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報告書&レポート

2018年7月24日 メキシコ 事務所 森元英樹
18-17

AMLO次期メキシコ大統領、鉱業に何を思う

~大統領選挙とGrupo México社の拠点Sonora州のいま~

<メキシコ事務所 森元英樹 報告>

はじめに

2018年7月1日、メキシコでは、大統領、連邦両院議員選挙に加え、州知事、州議会議員、市長等の公職が選出されるメキシコ史上最大の選挙が行われ、同日20時から開票作業が開始された。史上最大のメガ選挙であるとともに、90年以上続いた2党政権から、結党4年足らずの左派政党への政権交代が取り沙汰されたことから、選挙当日は混乱が予想されたものの、選挙戦終盤の世論調査においてMORENA(国家再生運動)党Andrés Manuel López Obrador大統領候補(以下、AMLO候補)の圧倒的優勢が報じられたことから、投票活動には大きな混乱もなく終了した。この結果、AMLO候補以外の3名の大統領候補は、18時の投票終了後、早々に敗北を宣言し、全国選挙機関(INE)の第1回集計速報を受け、AMLO候補は23時過ぎに支持者を前に勝利宣言を行った。

なお、選挙戦において、AMLO候補の経済政策の発言で注目を集めたのは、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉、エネルギー改革をはじめとした構造改革であった。加えて、AMLO候補は、選挙戦終盤、鉱業についての幾つかの方針を示している。今回、AMLO候補が勝利宣言を行ったことから、現時点でのMORENAの鉱業政策について報告する。

また、当地では、選挙戦中に繰り広げられた、AMLO候補とメキシコ大手鉱山企業Grupo México社CEOとの論争がクローズアップされた。同社の方針はメキシコ鉱業に大きな影響を与えることから、同社の現状、そして同社の主力鉱山であるBuenavista鉱山が位置するSonora州の鉱業投資環境についても紹介する。なお、Grupo México社は、メキシコ、ペルーに鉱山を保有するSouthern Copper社及び鉄道をはじめとしたインフラ会社のグループ企業体であるが、今回は総称としてGrupo México社と記すこととする。

1.メキシコ連邦選挙結果とMORENAの鉱業政策

(1)メキシコ大統領選挙の概要

メキシコ大統領選挙は最も多数の票を獲得した者が当選することから、決戦投票は行われない。このため、全国選挙機関(INE)がこのまま、AMLO候補の勝利を確定した場合、2018年12月1日、同候補は、第58代メキシコ共和国大統領に就任する。なお、メキシコの大統領の任期は6年で再選は禁止されている。また、各大臣は、大統領就任式同日に就任し、メキシコ地質サービス庁(SGM)長官は、鉱業を所管する経済省の選出により大統領により任名される。

メキシコでは、2000年まで約70年間、PRI(制度的革命党)が政権を握ってきたが、2000年の大統領選挙でPAN(国民行動党)のVicente Fox Quesada氏が勝利し、政権交代を成し遂げた。続く、2006年の大統領選挙では同じくPANのFelipe de Jesús Calderón Hinojosa氏がPRD(民主革命党)から立候補したAMLO候補を僅差で破り当選した。そして、前回の選挙となる2012年は、選挙終盤戦、同じくPRDから立候補したAMLO候補の猛追をかわし、Enrique Peña Nieto現大統領が勝利し、PRIが12年振りに政権を奪還していた。このため、今回の選挙は、AMLO候補にとって3度目の大統領選挑戦となった。

表1.大統領選挙結果

表1.大統領選挙結果

出典:各政党資料等よりメキシコ事務所作成

(2)連邦議会選挙

選挙戦終盤AMLO候補の支持率拡大が報じられる中、今回の選挙の注目は、AMLO候補を推薦するMORENA、労働党(PT)、社会結集党(PES)の選挙同盟(共に歴史を作ろう)の連邦議会の上院・下院の議席が、憲法改正の議論を行える3分の2まで拡大するのか、若しくは、法案承認に必要な過半数に達するかに注目が集まった。結果は、AMLO候補を公認とする選挙同盟は3分の2の議席獲得は厳しい状況であるが、法案承認に必要な過半数は獲得する見込みである。

なお、メキシコの連邦議会は、上院128議席(任期6年)、下院500議席(任期3年)で構成されており、法案審議による両院の違いは基本的にはない。上院の主な特徴として外交審議があり、条約批准、在外公館の大使及び三軍の高官任命承認などの専管権限を有している。また、下院は、予算承認、公職にある者の刑事訴追の可否などについての専管権限を有している。上院には常設委員会及び特別委員会、下院には常設委員会が設置され、議決は多数決により承認される。

表2.各党別・連邦議会議席獲得予想(7月8日現在)

表2.各党別・連邦議会議席獲得予想(7月8日現在)

出典:各政党資料等よりメキシコ事務所作成

また、上述のとおり、7月1日には連邦選挙と同時に地方選挙も行われたが、州知事選が行われたのは、メキシコ市及び中、南部の9州である。Sonora州、Zacatecas州、Chihuahua州、Durango州といった主要鉱業州の知事選は、2015年、2016年に行われているため、今回の主要鉱業州で行われた地方選挙は州議会及び市長選挙である。

(3)Peña Nieto現政権の鉱業政策

2012年12月1日に就任したPeña Nieto大統領は、就任式の翌日の2日、連邦政府、PRI、PAN、PRDとともに、権利と自由の社会、経済成長、雇用、競争力、治安、司法、腐敗防止などの合意を示す「メキシコのための協約」への署名を行い、エネルギー、財政、教育等の11分野の構造改革を開始した。

さらに、平和、包摂、繁栄、高い教育の享受、地球規模の国家5大責任の達成に向け、国内の戦略的優先目標を設定し、その方針を示す「国家開発計画2013~2018年」を2013年5月に公布した。鉱業分野は、同計画の戦略的分野の1つに位置付けられており、経済省は、鉱業分野における投資・競争力の強化、金融支援の拡大、中小鉱山企業の開発促進、鉱業関係規制の近代化・手続きの改善を目的とした鉱業開発計画を2014年5月に公布した。

改革面では、税制改革において鉱業活動により得られた利益を鉱業活動地域に還元し、地域と調和がとれた鉱業活動を推進することを目的に、鉱業ロイヤルティ導入に関する鉱業法改正案を議会に提出した。政府、議会での審議の結果、最終的には、鉱業特別税、貴金属鉱業特別税が創設され、同時に鉱業コンセッション料金の改正、探鉱資金控除年数の短縮を含めた鉱業税制改革が2014年に実施されることとなった。

メキシコ鉱業会議所(Camimex)は、メキシコの鉱業投資額が2014年から2016年まで下落し続けた要因は、金属市況の下落の中で鉱業特別税を創設し、税制を変更させたことで、メキシコの鉱業投資環境が他の鉱業国に劣後する結果となり、競争力が失われた為と指摘している。

一方、国家開発計画の進展としては、2016年12月、経済省に鉱山次官ポストが新設され、政策決定プロセスの迅速化が図られ、2017年10月には、採取産業透明性イニシアティブ(EITI)に加盟し、手続の透明性向上、腐敗防止に向けた取り組み強化を開始した。また、鉱業特別税等の税収は、鉱業基金制度を創設し、各鉱山が位置する州及び市町村のインフラ整備に活用される体制が整備されている。一方、Peña Nieto政権中も鉱山労働者を対象とした誘拐事件、盗難事件が頻発しており、鉱山企業にとっての治安のリスクは低下していない。メキシコ全般に言えることだが、AMLO政権にとっても、治安対策は主要課題の1つとなり続けると考えられる。

(4)MORENAの鉱業政策

AMLO候補の発言の基本ラインは、同候補者の顧問等がとりまとめた「2018~2024年国家プロジェクト」に一定の方向性を見ることができる。同プロジェクトは、低調な経済成長を打ち破り、社会的不平等を増大させる政治的、経済的、社会的、教育的な問題に対する方向性を示す約500ページの政策骨子案である。経済分野では、貧困、不平等、経済成長、インフレといった問題に加え、国際競争力強化、自給率向上、所得再分配を柱としている。鉱業分野については、環境対策の項目において、社会・環境影響評価、先住民協議を厳格に行うことを目指すとし、同時に、税の未納業者がいる中で政府機関が機能していないことを指摘している。このため、関係機関の組織統合を含めた、鉱業法改正を提案している。なお、このプロジェクトに記載されている鉱業分野の内容をまとめると以下の3点に集約されると考えられる。

  • 鉱業は、世界的に輸出を目標とした大量な天然資源採掘を見境なく行っている。現在の鉱業政策はプロジェクトの開発に限界を設けていないことから、領土を破壊し、土壌、水、森林、生物多様性といった全ての天然資源の脅威となり、自然との共生や社会構造の形態を狂わせている。
  • 2014年にはコンセッション付与の可能性を拡大するため鉱業法改正が行われた。この結果、現在、国土の約3分の1に相当する地域にコンセッションが設定されている。税に関しては、一部の小規模コンセッションには税の軽減措置があり、さらに、その保有者の3分の1が未納状態にあり、国税庁(SAT)、経済省はその徴収を怠っている。
  • 鉱山会社による法律不履行や人権侵害が繰り返され、それを連邦三権(行政・立法・司法)が隠蔽している。社会面、環境面のアセスメント評価と先住民との協議を確立するための鉱業法改正を底辺から行い、組織強化を行う必要がある。さらに、この法律不履行の状況下で付与された鉱業コンセッションに対しては、異議申し立てを行うことが可能である。

また、同プロジェクトの他、AMLO候補は、中央の権力集中が腐敗や汚職に繋がるとして、連邦政府機関の分散化を公約しており、経済省の鉱業部門はChihuahua州に移転する計画こととしている。(参考:2018年6月26日付けカレント・トピックス18-14:「メキシコChihuahua州鉱業投資環境」-チワワ犬と同じ名前、そこは巨大クリスタルが眠る鉱業州-

なお、当地紙では、AMLO候補は、遊説先において、環境保全を適切に行い、公正な賃金を支払い、そして税金を納め操業している鉱業コンセッションをキャンセルする考えはない旨発言したと報じている。

(5)大統領選挙戦中のAMLO候補とGrupo México社CEOの紛争

Germán Larrea・Grupo México社CEOは、AMLO候補の経済モデルは、国に被害を与えると警鐘を鳴らし、国民は緊張感を持つべきである。エネルギー改革、教育改革を排除するAMLO候補の提案は、メキシコの発展を遅らせる。ベネズエラ、キューバのような大衆迎合主義者モデルは、MXN(メキシコペソ)下落を引き起こし、インフレに直結し、投資誘致を遅らせ、雇用が失われ、経済を下落させる。ついては、同社従業員には、大統領選挙において知的な投票を願う。」と異例のコメントを発表した。これに対し、AMLO候補は、「富裕層は政府に大きな影響を与え、実業家は腐敗した政治環境からの恩恵を享受している。このため、Germán Larrea氏は、環境の変化を望んでいない。Buenavista鉱山の硫酸銅浸出液流出事故等はGrupo México社の怠慢によるものである。ビジネスリーダーが他の党と共謀し、自分(AMLO候補)を陥れる行為である。」と非難した。(参考:2017年1月26日付けカレント・トピックス17-02:「メキシコ鉱業投資環境」―Buenavista 銅鉱山の銅浸出液流出事故から2年―

7月1日の大統領選の結果を受け、Grupo México社はCEO名でAMLO候補に対し、同候補の政策に賛同し、協力するとした広告をメキシコ主要全紙に掲載する異例の対応を取った。(参考:2018年7月9日付け ニュース・フラッシュ、「メキシコ:Grupo México社、Obrador候補に異例の祝辞を当地各紙に全面掲載」)

(6)亡命中の元鉱業組合トップの上院議員立候補

MORENA及びAMLO候補は、2006年に組合員に支払うべきCananea鉱山(現在のBuenavista鉱山)の権益売却費55百万US$を横領した疑い、及び2006年に65人の犠牲者を出したGrupo México社のPasta de Conchos鉱山爆発事故の責任追及を受け、カナダに亡命中である元メキシコ全国鉱夫・冶金・鉄鋼労働組合(SNTMMSSRM)委員長であるNapoleón Gómez Urrutia氏を上院議員候補に指名した。同指名に関しては、2018年6月、連邦調停・仲裁委員会は、横領の件は、Napoleón Gómez氏に責任の所在はなく、SNTMMSSRMが権益売却費の変換金の一部を負担することにより、同氏が上院議員候補者になることは合法と判断していることから、Napoleón Gómez氏はメキシコに帰国する可能性は高い。

当地では、鉱山労働者の処遇を巡り鉱山労働組合間の論争がある中、SNTMMSSRMの求心的存在であるNapoleón Gómez氏が亡命した後、新たな代表者をGrupo México社がSNTMMSSRM委員長と認めたことから、同社が保有するGerrero州Taxco鉱山、Zacatecas州San Martín鉱山、Sonora州Cananea鉱山ではストライキが実施され、Taxco鉱山のストライキは未だに解決に至っていない。また、San Martín鉱山は2018年3月までストライキが継続するなど、Napoleón Gómez氏の影響力は継続していると言える。このため、現在、メキシコでは、各鉱山においてどの労働組合に加盟するのかの議論、毎年発生する鉱山側と組合側との交渉決裂によるアクセス道封鎖問題等がある中で、長年、鉱山労組合の中心的役割を務めた同氏がメキシコに復帰し、政治に関与することは、鉱山側と組合側の交渉等のあり方に何らかの影響を与える可能性はあると考えられる。

なお、2007年にNapoleón Gómez・SNTMMSSRM委員長(当時)は、Grupo México社が労働組合員に対し利益分配金を支払わなかったとして同社を訴え、メキシコ連邦調停仲裁委員会(JFCA)が同分配金支払いを認める判決を下している。

2.Grupo México社が鉱業を牽引するSonora州の投資環境

(1)Sonora州について

Sonora州は、図1に示すとおり、米国AZ州、NM州に隣接するメキシコ北西部に位置する州であり、2016年の1人当たりのGDPは国内第5位の約22万MXN(約130万円)である。しかし、全国GDPに占める同州の割合は約3%と高くない。面積は、北海道の約2.2倍となる約18万km2、そこに72市町村(Municipio)が存在し、人口は約298.7万人、人口密度は17人/km2である。(参考:北海道は65人/km2

なお、Sonora州は、2015年に州知事選が行われているため、7月1日の選挙による州知事交代はない。2015年の州知事選では、PRIはNuevo León州、Querétaro州などで敗北しただけではなく、勝利したGuerrero州、Campeche州においては前回(2009年)の得票率を大きく下回るなど、地方部のPRIの勢力後退が報じられてきた。このような中、2015年のSonora州知事選において、PRIのClaudia Pavlovich Arellano現知事(以下、Arellano知事)は、前知事当選時(2009年)の得票率を4%上回る48%を獲得し、同州におけるPRI政権を維持させた。

図1.Sonora州位置図

図1.Sonora州位置図

(2)Sonora州鉱業について

鉱業はSonora州の2016年GDPの10.8%を占め、鉱山労働者は約1.7万人、これに請負を含めると労働者数は8万人まで拡大するなど、Sonora州経済を支える主力産業の1つである。生産量では、全国1位の金、銅及びモリブデンをはじめとした金属鉱物、同じく国内トップクラスのグラファイト、石炭、ウォラスストナイト、バライトといった非金属鉱物など、多種多様な鉱物に恵まれた州である。特に、銅生産量は、Grupo México社の主力鉱山であるBuenavista鉱山(写真2)が位置することから、国内銅生産の83%を同州が占め、また、モリブデンは100%、金は35%を同州が占めている。鉱業案件は、図2に示すとおり、16の金鉱山、6つの銅鉱山をはじめとした47案件に加え、銅をはじめとした3つの処理プラントが位置している。そして、Sonora州政府へのインタビューでは、図3に示すとおり、州内では200を超える対外投資プロジェクトが進展中であり、国内企業を含め、表3に示す探鉱・開発プロジェクトへの期待が示された。

図2.Sonora州主要鉱山・プロジェクト位置図

図2.Sonora州主要鉱山・プロジェクト位置図

出典:Sonora州政府資料等よりメキシコ事務所作成

  • 写真1.Mulatos鉱山(Sonora州政府提供)

    写真1.Mulatos鉱山(Sonora州政府提供)

  • 写真2.Buenavista鉱山(筆者撮影)

    写真2.Buenavista鉱山(筆者撮影)

表3.Sonora州政府の注目プロジェクト

表3.Sonora州政府の注目プロジェクト

出典:各社HP等よりメキシコ事務所作成

Sonora州は、高い鉱業ポテンシャルに加え、外務省の危険情報(2018年7月現在)においても、レベル1の「十分注意」以上の設定がなされていない治安が比較的安定している地域である。さらに、州政府も積極的な鉱業政策((4)参照)を進めていることから、図3に示すとおり、2016年末現在、メキシコ国内鉱業州トップとなる224の外資による鉱業投資プロジェクトがある。

図3.主要鉱業州別の対外鉱業投資案件数

図3.主要鉱業州別の対外鉱業投資案件数

出典:Sonora州政府資料等よりメキシコ事務所作成

写真3.Hermosillo空港(筆者撮影)

写真3.Hermosillo空港(筆者撮影)

(3)Sonora州のインフラ整備状況

Sonora州は総延長約11.8千㎞の国道及び州道、2,008kmの鉄道網、州都にあるHermosillo空港(写真3)をはじめとした5つの国際空港、Arcelor Mittal社の鉄精鉱及びGrupo México社の銅精鉱等を取り扱うGuaymas港をはじめとした7つの港を有している。現在、米国からの天然ガスを活用するため、ガスパイプライン網の整備が進んでいる。一方、広大な面積を誇る州のインフラの課題として鉱業用水確保がある。気候は、Sonora州の大半をSonora砂漠が占めることが示すとおり高温小雨の乾燥地帯であることから、年間降雨量は、西Sierra Madre地域で400~600mm、乾燥亜熱帯の湾岸沿いでは、10~200mmであり、産業・生活用水が井戸水で供給されている地域も多く、水の確保が課題となる。

(4)Sonora州の直近の鉱業投資促進政策

2018年3月、Arellano知事は、Sonora州GDPに占める鉱業の割合を説明し、鉱業の持続的開発がSonora州の発展に繋がるとし、Mario Alfonso Cantú経済省鉱業次官と鉱業競争力・協力協定に署名し、連邦政府との連携の強化を進めた。同協定の内容は、連邦政府から技術、能力強化に向けた支援、鉱業手続の合理化を目指すものである。

PRIのArellano知事は、特に、鉱業コンセッション手続きの迅速化、鉱山運営前経費(主に探鉱費)の控除の重要性を公言しており、同署名式のみならず、2018年5月に開催された全国州知事会議においても、この2つの課題について連邦への要望を行っている。しかし、7月1日の選挙においてMORENAは、大統領選だけではなく、連邦議会、州知事選でも勝利を収めていることから、PRIから立候補し選出された同知事の意見がAMLO次期政権の政策にどの程度反映されるかは不透明な状況である。

一方、Sonora州は、連邦政府との連携だけではなく、その他の連携政策も積極的に展開しており、Arellano知事が就任した2015年にはSonora州鉱業クラスター((5)参照)を設立し、産官学の枠組みを構築した。また、国内のみならず、国境を接する米国主要鉱業州であるAZ州との連携を図っており、2018年3月には「国境のない鉱山フォーラム」を開催し、メキシコ・米国の鉱業開発の可能性について両州の鉱山企業が情報交換を行った。さらに、AZ州立大学、Sonora州立大学、Sonora工業大学と連携し、航空・宇宙技術を活用した鉱業革新プロジェクトを推進している。

なお、メキシコ初のリチウム生産案件となるSonoraリチウム・プロジェクトは、国境なき鉱山フォーラムにおいても高い関心を集めており、2018年5月にはArellano知事自ら、2018年9月の建設工事開始を発表するなど同州の注目プロジェクトとなっている。

(5)Sonora州鉱業クラスター

Sonora州鉱業クラスターは、2015年9月、Grupo México社、Peñoles社、Minera Frisco社にカナダ企業等を加えた17の鉱山企業及び州当局により非営利団体として創設された。創設の目的は、鉱業全体の持続的発展と連携促進にあり、具体的には、地域のサプライヤー情報管理を通じ鉱山企業の利益を享受する鉱業バリュー・チェーンの強化にある。

組織は、図4に示すとおり、毎年上半期に開催される総会を最高機関として、会長(Presidente)、書記長(Secretario)、財務官(Tesorero)に16名の助言役(Vocales:9鉱業企業、3大学機関、全国製造業会議所、建設業メキシコ商工会議所、メキシコ鉱山・冶金・地質技師連盟及びSonora州鉱山協会の代表)を加えた運営委員会、そして、5つの作業委員会で構成されている。なお、事務局は、事務局長と5名(運営・管理、ビジネスアドバイザー、コミュニケーション、地域調整、プロジェクト調整)の職員で運営されており、会員数は、鉱山企業19社、サプライヤー企業113社、大学・研究所8機関、商工会議所等の5団体、政府1機関の146のパートナー(2018年6月現在)である。

なお、同事務局長へのインタビューでは、加盟資格は、法令遵守、納税義務等の一般的要件はあるが、その他は、Sonora州内に本社若しくは支社を保有していることが条件となる。また、サプライヤー企業の年間登録費は25,000MXN(約15万円)、鉱山企業の年間登録費は各年の売上高に応じて算出されるとの説明であった。

【Sonora州鉱業クラスター作業委員会の主な活動(2018年6月現在)】

  • 安全委員会:サプライヤー企業への安全訓練の実施、鉱山保安フォーラム等の開催
  • 持続可能性委員会:鉱山企業が行っているコミュニティ対策支援、機関紙発行
  • 技術研究開発委員会:逆循環掘削プロセス、汚染廃棄物の除去プロセス設計・開発、無煙炭特性評価プロジェクトの実施、Harvard大学、UNAM(メキシコ国立自治大学)との提携
  • サプライヤー企業・請負業者開発委員会:コンサルタント会社及びSonora州の大学により開発された認証プログラムに基づく、サプライヤー企業への認証作業(認証を希望するサプライヤー企業は、認定プログラムの訓練、試験により認証(金、銀の二段階に格付けされる。)ビジネスミーティング開催、企業紹介。
  • 人的育成委員会:学生、コミュニティ向け説明会の開催(例:小学生向け鉱山館の設置、Grupo México社が保有する展示館における鉱物ワークショップの実施等)
図4.Sonora州鉱業クラスター機構図

図4.Sonora州鉱業クラスター機構図

出典:Sonora州鉱業クラスター事務局インタビューよりメキシコ事務所作成

3.Grupo México社の状況

(1)Grupo México社の生産計画

メキシコ最大手の銅生産企業であるGrupo México社は、図5に示すとおり、2028年までの生産計画を発表している。同社銅生産の約4割を生産するBuenavista鉱山(亜鉛プロジェクトからの副産物を含む)、ペルーのToquepala鉱山、Cuajone鉱山を基盤とし、2020年にはペルーのTía Maríaプロジェクト、2021年にはEl Pilarプロジェクト、2024年にはペルーのLas Chancasプロジェクト及びEl Arcoプロジェクトの商業生産を開始させ、銅生産1.6百万t/年を戦略目標として取り組んでいる。

また、同社の2017年の亜鉛生産量は69,000tであるが、2020年にはBuenavista亜鉛プロジェクトの商業生産を開始するため亜鉛生産量は20万t/年を超える。さらにスペインのAznalcóllarプロジェクトの2022年商業生産開始後は、その量は30万t/年を超えると予想する。なお、モリブデンは2017年生産量は2万tであったが、2028年までの生産計画において最も多く生産する年は2025年の3万tである。

(2) Sonora州Empalme銅製・精錬所建設計画

Grupo México社は、基本的には自山鉱から採掘した銅鉱石は同社の製・精錬所において処理することを目標としている。しかし、(1)に示したとおり、Buenavista鉱山の拡張工事が完了し、今後も新規鉱山の操業開始が見込まれることから、同社がSonora州に保有するLa Caridad銅製・精錬所等では処理が難しくなる可能性がある。このため、同社には、2010年からGuaymas港(図2参照)に隣接するEmpalme市に銅製・精錬所を建設する計画がある。これまでは、開発プロジェクトにおける地権者との交渉、金属価格の低下により、製・精錬所の建設計画は進展してこなかったが、処理能力の問題に加え、アジアを中心とした輸出向けが好調であることから、同建設プロジェクトを再スタートさせるとの報道が当地でなされている。

図5.Grupo México社銅生産計画

図5.Grupo México社銅生産計画

出典:Grupo México社資料よりメキシコ事務所作成

おわりに

Sonora州を含むメキシコ北部の多くの州では、これまでPRIが州知事及び州議会議員の過半数を輩出してきた。しかし、今回の選挙の結果、Sonora州は北部の州で唯一のMORENAが州議会選挙で勝利した州となる。Sonora州は2015年に州知事選が行われ、PRIのArellano知事が州の政治を進めている。このため、今後、同知事と州議会との関係、そして、連邦との連携の行方については、その他の鉱業州と併せ動向を見ていきたい。

また、連邦レベルでは、AMLO候補のMORENAは、連邦議会選において、税制、環境規制、各機関法などの法改正の承認に必要な過半数の議席を獲得しており、12月1日の新政権誕生以降(連邦議会は9月1日から開会)、2018~2024年国家プロジェクトの内容を順次進めていく可能性が高く、AMLO候補の公約がどの程度実行されるのかを注目したい。なお、7月11日にAML候補はMORENAの次期連邦議会議員候補等との会合を実施し、12の改革として関連法改正案を明らかにした。その12の改革の法律改正案には、米国への移民流出抑制を目的とし、主要鉱業州が位置する北部国境地域の最低賃金引き上げ法案が盛り込まれているが、環境等の規制、鉱業ロイヤルティ改正といった鉱業に直接関連するものはなく、鉱業政策の見通しが見えない状況である。

一方、AMLO候補が指名した閣僚、及び顧問は、経済に精通している人も多く一定の安定感が期待されることから、外国投資の停滞を招く極端な政策は行わないと考えられる。しかし、2018~2024年国家プロジェクトでは、社会面、環境面のアセスメント評価と先住民との協議を確立するための鉱業法改正、関係機関の組織強化を記載していることから、これらの鉱業政策、インフラ整備の財源確保などに向けた税の動きには注視が必要であり、メキシコ事務所としては、カレント・トピックス、ニュース・フラッシュを通じて情報発信を継続していきたい。

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