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報告書&レポート

2018年7月25日 ロンドン 事務所 吉益英孝
18-18

欧州の電池リサイクルの動向

― International VDI Conference Battery Recycling参加報告 ―

<ロンドン事務所 吉益英孝 報告>

はじめに

本カンファレンスは2018年6月14~15日にミュンヘンで開催され、リサイクル業者、大学、EU政府等から全体で約200名が参加した。参加者は主に欧州企業・組織が中心で、アジアからの参加者はごく少数であった。カンファレンスのテーマは大きく6つに分かれ、EUの政策と業界の状況、各国の状況、電池製造と原材料、収集・輸送・選別の安全対策、リサイクル技術、イノベーション技術が取り上げられ、それぞれのテーマごとに各2~4名が講演を行った。本レポートでは興味深かった講演の内容をまとめた他、講演者と参加者の質疑応答、参加者との意見交換も踏まえて考察を記した。

1.EUの電池リサイクルにおける役割(EU Commission、Maria Banti氏)

EUの電子電機機器の回収・リサイクルを目的としたWEEE(Waste of Electrical and Electronic Equipment)指令は2019年までに回収率65%に達することを目標に設定しているが、2019年以後についても金属リサイクル全般について更に取り組みを強化する考えである。EU全体で廃棄物の分別回収の取り組みを進め、回収率と処理効率のアップにつなげるため、リサイクルの処理ついて注力すべくリサイクル業者が製品の情報にアクセスしやすいように情報プラットフォームを立ち上げている。REACH規制(EU化学物質規制)などの他の規制との兼ね合いから煩雑となっている手続きについても容易にできるよう改善も行う。各国のリサイクル率についてはバラつきがあるため(図1)、リサイクル率の低い国へのノウハウの共有が必要である。

電池リサイクル推進のためWEEE指令と関連して電池指令を設け、2016年の回収率の目標(ポータブルバッテリーは45%、産業用電池については100%)を設定したが、ポータブルバッテリーについては十分に改善の余地がある(図2)。多くの電話やPC等の機器が家に眠っていると見られるため正確な電池の数を把握できず、また、使用寿命に達する前に廃棄されている電池も多く効率的な回収・リサイクルシステムのためのデータが不足しており、データの収集・調査を進めていく方針だ。電池の回収率が上がれば、市場が大きくなりコストメリットが生まれる。2015年に29千tのリチウムイオン電池が廃棄されたが、その中には400千台のEV相当となる3千tのコバルトが含まれているにもかかわらず、実際にはわずか344tの回収に留まった。全体的な電池の回収・リサイクルの仕組みの改善が必要であり、公正で安定した規制づくりのため、違法な廃棄物の輸出についてはきちんと取り締まっていく必要がある。

車載用リチウムイオン電池については2020年代半ばには市場に出てくると考えており、リサイクルだけでなくリユースの取り組みも進めなければならない。再生可能エネルギー向けのエネルギー貯蔵などへのリユースのポテンシャルに期待している。誰が回収し、どのように収集を行い、誰がコストを負担するのか等、車載電池の情報収集も含めバランスのとれた制度設計を進めていく。現在、電池のリサイクルについてのスタディを行っており、近々に結果を得る予定である。新政策については環境の影響やREACH規制等のその他の規制と経済的なバランスを考慮した設計を考えており、これまで重金属のリサイクルに主眼を置いていたものをリチウムイオン電池の潮流に合わせる予定。また、Critical Raw Materialとの兼ね合いについても考慮が必要。新たな政策の実施は2020年になると考えている。

図1.WEEEのEU各国リサイクル率(2015年、欧州統計局より)

図1.WEEEのEU各国リサイクル率(2015年、欧州統計局より)

図2.電池のEU各国リサイクル率(2014~2016年、欧州統計局より)

図2.電池のEU各国リサイクル率(2014~2016年、欧州統計局より)

2.フィンランドの事例、車載電池の回収とリサイクルに関するスタディ(Not Innovated Here – Laboratory of Creative Destruction、Jarkko Vesa博士)

フィンランドの人口5.5百万人に対し、全自動車登録台数は3百万台であるが、2017年の新規自動車登録台数11千台のうち、EVは約500台、ハイブリッド車は約8,500台であり全体の約9.8%を占めている(図3、図4)。全登録台数で見れば電動車は2017年時点ではわずかに約1.2%に過ぎない。電動車については増加が予想されているものの、2018年においても約2%に留まると見ている。フィンランドでの電動車の割合はトヨタ系が多く、現状はユニットベースで6割、重量ベースでは4割をニッケル水素電池が占める。今後はリチウム系電池のシェアが伸びると予想され、2018年にはニッケル水素電池1,500tに対し2,500tのリチウムイオン電池が市場に出てくると予想している。

これら市場に出た車載電池が、2020年代から使用済みとして廃棄されるようになると予想。車載電池の寿命は12年、リチウムイオン電池が2€/kg、ニッケル水素電池0.5€/kgとして試算したところ、フィンランドにおける使用済み車載電池のリサイクルに掛かる費用はリチウムイオン電池だけでも2027年には1百万€強、2030年には5百万€強が見込まれる。国内の使用済みバッテリー数の供給は十分でなく、国内だけではリサイクル事業は成立させることは難しいと考えており、電動車の増加数にもリスクがあることから、EU各国の多くも1国単位でのリサイクル事業の成立は難しいだろうと予測される。フィンランドには電池製造に係わる資源と企業があり、リサイクルは資源確保の観点では将来的には重要性を増してくる。リサイクル事業の成立には国境を越えた仕組みの構築が欠かせない。

図3.フィンランドにおける2017年の自動車登録台数における電動車のシェア(講演資料より)

図3.フィンランドにおける2017年の自動車登録台数における電動車のシェア(講演資料より)

図4.フィンランドにおける2017年の電動車の新規登録台数(講演資料より)

図4.フィンランドにおける2017年の電動車の新規登録台数(講演資料より)

3.ドイツ地質資源調査所・鉱物資源局(DERA, German Mineral Resources Agency)のリチウムに関するRaw Material Analysis、2025年のリチウム市場における需要ドライバー(Federal Institute for Geosciences and Natural Resources、Michael Schmidt氏)

DERAでは国内産業に必要不可欠な資源について供給源の確保への支援や情報収集を行っており、2017年6月にはリチウムに関する調査を行っている。需給についての見解は以下の通り。

1)供給

2015年の世界の総リチウム生産量は33,010tであり、チリ39.7%、豪州が40.0%、アルゼンチンが10.7%のシェアとなっている。豪州、チリ、アルゼンチンなどで新規の鉱山開発プロジェクトが稼働することから、2025年までは供給は増え続けると見ている。豪州の供給シェアが最も大きくなると考えており、2025年には40~46%のシェアになると予想している。チリは15~17%、アルゼンチンは20~23.5%、カナダは7.9~8.2%とそれぞれ予想しており、ボリビアなどの新規の国も出てくるだろう。投資の動向にもよるが、短中期的には鉱石・かん水からのリチウム供給には一定の見通しが立っており、リサイクルなどの2次生産については重要性は低く、廃棄電池の供給も限定的にとどまると考えている。また、リチウムの生産方式にはまだ改善の余地があると見ており、更なる供給へのプラス要素となる潜在性がある。

2)需要

2015年の総リチウム需要は33,285tであり、37.4%が電池向け、13.4%がセラミック向け、12.0%がガラス向けとなっている。現時点ではリチウムの需要はセラミック向けと電池向けの需要が太宗を占めているが、EV化の流れに伴い電池向けの需要は大きく伸びる。DERAではリチウムの2025年の需要を電池容量の伸びの差に応じて4つのシナリオで予測している。ベースケースでは電池容量が370GWhの場合に約520千t、ハイケースでは電池容量が600GWhの場合に約800千t(年16.4%成長)まで伸びる可能性があると考えている。電池技術についてはしばらくリチウム系の電池が市場を支配し続けると見ており、電力容量当たりのリチウム使用割合も下がらないと予想している。2025年にはリチウム需要全体の最大75%は電池向けとなると考えられる。当然、需要の伸びはEVの導入の動向(特に中国の伸び)に大きく左右されるが、ドイツをはじめ欧州諸国の自動車メーカーは電動車の新モデルの投入を進めていく。リチウム価格については、プロジェクトの立ち上がりのタイミングによって左右されると考えている。

おわりに

EU全体の電気機器廃棄物リサイクルの枠組みとしてはWEEEiがあり、その中では電池は特定部材として別途のリサイクルと位置づけられている。講演で言及された通り、EUは2016年にはWEEEの各国での回収目標を市場に供給された電子機器の45%(電気機器の総回収重量もしくは年間電気機器の販売重量を基に計算)、2019年には上述の65%もしくは加盟国で生じた電気機器廃棄物の85%と設定している。2016年の目標には加盟国の約半数が未達であり、来年の目標の達成はかなり挑戦的という意見が聞かれた。電池のリサイクルについては、2006年に制定された電池指令によって2016年に回収率を45%とする目標が設定された。2016年の目標に未達の国も多く、電池リサイクル市場を大きく拡大するポテンシャルを持つEV向け電池が出てくるまでに次の目標の設定はどうするのか、EU政府としてもスタディを始めている。

EU圏においては廃棄物に近い扱いを受けるスマートフォンやノートPCでも、途上国や中国などに中古品としてリチウムイオン電池が組み込まれたまま合法的に輸出されることもあり、WEEE枠組みの中でリチウムイオン電池のEU域外への流出をどう抑制するのかは課題が多いと考えられる。EUの発表資料にはリチウムイオン電池の回収率については言及がなかったが、講演者の一人は、回収率は相当低い(10%未満)とコメントをしている。また、中古車市場にEVやPHEVが登場し、車載電池が除去されないまま輸出されれば同様の問題は生じると考えられる。

既存の電池についてはリサイクル市場への供給量がそれなりにあり、各国の法制・制度に基づいたリサイクルが行われているが、まだ市場に出てくる車載向け電池の量が少ない中でどのように産業として成立させるのか、国を越えたスキームを模索する必要もあり、同時にリサイクルを通じて電池材料を確保するという目論見も持つEUとしてはどのように回収率・リサイクル率を高める制度づくりをするのか慎重な検討が必要と思われる。さらに、高容量のエネルギーを内包する車載向け電池については輸送・解体時に発火の恐れもあり、輸送・解体の安全基準の整備も必要となってくる。

一方で、リサイクルを通じた資源の活用については、電池製造に関わる企業がアジアに比べるとまだ少なく、講演でもEU内に技術や知見が十分に蓄積されていないとの指摘もあった。欧州ではリサイクル専業企業が多く、対照的にアジアでは電池製造に関わる企業がリサイクルも手掛けていることも指摘され、サプライチェーンのつながりが強いアジア勢への対抗は非常に挑戦的なものとの認識があると見られる。会議の冒頭に司会者の独アーヘン大学Friedrich教授からもEUの電池産業全体を活性化し、アジアに追いつくためには欧州内での大きな投資が必要不可欠との認識が示されている。

電池リサイクルの対象資源としては、省コバルト化が進み、リサイクルのコストが上がるという懸念はあるものの、鉱石・精鉱の供給リスクが高いコバルトが有益であるとの認識は参加者に共通したものとなっていた。欧州電池リサイクル協会の発表によれば、車載電池からの金属回収については既存の技術の延長線上にあり、難しくはないとしながらも、コスト面・安全面の課題があるとした。リチウムのリサイクルについては、電池向け需要は堅調に伸びるとの観測ではあるが、EUのCritical Raw Materialiiにも指定されておらず、鉱山からの供給に期待感があることから、リサイクルの優先度は劣後すると見られる。


  1. 電気電子機器廃棄物指令(Directive on Waste Electrical and Electronic Equipment: WEEE)の目的は、WEEE(電気電子機器廃棄物)の発生を抑制し、再利用やリサイクルを促進して廃棄されるWEEEの量を削減すること。加盟国および生産者に電気機器の回収・リサイクルシステムの構築・費用負担を義務付けている。WEEEでは生産者責任原則を取っており、電気機器を製造した者(EUへの輸入業者も含む)が、その処理(回収、リサイクル、再利用)などのコストを負担する。生産者は独自のリサイクルスキームを構築するか、加盟国や自治体、民間企業等が構築した共同のスキームに参加することが義務付けられている。消費者は無料で回収サービスを受けることができる。
    参考URL:JETRO HP https://www.jetro.go.jp/world/qa/04J-100601.html (日本語)
    EU Commission HP http://ec.europa.eu/eurostat/web/waste/key-waste-streams/weee (英語)
    英国政府 HP https://www.gov.uk/electricalwaste-producer-supplier-responsibilities (英語)
  2. EU政府が供給量や供給先が限られる資源についてはCritical Raw Materialに指定し、原料確保のための各種の支援策を実施している。リチウムが指定されていない理由として、資源量が多いことが挙げられている。
    参考:2018年2月20日 カレント・トピックス18-05:Mines and Money London 2017参加報告
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