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報告書&レポート

2018年6月11日 調査部 北良行・新井裕実子
18-13

EV向け電池関連金属資源の最近の動向

―「Battery Materials 2018」参加報告―

<調査部 北良行・新井裕実子 報告>

はじめに

従来型の内燃機関車から電気自動車(以下、EV)へのシフトが進むと言われている。各国政府や自動車メーカーの動きは活発化しており、イギリスやフランスにおいては2040年までにガソリン車やディーゼル車の販売を禁止することが発表され、とりわけ中国においては政府が主導してEV向け補助金政策を打ち出し注目を集めている。また、業界を牽引してきたテスラ・モーターズのみならず、世界の大手自動車メーカーが2020年頃を目標としたEVの販売戦略を発表している。

ニッケル、コバルト、リチウムといった鉱種の需要が今後増大すると予測される中、今般、情報収集の一環としてMetal Bulletin主催の「Battery Materials 2018」に参加したので、EV向け電池関連金属資源の最近の動向について報告する。本カンファレンスは4月18~19日に中国・上海にて開催されたもので、同テーマでの開催は初回となる。約150社240名(登録ベース)の参加があった。参加者の過半数は中国人であり、講演者・パネリストはBHP、Vale、Norilsk、SQM、ERG、McKensey、Bloomberg、金川集団、五鉱集団と業界大手企業が名を連ねた他、電池メーカーからはBeijing Easpring社の講演があった。

カンファレンスは、ニッケル、リチウム、コバルト、グラファイト、その他電池関連金属についておよそ20の講演とニッケル、コバルト、リチウムに関する3つのパネルディスカッションで構成された。今回はその中でも特に、ニッケル、コバルト、リチウムに係る関心を引いた議論について報告する。

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの様子

1.ニッケル

ニッケルについては需要予測が主なテーマとして取り扱われていた。国際ニッケル研究会(INSG)の定義では、プライマリーニッケルのうち、製品の品位が99%以上の地金をClass1ニッケル、99%未満のフェロニッケル等をClass2ニッケルとしている。今回のカンファレンスでは、電池材料に必要となるClass1ニッケルの需要拡大が見込まれることを受けて、酸化鉱からClass1ニッケルを生産するHPALの技術に期待を寄せるコメントも複数のプレゼンテーションにおいて聞かれた。

以下では、ニッケル需要全体の中での電池需要の割合の伸びを予測したValeと、自社の電池セグメントでの販売が拡大するとの予想を紹介したBHPによるプレゼンテーション概要を紹介する。

1)Implications of the Electric Vehicle revolution on the nickel market
(Frank Nikolic, Head of Base Metal Intelligence Team, Vale Canada Limited)

Nikolic氏によれば、世界のニッケルはClass1が48%、Class2が52%の割合で生産されている。ニッケル需要全体に対して電池分野の需要は3%程度であるが、2020年には6%になる。さらに2025年には大幅に伸びて19%、2030年には37%にまで伸びると予想する。2020年時点ではフェロニッケル等のClass2の伸びが大きいが、2025年にはClass1の需要増加に伴い硫化鉱からの精錬不足が発生すると予測する。

図1.2020年及び2025年のニッケル需要予測内訳

図1.2020年及び2025年のニッケル需要予測内訳

(出典:「Battery Materials 2018」Valeプレゼンテーション資料)

世界のニッケル鉱石生産はかつて硫化鉱が半分を占めていたが、2000年以降酸化鉱が増加し、2005年以降の酸化鉱生産増加分は779ktとなった。今後新規に供給される可能性のある鉱石の内訳は、64%がリモナイト、17%がサプロライトと酸化鉱がおよそ80%を占め、硫化鉱は20%にすぎない。

リモナイトを原料としClass1ニッケルを生産する場合、設備投資コストは高いものの、中間製品の生産コストは比較的低い。サプロライトについては、これを原料としてClass2ニッケルを供給するためのチェーンが確立されている。Class1ニッケルへのコンバートも可能ではあるがプロセスの改良が必要であり、また鉱石中に不純物が多く含まれていることから精錬に際して課題がある。硫化鉱については、低品位のものは十分にあるものの、精錬能力の不足により、原料として高品位鉱を用いた場合と同等量の供給を継続することが難しい点が課題であり、また精錬設備を作るにはかなりの投資が必要である。しかし、現在のニッケル価格の水準は新規設備投資には不十分であると見られている。

ただし、ニッケルには副産物としてコバルトがある。インドネシアやフィリピンの鉱石中のニッケル・コバルト比率は12:1であり、この比率でコバルトが含まれていることはコスト削減に貢献する。

供給不足への対応としては、世界の取引所在庫からの引き出しが進む他、ステンレス向けに販売されているClass1ニッケルの一部が電池向け需要に振り向けられるものと考えられる。それでも尚、市場はいずれ供給不足に陥るものと見込まれる。

また、欧米諸国では依然として航続距離150~200kmレベルのEVが大きなシェアを占めるものの、中国では補助金政策の影響で航続距離350~400kmレベルのEVが増加すると見込まれる。自動車1台あたりの電池搭載量が増えることに伴い、ニッケル需要が増大すると予想する。

2)Nickel West- Energising our future –Transitioning to a global battery material supplier-
(Eduard Haegel, Asset President Nickel West, BHP Billiton)

BHPからは、同社が操業するNickel Westプロジェクトの担当役員Haegel氏によるプレゼンテーションが行われた。Nickel Westはこれまでステンレス鋼セクター向けの製品供給を行ってきたが、今後は硫酸ニッケルを含む電池向け製品の生産を増加させる予定である。また同プロジェクトは、パウダー及びブリケットの生産量が世界第1位であり、今後も生産能力を拡大させる予定である。

Nickel Westプロジェクトの電池セグメントでの販売はブリケット、パウダー共に2018年から大きく伸び、さらに硫酸ニッケルの販売が2019年Q2から始まる計画。リチウムイオン電池は高ニッケル製品へのシフトが進むものと推定する。

図2.Nickel West精錬所売上高に占めるバッテリーセグメント売上高比率の推移

図2.Nickel West精錬所売上高に占めるバッテリーセグメント売上高比率の推移

(出典:「Battery Materials 2018」BHPプレゼンテーション資料)

2.コバルト

コバルトについての単独のプレゼンテーションはなかったものの、パネルディスカッションがあり盛況な様子を見せた。パネリストは、Cobalt27社Anthony Milewski氏、金川集団Simon Bao氏、RamuNiCo Management社Zong Shaoxing氏、Eurasian Resources Group社Tony Southgate氏の4名。以下に議論の概要をまとめる。

1)電池開発について

コバルトのトレーダー会社であるCobalt27社のMilewski氏は、航続距離を基準として補助金政策を実施している中国においては、高容量・高密度のNMC811系のリチウムイオン電池の普及が進むとの見方を示した。ただし、NMC811系の電池は安全性の確保に課題が残る中、欧米諸国でも中国と同じ傾向を辿るかは疑問であるとして、省コバルト化の傾向については中国内・外で状況を切り離して考えるべきであると指摘した。

金川集団のBao氏は、中国ではNMC622系からNMC811系に向かうトレンドは顕著であり、NMC811系は成熟した技術として発展しつつあるとコメントした。

RamuNiCo Management社のShaoxing氏も、コバルト価格の上昇に伴い今後は高ニッケルのリチウムイオン電池の開発が進むとの見方を示し、現在も中国メーカーと共同で開発を進めていると述べた。

Eurasian Resources Group社でコバルト市場のマーケティングを担当するSouthgate氏は、「10年前、誰もiPhoneが一人一台保有されるまで普及するとは想像していなかった。市場はどんどん変わっていく」として、新技術の登場に伴う市場の拡大に期待を寄せた。

2)DRコンゴについて

Southgate氏は、DRコンゴでの小規模採掘問題を解決しない限り、供給はタイトになることを指摘した。小規模採掘の多くは許可を受けずに操業されており、不法なものもあれば環境問題、児童労働問題があるものもある。最終的に小規模採掘はなくすことになるが、多くの現地人の収入源になっているので突然止めることもできないとの見方を示した。

Bao氏も、コバルトは世界全体の生産量の55%をDRコンゴからの供給が占めており、同国なくしてコバルトの供給は考えられないとコメントした。さらに同氏は、小規模採掘については大統領も注目し、こうしたタイプの採掘を整理することを検討しているとの状況を伝えた。

3)その他需給など

Milewski氏は、サプライチェーン上の問題で、材料は必要となる時期のおよそ12か月前に購入しておかなければならないことに言及。向こう2年間は中間製品については供給量が需要を上回るが、その後は深刻な供給不足になる見込みであると指摘した。他方で、向こう5年間でリサイクルのシステムが確立されると考えられ、その影響は無視できず今後の需給動向において考慮する必要があるとした。中国製錬所からの生産も考えられはするものの、環境規制の側面からこれら製錬所の生産能力はそれほど増えないだろうとの見方を示した。

この点についてはSouthgate氏も同様の考えを示し、中国環境規制により同国製錬業が影響を受けることで、鉱石の供給国であるDRコンゴで製錬能力が拡張されるのではないかと指摘した。また、コバルトはDRコンゴでは銅の副産物として、その他の国では主にニッケルの副産物として生産されていることから、コバルトの確保に際しては銅とニッケルの両方の価格に注意を払わなければならないと述べた。ただし、DRコンゴでの生産が伸びる見込みであることに加え、バッテリーのリサイクルシステムの確立や高ニッケルのNMC811系のリチウムイオン電池の採用が進むことで、10年後にはコバルトの供給不足はそれほど大きな問題になっていないだろうとの見方を示した。

金川集団のBao氏は、電池向けに製品を生産する場合には直接水酸化コバルトを生産する方法が最も低コストであると指摘し、現在同社がザンビアで行っている湿式製錬技術の開発を引き続き進めていきたいとコメントした。

3.リチウム

SQM社をはじめプロジェクト紹介が目立った。かん水系のプロジェクトからの供給が需要増大への対応に間に合わないなど2020年までは需給はタイトな状況が続くものの、価格が維持されれば、それ以後需給ギャップは解消するとの見方が複数のプレゼンターから聞かれ、この点について市場の見方は一致している模様である。

Metal Bulletinのアナリストによるリチウムの需給動向に関するプレゼンテーションと、SQM社のプレゼンテーションを紹介する。なお、以下、数量について断りがない場合は炭酸リチウム量(LCE)ベースとする。

1)Lithium supply and demand(Vicky Zhao, Senior Analyst, Metal Bulletin)

2013年150kt程度であったリチウムの需要は、2017年には200ktを越えた。2021年には300kt、2026年には550ktに達する。ガラスやセラミックスの添加剤、グリース分野でも需要の増加はあるが、著しく伸びるのは電池分野である。電池市場ではコバルト、リチウム、ニッケルの供給が問題になっているが、特にリチウムでは新鉱床開発への投資が必要となることが課題である。

リサイクルについては中国政府の電池リサイクル促進政策があり、リサイクルやリユースのシステム構築が注目される。現在リチウムイオン電池の正極材の開発が進んでいるが、電池としては、リチウム硫黄固体電池、ナトリウムイオン燃料電池、マグネシウム固体電池、バナジウム電池、アルミニウム空気電池などのリノベーションが期待される。

2)Overview of lithium fundamentals from the world leaders
(Daniel Jimenez, Senior Commercial Vice President, SQM)

① SQM社概要

SQM社は1万人規模の職員がおり、活動範囲は15か国に及ぶ。現在チリにおいて、Salar brines 、Caliche oreの2か所でリチウムの生産をしている。またアルゼンチンと豪州でプロジェクトを立ち上げている。SQM社の収益構成はリチウム30%、カリウム18%、窒素32%、ヨウ素12%である。

② SQM社のリチウム生産工程及び生産動向

SQM社のリチウム生産は井戸からのかん水吸上げから始まりハライト蒸発池、カリ岩塩蒸発池、カリ・マグネシウム岩塩蒸発池を経てリチウム蒸発池で天日蒸発させ高濃度のボロン-塩化リチウムとする。これをAntofagasta州のSalar del Carmen工場に輸送し炭酸リチウムにする。

現在、SQM社の炭酸リチウム生産能力は48ktであるが、2018年には70kt、2019年には100ktまで拡張される。水酸化リチウムの生産能力は6kt(バルク量)で、2018年13.5kt(バルク量)となる。リチウム生産は世界全体で2017年、チリ78kt、アルゼンチン30kt、中国18kt、豪州80ktであるが、2022年にはチリ205kt、アルゼンチン80kt、中国64kt、豪州347ktその他合計で724ktとなる。

図3.国別リチウム生産量の推移(2018年以降は予測値)

図3.国別リチウム生産量の推移(2018年以降は予測値)

(出典:「Battery Materials 2018」SQM社プレゼンテーション資料を基にJOGMEC作成)

SQM社で進行中のプロジェクトであるアルゼンチンのSalar de Cauchari-Qiarosでは、Lithium Americas Corpとのアタカマでの共同かん水プロジェクトの技術が応用可能である。2020年スタートアップで炭酸リチウムを25kt生産する。豪州のMt Hollandプロジェクトは鉱石タイプでKidman Resource社との50/50共同事業であり、2020年に年産40kt規模の炭酸リチウムの生産が開始される。水酸化リチウムは2021年に生産を開始する。

かねてからCORFO(チリ経済開発公社)と協議が続いていたリチウムの販売割当に関しては、2018年1月に合意に至った。本合意により、2030年までに2,200ktまで増産することが認められた。またロイヤルティについては、価格スライド式の制度となる。

③ SQM社によるリチウム需要見通し

需要サイドは2017年59%が蓄電関連で、現在は炭酸リチウム60%、水酸化リチウム23%の出荷比率(数字は発表のまま)であるが、今後、水酸化リチウムでの出荷シェアが増加する。リチウムの需要はBEVやPHEVなどの伸びに牽引され、引き続きかなりの割合で増加し、5年ごとに倍増すると見る。2017年総需要は212ktだったが、2022年には475ktとなる見込みである。2022年の予測内訳は電池用合計で366kt、うち自動車用が265ktである。2027年には877ktに伸び自動車用は569ktになる。なお、SQMの予測では2027年に世界の電気自動車生産は2千万台を超える。

これまでリチウム市場では需要サイドが過少評価され供給サイドは過大評価されていた。この評価は見直されなければならない。供給サイドでは新規生産や既存生産設備の拡張を始めるため、新たな投資が必要である。また製品の品質向上も求められる。

このような背景の中で、SQM社はCORFOとの新合意によるチリでの増産のほか、アルゼンチン及び豪州と生産地域の多角化を実施し業界をけん引していく。

おわりに

今回のカンファレンスでは、EVの生産については今後拡大が進むとの見方で一致する中、その増産ペースは中国とその他の国で異なるとの指摘がなされていた。また高ニッケル・省コバルトが特徴であるNMC811系のリチウムイオン電池の開発動向についても、中国内・外で状況は異なるとの見方があった。そしてリチウムイオン電池に用いられる金属として代表的なニッケル、コバルト、リチウムの3鉱種について、需給バランスの状況も、安定的な調達への課題も、それぞれ異なることが再確認され、また各企業・組織の立場により見解が異なる様子も見られた。

各鉱種とも需要増大が見込まれているにもかかわらず、その予測に見合った開発が進んでいるようには見えない。「本当にEVは売れるのだろうか」という点について未だに不安が拭いきれないことに加え、各鉱種にそれぞれ固有のリスクがあることが、各社が二の足を踏んでいる一因ではないだろうか。

今回取り上げた3鉱種のうち最も課題が多いと言えるのは、コバルトだろう。副産物であるという性質上、コバルト単独で生産を増加させることが難しく、それに加えて主要生産国であるDRコンゴのカントリーリスクは高い。しかしながら、業界全体で少しずつ問題に着手する動きもある。2018年3月には、金属及び原材料の「責任ある調達」に関するサービス提供会社であるRCS Global社が旗振り役となってコバルト採掘に従事する児童の労働をなくすための取り組みが始まり、欧米自動車メーカーや中国の華友鈷業(Huayou Cobalt)社等が参加しているとの報道があった(2018年3月26日付Financial Times等参照)。最終的な需要家も含めて課題解決に取り組む動きがあることは、明るい話題であるといえる。

EVの今後の需要増大に不安感が残るのは、現時点のEV普及率がそれほど高くないことから、実感が伴いにくいのが要因だろう。一ドライバーとしては、「価格が安いか」「充電が気軽に素早くできるか」「気に入ったデザインがあるか」といった点をクリアできれば購入の可能性があると思えるが、前者二つは電池の価格及び性能で大いに左右されるポイントである。EV需要の増大が確信できるのは、全てを解決できるだけの技術が成熟した時かと考えられるが、それはいつ頃になるのか。また、その時から鉱山の開発に着手して果たして原材料の安定供給は間に合うのか。

需要分野における潮流と生産動向をきめ細やかに注視する必要性は今後一層高まるものと考えられ、機構としてはこれらの状況に気を配りながら需給動向を把握し、資源の安定供給を確保するべく支援を続けていきたい。

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