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報告書&レポート

2018年11月26日 シドニー 事務所 吉川竜太
18-27

Resources 2030 Taskforceによる豪州の資源政策に対する提言について

―2030年以降における豪州資源業界の将来を占う―

<シドニー事務所 吉川竜太 報告>

はじめに

豪州における石油・天然ガス、石炭、鉱物資源を含む資源産業は、2016/17年度における豪州GDPの7%を、また物品・サービス全輸出額における資源エネルギー品目の割合は53%を占めており1、豪州の経済を支える重要な基幹産業である。今日における豪州資源業界の繁栄は、豪州国内に豊富に存在する資源そのもののみに支えられたものでは無く、資源業界関係者の長年に渡る技術革新・コスト削減に対する弛まぬ努力や、連邦・州政府の資源政策の積み重ねに拠るところも大きい。一方、2018年2月にFraser Instituteから発表された「Annual Survey of Mining Companies for 2017」によると、WA州、SA州、QLD州、VIC州およびNT準州の鉱業に対する投資魅力度順位は前年比で低下しており、特に鉱業政策の魅力度を示す「Policy Perception Index」は、全ての州に関する評価が下落する2など、豪州資源業界の将来における国際競争力維持に対する懸念の声も上がっている。

豪連邦のMatt Canavan資源・北部豪州担当大臣は2018年3月、豪州資源業界が持続的に競争力を維持して将来的に発展するためには、与野党間などの党派主義に偏った議論を排し、事実と根拠に基づいた政策立案を実施する必要があるとして、産学官の代表で構成される「Resources 2030 Taskforce(以下、「2030タスクフォース」)」を設置し、豪州が世界の資源業界を牽引する存在であり続けるための新しいアイデア、技術、作業方法に基づいた政策提言を実施させることを発表した。また、その提言に基づいて20年ぶりの資源政策白書となる「National Resources Statement」を作成する予定であることも発表している3

タスクフォースからの提言がまとめられた報告書は、「Resources 2030 Taskforce Report」として2018年9月21日に豪連邦産業イノベーション科学省により公開された4。この報告書では、現在の豪州資源業界の問題点や将来の課題が分析され、2030年以降の同国資源業界の持続的発展に向けた取り組みに関する29の提言が盛り込まれており、世界を代表する鉱業国の一つである豪州資源業界、延いては世界における資源業界の将来を占う上で非常に興味深い内容となっている。本稿では、この報告書の内容に関して報告する。

1.Resources 2030 Taskforceについて

2030タスクフォースは、Canavan大臣により2018年3月28日に設置が発表されており、以下の10人のメンバーが豪連邦産業イノベーション科学省により指名されている:

・Mr Andrew Cripps:前QLD州天然資源鉱山大臣(座長)

・Mr Mike Henry:President Operations, Minerals Australia, BHP

・Cr Joyce McCulloch:Mayor, Mount Isa City Council

・Dr Chris Pigram:Former CEO, Geoscience Australia

・Mr Will Robinson:Managing Director, Encounter Resources Limited

・Ms Erica Smyth AC:Chair, NOPSEMA Advisory Board

・Mr Paul Flynn:CEO and Managing Director, Whitehaven Coal

・Prof. Marcia Langton:Foundation Chair, Australian Indigenous Studies, Faculty of Medicine, University of Melbourne

・Ms Adrienne Rourke:General Manager, Resource Industry Network

・Prof. Stephen Smith:Professor of International Law, University of Western Australia

2030タスクフォースの設立条項が記載された「Term of Reference」によると、同タスクフォースの職責は、資源産業の操業状況、豪州政府の政策と助成策、資源業界のリスクと将来の成長機会を分析し、2030年以降の豪州資源産業の持続的な競争力を確たるものとするための「大胆かつ実現可能な」改革案を、投資、コミュニティ、探鉱及びビジネス機会の創出、技術革新、環境の各分野ごとに検討することと定義されている5

2018年9月21日に産業イノベーション科学省により公開されたResources 2030 Taskforce Reportでは、今日における豪州資源業界の現状や将来の課題に関して分析した上で、(1)将来における資源業界の正しい位置づけについて、(2)豪州資源業界の長所を宣伝することによる投資の促進、(3)新しい資源の探鉱と開発、(4)コミュニティとの強固な関係構築、(5)環境関連パフォーマンスの改善、(6)人材の育成、の6分野において総計29の提言が示されている。

2.豪州資源業界の現状に関する分析・論評

Resources 2030 Taskforce Reportの第3章は「現在の資源業界の価値について」というタイトルで、豪州資源業界の現状が以下の通り分析・論評されている:

・豪州の資源業界は世界で最も発展を遂げた資源生産者の一つであることは疑いなく、豪州の発展に大きく寄与してきた。2016/17年度において、豪州からの輸出高上位10品目に入っている鉄鉱石や鉱石精鉱、一般炭・燃料炭、LNG、金、アルミニウムの資源輸出高は豪州全体の物品・サービス輸出額の46%を占め、資源業界は豪州のGDPの約7%に貢献している。税収面でも大きな貢献をしており、2016/17年度における資源業界の法人税納付合計金額は12.1bA$、ロイヤルティは11.2bA$であった。

・資源業界の雇用における影響も大きく、直接の雇用総数は23.4万人と見積もられているが、Deloitte社の推定ではサプライヤーやサービス業を含めた場合、直接・間接を問わずに集計すると、豪州全体で110万人の雇用に貢献している。また、豪州の地方部において資源業界の雇用の影響は大きく、2013年の集計では業界からの雇用のうち3.1%は伝統的土地所有者で、この数値は豪州の全産業中、最も高い値となっている。

・豪州は原料炭、鉄鉱石、銅などをはじめとするバルク資源の主要な生産地の一つであるが、一方で豪州が先端技術に不可欠なレアメタルに富む国であるということはまだ世界に十分に認識されていない。成長を続ける再生可能エネルギー市場もこのようなレアメタルに依存しており、例えば豪州ではソーラーパネル作成に必要な16鉱種のうちの10鉱種を生産している。

・世界における鉱物・エネルギー資源の需要増は、豪州の資源業界がさらなる成長を遂げるための大きな機会と考えられる。特に豪州は、アジアの巨大市場である中国、インド、日本、インドネシアなどに資源を提供するのに好都合な位置にある。石炭を例に取ると、世界の石炭需要は今後数年間大きな伸びが期待できないと目されているが、インドや東南アジア諸国の2022年までの需要の伸びにより豪州の石炭輸出は大きく増えることが予想されている。

・多くの鉱種で探鉱費支出や資源量(Resources)が増大しているのにも関わらず、埋蔵量(Reserves)は21世紀以降ほとんどの鉱種で増加が認められず、鉄鉱石を除く主要鉱種生産量における豪州の世界シェアは下落傾向にある(図1)。今後の世界経済の発展により需要拡大が予測される鉱種を豪州からの供給による成長機会を逸しないためにも、優良な新しい資源の発見に対する速やかな取り組みが必要不可欠である。また水素資源など、新しい分野の資源輸出の機会への対応も求められている。

図1.主要鉱種における豪州生産量の世界シェアの移り変わり

図1.主要鉱種における豪州生産量の世界シェアの移り変わり

(出典:Resources 2030 Taskforce報告書)

3.豪州資源業界の積極的発展に向けた提言

Resources 2030 Taskforce Reportの第4章以降では、豪州資源業界の積極的な発展に向けた29の提言が、以下の通り説明されている:

(1)将来における資源業界の正しい位置づけについて

① 豪州資源業界の長期的な国際競争力を維持するための柔軟性を保ちつつ、将来起こりうる変化に対応することを目的に、産業界、連邦・州政府、コミュニティ、研究機関と協力の下、政府と産業界に対し以下の実施が求められる「戦略的助言グループ」の設立が必要である。

・資源業界が2030年以降も持続的発展を達成するために現代的かつ長期的視野に立った機会創出、チャレンジ及びそれらへの対応に関する助言

・資源業界の発展を指向した鉱物資源産業、石油ガス産業、資源関連設備・技術・サービス業(以下、「METS」)を横断する協力体制の構築

・資源業界における長期的な必要性に焦点を当てた研究や技術開発の内容の検討と優先順位付けの実施

・将来の資源業界に必要な労働力の分析と、その労働力を確保するための道筋の検討

② 連邦の資源大臣は、連邦政府と州政府による政策調整の場である豪州政府間協議会(COAG)のエネルギー評議会において、戦略的助言グループにより提議された資源業界の戦略的・改革的政策や今後立案されるNational Resources Statementにおいて主導的役割を果たし、政府間合意を実現する必要がある。特にエネルギーに関し、豪州は石炭火力発電に支えられた国際的に安価な電力料金の恩恵を長年享受してきたが、ここ10年で電力料金は値上がりを続け、安定供給能力にも懸念が生じる事態となっている。豪州のエネルギー政策の不透明さはボーキサイト、亜鉛、ニッケルなどに対する投資の障壁となっているため、安定したエネルギー政策の合意と、長期的には原子力産業の育成に関しても議論を実施する必要がある。

③ 豪州のMETSは、例えば世界で使用される鉱業関連ソフトウェアの60%が豪州で開発されたことが示すとおり、国際的に大きな成功を収めている産業である。2015年の推計で、METSは豪州国内で50万人を超える雇用と86.2bA$もの経済効果を豪州経済にもたらしているとされる。豪州資源業界の持続的競争力維持のためMETSの将来における発展は重要であり、政府・産業界・研究機関・METSの横断的な協力に基づく、技術的課題解決のための技術革新及び研究内容に関する優先順位の調整が必要である。また、鉱業の自動化、統合化、ビッグデータ解析の技術開発・運用能力及びそこから得られる利益を最大化するため、連邦・州政府と産業界は機械・設備・システムの相互運用機会の増加方策の検討を含め、METSの能力拡充及びビジネス機会の創出をより一層図らなければならない。

④ 豪州資源業界の国際競争力維持のためには、継続的に改善・改良されるビジネス環境の維持・整備が不可欠である。近年の豪州における政策の不安定さは、豪州に対するソブリンリスクの国際的な懸念につながり、投資環境の悪化を招いているという警告もなされている。連邦・州政府は政策及び規制制度の国内及び国際的な比較検討を定期的に実施し、競争力の維持と改良・改善の機会としなければならない。

⑤ セメント、コンクリート、骨材などを生産する非金属鉱山業は資源産業を含む産業全体やインフラ構築に不可欠である。非金属鉱山業が国際競争力を維持しつつ、産業界が手頃な価格の資材を容易に入手できる環境整備のため、連邦・州政府は産業界との協力に基づき、非金属鉱山業に関する一元的かつ考え得る最善な規制制度を作成しなければならない。

⑥ 豪州資源業界は、豪州で採掘された資源を選鉱・製精錬することにより、長年利益を獲得してきた。これらの選鉱所・製精錬所の多くは遠隔地に位置しており、そのような遠隔地のコミュニティは、経済と雇用を選鉱業・製精錬業に依存しているケースが多い。かかる選鉱所・製精錬所の中には将来における操業に課題を抱えているケースも存在しているため、連邦・州政府は産業界及び地方コミュニティと協力し、遠隔地においても競争力を維持することが可能な資源処理産業育成のための戦略を作成しなければならない。

(2)豪州資源業界の長所を宣伝することによる投資の促進

① 連邦・州政府と産業界は、豪州資源産業への投資を促進するため、豪州資源業界の卓越した長所を世界に向けてより良く宣伝するために協力しなければならない。
そのため連邦・州政府と産業界は、:

・豪州資源業界を国外により効率的に宣伝するため、また豪州資源業界へ投資する海外投資家をサポートするため、豪州への投資促進に責任を持つ機関に必要かつ、様々な状況に対応するための柔軟性のある戦略を検討する

・国際的な投資先としての豪州の魅力を紹介するための戦略を作成する

・海外投資家向けに豪州資源業界における投資機会の目録を作成する。

② 連邦・州政府と産業界は、豪州の環境管理や土地再生利用、METS、高度な教育などの強みに焦点を当て、質の高い豪州の資源輸出能力を国際的により良く宣伝するべきである。

(3)新しい資源の探鉱と開発

① 豪州では産業界が主体となり、新しい地域や堆積盆における探鉱が実施されているが、探鉱リスクの低減は連邦・州政府による貢献も非常に大きい。リスク低減に向けた方策の一つとして、探鉱、環境調査、遺跡調査などで収集される膨大な量のデータの収集、整理、基礎データとしての公開が挙げられる。現状これらのデータは様々な企業や団体により、異なる形式のデータベースとして収集され、また電子化に至っていない過去の多くのデータが存在しており、このようなデータの一元化を実施することで、豪州資源業界は多大な便益を受けることが可能と考えられる。
連邦・州政府と産業界は、データ収集と分析をより良く協調させるための「資源データ戦略」を構築し、:

・地球科学、環境、遺跡関連データの収集範囲の拡充とデータ整理方法の改善・一元化を図らなければならない

・それらのデータへのアクセスの容易さと、潜在的な利用者がデータを発見し易く改善しなければならない。

② 現在豪州で実施されている探鉱状況を正しく理解して政策立案に役立てるためには、正確な統計が不可欠であるが、豪州統計局による初期探鉱(Greenfield Exploration)費用の計算方法に改良の余地があるように思われる。現在初期探鉱費用と見なされているのは、豪州統計局が探鉱費用のカテゴリーの一つとして採用している「New Deposit」の数値であるが、そもそもNew Depositの定義が定かではなく、企業化調査用費用や既存鉱床の周辺探鉱費用、過去に発見された鉱床の追加探鉱費用も本カテゴリーに計上されているものと考えられる。連邦政府は、本来の意味での初期探鉱に使用された費用の実情がよりよく反映されるよう、豪州統計局によるデータ収集・計算方法を改善すべきである。

③ 豪州の既知鉱床の多くは地表近くに存在しており、今後豪州で優良資源を発見するためには、豪州国土の三分の二を占める表層被覆地帯を対象に探鉱を実施する必要があるが、様々な技術的課題が存在する。このような課題を克服することを目的に、産学官共同プログラムである「UNCOVER」が設立され、これまで15年間に渡って成功裏に運用されてきた。UNCOVERにより必要性が認められた課題の幾つかに関しては、豪州地質調査所(Geoscience Australia)が主導する「Exploring for the Future」プログラムによる地球科学基礎データの収集や、Minex CRC(Cooperative Research Centre)による探鉱関連新技術開発という形で継続して実施されている。一方で、UNCOVERに投じられた資金は豪連邦が同期間に徴収した資源ロイヤルティの1%以下であるとの指摘もある。表層被覆地帯における探鉱の発見効率を一層向上させ、豪州の次世代に対して優良な資源を提供することを目的とした被覆地帯における探鉱技術開発・調査促進のため、連邦・州政府はUNCOVERへの産学官共同出資を促進する仕組みを構築し、同制度を一層奨励するべきである。

④ UNCOVERはこれまで産学官共同研究の枠組みで調整・実施されてきたが、UNCOVERの長期的目標を確実に達成し、時代の変化に対応していくためにはプロジェクトを運営する包括的な組織あるいは管理者が必要であると考えられる。連邦・州政府はUNCOVERの実施・推進に責任を持つ実施機関を選定あるいは創設する必要がある。

⑤ Exploring for the Futureは豪州地質調査所により2016年から4年計画で実施されているプログラムであり、豪州北部とSA州の未探鉱地域において新規の地球科学基礎データを先端技術を用いて取得・公開することにより、新しい資源の発見に役立てることを目的としている。このような最先端の新規地球科学基礎データが政府主導で取得されることを契機に同エリアでの探鉱事業に乗り出した大手鉱山企業(Anglo Americanなど)も存在している。連邦政府は、「Exploring for the Future」プログラムを国家的取り組みと位置づけ、陸上・海上双方を対象に制度の拡充を図るべきである。

⑥ 豪州資源業界への投資の魅力向上には、インフラ、土地利用、政策、産業開発などを包括する連邦・州政府による長期的・戦略的計画が必要不可欠であるが、現状ではそのような計画は十分でなく、詳細事項に欠けている事が多い。連邦・州政府は、産業界や地方コミュニティと共同作業を実施し、初期探鉱開発に向けた新しい地域・堆積盆の優先度を決定し、探鉱を促進しなければならない。初期探鉱開発に向けた新しい地域・堆積盆の優先度決定と投資促進に向けた長期的・戦略的開発計画の策定にあたっては、政策・情報・投資サービスの連携を考慮し、可能な限り効率的に新しい地域・堆積盆を開発するためのインフラに関するビジョンの共有が行われなければならない。

⑦ 豪州では既に大規模な資源開発が進んでいるが、豪州資源業界は単純な鉱山業だけに留まらずインフラ構築や下流産業に進出することにより、より大きな利益が得られると考えられる。特に豪州は世界一のリチウム生産国であり、リチウム産業において豪州内で高付加価値化するための顕著な新しい機会を迎えていると考えられる。リチウムを含むバッテリー金属のほか、レアアースに代表されるレアメタルに関しても今後世界的な需要の高まりが期待されるため、連邦・州政府は、バッテリー金属を含むレアメタルの豪州国内における高付加価値化戦略を構築する必要がある。

(4)コミュニティとの強固な関係構築

① 資源産業の活動は、視点・要求の異なる様々なコミュニティに影響を与えるものであり、それらコミュニティとの包括的な契約を締結してサポートを得ることは何より重要である。豪州は国際的にみても先住権契約を含むコミュニティとの契約に関して先進的な国の一つではあるが、それぞれの契約の内容を比較すると温度差が存在するという問題がある。この一因として、連邦政府や業界団体が発行した既存のガイドラインの内容が統一されておらず、一部では相反する記述も存在することが挙げられる。連邦・州政府と産業界、コミュニティは共同で、連邦・州政府や業界団体、鉱山企業が発行した既存のガイドラインを活用するとともに、カナダが採用している「Towards Sustainable Mining」やOECDの「Mining Regions and Cities」の情報を参考にしつつ、コミュニティとの契約に関する現時点で最善かつ包括的な契約基準及びガイドラインを作成するべきである。この契約基準及びガイドラインには、アボリジニ・トレス海峡諸島のコミュニティおよび伝統的土地所有者との契約に関するガイドライン及び基準や、先住民族とのビジネス、雇用、技能訓練に関する契約の適時性、現地調達率報告、戦略に関するガイドライン及び基準を含まなければならない。

② 連邦・州政府、地方自治体、産業界及びコミュニティは、資源産業に依存する遠隔地域の経済多角化や操業終了後の資源産業への依存脱却を促進するための長期的に持続可能性のある総合的な計画策定に協力しなければならない。

③ 連邦・州政府は、資源産業と関わりのある遠隔地域において、個人の生活と仕事や、ビジネスの立ち上げ・運営を促進または妨害する財政及び規制の枠組み(フリンジ・ベネフィット税や地方税優遇処置など)に関して調査を実施すべきである。

④ 連邦・州政府と産業界、コミュニティ間の効果的な関係構築は資源プロジェクトに対するコミュニティの理解を得る上で非常に重要であり、利害関係者は相互に開かれた環境で、透明性のあるコミュニケーションを適切なタイミングと頻度で実施することが求められる。特に環境面において、コミュニティは鉱業活動の情報へのアクセスをより求める傾向にあり、コミュニティとのコミュニケーションが不足している場合、その判断はソーシャルメディアを活用するようになった反鉱業活動グループの影響を受けやすくなると考えられる。産業界、連邦・州政府、コミュニティは、資源業界の利益や成功事例を啓蒙することにより、資源業界に対する良好な印象を全国的に得るための協力を実施しなければならない。

(5)環境関連パフォーマンスの改善

① 資源業界が持続的に長期的発展を遂げるためには、継続して環境関連パフォーマンスを改善することが不可欠である。二酸化炭素排出量の削減への取り組みを含め、業界の環境管理責任に対する世界的関心の高まりは、リスクではなくチャンスと捉えるべきであり、豪州資源業界がその環境技術を効果的に宣伝することができれば、METSによる優れた環境技術の世界への提供のみならず、豪州への投資の増加という形で好影響を期待できる。連邦・州政府は、豪州資源業界の競争力の強化を目的に、環境管理や環境復元に関わるビジネス・経済を、技術革新やコスト削減を伴いつつ発展させていかなければならない。そのために、鉱山操業期間を通じたリハビリテーションの計画立案・実行や海上生産設備などの解体、早期の閉山計画、採掘跡地管理に関し、豪州全土で一貫性のある明瞭なアプローチ及び手法の開発が実施されなければならない。

② 豪州における環境影響評価の手続きは、近代的で環境保護と資源開発のバランスが取れており、環境への影響を最小限に抑えつつ開発を実施することが可能になっている。ただし、手続きの複雑さと連邦・州政府のそれぞれで発生する重複した内容の手続きに関して見直しが必要であると考えられ、それにより更に効果的、効率的でコスト意識が考慮された環境評価が可能になることが期待される。州レベルでは、それぞれの州・準州政府が各々に規制を設定していることから生じる不統一性が環境評価手続きを複雑にしており、連邦政府は州・準州間で合理的で一貫性のある環境影響評価手続きの調整に向け、州政府と協力する必要がある。また連邦レベルでは、連邦法である環境保護・生物多様性保護法(以下、「EPBC Act 1999」)に基づいた連邦政府の審査が義務付けられることで、資源業界は同じ審査内容に関して連邦と州の双方から承認を得る必要が生じている。このことは重複した手続きや所要時間の観点から非効率で、プロジェクトの遅れやコストの増大につながるとの不満の声が上がっている。連邦・州政府は、海上及び陸上における環境影響評価とその承認に向け、単純化したワンストップの手続き実施のため、連邦・州政府間協定の締結を含めた法的枠組みの合理化を図らなければならない。

③ EPBC Act 1999の2019年における見直しの一環として、連邦政府はEPBC Act 1999内の幾つかの点に関して再検討を実施する必要がある。例えば、EPBC Act 1999では豪連邦環境エネルギー大臣による評価と関連し、環境への「significant impact」という単語が頻繁に使用されているが、この単語の定義が明確で無いことが問題となっている。プロジェクト評価が必要なsignificant impactを与えるか否かが不明瞭なケースが多く発生しており、significant impactの明瞭な定義が必要である。また、炭層ガス開発や大規模炭鉱開発の際に水資源への影響評価が必要となる「water trigger」制度に関し、water triggerによる連邦政府の査察は企業から州政府に提出されたデータに基づいて評価が実施されている実態があり、明らかに二重手続きとなっているため、その効果に関する再評価が必要である。また、生物多様性オフセット制度に対する柔軟性の拡充も検討すべきと考えられる。

④ 環境影響評価は、豪州における環境評価承認システムの中で重要なステップの一つであり、実施に際しては膨大な量の環境及び生物多様性のデータを必要とする。豪州の資源産業は、世界でも最大規模の関連データを保有しているが、評価が終了した後はデータが活用されていないのが現状である。これらのデータをより積極的に活用することにより、連邦・州政府や産業界はより効率的・効果的で客観性のある調査を実施することが可能になると考えられる。現状、WA州のみが環境影響評価後の全てのデータの提出を求めており、他の州や関係機関でも同様の取り組みを実施し、全ての州において同じフォーマットでデータが保存され、産業界などデータを必要とする人々が容易にそのデータにアクセスできる環境を整備すべきであろう。連邦・州政府及び産業界は、環境、生物多様性及び遺跡に関するデータの保存、管理及び配布を効率的・一元的に行うための国家的なデータベースを作成するべきである。

⑤ 上述のようなデータの蓄積は環境影響評価の実施に当たり、より正確で詳細な評価を可能とするに留まらず、同様の環境的背景を持つエリアにおけるプロジェクト間の相互評価や、環境影響の蓄積に関する評価を可能とする。新しいプロジェクトは、それ自身が孤立した一つのプロジェクトではなく、同様の環境・背景を持つプロジェクト群の一つとも見做すことが可能であり、蓄積されたデータの活用でより全体的な環境影響評価のアプローチが可能となるであろう。連邦・州政府、産業界、その他の利害関係者は、同様の環境・背景を持つプロジェクトの水資源及び土地利用計画やプロジェクトの承認手続きに際し、蓄積されたデータを利用した全体的なプロセスの採用を検討すべきである。

(6)人材の育成

① 技能多彩で経験豊かな労働力は豪州資源業界の競争力維持のために不可欠であり、そのためには将来における労働者の技能に対し、人材育成という形での投資が重要となる。しかし、2030年以降に資源業界で必要とされる労働者の技能に関する予測は、鉱山の自動操業化やロボット化、AI技術が発展してきた今日においては難しくなる一方である。産業界で将来正しく必要とされる技能を持つ人材を教育機関で育成することは極めて重要であることから、連邦・州政府と産業界は、新技術や今後生じる可能性のある技術革新、それらの技術の資源分野への応用に関して理解を深め、2030年以降の豪州資源業界で必要とされる労働力の技能を明確に提示しなければならない。

② 連邦・州政府は、産業界や教育機関との継続的、建設的かつ戦略的な協力に基づき、上述した2030年以降に資源業界で必要とされる労働者の技能予測結果を参考として、大学・専門学校における地球科学及び資源関連コースのカリキュラムを、将来の資源産業に正しく必要なものとなるよう適切に調整しなければならない。また、特に都市部において学生が資源関係のコースを選択するよう、例えば高度な技能性などの資源業界における労働の魅力を小学生、中学生の段階から生徒及び教師に対して啓蒙しなければならない。

③ 産業界においては、継続的学習の重要さを従業員に対して啓蒙することが非常に重要である。また、技能訓練などの機会提供や費用の助成実施により、資源業界で働く人々のスキルアップを図らなければならない。そのために、労働市場における資源業界の魅力を高めるための方策や、現時点で業界の16%を占めるに過ぎないとされる女性の活躍の場を拡大するための取り組みを実施する必要がある。

④ 地方コミュニティとの関係構築は資源産業にとって重要課題であり、地方コミュニティの雇用を優先的に発展させて持続することにより、資源プロジェクトに必要な技能を保持する労働力を有するコミュニティの構築が可能となる。そのためには特に地方コミュニティの若者に対して、資源業界の労働機会を如何にアピールできたか・説明できたかが重要である。産業界は、資源産業が支配的な産業となっている地方コミュニティにおける就業機会の拡大に務めなければならない。

⑤ アボリジニとトレス海峡諸島の人々は、資源業界の利害関係者の中でも特に重要である。資源業界の雇用はアボリジニとトレス海峡諸島の人々の生活、ビジネスに重要で、生活の質の上昇に貢献している。今後も、資源業界の労働力源として重要であることから、連邦・州政府と産業界は、独自の文化と学習スタイルを持つアボリジニとトレス海峡諸島のコミュニティを教育・訓練する戦略を作成しなければならない。

4.各業界団体の反応

2030タスクフォースにより作成され、豪連邦政府に提出された報告書に対し、主要な各業界団体は以下の通り概ね良好な評価を下している:

・豪州鉱物資源評議会(MCA)6:2030タスクフォースによる報告書で提言された項目は、多くの分野において鉱物資源政策立案のたたき台を提供しており、豪政府による迅速かつ決定的な行動が今後必要である。特に、連邦・州政府による不要な二重規制が鉱物資源産業発展の障壁となっているとの指摘や、新技術を最大限に活用するための労働力を、将来の鉱物資源業界において持続的に維持するための方策が早急に必要であるとの提言は、MCAが長年政府に対して訴えてきたことであり、評価に値する。MCAは今後も資源政策決定に向け、連邦・州政府やその他の利害関係者と協力を継続して実施する。

・鉱業探鉱企業協会(AMEC)7:AMECは2030タスクフォースに対して提言書を提出した他、AMEC会長のWill Robinson氏はタスクフォースのメンバーの一人であった。2030タスクフォースによる前向きな政策提言は、豪州の鉱物資源ポテンシャルを最大限引き出すために非常に有用であると評価している。特に、豪州が直面している持続的な探鉱実施の重要性や新しい鉱物資源鉱床の発見・開発への道筋に対して焦点を当てた提言に踏み込んだ点は評価できる。今後は政策の立案・実行と、そのための超党派での協力がキーポイントとなるであろう。

・豪州資源エネルギーグループ(AMMA)8:2030タスクフォースの提言は、今後約20年間における豪州資源エネルギー業界の将来を支える最も包括的な計画であると言え、コミュニティ、技術革新、環境管理、探鉱及びインフラなどを含めた重要な分野における横断的な検討がなされたことを歓迎する。この報告書はまだ青写真の段階であり、AMMAは豪州資源エネルギー産業の生産性及び国際競争力維持に向けた政策措置を政府に対して継続して訴えることとしたい。

・豪州石油生産探鉱協会(APPEA)9:石油ガス業界は、2030タスクフォースによる報告書において、業界の長期的発展を強化するための重要な提言が提示されたことを歓迎する。特に2030タスクフォースが資源開発を担う遠隔地域において、石油ガス業界が豪州経済にもたらす貢献に焦点を当てたことを評価する。石油ガス業界は、過去10年間に豪州内で約300bA$を投資することにより豪州の経済成長、輸出拡大、雇用確保に貢献しており、単純な資源事業ではなく広範なサプライチェーンを支えている存在でもある。報告書内の29の提言はいずれも重要な範囲をカバーしており、石油ガス業界は今後政府のみならず野党その他の利害関係者とも協力しながら、1998年2月以来となるNational Resources Statementを作成することを楽しみにしている。

おわりに

今回2030タスクフォースによりまとめられた報告書は、端的に表現すれば「2030年に向けた世界の変動に対して豪州資源業界が柔軟に対応していくため、どのような想定・準備・政策が必要か」に焦点を絞って制作されたもので、現在の豪州及び世界を取り巻く資源環境や今後の課題などに関し、本レポートでは取り上げていないがコラム形式も利用しながら説明をした上で、政府や産業界が今後取るべき政策や施策に関する提言がなされている。

29の提言はどれも示唆に富むものであるが、政府と産業界に現状分析と政策提言を実施する戦略的助言グループの設置、蓄積された各種データの更なる有効活用、新しい資源発見に向けた取り組み、自動操業・AIの有効利用に向けた技能と労働力の確保、より効果的で効率的な環境規制制度・コミュニティ契約基準の整備、豪州産業界の海外投資家への更なるアピール、などが特に興味深い。

日本にとってエネルギー・鉱物資源の最大供給国である豪州の資源産業の変化は日本の資源安定調達に影響を与え得る可能性もあり、また豪州一国のみならず世界の資源業界における今後の潮流を占う上でも参考となる内容であると考えられる。ぜひ原文の報告書を一読されることをお勧めしたい。


  1. https://publications.industry.gov.au/publications/resourcesandenergyquarterlyjune2018/index.html
  2. Annual Survey of Mining Companies for 2017. 2018. Fraser Institute
  3. Speech to the National Press Club – The Long Mining Boom, 28/03/2018, Minister of Resources and Northern Australia
  4. https://www.industry.gov.au/sites/g/files/net3906/f/September%202018/document/pdf/resources-2030-taskforce-report.pdf
  5. https://www.industry.gov.au/sites/g/files/net3906/f/resources-2030-taskforce-terms-of-reference.pdf
  6. http://www.minerals.org.au/news/mining’s-role-powering-modern-australian-life-confirmed-resources-2030-taskforce-report
  7. https://www.amec.org.au/Public/Media/News_Releases/2018_News/2030_Taskforce_Recommendations_supported_by_Industry.aspx
  8. http://www.amma.org.au/news-media/media-center/employers-welcome-resources-2030-taskforce-report/
  9. https://www.appea.com.au/media_release/resources-2030-task-force-report-recognises-industrys-vital-contribution/
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