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報告書&レポート

2018年8月24日 ジャカルタ 事務所 南博志
18-21

インドネシア鉱物資源高付加価値化政策に伴うFreeport McMoran社・Grasberg鉱山事業の行方

<ジャカルタ事務所 南博志 報告>

はじめに

米大手鉱業会社Freeport McMoRan社及びインドネシア政府は2018年7月12日、世界有数のGrasberg銅金鉱山を操業するPTFI(PT Freeport Indonesia:Freeport McMoRan社の子会社)の株式の過半数を政府(国有企業)が所有することで基本合意に達した。これにより、2009年の鉱業法改正から始まりインドネシア政府が推進してきた鉱物資源の高付加価値化政策の行方を象徴する案件として、国内のみならず世界中の関係者が注目していた交渉が、終結にかなり近づいたと言える。本稿では、この交渉の経緯、ポイント、基本合意の内容、今後の見通し等についてとりまとめ、報告する。

図1.Grasberg鉱山 露天採掘場(Google Earthより)

図1.Grasberg鉱山 露天採掘場(Google Earthより)

1.Grasberg銅金鉱山概要

Grasberg銅金鉱山は、南太平洋のニューギニア島の西半分を占めるインドネシア領Papua州Mimika県の標高2,600~4,000mの高地に位置する。

図2.Grasberg銅金鉱山位置図

図2.Grasberg銅金鉱山位置図

インドネシア最大にして、世界でも有数の銅・金鉱山である。所有企業はPT Freeport Indonesia(PTFI)。2017年の生産データは、鉱石処理量が140,400t/日、鉱石品位は銅が1.01%、金が1.15g/t、生産量(精鉱中含量)は銅が446千t/年、金が1,554千oz/年である。生産した精鉱は、同国内のGresik製錬所にて処理される他、スペイン、アジア諸国の製錬所に輸出されている。なお、同鉱山は露天採掘の深部化に伴う生産コスト上昇に対応するため、徐々に坑内採掘(複数の鉱床を順に開発)へと移行しているところである。

2.インドネシアの鉱業政策(銅に関わるもの)

インドネシア政府は2009年1月に、鉱物資源の高付加価値化について5年以内に実現することを定めた新鉱業法を施行した。その中で、(1)鉱業権については外資による投資の場合の鉱業事業契約(CoW:Contract of Work)制度を廃止し、鉱業事業許可制度に一本化。これには、原則地方政府が付与する鉱業事業許可(IUP)及び中央政府が付与する特別鉱業事業許可(IUPK;ただし国営企業等に優先付与)の2種類あり (2)既存CoWは現契約期間内有効。その後、IUPもしくはIUPKに移行。現契約期間満了2年前から切替申請可能 (3)国内での製錬・精製義務の5年以内の実施 (4)IUPKによる生産には新ロイヤルティとして10%を追加徴収 (5)外資による投資の場合は、生産開始後5年経過後に国内(国、民間企業等)への一部資本譲渡の義務化等を規定した。

その後様々な議論があったものの、5年後の高付加価値化実現期限間近の2014年1月に政府は、鉱石輸出禁止等の具体的な方策を定めた関連政省令を制定した。その中で、銅については精鉱であれば3年間に限り輸出税を課すことを条件に輸出可能と認められた。なお、ここで定められた輸出税はあまりに高税率(3年間で半年毎に段階的に25~60%)であったため、業界からの抗議・交渉の結果、約半年後には税率を下げ、銅精鉱については国内での新規製錬所建設進捗状況による税率設定(0%~7.5%)に改められた。また、国内への資本譲渡義務についても坑内採掘を行っている場合には、生産開始15年目までに30%譲渡が義務化された。

さらに銅精鉱輸出税課税条件設定期間の3年間が終了する2017年1月には、さらに5年間の条件付き(輸出税の税率設定に係る建設進捗状況区分を修正し、全体の税率を引き上げる方向で若干変更(0%~7.5%))での輸出が認められた。またそれとともに、(a)CoWからIUPもしくはIUPKへの切替申請は、期間満了2年前からとされてきたものを現契約期間内であればいつでも可能に変更 (b)外資によるインドネシア国内への資本譲渡義務比率については、生産開始以降5年目の終わりから段階的株式譲渡を行い10年目には51%以上の資本譲渡に統一等を定めた政省令が制定された。

3.Freeport McMoRan社とインドネシア政府の交渉

政府は、2009年の新鉱業法制定以来、インドネシア最大の銅金鉱山であるGrasberg鉱山に一定の配慮を示し、契約期限が2021年である既存CoWのIUPKへの移行についてPTFIの親会社であるFreeport McMoRan社と交渉を進めてきた。このような状況下で2015年には移行条件について大枠合意したことも伝えられたが、Freeport側の「新規製錬所建設及び将来の露天採掘終結から坑内採掘への完全移行には多額の投資が必要になるため、2021年以降IUPKに従い2041年まで20年間の操業保証を得たい」との要望に対し、政府は「PTFIのIUPKへの切替申請(鉱業許可期間の延長申請)は、(CoW期間満了の2年前の)2019年になってから手続きされるものである」との立場を崩さず、交渉は事実上平行線をたどっていた。そこに2017年1月の政省令制定により国内への資本譲渡義務比率が厳しいものになり、生産開始から10年超のGrasberg鉱山について規定上は即株式譲渡を行わなければならなくなったこと、また、切替申請も可能となったことから、交渉は対立を深めつつ本格的に進み始めた。

この交渉の主要なポイントと両者の主張をまとめると表1のとおりである。

表1.Freeport社とインドネシア政府 Grasberg銅鉱山に対する双方の主張
ポイント Freeport側 政府側(原則規定どおり)
鉱業契約・許可の延長
(操業保証)
2041年までの事業許可付与の確約 10年毎にIUPK更新申請が必要、まずは2031年までIUPKを付与
国内新規製錬所建設 2041年までの操業保証がない限り新規製錬所建設は不可 2022年1月までに新規製錬所建設義務あり(5年以内の新規製錬所建設義務あり)
国内への資本譲渡 30%譲渡(2015年の大枠合意で合意済) 51%以上譲渡
投資の安定性
(将来の財務見通し)
CoWと同様に税・ロイヤルティを固定化、これにより将来の見通しが可能 IUPKの枠内、税・ロイヤルティはその時点での法令に従う

交渉本格化直後は対立が激化し国際調停機関への提訴もありうるとされた時期もあったが、次第に両者に歩み寄りが見られ、2017年8月に両者は共同記者会見を行った。ここで政府は、「現在の2021年契約期限のCoWをIUPKに変更、最初の2031年までの10年間付与は即申請可能、2031年以降の2回目延長も前倒しで交渉できる可能性がある」ことを示唆した。またFreeport側は、「政府との妥協は不可欠であり、今後は政府と協力して、今後5年以内の国内新規製錬所建設及び国内への51%資本譲渡(株式売却)を実施していかなければならない」と語った。

その後交渉は、国内への51%資本譲渡(株式売却)の具体的な手法と譲渡金額に焦点があたり、これが最大のポイントであるとされてきた。そのような状況下で2017年11月には、PT Inalum(PT Indonesia Asahan Aluminium)に国営鉱業持株会社としての機能を持たせる等、着々とインドネシア側の資本譲渡受入先の整備が進められてきた。また、2019年に大統領選を控えたインドネシア・Joko Widodo大統領が、注目されている本交渉について早期解決を指示しているとの報道もあった(これを政権の成果としてアピールするためと見る向きもあり、基本合意を後押しした可能性がある)。

そして2018年7月12日、今般の基本合意が発表された。政府からの発表と同日、Freeport McMoRan社及びRio Tinto(鉱山からの生産物に対する権益40%を売却)もプレスリリースを行った。基本合意内容をまとめると表2のとおりである。

表2.2018年7月12日 基本合意内容
ポイント 合意内容
鉱業契約・許可の延長 2041年までを有効期限とするIUPKを付与
国内新規製錬所建設 5年以内に新規国内製錬所を建設
国内への資本譲渡 Rio Tintoの40%権益を株式転化し(35億US$)、Freeport McMoRan社子会社PT Indocopper Investama保有株式9.36%(3.5億US$)と合わせて、PT Inalumに総額38.5億US$で売却
その他 ・政府保有株式のうち10%を地方政府に割当
・鉱山オペレーターは引き続きFreeport McMoRan社
・Grasberg鉱山の環境問題の解決は、契約の先行条件の一つ

また、PTFI株式に係る国内への資本譲渡(株式売却)をまとめると表3のとおり。

表3.PTFI株式の資本譲渡
株主 現在 40%権益の株式転化後
(他株式は希薄化)
資本譲渡後
Freeport McMoRan 81.28% 48.76% 48.76%
Inalum 9.36% 5.62% 51.24%
Indocopper Investama 9.36% 5.62%
Rio Tinto (40%の生産物権益) 40.00%

今後は詳細交渉のステージに移り、正式な株式売買契約の締結に向かうことになる。また、合意内容の裏付けとなる政省令も制定されると考えられる。

なお、交渉中における同鉱山からの銅精鉱輸出については2017年1月政省令制定直後には中止されていたが、2017年2月に1年間の銅精鉱輸出が認可、続いて4月に6か月間の暫定IUPKが付与され、その後は継続して行われてきている。現在、輸出許可は1年間延長され2019年2月まで認可されている。また、暫定IUPKは交渉の進行状況に応じて、2017年10月に6か月間、2018年4月に3か月間、7月に1か月間、8月にも1か月間、計4回延長されて8月末まで付与されている。

4.今後の見通し

上記のとおり今後は詳細交渉のステージに移ることとなるが、この詳細交渉の見通しについてインドネシア政府内からは今後2か月以内に交渉完了との見通しが出ている一方、Freeport McMoRan社及びRio Tintoはプレスリリースで2018年下半期の間に交渉を完了するとしており、若干の温度差が感じられる。

なお、識者や専門家からは基本合意の履行に懸念を示す声も伝えられている。主なものの一つは、この基本合意には法的拘束力が無く株式売買契約が締結されるまでは決裂もありうるという見方、もう一つは、環境問題を解決できるかどうかである。この環境問題とは、政府が鉱山廃棄物(尾鉱)処理基準を強化したこと及び2018年3月に指摘された鉱山周辺環境破壊の規制違反のうち未解決な箇所へのGrasberg鉱山の対応策がどのように実行されるか、ということである。また他には、投資の安定性について交渉状況が不明であったが、2018年8月に、CoW期間満了前にIUPKへ切替えた鉱業会社に対する法人税率を25%に固定する等長期財務見通しが可能となる新しい政省令が制定されたとの最新情報があり、その詳細な内容が注目される。

以上のとおり、今後まだ解決すべき課題もあり、詳細交渉にはさらに多くの時間を要する可能性も残されていると言える。

おわりに

本件は、冒頭にも記したようにインドネシアの鉱物資源高付加価値化政策の行方の象徴として、国内のみならず世界中の関係者が注目している案件である。今後の帰結によっては、インドネシアにおける鉱物資源開発、また、周辺の東南アジアひいては世界の資源国の鉱業政策、さらには資源メジャーの動向にも大きな影響を及ぼす案件であると考える。今後も引き続き、インドネシアにおける最重要案件として注視し情報収集に努めることとしたい。

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