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報告書&レポート

2018年10月29日 ジャカルタ 事務所 南博志
18-22

Argus LiCoNi 2018 参加報告

<ジャカルタ事務所 南博志 報告>

はじめに

Argus Lithium, Cobalt and Nickel(LiCoNi)2018(2018年8月28~29日@シンガポール)は、Argus Media社が世界各国で開催している様々なコモディティの市場・投資に関するカンファレンスの一つである。本カンファレンスは昨年に引き続き行われ、リチウムイオン電池関連材料に焦点を当て、電極材料となるリチウム、コバルト、ニッケル等の需給・探鉱・リサイクル動向の他、電気自動車(EV)向け電池技術動向等、関連分野の講演を中心として開催された。本稿では、そのカンファレンスの講演の概要について、報告する。

1.カンファレンス概要

本カンファレンスは講演のみで構成され、リチウムイオン電池のサプライチェーンの様々な部門から約50名(事前登録者数)の参加者を得て、開催された。国としては、豪州、シンガポール、カナダ、中国、韓国、日本からの参加が比較的多かった。また、プレゼンターは、カナダ、中国、豪州、ロシア(Norilsk Nickel)、英国(London Metal Exchange:LME)、インド、インドネシア等から招かれていた。日本からは全部で10名弱が参加していたが、日本企業による講演は無かった。参加者の業種は、リチウム等探鉱ジュニアカンパニー、関連金属生産会社、電池関連会社、磁石関連会社、関心を持っている商社・専門商社、自動車メーカー、金属関係の情報会社・研究機関、投資会社、法律事務所等であった。昨年と比較して、実際の取引・契約のためのネットワーク作りという雰囲気は少なく、個別面談を行っている参加者も昨年より多くなかった。

講演会場

講演会場

2.講演概要

講演は1会場で2日にわたって行われ、全15件の講演があった。また、パネルディスカッションも2回行われた。昨年同様、各々の講演分野に関して概要を理解するのにわかりやすい内容のものが多かった。

講演内容については、1日目にはリチウムの探鉱、次いでリチウム、コバルト、ニッケルの需給やマーケットに関するプレゼンが行われた。2日目には午前中に電池及び関連材料に関する需給やマーケット等、次いで中国におけるリチウムイオン電池技術動向、午後にグラファイト等他の電池材料に関するプレゼンが行われた。

主要な講演について概要を記す。

(1)『Lithium’s Future : Supply, Demand and Price Projections』

<講演者:Jon Hykawy, President&Director, Stormcrow>

リチウムイオン電池は、電気自動車向け高エネルギー密度の電池としては現時点で最も優れていて安価。代替の新しい電池があったとしても、試験を経て安全が証明されるには時間を要する。リチウムは全固体電池や低コバルト電池にも必要であり、リチウムイオン電池の必要量が少なくなっても必要なことに変わりはないと言える。

リチウムの需要は、もちろん中国や他の地域の電気自動車の需要増によるところが大きい。また、セラミックスやガラス分野の需要も堅調で、粉末冶金分野の重要も急増している。世界のリチウム需要は炭酸リチウム換算で2018年の250千t強から2030年には600千tを超えると推計される。リチウムの供給は、スポジュメン鉱山の開発、精製技術開発等もあり、2018年の300千t強から2030年には750千tを超えると推計される。

リチウム需給の将来の予測として、長期間にわたる供給不足に陥ることは無いと考える。しかし、短期的な供給不足は、需要増減の不確実性や鉱山等への投資がすぐには生産へつながらないことによりありうると考える。その他には技術開発による製造コスト低減、用途分野の拡大は低価格をもたらすかもしれないが、需要は強固であると考えられ、価格は2025年頃には下落し、2030年頃にはまた上昇すると予測する。しかし、価格が高騰した2009~10年の価格水準には戻らないであろう。

(2)『Impact of the Booming Battery Industry on the Global Nickel Multiverse』

<講演者:Alex Khodov, Principal Nickel Market Analyst, Norilsk Nickel>

ニッケル需給の短期的見通しは供給不足。ニッケル需要ではインドネシア・中国のステンレス需要増及び電池分野の成長、ニッケル供給ではインドネシア・中国におけるニッケル銑鉄生産増がポイントで、インドネシア・中国両国の影響が大きい。インドネシアでは特に低品位ニッケル鉱石の中国への輸出急増、ニッケル銑鉄製錬所の増加が大きい。また、中国ステンレス大手の青山集団(Tsingshan Holding Group)のインドネシアにおけるニッケル製錬所の生産コストが低く、今後有望である。

電気自動車向けの電池需要は急速に成長する。それにつれて電池カソード材料の需要も急速に成長するが、供給リスクがあるコバルトからニッケルへの切替が行われるであろう。とはいっても、ニッケルの中では電池分野はまだ需要は小さい分野である。ニッケル銑鉄生産増加は、銑鉄のステンレス鋼向け需要だけではなく、電池材料を含む高付加価値用途の増加に影響を与えると思われる。ニッケル供給不足が予測されている中、将来のニッケル生産増に向けては、硫化鉱は生産開始までの期間が6~7年と長いこと、酸化鉱(ラテライト)はプラント建設に多額の費用が必要及び使用する多量の硫酸のプラントへの調達ができるかどうか等がボトルネックとなると思われ、価格の上昇が安定した生産に結び付くのではないかと思料。

(3)『Key to Ethically-sourced Cobalt from the DRC』

<講演者:Lance Hooper, President&COO, Cobalt Blockchain Inc.>

コバルトの価格は、2017年末から2018年初にかけて高騰、その後は下落して落ち着き、2018年8月は64,500US$/t前後。2017年のコバルト生産量は114千t、うちDRコンゴの大規模鉱業の生産が50%、小規模鉱業の生産が16%、合計で66%を占める。小規模鉱業だけで10億US$前後の市場になる。DRコンゴの生産量は2017年が80千tで、2018年は107千tと予想され、2020年には139千tまで増加し、依然として世界生産の70%近くを占めていると推測されている。コバルトの需要は、電池向けが50%、次いでスーパーアロイが17%である。電池カソード材料としての性能が良いため、今後供給不足の増加や価格の高騰が予測されている。

Cobalt Blockchain Inc.は12年間DRコンゴで輸出に携わっており、この4年間原産地等の情報開示を求められている紛争鉱物とは関わっていない。DRコンゴ南部のカッパーベルトでコバルトの取り扱いを行っており、同地域の粗水酸化コバルト工場と10年間の契約を締結済みである。紛争鉱物の情報開示については、最新のブロックチェーン技術を導入していて最適な管理を行っている。今後は、DRコンゴでの事業拡大やこれらの技術の他国や他の金属への展開を視野に入れている。

(4)『The Outlook for Battery Materials and the Rechargeable Battery Sector – EVs in the driving seat ?』

<講演者:Mark Seddon, Senior Manager, Consulting (Metals), Argus>

リチウムイオン電池カソード材料は大きく5種類。LCO(Li:7%、Co:60%、Ni他:33%)、NMC(Li:7%、Co:15%、Ni他:78%)、NCA(Li:7%、Co:6%、Ni他:87%)、LMO(Li:7%、Ni他:93%)、LFP(Li:7%、Ni他:93%)である。電池市場は、中国、日本、韓国で世界のリチウムイオン電池生産の約90%を占めている。カソード材料の生産は中国が世界の40%を占め、支配している。

世界のリチウムイオン電池の需要は、電気自動車需要増を中心に2020年には2015年の約3倍に、2025年には約5倍に伸びると予測される。カソード材料の需要は、2015年から2030年にかけて、LCO、LMO、LFPは微増、NMCは2025年まで増加でその後減少、NCAは2025年過ぎから急増、全体では2020年には2015年の2倍弱、2025年には同約2.5倍、2030年には同約4.5倍に伸びると予測される。これに基づくと電池向け需要において、リチウムでは2025年には2017年の約2倍、コバルトでは同約1.5倍、ニッケルでは同約1.25倍に伸びると予測される。

Argus社の認識において現在は、自動車産業経営者の63%はインフラの問題によりBEV(電池電気自動車)は普及しない、同78%は燃料電池が真のブレイクスルーである、同76%は内燃機関が重要である、また、同53%はディーゼルに未来は無いと信じている。さらには、59%は現在の自動車所有者の半数が2025年には自動車所有を望まなくなるであろうことに同意している。

(5)『Indian graphite in the battery raw material supply chain』

<講演者:Bharat Poddar, Managing Director, Chotanagpur Graphite Industries>

リチウムイオン電池のアノードでは通常、ナノ加工された球状黒鉛を被覆材として用いている。リチウムイオン電池の生産能力は、2018年の150GWhから2028年には1,000GWhに増加すると予想されているため、これは黒鉛需要の最大の成長要因になると見られている。なお、黒鉛のその他の需要量は5~6%/年で伸びていくだろう。アノードの黒鉛のうち60%以上に天然黒鉛が用いられており、低コストであることから、天然黒鉛の需要が大きくなる傾向が強くなっている。

天然黒鉛の生産国は中国が最大で、2017年には世界需要の70%近くを生産し、国内で世界需要の55%を消費した。2018年も中国の需要は増加しており、2019年に中国は黒鉛の純輸入国に転ずると見込まれている。よって、世界的な需要増を満たすため、世界中で供給増への取り組みがなされている。モザンビークは世界第2位の生産国で、タンザニア、マダガスカルも黒鉛資源を多く有しているが、インドは設備投資額も低く抑えられ、インフラ費・人件費も低く、低コストで生産できるためこれらの最良の選択肢となりうる。

また、インドは地理的にも中国、日本、韓国の大きなリチウムイオン電池需要を持つ国々に近く、有利に輸出することができ、なおかつ、国内でも電気自動車導入へ強力に政策を推進する計画を持っているため、これからの天然黒鉛の生産国として最も有望な国がインドである。

(6)『The LME and how it is evolving to support the EV revolution』

<講演者:Oscar Wehtje, Head of Product Development, London Metal Exchange>

LMEのプレゼンでは、LMEの歴史、コバルト地金上場の状況等について話があった後、炭酸リチウム上場の検討状況について紹介があった。上場までのスケジュール及び仕様案を以下にまとめた。

<スケジュール>

2018年3Q リチウムの上場仕様の提出を計画・情報収集
2018年10月10日 上場仕様の提出、産業界から意見を求める
2018年末~2019年初 上場仕様等のアナウンス、関連業界の準備開始
2019年下半期 リチウム上場

<仕様案>

・電池グレード炭酸リチウム(≦99.5%)及び水酸化リチウム(≦56.5%)2種。

・どちらも先物取引。

・最小ロット単位は、炭酸リチウムが100kg、水酸化リチウムが1t。

・炭酸リチウムはCIF中国及びFOB中国、水酸化リチウムはFOB南ア及びFOB豪州の価格を採用。

最後に、今年のカンファレンスで紹介されたリチウム探鉱プロジェクトは昨年よりかなり減少して1社・1件のみであった。また、黒鉛の生産・探鉱プロジェクトの紹介も1社からあった。下記にプロジェクトの概要をまとめる。

● Neo Lithium社

3Q(アルゼンチン) Li、Mg brine 昨年より資源量は増加
  2018年第4四半期にパイロットプラント操業開始、環境影響評価を予定

● Chotanagpur Graphite社

Murma(インド) 黒鉛 生産中(1990年~)
Tulbula(インド) 黒鉛 ボーリング調査の計画50%以上完了
Tamdaga(インド) 黒鉛 2019年にボーリング調査開始

おわりに

本カンファレンスは、昨年同様プレゼンテーションとパネルディスカッションのみで構成され、内容も電池向け原材料という切り口のみにフォーカスされたものであった。昨年は100名程度の参加があったが、昨年に比べて参加者減となったのは、電気自動車に係る需給の予測や今後の展開について世界中で関心が増加して関連カンファレンス等も多く開催されている等、様々にプレゼン・議論されてきていることが理由の一つではないかと思料する。また、加えて、リチウム探鉱等を行っている企業によるプロジェクトのプレゼンテーションが減り、昨年より営業・取引目的の参加者が少ないように感じられた。

ただし本テーマは、電気自動車の生産増に伴う、リチウムイオン電池関連鉱種の需要増という点では引き続き重要なテーマとなっており、世界の関心としても大いに注目を浴びるテーマとなっている。また、電池やリチウム、コバルトの将来予測に関しては、複数の電池カソード材料予測を組み合わせた予測も見られ、なかなか興味深いものであった。

また、この2日間に引き続き、2018年8月30日(木)の1日間の日程で、同じArgus社主催によるセミナー「Argus Blockchain in Metal Trading 2018」が開催されていた。内容は、金属取引へのブロックチェーン技術の適用関連であり、上記(3)のプレゼンでも触れられていたが、紛争鉱物の原産地情報開示にも使えるとのことで、内容の一部についてはまた機会があれば情報を得たい。

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