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報告書&レポート

2017年12月13日 ロンドン 事務所 ザボロフスキ真幸
17-35

LME最新動向及び戦略‐LMEセミナー2017から‐

<ロンドン事務所 ザボロフスキ真幸 報告>

はじめに

2017年10月30日の週にベースメタルの市場関係者、生産者及び需要家等が英国ロンドンに一同に集い、多くのセミナー、レセプションが開催されるLMEウィークが開催された。銅、ニッケルを中心としたベースメタル市場の見通し、世界経済及び中国の経済見通しが議論され、昨年より多い約900名が参加したと発表された。約140年の歴史を持つLMEは、2017年1月に前CEO Garry Jones氏の突然の引退発表、それに伴い暫定CEOに任命されていたMatthew Chamberlain氏(元COO)が4月に正式に新CEOとして就任した。同氏は、市場及びLMEメンバーとの対話を重視し、「Discussion paper」の発表、それに対する市場のフィードバックを受けた「Strategic Pathway」を発表するなど、就任から約6か月で様々なイニシアチブを打ち出している。本稿では、2017年に打ち出されたLMEのイニシアチブのサマリーと共にLMEセミナーで議論されたLMEの事業戦略をまとめた。

  • 写真1.LMEセミナー会場前

    LMEセミナー会場前

  • 写真2.LMEセミナー2017

    LMEセミナー2017

1.LMEの事業展開

2016年、LMEは取引量の減少(2016年の一日当たりの平均取引量は対前年比8%減)、LMEメンバーとの対立及び戦略的展望の欠如等、ネガティブな情報が飛び交っていた。さらに、コモディティ価格の低下も相まって、「通常の活気あるLMEウィークと違う雰囲気があり、非常に残念である」とLMEの親会社である香港証券取引所のCharles Li CEOも昨年度のLMEで言及している。そのような背景から、2017年は市場及びLMEメンバーとの対話を増やすことを目的とした新たなイニシアチブが展開された。LMEセミナー2017でMatthew Chamberlain 新CEOは、「我々はDiscussion paperで議論を終わらせたいのではなく、ここから市場との関与をより深めていきたいと考えている。我々は市場の声を聞くことを保証し、今後も対話を続けていく」と言及している。これまでの動きを以下にまとめる。

1.1.Discussion Paper

2017年4月、Matthew Chamberlain 新CEOは、業界に向け市場構造におけるLMEのビジョンを示した「Discussion Paper」を発行。これには、6つのトピック①エコシステム、②取引及びブッキング構造、③クリアリング構造、④デリバリー及び実需市場構造、⑤メンバーシップ、⑥取引量、競争性、手数料及び成長性、に焦点が当てられている。マンスリー取引の段階的な移行の可能性の検討、短期間のキャリー取引手数料の更なる引下げ、ディーラーと顧客間のOTC取引を設けることなど、様々な項目が挙げられ、それに対する業界関係者からのフィードバックを6月末まで受け付けた。また、ディスカッションペーパーではLMEの位置付けを再確認するという意味も含まれており、LMEのメンバー以外の取引参加者は主に、①実需家、②ファンダメンタル金融投資家、③システマティック金融トレーダーに分類できるとした。LMEはこの3つのカテゴリーに分かれるユーザー層は、相互に支えあうエコシステムを形成しているとし、実需家は取引によりLME価格を形成し、ファンダメンタル金融投資家は流動性を高め、ヘッジの摩擦コストを削減する。システマティック金融トレーダーは市場間とLME価格カーブにおいて価格アービトラージをもたらし、流動性を高めていると強調した。

図1.ユーザー別LMEマーケットアクティビティ、2016年

図1.ユーザー別LMEマーケットアクティビティ、2016年

(出典:LME講演資料)

1.2.倉庫賃料の上限額設定

倉庫改革の最終段階として、LMEは2017年4月1日から倉庫賃料の上限額設定を適用。倉庫賃料の上限額及びFOT(free on truck)費用について、2015年度及び2016年度の最大賃料の平均を金属毎及び国毎に計算して初期設定額を提案。この設定額を上限額として向こう5年間固定し、その後国ごとのCPI(消費者物価指数)に基づいて毎年上限額を更新するとしている。

1.3.LME Precious

2017年7月10日、金及び銀のスポット、デイリー、マンスリー先物取引を提供するLME Preciousを金の国際団体であるWorld Gold Councilと連携して立ち上げ、金取引市場に参入した。さらに、Goldman Sachs、ICBC Standard Bank、Morgan Stanley、Natixis、OSTC、Societe Generaleの6社も立ち上げ時から参画している。クリアリングは、LMEクリアで行われ、参加者に資本効率、透明性、アクセスのしやすい取引を提供することを目的としている。

1.4.Strategic Pathway

2017年9月7日にディスカッションペーパーへのフィードバックを基にしたLMEの運営方針である“Strategic Pathway”が公表された。4本の主軸として実需市場、公平性、ユーザーの選択肢の増加、トレーディング効率性の最大化を挙げた。具体的な動きとしては、短期及び中期キャリー取引の手数料の引下げ、公正な店頭取引の手数料を導入するとした。今回の手数料の変化は流動性を戻す結果になるかどうか1年後再度見直される。業界からのフィードバック数は162件となり、そのうち35%はLMEメンバー、65%は実需家だったという。

図2.Strategic Pathway概要

図2.Strategic Pathway概要

(出典:LME講演資料)

1.5.今後の動き

LMEは、「Strategic Pathway」に沿った今後3年間の動きとしてタイムテーブルを提示。2017年11月中旬には店頭取引手数料の導入に関する市場コンサルテーションを実施し、2018年初頭から新しい店頭取引手数料を導入予定だとした。2018年前半には、新規メンバーシップとして“Introducing Brokers(IB)”導入の検討、後半にはLME Precious(金及び銀のオプション取引、白金及びパラジウム先物取引)、硫酸ニッケル、リチウム等の電池関連金属といったあらたな金属の上場など検討しているとした。しかし、2018年は1月からMiFIDⅡの導入開始となるため市場参加者が対応に追われると予測されることから、LME主導の取り組みは2018年後半にずれ込むだろうとMatthew CEOは述べている。2019年以降は、クリアリングサービス及び電子取引プラットフォームの強化を行うとした。

2.LMEセミナーにおける LMEの事業に関するパネルディスカッション‐The LME Discussion Paper: What did we learn, and what next?-

パネルディスカッションではモデレーターにMetal Bulletinの特派員Andrea Hotter女史、LMEメンバー2名、LME Physical Market Committee会長が登壇し、LME事業に対する客観的で率直な意見が交わされた。概要を以下に紹介する。

  • (参加メンバー)
  • Moderator: Andrea Hotter, Metal Bulletin
  • Nigel Dentoom, CCBI Metdist
  • Francois Combes, Societe Generale
  • Philip Crowson, LME Physical Market Committee Chairman

1)LMEは、従来のLMEメンバー(Traditionalist)と新規参入者(Modernizers)といった両方のグループに対して公正になるように2017年に「Discussion Paper」、「Strategic Pathway」を発行したが、これをどう評価するか。

TraditionalistとModernizersと分ける呼び方は、LMEが定めたというよりもメディアが決めた言葉である。これまでLMEが従来のLMEメンバーが好む3か月先物取引よりも投資家コミュニティーにとってユーザーフレンドリーである第3水曜日取引(third Wednesday trading)に重点を置くという憶測から賛否両論を引き起こした1 。しかし、新たな経営チームの元、Discussion Paper、Strategic Pathwayを通じてLMEとの対話が増え、双方が利益をもたらすことができるような構造をLMEが提供することができると学ぶ機会となり、評価している。

2)LMEの全体的な取引量の減少は、手数料が要因だったのか。

LMEは、フロア、電話、電子取引と3つの異なる取引形態を持ち、非常に複雑な構造をしている。そのため、何が原因で取引量が減少しているのかを特定するのは容易では無い。短期キャリー取引における手数料の引下げを2016年9月、2017年10月から適用し、LME買収前の水準に戻したことに関し、これまでの手数料が高すぎたことは間違いないのだから、取引量の数は戻ってくるはずだと考えている。手数料だけが取引量減少の要因だったとは思わないが、LMEの努力は称えたい。

3)LMEの今後の戦略について。

EV関連金属の上場を検討しているということだが、トレンドによって動かされるのは危険だと感じている。金属によっては市場規模が小さすぎたり、複雑すぎたりすることがあり、その一つがリチウムだと考えている。また、その他のCMEといった取引所はより簡単に素早く商品を立ち上げることができる。LMEが新たな金属を取扱いたいと考えるなら、素早く動けるようになることも大事である。

4)倉庫に関して、未解決の課題はあるか。

倉庫問題の大部分はすでに解決されたと感じている。しかし、倉庫システムは未だ複雑であり、ルールの簡素化が必要である。倉庫賃料において、現在LMEは上限額を設定して向こう5年間固定したことは助けにはなっている。倉庫から現物が出せないという状況の再発を防ぐためにも新たなルールで規制することが求められる。

5)昨年のLMEウィークと比べて、LMEとLMEメンバー間の雰囲気は大分緩和されたように感じる。LMEとの関係性は昨年と変わったか。

確実に変わったと言える。LMEが買収をされてから、新たな経営者の元、良い変化も悪い変化もあり多くのことが起こったが、LMEメンバーがLMEと共に複雑な問題を解決しようと取り組もうとしているところを見てきた。今年は去年とは違い、皆が互いに争うのではなく味方同士であるという印象を持っている。

6)リング取引は、理にかなっているか。

このような質問は、30年以上続いている。これに対するスタンダードな答えを出すとすると、リング取引はコミュニティーが必要とする限り継続されるだろう。リング取引が価格を設定するのに最適なツールだと思う顧客がいること等コミュニティーがリングを利用したいという理由はいくつかあり、需要は十分にある。リング取引の有無は、市場によって決められるだろう。

3.中国市場に対する香港証券取引所の動向‐LMEセミナーにおける香港証券取引所Charles Li CEOのQ&Aから‐

1)Qianhai(前海)コモディティ取引所(Qianhai Mercantile Exchange ,QME)のアップデートについて

Qianhaiコモディティ取引所に関して、発表できる段階では無いが、軌道に乗っており、準備は進んでいる。中国国内に、信頼できる倉庫システムや金融サービスを提供するLMEモデルを作ろうとする非常に複雑なプロジェクトである。このようなビッグ・ドリームを描けるのはLMEを所有しているものだけである。Alibabaが消費者レベルで信頼のある統合システム(Integrated system)を中国内に作ったように、香港証券取引所はコモディティレベルで信頼のあるIntegrated systemを作りたい。

2)ロンドン・香港コネクトについて次の段階は。

我々が、株主取引を相互接続した香港・上海ストック2 ・コネクト、香港・深センストック・コネクト3を立ち上げたのは、中国の資本市場をその他世界と繋ぐ方法を見つけるためである。今日、中国はグローバル成長の牽引役となっているにも関わらず、資本市場はまだ非常に閉鎖的である。この閉鎖は、独自の市場インフラストラクチャーによって続いていると言える。中国の市場及び金融市場インフラストラクチャーは、すでにその他の世界と根本的に異なっている。独自で何年も構築されてきた市場インフラストラクチャーが十分に機能しており、規制当局からすると彼らのシステムはより優れていると認識されている。中国国内で機能している独自の市場インフラストラクチャーのおかげでその他世界と繋がることに必要性を感じていない。むしろ、その他の国が中国のインフラに合わせたらどうかと考えている。このような考え方を踏まえて、我々香港証券取引所のコネクトのビジネスモデルは、異なる市場インフラを繋ぐ、コンバーター、トランスレーター(翻訳者)になることである。コネクトでは、違いを翻訳する方法を提供する。はじめは株式、その次に債券、最後にコモディティを繋げていきたいと考えている。ロンドンと香港を繋げることは大きな夢であるが、時間を要する。

3)LME買収して5年経つが、投資した価値はあるか。

LMEは、レア・アセットである。レア・アセットを買収する時は、自社にとって適切な資産であるかを検証し、適切であると思ったなら、その他のことは一切重要ではない。レア・アセットは買収機会があれば、その時に買収しなければ手に入らない。今後は商品化する方法を見つける必要がある。これまで、手数料の問題など堂々巡りをしていたが、現在は本来あるべき姿になり、これからは信頼がおけ、メンバーによって支持されているMatthew新CEOの下、我々は新たな時代に入ったと感じている。

所感

2017年のLMEは、新CEO体制の下、危機感を持ちながらメンバー及び新規顧客の両方を重視し、市場に対し積極的に関与しようとする姿が見られた。Discussion Paperに顕著に表れているが、他にも市場コンサルテーションの実施、小規模なセミナーを開催するなど、従来に比べると関係者との対話の場が増えている。一方、香港証券取引所からの発表は昨年に比べて限定的であり、質問に対する答えとしてQianhaiコモディティ取引所、ロンドン・香港コネクトの進捗状況についてCharles Li CEO自ら語ったが、具体的な進展は無かった。また、会場も900名の参加ということであったが、セミナー後半、特にLME Precious以降は空席が目立ち、人数の割には活気がある印象は受けなかった。Strategic Pathwayの再評価を1年後行うとMatthew 新CEOが伝えているように、来年のLMEで新たな試みがどのように取引量に反映されているのか、今後も注視していきたい。


  1. LMEは、2015年に第3水曜日取引の多様化・活性化を図るために流動性ロードマップ(Liquidity roadmap)を策定し、市場への新規参加者開拓プログラムとして流動性向上にむけた活動に取り組んでおり、電子取引利用者には手数料が安くなるといったインセンティブが提供されていた。この取組に対し、従来のLMEメンバーの一部からマンスリー取引へ移行することに注力していると非難された。
  2. 香港証券取引所と上海証券取引所が相互接続され、人民元建て上場株式の取引が行われる。2014年11月14日に立ち上げ。
  3. 香港証券取引所と深セン証券取引所が相互接続され、2016年12月5日に立ち上げ。
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