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報告書&レポート

2017年11月17日 金属企画部 金属企画部企画課 兼 調査部エネルギー資源調査課 堀琢磨
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銅、亜鉛、鉛、ニッケル、コバルトおよびリチウムの供給を左右するファクター

<金属企画部企画課 兼 調査部エネルギー資源調査課 堀琢磨 報告>

はじめに

2017年10月下旬に、国際銅研究会(ICSG)、国際鉛・亜鉛研究会(ILZSG)、国際ニッケル研究会(INSG)が開催された。3研究会は、銅、亜鉛、鉛、ニッケルに関して、2017年および2018年の地金需給バランスは、マイナス(供給不足)とする結果を発表した。このような需給がタイト化する中で、少しの供給障害が需給バランスや価格に大きな影響を及ぼす状況になってきている。そのため、本稿では、供給を左右するファクターについて、所感を述べる。「銅、鉛、亜鉛、ニッケル」に加えて、しばしば3研究会会合の話題に上り、電池材料の需要が急速に拡大する「コバルトおよびリチウム」についてもとり上げる。まず、供給障害の事例をもとに供給障害の分類を示し、次に、国単位の供給障害として、インドネシア鉱石輸出禁止の大きな影響を受けたニッケル、企業単位/事業所単位の例として、銅、鉛、亜鉛、コバルト、リチウムについて報告する。

1.供給障害の分類

供給障害について、その規模とサプライヤーの面から、「国単位」、「企業単位」、「事業所単位」に分けられ、各単位で発生した供給障害の原因は異なることが特徴である。

鉱山や製錬所については、共同出資等の形態があることから「事業所単位」という用語を使用し、また、「事業所単位」が「企業単位」を超える場合もあることから、レベルという用語ではなく、単位という言葉を使用する。

①国単位の供給障害:貿易措置、紛争

国単位で供給が欠落することは、世界需給に大きな影響をもたらす。
 例) 古くは、旧ザイールのシャバ紛争下におけるコバルト供給停止
    直近では、インドネシアにおける鉱石輸出禁止措置

②企業単位の供給障害:企業の合併・吸収、経営方針の変化、資源価格低迷による財務状況の悪化、ノンコア事業の売却、国有化による資産の喪失

メジャーが担い手の大規模市場の金属(世界市場1,000億US$前後の銅、鉄、アルミニウム、金)に比べて、中規模市場の金属(世界市場150~300億US$の亜鉛、鉛、ニッケル)、小規模市場の金属(その他、レアメタル等)を扱うマーケットで生じることが多い。
 例) 2000年、Gecamines社(DRコンゴ)における経営体制の変化(銅、コバルト)
    2004年、SoG社の破産(金、タングステン)
    2015年、Molycorp社の破産(レアアース)

③事業所単位の供給障害:鉱山や製錬所のストライキ、鉱山の地滑り事故、製錬所の設備トラブル、電力や水の不足に起因する生産の縮小、環境規制を満たせない製錬所の生産停止、製錬所の定期修理

例) 2003~2004年、Grasberg銅鉱山の地滑り事故による鉱石生産の停止
    2017年、世界最大のEscondida銅鉱山における43日間のストライキ

2.国単位の供給障害

インドネシア政府による鉱石輸出禁止措置は、同国の世界生産シェアが高いニッケルの世界需給に非常に大きな影響をもたらした。同措置の導入と緩和についての状況変化は次のとおりである。

<鉱石輸出禁止措置の導入前後>

貿易措置の導入前に、①インドネシア鉱石の駆け込み需要が発生する動き(中国企業をはじめ、輸入したニッケル鉱石の在庫を増加)、②インドネシアに製錬所や地金の加工工場をつくる動き、③インドネシア以外の調達先確保への動きが見られた。

<同措置の緩和後>

①インドネシアの製錬所において一次ニッケル生産(ニッケル銑鉄)が拡大したことに加え、②鉱石輸出禁止措置が緩和されて、鉱石が輸出されたことにより、中国の一次ニッケル生産(インドネシア鉱石は主にニッケル銑鉄に利用)も拡大しつつある。折から、ステンレスや電池材料の需要が拡大していることから、国際ニッケル研究会は、一次ニッケルの需給バランスを、2016年▲46千t(生産1,991千t、消費2,037千t)、2017年▲98千t(生産2,052千t、消費2,150千t)、2018年▲53千t(生産2,206千t、消費2,259千t)のように供給不足が続くと予想している。

3.企業単位/事業所単位の供給障害

(1)銅

世界の鉱山における銅生産シェアの3割をチリ、1割をペルーが占め、両国は精鉱輸出国である。中国における製錬所の処理能力拡大等で、精鉱マーケットがタイト化しつつある状況下、チリにある世界最大のEscondida銅鉱山では、2017年2~3月にかけて、労使交渉に起因する43日間のストライキが行われた。他鉱山も、2017年から2018年にかけて、労使交渉が次々に行われている。2017年上半期に、チリは、Escondida銅鉱山だけでも、昨年と比べて、200千tも生産を落とした。一方、ペルーにおいても、Cerro Verde銅鉱山における21日間のストライキや洪水が影響し、思うように生産が伸びていない状況にある。このように、2017年は、生産シェアが大きい国において、複数鉱山のストライキが多発し、需給や価格に大きな影響を及ぼしている。国際銅研究会は、鉱山生産について、2016年に20,358千tの生産量が、上記のストライキ等により、2017年に19,807千tに減じ、2018年には20,311千tに回復すると見込んでいる。

(2)亜鉛、鉛

亜鉛の地金需給は、他金属より早く、2013年から供給不足が続いている。2014年の需給バランスは僅かにプラスであったものの、その後、2018年にかけては、マイナスが続く見込みである。2017年については、鉱山生産は、ペルー、インド、エリトリアにおいて供給増の動きが見られる一方、地金生産は、カナダValleyfield製錬所のストライキが生産に影響をもたらしている。国際鉛亜鉛研究会によれば、亜鉛地金の需給バランスは、2016年▲106千t(生産13,725千t、消費13,831千t)、2017年▲398千t(生産13,530千t、消費13,930千t)、2018年▲223千t(生産14,060千t、消費14,280千t)である。

鉛については、世界消費の半分を占める中国においては、生産、消費とも引き続き拡大する。一方、米国の地金生産は、過去10年で3割近く減じ、世界における生産拠点が変化している。国際鉛亜鉛研究会によれば、鉛地金の需給バランスは、2016年14千t(生産11,164千t、消費11,150千t)であったのに対し、2017年▲124千t(生産11,580千t、消費11,700千t)、2018年▲45千t(生産11,770千t、消費11,820千t)のように、マイナスに転じていると予測した。電気自動車が普及しつつあるとはいえ、世界の自動車台数が大きく拡大する中で、内燃機関自動車向けの鉛蓄電池需要は引き続き拡大している。

(3)コバルト

リチウムイオン電池の製造に使われるコバルトとリチウムの供給状況は、電気自動車生産台数の増減のみならず、電気自動車の稼働に伴う発電設備の容量やその燃料(天然ガス、石炭等)の需要に影響が及び、さらには、これと競合する内燃機関自動車の生産台数が変化することにより、ガソリンの需給、ひいては原油需要にも影響が及ぶ。

過去を振り返ると、ニッケル鉱石からHPAL法(High Pressure Acid Leach)などによる回収が増加したことから、一旦は、リスクが回避されたものの、近年の電池向けの用途拡大により、需給がタイト化している。過去にあった国単位の供給欠落のような供給障害は見られないものの、目が離せない状況にある。国際ニッケル研究会におけるCore Consultants社の報告によれば、2016年の供給フローは次のとおりである。

①銅由来のコバルト鉱石:鉱石は70.8千tであり、産出国はDRC(69.2千t)およびザンビア(1.6千t)に限られる。両国の他、中国やフィンランドで地金に加工している。

②ニッケル由来のコバルト鉱石:鉱石は34千tであり、ロシア5.8千t、豪州4.3千t、キューバ5.3千t等、10か国で産出され、各国のHPAL方式などの製錬所に輸送される。このうち、鉱石を輸出している国は、キューバ、フィリピン、ロシア、PNG、ニューカレドニア(輸出量の順)である。

③その他のコバルト鉱石:モロッコで1.3千t産出されている。

このように、コバルトは銅またはニッケルからの副産物であり、供給は、銅由来は特定地域(DRコンゴおよびザンビア)における鉱石の生産状況、ニッケル由来のコバルトはHPAL方式などの製錬所からの地金の生産状況に、左右されやすい。

(4)リチウム

資源の利用に関して、リチウムは地殻に錫や鉛より豊富にあると言われているが、マクロでみると均一に分散して存在しており、濃集されている場所が極めて限られるという難しさがある。主に花崗岩地域に産するリシア輝石等は非常に珪素に富む一方で、リチウムの品位は、数パーセント程度であり、これまでは採算面が課題であった。Core Consultants社の報告によれば、2017年のリチウム供給は、鉱石由来が56%(主に豪州、カナダ)、かん水由来が44%である。リチウム特有の供給障害は、かん水由来について、まれに天候に左右されるということである。生産に適するかん水に富む塩地は、アルゼンチン・ボリビア・チリ(ABC3国)国境周辺の乾燥地に分布する。かん水を天日により蒸発池で濃縮させるが、蒸発期間は長ければ1年に達し、その間の天候に左右される。最近のケースでは、2013年に、降雨により蒸発池の濃縮が遅れ、生産に障害が生じる事業所もあった。

一般に、取引所で値が決まって世界ほぼ均一価格で購入可能な金属の地金は、ユーザーにとっては、近くで購入できた方が輸送費は安く済む。また、製錬所側は、ユーザーの要請に対して迅速な対応ができ、世界各地の多様な精鉱をブレンドできることから、鉱石の処理方法や採算面に不都合がないものを除き、現状は、消費地立地の流れである。しかし、リチウム製品は、生産プロセスも発展の途上であることもあり、特に鉱石を扱う製錬所が山元に建設されるなど、そのマテリアルフローはこれからも変化すると思われる。

まとめ

「国単位の供給障害」については、インドネシアの鉱石輸出禁止措置が、特にニッケルの需給に影響をもたらしたものの、同措置の導入と緩和を背景に、中国およびインドネシアで一次ニッケル生産(主にニッケル銑鉄)の増産が顕著になってきた。「企業単位の供給障害」、「事業所単位の供給障害」については、銅精鉱貿易の担い手であるチリおよびペルーにおける鉱山ストライキ、カナダにおける亜鉛製錬所のストライキをはじめ、世界需給を左右するイベントが多発している。

JOGMECでは、平成30年度から、次期中期計画が始まる。国際非鉄研究会における報告や意見交換では、波はあるものの総じてタイトな状況であることは変わらない状況にある。こうした需給タイト化の状況においては、少しの供給障害が世界需給や価格に大きな影響を及ぼす可能性がある。そのため、資源確保と備えの行動に加えて、「国単位」(制度変更につながる資源ナショナリズムの動き等)、「企業単位」(企業戦略と財務状況の変化等)、「事業所単位」(労使交渉の時期とストライキの可能性等)の供給障害に関する情報収集の重要度はさらに増している。

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