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報告書&レポート

2019年2月26日 ジャカルタ 事務所 南博志
19-07

インドネシア鉱物資源高付加価値化政策に伴う Freeport McMoRan社・Grasberg鉱山事業の行方(その2)

<ジャカルタ事務所 南博志 報告>

はじめに

米大手鉱業会社Freeport McMoRan社及びインドネシア政府は2018年12月21日、世界有数のGrasberg銅金鉱山を操業するPTFI(PT Freeport Indonesia)の株式の過半数を政府(国営鉱業持株会社Inalum(PT Indonesia Asahan Aluminium))が所有することに関して、株式売買を完了したこと及び、PTFIはインドネシア政府から新しく特別鉱業事業許可(IUPK)を付与され、鉱業契約延長交渉が完了したことを発表した。これにより、2009年の鉱業法改正から始まりインドネシア政府が推進してきた鉱物資源の高付加価値化政策の行方を象徴する案件として、国内のみならず世界中の関係者が注目していた交渉が決着した。

ジャカルタ事務所は、前回報告(2018年8月24日付 カレント・トピックス18-21:インドネシア鉱物資源高付加価値化政策に伴うFreeport McMoRan社・Grasberg鉱山事業の行方)で同年7月12日の基本合意に至るまでの交渉の経緯、ポイント、合意の内容、今後の見通し等について報告した。それに引き続き、本稿では、前回報告後の交渉経緯、交渉決着の概要、決着後の動き及び今後の見通しについてとりまとめ、報告する。


図1.Grasberg鉱山 露天採掘場(Google Earthより)

図1.Grasberg鉱山 露天採掘場(Google Earthより)

1.Grasberg銅金鉱山概要

Grasberg銅金鉱山は、南太平洋のニューギニア島の西半分を占めるインドネシア領Papua州Mimika県の標高2,600~4,000mの高地に位置する。

図2.Grasberg銅金鉱山位置図

図2.Grasberg銅金鉱山位置図

インドネシア最大にして、世界でも有数の銅・金鉱山である。所有企業はPTFI。2017年の生産データは、鉱石処理量が140,400t/日、鉱石品位は銅1.01%、金1.15g/t、生産量(精鉱中含量)は銅446千t/年、金1,554千oz/年である。生産した精鉱は、同国内のGresik製錬所で処理される他、スペイン、アジア諸国の製錬所に輸出されている。なお、同鉱山は露天採掘の深部化に伴う生産コスト上昇に対応するため、徐々に坑内採掘(複数の鉱床を順に開発)へと移行しており、2019年には露天採掘を終了する予定である。よって、2019~2020年は生産量が減少する見込みとなっている。

2.Freeport McMoRan社とインドネシア政府の交渉

前回報告にも掲載したが、2018年7月12日の基本合意内容は表1のとおりである。

表1.2018年7月12日 基本合意内容
ポイント 合意内容
鉱業契約・許可の延長 2041年までを有効期限とするIUPKを付与
国内新規製錬所建設 5年以内に新規国内製錬所を建設
国内への資本譲渡 Rio Tintoの40%権益を株式転化し(35億US$)、Freeport McMoRan社子会社PT Indocopper Investama保有株式9.36%(3.5億US$)と合わせて、PT Inalumに総額38.5億US$で売却
その他 ・政府保有株式のうち10%を地方政府に割当
・鉱山オペレーターは引き続きFreeport McMoRan社
・Grasberg鉱山の環境問題の解決は、契約の先行条件の一つ

また、PTFI株式に係る国内への資本譲渡(株式売却)をまとめると表2のとおり。
(※ 小数点3位以下の四捨五入において前回報告の数字に誤りがあったので、修正した。)

表2.PTFI株式の資本譲渡
株主 現在 40%権益の株式転化後
(他株式は希薄化)
資本譲渡後
Freeport McMoRan 81.28% 48.77% 48.77%
Inalum 9.36% 5.62% 51.23%
Indocopper Investama 9.36% 5.62%
Rio Tinto (40%の生産物権益) 40.00%

その後の詳細な交渉については水面下で着々と進行していたものと思われる。公表された事項等に基づき、交渉決着までの流れを時系列で下記のとおりまとめた。

(a)政府が、鉱業会社に適用する法人税率等に係る共和国政令を制定

政府は8月2日付で、鉱業会社に適用する法人税率等に係る共和国政令『鉱業分野の税務・税外収入に係る政令 2018年第37号』を制定した。本政令の内容の中で本交渉に関係ある項目は、①既にIUPKを所有している鉱業会社等に加え、鉱業事業契約(CoW)からCoW期間満了前にIUPKに切替えた鉱業会社も対象にして、法人税率を一般企業と同じ水準の25%に設定、②法人税のほか、現行どおりの中央政府に純利益の4%、地方政府に同6%を納付、③これら税率・納付率は当該IUPK付与期間中は固定であった。

これにより、IUPKを保有している鉱業会社は、税額や納付額についての長期的な見通しを立てることが可能となった。具体的には、PTFIの法人税率はこれまでのCoW上の35%固定から25%固定に下がることとなった。本政令の施行によりGrasberg銅金鉱山を操業しているPTFIにおいても長期財務見通しを立てることが可能となったため、この政令制定は鉱業契約延長交渉でのFreeport側が要求していた投資の安定性という問題の解決策となった。

(b)政府が、株式売却の手順および売却株式の価格決定の仕組みに関するエネルギー鉱物資源大臣令を改正

政府(エネルギー鉱物資源省)は9月25日付で、『株式売却の手順および売却株式の価格決定の仕組みに関するエネルギー鉱物資源大臣令2018年第43号(2017年第9号の改正)』を制定した。本改正大臣令の改正点のうち、①国有企業等が株式取得に興味を表明した場合は入札を行うこととなっているが、その入札のプロセスを規定した条項を削除、②株式売却方法として、直接か間接かを問わず新株発行及び/もしくは既存株式の譲渡売却を通じて行うことができる条項を新設、③譲渡額にIUPK有効期間内に採掘が可能な埋蔵量の評価額を算入できるように譲渡額算定基準の条項の改正等が本交渉に伴う改正となった。

本大臣令の改正は、株式売買契約の締結にあたり法制面からその環境を整えたものと見られる。要は、実際に行われるであろう株式売買取引の方法・内容等に合わせる形で、大臣令を改正したものであった。

(c)国営鉱業持株会社Inalum、Freeport McMoRan社及びRio Tintoの3社による株式売買契約の締結

Inalum、Freeport McMoRan社及びRio Tintoの3社は9月27日、InalumのPTFI株式過半数取得に関する株式売買契約を締結した。基本合意内容に基づいて、Rio Tintoの40%生産物権益を株式転化し(35億US$)、Freeport McMoRan子会社PT Indocopper Investama保有株式9.36%(3.5億US$)と合わせて、Inalumに総額38.5億US$で売却する内容であった。取引完了後、Inalumの株式所有比率は51.23%になり、そのうち10%分は地方政府(Papua州及びPapua州Mimika県)に割当てられる予定とされた。

(d)Inalumが株式取得費用等を調達(Grasberg鉱山の環境問題含む)

Inalumの株式取得費用の調達については、当初Inalumは銀行団からの借入を計画していた。しかし10月18日、銀行団が取得価格総額38.5億US$の融資にあたり、環境問題解決を条件としているため交渉が難航していると報じられた。それに対しPTFIは、環境林業省による行政指導・改善勧告の8割弱は既に解決済みで現在は残りの問題の解決に取り組んでおり、併せて鉱山廃棄物削減等について政府と協議を進めていると説明していた。

ところが11月11日、Inalumがシンガポール証券取引所にて総額40億US$のグローバル債券を発行したことが報じられた。これはPTFIの株式取得費用等の調達のためとされている。

(e)その他

同鉱山からの銅精鉱輸出については政府の収入にかかわる問題でもあるため、交渉の間、政府から特別の配慮がなされていた。2017年1月の政省令改正直後に輸出停止になったものの、2017年2月以降は暫定IUPKを付与して輸出を許可、合計8回期限を延長し対処してきた(最終的には2018年12月末までが期限となっていた)。

3.交渉決着の概要

2018年12月21日、Freeport McMoRan社及びRio TintoはPTFI株式のInalumへの株式売却を完了し、これによりインドネシア国内への51%以上の株式譲渡が実現した。また、PTFIは政府から新しくIUPKを付与され、2年近くにわたった鉱業契約延長交渉が完了した。本件に関し、エネルギー鉱物資源省、Freeport McMoRan社及びRio Tintoの3者は同日付でニュースリリースを行った。

株式譲渡は上記株式売買契約のとおり、Rio Tintoの40%生産物権益を株式転化し(35億US$)、Freeport社子会社PT Indocopper Investama保有株式9.36%(3.5億US$)と合わせて、Inalumが総額38.5億US$で買収するという方法で行われた。その結果、株式売買契約どおり、インドネシア側の株式所有比率は51.23%となった。Inalumは今後、51.23%のうち10%をPapua州等地方政府に譲渡する。

また、鉱業契約・許可の延長の問題については、政府がPTFIに新しく付与したIUPKは2031年が期限で、5年以内に新規国内製錬所建設を完了させること及び政府に対する財政上の義務を果たすことを条件に、2041年までの延長を認めるとしている。この条件における財政上の義務には、法人所得税25%、純利益税10%、ロイヤルティについては銅4%及び金3.75%が含まれている。

なお、環境問題については、PTFIが尾鉱(鉱業廃棄物)の増加とその有効利用に関して継続的改善を行うロードマップを作成した。環境林業省は継続的監視を行い対処していくと発表している。

報道によると、Joko Widodo大統領は12月21日、ジャカルタの大統領宮殿(Istana Merdeka)にてFreeport McMoRan社のRichard Adkerson CEOと会談を行った。その後の会見にて、大統領は「インドネシア側のGrasberg鉱山への過半数出資が実現した。1973年にGrasberg鉱山が操業を開始して以来の歴史的な瞬間である」と強調し、Adkerson CEOは「2041年までの操業が可能になったほか、法的及び財務的にも操業確実性が得られ、win-winの結果をもたらす交渉決着であり、これはFreeport社とインドネシアの新しい長期的パートナーシップの始まりである」と述べた。最終的に2018年内に交渉が決着した背景には、大統領の意向も大きく働いたとされており、2019年4月に予定されている次期大統領選挙に向けたアピールポイントの一つとする目論見があるという見方もある。

4.決着後の動き及び今後の見通し

交渉決着後の動き及び今後の見通しについて下記にまとめる。

まず、新規の国内製錬所建設については、2017年1月政省令改正後5年経過後の2022年1月ではなく正式IUPK付与後5年の2023年12月を期限とすることを、エネルギー鉱物資源省が2019年1月15日に明らかにした。PTFIは東Java州GresikのJava統合産業港湾団地での製錬所建設計画を単独で進めている。その他に、AMNT(PT Amman Mineral Nusa Tenggara)と共同で計画していた西Nusa Tenggara州Sumbawa県での新規製錬所建設案件も話が無くなったわけではないが、優先順位として後回しにされている。

また、1月16日付の報道によると、PTFIに対してGrasberg鉱山周辺の森林使用許可証が発行された。この背景には、同鉱山の環境問題についてはPTFIが上記3.中のとおり対処していくことで合意しており、かつ、PTFIは過去の森林使用に関する制裁金4,600億IDR(約35.7億円)を支払うという事実も存在している。

なお、この環境問題も含めて、本件株式取得に対して野党等国会議員から批判の声が上がっている。批判のポイントは、株式売買取引に関して取得価格が過大で国益に反するものになっていないか、汚職や不正がないか、環境面の問題を抱える必要があるのか等となっている。一方、有識者から本取引が法令違反であるとする声も上がっている。

Grasberg鉱山の今後については、上述のとおり、2019年には坑内採掘へと移行し露天採掘を終了する予定であるため、2019~2020年には生産量が減少する計画となっている。従って、エネルギー鉱物資源省も生産量の増加が見込まれる2021年以降にならないと政府の収入が安定しないと理解しているとのこと。なお、2021年から生産量は増加し、2022年中にフル生産に達し、2023年には採掘・生産が安定すると見られている。

おわりに

本件は、冒頭にも記したようにインドネシアの鉱物資源高付加価値化政策の行方の象徴として、国内のみならず世界中の関係者が注目していた案件であった。インドネシア国内では批判の声もあるものの、政府としてはこの決着が現在の鉱物資源高付加価値化政策の正当性を裏付けるものとして捉えていると見られ、本政策の今後の継続を後押しするものとなるであろう。もちろん、本件の今後の動きひいては鉱業政策動向、そして、残っているSorowakoニッケル鉱山を所有する外資PT Vale Indonesiaの株式売却(全体の20%を2019年10月までに売却予定)も注目されるが、この結果が周辺の東南アジアさらには世界の資源国の鉱業政策に影響を及ぼすかどうかについても、注視し情報収集に努めることとしたい。

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