閉じる

報告書&レポート

2017年12月26日 シドニー 事務所 吉川竜太
17-36

オーストラリアのリチウム関連プロジェクトの動向について

<シドニー事務所 吉川竜太 報告>

はじめに

2017年7月にフランス政府とイギリス政府がガソリン車・ディーゼル車の販売を2040年以降禁止するという方針を打ち出したことを皮切りに、中国やインドも今後電気自動車の販売を一定量義務付ける政策を導入・強化する予定とされているなど、長期的に電気自動車の生産量が増加することが予測されている。また、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの安定的な供給を目的とした大規模蓄電設備や住宅・産業用蓄電システムの導入が進むなど、これらに用いられるリチウムイオン電池用の原料として、リチウムの世界的な需要は増す一方と考えられる。

米国地質調査所(USGS)によると、2016年におけるオーストラリアのリチウム鉱山生産量は世界一であり、建設段階や探鉱中のプロジェクトも数多く存在する。本稿では、これらのプロジェクトの動向を紹介するとともに、水酸化リチウム、炭酸リチウム製造工場建設プロジェクトが推進されている状況も紹介する。

1.リチウム資源の利用状況

世界のリチウム資源は大まかに、1)塩湖のかん水からの回収、2)ペグマタイト鉱床等に含まれるリチウム鉱物であるリシア輝石(spodumene)、葉長石(petalite)などからの回収、3)近年セルビアにおいてRio Tintoにより発見された新鉱物「jadarite」からの回収(ただし未だ回収技術の開発中)の3種類に分類することができる(図1)。1)はチリ、アルゼンチン、中国、北米などで実施されているが、オーストラリアから生産されるリチウム資源は2)の鉱石中のリチウム鉱物から回収されるタイプである。鉱石中のリチウム品位は0.8~2.4%Liであり、現状ではオーストラリアでの選鉱を経てリチウム品位を上昇させたリシア輝石精鉱(Li2O品位最大8%)や葉長石精鉱(Li2O品位最大4.9%)を中国などに輸出し、輸出国においてバッテリー原料となる炭酸リチウム・水酸化リチウムなどが製造されている。なお、後述するが今のところペグマタイト鉱床に伴われるリシア雲母(lepidolite)はリチウム資源としての商業利用は実現されていない。

図1.世界のリチウム鉱床の分布と鉱化タイプ

図1.世界のリチウム鉱床の分布と鉱化タイプ

(出典:Global Lithium Resources (2012), Kesler et al., Ore Geology Reviews)

リチウム価格は2011年以降堅調に上昇しており、2017年の中国向けオーストラリア産リシア輝石精鉱のCIF価格は500US$/tを上回っているとされる(図2)。

図2.中国向けオーストラリア産リシア輝石精鉱のCIF価格の推移

図2.中国向けオーストラリア産リシア輝石精鉱のCIF価格の推移

(出典:Upgrading the outlook Australian Battery Materials (2017), Macquarie Research)

2.オーストラリアのリチウム資源の位置づけ

USGSのMineral Commodity Summaries 2017によると、2016年の世界におけるリチウムの鉱山生産量はリチウム金属量換算で35ktで、2015年の31.5ktから11.1%の伸びとなった。2016年のオーストラリアにおける鉱山生産量は14.3ktで、世界鉱山生産量の約45%を占め、2013年以降世界一の鉱山生産量をキープしている(図3)。オーストラリアのリチウム資源の鉱石埋蔵量の合計は1.6mtと見積もられており、これは世界の鉱石埋蔵量の11.4%に相当する。

図3.世界のリチウム生産量の推移

図3.世界のリチウム生産量の推移

3.オーストラリアの主要なリチウムプロジェクトについて

オーストラリアの主要なリチウムプロジェクトはWA(西オーストラリア)州に多く分布しており、特に資源量や鉱量が計上されているプロジェクトは北部準州のいくつかのプロジェクトを除くと全てWA州内に存在する(図4)。以後、本報告では2017年10月時点におけるオーストラリアの主要なリチウムプロジェクトを、生産ステージ、開発ステージ、探鉱ステージの順で報告した後、その他の処理施設プロジェクトなどに関しても概説することとする。

図4.西オーストラリア州の主要なリチウムプロジェクトの分布図

図4.西オーストラリア州の主要なリチウムプロジェクトの分布図

(JOGMEC作成)

3.1.操業中のリチウム鉱山

・Greenbushes鉱山

WA州の南西端部に位置するGreenbushes鉱山は19世紀後半に錫鉱山として開発が開始され、その後1940年代からタンタルの生産が開始された、長い歴史を持つ鉱山である。同鉱山におけるリチウムの生産は1983年より開始され、1985年にはリシア輝石精鉱を生産するための処理施設も稼働を開始し、その後数回にわたり拡張工事が実施された。現在、Greenbushes鉱山のリチウムに関する権益は、旧鉱業権者であったTalison Lithium社を買収した中国Tianqi Lithium社が51%、米国Albemarle社が49%を保有している(タンタルに関する権益は、豪Global Advanced Metals社が100%保有。現在、タンタル生産は休止中)。同鉱山の鉱化は典型的なペグマタイト鉱床であり、リチウムに富む部分がオープンピットで採掘されている。採掘された鉱石は、重力選鉱、重液選鉱、浮遊選鉱、磁気選鉱などを経て、工業グレードと化学グレードのリシア輝石精鉱が生産されている1

同鉱山は、年間80ktの炭酸リチウム換算量(以下、「LCE」)の精鉱生産能力を保有していたが、Albemarle社は2017年3月、Tianqi Lithium社との間で生産能力を年間LCE160ktに拡張することで合意し、2019年第2四半期に試運転を開始する予定であると発表した2。この発表に対し、同鉱山のタンタルに関して権益を持つGlobal Advanced Metals社が、同鉱山のタンタル資源を毀損する恐れがある両社の拡張計画はGlobal Advanced Metals社の事前同意を得ておらず、計画そのものが不当であるとしてTianqi Lithium社とAlbemarle社を相手取り提訴しているとの報道3が2017年8月にあり、今後の成り行きを注視する必要がある。

図5.Greenbushes鉱山 ( 注釈 4)

図5.Greenbushes鉱山 4

(出典:Talison Lithium, the world’s only pure lithium producer, 02 February 2011, Mining.com)

・Wodgina鉱山

Wodgina鉱山はWA州北部に位置する。1902年にタンタル、錫、ベリルのペグマタイト鉱化が発見され、1905年以降2008年までタンタルが断続的に生産されており、操業が中止された現在であっても世界最大のタンタル鉱山の一つであるとされる5。2016年、豪Mineral Resources社は、Global Advanced Metals社から同鉱山の権益とそれに付属する13MWのガス火力発電施設、宿泊施設、鉱物処理施設を買収したことを発表し(ただし、タンタルに関する権利はGlobal Advanced Metals社が引き続き保有)6、その後はMineral Resources社によりリシア輝石を主体としたリチウム資源に注目したプロジェクトが推進されている。同社は2017年2月にWodgina鉱山でのリチウムを対象とした操業を再開させ、2017年4月にリチウム品位約1.5%の鉱石約114kt(含水重量)を近隣のPort Hedland(ポートヘッドランド)港から中国に直接出荷したこと、以降毎月100~200ktのリチウム鉱石を出荷する計画であることを発表している7。また、探鉱も継続して実施しており、2017年7月時点の概測+予測資源量で198.0mt、Li2O品位1.18%(カットオフ:0.5% Li2O)を発表している8。現状、同鉱山からは鉱石の直接出荷が実施されているが、同鉱山において2018年中ごろにLi2O品位6%のリシア輝石精鉱を年間500kt生産する選鉱所の建設のスタディを実施中である8

・Mt Marion鉱山

WA州中南部の、Kargoorlie(カルグーリー)から南西に40km程のところに位置している。1960年代からリシア輝石を伴うペグマタイト鉱床を対象としてWestern Mining社等が探鉱を実施し、1996年にはプレFSが完成されたが、開発には至らなかった。2009年8月にNeometals社(当時はReed Resources社;2014年12月にNeometals社に社名変更)が同プロジェクトの権益を取得して以来、鉱業コントラクターでもあるMineral Resources社や中国のリチウム大手Ganfeng Lithium社が参入し、現在はMineral Resources社43.1%、Ganfeng Lithium社43.1%、Neometals社13.8%となっており、Neometals社は2017年4月に全権益の売却に関して第三者と協議中と発表している9

Mt Marion鉱山では2016年10月に資源量が更新されており、それによると 概測+予測資源量は77.8mtでLi2O品位は1.37%(カットオフ:0.5% Li2O)が計上されており10、山命は30年以上となると予測されている。本プロジェクトは2017年2月から生産が開始されており、最初の15ktのリシア輝石精鉱がKwinana港からオフテイク権を保有するGanfeng Lithium社が指定した中国のZhenjiang(江蘇省鎮江)港向けに出荷された11。現在、プロジェクトはランプアップを実施中であり、ランプアップ中は年産400ktのリシア輝石精鉱(6%Li2O精鉱200kt、4%Li2O精鉱200kt)の生産が、2018年度末予定のランプアップ後には年産400ktの6%Li2O精鉱の生産が見込まれている12。なお、Ganfeng Lithium社との価格交渉により、2017年7~9月の四半期は841US$/t(中国CIF価格)で取引される予定である8

図6.Mt Marion鉱山

図6.Mt Marion鉱山

(出典:Mineral Resources社のホームページ)

・Mt Cattlin鉱山

WA州南部の沿岸部に位置するMt Cattlin鉱山は、現在豪Galaxy Resources社が100%の権益を有している。Mt Cattlinにおいてペグマタイト鉱化が初めて報告されたのは1843年であるが、本格的な探鉱の対象となったのは1960年代以降であり、リシア輝石の存在が確認された。現在の鉱区保有者であるGalaxy Resources社が2006年に本プロジェクトを取得するまで、断続的に探査が実施されていた13。Galaxy Resources社は本プロジェクトを取得後DFSを実施し、2009年12月に採掘権を取得14、2010年11月に生産を開始した(6.0%Li2Oのリシア輝石精鉱を山命16年、年産137ktで生産する計画)。Galaxy Resources社は中国江蘇省に自社100%で操業する炭酸リチウム製造工場(「Jiangsu(江蘇)工場」)を建設して2012年3月に操業開始しており15、Mt Cattlin鉱山から出荷されたリシア輝石精鉱は同工場向けの貯鉱とされたほか、一部は中国の第三者に売却された。また、同鉱山から副産物として生産された少量のタンタル精鉱が、Global Advanced Metals社との長期契約に基づき売却されていた16。2012年7月、同社はJiangsu工場向けの貯鉱が約12ヵ月分に達したとして、Mt Cattlin鉱山の操業を一時休止することを発表。その後、同社はJiangsu工場向けのリシア輝石精鉱供給元を他鉱山産のものに振り替えるなどしたものの爆発事故で2名の死者を出すなどした結果、2014年4月にTianqi Lithium社にJiangsu工場を売却する契約を締結した17

操業を休止したMt Cattlin鉱山の権益を巡っては、豪General Mining社が参入し、その後Galaxy Resources社がGeneral Mining社を買収して再び同鉱山の権益100%を保有するなどの動きが生じているが、鉱山操業は2016年4月から鉱石の採掘を再開18、2016年11月にはリシア輝石精鉱の生産も再開されている。2015年8月時点の総資源量は16.4mt、Li2O品位1.08%、Ta2O5品位157ppmと見積もられており、年産160ktのリシア輝石精鉱を生産することを計画している19。同鉱山からのリシア輝石精鉱に関しては、数回にわたり中国向けに出荷されている20


  1. Talison Lithium社ホームページより
  2. News Release: Albemarle Corporation. 16 March 2017
  3. Greenbushes lithium expansion on track despite legal threats, 21 August 2017, The Australian. GAM, Talison fight over Greenbushes lithium mine, 01 September 2017, The Australian
  4. “Talison Lithium, the world’s only pure lithium producer”, 02 February 2011, Mining.com
  5. Global Advanced Metals社ホームページより
  6. ASX Announcement: Mineral Resources Limited, 09 September 2016
  7. ASX Announcement: Mineral Resources Limited, 18 April 2017
  8. “Quarterly Activities Report”, Mineral Resources Limited, 31 July 2017
  9. ASX Announcement: Neometals Ltd., 26 April 2017
  10. ASX Announcement: Neometals Ltd., 27 October 2017
  11. ASX Announcement: Neometals Ltd., 07 February 2017
  12. “FY2017 Results Information Pack”, Mineral Resources Limited, 16 August 2017
  13. ASX Announcement: Galaxy Resources Ltd., 15 May 2012
  14. “ANNUAL FINANCIAL REPORT DECEMBER 2009”, Galaxy Resources Ltd.
  15. “ANNUAL FINANCIAL REPORT DECEMBER 2011”, Galaxy Resources Ltd.
  16. ASX Announcement: Galaxy Resources Ltd., 30 May 2012
  17. ASX Announcement: Galaxy Resources Ltd., 30 April 2014
  18. ASX Announcement: Galaxy Resources Ltd., 01 April 2016
  19. Company Presentation, Galaxy Resources Ltd., June 2017
  20. ASX Announcement: Galaxy Resources Ltd., 18 May 2016及び12 July 2016

3.2.建設段階のリチウムプロジェクト

・Pilgangooraプロジェクト

PilgangooraはWA州北部の主要な港湾であるPort Hedlandの南東約85kmに位置する。もともと、Pilgangooraのペグマタイトはタンタル資源で知られており、1947~1978年まで、主に周辺の漂砂からタンタルが生産された記録がある。1978年以降もいくつかの企業によって断続的な採掘が実施された模様である21。Pilgangooraでは現在、隣接するが異なる鉱区を有する豪Pilbara Minerals社と豪Altura Mining社が同じ「Pilgangoora」という名称を用いてリチウム開発プロジェクトを推進している。ここでは、ASXコードを利用し、Altura Mining社のプロジェクトをPilgangoora(AJM)と、Pilbara Minerals社のプロジェクトをPilgangoora(PLS)と呼び分けて報告する。

・Pilgangoora(AJM)プロジェクト

Pilgangoora(AJM)に関係する鉱区は、Altura Mining社の前身であるHaddington Resources社が2001年に豪企業から買収したが、同社がリチウムを対象とした本格的な探鉱を同鉱区内で開始したのは2010年以降のことである。Altura Mining社は2016年4月にFSを完成させた後、2017年1月に鉱石埋蔵量・資源量を更新しており、それによると鉱石埋蔵量は30.1mt、Li2O品位1.04%、資源量は40.3mt、Li2O品位1.00%で22、現在は年産約230ktのリシア輝石精鉱(Li2O品位6%)を2018年第1四半期から20年以上生産する見込みとなっている23。本プロジェクトは2017年2月に必要なすべての許認可を取得した後、現在、生産開始に向けた鉱山建設段階となっている。なお、開発にあたり2016年11月に開発資金の一部を調達するため、中国のバッテリー製造企業であるShaanxi J&R Optimum Energy社(「Shaanxi社」)に同社の株式19.9%を譲渡する見返りとして41.6mA$を同社から受け取る契約を締結24、また2017年7月28日には米国・スイスの投資グループと110mUS$の貸付契約を締結し、鉱山建設費用に充当している25。同プロジェクトに関するオフテイクは、2016年4月に中国のリチウム生産投資企業であるLionergy Limited社と法的拘束力を持つ契約を締結するとともに、Shaanxi社の子会社であるOptimumNano社との間でもMOUを締結し、両社を合わせると生産量のほぼ100%となる見込みである26

図7.Pilgangoora(AJM)プロジェクトの東西断面図

図7.Pilgangoora(AJM)プロジェクトの東西断面図

赤破線はDFS時の最終ピット、明白色部がペグマタイト鉱体。図右側の黄色線は、隣接するPilbara Minerals社鉱区との境界を表している。

(出典:Company Presentation, June 2017, Altura Mining Ltd.)

・Pilgangoora(PLS)プロジェクト

Pilbara Minerals社の本プロジェクトへの参画は、Altura Mining社より遅れて2014年5月であるが、それ以来積極的な探鉱を実施し、現在本プロジェクトも鉱山建設段階である。2014年5月にGlobal Advanced Metals社から同プロジェクトの権益を買収27して以降、Pilbara Minerals社は2016年3月にプレFS、2016年10月にDFSを完成させている。DFSによると、総資源量は156.3mt、Li2O品位1.25%、Ta2O5品位128ppmであり、鉱石埋蔵量は80.3mt、Li2O品位1.27%、Ta2O5品位123ppmが計上されている。採掘は剥土比4.1:1の露天掘りで実施され、山命36年間のうちに、年産約314ktのLi2O品位6%リシア輝石精鉱(LCEでは44ktに相当)と、年産321klbsのタンタル精鉱(Ta2O5品位最大30%)が生産される予定である28。本プロジェクトのCAPEXは234mA$と見込まれているが、増資やオフテイク契約相手方であるGanfeng Lithium社からの出資、社債の発行などで開発資金を充当し、2017年6月に開発意思決定を実施して29、2018年第1四半期の精鉱生産開始に向けて鉱山建設中である。なお、本プロジェクトに関しては生産量を約2倍の年産約564ktのLi2O品位6%リシア輝石精鉱(LCEでは75ktに相当)とする拡張計画があり、プレFSが完成している状況である28。本プロジェクトのオフテイクは、いずれも中国のGanfeng Lithium社とGeneral Lithium社が合計約300ktのリシア輝石精鉱に関する長期オフテイク契約を締結済みである28。2017年9月、Pilbara Minerals社は豪州のリチウム原料生産者として初めて中国自動車メーカー大手の長城汽車(Great Wall)社と、生産量拡張後のリシア輝石精鉱に関するオフテイク契約を締結したことを発表した30

Altura Mining社とPilbara Minerals社の両Pilgangooraプロジェクトは隣接しており、お互いが競うように鉱山開発を実施している。また、両社とも周辺の探鉱プロジェクトを積極的に買収・JV組成を実施しており、同地域における開発はこの2社に集約された印象がある。なお、両社は2016年8月に敷設予定のアクセス道路とパイプラインに関する相互アクセス協定(Joint Access Agreement)を締結し、さらにお互いの鉱区境界付近のリチウム鉱床に関する調査データを共有することに関する覚書(MOU)を取り交わしている31

・Bald Hillプロジェクト

Bald HillプロジェクトはWA州南部に位置し、これまでに紹介したものと比較するとやや小規模なプロジェクトである。Bald Hillはもともとはタンタルを含むペグマタイト鉱徴地として知られており、2001年から2005年にかけてHaddington Resources社(現Altura Mining社)がタンタルの露天掘り生産を実施した。リシア輝石がペグマタイト中に含まれていることは認識されていたものの分析はされず、2015年にシンガポールに拠点を持つAlliance Mineral社が鉱区を取得した後、リチウム資源の評価が進められ、2017年6月に概測+予測資源量12.8mt、Li2O品位1.18%、Ta2O5品位158ppm(カットオフ:0.5% Li2O)が計上されている32。同プロジェクトには2016年10月に豪Tawana Resources社が参入し、2017年6月までに参入費7.55mA$を支出して現在はAlliance Mineral社が50%、Tawana Resources社が50%の権益を保有している。Tawana Resources社は2017年11月にプレFS結果を公表しており、それによると同プロジェクトの「スターターピット」において、鉱石埋蔵量4.3mt、Li2O品位1.18%、Ta2O5品位208ppmで、年産155ktのリシア輝石精鉱と118tのタンタル酸化物を3.6年間生産する計画で、探鉱を進めて資源量を拡大することで山命を10年程度まで延長できる可能性があるとしていた33。2017年8月、Alliance Mineral社とTawana Resources社は、リシア輝石精鉱生成のための重液選鉱施設の建設を開始、2018年1~3月の生産開始を予定している34。本プロジェクトに関するオフテイクは香港ベースのBurwill Holdings社との間で2017年4月に、同鉱山から産出される全てのリシア輝石精鉱を約5年間Burwill Holdings社が引き取る権利を保有する代わりに、プロジェクト総額で25mA$を無利子でAlliance Mineral社とTawana Resources社に前払いし、精鉱出荷額の20%で払い戻されるという内容で締結されている。なお、2018年3月から2019年12月までの間のオフテイク価格(Li2O品位6%リシア輝石精鉱)は、Esperance港FOB価格で880US$/tである35


  1. ASX Announcement: Pilbara Minerals Ltd., 02 April 2017
  2. ASX Announcement: Altura Mining Ltd., 30 January 2017
  3. Altura Mining社ホームページより
  4. ASX Announcement: Altura Mining Ltd., 08 November 2016
  5. ASX Announcement: Altura Mining Ltd., 28 July 2017
  6. Company Presentation, Altura Mining Ltd., June 2017
  7. ASX Announcement: Pilbara Minerals Ltd., 30 May 2014
  8. Company Presentation, Pilbara Minerals Ltd., August 2017
  9. ASX Announcement: Pilbara Minerals Ltd., 23 June 2017
  10. ASX Announcement: Pilbara Minerals Ltd., 28 September 2017
  11. ASX Announcement: Pilbara Minerals Ltd., 25 August 2016
  12. Tawana Resources社のホームページより
  13. ASX Announcement: Tawana Resources Ltd., 11 July 2017
  14. Company Presnetation: Tawana Resources Ltd., August 2017
  15. ASX Announcement: Tawana Resources Ltd., 26 April 2017

3.3.探鉱中の主要なリチウムプロジェクト

・Mt Hollandプロジェクト

本プロジェクトはWA州南部に位置しており、このところ発展の目覚ましいリチウムプロジェクトの一つである。本プロジェクトの特徴として、もともと金を対象とした探査・採掘が行われていたところで、最近になり大規模なリチウム鉱化が見いだされた点が挙げられる。歴史的には1960年代から本プロジェクト地域において、断続的に金を対象とした探鉱が実施されており、1988年から2002年まで露天掘り及び坑内掘りでの採掘が行われ、43t以上の金が算出されたものと推定されている36。その後鉱区所有者の変遷があるものの、2016年3月に現鉱区保有者でもある豪Kidman Resources社が、当時は金をターゲットとして同プロジェクトの権益100%を前保有者から買収している37(ただし、その直後の2016年4月には同鉱区のリチウムに関するポテンシャルに言及しているため、買収時には既にリチウム資源ポテンシャルに注目していた可能性がある)。Kidman Resources社がMt Hollandプロジェクトのリチウム鉱化に関し、試錐調査で捕捉したリシア輝石を含むペグマタイト(図8)の分析値に基づいて発表をしたのは2016年6月であり、これ以降同社は本プロジェクトのリチウム鉱化に特に集中して探鉱を実施している。その後、同社は周辺鉱区の買収やJV組成を進める一方で試錐調査を継続し(図9)、2016年12月に総資源量128mt、Li2O品位1.44%を計上38、2017年10月にはスコーピングスタディの結果を発表し、資源量のうち48mt(Li2O品位1.4%)を25年間採掘し、年産288ktのリシア輝石精鉱を2019年第1四半期から生産するという仮定での計算で、CAPEXは111mUS$、税前NPVは861mUS$、IRRは57%との試算を得ている39

図8.Mt Hollandプロジェクトで採取された含リシア輝石ペグマタイトのコア写真

図8.Mt Hollandプロジェクトで採取された含リシア輝石ペグマタイトのコア

(出典:ASX Announcement, 13 April 2016, Kidman Resources Ltd.)

図9.Mt Hollandプロジェクトの断面図

図9.Mt Hollandプロジェクトの断面図

浅部に金の鉱化が分布し(黄色部)、その深部にリチウムを含むペグマタイト鉱化が分布する(水色)様子が分かる。

(出典:Kidman Resources社ホームページ)

2017年7月、Kidman Resources社はチリのリチウム生産大手であるSociedad Química y Minera de Chile(SQM)社と50:50でのJVを組成することで基本合意し、同年9月12日にJV合意書を正式に締結したことを発表した40。同社のプレゼンテーションによると本プロジェクトは現在鉱山操業に関するFSを進めているが、リシア輝石精鉱生産量は年産220~300kt(Li2O品位最大6%)を想定している模様である38


  1. Kidman Resources社のホームページより
  2. ASX Announcement: Kidman Resources Ltd., 01 March 2016
  3. Company Presentation: Kidman Resources Ltd., 28 July 2017
  4. ASX Announcement: Kidman Resources Ltd., 03 October 2017
  5. ASX Announcement: Kidman Resources Ltd., 12 September 2017

3.4.水酸化リチウム・炭酸リチウムの製造プロジェクトについて

・Kwinana水酸化リチウム工場

2016年10月、Greenbushes鉱山の51%権益を保有するTianqi Lithium社は、WA州パースの南約35kmに所在するKwinanaにおいてリシア輝石精鉱から水酸化リチウムを製造する工場の建設を開始した。同工場建設には約400mA$が投じられるとされており、Greenbushes鉱山から供給されたリシア輝石精鉱から年間24ktの水酸化リチウムが、2018年後半から製造される予定である41。また地元メディア報道によると、Tianqi Lithium社は317mA$を追加投資して同工場の生産能力を向上させる拡張工事の実施に前向きであり、2017年10月に投資判断を実施すると報じられている42

・Neometals社とMineral Resources社による計画(Mt Marion鉱山)

2016年9月、Mt Marion鉱山でJV関係にあるNeometals社とMineral Resources社は、両社が2020年以降51%の鉱石引き取り権を有するMt Marion鉱山から産出されるリシア輝石精鉱を利用し、WA州Kalgoorlieに年産量20~25ktの炭酸リチウム製造工場を建設することを検討するためのMOUを締結した。MOUに基づいて技術と経済性の面でのスタディが実施され、2017年の第3四半期に投資決定を実施することとしている43。Neometals社はこの他にも水酸化リチウム製造プロセス「ELi Process」の開発やリチウムバッテリーのリサイクル、Li-Tiアノード生産プロセスの開発44など、リチウムの下流産業技術開発に事業の主軸を移している。

・Kidman Resources社・SQM社による計画(Mt Hollandプロジェクト)

Mt HollandプロジェクトでJV契約を締結したSQM社とKidman Resources社は、同プロジェクトから産出されたリシア輝石精鉱を利用した水酸化リチウム或いは炭酸リチウム製造工場の建設についても、共同でのFS実施に向けて作業を実施している。現在は、工場の建設場所の選定作業と出荷ルートの確定に関し、作業を進めている状況である(図10)。現段階では、水酸化リチウムであれば年産44kt、炭酸リチウムであれば37.8ktを第1段階として想定している38

図10.Kidman Resources社とSQM社が検討中のリチウム工場建設候補地

図10.Kidman Resources社とSQM社が検討中のリチウム工場建設候補地

Fremantle、Bunbury及びKalgoorlieでの建設を検討中。

(出典:Company Presentation, 28 July 2017, Kidman Resources Ltd.)

・リシア輝石以外からのリチウム回収技術

豪Lithium Australia社は、従来リシア輝石精鉱からのリチウム回収技術で必要であった焙焼プロセスを省いた、「SiLeach®」プロセスの技術開発を実施中である。同プロセスはリシア輝石以外の全てのケイ酸リチウム鉱物(例えばリシア雲母)からリチウム回収が可能で現在商業化へ向けた取り組みを実施中とのこと45。また、豪Lepidico社も国際特許を取得した「L-Max®」技術(図11)を保有しており、同技術は従来回収が難しいとされたリシア雲母からの炭酸リチウムの製造が可能であるとしている46

図11.「L-Max®」技術のフローシート

図11.「L-Max®」技術のフローシート

(出典:Lepidico社ホームページ)


  1. TIANQI LITHIUM AUSTRALIA社ホームページより
  2. Lithium expansion on track despite legal threats, 21 August 2017, The Australian
  3. ASX Announcement: Neometals Ltd., 30 September 2016
  4. Neometals社ホームページより
  5. Company Presentation: Lithium Australia NL, September 2017
  6. Lepidico社ホームページより

おわりに

2016年後半、一部の地元メディアではリチウム鉱山の相次ぐ操業開始と建設計画決定による供給過剰への懸念から、リチウム資源に関するバブルがはじけるのではないかとの声も上がっていたが、2017年に入ってオーストラリアのリチウムブームはますます活況を呈している感があり、多数のリチウム関係プロジェクトの情報が各社からASXでアナウンスされている。既存の金やベースメタルをターゲットとしたプロジェクトにおいて、リチウムの権利だけに特化してJVやアライアンス契約を締結する例も多い(例1:2017年8月に豪Lepidico社は豪Maximus Resources社がWA州に保有するSpargoville 金プロジェクトのうち、リチウムに関する権利の75%をLepidico社が獲得することで基本合意。例2:2017年9月、豪Poseidon Nickel社と豪Lithium Australia社はWA州において双方が所有するLake JohnstonとRavensthorpeプロジェクトのリチウムに関してのみ、共同で探鉱と選鉱試験を実施することを発表)。また、3.4で記述した通り、多くの企業がリチウムの採掘・精鉱生産事業から、より下流の炭酸リチウム・水酸化リチウム製造やカソード製造に事業展開することを志向する傾向にある。現在生産中・開発中のリチウムプロジェクトに関しては中国企業の関与が深く、プロジェクトの保有企業の株式取得、プロジェクト権益の取得、融資買鉱契約或いはオフテイク契約と、様々な形で関与していることが明らかとなった。

BHPがWA州でリチウムイオン電池向けの硫酸ニッケル製造工場の建設を決定したり、中国自動車大手のGreat Wall社がPilbara Minerals社とオフテイク契約を含む総括契約を締結するなど、オーストラリアのリチウム資源ブームはブームから確固とした成長へと変化を遂げつつある可能性もあり、今後の動向を引き続き注視する必要がある。

ページトップへ