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報告書&レポート

2019年2月5日 メキシコ 事務所 森元英樹
19-06

左派系大統領就任、その行方は?

-2019年メキシコ鉱業-

<メキシコ事務所 森元英樹 報告>

はじめに

2018年7月24日付け カレント・トピックス18-17:AMLO次期メキシコ大統領、鉱業に何を思う(以下、「CT18-17」)において、左派政党である国家再生運動(MORENA)党のAndrés Manuel López Obrador大統領候補(当時:以下、AMLO大統領)が勝利したことからメキシコ鉱業への影響の可能性を紹介した。

2018年7月の選挙後、同年9月に新連邦議会がスタートし同年12月にはAMLO大統領政権が誕生した。9月の連邦議会開始から新政権が誕生するまでの政権移行期間中、MORENA党はAMLO大統領の公約である汚職の撲滅、緊縮財政といった主要課題に関連する政策を次々に打ち出すとともに、それらの政策を実行するため2019年予算を12月に成立させた。さらに、AMLO大統領は、Enrique Peña Nieto前大統領が進めたエネルギー、教育改革、そして、メキシコ新国際空港建設といった公共事業の中止・延期を決定するなど、2018年7月の選挙における圧倒的な勝利、AMLO大統領が大きな政策分岐点である2018年10月に実施した国民投票の結果を背景に、第4次変革(Cuarta Transformación)と名付ける政策を積極的且つ着実に進めている。

また、AMLO大統領の鉱業開発への考えは、環境影響評価の重視及び先住民・住民協議の厳格化、そして、税徴収の徹底にある。また、カナダに亡命していたNapoleón Gómez Urrutia氏を上院議員候補に指名、同氏は、AMLO大統領勝利の勢いに乗り上院議員に当選、当選後は鉱業への関与の可能性を示唆している。JOGMECメキシコ事務所は、タイムリーな情報発信を目的にAMLO政権の動向をニュース・フラッシュで発信しているが、今回、AMLO政権誕生後約2か月が経過し、政策面において不透明な状況が続いていることから、CT18-17後の動きを以下に報告する。

1.メキシコ連邦選挙結果とMORENA党の鉱業政策

(1)鉱山次官の任命、鉱山総局の移転

AMLO大統領は選挙中から首都Mexico Cityの権限一極集中は、一部の人による利益の享受につながり、それが政治腐敗を招き、地方発展、格差是正の阻害要因となっているとし、中央省庁の地方分散化を公約としてきた。この公約において鉱業政策を管轄する鉱山総局は、経済省本体と切り離し図1に示すChihuahua州・州都に移転することとなっていた。

12月1日に就任したGraciela Márquez Colín経済大臣(写真1)は、経済省で貿易救済措置部長、自由貿易協定(FTA)交渉においてアンチダンピング(AD)、相殺関税、補助金、セーフガード(SG)措置の交渉担当等に従事したFrancisco José Quiroga Fernández経済省鉱山次官(写真2:以下、Quiroga次官)を任命した。鉱山総局のChihuahua州への移転作業は同次官により進められている。

新事務所はChihuahua州都に位置するUACH(Chihuahua自治大学)内にある建物に入居することとなり、2018年12月16日に移転式典(写真3、4)が開催された。なお、鉱業関係者によると、2018年12月の段階では、鉱山総局幹部クラスの移転は完了したが、その他職員は文書管理等の作業のため一定期間Mexico Cityに留まり、作業終了後に完全移転に向けた作業が開始されるとのこと。

  • 写真1.Graciela Márquez Colín経済大臣

    写真1.Graciela Márquez Colín経済大臣

  • 写真2.Francisco José Quiroga Fernández経済省鉱山次官(経済省HP)

    写真2.Francisco José Quiroga Fernández経済省鉱山次官(経済省HP)

図1.Chihuahua州位置図

図1.Chihuahua州位置図

更に、Quiroga次官は、鉱業法第9条の規定に基づき、メキシコの鉱物資源の有効活用を促進するために設立された、日本の独立行政法人に類似する組織であるメキシコ地質サービス庁(SGM)新長官にFlor de María Harpを指名した。

JOGMECメキシコ事務所は、2018年7月にSGM研究所オアハカ支部を訪問しFlor de María Harp部長(当時)と面談を行っている。新長官は、鉱業はメキシコ経済の根幹であり、先住民・住民に鉱業を理解してもらうためには根気強い交渉が必要であるとの認識を示していた。なお、新長官は、1980年代に日本政府の研修プログラムで日本に滞在した経験を持ち、特に東北地方での生活に深い思い出を持つ親日家であった。

なお、Quiroga次官は、移転式典において以下5つの鉱業政策の柱を発表した。

・鉱業部門における管理の単純化、合理的、迅速かつ透明化を図る

・各プロジェクトを訪問し、諸問題における実用的な解決策を図る

・SGMは、これまでのデータ収集・管理業務の役割以上の探鉱競争力をつける

・鉱業振興信託(FIFOMI)は、資金調達基盤を拡大し、プロジェクトへの資金の貸付を強化する

・鉱業基金は、住民との協議会を実施するにあたり、プロジェクトの実行可能性を確認し、エヒード、先住民コミュニティが適切な代表者となるよう配慮する。また、鉱業基金の使途を透明化する

写真3.中央省庁地方分散化:鉱山総局移転式典(経済省HP)

写真3.中央省庁地方分散化:鉱山総局移転式典(経済省HP)

写真4.中央省庁地方分散化:鉱山総局移転式典(経済省HP)

写真4.中央省庁地方分散化:鉱山総局移転式典(経済省HP)

(2)鉱業関連法改正の動き

AMLO大統領は、政権移行期間の遊説先(南Baja California州)において、同州に位置するメキシコInvecture Group社が保有するLos Cardonesプロジェクトを名指しし、同プロジェクト開発に関する住民協議を行うと宣言した。さらに、将来的には、その他の鉱業プロジェクトに関しても住民協議のプロセスを取り入れた開発の是非については、国民に判断を委ねたいと付け加えた。なお、同州が位置するバハカリフォルニア半島は、太平洋とカリフォルニア湾に挟まれた生物保護区であり、砂漠気候特有の陸上生物、そして、クジラの繁殖地として世界遺産にも登録されている有名な地域である。このため、同州は、自然環境保全のため鉱業開発には厳しい立場を維持しており、現在も複数の鉱業プロジェクトの許可手続きが停滞している。

さらに、AMLO大統領の宣言を踏まえ2018年11月の連邦議会上院では、SGMに鉱山案件の社会影響調査権限、そして経済省への鉱業コンセッションの取消し権限を付与するという議論が開始された。議論の内容を簡単に整理すると以下のとおりである。

・SGMに鉱業コンセッション、アシグネーション(国有鉱区指定)の対象となる地域の社会的影響の調査権限を付与。そして、経済省には、社会的影響、紛争、持続的開発を精査し、必要な場合には鉱業コンセッションを取消す権限を付与する。なお、詳細条件は細部まで検討する。

・鉱業コンセッション及びアシグネーション地域は、持続可能な発展を原則として、開発地域社会(コミュニティ)及び人権を尊重するものであること。このため、鉱業コンセッション保有者に対し、探鉱及び採掘・抽出活動を行う地域の社会や住民の持続可能な発展のための資金を配分させるとともに社会的影響に関する年次報告書の提出義務を課す。違反者には、鉱業コンセッションの取り消しを行う。

・経済省、SGMに対しては、鉱業コンセッション付与前に十分な協議プロセスを整備させる。なお、経済省には、鉱業コンセッション保有者が保健、教育、労働分野の活動、地域の持続的な発展のために最低限必要な資金の額を決定できる権限を付与する。

この議論の中で、一部のMORENA党議員からは、改正案の一部は既に他法令で整備されており、さらに、鉱山企業は環境、社会影響に関する規制に従っており法改正は必要ないとの意見が出された。加えて、メキシコ鉱業会議所(CAMIMEX)、カナダ政府(在メキシコ大使)は同法改正に強い懸念を表明したことから、議論は中断している。

なお、Quiroga次官は、鉱山総局のChihuahua州移転式典において、「鉱業政策の大幅な変更、頻繁な鉱業コンセッションの取り消し、ロイヤルティの引き上げは行わない」と強調し、先住民・住民族協議は新しい許可手続きの際に行うものであると説明した。さらに、「法律は不遡及の原則があり、これまで承認された権利は侵害されることはない。このため、企業の権利もコミュニティの権利も侵害されない」と強調し、AMLO政権による約26,000件の鉱業コンセッションの見直しの可能性を排除した。

その他、2018年12月にGraciela Márquez経済大臣は、鉱山における事故が続いていることから、鉱山保安法令の見直しを関係部局に命じた。また、MORENA党連立与党の労働党(PT)は、2014年に鉱業活動の利益の地域還元を目的に創設された鉱業特別税、貴金属鉱業特別税を活用した鉱業基金の運用の透明性向上を図るとともに、基金が鉱山地域のインフラプロジェクト、治安対策に確実に利用されるため、規則の変更が必要であると提唱している。そして、Napoleón Gómez上院議員(労働委員会委員長、鉱山委員会委員)は、鉱山企業は政府の財源により貢献すべきであり、鉱業関連税の引き上げを検討すべきであるとの考えを示した。更に、現行の鉱業コンセッション制度は、一部の企業のみが利益を享受する仕組み(注:鉱業コンセッションを長期間保有し続けている企業がいることを指摘していると考えられる)であるとし鉱業法改正の必要性を主張した。なお、同議員によると、これらの議論は2019年2月の連邦議会から審議が開始される。

(3)反鉱山運動

AMLO政権誕生以降、大型の反鉱山運動は発生していないが、Veracruz州では、ベラクルス環境保全イニシアチブ(Lavida)が、AMLO大統領及び同州知事に対し、鉱山操業は河川、生態系に影響を与えるものであり、鉱業基金による地域支援ではなく、州内全ての鉱業コンセッションの取り消しを求めるとしたデモを行った。

また、Puebla州Tecoltemi郡の先住民コミュニティは、Mexico Cityにおいて、Almaden Minerals社子会社が保有するコンセッションは、国際労働機関(ILO)条約第169条に定める先住民協議を行っていないと主張したほか、Quiroga鉱山次官はAlmaden Minerals社のイベントに出席し、政府による支援を表明したことに対し、鉱山反対派の尊厳を踏みにじるものであったと非難するデモを行った。

2.鉱業投資の見通し

鉱業投資額は図2に示すとおり、金属市況の下落、2014年に施行された鉱業特別税、貴金属鉱業特別税の影響に加え、これらの税の創設時に探鉱費の控除年数を10年から1年に短縮したことから、2012年から2016年まで4年連続で減少し続けてきた。

しかし、2017年には金属市況が回復基調を示したことから貴金属を中心に投資額が上昇し、全体の鉱業投資額は5年ぶりに増加、2018年は2017年比22%増となる見込みであり、2019年も好調を維持すると予想されている。

図2.メキシコ探鉱投資額の推移(メキシコ事務所作成)

図2.メキシコ探鉱投資額の推移(メキシコ事務所作成)

2019年注目プロジェクトとしては、Grupo México社がSonora州に保有するEl Pilarプロジェクトがあり、35千t/yの銅を生産するため350mUS$が投資される計画である。また、Industrias Peñoles社がGuerrero州に保有するRey de Plata鉱山は303mUS$が投じられ、40千t/yの亜鉛、146t/yの銀、7千t/yの銅、9千t/yの鉛が生産される計画である。さらに、これまで11年間、鉱山労働者によるストライキにより操業を停止していたGrupo México社のSan Martin鉱山は77mUS$が投じられ、20千t/yの亜鉛、87t/yの銀、8千t/yの銅、1千t/yの鉛の体制で生産が再開される予定である。2019年1月現在、操業再開に向けた作業が進められているが、ストライキの原因となったメキシコ全国鉱夫・冶金・鉄鋼労組(SNTMMSSRM)とは訴訟問題となっており、SNTMMSSRMと深い関係を有するNapoleón Gómez Urrutia上院議員がこの件にどのように関与するかについては注目が集まる。

新規プロジェクト以外には、加Goldcorp社がZacatecas州に保有するPeñasquito鉱山があり、パイライトリーチングプラントの運転による低品位粗鉱ストックの処理により2018年生産量は大幅に減退したが、同プラントの本格稼働により2019年は生産量が大きく改善すると見込まれている。また、期待の小規模プロジェクトとしては、加Candelaria Mining社がZacatecas州に保有するPinosプロジェクトがあり、同プロジェクトは2019年に13.5mUS$が投じられる計画であり、高収益プロジェクトとして期待されている。

その一方で、加Endeavour Silver社は、同社が保有するGuanaceví、Bolañito、El Cubo鉱山の開発計画見直しと予算削減、そして、探鉱プログラムの予算削減を発表した。加えて、Jalisco州に保有するTerroneraプロジェクトの開発延期を発表するなど厳しい状況が続いている。また、加Alio Gold社は、同社がGuerrero州に保有するAna Paulaプロジェクトの探鉱・開発計画の中止を発表。加First Majestic Silver社は、同社が保有するLa Guitarra鉱山においてメンテナンス作業の開始を発表した。この際、同社は2018年に買収したSan Dimas鉱山への投資の集中が目的であると説明したが、報道では、金属価格下落が同社の投資に大きく影響しているとのことであった。そして、2019年に入り、加Great Panther Silver社は、同社の低コスト鉱山であるSan Ignacio鉱山に操業を集中させるため、主力鉱山の1つであるGuanajuato鉱山の操業を停止すると発表している。

なお、2020年には、Fresnillo社と加MAG Silver社が共同開発しているJuanicipioプロジェクト、Grupo México社が保有するBuenavista亜鉛プロジェクトが操業を開始する予定であり、さらに、加Sierra Metals社が保有するBolívar鉱山では拡張工事が、加McEwen Mining社が保有するEl Gallo鉱山ではマインライフの延長を目的としたFenixプロジェクトがそれぞれ開始される予定である。

おわりに

メキシコにおいて操業中の多くの鉱山企業は、比較的堅調なキャッシュフローを維持しているものの、今後、金属価格が下落した場合、2019年以降に予定されているプロジェクトに影響が出る可能性がある。加えて、Grupo México社と根深い確執を持ち、メキシコ鉱業に深く精通するNapoleón Gómez上院議員の増税発言は、AMLO大統領の任期中に増税を行わないとする公約に反するものであり、同議員を公認したAMLO大統領との軋轢が生じる可能性を秘めているだけではなく、鉱山投資計画に与える影響は大きい。また、2018年12月以降の連邦議会上院では、与党内の鉱山推進派と規制強化派の意見の対立が浮き彫りとなるなど、鉱業法改正を含めたメキシコ鉱業政策は不透明な状況が続くと考えられ、Napoleón Gómez上院議員が発言した2019年2月以降の連邦議会における議論には注視が必要である。

このため、メキシコ事務所は、鉱業法改正を含めた政策動向を引き続きニュース・フラッシュを通じ精力的に発信するとともに、今回説明した鉱業基金の運用状況などの個別政策についてカレント・トピックスによる情報発信をしていきたい。

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