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報告書&レポート

2019年4月9日 金属企画部 国際業務課 久保田博志、中村峻介
19-09

Mining Indaba 2019参加報告

―電気自動車時代におけるサプライチェーンの変革―

<金属企画部国際業務課 久保田博志、中村峻介 報告>

はじめに

JOGMECは、2019年2月5日、南アケープタウンで行われたアフリカ最大の鉱業大会「Mining Indaba 2019」において、JOGMECセッション「電気自動車時代におけるサプライチェーンの変革」を開催した。

その目的は、近年の電気自動車の普及に伴い車載用電池の原材料として注目されているコバルト・ニッケルなどの鉱物資源が豊富に賦存するアフリカの資源国・資源会社と、我が国の電気自動車に関わる自動車メーカーや電池メーカーとの情報共有の場を提供し、これらの鉱物資源の安定供給確保に繋げることである。我が国政府からは関経済産業副大臣、自動車メーカーと電池メーカーからはそれぞれ本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)、パナソニック株式会社(以下、パナソニック)が講演を行った。本稿ではJOGMECセッションの報告を通して官民が考える電気自動車の今後の動向について紹介する。

1.Mining Indaba 2019とは

Mining Indaba 2019は、アフリカに関する世界最大の国際鉱業投資会議であり、今年は、約40か国のアフリカ鉱業担当大臣・政府高官、国際機関、英Anglo American・英Rio Tintoなどの資源メジャー、印Vedanta社や加Barrick Gold社、加Ivanhoe Mines社などのジュニア探鉱会社を含む民間鉱山会社から数千人が参加した。25周年の節目の開催となった今回は、Gwede Mantashe南ア鉱物資源大臣のオープニングスピーチから始まり、昨年政権の座に就いたCyril Ramaphosa南ア大統領やNana Addo Dankwa Akufo-Addo・ガーナ大統領など国家元首級も参加し、展示ブース件数約180件と例年になく盛大な会議となった。

  • 写真1.南ア鉱物資源大臣講演 (メイン会場)

    写真1.南ア鉱物資源大臣講演
    (メイン会場)

  • 写真2.Mining Indaba 2019メイン会場 (ケープタウン国際会議

    写真2.Mining Indaba 2019メイン会場
    (ケープタウン国際会議場)

2.Battery Metals Dayとは

Mining Indaba 2019のテーマの1つであるBattery Metals Dayでは、2月4日、5日の二日間にわたり、JOGMECセッション(講演会)のほか、需要サイド・供給サイドからの電池材料に関するプレゼンテーションやパネルディスカッションが行われた。

需要サイドからは、電気自動車や車載用電池の需要見込みに関する講演が行われた(例えば、「What do car makers and battery manufacturers want over the next 10 years and how should the mining sector change to meet their needs」(講演者:Ted J. Miller, Senior Manager – Energy Storage Strategy and Research, Fordほか))。

供給サイドからは、コバルト資源の主要供給国として注目されているザンビアとDRコンゴを対象として、それぞれ「What is the government doing to increase the supply?」、「Discussing the importance of ethical cobalt mining in the DRC for bringing the EV- & battery industry forward」と題したパネルディスカッションが企画されたほか、コバルト・ニッケル・リチウム等を探鉱・開発する企業によるプレゼンテーションが多数行われた。

写真3.講演者

写真3.講演者

3.JOGMECセッションの内容

JOGMECセッションは、「電気自動車時代におけるサプライチェーンの変革」(Changing the Supply Chain in the age of Electric Vehicle)をテーマとして、Battery Metals Dayにおいて我が国の世界的な自動車メーカー、電池メーカーが直接自社の戦略等を発表する中心的なイベントとして行われた。以下、本セッション内の各講演の概要について報告する。

写真4.JOGMECセッション会場の様子

写真4.JOGMECセッション会場の様子

(1)JOGMEC挨拶(細野哲弘理事長)

電気自動車の普及に伴いコバルトなど新たな鉱種が注目されているこの時期に、日本政府や自動車メーカー、電池メーカーを招いて電池材料をテーマとしたJOGMECセッションを開催することは有意義である。アフリカは高い経済成長が期待されるとともに豊富で良質な鉱物資源が埋蔵し、日本も白金・パラジウム・クロム・マンガン等はアフリカ諸国からの輸入が大きな割合を占めており、アフリカの重要性は今後も増大するとの見通しのもと、JOGMECは2019年2月1日、ヨハネスブルクに事務所を開設した。その上でJOGMECは、同事務所を通じてアフリカにおける活動をより一層促進し、アフリカ諸国の鉱業の発展と日本との関係深化を加速させる機会となることを期待したい。

(2)経済産業省(関芳弘副大臣)
講演タイトル:Japan’s contribution to fighting Climate Change with EV technology

現職である経済産業副大臣の前に就いていた環境副大臣の経験を踏まえて、気候変動に対する取り組みの観点から講演を始める。世界の持続可能な成長のためには、二酸化炭素排出量の削減と温暖化に伴う気温上昇の抑制が不可欠であり、2015年に採択されたパリ協定では、日本は二酸化炭素排出量を26%削減することを目標に掲げた。運輸部門における二酸化炭素の全排出量は、発電分野の次に多いことから、この分野で電動車(EV)による対策を取ることが重要である。また、日本は世界において自動車製造のリーダーであり、日系企業は2017年にはハイブリッド車(HEV)及びプラグインハイブリッド車(PHEV)市場で89%の世界シェアを占めていることから、日系企業は来るべき電動車時代においても技術的優位性を有し、電動車の普及にも貢献していくことが可能である。

車載用リチウムイオン電池の製造には、リチウム・ニッケル・コバルト・グラファイトなどの資源が必要であり、アフリカ地域はニッケル・コバルト・グラファイトの資源ポテンシャルを秘めている。特に、アフリカの最も特徴的な点は世界的にも偏在するコバルト資源が豊富であることである。国際エネルギー機関によるコバルト需要の増加予測と、コンサルティング会社の供給予測から、2025年以降、コバルト市場は逼迫すると予想されており、コバルトの新たな供給源を確保することが安定したサプライチェーンの鍵である。

日本は、世界・アジア市場においてもリチウムイオン電池の高いシェアを誇っており、リチウムイオン電池とその構成部品・材料の強固なサプライチェーンは日本の基幹産業である自動車産業につながっている。このサプライチェーンを維持するために、経済産業省はJOGMEC・JBIC及びNEXIを通じた本邦企業の上流資源開発投資への支援措置を講じることに加え、サプライチェーンの上流にある鉱山会社と、下流にあるバッテリー・自動車産業を結びつけ、日本全体としての資源調達における購買力を最大化させることを目標としている。また、日本はアフリカとの関係を単なる資源供給国としてではなく、Win-Winの関係性を築くべき重要なパートナーとして見ており、鉱山投資による経済発展と持続可能性を実現すべく、あらゆる施策を講じていく。

(3)本田技研工業株式会社(貝原典也常務執行役員 購買本部長)
講演タイトル:Battery as a Key Driver for Mobility in the Decarbonized Society

自動車業界は排出ガス、地球温暖化、エネルギーの3つの問題に直面する一方で、過去数年間の世界的な電動化への動きは予想以上に大きい。その上で、ホンダは2030年までに電動自動車を年間売上高の3分の2にすることを目標とする(内訳は、プラグインハイブリッド車(PHEV)を含むハイブリッド車が50%、電気自動車(BEV)と燃料電池車(FCV)合わせて15%)。これは現在の日本の電動車の割合が30%弱、世界は約4%であることから非常に高い目標である。

電気自動車の開発と普及の成功には、技術面・経済性・社会性の3つの要因が重要である。

技術面では、より早くより簡単な充電機能の実現のために、モーター・パワーエレクトロニクス・バッテリー等の電気自動車向けドライブユニットの高出力、小型、高効率技術の開発に取り組んでいる。電池開発で注目しているのはエネルギー密度であり、現在ハイブリッド車には液体電解質を含むリチウムイオン電池を使用しているが、エネルギー密度、電力密度、その他の性能面でほぼ限界に近づいており、固体電池などの次世代電池の研究開発が盛んに行われている。

経済性では、電気自動車の総コストの35~45%を占める電池のコストダウンが課題である。特に、バッテリーコストの約60%を占める原材料、その中で割合の高いコバルト(コストの14%を占める)とニッケル(同7%)の価格変動は電気自動車のコストに大きな影響を与える。

社会性については、自動車にとどまらず社会の電動化を見据えたエネルギーを有効利用する都市開発(スマートシティ)や、循環経済のための再利用とリサイクルによるトータルライフサイクルの向上が必要となる。

自動車メーカーは、原材料の供給源も含めた自社製品のサプライチェーンについて説明責任を負っており、そのためには関係国政府の理解と協力が必要である。自動車産業が直面する困難や課題は将来の発展のための好機であり、官民の協力によるビジネス環境の安定性・透明性及び革新的技術の確立が期待されている。上流の資源産業と下流のOEMが連携することによってこそ、関係するすべての産業が脱炭素社会で成功を収めることができると認識している。

(4)パナソニック株式会社(田中一紀グローバル調達社部長)
講演タイトル:Procurement Trend of Raw Materials for Battery

パナソニックの主力事業である電池事業、車載用電池に必要な原材料の需要に対する見方、原材料調達方針を紹介する。

2018年に会社設立100周年を迎えたパナソニックは、車載用電池の世界トップクラスのシェアを誇るに至り、様々なタイプの車載用電池を生産し、電池事業の中核製品となった。パナソニックは、今後の車載用電池の需要増加に備え、米国・中国・日本にそれぞれ生産拠点の拡充を図り世界をリードする企業でありたい。

今後の見通しとして、電気自動車関連材料の消費量は2015年と比較して2030年にはコバルト、リチウム、ニッケルはそれぞれ約5倍、10倍、20倍に増加が見込まれる。コバルトは、市場規模が小さいが電池産業の占める割合が高く、DRコンゴに偏在しているため価格が不安定であり、また企業の社会的責任(CSR)の問題等もあることから、バッテリー1個あたりのコバルト使用量は減少するが、コバルトのバッテリー向け総需要量は増加する(コバルト使用量の少ないバッテリーにシフトするが、電気自動車事業の成長により絶対量は増加する)。リチウムとニッケルは、バッテリーの需要拡大に伴って使用量は増加、特にニッケルは劇的に増加するだろう。

原材料の調達に関しては、上流から下流へのサプライチェーン全体を管理することで責任ある調達や安定した価格による確保が重要である。高い品質レベルが要求される車載用電池には原料の安定した品質や信頼性が必要であり、また、EV市場成長のためにはバッテリーの安全性と信頼性を保ち、上流企業と長期にわたる戦略的パートナーシップを確立することが重要である。

  • 写真5.JOGMEC細野理事長 開会挨拶

    写真5.JOGMEC細野理事長
    開会挨拶

  • 写真6.関経済産業副大臣講演

    写真6.関経済産業副大臣
    講演

  • 写真7.貝原ホンダ常務講演

    写真7.貝原ホンダ常務
    講演

  • 写真8.田中パナソニック部長講演

    写真8.田中パナソニック部長
    講演

  • 写真9.JOGMEC廣川理事 閉会挨拶

    写真9.JOGMEC廣川理事
    閉会挨拶

  • 写真10.司会:JOGMEC福田ロンドン事務所次長

    写真10.司会:JOGMEC
    福田ロンドン事務所次長

おわりに

JOGMECセッションは、各国政府高官やメジャー企業等から200名以上の聴衆が参加するなど、電池材料への関心の高さを示していた。特に本セッションは、国際鉱業会議では珍しく、世界有数の自動車メーカー・電池メーカーが、直接、電気自動車・車載用電池の市況見込みや生産・技術開発・原材料調達戦略を紹介するなど、資源産業の上流企業にとってはエンドユーザーが何を求めているのかを知る機会となり、またエンドユーザーは資源企業の考えを知る貴重な情報共有の場となった。Mining Indaba 2019のホームページにおいてもホンダとパナソニックの参加についてはイベントのハイライトとして取り上げられるなど反響は大きかった。

本セッションは、自動車産業における電気自動車の急速な普及に代表されるような社会や産業の構造変化によって、資源開発が鉱山会社だけのものではなくエンドユーザーにとっても無関心ではいられないこと、また、鉱山会社にとってもエンドユーザーの動向が資源開発に大きな影響を与える時代が既に到来していることを再認識するものとなったとともに、両産業の持続可能な発展のために双方が協力して資源開発に関わることの重要性を示すものとなった。

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