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報告書&レポート

2019年1月28日 シドニー 事務所 吉川竜太
19-05

豪州のリチウム、コバルト、レアアースプロジェクトにおける 中・韓企業の動向について

<シドニー事務所 吉川竜太 報告>

はじめに

豪州では近年、リチウム、コバルト、ニッケル、レアアース、バナジウムなど、電気自動車やそれに利用されるリチウムイオンバッテリー(「LIB」)製造の原料として使用される金属(以下、まとめて「テクノロジー金属」1)への注目が高まっており、国を挙げてテクノロジー金属の上流・下流産業を振興しようという動きが強まっている。連邦政府による資源に関する長期的戦略策定への提言をまとめた「Resources 2030 Taskforce」の報告書では、リチウム・レアアースなどに代表されるレアメタルの高付加価値化に向けた戦略構築が提言されている2ほか、WA州政府は同州内でのリチウムを含めたテクノロジー金属産業の成長戦略形成のためのタスクフォースを組織して議論が行われている3。また、産学官が共同出資する100mA$規模で全豪ベースの研究プログラムであるFuture Battery Industries Cooperative Research Centre(FBI CRC)4が、現在採択に向けて検討が進められている状況である。

一方で、豪州のテクノロジー金属関連プロジェクトに関しては、中国系・韓国系企業が探鉱・開発・生産案件への直接参入、案件保有企業の株式買収、オフテイク・販売権契約、研究開発に関する協定などの形で積極的な投資を実施している。翻って日系企業は数社の取り組みが散見されるのみで、現状では中・韓ほど顕著な動きは認められないという実情である。本稿ではテクノロジー金属の中でも特にリチウム・コバルト・レアアースに関する中国系・韓国系企業の豪州におけるプロジェクトの動向について報告する。

1.リチウムについて

2017年の世界におけるリチウムの消費量は炭酸リチウム換算(「LCE」)量で211ktと見積もられているが、今後電気自動車向けや再生可能エネルギーによる発電と組み合わせた蓄電施設へのLIB需要の伸びが期待されることから、2027年の需要はLCE量で約1.3mtとなることが予測されている5。現在世界で生産されているリチウム資源は2種類あり、一つは豪州でも生産されているペグマタイト中の含リチウム輝石(リシア輝石)を原料とする鉱石由来のリチウム(以下、「鉱石リチウム」)で、もう一つはチリやアルゼンチンなどで生産されているかん水中のリチウムを回収することによる塩湖由来のリチウム(以下、「塩湖リチウム」)である。

伝統的に塩湖リチウムは生産コストが有利とされるのに対し、鉱石リチウムは生産に要するリードタイムが短いため市況等の環境変化への対応力に優れているとされるが、昨今生産コストに関して異なる見解の報告も認められる。豪連邦の産業イノベーション科学省が四半期ごとに作成している「Resources and Energy Quarterly」の2018年9月版からリチウムも調査対象となっており、その中では「今後のLIB需要に重要な水酸化リチウムの製造に限れば、鉱石リチウムは塩湖リチウムに対してコスト面で10~15%の優位性を持ちうる可能性がある」と指摘されている5。また、大手コンサルティング会社のMckinsey社によると、「将来需要が増えることが期待されるLIBであるNMC811やNMC9.5.5(正極材素材の比率がニッケル:マンガン:コバルト=9:0.5:0.5)で使用される水酸化リチウムの製造に限れば、鉱石リチウムは塩湖リチウムよりも製造コストで最大500US$/t優位となる可能性がある。これは、鉱石リチウムからは水酸化リチウムを直接製造できるのに対し、塩湖リチウムの場合は一旦炭酸リチウムを製造してから水酸化リチウムに転換する必要があるためである」としている6

現在豪州では、鉱山から採掘されたリチウム鉱石に対して選鉱処理を実施することにより含リチウム鉱物であるリシア輝石を濃縮させ、Li2O品位を6%程度に調整したリシア輝石精鉱が生産されている。なお、リシア輝石以外の含リチウム鉱物は活用に向けた新技術の開発が進められてはいるものの、現状ではリチウム資源としては利用されていない。2017年、豪州はLCE量で211ktのリシア輝石精鉱を生産し、これは世界のリチウム生産量の約58%を占め5、世界最大のリチウム生産国となっている。豪州でリチウムを生産しているのは現状WA州のみであり、2018年12月時点で7つの鉱山が稼働している。また、Pre-Feasibility Study以降のステータスに2件のプロジェクトが進んでいるが、これらのうちWA州以外に所在するのはNT準州のFinnissプロジェクト1件のみである。今後、2018年に試験操業が始まった鉱山の本格生産への移行や、増産に向けた拡張工事の完了に従い、豪州のリチウム生産量は増加することが予想されており、2020年のリシア輝石の生産量はLCE量で301ktまでの増加が予想されている5。また、豪州国内でリシア輝石精鉱をさらに処理することでの高付加価値化を目的とした、水酸化リチウム製造プロジェクトが5件検討中で、そのうちTianqi Lithium(天斉リチウム)社のKwinana LHPPプロジェクトとAlbemarle社のKemertonプロジェクトは既に建設が開始されている。なお、豪州においてはリシア輝石精鉱から炭酸リチウム製造を目指すプロジェクトは現状存在しておらず、上述の通り塩湖リチウムに対してコスト競争力が期待され、高ニッケル正極材に使用される水酸化リチウムの製造に向けた建設及び評価が実施されている状況である。

豪州における各リチウム生産プロジェクトの位置図を図1として、また各プロジェクトの進捗状況、生産物・生産能力、オフテイク権などの概要をまとめた表を表1として示す。豪州のリチウム生産プロジェクトに関しては、特に中国系企業がプロジェクトへの直接投資、オフテイク契約の締結、プロジェクト保有企業への株式投資などを通じ、非常に積極的な動きを見せている。

Tianqi Lithium社は世界最大の鉱石リチウム鉱山であるWA州Greenbushes鉱山の権益を51%保有して操業しており、同鉱山で生産されたリシア輝石を現在WA州Kwinanaで建設中の水酸化リチウム製造工場に供給することを計画している。また同社は、チリのリチウム生産大手であるSQM社の株式23.77%を2018年12月に買収した。Greenbushes鉱山のリシア輝石精鉱生産能力は、現在建設中である選鉱施設を加味して1,430kt/y(Li2O品位6%と仮定した場合のLCE量は約210kt/y)であるが、520kt/y(同約77kt/y)の生産拡張に関して既に投資を決定済みで、さらに520kt/yの追加生産拡張が検討されている。

豪州におけるリチウム生産プロジェクトで特筆すべき活動をしているそのほかの中国系企業として、Ganfeng Lithium(江西贛鋒リチウム)社が挙げられる。同社はMt Marion鉱山の権益50%を保有し、2020年2月まで同鉱山から生産されるリシア輝石精鉱の100%を引き取るオフテイク権を保有している(2020年2月以降、プロジェクトの残り稼働期間は、豪Neometals社が同鉱山から生産される57kt/yのリシア輝石精鉱オフテイク権を保有)ほか、Pilgangoora鉱山、Altura鉱山でもリシア輝石精鉱のオフテイク権を保有している。この他、Great Wall Motor(長城汽車)社がPilgangoora鉱山において同精鉱のオフテイク権を保有しており、これは自動車メーカーが直接リチウム鉱山においてオフテイク権を保有する初めてのケースということで大きな話題となった。韓国系企業では、鉄鋼大手のPOSCO社がPilgangoora鉱山からのリシア輝石精鉱のオフテイク権を保有しているほか、同鉱山のオーナーかつオペレーターのPilbara Minerals社の株式4.7%を保有しており、炭酸リチウムあるいは水酸化リチウムの製造工場を韓国に共同で建設することを検討中であるとされている。

図1.豪州のリチウム関連プロジェクトの位置図

図1.豪州のリチウム関連プロジェクトの位置図

(「GSWA(2018)Investment Opportunity – Lithium」に加筆)

表1.豪州における主要なリチウム生産プロジェクトの一覧

表1.豪州における主要なリチウム生産プロジェクトの一覧

表中、青字は中国系企業、緑字は韓国系企業、赤字は日系企業の動きを表している
(出展:各社ホームーページや公開情報から作成)

豪州におけるリシア輝石精鉱の生産能力は、操業中の案件のみに限れば1,987kt/y、建設中、建設承認済及び評価中の案件を加味した場合では最大で5,074kt/yとなる。一方、中国系・韓国系企業による合計オフテイク数量は、操業中の案件で最大1,635kt(Greenbushes鉱山の生産物に関してTianqi Lithium社が51%の引取権を保有すると仮定した場合)、建設中、建設承認済及び評価中の案件を加味した場合で2,949.5kt/yとなり、現在豪州で生産されているリシア輝石精鉱の少なくとも80%強の引取権を中国企業が、建設中、建設承認済及び評価中案件を加味した場合は60%弱のオフテイク権を中国系・韓国系企業が保有していることとなる。

水酸化リチウムに関しては、現在5件のプロジェクトの合計で最大303kt/yの生産が検討されている。Tianqi Lithium社、Albemarle社が関与する3件のプロジェクトに関してはオフテイク契約の状況は不詳ながら、豪Kidman Resources社はSQM社とのJVで推進しているMount Hollandプロジェクトで生産される水酸化リチウムのオフテイク契約を積極的に進めており、これまで米Tesla社、三井物産及び韓LG Chem社との契約やMOUを締結している。

2.コバルトについて

2017年の世界におけるコバルト鉱山生産量は110ktで、そのうちの6割強がDRコンゴで生産されており、レアメタルの中でも偏在性の高い鉱種の一つである。豪州では2017年、5,000tのコバルトが生産されており7、DRコンゴ・ロシアに次ぐ世界第3位のコバルト生産国となっている。コバルトのもう一つの特徴として、その鉱山生産量の98%が銅あるいはニッケルの副産物として生産される点が挙げられる8

豪州でのコバルトは主にWA州に存在する硫化ニッケル・コバルト鉱床やラテライトニッケル・コバルト鉱床から、ニッケルの副産物として生産されており、WA州政府の統計によると2017年のWA州におけるコバルト生産量は5,034tである9。この他、QLD州などに所在する多金属鉱床からも若干量のコバルトが副産物として生産されている可能性がある。WA州の資料によると、2016/17年度にWA州においてコバルトを生産した鉱山は、Murrin Murrin鉱山(Glencore;ラテライト鉱床)、Nickel West部門(BHP;硫化物鉱床)、Ravensthorpe鉱山(First Quantum社;ラテライト鉱床)、Nova-Bollinger鉱山(Independence Group社;硫化物鉱床)、Savannah鉱山(Panoramic Resources社;硫化物鉱床)の5つであるが10、市況の低迷を理由にSavannah鉱山は2016年5月から、Ravensthorpe鉱山は2017年9月から操業を休止している。

表2は、現在コバルトが生産されているプロジェクトと、評価が進められているプロジェクトのうちオフテイク契約あるいはパートナー契約が締結されている代表的な案件の一覧表である。各プロジェクトで生産されているコバルト生産物はプロジェクトによって異なっている。なおBHPのNickel West部門では、BHPが操業している鉱山からの鉱石の他に第三者が生産する鉱石の買鉱も行われており、WA州Kalgoorlieに所在するニッケル製錬所でニッケル・コバルトマットを製造後、Kwinanaの精錬所でニッケルブリケットやニッケル粉が生産されている。コバルトはKwinanaの精錬所でニッケル・コバルト硫化物として生産されている模様であるが、生産量などの詳細は非公表である11。Glencoreが操業するMurrin Murrin鉱山からは2016年に2,600t、2017年に2,700tのコバルトが生産されており12、Independence Group社のNova-Bollinger鉱山から生産されているニッケル・コバルト精鉱がBHPとGlencoreに全量売却されていること13を考慮すると、BHPのNickel West部門で生産されているコバルトの数量は、買鉱分も含めて2,000t/y強ではないかと推定される。なお、BHPは現在Kwinanaにおいて100kt/yの製造能力を保有する硫酸ニッケル工場を建設中であるが、硫酸コバルトが副産物として製造される見込みである(生産予定量は未公表)14

電気自動車やLIBの需要拡大が予期される中、ニッケルやコバルトの価格が上昇するに連れ、豪州ではコバルトを対象とした探鉱プロジェクトの数が増えつつある。特にNSW州・QLD州のラテライトニッケル・コバルト鉱床やNSW州南西部の黄鉄鉱・コバルト鉱床など、低品位ながら大きな資源量が期待される案件の評価が進められており、中国系・韓国系企業が投資を実施している。特に韓国系の投資が目立っており、Australian Mines社のQLD州Sconiラテライトニッケル・コバルトプロジェクトではSK Innovation社が最大12ktの硫酸コバルトと最大60ktの硫酸ニッケルに関するオフテイク権を最大13年間保有する契約を締結している15ほか、黄鉄鉱に含有されるコバルトの回収事業を推進しているCobalt Blue社のNSW州ThackaringaプロジェクトではLG International社がCobalt Blue社に出資するとともに同プロジェクトの開発・生産に向けた戦略的提携契約を締結している。中国系企業では、Clean TeQ社のNSW州Sunriseプロジェクトのオフテイク権をBeijing Easpring社が保有しているほか、同プロジェクトのプロジェクトファイナンスをICBC(中国工商銀行)が担当している。

表2.豪州における主要なコバルトプロジェクトの一覧

表2.豪州における主要なコバルトプロジェクトの一覧

表中、青字は中国系企業、緑字は韓国系企業の動きを表している
(出展:各社ホームーページや公開情報から作成)

図2.豪州の主要なコバルト案件の位置図

図2.豪州の主要なコバルト案件の位置図

3.レアアースについて

レアアースの世界における鉱山生産量は、2017年で130kt(酸化物換算量)と推定されており、その80%は中国で生産されている16。2011年のレアアース価格高騰以降、中国産レアアースの供給リスクが認識され、中国以外でのレアアース生産プロジェクトの動きが活発化しており、豪州でもWA州Mt Weldプロジェクト、NT準州Browns Rangeプロジェクトでの生産が開始されている。2017年の豪州におけるレアアースの鉱山生産量は20ktと見積もられており、その殆どがMt Weldプロジェクトからと推定される。

表3は、豪州における主要なレアアースプロジェクトのうち、生産中あるいはオフテイク契約などが締結されているプロジェクトの一覧表である。生産物はプロジェクトによって酸化物または炭酸塩混合物に分かれている。Mt Weld鉱山では鉱石の採掘と選鉱が実施された後、精鉱はマレーシアの施設において処理が行われている。2017/18年度、同施設では17,753tの希土酸化物を生産し、そのうち同社が主要生産物と位置づけているネオジム・プラセオジム(Nd・Pr)酸化物は5,444t生産されている17

その他のプロジェクトにおいては、中国企業が着々と投資を進めている状況が見て取れる。NT準州でNorthern Minerals社が推進するBrowns Rangeプロジェクトでは現在パイロットプラントでの試験操業が3年の期間で実施されており、合計3,300tのジスプロシウム(Dy)に富む炭酸重希土混合物が生産され18、全量が中国Guangdong Rare Earths社の51%子会社であるLianyungang Zeyu New Materials社に販売予定である。Northern Minerals社には中国のShandong Taizhong Energy社が出資している他、Lianyungang Zeyu New Materials社も同社の株式を取得するオプションを有していると考えられる。また、Hastings Technology Metals社が推進するWA州Yangibanaプロジェクトでは15kt/yの炭酸希土混合物を生産予定であり、そのうち6kt/yに関しては中国企業3社とのオフテイク契約が締結されている。Arafura Resources社のNolansプロジェクトでは、主要生産物であるNd・Pr酸化物3,600t/yを含めて14kt/yの希土酸化物が生産される見込みで、中国のJinCi(京磁材料)社とNd・Pr酸化物900t/yのオフテイクに関するMOUが締結されている。

表3.豪州における主要なレアアースプロジェクトの一覧

表3.豪州における主要なレアアースプロジェクトの一覧

表中、青字は中国系企業、赤字は日系企業の動きを表している
(出展:各社ホームーページや公開情報から作成)

おわりに

豪州における代表的なテクノロジー金属としてリチウム・コバルト・レアアースを取り上げ、中国系・韓国系企業の動向をまとめた。リチウムやレアアースで中国系企業がオフテイク契約の締結を中心に非常に積極的に活動している一方で、コバルトでは中国系・韓国系の企業が豪州東部の新規案件に投資している様子が明らかとなった。特に、中国の自動車メーカーであるGreat Wall Motor社や、韓国の二次電池メーカーであるLG Chem社やSK Innovation社など、LIBサプライチェーンの下流に位置する企業が、最上流に位置するテクノロジー金属プロジェクトの操業企業と直接契約を締結するケースが複数見られ、今後も同様の流れが加速する可能性もある。豪州では現在、LIB製造工場建設に関する計画が各地で進められており、中国系・韓国系企業の豪州テクノロジー金属業界への投資が今後どの様に推移するか、引き続き注視が必要と考える。


  1. 二次電池に使用される金属を「バッテリー金属」と総称する文献も多々見られるが、本稿では二次電池に限らない先端技術製品に使用される金属に対する総称として「テクノロジー金属」を使用する。
  2. https://www.industry.gov.au/strategies-for-the-future/resources-2030-taskforce
  3. https://www.mediastatements.wa.gov.au/Pages/McGowan/2018/05/New-strategy-to-capitalise-on-once-in-a-lifetime-lithium-opportunity.aspx
  4. https://crca.asn.au/wp-content/uploads/2018/06/Future-Battery-Industries-CRC-Prospectus.pdf
  5. Department of Industry, Innovation and Science (2018) “Resources and Energy Quarterly September 2018”
  6. McKinsey & Company (2018) Lithium and cobalt – a tale of two commodities.
  7. USGS(2018)Mineral Commodity Summaries.
  8. https://www.globalenergymetals.com/cobalt/cobalt-supply/
  9. Department of Mines, Industry Regulation and Safety (2018) 2017-18 Major Commodities Resources File.
  10. GSWA(2018)Investment Opportunity – Cobalt.
  11. BHP (2018) Annual Report 2017.
  12. Glencore (2017) Annual Report 2017
  13. ASX Announcement: Independence Group NL, 08/09/2017
  14. BHP (2018) Nickel West – Energising our future.
  15. ASX Announcement: Australian Mines Limited, 19/02/2018
  16. USGS(2018)Mineral Commodity Summaries.
  17. Lynas Corporation (2018) Annual Report 2018.
  18. Company Presentation: Northern Minerals Limited, November 2018
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