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報告書&レポート

2018年7月4日 ロンドン 事務所 ザボロフスキ真幸
18-15

2018年PGM市場の見通し

―ロンドン・プラチナ・ウィークから―

<ロンドン事務所 ザボロフスキ真幸 報告>

はじめに

PGM市場関係者が一堂に集うプラチナ・ウィークが5月14日の週に英国ロンドンで開催された。PGM専門コンサルタントSFA Oxfordが主催した『The Oxford Platinum Lectures 2018』では、Anglo American、Norilsk Nickel、Impala Platinum、Zimplats、Lonmin、Northan Platinum等のPGM大手生産者を始め、J.P.Morgan、Morgan Stanley、Standard Bankといった銀行等の金融機関、トレーダー、宝石需要関係者など前年比25%増の計150名以上が参加し賑わっていた。また、今回初めて参加する機会を得たLondon Platinum & Palladium Market(LPPM)が主催した『LPPMセミナー』では参加者数は230名となり、更に多くのPGM市場関係者がその晩のレセプションに参加した模様である。本レポートでは、SFA Oxfordによる2018年のPGM市場の見通し、ITM Power社による水素エネルギーソリューション動向、またLPPMセミナーからInvestec Bank社によるEV普及におけるリスクと白金への影響の講演概要を紹介する。

写真.SFA Oxford Lecture開催場所

写真.SFA Oxford Lecture開催場所

1.SFA Oxfordによる白金及びパラジウムの需給見通し

(講演者:Managing Director, Baresford Clarke)

2018年のPGM市場を見ると、2018年に入ってから5月初頭までルテニウム、イリジウム、ロジウムの価格がそれぞれ30%、20%、18%と上昇している。白金価格は、2018年1月にはRamaphosa南ア新大統領就任のラマポーザ・エフェクトにより幸先の良いスタートを切ったが、ディーゼル車への向かい風が強まったことに加え、2017年に供給が増加したことにより、価格帯は950US$/ozの水準に戻った。パラジウム価格は、一時期1,100US$/ozまで上昇したが、価格帯を維持することができず950~980US$/ozの水準に戻った。

以下、SFA Oxfordが発行した『The Platinum Standard 2018』から、2016年から2018年にかけての需給バランス及び2018年の価格見通しを紹介する。

1.1. 白金の需給バランス

白金市場の需給動向は、図1及び表1のとおり2017年に鉱山生産量及びリサイクル量の増加に加え、自動車触媒、宝飾品、産業用の需要が減少したことにより、54.5万ozの供給過剰となった。2018年は過剰幅は狭まるものの45.0万ozの供給過剰となると予測する。

2018年の白金生産は前年比0.7%減の799.5万oz、このうち鉱山生産量は前年比1.8%減の603.5万oz、リサイクル生産量は前年比2.9%増の196.0万ozの見通し。2018年の需要量は前年比0.5%増の754.5万ozであり、自動車触媒向けが前年比3.1%減も、宝飾品向けが2%増、産業向けが5.7%増となり、石油精製の触媒需要、ガラス及び化学品での需要回復に起因する。

図1.白金需給推移

図1.白金需給推移

(出典:SFA Oxford)

表1.白金需給バランス

(単位:千oz)

区分 2016年 前年比 2017年 前年比 2018年予測 前年比
鉱山生産量 6,035 -1.9% 6,145 1.8% 6,035 -1.8%
リサイクル量 1,855 8.5% 1,905 2.7% 1,960 2.9%
需要 7,785 -2.5% 7,505 -3.6% 7,545 0.5%
需給バランス 105 545 450

1.1.1. 白金の供給サイド

南アのMaseve鉱山の操業中止、Bokoni鉱山を含む一部の鉱山の減産により、2018年の鉱山生産量は前年比1.8%減の603.5万ozになると予測。地域別では、南アが前年比0.7%減の435.5万oz、ジンバブエは5.2%減の45.5万oz、ロシアは9.0%減の66.0万ozと減少傾向にある一方、北米は鉱山拡張により2.7%増の37.5万ozになる。白金鉱山生産者のうち年間生産量が15万oz以下の小規模生産者の大半が2009~2016年の間に操業中止となっており、大中規模生産者は閉山及び雇用削減を実行する前に、生産効率化などコスト削減に注力している。同傾向は2018年も続き、白金価格が900US$/ozと下落傾向であることから、今後更なる減産が予測される。

また、リサイクルによる供給量は、2017年に前年比2.7%増の190.5万oz、2018年は2.9%増の196.0万ozと増加傾向にある。特に、2017年はパラジウム及びロジウム価格の上昇から、自動車触媒からのリサイクルが前年比9.4%増となった。一方、宝飾品リサイクルは日本で減少、中国で横ばいである。

1.1.2. 白金の需要サイド

2017年に自動車触媒、宝飾品、産業向けと全主要セクターで需要が減少したことにより前年比3.6%減の750.5万ozとなったが、2018年は宝飾品及び産業需要の増加から0.5%増の754.5万ozに増加すると予測。需要セクター別にみると、自動車触媒向けの白金需要は世界的な大気汚染物質排出規制強化のトレンドに伴うディーゼル車販売の減少から引き続き減少傾向にある。西欧における自動車触媒向け需要は前年比10%減、日本6.3%減、中国10%減と予測する。一方、米国でのディーゼル車販売は強く、2018年は前年比11.6%増になると予測、さらにインドを含むその他各国でも需要は顕著に伸び5.4%増となると予測された。全体的な自動車触媒向け需要は、前年比3.1%減の328.5万ozと予測する。宝飾品向け需要は、中国及び日本での需要は横ばいであるが、北米、西欧、インドでの需要増が起因し、2018年は前年比2.0%増の251万ozになると予測。産業需要は、石油精製の触媒、ガラス繊維向けが回復するために前年比5.7%増の175万ozとなると予測する。

1.1.3. ディーゼル車の動向

白金需要には、これまで主に2つの市場ショックがあった。第1のショックは、金融危機時の自動車販売高減少であり、2007年~2009年に渡って白金需要は著しく減少した。さらに、同時期にはディーゼル車触媒において白金の代替としてパラジウム利用が15~30%増加し、白金利用を減少させるための技術が進行したことも白金需要に影響を及ぼした。第2のショックは、中国での宝飾品販売高の減少である。中国での宝飾品販売高は2014年をピークに著しく減少しており、2017年の毎月購買高は過去4年の水準から比較して非常に低いものとなっている。白金市場はこの二つの出来事からまだ完全に立ち直っていない。さらに、現在第3のショックとしてディーゼル車のシェア縮小による自動車触媒向けでの白金需要減少が懸念されているが、果たしてそうだろうかという疑問がある。

2018年4月に自動車部品世界最大手の独Boschが、ディーゼルエンジン向けの排ガス中の有害物質の量を2020年の欧州の規制値の10分の1に抑える新技術を開発したと発表。また、英Emissions Analyticsの調査では、2018年現在英国で購入可能なディーゼル車の内、すでに11種類のディーゼル車がNOx排出量60mg未満であり、ガソリン車と同等にクリーンであることを証明している(Audi Q2、BMW 3,5,7 Series、Mercedes-Benz E Class、Porsche Panameraモデル等)。また、北米では米Ford社が主要ラインアップであるピックアップトラック「F-150」のディーゼルモデルを2018年に販売し、米国での売り上げが期待されている。実際、北米では2018年に自動車触媒向けの白金需要は増加すると予測されている。ディーゼル車は、ガソリン車と同等のクリーンな自動車となる可能性があり、これは白金にとってアップサイドであると言える。しかし、政府によるディーゼル車への規制強化、メディアメッセージは公共イメージにマイナスの影響を与えていることは言うまでもなく、西欧では特に英及び独でのディーゼルシェアが減少している。一方、イタリア、スペイン、フランスではシェアは安定している。

1.1.4. 白金価格見通し

2018年の白金価格は、西欧でのディーゼル車のシェアが著しく減少していること、2017年に実施された南アの減産が2018年の市場バランスに十分な影響を与えていないことから、965US$/ozと予測する。鉱山会社は引き続きコスト削減と減産に向かうと予想するが、白金価格回復の強い要因にはならない見通しである。

1.2. パラジウムの需給バランスと価格見通し

パラジウムの2018年生産量は、図2及び表2のとおり、前年比0.5%減の939万oz、このうち鉱山生産量は前年比1.4%減の698万oz、リサイクル生産量は2.1%増の241万ozの見通し。2018年の需要量は、前年比0.3%減の1,021万oz、自動車触媒向けが0.6%増も、産業向けは4%減、宝飾品向けは横ばいとなった。

2018年のパラジウム価格は、1,025US$/ozと予測する。2018年頭には1,110US$/ozまで上昇したが、価格帯を維持することはできず、電気及び歯科セクターからの需要減により3年連続産業向け需要は減少傾向にあるが、ファンダメンタルズは依然として実質的な供給不足であり、今後南アの更なる減産があれば、価格上昇の勢いを与えることができると予測する。

図2.パラジウム需給推移

図2.パラジウム需給推移

(出典:SFA Oxford)

表2.パラジウム需給バランス

(単位:千oz)

区分 2016年 前年比 2017年 前年比 2018年予測 前年比
鉱山生産量 6,805 -2.1% 7,080 4.0% 6,980 -1.4%
リサイクル量 2,205 2.8% 2,360 7.0% 2,410 2.1%
需要 10,270 2.6% 10,240 -0.3% 10,210 -0.3%
需給バランス ▲1,260 ▲800 ▲820

(出典:SFA Oxford)

2.欧州での水素エネルギー利用動向

(講演者:ITM Power社 CEO, Dr Graham Cooley)

欧州では、水素エネルギーの活用に向けた取り組みが進んでおり、水素製造プラントの設立が今後拡大予定にある。英・水電解装置メーカーITM Power社は、2018年1月にShell社と共同で世界最大規模である10MW水素製造プラントをドイツに建設することを発表。欧州燃料電池水素共同実施機構(Fuel Cell Hydrogen Joint Undertaking)から1,000万€の資金を調達し、2020年の操業開始を予定している。2018年5月には英Cadent Gas社が英North West地域で9億£の水素製造プラントを建設すると発表。HyNet North Westプロジェクトと呼ばれる同プロジェクトは英Liverpool市、Manchester市からの支援を受け、2020年中旬に操業開始予定で、鉄道、トラック、バスに水素を提供する。

製造された水素を使用する燃料電池自動車(Fuel Cell Vehicle, FCV)には触媒として白金が利用されている。FCVは、クリーンな自動車としてEVと比較されることが多いが、両者の最大の違いは、FCVの水素充填時間とEVの電力充電時間である。FCVの代表の一つであるトヨタのMIRAIの水素充填時間は約3分、走行距離は約650kmであり、EVの充電時間に比べて圧倒的に短い。課題は、水素を充填する水素ステーションの普及であるが、ITM Power社は2016年からロンドンを中心に水素ステーションを設置・展開しており、2018年3月にはShell社と共同で英Beaconsfieldに位置するShell社のガソリンステーションに水素ステーションを設置。また、2018年には新たに英国内で3か所の水素ステーションを開設予定であり、2019年以降もすでに4か所の水素ステーションが資金調達を完了している。ITM Power社を含むShell社、トヨタ、ホンダ、ヒュンダイのコンソーシアムは、英国における水素ステーション及びFCVの普及拡大のため、英・運輸省から2018年3月に880万£の助成金を得た。欧州では、EU主導の欧州燃料電池水素共同実施機構、英国政府のOffice of Low Emission Vehicles等が水素ステーションの普及を支援しており、今後英国のみではなく、フランス、ドイツでも普及拡大が計画されている。FCVはトレンドであり、今後バス、トラック、電車と大型輸送車へと展開していく。

3.EV原材料サプライチェーンにおける潜在リスクと自動車メーカー、白金への影響

(講演者:Investec Bank, Senior Analyst, Marc Elliott)

3.1.EVを取り巻く環境

EV及びPHEVの普及が現在市場で予測されている速さで拡大した場合、必要となるコバルトは既存の生産量の約3倍以上となるが、達成は非常に厳しいと見ている。

EVシフトが加速している主な理由は大気汚染への対応、脱炭素化の促進であり、特に中国でのEVプッシュが顕著である。自動車メーカーは、EVの車種を迅速に増やすことで競争性を高めようとしており、McKinsey社の調査によると、今後3年以内に約340種類のEV、PHEV車が販売されるとしている。Investec Bankでは、EV及びPHEVの普及率は、2025年に15%になると予測。上記のような市場トレンドの中、リチウム、コバルト、白金といった3つの金属が主要コモディティになると見ている。

現在のコバルトのバッテリー向け需要のうち、EV及びPHEV向けが約10%、ラップトップ及びスマートフォン向けが約35~45%となっている。これが、2025年にはEV、PHEV向けが45~50%に増加すると予測しており、コバルト需要の半分を占めるようになる。供給側はこの需要を満たすことはできず2022年にはコバルトは供給不足に陥り、その後不足幅が拡大し続けると予測する。

3.2. EV普及の妨げとなる要因

EV普及が遅れる要因として、最たるものはコバルト供給リスクが高いことである。リチウムイオン電池の正極材料としてコバルトを使用するNMC1111系が現在市場で主流となっているが、長期的にはコバルト使用率を著しく下げることのできるNMC811系のリチウムイオン電池が主流となる。また、NMC811系はニッケル使用率を上げることでエネルギー密度を高めることもできる。電池メーカーはコバルト依存を減らすために電池技術開発に取り組んでいるが、時間を要する。さらに、自動車メーカーは新たな電池技術を導入するために多くのテストを行う必要があり、こちらも時間を要する。

コバルトの主要供給国は、世界のコバルト供給量の6割を占めるDRコンゴであるが、DRコンゴのカントリーリスクは計り知れない。DRコンゴは銅供給国として1988~1992年の間、銅生産量が年間約50万tから3万tに著しく減少した。これは、マクロ要因ではなくDRコンゴの国自体の問題であり、2018年の現在は当時と状況が類似している。現在、DRコンゴでは継続する政治不確実性(退陣をしないKabila大統領)、選挙の遅延、財政不安、鉱山のロイヤルティ率引上げ、税の引き上げ、鉱山会社による鉱山省との交渉不調、更にはコバルトの違法採掘及び鉱山での児童労働といった課題が挙げられる。上記のような状況から、EV普及は順調にいかないと予測しており、従来車(ガソリン車、ディーゼル車)は今後も需要が安定して続くと見ている。

3.3. 今後の見通し

自動車メーカーにとってコバルト確保は主要課題となり、例えコバルトを確保することができたとしてもコバルト価格上昇によりEV、PHEVのコストは非常に高くなることで、従来車にとって有利になるだろう。ディーゼル車の技術開発は進んでおり、触媒を使用したクリーンディーゼル車の需要はEVのコバルト供給困難により、回復する可能性がある。しかし、ディーゼル車は政府、メディア等の風当りが強いことから、今後消費者が持つマイナスのイメージを変えていく必要があるだろう。さらに、FCVの普及も予測されるが、普及加速には政府によるインフラ開発支援が必要不可欠である。コバルト供給には様々な潜在リスクが存在するため、従来車の需要は継続し、FCVも今後拡大が期待されることから、自動車触媒を担うPGMにとってアップサイドだと見ている。

おわりに

2017年は一部の欧州政府によるディーゼル車規制強化、中国政府によるEVシフトへのプッシュにより、EV関連ニュースがメディアを湧かせ、同時にディーゼル車に対する先行き不透明さが目立った。そのような状況の中、2018年のプラチナ・ウィークでは、ディーゼル車の減少が話題の中心ではあったが、実質的なEVシフトに関して懐疑的な見方が示され、代わりにクリーンディーゼル車への期待、FCVの普及拡大が言及された。白金価格は比較的コンサバティブな見通しとなっているが、白金生産者にとって白金は主要収入源であり、PGM価格等が上昇しても経営が難しい状況であることに変わりは無い。SFA Oxfordによると、南ア白金生産者の収入源内訳は白金48%、パラジウム27%、ロジウム8%、イリジウム及びルテニウム6%となっている。2018年は南アの供給量の変化がPGM価格の鍵となる可能性がある。また、FCVに関しては、普及等に関する実質的なデータは示されず、楽観的な見通しである印象は受けたが、今後の市場動向を欧州でのクリーンディーゼル車の動向と共に注視していきたい。


1 EVに使用されるリチウムイオン電池の正極材の一つ。ニッケル‐マンガン-コバルトの三元素を1:1:1の割合で使用。

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