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報告書&レポート

2018年8月20日 金属資源技術部 特命調査役 赤堀道弘、金属資源技術部 大久保聡、バンクーバー事務所 杉崎真幸
18-20

10th Lithium Supply & Market Conference 2018 参加報告

<金属資源技術部 特命調査役 赤堀道弘 報告>
<金属資源技術部 大久保聡 報告>
<バンクーバー事務所 杉崎真幸 報告>

はじめに

Lithium Supply & Market Conferenceは、工業原料鉱物・金属関連の業界誌であるIndustrial Mineralsが主催するリチウムの需給動向、生産技術、新規プロジェクト、主要用途であるリチウムイオン電池(LiB)材料や電気自動車(EV)に関する動向を主題にした会議である。これまで、リチウム産出国であるチリやアルゼンチン、リチウム探鉱プロジェクトを抱えるカナダ、米国のラスベガス、リチウム大消費国である中国などで開催されてきた。10回目となる今回は、2018年6月26~28日にかけて、再び会場をラスベガスに移して開催された。

本稿では、今後のリチウムの需給動向を見渡す上で特に重要と思われる自動車の電動化とリチウム需要への影響について焦点を当て、併せて主だった探鉱・開発プロジェクトの動向に関する要旨を概説する。

1.会議の概要

参加者は392名(事前登録者ベース)で地域別にみると開催地の米国が143名、隣国のカナダが89名、探鉱が活発化している豪州が51名、欧州からも40名(とりわけドイツ、英国からの多数の参加が目立った)、日本から24名、中国から14名、その他では韓国、チリなどから参加があった。参加者は前回(2017年5月モントリオール開催)の341名から増加し過去最多を更新、活況を呈しており、一昨年来継続している堅調なリチウム市況を反映したものと考えられる。参加者の業種はリチウム生産者、リチウム探鉱・開発ジュニア、リチウム開発案件に出資する商社、リチウム系素材メーカー・エンドユーザー、リチウム生産に関連するエンジニアリング会社、リチウムに関心を持つ投資会社・コンサルタントなど多岐に渡った。また初めて電池メーカーとしてPanasonic社、Northvolt社からの講演があった。ブース出展も昨年より多い15展示と活況を呈していた。

会場の様子

会場の様子

合計で37件の講演・パネルディスカッションがあり、昨年の20件より大幅に増えた。発表内容は、生産技術(新規リチウム生産技術紹介、各リチウム生産技術の経済性、堆積岩からのリチウム抽出技術の進展状況、かん水からのリチウム抽出技術の過去の事例と今後の動向、リチウム開発プロジェクトが生産段階までに達する過程のレビュー、LiBリサイクル技術)6件、プロジェクト紹介11件、LiBメーカーのリチウム資源調達策・生産計画などの他、1日を割いて電池・EVセッション(9件の講演)が特設され充実していた半面、市場・需給動向、リチウムを巡る資源政策については前回ほど時間が割かれていなかった。

2.発表内容

・自動車の電動化に関する動向とリチウム需要について

<自動車の電動化に向けた政策の動き>

LMC Automotive社の発表によれば、自動車の電動化(BEV:Battery Electric Vehicle、プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)、ハイブリッド車(HEV)などの導入)を巡る主要各国・地域の現状は

  • ・中国では補助金付与資格の厳格化により電動化が停滞しつつも、2019年以降の政府主導のNEV化策(New Energy Vehicleの略称で、BEVの他、PHEV、燃料電池車(FCV)を含む電動型の自動車の総称)により電動化の促進が見込まれる。
  • ・EUではディーゼル車が減少傾向にあり、また2021年にはユーロ6に続く排ガス規制が強化される見込みで電動化が進むと考えられる。
  • ・米国ではガソリン価格が安価で、企業平均燃費基準(CAFE:Corporate Average Fuel Economy)の設定やカリフォルニア州のZEV策(Zero Emission Vehicle)といった政策があるものの、必ずしも将来の電動化を推進する方向にあるかは疑問がある。
  • ・日本の自動車メーカーはHEVを重視しつつ、今後、BEVにも並行して注力していく傾向にある。

となっている。

世界の自動車電動化率(新車販売台数に占めるHEVを含むEV販売台数の比率)は2016年の3.3%から2017年に4.1%に増加。国別では日本の27.3%以外は3~4%程度となっている。

中国政府は各自動車メーカーの生産台数のうちNEVが占める割合の下限を設定したNEV規制(2019年に10%、2020年に12%)の導入や、企業平均燃費規制(CAFC:Corporate Average Fuel Consumption)として2020年には5L/100km(約20km/L)という、先進国と同等水準までの厳格化を行う政策を推進。これらの政策が後押しし、中国は2017年のBEVの世界販売台数の65%を占めている。

現状では世界市場全般でEVの車種が乏しいこと、ガソリン価格が低水準なこと、高速充電・長距離航続の必要性を満たしていないことがEV需要を抑制している。

<リチウム・エンドユーザーの動向>

本会議開催10回目で初めてリチウム化合物のエンドユーザーである電池業界(Panasonic社、Northvolt社)からの講演があった。

Panasonic社からは同社のリチウム化合物消費量が増え続けることが示された。リチウム化合物で見ると、Tesla社向けCylindrical LiB(正極材:NCA、負極材:黒鉛)ではLiOHを採用し、それ以外に向けたPrismatic LiB(正極材:NMC、負極材:黒鉛)ではLi2CO3が採用されている。

Panasonic社としては今後、数社のリチウム生産者との長期的・戦略的関係を築き、相互利益を図る。長期的・戦略的関係で求めるものは以下の通り。

  • ・安定した品質:そのためにPanasonic社はリチウム化合物生産者が電池グレードの品質を達成することをサポートしていく。
  • ・安定した価格:リチウム化合物生産者、Panasonic社、電池部材メーカーのそれぞれが妥当な利益を享受できる価格水準に同意する。
  • ・安定した調達:パートナー(リチウム化合物生産者、電池部材メーカー)が快適な投資を可能にするため長期契約を望む。

他方、スウェーデンの新興リチウム電池メーカーであるNorthvolt社はSiemens社から2018年5月末に40億€の電池工場建設に対して10百万€相当の融資を受けた。さらに、カナダのNemaska Lithium社とリチウム化合物供給(5千t/y)につきオフテイク契約済みである。同社は正極材活物質→電極製造→電池製造→電池パック組み立てと垂直統合の事業を展開中。立地的優位性として近隣にニッケル/コバルト鉱山・製錬所、リチウム鉱床を擁すること、水力発電所による電力を使用し全製造工程での二酸化炭素排出量を抑えられることを強調していた。現在電池工場を建設中で、2019年に実証プラントより電池試作品(自動車メーカーなどOEMs向け)を生産、2020年に本格的な生産に移る。生産計画は2段階に分かれ、2024年には設計生産能力の32GWh/年に達する計画である。

<リチウム正極材の現状及び今後のリチウム系電池について>

SQM社よりLiS固体電池・レドックスフロー電池など開発中の電池も見据えた正極材の今後の戦略につき講演があった。現在用いられている一般的なLiB正極材としては①層状塩系(LiMO2)、②スピネル系(LiM2O4)、③オリビン系(LiMPO4)がある。いわゆる三元系正極材は①に当たる。オリビン系ではM=Feとなっており安価である反面、エネルギー密度が他の正極材に比べ劣るという傾向がある。SQMによれば、三元系(NMC)正極材は充電回数を重ねると破壊が進むことが克服すべき課題として残されている。今後10年間に現実的にEV向けに適用されうる正極材活物質は既知の数種の化合物に限定される。また、LiB技術は理論的限界に近付きつつある。安全性の問題として特に高Co系正極材では不純物の混入により暴走事故例がある。

LiBの代替電池技術としてより短期にはレドックスフロー電池・LiS固体電池、長期にはLi(Na)固体電池、Mg(Ca)電池などがある。しかしながら現時点ではどれも実用段階には至っていない。
Li系の代替電池には金属Li負極材の使用が不可欠となっている。
表1にLi系電池の特質をまとめる。

表1.Li系電池の特質
  長 所 短所・課題
LiB 現状最もエネルギー強度に優れている。
製造技術が確立されている。
安全性の問題(特にNiもしくはCo単独の酸化物系リチウムの正極材)
ほぼ理論的な性能の限界に達しつつある。
LiS電池 電池寿命・安全性・コストに優れている。 低温域での性能が不明
イオンを伝導するのに充分な速さを持つ固体電解質を探す必要あり。
Li固体電池 可燃性電解液を使わず安全。
ショートが起きない。
適切な固体電解質の開発など技術開発の余地が多く残されている。

次世代Li系電池に求められるのは、新規の高エネルギー密度正極材、高電圧電解質、高エネルギー密度負極材であり、例えば、正極材についてはSQMとして、三元系正極材の安全性の問題を克服した上でNMC811の核に周囲はNMC442を配置した素材を用いたものを提案している。

なお世界のリチウム需要見通しとしては、McKinsey社より、リチウム需要は2030年まで年率16~18%の増加を続け、(この増加率はEV用電池向け需要が「強気な」予測ベース)2020年に472千t、2025年に860千tの需要が見込まれる。なお、2013~2017年のリチウム需要増加は平均年率で8%弱であり、そこまでの増加率になるかは疑問である。

<新規プロジェクト概略>

今回の会議で11件の新規生産・開発中・探鉱のプロジェクトにつき紹介があった。各プロジェクトの概略を表2にまとめた。

表2.発表のあったリチウム探鉱・開発プロジェクト

表2.発表のあったリチウム探鉱・開発プロジェクト

* JOGMEC作成
 空欄は未発表である。
 Mount Marionのみ2017年発表ベース

その内、開発ステージが進んでいる主なプロジェクトの概要を以下に述べる。

(1)Pilgangoora リチウム・タンタルプロジェクト(Pilbara Minerals社、豪州)

豪州WA州Port Hedlandから南に120kmの地点に位置し、Pilbara Minerals社が100%の権益を保有する硬岩リチウム・タンタルプロジェクト。埋蔵量80.3百万t、Li2O換算品位1.27%、Ta2O5品位123ppm。本プロジェクトの開発計画はStage 1及びStage 2の2段階からなっており、既にほぼ完了しているStage 1においては41年間で品位6%のスポジュメン精鉱を年平均320千t、タンタライトを315千lb(143t)生産する計画となっている。初期設備投資(CAPEX)は284百万A$であり、2018年3月時点で既にこの内204百万A$が費やされており、2018年6月から精鉱の商業生産が開始されたところである。生産コストは副産物のタンタライトの収入を含めてスポジュメン精鉱1t当たり277US$。予定年間生産量320千tの内少なくとも110千t分については既に中国General Lithium社、Ganfeng Lithium社、Great Wall社及び韓国Posco社等とのオフテイク契約が締結済みである。

Stage 2は精鉱の生産量をさらに800千tに増産する拡張計画であり、これによりマインライフは17年、生産コストは225US$(CFR)に低減される見込み。こちらは現在最終FSを実施中であり、最終的な投資判断が下された場合には2021年までの建設完了を目指している。

図1.Pilgangooraリチウム・タンタルプロジェクト生産現場

図1.Pilgangooraリチウム・タンタルプロジェクト生産現場

(出典:Pilbara Minerals社 ウェブサイトより)

(2)Mt Marion鉱山及びKalgoorlie Lithium Refineryプロジェクト(Neometals社、豪州)

Neometals社はリチウム及びチタン・バナジウムの事業部門を持つ豪州企業であり、リチウム事業としてはWA州にMt Marionリチウム鉱山、Mt Edwardsリチウムプロジェクト等の権益を保有する他、Kalgoorlie Lithium Refineryプロジェクトとして、WA州にて水酸化リチウム製造プラントの建設を目指している。

同社が13.8%の権益を保有するMt Marionリチウム鉱山はWA州のEsperanceから北に約250km、Kalgoorlieの南西約40kmに位置する。権益の43.1%を保有するMinRes社(旧Mineral Resources社)はローカルのサービスコントラクターであり、この他に中国のGanfeng Lithium社が43.1%の権益を保有する。現在確認されている資源量は77.8百万t、Li2O換算品位1.37%(概測+予測資源量)。2017年3月から商業生産が開始されており、2018年上半期までに約300千tのスポジュメン精鉱(品位4~6%)が生産されている。Neometals社は2020年以降に生産される精鉱の12.37%分のオフテイク権を持つ。

また、Neometals社はKalgoorlie Lithium Refineryプロジェクトとして、WA州Kalgoorlie近郊でリチウム精製プラントの開発を検討している。中国に精鉱を輸出して精製する場合と比較して輸送コスト及び関税の面で優位性があると考えられ、かん水からの水酸化リチウムの平均的な製造コストである5,000US$/tに近いコストで生産できる可能性がある。現在は精製プロセス最適化のための技術試験及びFSを実施中であり、今後2019年3月までにそれらを完了、2019年9月に最終的な投資判断を行い、2021年中の操業開始を目指している。

図2.Mt Marion鉱山生産現場

図2.Mt Marion鉱山生産現場

(出典:Neometals ウェブサイトより)

(3)Rubicon and Helikonプロジェクト(Desert Lion社、ナミビア)

ナミビアErongo地方に位置する、以前操業していたペグマタイト鉱山であるHelikon及びRubicon鉱山の貯鉱、ズリ等及び新規鉱床からリチウム精鉱の生産を行うプロジェクト。粗鉱処理施設は既に稼働しており、2018年3月より貯鉱(過去生産時のズリ)からの炭酸リチウム精鉱の生産が開始されている。今後12~18か月の間に150~180千tのリチウム精鉱を生産し、中国Jiangxi Jinhui Lithium社等に販売する計画となっている(Phase 1)。また、2017年第4四半期に開始された鉱量計算は間もなく(2018年央)完了する予定であり、概ね5~7百万t、Li2O換算品位1.0%程度の資源量が見込まれる。その後、2019年末より現場の鉱石から約250千tのリチウム精鉱を生産(Phase 2)し、2020年末より炭酸リチウムの生産を開始する計画(Phase 3)となっている。

(4)Rhyolite Ridgeプロジェクト(Global Geoscience社、米国)

米UT州、Silver Peak鉱山の近傍に位置する硬岩リチウムプロジェクト。鉱区の一部はBorate Hillプロジェクトとして、JOGMECが過去に探鉱した経緯を持つ。本プロジェクトは一般的なスポジュメン鉱石と異なり、searlesite(ナトリウム-ホウ素-シリカ鉱物:NaBSi2O5(OH)2)が主要鉱物であるため比較的軟質で、また容易に酸溶解するため焙焼工程が不要である点が特長となっている。ホウ素を副産物に持つ。現在明らかにされている資源量は460百万t、平均リチウム品位1,700ppm(カットオフ1,050ppm)、平均ホウ素品位4,600ppm。これを露天掘りで採掘した後、破砕、リーチングによりリチウム及びホウ素を回収するという処理工程が想定されている。現在、リーチングに関する技術試験及びPFSを実施中であり、2018年第3四半期に完了予定。その後、2019年中に最終FS及び投資判断を行い、2021年央の生産開始を目指している。

図3.Rhyolite Ridgeプロジェクト、リチウム生産プロセス

図3.Rhyolite Ridgeプロジェクト、リチウム生産プロセス

(出典:Global GeoScience社 ウェブサイトより)

(5)Keliberプロジェクト(Keliber社、フィンランド)

フィンランドKokkolaの南東40km付近に位置するKaustinen硬岩リチウム鉱山及びその精製施設プロジェクト。2018年6月に発表された最新のFSによれば、鉱山の概測及び予測資源量は露天掘りと坑内掘り合計で7.4百万t、Li2O換算品位1.04%。13年間でスポジュメン精鉱を年平均112千t生産する計画であり、初期設備投資(CAPEX)は255百万€、生産コストはスポジュメン精鉱1t当たり4,427€と見積もられている。なお、鉱山にて生産されたスポジュメン精鉱は同社がKokkolaに建設予定のプラントで処理し、純度99.5%以上の炭酸リチウムを生産する統合的なプロセスが計画されている。現在、プロジェクトは環境審査プロセス及び資金調達中であり、早ければ2019年に建設開始、2020年初頭の生産開始を目指す。

図4.Kokkolaプロジェクト・リチウム生産プロセス

図4.Kokkolaプロジェクト・リチウム生産プロセス

(出典:Keliber社 ウェブサイトより)

(6)Pilgangooraプロジェクト(Altura Mining社、豪州)

豪WA州北東部Pilbara地域に位置する硬岩リチウムプロジェクト。前出(1)のPilbara Minerals社の同名のプロジェクトと互いに鉱区が隣接しており、さらに道路やインフラの一部を共有しているが、こちらはAltura Mining社が100%の権益を保有する別プロジェクト。現時点では対象はリチウムのみであり、Pilbara Minerals社のプロジェクトと異なりタンタル精鉱の生産は予定されていない。

確認されている埋蔵量は41.1百万t、Li2O換算品位1.05%。現在、開発の第一段階となるStage 1がほぼ完了し、施設の試運転が行われている。Stage 1においては23年間でスポジュメン精鉱を年間平均220千t生産する計画となっている。生産コストはスポジュメン精鉱1t当たり428A$と見積もられている。生産された精鉱に関してはOptimumNano社及びLionergy社が年間計200千t、5年間のオフテイク契約を行っている。Stage 2は精鉱の生産量を440千tに増産する拡張計画であり、これによりマインライフは13年、生産コストは400A$/tに低減される見込み。

おわりに

全体として昨年と同様、高水準で推移しているリチウム価格を背景に北米、南米、豪州で探鉱・開発活動が活発化していることが11件のプロジェクト紹介から見て取れた。また中国、EU、米カリフォルニア州での排ガス規制の強化により自動車の電動化が後押しされ、リチウム実需の伸びにつながっているが、ある程度自動車の電動化が進展している中国以外では欧州、米国等でのEV普及の進展度合いが今後の需要に影響を与える要因となろう。

本会議は好調なリチウム市況の中、今回で10回目の節目を迎えた。斯かる状況下、新規案件数自体は多く見られるものの、優良案件と呼べるものはわずかであり、現在リチウム開発プロジェクトに参入することは充分留意が必要と感じた。また会議では話題にならなかったが、LiB/EV用途の高まりの煽りで、ガラスや窯業添加、金属グリースなど他の用途への影響が出ていることも留意すべきである。リチウムは注視すべきコモディティである状況は変わらず、引き続き動向に注目していきたい。

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