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報告書&レポート

2018年6月26日 メキシコ 事務所 森元英樹・佐藤すみれ
18-14

メキシコChihuahua州鉱業投資環境

~チワワ犬と同じ名前、そこは巨大クリスタルが眠る鉱業州~

<メキシコ事務所 森元英樹・佐藤すみれ 報告>

はじめに

日本人にとって馴染みのあるチワワ犬、その原産地であるかは諸説あるが、その名と同じChihuahua州は、メキシコ北西部に位置するメキシコ最大の面積を誇る州である。米国のグランドキャニオンを遥かに上回る峡谷を鉄道から見ることができることから、Chihuahua州政府は、この大自然に歴史、文化を組み込んだエコツーリズムを観光政策として促進している。

しかし、同州南西部には麻薬栽培地域が位置すると言われており、さらに、その密輸先となる米国と国境を接していることから、2000年代以降、麻薬組織間の激しい抗争が繰り広げてられている。さらには、麻薬犯罪組織による市町村長の惨殺事件が報道されるなど、治安面の不安が残る州でもある。

鉱業分野では、日本の報道機関も特集で伝える、鉱業に携わる人間でなくても1度は訪問したくなる巨大クリスタル(石膏の結晶)(写真1)の眠る秘宝:Naica鉱山が存在し、さらには、金、銀、銅、鉛、亜鉛といった鉱物のポテンシャルに恵まれている。そのChihuahua州には、日本のDOWAメタルマイン株式会社が参画するLos Gatosプロジェクトがある。2017年11月、同プロジェクトは商業生産に向けた開発工事開始を発表したことから、同州の新規プロジェクトとして、政府関係者も高い関心を示している。

今回、Chihuahua州を訪問し、鉱業大会に参加するとともに、鉱山行政を所管するChihuahua州経済開発省、SGM(メキシコ地質サービス庁)及び鉱業クラスター事務局から、Chihuahua州の鉱業投資環境に関する情報を得ることができたので、これらの情報を基に現状を報告する。

残念ながら、以前はChihuahua市内からNaica鉱山(クリスタル)見学ツアーが開催されていたが、現在は、地下水が上昇していることから安全性の観点からクリスタルを見ることができる坑道は閉鎖され、一般旅行者は立ち入ることができない。

  • 図1.Chihuahua州位置図

    図1.Chihuahua州位置図

  • 写真1.Naica鉱山(Chihuahua州経済開発省提供)

    写真1.Naica鉱山(Chihuahua州経済開発省提供)

1.Chihuahua州の政治・経済について

(1) 政治情勢

2018年7月1日、メキシコでは6年振りとなる大統領選挙に加え、連邦上院(128議席)、下院(500議席)、州知事、市長、地方議会議員を含む3,000以上の公職ポストが選出される巨大選挙が予定されており、Chihuahua州においても、連邦両院、州議会議員及びChihuahua市長選挙が行われる。なお、Chihuahua州は、2016年6月に州知事選が行われ、国民行動党(PAN)のJavier Corral Jurado現知事が、与党である制度的革命党(PRI)の候補に勝利し、18年ぶりに同州における政権交代を果たしている。

そのJavier Corral Jurado知事は、2018年4月18~20日に州都Chihuahua市で開催された第12回Chihuahua州鉱業大会「テーマ:生活の質に影響をもたらす鉱業」の開会式において以下のポイントを挨拶で述べている。

  • 写真2.鉱業大会開会式(筆者撮影)

    写真2.鉱業大会開会式(筆者撮影)

  • 写真3.SGM北部支部(筆者撮影)

    写真3.SGM北部支部(筆者撮影)

【Javier Corral Jurado知事挨拶(概要)】

  • Chihuahua州における投資機会の増進と鉱業プロジェクトの発展を継続するため、制度の充実を進める。鉱業の発展に向け、探鉱費控除制度の改正、地方自治体による鉱業基金の適正な運営体制の整備が必要である。Chihuahua州は、新たな連邦体制のリーダーとなり、立法を含めた体制整備に向け挑戦する。
  • 鉱山企業には、コミュニケーション力の向上を求めたい。鉱山周辺住民が新しい鉱山技術を知る機会が必要である。そして、地方における役割、雇用、社会発展、能力開発支援について正確に伝えることが重要である。
  • 2018年3月にカナダのトロントで開催された探鉱・開発協会国際会議(PDAC)において、Chihuahua州の鉱業投資環境を説明したが、Chihuahua州においては大型鉱山だけではなく、中小鉱山の貢献は大きい。このため、鉱業基金を活用した中小企業支援を検討する。なお、新たに同州ではLos Gatosプロジェクトの開発が予定されている。同鉱山にも多くの企業が関連しており期待している。

(2) 経済情勢

Chihuahua州の2016年GDPを産業別に見てみると、図2に示すとおり、その割合が最も高いのは不動産業をはじめとするサービス業の37%であり、次いで自動車、電子機器、航空機部品をはじめとする製造業(28%)、商業(17%)と続き、鉱業は2%である。2016年のGDP成長率は5.1%で、過去3年間の平均成長率は4.4%であった。なお、Chihuahua州経済開発省によると鉱業のGDPはこの10年間で19%成長している。

また、Chihuahua州の2016年1人当たりGDPは、国内第12位の171,343MXN(メキシコ・ペソ)(約100万円)であり、国内平均の153,497MXNを上回っている。その他の州は、メキシコシティは国内第2位の362,300MXN、他の鉱業州であるSonora州は第5位の218,443MXN、Durango州は19位の130,732MXN、そして、Zacatecas州は21位の115,662MXNである。

図2.Chihuahua州GDP(2016年)の産業別内訳

図2.Chihuahua州GDP(2016年)の産業別内訳

出典:メキシコ事務所作成(Chihuahua州経済開発省資料より)

2.メキシコ鉱業におけるChihuahua州鉱業の位置付け

(1) Chihuahua州鉱業について

2017年の国内鉱業に占めるChihuahua州の鉱業生産は、Sonora州、Zacatecas州に次ぐ第3位の14.8%であり、対前年比14.2%上昇している。鉱種別では、銀(807.1t)は国内生産の14%、鉛(36.2千t)は16%、亜鉛(101.9千t)は13%を占め第2位、金(21.1t)は国内生産の18%を占め第3位、そして、銅(14.6千t)は2%を占め第5位となっている。

Chihuahua州の鉱業コンセッション数は約3,300件あり、同州に占める鉱業コンセッション設定面積の割合は約9%である。うち大規模鉱山は13鉱山が操業中であり、全鉱山労働者数は約1.1万人である。また、2014年に創設された鉱業特別税と貴金属鉱業特別税等による税収の分配金であるChihuahua州鉱業基金は、2016年の分配金が州に対し133百万MXN(約8億円)、市町村(Municipio)に対し222百万MXN(約13億円)が配分されることとなっており、同州及び市町村のインフラ整備等に使用される。

表1.Chihuahua州及びメキシコ国内生産量

表1.Chihuahua州及びメキシコ国内生産量

出典:メキシコ事務所作成(CAMIMEX、Chihuahua州経済開発省資料より)
注)州生産量のみ2017年、その他は2016年の統計

(2) Chihuahua州内鉱山の最近の動き

Chihuahua州経済開発省によると、2016 年第1四半期、Coeur Mining社のPalmarejo鉱山ではGuadalupe鉱床からの生産が開始され、同7月、Fresnillo社のSan Julián鉱山では商業生産が開始され、さらにFrisco社のSan Francisco del Oro鉱山とSierra Metales社のCusi鉱山では過去最高の生産量を記録したことから、2016年のChihuahua州鉱業生産額は大幅に増加した。

そして、2017年第3四半期にSan Julián鉱山の改修工事の第2フェーズが終了し、同鉱山からの生産量が増加したことから、2017年の鉱業生産額はさらに増加した。なお、図3に示す2017年の鉱業生産額は、San Julián鉱山の統計が未発表であるため、2018年6月時点での集計値である。このため、2017年の同額は35,000百万MXNを超える可能性が高く、さらに、Chihuahua州経済開発省は、2018年の同額を36,000百万MXNと予想している。

図3.Chihuahua州鉱業生産額の推移(百万MXN)

図3.Chihuahua州鉱業生産額の推移(百万MXN)

出典:メキシコ事務所作成(Chihuahua州経済開発省資料より)

(3) Chihuahua州鉱業投資額

Chihuahua州においても国際金属市況の下落・低迷、金属需要の低下の影響により、2013年以降、探鉱費を中心に鉱業投資額は減少してきた。さらに、メキシコでは2014年に鉱業特別税や貴金属鉱業特別税等が導入されたことが鉱業投資額をさらに減少させ、Chihuahua州における鉱業投資額も図4に示すとおり、2016年まで4年連続で下落してきた。

2017年、世界の金属需要、金属市況が回復基調を示しはじめたことから、メキシコをはじめ、多くの鉱業国の鉱業投資額は回復の兆しを見せはじめている。Chihuahua州においても同様の動きが見られ、Chihuahua州の鉱業投資額は図4に示すとおり、5年ぶりに対前年増加となった。

図4.Chihuahua州鉱業投資額の推移(US$)

図4.Chihuahua州鉱業投資額の推移(US$)

出典:メキシコ事務所作成(Chihuahua州経済開発省資料より)

(4) 主要鉱山の現状

Peñoles社が保有するBismark鉱山は、1992年に操業を開始した国内主要亜鉛鉱山の1つであり、同鉱山は同社国内亜鉛生産の約15%を占めている。また、2009年に生産を開始したPan American Silver社が保有するDolores鉱山は、2016年に拡張工事を完了し、これまで順調に生産量を増加させている。

また、Frisco社が保有するSan Francisco del Oro鉱山は、通称「真珠の鉱山」として知られている。同鉱山は、国内有数の鉄鉱石鉱山であるだけでなく、Chihuahua州内の鉛生産量が第2位、亜鉛、銅生産量が第3位の多金属鉱山として知られている。

図5.主要鉱山・プロジェクト位置図

図5.主要鉱山・プロジェクト位置図

出典:メキシコ事務所作成(各社HP、Chihuahua州経済開発省資料等より)

表2.Chihuahua州主要鉱山生産量

表2.Chihuahua州主要鉱山生産量

出典:メキシコ事務所作成(各社HP、Chihuahua州経済開発省資料等より)

2018年6月現在、Chihuahua州には64企業による探鉱プロジェクトが進められており、うち80%がカナダ企業によるものである。また、Chihuahua州政府が今後注目するプロジェクトとして例示したプロジェクトを表3に示す。そのうち、Los Borregosプロジェクトは、2018年5月14日付けで入札募集要項が発表されており、詳細はDiario Oficial de la Federación ウェブページで閲覧が可能である(2018年6月現在)。(http://dof.gob.mx/nota_to_doc.php?codnota=5522465)

表3.Chihuahua州政府が今後注目するプロジェクト

表3.Chihuahua州政府が今後注目するプロジェクト

出典:メキシコ事務所作成(各社HP、Chihuahua州経済開発省資料等より)

3.Chihuahua州の鉱業投資環境

(1) インフラ事情

Chihuahua州は、メキシコ最大の面積を誇る州であり、その面積は24.7万km2、同州だけで、日本の面積の65%に相当する。同州には67市町村(Municipio)が存在し、人口は376万人、人口密度は15人/km2である。(参考:北海道は65人/km2

西部でSonora州、南西部でSinaloa州、Durango州、東部でCoahuila州と接し、北部には、米国のTX州、NM州と国境を接している内陸の州であるため、州内には港湾施設はなく、空港は州都であるChihuahua市、北部米国国境沿いのJuárez市の2か所にある。また、鉄道は、メキシコ鉱山企業Grupo México社が保有する太平洋沿いの港に接続する貨物列車の線路網を含めた総延長約2,655kmが整備されている。

同州鉱山関係者によると、同州産品を鉄道網以外で輸送する場合、米国に輸出する以外は、トラックで数百km~千km離れたSinaloa州Mazatlán港、Jalisco州Manzanillo港に有料道路を使用し運搬し輸出することとなるが、全行程で有料道路を使用することができないため治安対策が重要となると述べていた。なお、Chihuahua州経済開発省の統計では、2011~2016年における産品輸送割合はトラック輸送が86%、鉄道輸送が14%であり、空輸は0.3%に過ぎない。

道路網は、図6に示すとおり、米国国境沿いのJuárez市から州都であるChihuahua市を通りDurango州につながる南北を横断する有料道路(赤線:写真①)及び国道45号が整備されている。しかし、図6のChihuahua市(写真②)と米国と国境を接するOjinaga市(写真③)に示すとおり、主要都市内の幹線道路及び国道45号は舗装整備がなされているが、今回、Chihuahua市内から空港に向かう途中に位置するSGM北部支部を訪問するため幹線道路を中に1本入ると写真⑤に示すとおり道は未舗装道となる。

また、国道45号から東西に向かう道路については、未だ建設中の道路(黒色点線)が多く、図6に示されていない道路は、写真④に示すとおり、未整備・未舗装の道路が延々と続いている。

なお、太平洋・カリフォルニア湾に接続する道路については、同州西部には西シエラマドレ山脈があることから、山脈、渓谷を横断する陸橋建設プロジェクト計画は存在するものの、資金面に加えSinaloa州との連携が必要であり、未整備の状態が続いている。

図6.Chihuahua州の主要道路網

図6.Chihuahua州の主要道路網

出典:メキシコ事務所作成(Chihuahua州政府資料より)

(2) Chihuahua州の治安について

2006年に就任したCalderón 前大統領は、治安対策をその最重要課題の1つとして掲げ、警察組織の改編を含めた治安改善に向けた取組を進めた。同時に、麻薬犯罪組織に対する取締りを強化し、組織の幹部を次々に逮捕した結果、前大統領政権時には、7、8組の組織が解体されたと言われている。しかし、麻薬犯罪が無くなることはなく、最終的には治安が大きく改善せず、治安対策は長期化を余儀なくされた。

このため、2012年に就任したEnrique Peña Nieto現大統領は、武力中心の麻薬犯罪組織撲滅から一般犯罪の取り締まりによる治安対策に方針を転換した。この結果、2014年の殺人件数は就任当時の2012年に比べて28%減少した。しかし、2015年以降は、その件数は増加傾向にあり、2017年の殺人件数は過去20年間で最悪となる25,340件となっている。近年は、麻薬犯罪組織が細分化されながら勢力が太平洋沿岸へ広まりつつあると言われている。Chihuahua州は麻薬犯罪組織が密輸先とする米国国境に接しており、米国への麻薬密輸ルートが存在するため、組織犯罪のリスクは高く、同州における殺人件数は2015年945件、2016年1,232件、2017年1,578件とこの2年間で67%増加している。2017年の州別ランキングにいてChihuahua州の殺人件数は全国第5位であり、また、傷害件数は全国第13位となっている。犯罪は、米国国境付近だけでなく隣接する州境においても多く発生しており、さらに、州境は、麻薬犯罪組織による組織間の抗争があるため、同地域での活動及び移動には特に注意が必要である。

表4.Chihuahua州の犯罪(殺人、傷害)件数の推移

表4.Chihuahua州の犯罪(殺人、傷害)件数の推移

出典:メキシコ事務所作成(内務省資料より)

このような中、2018年6月、Sonora州境のMadera市に位置するPan American Silver社が保有するDolores鉱山への主要アクセス道において、同鉱山の下請け企業が麻薬組織に襲撃される事件が発生したとの報道があった。Chihuahua州経済開発省へのインタビューによると、同鉱山周辺を拠点とする2組の組織による勢力争いに下請け企業が巻き込まれた事件であり、この結果、同鉱山は鉱山労働者の安全確保のため人の移動を制限せざるを得なくなり、操業を一時的に低下させることとなった。しかし、6月4日、Pan American Silver社は、連邦及び州の治安当局によるパトロールの強化により、同アクセス道の安全が確保されたため、通常操業再開に向け準備を開始すると発表した。

このように、Chihuahua州においては、輸送におけるリスクは高く、鉄道、高速道路では武装した集団による貨物盗難、通行料として現金を要求する事件が発生している。これは、鉱山企業の問題だけではなく、全ての輸送時には武装した警備員の同行、輸送車両へのGPS設置、監視などの対策を図る必要があり、コスト・アップの要因となっている。

メキシコの治安関係者は、治安対策の基本ではあるが、移動は昼間に限定し、早朝、深夜の外出は避け、農村部の移動、都心部以外の滞在時は常に当局からの情報を収集し安全対策の指示に従うべきことと述べている。

(3) Chihuahua州鉱業行政

Chihuahua州経済開発省では、鉱業部門成長に向け、現在、以下に示す4つの目標を立てている。州政府関係者は、特に、鉱業部門のプロモーション事業と中小企業支援対策に力を入れている。2018年7月には、Chihuahua州においても連邦両院、州議会議員、Chihuahua市長選挙が予定されているが、政党に関係なく当選者を対象とした鉱山見学会を開催し、鉱業に対する理解を深めてもらい、未来への鉱山開発へ向けた協力を求めたいと述べた。

【Chihuahua州政府の鉱業部門の目標と戦略】

目標1:対社会・環境的責任ある鉱業活動の促進活動

戦略:生産性と競争性を高めることによる生産量増加促進
具体的支援:特別研修プログラムの推進運営、生産過程の国際的認定の付与等

目標2:中小企業の発展

戦略1:中小企業を対象とした経済的支援事業推進
具体的支援:メキシコ地質サービス庁(SGM)との協力による地質調査、サンプリング調査*支援、中小企業向けの研修プログラムの推進等
     *サンプリング調査に関しては政府100%補助による実施が可能
戦略2:資金調達スキームの改善
具体的支援:鉱業基金を利用した資金援助や他の団体との共有資金の管理等
戦略3:技術コンサルティングの提供指導
具体的支援:各鉱山における技術指導、鉱業権に関する情報提供等

目標3:Chihuahua州鉱業の潜在力をより生かすための鉱業投資強化

戦略1:鉱業投資に対する法的な確実性と安全性を確保
具体的支援:政府の戦略部門との協定の制定や鉱山操業における安全議定書の締結、投資家へのサポート等
戦略2:鉱業のポテンシャル(可能性)の促進
具体的支援:より有益なプロジェクトマップの作成、国内外の鉱業大会におけるプロモーション活動等

目標4:鉱業部門における効果的なコーディネートの促進

戦略1:鉱業促進のための委員会の設立
具体的活動:政府、鉱山企業幹部による委員会の設置、戦略計画と規制改革等
戦略2:産業分野における鉱物資源の利用促進
具体的支援:鉱業分野のバリューチェーンの統合サポート、資源在庫の確保等
戦略3:持続可能な鉱業プログラム推進
具体的支援:企業に対する国際認定促進、持続可能な国際鉱業開発のプラットフォームへの参加等。

(4) SGM北部支部(Chihuahua)について

SGM(Servicio Geológico Mexicano:メキシコ地質サービス庁)は、鉱業法第9条の規定によりメキシコ経済省の管轄下において設立された法人であり、メキシコの鉱物資源の有効な活用を促進、基本的な地質情報の作成を担う機関である。

活動資金は、連邦政府の拠出金に加え、鉱床発見報酬、国有鉱区の入札から生じる経済的対価、鉱業法で定めるサービスによる収入で構成されており、日本の独立行政法人に相当すると考えて良い。組織は、Hidalgo州Pachuca市に本部を置き、メキシコを北西部、西部、北部、北部中央、東部中央、中央東部、南部の7つのエリアに分け管轄している。この中の北部支部がChihuahua州を管轄しており、他の支部が複数の州を管轄しているのに対し、北部支部はChihuahua州のみを管轄している。この理由は、Chihuahua州がメキシコで1番広い面積を有していること、そして、Chihuahua支部とOaxaca支部の2ヶ所しかないリサーチ、分析・研究センターが併設されていることが関係していると考えられる。

北部支部は、メキシコ北部、中央部のあらゆる民間、政府機関の金属、非金属、土壌、水質調査と言った150を超える分析を担う。同支部長によると、年間調査件数は、鉱石分析が約3万5千件、土壌、水質も含めると、年間の調査件数は百万件近くに上る。また、SGM北部支部リサーチ、分析・研究センターは、偏向顕微鏡、ppm及びppbの精度を分析する装置、小型の選鉱試験装置、分析用溶鉱炉、バイオリーチング装置、貴金属抽出パイロットプラント、水・土壌分析装置などの機器を保有している。

なお、SGMの主要業務の1つである地質情報の提供については、鉱業・地質情報デジタル統合システム(GeoinfoMEX)を展開している。これは、経済省鉱山総局に登録された鉱区に関する情報とSGMの情報(地質図、地化学探査図、物理探査図、鉱物鉱床図、リリーフ 3D図及び人工衛星による画像解析図)を統合したデジタル版であり、同システムは GeoinfoMEX(https://www.sgm.gob.mx/GeoInfoMexGobMx/)でも一部閲覧することができる(2018年6月現在)が、詳細なデータは各SGM支部、事務所にあるシステムで見ることができる。

現在、メキシコ国内には多くの州にクラスター制度が創設されており、鉱業クラスター制度が創設されている州は、Zacatecas州、Sonora州、Coahuila州、Guerrero州、Chihuahua州の5州である。Chihuahua州の鉱業クラスター制度は、2013年のZacatecas州に続き国内2番目の制度としてスタートした。なお、Chihuahua州には、鉱業クラスター以外に、自動車、機械、航空機、ワインのクラスター制度が存在する。

2013年のChihuahua州鉱業クラスター制度創設時は、会員数が20社であったが、2018年6月現在、その数は145社にまで拡大している。内訳は、鉱山企業20社、サプライヤー企業120社、大学5校となっており、政府機関は、取り組む内容に対する助言を求めることはあるが、クラスター制度は、民間の取り組みであるため、会員としてはカウントしない。

組織は、図7に示すとおり、会長(現在の会長はセメント企業役員)をトップに、事務局職員6人、そして、資金管理、安全・物流、倫理、サプライヤー業者の発展、連携構築の5つの委員会を設置し事業内容の検討を行っている。

なお、同事務局へのヒアリングによると、会員資格要件は、Chihuahua州に事務所(所在地)を置き、同州において代表権を有していること、及び財務・税務等の問題がないことが必須要件である。それらの条件に関する書類を事務局に提出、審査を経て会員となる。また、会費は、サプライヤー企業が12,000MXN/年(約7万円)、鉱山企業が120,000MXN/年(約70万円)とのことであった。

主な活動は、鉱山保安、研修による人材育成、サプライヤー企業と鉱山企業の連絡窓口データベース整備、活動情報(機関紙、HP)の発信であるが、Chihuahua州鉱業クラスター制度の特徴として、鉱山と地元住民との交渉仲介を行う事業がある。これは、同事務局が鉱山企業の味方ではないことを地元住民に説明した後、鉱山と地域住民と間に入り、発生した諸問題の原因を分析し、解決する業務であり、これまで数件の問題を解決している。なお、2018年8~9月に、鉱業クラスター制度を設置している5つの州による合同会議がChihuahua市で開催される。具体的な内容は、活動報告、意見交換及びマーケティング、財務等の講演会を行う予定である。

図7.Chihuahua州鉱業クラスター事務局機構図

図7.Chihuahua州鉱業クラスター事務局機構図

出典:メキシコ事務所作成(Chihuahua州鉱業クラスター事務局より)

(6) 先住民居住地域について

メキシコでの文明の起こりとスペインによる植民地時代を経てのメキシコ先住民の歴史、そして、先住民の現状、国際労働機関(ILO)のILO169号条約「独立国における原住民及び種族民に関する条約」(以下、ILO169号条約という)を含めた国際法及び国内法における先住民の権利の発展については、今回のレポートで述べない。しかし、メキシコを代表する祝日の1つである死者の日の儀式などは有名であるように、メキシコには先住民時代の文化を色濃く残している。メキシコの先住民居住地域においては、如何なるプロジェクトを進める場合においても、先住民の歴史・文化を理解し、先住民との関係を構築することは非常に重要である。

メキシコは、1990年にILO169号条約に批准し、その後、先住民の意味、位置付け、そして、ILO169号条約が示した先住民の権利の尊重を憲法、法令に盛り込むべく改正をしてきた。この結果、鉱山開発をはじめる前には開発地域に居住する先住民と協議を終了している必要があり、鉱業法第10条をはじめ先住民の権利を尊重する条項が、憲法第2条の下、鉱業法等に規定されている。

メキシコでは先住民の人口は減少しているとの論調もあるがプロジェクトを実施する上で先住民の権利を尊重することが更に重要となっている。直近では、2018年3月、Puebla州の先住民が、加Almaden Minerals社の保有するプロジェクトは、先住民の事前協議による同意を得ていないとして開発中止を求める訴訟が起こり、裁判所は同プロジェクトの開発中止を決定した。また、2018年6月には、Enrique Peña Nieto大統領が就任時から進めている改革の柱の1つであるエネルギー改革の炭化水素鉱区入札R02-L02のCuenca de Sureste帯にある2鉱区は、Chiapas州の先住民との事前協議が終了していないとして、政府は急遽、この2鉱区の入札を延期した。

先住民が占有する居住地域は、メキシコ中央部から南部及びユカタン半島に多く位置し、北部には少ないとされている。このことをChihuahua州政府関係者に確認したところ、図8に示すChihuahua州南西部に先住民居住地域があり、先住民として68人が登録されているとのことであった(表5)。

表5.Chihuahua州の先住民人口

表5.Chihuahua州の先住民人口

出典:メキシコ事務所作成(Chihuahua州政府関係社ヒアリングより)

図8.Chihuahua州南西部の先住民地域

図8.Chihuahua州南西部の先住民地域

出典:メキシコ事務所作成(Chihuahua州政府関係者ヒアリングより)

おわりに

Chihuahua州は、メキシコ第3の鉱業州として、鉱業活動がさらに活発化してきている州であり、様々な金属のポテンシャルが期待されていることから、今後も鉱業投資等の面で注目される。また、2018年7月の選挙では州知事の交代はなく、2016年6月に就任したJavier Corral Jurado知事は、5月の鉱業大会において今後の鉱業推進策の検討を公言していることから、州レベルで何らかの規制、税制等が検討される可能性は低いと考える。他方、輸送体制を含めた治安対策は同州の問題である。Chihuahua州を訪問している間にもPan American Silver社のDolores鉱山が麻薬組織間の抗争に巻き込まれ、操業に大きな影響があった。特に、産品を日本へ輸出する場合、太平洋沿いの港への輸送は距離が長く、輸送トラックが襲撃される危険性があることから、プロジェクトの位置関係は、先住民、エヒード(土地所有権)を含めしっかりと検討する必要がある。

このような中、Chihuahua州、Sonora州といったメキシコ北部の州では、2019年以降、日本企業が参画する鉱山の開山が予定されていることから、メキシコ全般の情報のみを発信するのではなく、可能な限り、州やプロジェクトレベルの情報を発信することとしたい。

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