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報告書&レポート

2018年11月7日 バンクーバー 事務所 杉崎真幸
18-24

カナダ北部三準州のインフラ状況と今後の開発計画

<バンクーバー事務所 杉崎真幸 報告>

はじめに

カナダ北部に位置する三準州(ユーコン準州、ノースウェスト準州、ヌナブト準州。以下、それぞれYK準州、NT準州、NU準州)はカナダの国土の約40%を占め、金、銀、銅、亜鉛、鉛、ウラン、タングステン等の金属資源の豊富なポテンシャルを持つことが知られている。また、その広大な面積に対して人口はYK準州、NT準州、NU準州でそれぞれ35,874人、41,786人、31,906人(2016年)と極めて少なく、他に主だった産業もないことから、鉱業はいずれの準州においても最重要の産業として位置付けられている。

一方、これらの三準州では、道路や送電網といったインフラの不足が探鉱及び鉱山開発の大きな障害になっていることが指摘されている。カナダ鉱業協会などが2015年に行った調査“Levelling the Playing Field”で報告されている内容は三準州に限ったものではないが、それによれば、カナダにおいて既存インフラ網から50km以上離れたプロジェクトでは、探鉱コストが平均2.27倍、開発コストが平均2.5倍(ベースメタル鉱山の場合)、操業コストが1.3~1.6倍に増加する1。すなわち、インフラの不足により上乗せされる各種のコストが、他国や他州と比較した際の三準州の鉱山プロジェクトの価値を相対的に押し下げている。

連邦政府及び各準州政府は、こうした現状を課題と捉え、近年、北部三準州のインフラ整備のための積極的な投資政策を進めている。連邦政府の主だった予算としては、New Building Canada Fund: National Infrastructure Component(NBCF-NIC)が2014年からの10年間で4bC$2、Transport Canada’s National Trade Corridors Fund(NTCF)が2017年からの11年間で2bC$3のインフラ投資を行う予定であり、また、この他に注目すべき政策として、2018年には現政権の目玉政策の一つであったカナダインフラ銀行が設立され、今後10年間で計15bC$相当(うち、輸送インフラに5bC$)の投資が行われる計画となっている4

一部ベースメタルの需給のタイト化が予想される中、カナダの北部三準州は新たな鉱山開発の有望地の一つと目される。インフラ不足が障害となっているプロジェクトはこのエリアに多数存在すると考えられ、上記のようなインフラ開発により何らかの進展が期待できる可能性もある。

本稿では、現在進められている北部三準州のインフラ計画、特に道路造成に関する計画について概説し、その現状を報告する。

図1.1 北部三準州位置図

図1.1 北部三準州位置図

 

図1.2 北部三準州のインフラプロジェクト位置図

図1.2 北部三準州のインフラプロジェクト位置図

1.ユーコン(YK)準州

YK準州は北部三準州のうち最も西側に位置し、面積482,443km2、人口35,874人(2016年)。2017年のGDPは2,311.6mC$(予想値)5
であり、このうちの約12%を占める鉱業部門は経済成長を牽引する最大のファクターと見なされている6
。準州内では金、銀、銅、鉛、亜鉛、タングステン等のポテンシャルが確認されており、2017年には172.3mC$の探鉱費が費やされ、生産額にして300.9mC$の鉱物が生産された7
。生産高に占める鉱物の割合としては金が最も高く(約54%)、銅がそれに次ぐ(約43%)。既存鉱山としてはMinto鉱山(銅、金、銀、Capstone Mining社)、Bellekeno鉱山(銀、鉛、亜鉛、Alexco Resource社)、Wolverine鉱山(亜鉛、鉛、銅、銀、金、Yukon Zinc社)等が存在しているが、2018年4月現在いずれも採掘休止中(Minto鉱山は精鉱出荷のみ継続中)となっている。

輸送インフラに関しては、2016年にNational Aboriginal Economic Development Boardが発表した調査報告書8によれば、人口の97%が全天候型道路へのアクセスを有しており、その比率は北部三準州の中で最も高い。図2に示された通り、北部に位置するOld Crowを除く準州内のすべての主要都市は総延長約4,800kmの幹線道路(オールシーズン道路)で接続されており、また、準幹線道路(夏期期間のみ整備が行われる道路)として、NT準州Mactungタングステンプロジェクトへ至るCanol Road、及び3 Acesプロジェクト近隣を経てNT準州Cantungタングステン旧鉱山へ至るNahanni Range Road等が存在する。一方、Coffeeプロジェクト等を始め、準州内で最も盛んな探鉱活動が行われている準州南西部のWhite Gold Districtや、銀、亜鉛等のポテンシャルエリアとして知られる州北西部のKeno Hill Silver Districtについては、エリアの中途まで到達可能なアクセス道路が存在するのみで、その他大部分のエリアはヘリコプターでのアクセスを必要とする。

なお、現在精鉱を生産中のMinto鉱山については、生産された精鉱をトラックにより約400km輸送し、米AK州Skagwayの積出港から出荷している。また、過去に操業を行っていたWolverine鉱山については、精鉱をBC州Stewart港から出荷していた。このように、YK準州は太平洋と接していないことから、精鉱の出荷にはAK州Skagway、Heins、またはBC州Stewartのいずれかの港が利用されることとなる。

また、過去には鉄道も運行しており、州都WhitehorseからAK州SkagwayまでをWhite Pass and Yukon Railwayが接続していた。この鉄道はFaro旧亜鉛、鉛鉱山等の鉱石を輸送していたが、同鉱山の閉山に伴い1980年ごろに廃線となり、現在は一部の区間が観光目的で利用されているのみとなっている。

エネルギーに関しては、人口の85%をカバーするYukon Energy Gridが存在する。これは、州内3か所の水力発電所等(冬季中は凍結のため主にディーゼル及びLNG発電に代替される)で発電された電力を準州中南部に位置する主要4都市(Whitehorse、Carmacks、Dawson、Faro)に供給する電力網である。この電力網はFaro旧鉱山及びBellekeno旧鉱山に接続されていたほか、YK準州政府の支援により2007年にはMinto鉱山にも接続され、同鉱山のエネルギーコストの削減に寄与している9。また、現在環境審査中のCasinoプロジェクトが操業を開始した場合、新たに75~77MWの電力需要が見込まれるが、現状ではこれを賄う発電余力はなく、YK準州政府及び Casinoプロジェクトの保有者であるWestern Copper and Gold社は鉱山開発に伴いLNG発電プラントを新設する計画を立てている10

2017年9月、カナダ連邦政府及びYK準州政府は、YK準州の鉱業の持続可能な発展を主目的としたインフラ計画Yukon Resource Gateway Project11を発表した。この計画は2017年からの8か年で約360mC$の予算を投じ、準州内の約650kmの道路を新設あるいは改修するというものであり、以下に示すDawson RangeとNahanni Rangeの2つのエリアがその主たる対象となっている。

このプロジェクトに関しては2018年4月に連邦政府の資金拠出が確約されている。予算としてはNBCF–NICが用いられ、ここから最大247mC$が拠出される。また、YK準州政府は最大113mC$を拠出する。

2018年中に着工される予定であったが、環境評価プロセス及び先住民との契約が遅れ、本格的な作業の開始は2019年以降になる見通しであることが報道された12
。現状のタイムラインによれば、完工は2025年の予定となっている。

1.1. Dawson Rangeプロジェクト

Dawson Rangeプロジェクトは、YK準州東側に位置するDawson Cityを起点とし、その南方のカーリン型金鉱床の密集エリアとして知られるWhite Gold Districtを横断してCarmacksまでを繋ぐルートの改修及び新設である。これは、Dawson City側から順に、Goldfield Roads(枝道等含め総延長164km)、Indian River/Coffee Road(98km)、Coffee/Casino Connector、Casino Road(126km)、Freegold Road(82km)の各区間に区分される。

Goldfield RoadsはDawson City近郊のKlondike Highwayを起点とし、Stewart川まで続く複数の道路網である。現在、この道路網の大部分に当たる164km分の区間はYukon Department of Highways and Public(以下、当局)により冬季のみ利用可能な対面通行の道路(砂利道)として維持管理されている。プロジェクトではこの全区間を拡張・改修し、対面通行のオールシーズン道路として整備することが計画されている。

Indian River/Coffee Road はGoldfield Roadsの終端であるIndian RiverからCoffee金プロジェクト鉱区までの約98kmの区間であり、現在この区間には道路(砂利道)が存在するものの、当局による維持管理がされておらず、通行は可能であるが路面環境が非常に悪い状態となっている。プロジェクトではこの区間を改修し、片道通行のオールシーズン道路として整備することが計画されている。また、これまで河川が凍結する冬季のみ通行可能であったStewart川及びYukon川の渡河箇所について、艀を用いることで、季節を問わず通行可能となるようにする。

Coffee/Casino Conectorは、Goldfield Roadsの終点に当たるCoffee金プロジェクト鉱区からCasino銅・金・モリブデン・銀プロジェクト鉱区までを繋ぐ約52kmの区間で、現在この区間には車両が通行可能な道路は存在しない。プロジェクトではこの区間に片道通行のオールシーズン道路を開通させるとともに、いくつかの渡河箇所では建設重機等が通行可能な強度の橋を新設することが計画されている。なお、他の区間と異なり、この区間は初期デザイン作業中であり、ルートは仮のものとされている。

Casino RoadはCasinoプロジェクト鉱区からBig川までの約126kmの区間で、現在この区間は冬季のみ利用可能な未舗装道路が存在するが、当局による維持管理はされていない。将来的に産業道路としての需要が予想されるため、プロジェクトではこの全区間の拡張及び改修を行うとともに18の橋を新設し、対面通行のオールシーズン道路として整備することが計画されている。

Freegold RoadはCasino Roadの終点からCarmacksまでを繋ぐ約82kmの区間で、Carmacks側約62kmの区間は冬季のみ利用可能な対面通行の道路(砂利道)として当局により維持管理されており、それ以外の区間にも冬季のみ利用可能な未舗装道路が存在するが、当局の維持管理はされていない。プロジェクトではこの全区間の改修を行うとともに、4つの橋を新設し、対面通行のオールシーズン道路として整備することが計画されている。また、Carmacksの合流点において市街を迂回するバイパス道路の新設が行われる。

道路名からも明らかな通り、本インフラプロジェクトは現在環境審査プロセス中のCasino銅・金・モリブデン・銀プロジェクト(Western Copper and Gold Corp.社)及びCoffee金プロジェクトの操業を見込んだものであり、あえてこれらの鉱区を経由するようなルート設定がなされている。特にベースメタルを産するCasinoプロジェクトが受けるメリットは大きいと考えられ、Western Copper and Gold社が2013年に公表したFSでは、生産される銅精鉱を新設予定の道路を用いてトラック輸送しAK州Skagway港から出荷するフローが採用されているなど、明らかに本インフラプロジェクトの成立を前提にしたものとなっている。

また、White Gold Districtは金のポテンシャルエリアとして有名であり、YK準州政府が公開しているデータベース13によれば、新設されるルートの30km圏内には約30のプロジェクトが存在する。現状、これらのプロジェクトの多くは現地への人員及び物資の輸送にDawson Cityからのヘリコプターを利用していると考えられることから、道路造成による大幅な探鉱コスト削減が見込まれる。YK準州政府は、本インフラ開発によりメリットを受ける探鉱プロジェクト(または鉱区保有企業)として、Carmacks(銅)、Freegold Mountain(金)、Prospector Mountain(金)、Tad-Toro(金)、Sonora Gulch(金)、Idaho Creek(金)、Kinross Gold社(金)、Independence Gold社(金)、Taku Gold社(金)、Klondike Gold社(金)、Selene Holdings社(金)、Kestrel Gold社(金)、Pacific Ridge Exploration社(金)、Gold Strike社(金)、Comstock Metals社(金)、Gold Bank Mining社(金)を挙げている14

なお、Goldfield Roads周辺は漂砂金鉱床(砂金)のポテンシャルエリアとしても知られている。YK準州政府の調べによれば、Goldfield Roadsから近接するエリアに少なくとも58の操業中の漂砂鉱区(Placer Mining Claim)が存在し、そのうち22の鉱区については直接車両でのアクセスが可能になることで採掘コストの削減が見込まれている。また、10~15の休眠中鉱区も同様に車両でのアクセスが可能となることで新たに経済性を得ての操業再開が期待されている。

1.2. Nahanni Rangeプロジェクト

Nahanni Rangeプロジェクトは、Campbell Highwayを起点としてYK準州/NT準州州境に至り、旧Cantung鉱山(2015年休山)へ接続する既存の準幹線道路Nahanni Range Roadを改修するものである。全長約180kmのこの道路は現在全区間が未舗装であり、また、ルート上の橋のいくつかには重量制限があり、規定重量以上の車両の通行が禁止されている。プロジェクトではこの全区間の改修を行うとともに、新しい橋の建設を行うことが計画されている。さらに、115km地点に存在する補給及び緊急時用の滑走路の改修及び再配置が計画されている。

Nahanni Rangeの改修によりメリットを受ける鉱山プロジェクトとしては、特にSelwyn(Howards Pass)亜鉛・鉛プロジェクト(Selwyn Chihong Mining社)が挙げられる。本プロジェクトは2015年に10年間で亜鉛精鉱2,500t/日、鉛精鉱600t/日の生産を行う計画が発表されたが、後に撤回され、現在開発保留中となっている。本プロジェクトの鉱区はNahanni Rangeの終点から北東へ約80kmの地点に位置しており、Nahanni Rangeから約70kmの道路(未舗装道路)で接続されている。鉱山の開発及び操業に当たってはNahanni Range及びこの接続道路の改修を行い、対面通行の道路(全天候型道路)を整備することが必要とされている。

他に、3 Aces金プロジェクト(Golden Predetor社)の鉱区がルートに隣接している。Golden Predetor社の広報資料15では、「プロジェクトのキャンプは道路の134km地点、コアエリアは道路の139km地点に隣接しており、道路の改修は探鉱及び鉱山開発の可能性を築くために非常に重要なものである」と述べられている。これ以外に、YK準州政府はメリットを受けるであろうプロジェクトとして、Cantung鉱山(タングステン、North American Tungsten社)、Justin(金、タングステン、Aben Resources 社)、Reef(金、Precipitate Gold社)を挙げている16

 図2.Dawson Range及びNahanni Rangeルート計画図

図2.Dawson Range及びNahanni Rangeルート計画図

出典:YK準州政府公開のプロジェクト位置図に道路情報を加筆
http://www.emr.gov.yk.ca/mining/pdf/yukon-mining-exploration-projects-11×14-jan2018.pdf
http://www.emr.gov.yk.ca/mining/yukon-resource-gateway-project.html

2.ノースウェスト(NT)準州

北部三準州の中央に位置するNT準州は、面積約1,346,000km2、人口41,786人(2016年)。州都はYellowknife。2017年のGDPは3,941.4mC$で、鉱業セクターはそのうちの約31%を占める17
。準州内では亜鉛、金、タングステン、鉄鉱石、ダイヤモンド等のポテンシャルが知られており、現在もEkati鉱山、Diavik鉱山等、世界有数規模のダイヤモンド鉱山が複数操業している。金属鉱山については、2015年に休山したCantung鉱山以降、操業中のものはない。2017年の鉱物生産額は2,070mC$、探鉱投資額は81.3mC$。なお、鉱物生産額は北部三準州の中で最も高く、その99%以上をダイヤモンドが占める。

州内の輸送インフラについては、州人口の36%が全天候型道路へのアクセスを持つ。準州南部については州都Yellowknife、Hay River、Fort Smith及びその周辺集落を接続するオールシーズン道路網(Highway 1~7)が存在しており、準州外へのアクセスとしてはFort LiardからBC州へ接続するルート、Enterprise及びFort SmithからAB州へ接続するルートが存在する。また、準州中北部に至るルートについては、Mackenzie川沿いに主要幹線道路Mackenzie Highwayが整備されており、Wrigleyまで幹線道路(オールシーズン道路)が、その先Fort Good Hopeまでの482km間は道路(ウインターロード)が整備されている。しかし、そのさらに北に位置するTsligehtchic等の北極海側の集落には、YK準州側から至るルート(Highway 8)しか存在しない。YK準州境に位置するCantung旧鉱山及びその探鉱プロジェクトへのNT準州側からの道路アクセスはなく、基本的にYK準州側の道路を用いることになる。準州東部に分布するダイヤモンド鉱山については、冬季はウインターロードを利用、夏季はヘリコプターでのアクセスを必要とする。なお、過去にCantung鉱山で産したタングステン精鉱は、YK準州を経由してBC州Vancouverまで陸路で輸送、アジア向けに出荷された18

エネルギーに関しては、州内3か所の水力発電所から州都Yellowknifeを中心とする南部の8コミュニティに電力を供給するグリッドが存在し、これが人口の50%をカバーする。準州中北部に位置するコミュニティNorman WellsではLNG発電プラントが用いられ、それ以外のコミュニティでは小規模ディーゼル発電が用いられている。操業中の各ダイヤモンド鉱山ではそれぞれ専用のディーゼル発電設備が用いられている。

NT準州で進められている主なインフラプロジェクトとしては、Mackenzie Valley Highwayプロジェクト、Tlichoオールシーズン道路プロジェクト及びSlave Geological Province Corridorプロジェクトがある。

2.1. Mackenzie Valley Highwayプロジェクト

Mackenzie Valley Highwayプロジェクトはアルバータ(AB)州から続くMackenzie HighwayをWrigleyから北に進展し、Tsligehtchic等の北部海岸沿いの集落に接続する道路(全天候型道路)の造成計画である。また、狭義には2014年の計画書19で示されたWrigley-Tulita-Norman Wells間321kmのオールシーズン道路の造成計画を指す。後者に関しては現在、複数のステップからなる計画が進捗しており、2017年11月にはその一環としてInuvik-Tuktoyaktuk間を結ぶ道路(全天候型道路)が完成した。さらに、これに併せて次期計画20が発表され、それによれば、今後はNorman Wells-Canyon Creek間の14kmのアクセス道路の建設が進められるとともに、①Great Bear River Bridgeの建設、②環境審査、③Wrigley-Mount Gaudetアクセス道路造成、④Canyon Creek-Tulita間道路、⑤Tulita-the Sahtu-Dehcho boundary間道路、⑥Sahtu-Dehcho boundary-Mount Gaudet間道路の6プロジェクトが計画されているという。2018年4月には連邦政府のNTCF予算より102.5mC$、NT準州政府より37.5mC$の拠出が行われることが確定し、上述のNorman Wells-Canyon Creek間の道路造成が実現する見込みとなった。2018年8月現在、技術・環境調査が行われており、メディア報道によれば着工は2021年とされている21

本インフラプロジェクトと探鉱活動との関係については、現在のところ、Mackenzie Highway計画ルート及びその近隣地域に主だった探鉱プロジェクトは存在しておらず、顕著な影響を与えることはないと想定される。ただし、NT準州の鉱業業界団体に当たるNWT & Nunavut Chamber of Minesは「過去数十年間、この地域は石油ポテンシャルエリアとして注目されてきたために、鉛、亜鉛、鉄、銅、銀、ウラン、リチウム、コバルト、ダイヤモンド、タングステン、エメラルド等の豊富なポテンシャルを持つにも関わらず、金属鉱床探査に関しては不当に低い評価を受けてきた。石油産業の衰退により近年では再び注目を集めるようになっている」と述べており22、道路インフラの改善により今後の探鉱活動が活発化することへの期待を示している。

2.2. Tlichoオールシーズン道路プロジェクト

Tlichoオールシーズン道路プロジェクトはGreat Slave Lake北端に位置する集落Behchokoからその北東約80kmに位置する集落Whatiを結ぶ総延長は約95kmの道路(全天候型道路)の造成計画である23。これらの集落は現在ウインターロードで接続されているが、気候変動の影響に対応することなどを目的として、新たに年間を通じたアクセスが可能な全天候型道路を敷設する計画が進められている。連邦政府は2017年1月に本プロジェクトの25%(想定額37.5mC$)を支出する承認を行い、2018年4月に道路造成に係る環境審査を承認した。現在、建設業者を選定するための入札準備が進められている。

本プロジェクトはWhati集落北西約7kmに位置する現在開発準備中のNICOコバルト・金・ビスマス・銅プロジェクトに大きなメリットを与えることが予想されている。オペレーターのFortune Minerals社は本インフラプロジェクトの審査ボードメンバーにも選出されており24、2020年に予定されている鉱山操業開始までに、鉱山をNT準州内の既存道路網に接続する全天候型道路の建設完了が不可欠であると述べている25

2.3. Slave Geological Province Corridorプロジェクト

Slave Geological Province Corridorプロジェクトは、NT準州北東部、主にダイヤモンドのポテンシャルエリアとして知られるSlave Geological ProvinceをNU準州の港に接続するオールシーズン道路の造成計画である。NT準州内ではHighway 4の終端となっているTibbitt Lakeを起点として、NU準州の州境までの約413kmを結ぶ。同区間を含むTibbitt LakeからNU準州Lupin金・銀鉱山までの約550km間は現在ウインターロードで接続されており、De Beers Canada社、Diavik Diamond Mines社(Rio TintoとDominion Diamond社の合弁企業)等のダイヤモンド鉱山操業者によって維持管理されている。2017年11月に次期建設計画が発表され、それによれば2018年以降、カナダ連邦交通省の予算(NTCF)の下、① Frank Channel Bridgeの架け替え、②環境審査、③Tibbitt Lake-Lockhart Lakeアクセス道路造成、④Lockhart-Lac de Grasダイヤモンド鉱山アクセス道路造成、⑤Lac de Gras-NU州境 アクセス道路造成、という順で開発が進められる予定となっており、2018年までにルート設定等の基礎的な調査とともに、経済性評価、技術調査、及び環境影響評価プロセスが進められてきた 。しかし、2018年4月のNT準州政府の発表によれば、連邦政府は本プロジェクトを否決し、NTCF予算の拠出を行わない方針を示した27。この決定に対して、準州政府は2018年末までに将来の資金調達の可能性を明らかにするために連邦政府に対してプロジェクトの再提案を行うとしている。

図3.Mackenzie Valley Highwayプロジェクト全体計画

図3.Mackenzie Valley Highwayプロジェクト全体計画

(茶色実線:2014年計画ルート、茶色点線:2009年提案全体計画。NT準州道路図に加筆)
出典:https://www.inf.gov.nt.ca/en/services/highways-and-ferries

図4.Tlichoオールシーズン道路プロジェクトルート計画図

図4.Tlichoオールシーズン道路プロジェクトルート計画図

(図3中の緑の四角で囲った部分の拡大図)

出典:Proposed Tlicho All-season Road : Project Description Report
http://registry.mvlwb.ca/Documents/W2016E0004/W2016E0004%20-%20TASR%20-%20Project%20Description%20Report%202016%20-%20Mar%2031_16.pdf

図5.Slave Geological Province Corridorプロジェクトルート計画図

図5.Slave Geological Province Corridorプロジェクトルート計画図

出典:Slave Geological Province Access Corridor
https://www.inf.gov.nt.ca/sites/inf/files/resources/sgp_one_pager_englishjuly19_.pdf

3.ヌナブト(NU)準州

北部三準州の最東部に位置するNU準州は、面積2,038,722km2、人口31,906人(2016年)。州都はIqaluit。2016年のGDPは2,039.6mC$であり、このうち鉱業部門は377.8mC$(18.5%)を占め、準州内最大の産業となっている28。北極諸島を含む広大な土地には金、ダイヤモンド、銅、鉛・亜鉛、鉄鉱石、ウラン等のポテンシャルが確認されている。操業中の金属鉱山としては、Hope Bay金鉱山(TMAC Resources社)、Meadowbank金鉱山(Agnico Eagle Mines社)、Mary River鉄鉱石鉱山(Baffinland Iron Mines社)が存在する。また、Meliadine金鉱山(Agnico Eagle Mines社)が開発中である。2017年の探鉱投資額は81.3mC$、鉱物生産額は844mC$(うち、金が約70%、鉄鉱石が約30%)となっている。

州内の輸送インフラについては、主要都市Iqualuit、Arviat、Rankin Inletを含むすべての集落は道路や鉄道による相互及び外部からのアクセス経路をもたず、主に航空機でのアクセスを必要とする。操業中の鉱山に関しては、Hope Bay鉱山及びMeadowbank鉱山はそれぞれ専用の飛行場を、Mary River鉱山は鉱石の搬出のために専用の鉄道及び港を保有している。

エネルギーに関しては、準州内に各々独立して存在する26か所の小規模ディーゼル発電施設により全量を賄っており、これらとは別に上記操業中鉱山もそれぞれ独自の発電設備を持つ。発電燃料となる石油燃料は全て準州外から空輸されており、これに伴うエネルギーコストの高さが同準州の課題と位置付けられている。近年では一部をバイオマスや太陽光発電に置き換える試みがなされている29

3.1. Grays Bay Road and Portプロジェクト

NU準州で検討が進められている主なインフラプロジェクトとしてはGrays Bay Road and Portプロジェクトがある。これはNT準州が計画中のSlave Geological Province CorridorプロジェクトのNU準州側延長に当たり、NT準州州境であるTibbitt-Contwoytoウインターロードの終点から、Grays Bay港までを結ぶ全長227kmのオールシーズン道路を新規造成する計画である。NU準州とNT準州を接続する初の道路となると同時に、カナダの陸送網を北極海の深水港に接続する唯一のプロジェクトでもある。計画ルートはダイヤモンド等のポテンシャルエリアとして知られるSlave地域を縦断している。

しかしながら、メディア報道等によれば、2018年4月に連邦政府はNU準州政府より提案された本プロジェクトを否決、プロジェクト資金の4分の3に当たる527mC$の拠出を行わない方針を示した30。これに伴い、残り4分の1を負担する計画であったNU準州政府もプロジェクトから撤退し、プロジェクトの実現は不透明な状況となっている。

図6.Grays Bay Road and Portプロジェクトルート計画図

図6.Grays Bay Road and Portプロジェクトルート計画図

出典:The Grays Bay Road and Port Project
https://www.gov.nu.ca/sites/default/files/grays_bay_port_pamphlet_english.pdf

おわりに

今回紹介した北部三準州の6つのインフラプロジェクトはいずれも地方コミュニティのインフラ改善を主目的に掲げているが、長期的な開発計画の下に行われているNT準州Mackenzie Valley Highwayプロジェクトを除けば、それらのルート計画及び建設スケジュールからは明らかに特定の探鉱プロジェクトを支援する意図を読み取ることができる。具体的には、YK準州Dawson RangeプロジェクトはCasino銅・金・モリブデン・銀プロジェクトを、Nahanni RangeプロジェクトはSelwyn亜鉛・鉛・銀プロジェクトを、NU準州Tlichoオールシーズン道路プロジェクトはNICOコバルト・金・ビスマス・銅プロジェクトを、Slave Geological Province Corridorプロジェクト及びNU準州Grays Bay Road and PortプロジェクトはSlave 地域のダイヤモンドプロジェクトをそれぞれ支援していることが伺える。

これらのうち、Slave Geological Province Corridor及びGrays Bay Road and Portは連邦政府により否決されており、実現が見込まれるのはDawson Range、Nahanni Range及びTlichoオールシーズン道路の3つとなる。そして、これらの対象となっている探鉱プロジェクトにはいくつかの共通項が存在する。

第一に、対象となっているのはほぼ開発準備ステージのプロジェクトである。これらのプロジェクトはいずれも環境影響評価が完了しているか、今後1~3年以内の完了が予想されており、道路整備から間を置かずに鉱山開発を進められるようなスケジュールとなっている。これは裏を返せば、「探鉱プロジェクトが政府のインフラ開発支援を受けられるのは開発準備ステージに入ってから」であるということもできよう。例として、RAU金・銅プロジェクト(ATAC Resources社)等の、有望であるが開発準備ステージまで進んでいない探鉱プロジェクトが点在するYK準州北部Keno Hill District東部は、上記同様にインフラ開発が強く望まれているエリアであるが、ここへと至る道路の開発計画は現在のところ存在しない。

第二に、対象となっているのは基本的にベースメタルのプロジェクトである。精鉱の出荷のために道路が不可欠であるベースメタルプロジェクトは、ダイヤモンドや金と比較してインフラ開発に係るコストが大きく、また鉱山化した場合に地域経済に与える影響も大きいため、それらに優先されている可能性がある。

第三に、対象となっている探鉱プロジェクトを所有する会社は、これらのインフラ開発に関連して開発費の相応部分を負担する計画を持っている。例えば、Casinoプロジェクトを有するWestern Copper & Gold社は、鉱山開発に必要な道路造成に係る自社負担比率が約30%であることを述べている31。同様に、Selwynプロジェクトを有するSelwyn社は、総距離約250kmの道路のうち70km分(総距離の約28%)を自社負担で整備する必要がある。NICOプロジェクトを有するFortune Minerals社は、計画されている95km(Tlichoオールシーズン道路プロジェクト)とは別にWhati集落から鉱山までの49km(総距離の約34%)の道路を整備する必要がある32。これらの負担割合が共通して約3割である点は興味深い。

いずれにしても、対象を開発準備ステージまで進んだベースメタルプロジェクトに限れば、昨今の政府はインフラ支援政策はそれらを例外なく支援しており、厳しいとされていた三準州のベースメタル鉱山開発を強く後押しする姿勢が見受けられる。また、先述したカナダインフラ銀行の投資予算等、対応する財源は近年ますます増加していることから、今後もこの方針が維持される可能性は高いと考えられる。こうした政府のインフラ支援策が、近年冷え込んでいる鉱業投資を呼び戻す呼び水となることが期待される。


  1. http://mining.ca/documents/levelling-playing-field
  2. https://www.infrastructure.gc.ca/plan/nbcf-nfcc-eng.html
  3. http://www.tc.gc.ca/en/programs-policies/programs/national-trade-corridors-fund.html
  4. http://www.tc.gc.ca/en/programs-policies/programs/national-trade-corridors-fund.html
  5. YK政府2017年統計報告より。http://www.eco.gov.yk.ca/stats/pdf/2017_Annual_Stats_Review.pdf
  6. YK政府2017年経済予想より。http://www.finance.gov.yk.ca/pdf/201718Economic_outlook.pdf
  7. 連邦政府統計より。いずれも速報値。NT準州、NU準州についても同じ出典に基づく。
    https://www.nrcan.gc.ca/mining-materials/statistics/8848
  8. Recommendations on Northern Infrastructure to Support Economic Development。YK準州のエネルギーグリッド人口カバー率、NT準州及びNU準州の道路・エネルギーグリッド人口カバー率も同出典に基づく。
    http://naedb-cndea.com/reports/recommendations-on-northern-infrastructure.pdf
  9. http://www.emr.gov.yk.ca/mining/minto.html
  10. https://www.cbc.ca/news/canada/north/yukon-lng-use-casino-mine-1.4007287
  11. http://www.emr.gov.yk.ca/mining/pdf/Yukon-Resource-Gateway-Project-Application.pdf
  12. https://www.yukon-news.com/news/no-resource-gateway-construction-work-this-season-yg-says/
  13. http://www.emr.gov.yk.ca/mining/mapsdatapubs.html
  14. Yukon Resource Gateway Project提案書内の記述に基づく(出典11)
  15. https://globenewswire.com/news-release/2017/09/05/1107817/0/en/Golden-Predator-s-3-Aces-Project-to-Benefit-from-360-Million-Yukon-Resource-Gateway-Project.html
  16. Yukon Resource Gateway Project提案書内の記述に基づく(出典11)
  17. NT準州統計省資料https://www.statsnwt.ca/economy/gdp/
  18. https://www.yukon-news.com/business/cantung-mine-to-reopen/
  19. http://reviewboard.ca/upload/project_document/EA1213-02_Revised_project_description_.PDF
  20. https://www.inf.gov.nt.ca/sites/inf/files/resources/mvh_one_pager_englishjuly16.pdf
  21. https://cabinradio.ca/7561/news/economy/nwts-mackenzie-valley-highway-gets-100m-in-federal-funding/
  22. http://www.miningnorth.com/chamber-news/101652
  23. http://www.dot.gov.nt.ca/Projects/Future-transportation-corridors/Tlicho
  24. http://registry.mvlwb.ca/Documents/W2016E0004/W2016E0004%20-%20TASR%20-%20Project%20Description%20Report%202016%20-%20Mar%2031_16.pdf
  25. 2017年Fotune Minerals社ニュースリリース。
    https://www.fortuneminerals.com/news/press-releases/press-release-details/2017/Fortune-Minerals-Reports-All-Season-Road-Milestone/default.aspx
  26. http://www.dot.gov.nt.ca/Projects/Future-transportation-corridors/Slave-Geological-Province-Access-Corridor
  27. https://www.inf.gov.nt.ca/en/slave-geological-province-access-corridor-project
  28. NU準州政府統計 http://www.stats.gov.nu.ca/en/Economic%20investment.aspx
  29. https://www.neb-one.gc.ca/nrg/ntgrtd/mrkt/nrgsstmprfls/nu-eng.html
  30. https://www.arctictoday.com/ottawa-denies-funding-nunavut-government-pulls-grays-bay-road-port-project/
  31. http://www.canadianminingjournal.com/features/yukon-weighs-large-scale-mining-casino-proposal/
  32. https://www.newswire.ca/news-releases/fortune-minerals-reports-tlicho-all-season-road-approval-678734803.html
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