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報告書&レポート

2018年4月4日 シドニー 事務所 吉川竜太
18-08

2017年の豪州鉱業セクターと先住権原を巡る連邦裁判所の判例紹介

<シドニー事務所 吉川竜太 報告>

はじめに

豪州において鉱業プロジェクトを推進する際に必要となる重要な手続きの一つとして、伝統的土地所有者(アボリジニとトレス海峡諸島民)の先住権原に関係する手続き(先住権契約)がある。2017年、豪州では先住権原に関係した訴訟に関し、今後の鉱業セクターに影響を与えるような判決を豪連邦裁判所が下す事例が幾つか認められた。本稿では、その判例に関して紹介することとしたい。

豪州における先住権原について

豪州における先住権原は、1992年に裁定が下された「マボ判決」により、それ以前に豪州が採用していた「無主地の法理」の教義が否定されたことに端を発して成立した、「先住権原法(1993)」によって定められている。豪WA州政府のホームページによると、先住権原(Native Title)とは、政府により授与されるものではなく、伝統的土地所有者の掟と習慣により確立された土地や水域に関する権益と権利が組み合わさったものであり、対象となる地域における他の権益と権利とのバランスを取った豪州の法律により規定されるものである、と定義されている1。先住権原は、未使用の政府所有地(Crown Land)やかつて伝統的土地所有者により保有されていた地域などの特定の地域において設定され、伝統的土地所有者が強い権限を持つ「“排他的”先住権原」と、その他の地域に設定され他の権益と権利と共有する「“非排他的”先住権原」が存在する2。また、豪連邦や各州の法律に基づいて伝統的土地所有者が所有権を保有する土地(Aboriginal freehold land)に関しては、伝統的所有者が既に所有権を保有するため先住権原は存在しないとされている(図1)。

先住権原法(1993)では先住権原の保護を目的として、国立先住権原審判所(National Native Title Tribunal)を設置。同所は先住権原の存在の有無の照会・認定や、先住権契約の合意が得られなかった場合の仲裁、先住権原請求者の補助、既に先住権原が設定あるいは申請されている地域における土地利用の基本事項を定めた先住民土地利用契約(Indigenous Land Use Agreement:ILUA)の交渉に関するサポート及び登記を実施している3

図1.2017年12月31日時点における先住権原の分布

図1.2017年12月31日時点における先住権原の分布

NT準州とSA州で先住権原が設定されていないエリアの大部分は、伝統的土地所有者が既に所有権を保有する土地である。

(出典:http://www.nntt.gov.au/assistance/Geospatial/Pages/Maps.aspx)

以下に2017年に判決が下された、鉱業セクターに影響を与えうる先住権原関連の具体的事例を挙げる。

ケース1:McGlade判決とその政治決着について

2017年2月2日、複数の判事で構成される連邦裁判所の控訴審(Full Federal Court)は、WA州南西部において伝統的土地所有者と州政府・企業により締結された先住民土地利用契約のいくつかは無効であり、契約の登記は不可能との判決を下した(McGlade判決)。本件は、WA州政府が進めていた先住民との土地利用に係る合意に関し、これに反対する先住民4名が連邦裁判所に訴えたことによるものである。McGlade判決は、先住民土地契約が先住権原請求者全員により署名されていなかったことを無効の理由としており、請求者全員の署名が無くても契約の登記は可能とする、2010年に判事1名で構成される連邦裁判所の第一審判決を覆す決定となった4。この結果、2010年以降に登記された先住民土地契約のうち請求者全員の署名が無い契約に関しては不確実さが生じ、連邦全体で126のプロジェクトの継続に支障が出る可能性が発生した。この中には、インド系のAdani Group社がQLD州で推進している大規模開発案件で、CAPEXが16bA$と目されていたCarmichael炭鉱開発プロジェクトも含まれており、2017年4月10日にインドを訪れた豪ターンブル首相は、この問題に関して解決を図ると発言したことが報じられている5

請求者全員の署名が得られなかった先住民土地利用計画の中には、例えば先住権原請求者が既に死亡するなどして物理的に署名が不可能であったケースも存在しており、事態の深刻さを認識した与党保守連合と野党労働党は、超党派での協力で先住権原法(1993)を改正することで合意した。改正法案は2017年2月15日に連邦議会に提出され、紆余曲折はあったものの2017年6月14日に可決された6。この法改正により、2017年2月2日以前に既に国立先住権原審判所に登記済みの先住民土地利用契約は有効であること、同審判所に提出済みであるがまだ登記されていない先住民土地利用契約も有効であること、先住民土地利用契約の当事者である請求者が明確化され、請求者全員の署名が必要とされなくなったことなどが担保されることとなった6。ただし本問題に関しては、先住民土地利用契約以外に先住権原法(1993)で定められた「Section 31 Agreements」と呼ばれる先住権契約に関しても同様の問題があるとの指摘があり、今後さらなる訴訟・政治対応が発生する可能性が示唆されている7

ケース2:Fortescue社のSolomon HubとYindjibarndi族の訴訟について

豪鉄鉱石大手のFortescue Metals Group社(以下、「Fortescue社」)がWA州ピルバラ地域で2013年から操業するSolomon Hub(Firetail鉄鉱石鉱山とKings Valley鉄鉱石鉱山の総称、図2)を巡っては、長期間に及んだFortescue社と同エリアの伝統的土地所有者であるYindjibarndi族の係争に関し、2017年に連邦裁判所の第一審判決が下った。

Yindjibarndi族はピルバラ地域の中央部に広く居住している伝統的土地所有者であり、ヨーロッパ人の入植以来、無給で羊の放牧地や真珠の採掘に従事していた。1960年代後半に放牧地から追い出され、周辺の伝統的土地所有者と共にWA州のRoebourneに居住するようになり、1960年代以降にYindjibarndi族の伝統的な土地所有地周辺で活発になった鉄鉱石採掘による経済的恩恵を一切得ることができなかった、とされている8。Fortescue社がYindjibarndi族のコミュニティ組織であるYindjibarndi Aboriginal Corporation(YAC)との交渉を開始したのは2006年に同社がFSを開始した時期である。Fortescue社は年間4mA$の土地アクセス料の支払と、住居、職業訓練、雇用創出のための6mA$の資金援助という条件を提示したが、YAC側はRio Tintoとの先住権契約と同様、鉄鉱石採掘販売価格の0.5%のロイヤルティの支払(当初は5%を要求していたが、後年0.5%まで引下げ)をFortescue社側に求めたため、2008年に交渉が決裂した9。2010年、Fortescue社が提示した条件の受け入れを主張するYindjibarndi族の一派であるWirlu-murra Yindjibarndi Aboriginal Corporation(WMYAC)が誕生し、Yindjibarndi族の中でYACと対立が生じる事態となったが、2013年2月14日に連邦裁判所の第一審で、YACがYindjibarndi族を代表して先住民土地利用契約を交渉できる唯一のグループと認定されている10。Fortescue社、YAC及びWMYACに関連した訴訟は、2009年から2013年の間だけでも18件が提訴されており、結局Solomon Hubは国立先住権原審判所の仲裁などを経て採掘権が認可されて112013年から操業を開始しているが、Yindjibarndi族とは未だ先住民土地利用契約が締結されていない状況である。

図2.Solomon Hubの位置図

図2.Solomon Hubの位置図

(出典:Corporate Presentation, Fortescue Metals Group, 21/02/2018)

Yindjibarndi族の土地を巡っては、2003年にYindjibarndi族に対して“非排他的”先住権原のみを認める判決が出ていたが、YACはそれ以降も長年に渡り“排他的”先住権原を求めて訴訟を続けていた12。2017年7月20日、連邦裁判所の第一審はFortescue社やRio Tintoなどが保有する採掘権を内包する2,700km2のエリア(図3)に関し、YACに今度は“排他的”先住権原を認める判決を下した。これは、当該エリアに外部の人間が立ち入りを希望する際、Yindjibarndi族が希望者に対して同部族からの承認を得ることを求めた、という裁判所に提出された証拠に基づく判決であった13。この結果を受け、YACは今後Fortescue社に対して数mA$にも及ぶ可能性のある補償金を請求する方針であるとのコメントを発表。一方でFortescue社はこの判決によるSolomon Hub操業に関する経済的な影響は無いとコメントしていた14が、2017年12月4日になって上訴する方針であることが伝えられている。同社によれば、判決には疑義があり、鉱業、農業、観光に関する新たな投資に大きな影響を与えるとしている15

Fortescue社は、これまでにWMYAC他の伝統的土地所有者と締結した契約を通じて1,200人以上の雇用を生み出し、約2bA$が彼らのビジネスに分配されたと主張している。今後も伝統的土地所有者によるビジネスを確固たるものとするための訓練、雇用、ビジネスの機会を提供し続けることで、現在の鉱山活動が正当化されるとしている。ただし今後の上訴審の結果、仮にYACの“排他的”先住権原がこのまま認められた場合、Fortescue社には多額の補償金請求のリスクが発生するほか、今後Fortescue社がYindjibarndi族の土地に立ち入る際にはYACの同意が必要となるため、アクセスがより難しくなることが懸念される。

図3.Yindjibarndi族の“排他的”先住権原の位置(青線内のエリア)図

図3.Yindjibarndi族の“排他的”先住権原の位置(青線内のエリア)図

(出典:GeoVIEW.WAで作成した図に一部加筆)

ケース3:Sheffield社のThunderbirdミネラルサンドプロジェクトを巡る訴訟

ASXに上場するSheffield Resources Ltd. (以下、「Sheffield社」)は、WA州ピルバラ地域においてThunderbirdミネラルサンドプロジェクト(図4)を推進しており、2017年4月にFSが終了して採掘権の申請プロセスを実施中である。同プロジェクトを巡っては、Sheffield社の鉱区の一部を占めるエリアにおいて先住権原を申請している伝統的土地所有者のMount Jowlaenga Polygon(MJP)が存在しており(図5)、Sheffield社とMJPは2014年から先住権契約の交渉を開始した。交渉にあたり、MJPは法的代理人を指名し、すべての交渉は個々の伝統的土地所有者ではなく、法的代理人を通じて実施しなければならないことを条件としていた16。鉱山建設後の補償や雇用、遺跡保護などが含まれる先住権交渉の契約が行き詰った2016年10月、Sheffield社は先住権契約無しでプロジェクトを前進させるため、国立先住権原審判所に対して仲裁(future act determination)付託の申立を実施。2017年6月、Sheffield社は国立先住権原審判所が同社に対する採掘権の認可が可能との判断を示したことを報告している17

図4.Thunderbirdプロジェクトの位置図

図4.Thunderbirdプロジェクトの位置図

(出典:Sheffield社ホームページ)

図5.MJPの先住権原申請エリア(青線内)の位置

図5.MJPの先住権原申請エリア(青線内)の位置

黄色線で囲まれた範囲がThunderbirdプロジェクト。

(出典:GeoVIEW.WAで作成した図に一部加筆)

これに対しMJPは先住権交渉にあたっての先住権原法(1993)の大原則である、「誠実な交渉(Negotiation in Good Faith)」に反する行為がSheffield社側にあったとして、連邦裁判所に採掘権認可の差止請求を実施した。具体的には、先住権交渉が行き詰まった際にSheffield社が、先住権原法(1993)が求める「先住権原申請者、州政府、土地利用申請者は、少なくとも6か月間誠実な交渉を実施し、その後国立先住権原審判所に付託することができる」18という条項を、「国立先住権原審判所に仲裁が付託された後は、誠実な交渉の実施義務がなくなる」と解釈し、事前合意に反して法的代理人を通さず個々の伝統的土地所有者との接触を図ったことに対し、MJPが先住権原法(1993)の精神に反するとして訴えていたものである19。連邦裁判所の第一審で2017年9月に開かれた公判ではMJPの請求は棄却された20。しかし、2017年12月8日の連邦裁判所の控訴審では、国立先住権原審判所に仲裁が付託された後に実施される先住権交渉においても誠実な交渉を実施する義務は継続することを確認した上で、MJPによる差止請求を認めて国立先住権原審判所による採掘権認可可能との判断を取り消し、Sheffield社が誠実な交渉を実施していたかどうかの判断を国立先住権原審判所に差し戻す判決を多数決で下した21。この判決に対しSheffield社は「判決は国立先住権原審判所の解釈に関する技術的な議論に基づいたもので、Sheffield社は誠実な交渉を実施してきたことに自信を持っている。Sheffield社に採掘権が与えられる期間が延長されただけであり、現状ではThunderbirdプロジェクトのスケジュールに大きな影響を与えるとは考えていない」とのコメントを発表した22

この判決により、先住権交渉における交渉に参加するもの全員の「誠実な交渉」実施義務が、国立先住権原審判所への仲裁付託などの行為に左右されること無く、交渉の全期間において要件とされることが初めて示された。国立先住権原審判所による、Sheffield社が誠実な交渉を実施していたかどうかの判断は2018年1~3月四半期に予定されており21、その結果次第ではThunderbirdプロジェクトの採掘権の認可時期に大きな影響を与える可能性があると考えられる。

おわりに

豪州における先住権原の問題は、探鉱・鉱業活動と切っても切り離せない重要なものである。豪州における先住権契約関係の法律や手続きは比較的整備が進んでいると言えようが、未だ不透明な部分も多く、今回取り上げた判例のように連邦裁判所に判断が委ねられるケースは今後も多く発生すると考えられる。特に豪州の法制度はコモンローが基礎となっており、裁判の結果は裁判の当事者のみならず、その他の企業の活動にも大きな影響を与える可能性があるため、今後も先住権契約関係の訴訟に関しては注意深く関心を持ち続ける必要があると言える。


  1. http://www.dmp.wa.gov.au/Minerals/Native-Title-5481.aspx
  2. Native title: an overview, National Native Title Tribunal
  3. https://www.austrade.gov.au/land-tenure/native-title/role-of-the-national-native-title-tribunal
  4. https://www.minterellison.com/articles/full-federal-court-decision-in-mcglade-has-significant-repercussions-for-iluas
  5. http://www.abc.net.au/news/2017-04-11/turnbull-meets-with-adani-chairman-during-india-visit/8432938
  6. https://www.finlaysons.com.au/changes-to-native-title-act-following-mcglade-v-native-title-registrar/
  7. https://www.gtlaw.com.au/insights/how-invalid-update-native-title-agreements-after-mcglade
  8. http://wmyac.com/our-people/
  9. https://thewest.com.au/business/mining/fmg-to-appeal-against-solomon-native-title-ruling-ng-b88680244z
  10. http://www.abc.net.au/news/2013-02-14/yindjibarndi-court-decision-brings-tears-of-joy/4519098
  11. The Facts about FMG’s Proposed ‘Solomon Hub’ in Yindjibarndi Country, YAC, 04/08/2011
  12. https://www.businessinsider.com.au/andrew-forrest-just-lost-a-major-royalties-fight-over-native-title-involving-his-solomon-mine-2017-7, https://thewest.com.au/business/mining/wyatt-upbeat-on-fortescue-metals-groups-solomon-hub-native-title-deal-ng-b88682002z
  13. https://www.claytonutz.com/knowledge/2017/august/exclusive-native-title-extinguishment-and-compensation-lessons-from-the-yindjibarndi-decision-and-the-timber-creek-appeal
  14. http://www.abc.net.au/news/2017-07-20/fmg-yindjibarndi-native-title-determination-twiggy-forrest/8727140
  15. https://thewest.com.au/business/mining/fmg-to-appeal-against-solomon-native-title-ruling-ng-b88680244z
  16. https://www.theguardian.com/australia-news/2017/dec/21/federal-court-boosts-protections-in-native-title-negotiations
  17. http://www.sheffieldresources.com.au/irm/PDF/2859_0/ThunderbirdNativeTitleDetermination
  18. https://cglawmediation.com.au/2017/11/full-federal-court-to-decide-extent-of-good-faith-negotiation-obligation/
  19. Sheffield Resources loses landmark native title case, 23/12/2017, The Australian
  20. https://thewest.com.au/news/regional/mining-venture-moves-closer-after-court-ruling-ng-b88607492z
  21. https://cglawmediation.com.au/2018/02/federal-court-extends-good-faith-obligations-in-native-title-negotiations/
  22. http://www.sheffieldresources.com.au/irm/PDF/2960_0/ThunderbirdNativeTitleUpdate
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