占めている(次いで超硬合金が6.1%)。そのうち三元系電極材料の中での割合は2017年、LCO向けが79%から70%に減少、NCM向けが18%から28%に上昇した。なお、2017年の世界のコバルト消費量は約110千t、うち中国は50%、また電池分野は56%を占めている。さらに、2020年には中国の電池の生産が100GWとなり、その際のコバルト消費量が16千tになると予測している。なお、2020年の世界のリチウムイオン電池の生産は500千tになり、その際、ニッケル消費量は140千t、コバルト消費量は86千tとなる。

2017年の中国のコバルト生産量は約67千t(世界の58%)、一方、世界のコバルト生産量は115千tになる。2011年から2016年にかけて、電気コバルト生産量は全体の20%から11.76%に、パウダーの比率は11.8%から9.4%に減少するが、コバルト塩の比率は67.8%から78.9%に上昇した。また、生産の寡占化が少し進んでいる。なお、2017年の世界のコバルト生産量は119千tになり、昨年比14.7%増加する見込み。

なお、中国生産の原材料は、市場の主要生産者によって支配されており、世界のコバルト市場は2019年までは厳しいバランス状態にある。将来の楽観的予測によると、価格は28~32$/lbの範囲で保たれるであろう。

写真2.パネルディスカッションの様子

写真2.パネルディスカッションの様子

おわりに

本カンファレンスのテーマとなっていたリチウム、コバルト、ニッケル3鉱種についてはそれぞれ需給の構造が異なっている。講演の中でも触れられていたが、3鉱種3様であるところも、今後の調達を考えるのに重要になってくる点である。また、三元系カソード材料でコバルト使用が減少する方向性の中、代替としてのニッケルもしくはその他金属等の需要はどの程度増えるのかも重要な点である。

また、リチウムイオン電池及びリチウムの将来の予測に関しては、すべて同じような上昇となっている(数年前から同様である)。このような電気自動車の需要状況では、100人が100人、同じ方向性で予想せざるを得ないとは思うが、シナリオをいくつか想定しても、現実を予測できるのか疑問である。

本カンファレンスは、講演のみで構成されて、内容もリチウムイオン電池という切り口のみにフォーカスされており、Argus Media社主催のカンファレンスにしてはテーマを絞ったものであった。それにもかかわらず、今般多くの国々から100人もの参加を得たのは、EVの生産増に伴うリチウムイオン電池関連鉱種の需要増及びそれに伴う市場拡大に対して、世界の関心が大いに高まっていることを示すものであろう。

ページトップへ