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報告書&レポート

2018年11月20日 金属企画部 企画課長 小嶋吉広
18-26

鉱業投資に係る安定化条項

<金属企画部企画課長 小嶋吉広 報告>

はじめに

本稿では、税制の中でも特に税に係る安定化条項を取り上げて予察的な考察を行う。安定化条項は、資源開発プロジェクトに適用される租税公課(ロイヤルティ含む場合もあり)の率や計算方法を操業開始時(又は開発契約の締結時)に固定する機能を持ち、先進国の鉱業法制には見られない一方、途上国の鉱業法制には一般的に見られる制度である。

安定化条項は、投資決定の段階において、予見不可能なリスクを可能な限り排除したいとする投資家のニーズを踏まえたものであり、鉱山開発のようにプロジェクトの操業期間が10年を超えるものが一般的な事業において、税制等の条件を操業開始時のものに固定し、鉱業分野への外資受け入れ促進を図るための制度である。

安定化条項の内容(期間や対象)は、基本的に資源保有途上国の裁量で決定できるが、あまりに鉱業を優遇しすぎると鉱業以外の他のセクターとのバランスを失し、セクター間のバランスの取れた経済成長を阻害してしまうおそれがある。また、税務当局の立場で見ると、安定化措置を過度に広く適用してしまうことは、その時々の一般適用税率の例外を多数作ることとなり、税負担の公平性や税制の機動的な運用を阻害することにも繋がる。このため、安定化措置の決定と運用については途上国政府にとって相応の行政能力を必要とする。

以下、主要鉱業国での鉱業投資に係る安定化条項について見てみる。

1.インドネシア

インドネシアでは2009年に改正された鉱業法(新鉱業法)に基づき、各種施行規則の整備を経て2014年より未加工鉱石の輸出禁止等の措置が取られている。新鉱業法が制定される前は、1967年に制定された鉱業法(旧鉱業法)が基本法であり、旧鉱業法に基づくCoW(Contract of Work、鉱業事業契約)制度が歴史的にはインドネシア鉱業の基礎をなしていた。ここ数年、Grasberg鉱山の資本現地化に係るインドネシア政府とFreeport McMoRan社(以下、「FCX」という。)との協議が行われ、2018年7月にようやく大枠合意に辿り着いたが、CoWに規定される安定化措置が論点の一つとなっていたことから、以下、Grasberg鉱山に係る安定化措置を例に考察を行うi

Grasberg鉱床は1972年から1989年まで採掘されたErtsberg鉱床の近傍で1988年に発見された。現在、FCXは間接持分も含めて90.64%の権益を所有している。鉱床は露天掘り対象のGrasberg Open Pitと坑内掘り対象のDOZ、DMLZ、Grasberg Block Cave、Big Gossan、Kucing Liarなどの鉱体で構成されている。Grasberg Open Pitは1990年に生産を開始したが、現在は低品位部に移行してきており、生産量は減少傾向にある。これを補うべく、当初は2018年より坑内掘りの開始が予定されていたが、上述のFCXとインドネシア政府との協議に時間を要したため、操業開始が2020年頃に後ろ倒しとなった。このため、坑内掘りの生産が立ち上がるまで生産量減少が継続する見通しとなっているii

Grasberg鉱山に係るCoWは1991年に締結され、期間は2021年までの30年間となっている1。CoWでは税制安定化条項が盛り込まれ、CoW締結時に、契約期間中の法人税率を固定制にするか変動制にするか選択が可能であった。FCXは税制の安定性を優先し、法人税率を35%の固定制で選択していた。ロイヤルティについてもCoW規定の料率にて契約期間中固定されている。更に、CoWにて限定列挙されている以外に新たな税・ロイヤルティが課されないことも保証されている点が特徴である。

2017年1月、インドネシア政府は政省令を改正し、CoWから新鉱業法に基づくIUPK(特別鉱業事業許可)への切り替えをFCXに対し要請した。しかしながらFCXは、従前より現行のCoWの有効期間は30年間であり、2021年までは有効であることを根拠に、IUPKへの切り替えに反対をしていた。IUPKに切り替えた場合、法人税やロイヤルティはその時々の一般税率・料率に服することとなり、また、政策により新たな税・ロイヤルティを課されることにもなり、不確実性が増加する。なお、法人税については現行の一般税率が25%であることから税率としては低くなるが、IUPKでは「Production Fee」として純益の10%を納付することが義務付けられている。このため、固定税率による安定性のメリットを失った上に、実質賦課税率が35%と変わらないため、IUPKへの切り替えの意義が見い出せないというのがFCXの主張である。

2017年1月の政省令改正では、外資系鉱山会社に対する現地への資本移転義務についても見直しがなされた。従前政令(2014年第77号)においては、鉱業事業主のカテゴリー別に現地への資本移転義務比率は「30%以上」「40%以上」「51%以上」の3段階に分かれていた。しかし今回の政令2017年第1号において「生産開始5年を経過した時点から5年間に最大51%まで」に統一することが定められた。Grasberg鉱山については、それまでのインドネシア政府との協議により、既に譲渡済みの権益9.36%に加えてさらに10.64%を譲渡し、現地資本比率を20%まで引き上げ、5年以内にはさらにこれを30%まで進めるとの取り決めであった(2014年の両者間覚書)。インドネシア政府が要請するIUPKに切り替えた場合、例外なく生産開始後5年以内に51%まで現地資本化を進めなければならないため、FCXはこれに反発した。

2018年7月の大枠合意では、FCXはCoWからIUPKへの切り替えを承諾する一方、IUPKの期限を2041年まで引き延ばし、2041年までのプロジェクトの法的・経済的安定性を実質的に担保した。また、現地への資本移転義務に関しては、インドネシア国営鉱山会社(Inalum)が2022年以降にGrasberg鉱山の権益51.2%を取得することで合意された。

2.DRコンゴ(コンゴ民主共和国)

DRコンゴでは、2018年5月に鉱業法が改正され(以下、「2018年鉱業法」という)、安定化期間の縮減がなされたことから、その経緯と内容について以下述べる。

改正前のDRコンゴの鉱業法(以下、「2002年鉱業法」という。)は、2002年に世界銀行のアドバイスの下で監修され、国営鉱山会社Gecaminesとの合弁事業(JV)を通じた外資の積極的受け入れを特徴とするものであった。2002年鉱業法により鉱業投資受け入れの法的基盤が整備されたことで、2004年以降、銅生産量は徐々に回復し、特に2007年以降はTenke Fungurume鉱山やKamoto鉱山等の大規模鉱山の生産拡大に牽引され、生産量は急速に拡大した。2017年の銅生産量は1,095千tと、世界第5位となっている。

図1.DRコンゴの銅鉱山生産量と銅価格推移

図1.DRコンゴの銅鉱山生産量と銅価格推移

DRコンゴ政府は資源価格がまだ比較的高く、資源ナショナリズムの機運が残る2012年頃から鉱業法見直しを検討し始め、政府による鉱業への関与を強める方向に動き始めた。鉱業法見直しは、議会や外資系資源企業との調整に時間を要し、約5年の歳月を経て、最終的に2018年5月に大統領の署名により改正鉱業法は発効となった。

2018年鉱業法では、鉱業プロジェクトの政府持ち分の引き上げ(5%→10%)やロイヤルティ引き上げ(非鉄金属・ベースメタルについては2%→3.5%、ただし、戦略的鉱物に指定されると10%)等、鉱業への政府の関与を増大させ、投資環境の阻害に繋がる改正がなされた。

安定化措置については、2002年鉱業法では全ての鉱業権について10年間で保証が付与されていたが、2018年鉱業法では、この安定化期間が5年に縮減された。2018年鉱業法の規定によれば、この安定化期間縮減措置は、今後新たに発効される鉱業権のみならず、既存の鉱業権にも適用されるとしている。さらに、2002年鉱業法では鉱業権に伴う全ての権利について10年間の保証が認められていたが、2018年鉱業法では既存の鉱業権のうち税、通関及び為替についてのみ引き続き5年間は有効としている。

このため例えば、2017年に鉱業権を取得した者は2002年鉱業法の下では、2027年までの10年間の安定化期間が認められていたが、2018年鉱業法により安定化期間は縮減される形となる。さらに、保障の範囲についても税、通関及び為替に限定されることとなるため、法の一般原則である「不利益不遡及の原則」に反すると鉱業界は反発している。実際の適用についてはケースバイケースになると法律事務所等の関係者は見ており、DRコンゴ政府による恣意的な運用の余地を残すこととなった。

3.ザンビア

安定化条項は隣国ザンビアの鉱業法制でも見られる。ザンビアの場合、安定化条項について鉱業法(The Mines and Minerals Act)での直接的な記載はなく、鉱業法に基づき鉱山会社と政府で締結する開発契約(Development Agreement)に規定されるのが一般的である。ザンビアの主要銅鉱山であるKonkola鉱山(以下、「KCM」という)の開発契約を例に以下述べる。

KCMは1957年に操業を開始し、70年代に当時の資源ナショナリズムの流れを受け、ザンビア国営鉱山会社(ZCCM)により国営化された。80年代から90年代にかけて生産は低迷し、2000年にザンビア経済の民営化の一環で売却され、操業者はAnglo Americanへ移った(民営化後の権益比率はAnglo American 65%、ZCCM-IH 20%、IFC 7.5%、英連邦開発公社 7.5%)。銅価低迷によりAnglo Americanは2002年に売却を発表し、2004年にVedantaが取得した(現在の権益比率はVedanta 79.42%、ZCCM-IH 20.58%)。

KCMの開発契約は2004年にVedantaとザンビア政府の間で締結された。開発契約で規定されている安定化期間は2004年~2009年末までの5年間であり2、安定化期間中は、以下の措置を行うことが出来ないとされている(開発契約第15項「TAXATION STABILITY」参照)。

・KCMに課されるいかなる租税(直接、間接を問わず)の税率や税の算出方法(減価償却の償却率や償却方法等)の変更

・ロイヤルティ料率の変更

・付加価値税(VAT)の税率引き上げや損失の繰り越しに制限をかける等のKCMの税負担増加に繋がる変更

・新税の追加

・KCMとその株主が、KCMの資本、元金、配当、利子、利益を海外送金する際の源泉所得税の税率引き上げ

4.ペルー

ペルーの鉱業法制では、投資規模によって安定化期間が異なる点が特徴である。投資金額と安定化期間の対応については表1を参照。

表1.ペルーにおける安定化期間

表1.ペルーにおける安定化期間

2011年の鉱業ロイヤルティ法の改正によって、安定化契約を有する企業には鉱業特別賦課金(GEM)が営業利益に対し課せられることとなったiii。税率は営業利益率によって異なり、4%~13%の間で決まるiv。この鉱業特別賦課金制度は、安定化措置の便益を享受する企業に対し、その対価を要求する点で途上国とは異なる制度であり、鉱業先進国であるペルーの一面を垣間見ることが出来る。

5.モンゴル

5.1 2013年投資法

モンゴルは2013年、それまでの外国投資法(1993年制定)に代わる投資法を制定した。2013年に制定された投資法は内外投資無差別を原則としている点が特徴であり、投資家は安定化証明書の付与を以て、以下4種の税の安定化を図ることができる。

・法人所得税

・関税

・新税の追加

・付加価値税

安定化期間は地域及び投資金額によって異なり、例えば、国内最大の銅鉱山であるOyu Tolgoi鉱山の立地する中部のUmunu Gobi県では、US$40m以上の投資をすれば15年間の安定化措置を得ることができる。

表2.モンゴル投資法(2013年制定)における安定化期間

表2.モンゴル投資法(2013年制定)における安定化期間

5.2 Oyu Tolgoi鉱山のケース

Oyu Tolgoi鉱山の権益はTurquoise Hill社が66%、モンゴル政府が34%を保有している。Turquoise Hill社の権益50.79%をRio Tintoが保有しており、残りは機関投資家(SailingStone Capital Partners LLC、Pentwater Capital Management LP, Temasek Holding Ltd.等)が保有している。

図2.モンゴルの銅鉱山生産量と銅価格推移

図2.モンゴルの銅鉱山生産量と銅価格推移

2009年にIvanhoe Mines社とRio Tinto、モンゴル政府との間で締結された投資協定は、現行の投資法(2013年制定)ではなく前身の外国投資法(1993年制定)に基づいたものであった。このため、投資協定で規定された安定化期間は30年間と、現行法で認められる最長期間(15年間)を大きく上回るものであり、また保証の対象も現行の法人所得税、関税、付加価値税、鉱物資源ロイヤルティに加え源泉税(利子、配当、ロイヤルティに賦課)も含まれている点が特徴である。

また、露天採掘プロジェクト(Phase 1プロジェクト)開発に要するモンゴル政府の負担分(権益34%相当額の67億US$~79億US$)について、モンゴル政府はTurquoise Hill社より借入を行っていたが、投資協定ではこの借入金利がLIBOR+6.5%と比較的高く設定されていた。これがモンゴル政府の財政悪化を招いたと一部NGOより批判がなされていたがv、2018年10月に借入金利引き下げが合意された。

おわりに

本稿で取り上げた国々の安定化措置の期間を比較すると以下のようになる(表3参照)。

表3.主要国の安定化措置年限

表3.主要国の安定化措置年限

国やその成長段階、経済における鉱業の位置づけ、また根拠法/開発契約の時期の違い等により安定化措置の年限は5~30年に及んでいる。これらの国の内、インドネシアとモンゴルは、30年の安定化措置を認めていた点で特徴的である。インドネシアの場合、CoWの根拠となる旧鉱業法はオイルショック前の1967年に制定されたものであるため、時代背景や設計思想の古さを否めない点もある。他方、モンゴルの場合、Oyu Tolgoi鉱山の投資協定の締結は2009年であったことから、30年の安定化期間は投資家側にとってやや有利な内容であったと言える。モンゴル政府は2012年の総選挙後、N.Altankhuyag首相政権が投資協定の改定をRio Tintoへ申し入れたが協議は難航し、その結果、Phase 2(坑内掘り)プロジェクトの開始が遅延したという経緯もある。このため、過度に長い安定化期間は、資源保有途上国政府の税制面での裁量性を将来的に阻害するおそれがあるため留意が必要である。


  1. Grasberg鉱山のCoWは、以下の米国SEC(証券取引委員会)のサイトを参照。安定化条項はArticle 13に記載。
    https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/831259/000083125901500022/exh101.txt
  2. 周辺鉱体を開発した場合は別途。
  1. インドネシアの情報に関しては、以下の文献を参考にした。新井裕実子「インドネシア鉱業政策の動向」(『金属資源レポート』2017年7月号、(JOGMEC、P52)
  2. 『メタルマイニングデータブック2017』(JOGMEC、P327)
  3. 山内英生「ペルー新鉱業税制について」『カレントトピックス』2011年64号(JOGMEC、P4)
  4. “Worldwide Tax Summaries Peru”(PWC、2018年6月)
  5. SOMO & OT Watch「Mining Taxes –The case of Oyu Tolgoi and profitable tax avoidance by Rio Tinto in Mongolia-」
    https://www.somo.nl/wp-content/uploads/2018/01/Mining_taxes_V_1.2.pdf
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