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報告書&レポート

2019年4月12日 メキシコ 事務所 佐藤すみれ
19-11

メキシコ鉱業基金に変化

―創設から4年経過した鉱業基金の現状とSonora州の運用事例―

<メキシコ事務所 佐藤すみれ 報告>

はじめに

「鉱業州及び自治体の持続的地域開発基金」(以下、鉱業基金という。)はメキシコ前Peña Nieto政権時の2014年に創設された基金であり、鉱業活動によって得られた利益を鉱業地域周辺住民に対し分配し、住民の生活の質を高めることを目的としている。本レポートでは、創設5年目に入る同基金の運営状況と、分配額国内第1位であるSonora州の2つの自治体における同基金の活用事例とその現状を紹介するとともに、2018年12月に誕生したAndrés Manuel López Obrador大統領(以下、AMLO大統領)が党首を務める与党・国家再生運動(MORENA)党による、同基金運営に関する法令改正の現状を報告する。

1.鉱業基金の概要

鉱業基金は、2013年10月の関税法改正に伴い創設された鉱業特別税及び貴金属鉱業特別税を原資とし、2014年1月より運用が開始された。制度の目的は、鉱業採掘地域周辺住民の生活の質を高めることとされ、基金を利用する対象事業は連邦関税法第271条において以下のとおり定められている。

I. 学校及び都市の公共空間における建設、改装、設備整備事業

II. 環境に配慮した道路舗装や維持、管理、高いエネルギー効率かつ、再生可能エネルギーを利用した公共用照明設置事業

III. 衛生埋立処分地、水処理施設、公共下水道、固形廃棄物統合管理を例とする、空気、水及び土壌の質改善のための環境保全事業

IV. 水界及び土壌生態系の保護・再生・保全と野生生物保全事業

V. 都市移動性に効率化をもたらす、低炭素型の郊外電車、地下鉄、その他の公共交通機関を含む事業

2.鉱業基金の原資と分配に関して

(1)鉱業基金の原資

同基金は2013年の税制改革により連邦関税法第268条、第269条、第270条において制定された鉱業特別税及び貴金属鉱業特別税が原資となっており、農地土地都市開発省(SEDATU)が資金管理を担っている。鉱業企業等に支払いが課せられる鉱業特別税率は、企業のEBITDAに対し7.5%、貴金属を採掘又は抽出する企業等に対しては、売上高に対し0.5%がさらに課される。また、2年以上9年以下の間に鉱業活動が行われていない場合は50%、10年以上鉱業活動が行われていない場合は100%の税率が割り増しとなる。鉱業基金への繰入額は運用初年度である2014年の2,090.71百万MXN(ペソ)から、2017年には3,705.37百万MXNへと推移している(図1)。なお、資金は政府開発銀行である貯蓄金融サービス銀行(BANSEFI)に預託されている。

図1.鉱業基金繰入額の推移(百万MXN)

図1.鉱業基金繰入額の推移(百万MXN)

(2)鉱業基金の分配率

鉱業基金の分配は連邦関税法275条に規定されており、77.5%が地方政府(内訳は自治体62.5%、州政府37.5%)、20%が連邦政府、そして2.5%がSEDATUに分配されることとなっている。また、地方政府(自治体分)へ分配された鉱業基金の各自治体(市町村郡)への分配率は、「各自治体における鉱業生産額」を「州における鉱業生産額」で除した割合で算出される。

自治体への分配率

2017年鉱業基金の分配は28州、227自治体が対象であり、州別では、第1位がSonora州で30%、第2位がZacatecas州で19%となり、この2州が全体額に占める割合は約50%となっている(図2)。

図2.2017年州別鉱業基金分配額(百万MXN)

図2.2017年州別鉱業基金分配額(百万MXN)

また自治体別では、分配額上位5位の自治体であるCananea市(墨Gurupo México社の子会社Southern Copper社がBuenavista銅鉱山を操業中)、Mazapil市(加Goldcorp社のPeñasquito銀鉱山が操業中)、Fresnillo市(墨Peñoles社の子会社Fresnillo社が同名の金・銀鉱山を操業中)、Nacozari de García市(Southern Copper社がLa Caridad銅鉱山を操業中)、Caborca市(Fresnillo社がLa Herradura金・銀鉱山を操業中)が全体の約3分の1を占めている(図3)。鉱業生産額で分配割合を算出することから、大型鉱山が操業する一部の地域に分配金が集中して配分される仕組みであることが見て取れる。

図3.2017年自治体別鉱業基金分配額(百万MXN)

図3.2017年自治体別鉱業基金分配額(百万MXN)

(3)各州、自治体に対する分配金送金までの流れ

経済省は2.(2)による分配率の下、各自治体に分配される鉱業基金の額を算出し各自治体に通達する。その後、自治体は、分配された鉱業基金額を上限とし、連邦関税法第271条に規定されている対象事業から必要とするプロジェクトを検討し、SEDATUに予算の申請を行う。その後、SEDATUの諮問機関である地方開発委員会が各自治体から提出されたプロジェクトの審査を行い、各プロジェクトの予算額を承認する。分配金送金のプロセスには、経済省、SEDATU、BANSEFIの3機関が携わり、次の手順で承認される。

図4.分配金送金までの流れ

図4.分配金送金までの流れ

※1.地方開発委員会は、SEDATU大臣あるいは同大臣が任命する者が委員長を務め、これに、州政府代表1名(州知事や州経済大臣など、各州によって異なる)、鉱業地域の自治体代表1名、鉱山企業代表者1名、先住民コミュニティあるいはエヒード(土地を保有する農業共同体)からの代表者1名の計5名で構成される。

※2.プロジェクト完成後の余剰金及びプロジェクトがキャンセルになった場合の予算はBANSEFIに返金される。

3.現在の運営体制の問題点

鉱業基金運用開始から4年が経過し、政府は同基金の総額のみならず、各州、自治体への分配額を個別に公表し、各鉱業地域において同基金が如何に地域の発展に貢献しているかを示す政府ウェブページを開設するとともに、各地で開催される鉱業大会等でその成果を強調している。しかし、鉱業基金の管理を担うSEDATU、鉱業基金を使用するプロジェクトを審査・承認を行うプロジェクト審議会、そして、鉱業基金が分配される自治体の運営体制に関し様々な問題点が指摘されている。

まず、SEDATUの問題点として、ウェブページ上で各年の基金総額と、全州、自治体に対する分配額を公表しているものの、毎四半期ごとなど期間を区切った自治体送金額が公開されていなく、また、余剰金や利用されなかった予算の返納額を合わせた基金の残額を公表していないため、SEDATUと自治体間で余剰金、予算返納等の資金のやり取りに関する正しい情報を第三者が把握することができないことから資金管理の不透明性が指摘されている。

そして、「5.(2)Cananea市における鉱業基金の活用」において紹介するが、経済省が各市町村に対する分配プロセスの問題点として、分配額決定から自治体に分配金が送金されるまでに要する平均期間の問題がある。2016年に分配された資金の平均分配期間は約2年となっており、事業の必要性と予算分配までに大きな時間のずれが生じている。そして、プロジェクト審議会の問題点として、分配額決定の際に承認される予算額があまりに高額であることが指摘されており、同委員会の審査基準が疑問視されている。そして、分配金を受け取る自治体側の問題点としては、分配金の支出内訳の管理が適切に行われていない場合が多く、このため、余剰金の管理が不透明であり、予算額と支出実績額の乖離が起こることがあり、今後のプロジェクト立案の際などに積算根拠資料とならない問題が発生している。また、多くのプロジェクトは、立案、決定時に住民の意見を取り入れるプロセスを設けておらず、自治体内でのみ決定されている。さらに、上述のとおり鉱業基金の管理体制が整備されていないことから、プロジェクトは長期的に使用されるものではなく短期で終了するものが好まれ、かつ特段の維持費が必要ない道路舗装に使用される傾向がある。これに関し、Sonora大学院社会学・行政学研究者によると、鉱業基金はプロジェクトの開発費のみとして利用が可能であり、計画費、開発後の維持費として利用することが認められていないことが一つの理由とされている。

4.今後の運営体制改革案

「2.(3)各州、自治体に対する分配金送金までの流れ」で述べたとおり、現在の運営には3機関が担当しており、投資プロジェクトの送金までに多くの時間を要することが問題視されてきた。このため、2018年12月に発足したMORENA党新政権は、2019年連邦歳入法(2018年12月28日に採択)において鉱業基金の運営体制改革を発表しており、鉱業基金の目的を維持しつつ、鉱業基金の承認・運営体制の見直し、及び分配率及び分配方法の変更を検討すると述べている。まず、鉱業基金の名称はこれまでの「鉱業州及び自治体の持続的地域開発基金」から「鉱業生産地域開発基金」に変更される。この変更により、「鉱業州及び自治体」ならびに「持続的」という点が排除されることになり、分配対象地域が現在の州、自治体単位からより限定された地域に変更される可能性がある。また、鉱業基金を利用した対象事業は「1.鉱業基金の概要」で挙げた事業に加え、新たに犯罪対策、(鉱山)労働者の研修制度、コミュニティセンター設立等の項目が加えられるなど、今後は鉱業基金が使用できる事業の範囲が拡大する可能性がある。そして、基金運営の担当機関に関しては、これまでのSEDATUから鉱山行政の所管官庁である経済省が管轄となり、鉱山促進との連携した政策運営管理が計画されているほか、2019年連邦歳入法においては、同法採択から90日以内にBANSEFIに変わる新たな開発銀行の設立が規定されている。なお、同法には基金分配率の変更も規定されており、80%が鉱業開発地域、10%が経済省、残り10%が連邦政府に分配されることとなっている。なお、鉱業開発地域内の分配率に関しては、州、市町村といった規定はなく、先に述べたとおり、分配対象地域がより限定される可能性が報じられている。また、既に各自治体から申請され承認済みのプロジェクトについては、今後、予算が執行されるのか、あるいはキャンセルになるのかに関しては特段の発表はなされていない。2019年連邦歳入法案案は2018年12月に承認されているものの、施行には連邦関税法の改正が必要であり、今後、議会において連邦関税法改正の審議が行われる。これまで述べた内容は、全て2019年連邦歳入法の審議の際に議論されたものであり、連邦関税法の改正がなされていない現段階では鉱業基金運営等に対する2019年連邦歳入法の効力は無く、今後は連邦関税法改正の審議を注視する必要がある。

表1.連邦関税法改正前と改正案の比較
改正前 改正案
鉱業基金正式名称 鉱業州及び自治体の持続的地域開発基金 鉱業生産地域開発基金
鉱業基金運営担当機関 農地土地都市開発省(SEDATU) 経済省
鉱業基金管理銀行 貯蓄金融サービス銀行(BANSEFI) 新開発銀行(未定)
分配率 地方政府77.5%
(自治体62.5%、州37.5%)、
連邦政府20%、SEDATU2.5%
鉱業開発地域80%、
経済省10%、連邦政府10%

しかしながら、同改正に対しては、各鉱業州等から反対の声が上がっており、2019年2月13日には、Chihuaha州知事(制度的革命党:PRI)と、民主革命党(PRD)、国民行動党(PAN)、市民運動(MC)に所属するChihuahua州の23市長とSonora州Álamos市長が、そして、同2月14日にはZacatecas州知事がそれぞれ鉱業基金に関連する連邦関税法改正に対し、最高裁判所に対するアンパロ(憲法権利保護に係る訴訟)を提訴したほか、AMLO大統領に対する面談要望の書簡を発出している。

なお、Chihuaha州政府はJavier Corral同州知事の声明を発表している。同声明では、連邦関税法改正案の鉱業基金関連部分には鉱業基金による鉱業生産地域の住民への融資計画(一人当たり6,000MXN)があるが、これは本来の鉱業基金の目的から逸脱したものであり、連邦政府による法の侵害であると指摘している。また、Chihuahua州内には未だにインフラ整備が行き届いていないコミュニティが多く存在しており、社会開発は個人への直接融資で補完できるものではないと主張している。また、Zacatecas州Alejandro Tello 知事は、改正案の中で州、自治体への分配が削除されていることを指摘し、州政府は国民に最も近い政府機関であり、鉱業活動地域の住民がより鉱山利益の恩恵を享受できるよう、憲法および地方議会を尊重することを連邦政府に求めている。

5.Sonora州における鉱業基金活用事例

Sonora州はメキシコ北西、米国テキサス州と隣り合う州であり、2017年鉱業生産額は国内1位の36%を占める州であり、「2.(2)鉱業基金の分配率」で述べたとおり、2017年鉱業基金の分配率は国内1位となっている。2019年1月、同州のLa Colorada村とCananea市を訪問し、鉱業基金の運用の現状に関し聞き取り調査を行ったほか、鉱業基金により建設されたプロジェクトを見学した。

図5.Sonora州位置図(Sonora州公安省HP)

図5.Sonora州位置図(Sonora州公安省HP)

(1)La Colorada村における鉱業基金の活用

La Colorada村は州都Hermosilloから50km南東に位置する人口約3,000人の村である。19世紀から金の採掘が行われており、最盛期には人口が約3万人にまで達した。現在は加Argonaut Gold社が保有するLa Colorada鉱山のみが生産を行なっており、2017年鉱業基金分配額はSonora州第9位の約15百万MXN(約79万US$)である。今回、同村における鉱業基金活用プロジェクト2件の調査を行なった。

① サッカー場建設プロジェクト(写真1):建設費約891千MXN(約46千US$)、規模はフットサルの競技場ほどの比較的小さなもので、人工芝を利用しており、特段の管理は必要ない。なお、見学時も周辺に住む多くの子供たちが利用していた。

写真1.La Colorada村サッカー場(筆者撮影)

写真1.La Colorada村サッカー場(筆者撮影)

② 道路舗装:建設費1百万MXN(約52千US$)、村の中心部を抜ける大通りから周辺の住宅地をつなぐ約1kmの道路である。なお、この道路周辺には5戸ほどの住宅しかなく、恩恵を受ける住民は少数であることから、真に必要な投資であったかが疑問視されている。(写真なし)

Marco Antonio Platt村長(2018年12月に村長就任)は、上記2件のプロジェクトに対する予算額があまりに大きい上に、予算の支出内訳記録が存在していないことから、前村長及び当時の担当者による不透明な予算管理の実態を問題視した。また、プロジェクト承認委員会の機能に関して、必要書類を提出さえすればプロジェクトの目的、計画性や将来性等は審議されないと指摘した。さらに、先に述べたLa Colorada鉱山の採掘終了が2022年と近づいているため、閉山後の住民雇用や財政に与える影響に対する懸念を示した。村長の任期は3年(再選可能)であることから、同村の持続可能な開発を進めるべく、Sonora大学と共同で鉱業基金による村の開発計画を進めている。開発案はVilla Colorada(Villaとは歴史的名称としての「町」を意味する)というテーマパークの建設であり、予算額は25百万MXN(約13万US$)、19世紀に存在した教会、商店街、鉄道の駅などを再現し観光客を誘致し、チーズや民芸品など地元特産品の販売を進め、住民の経済的自立が可能な開発を目指したいと考えている。同市長によると、La Colorada町も含め国内の鉱業基金を利用したプロジェクトの多くは、維持・改修の手間がかからないインフラ整備事業であり、同基金の目的の1つである持続的発展の可能性に欠けると指摘した。同市長は任期中に、より住民に鉱山開発の利益が享受される制度を実現させたいが、同村に対する鉱業基金の分配額は少なく、同プロジェクトを実施するには資金面を不安視していた。

(2)Cananea市における鉱業基金の活用

Cananea市は州都Hermosilloから北に約300km、米国国境から約60kmに位置し、Grupo México社が保有する国内最大級鉱山であるBuenavista銅鉱山が操業を行っている。2017年鉱業基金分配額は国内最大となる約284百万MXN(約15百万US$)である。Cananea市経済・観光部長によると、同市は現在排水溝の整備不足による道路冠水や汚水の流出などが問題となっており、同問題解消に向け、道路舗装工事と同時に排水溝を整備するプロジェクトを優先して進めている。同市では2016年に承認された4件のプロジェクトを調査した。

① Cuitlahuac集落道路建設(写真2):建設費36百万MXN(約19万US$)、市内2か所の集落を結ぶ850mの道路で、2019年1月に完成予定。以前は両集落の移動には数kmの迂回が必要であったとのこと。

写真2.Cuitlahuac集落道路建設(筆者撮影)

写真2.Cuitlahuac集落道路建設(筆者撮影)

② 工業高校建設(写真3):投資額6百万MXN(約32万US$)、鉱業基金による建設は建物の外壁工事のみで2018年に終了。今後の建設はCananea市の予算を充当し進められ、計10の教室を設置し約350人の生徒を受け入れる予定。

写真3.工業高校建設(筆者撮影)

写真3.工業高校建設(筆者撮影)

③ 野球場、バスケットボールコート建設(写真4、5):投資額32百万MXN(約17万US$)、野球場には人工芝を敷き照明設備を完備。主に子供向けの施設として整備。2018年に完成したものの、ネット、スコアボードなどが未設置であり、照明の点灯費等の予算問題があり、利用実績が少ないという現状がある。

写真4.野球場建設(筆者撮影)

写真4.野球場建設(筆者撮影)

写真5.バスケットボールコート建設(筆者撮影)

写真5.バスケットボールコート建設(筆者撮影)

④ 保育所建設(写真6):投資額32百万MXN(約17万US$)、2018年5月着工、2019年2月末完成予定。現在、Cananea市唯一の保育所の向かいにガソリンスタンドが建設されており、事故のリスクが懸念されることから移転が決定された。新しい保育所の収容人数は130人で、職員室、保健室、カウンセリング室、食堂も併設する予定。机、椅子、その他の備品は鉱業基金を利用することは難しいため、大部分は現在の保育所のものを引き続き利用する。

写真6.保育所建設(筆者撮影)

写真6.保育所建設(筆者撮影)

今回はCananea市役所から提案のあった目的が異なる4つのプロジェクトを調査したが、鉱業基金プロジェクトの大半は道路整備であるとの説明であった。その理由に、膨大な鉱業基金分配額を受け取ったとしても、市町村レベルの自治体では活用を検討する体制が整っていないため長期計画が立てにくく、短期で工事が完了し、住民生活に直結するプロジェクトが優先されるとのことであった。また、今回見学したプロジェクトは2016年の予算によるものであったが、承認から着工まで2年近くかかっている。同市経済・観光部長は、プロジェクト承認や分配金送金に関する基金運営の煩雑さを指摘し、プロジェクト計画から実行までのタイムラグを縮小するために、同基金運営体制の変更と諸手続きの迅速化を望んでいるとのことである。

Cananea市は上記のとおり、鉱業基金分配額が国内第1位であり、そのため、同市は鉱業基金運用のモデルとなるべく、2017年10月に世界銀行と「あなたが決めるカナネア(Cananea Tú Decides)」プロジェクトを立ち上げ、市民によるプロジェクトの提案、投票が行われた。その内容は、377件のプロジェクト案のFS調査等を行い31件に候補を絞り、市民が投票を行うというものである。結果は、投票率約21%ではあったが、世界銀行によるとこの投票率は同様の住民投票では世界的にも高い率であったという。投票により決定した11件のプロジェクトの内容は、道路舗装5件、排水設備3件、送電線整備4件との結果であった(重複案件を含む)。Cananea市経済・観光部長が述べたとおり、同市では冠水問題が懸念されていることからも、住民が主に道路舗装・排水整備を望んでいるということがこの結果から伺える。同部長は、市民にとって真に必要とされるものに対し投資が行われる必要があり、今後も市民参加型のプロジェクト実施を継続したいと述べた。

おわりに

鉱業基金創設から4年が経過し、本レポートで紹介したSonora州をはじめとする多くの鉱業州、自治体において同基金を利用した地域開発が実施されている。しかしながら、現在の鉱業基金の運営体制には、多くの関係者からSEDATUと自治体の両者に対する問題点が指摘されており、同運営体制の見直しが必要となっている。このような中、新政権による鉱業基金の運営に関連する法改正の議論が進められており、今後鉱業基金の運営体制、特に分配率、分配対象地域が大きく変更される可能性がある。また、今後、鉱業基金を活用したプロジェクト申請・承認の所管が経済省となる場合、SEDATUを介さないことから諸手続きが迅速化され、資金の流れに透明性が確保されることが期待されている。さらに、分配先の変更の議論については住民への融資制度が議論されているものの、本来の鉱業基金の目的から逸脱するものであるほか、鉱業地域住民に平等に分配が確保できるのかなど疑問点があり、鉱業基金の関連法改正の議論はメキシコ事務所としても注目し、各改正に動きがあった際にはニュース・フラッシュ等で情報発信していく。

また、AMLO大統領は、公約として汚職撲滅を強力に進めているが、La Colorada村村長が指摘したとおり、現行では、各自治体に鉱業基金分配金を管理する体制が整備されていないことから、連邦レベルの法改正のみでは適正かつ透明性のある鉱業基金の運用は難しいと考える。今回紹介した2つの自治体(La Colorada村及びCananea村)ではSonora大学や世界銀行といった第3者機関と連携したプロジェクト実施体制を模索する動きがある。両自治体とも未だ試験段階ではあるが、鉱業基金のモデル事業となる先進的事例として今後の両自治体の動向を見ていくこととしたい。

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