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報告書&レポート

2019年5月9日 バンクーバー 事務所 杉崎真幸
19-13

カナダ連邦とBC州の探鉱税控除政策について

<バンクーバー事務所 杉崎真幸 報告>

はじめに

カナダでは、連邦、州それぞれのレベルにおいて探鉱投資の活発化を目的とした鉱業税制優遇政策が実施されている。BC州ではBC州探鉱税額控除(BC Mining Exploration Tax Credit:BCMETC)及びフロースルー株式税額控除(BC Mining Flow-Through Share Income Tax Credit:BCMFTS)が制度化されているが、数年おきに見直しの可能性が議論されてきた。今般、2019年1月にバンクーバーで開催された鉱物探査協会(Association for Mineral Exploration:AME)の主催する年次総会Round Up2019の冒頭演説において、John Horgan BC州首相はこれらBCMETC及びBCMFTSの恒久化を発表し、州内の鉱業関係者に大きな喜びを以て迎えられた。

また、同鉱業大会では連邦天然資源省(NRCan)大臣も連邦のフロースルー株式制度の5年間の延長について言及した。こちらについても同様に、探鉱投資活動を活性化し、カナダ鉱業の国際競争力を高めるものとして期待されている。

本稿ではこの機会に、カナダ連邦及びBC州の税制優遇政策の内容を紹介するとともに、その申請方法や他州との比較について概説する。

1.連邦とBC州の税制優遇政策の概要

カナダの税制優遇策は北米の税法的に「課税対象所得から差し引く所得控除」(Deduction)と、「課税額から直接差し引く税額控除」(Tax Credit)の2種類に大別される。前者は「課税対象所得×控除率×税率」が控除額となるのに対して、後者は「課税対象所得×控除率」が直接控除額となるため、一般的により控除効果が大きいとされる。また、税控除の対象者という観点で分類すれば、「探鉱・開発を行う会社に対する所得税控除」と、「探鉱・開発を行う会社に投資する投資家に対する所得税控除」に分類できる。後者は特にフロースルー株式と通称されるカナダに特有の制度となっている。

カナダ探鉱・開発費控除(CEE/CDE deduction)

例えば、連邦政府の実施している探鉱費控除(Canadian Exploration Expenses deduction)は、「探鉱・開発会社に対する」、「課税対象所得から差し引く所得控除」に分類される。これは探鉱費(Canadian Exploration Expenses: CEE。カナダ国内での石油、天然ガス、鉱物、石炭の探鉱における試錐、トレンチ調査、地質調査、物理探査、地化学探査等に要した費用)として認められた支出額の100%に相当する所得控除を与える。同様に、開発段階に進んだプロジェクトに関しては開発費(Canadian Development Expenses: CDE。生産開始後の坑道及び坑内施設建設、生産前鉱山開発費用(2017年以降に発生したもの)、鉱区維持費)控除があり、こちらは支出額の30%に相当する所得控除を与える。

実際には探鉱会社の多くは収益がないため、元々所得税の課税対象外となる会社が多い。そのような場合、会社は控除対象となる費用を累積探鉱費(Cumulative Canadian Exploration Expenses:CCEE)あるいは累積開発費(Cumulative Canadian Development Expense:CCDE)として無期限に繰り越すことができる。つまり、これらを申請しておくことで、将来プロジェクトが立ち上がり収益がもたらされた際に、それら累積額分の所得控除を受けることができる。あるいは、探鉱会社は後述するフロースルー株式(Flow Through Shares:FTS)として、この権利を投資家に分配することができる。

連邦探鉱税額控除(連邦METC)及びBC州探鉱税額控除(BCMETC)

前掲のBCMETC等、Tax Creditと名のつく制度は「課税額から直接差し引く税額控除」に分類される。こちらは探鉱費用の一定割合に当たる金額を払い戻し不可(non-refundable)の税額控除として直接所得税額から差し引くことができる。2019年現在、連邦政府は鉱物探鉱税額控除(Mineral Exploration Tax Credit:以下、連邦METC)として、特に初期探鉱(地表で実施される地質調査、物理探査、地化学探査)と認められる費用1の15%に相当する税額控除を行っている。また、BC州の実施するBCMETCは、これにさらに追加して20%または30%の税額控除を付与している。これらについても、探鉱会社は(スーパー・)フロースルー株式として税額控除の権利を投資家に分配することができる。

連邦METCはカナダの探鉱投資を加速させるための一時的な措置として2000年10月に導入されたものであるが、その後企業団体の要望に応じる形で複数回の延長が行われている。直近では2019年3月末日を以て打ち切られる予定となっていたが、2018年秋の経済声明においてこれをさらに5年間延長することが決定された。BCMETCについても同様に複数回の延長が繰り返されており、先述の通り2019年初春に恒久化が決定された。

フロースルー株式(FTS)

探鉱会社は一般的に市場から探鉱活動実施のための資金を調達している。このような資金調達の際に、鉱業への投資に対する投資家のインセンティブを高める一助となっているのがフロースルー株式制度2,3である。

フロースルー株式制度はカナダの資源部門に特有の制度であり、他国に類例は見られない。これはカナダ国内で行われている探鉱プロジェクトに関する資金調達に際して、探鉱会社が株式の対価額相当まで探鉱・開発費用を投じることができるという合意を前提に発行されるフロースルー株式(Flow Through Share:FTS)を通じて、先述の所得税控除の対象となる支出を投資家に対して“放棄(renounce)”することができるというものである。FTSを購入した投資家はこの支出を税法上引き継ぎ、あたかも自らの経費であるようにこれらに対して所得税控除を請求することで所得税の支払いを減少させることができる。

さらに、投資した会社が将来成長した場合には大きなリターンを期待することもできる。一方、探鉱会社においても、税控除のインセンティブにより、投資家に対してより良い条件で株式を発行することができる。また、FTSにより将来的な所得税控除の可能性は失われるものの、プロジェクトの実現が不確かである場合にはその現在正味価値は非常に小さいものである場合が多く、さほどのデメリットとは捉えられていない。

連邦政府が実施しているFTS制度においては、探鉱会社はCEE及びCDEに係る所得税控除分をFTSとして買い手に分配することができる。すなわち、この制度の対象となるFTSを購入した投資家は、それがCEEの場合には「購入額×所得税率×100%」の金額を、CDEの場合には「購入額×所得税率×30%」の金額を、所得税額から控除することができる。

さらに、連邦METCの条件(CEEに該当する初期探鉱であること)に合致し、かつ株式購入者が個人投資家である場合には、投資家はMETC部分に関しても控除を請求することができる。これはFederal Investment Tax Credit for Exploration(連邦ITCE)または俗称で「スーパー・フロースルー」と呼ばれる部分であり、この制度の対象となるFTSを購入した投資家は上記に加えて「購入額×15%」の金額を所得税から控除することができる。

BC州でもBC Mining Flow-Through Share Income Tax Credit(BCMFTS)と呼ばれるスーパー・フロースルーと類似の制度が導入されており、これは連邦METCと同様の条件に合致し、かつ株式購入者が個人投資家である場合に「購入額×20%」の税額控除が与えられる。ただし、連邦ITCEとは重複利用ができず、基本的に株式購入額からBCMFTS適用後の購入額の80%分が連邦ITCEの対象となる。

具体的な例として、BC州に所得税を納める個人投資家がBC州内で探鉱活動を行う探鉱会社に対してフロースルー株式制度を通じて1,000C$相当の投資をする場合を考える4。簡素化のために、個人投資家の所得税率49.8%(連邦税率33%5、BC州税率16.8%6と想定)、BCMFTSの控除率が20%であるとすると、FTSを購入した投資家は表1の通りの控除を受けられることになる。

表1.1,000C$の探鉱投資に対する所得税控除計算例

表1.1,000C$の探鉱投資に対する所得税控除計算例

図1.1,000C$の探鉱投資に対する所得税控除計算例

図1.1,000C$の探鉱投資に対する所得税控除計算例

上記の例では、投資家は1,000C$の探鉱投資額に対して約659C$、およそ投資額の66%相当の所得税控除が受けられることになり、結果として実際の費用よりも少額で探鉱投資を行う効果が期待できる7

FTSによる受益にはいくつかの条件がある。まず、第一にFTSを発行する会社はカナダの会社である必要はないが、FTSの控除を行おうとする個人はカナダ(BCMFTSの場合にはBC州)の納税者である必要がある。また、探鉱費(CEE)と開発費(CDE)のみがFTSの対象とされており、FTS発行会社の主要ビジネスが天然資源(石油、天然ガス、鉱物及び再生可能エネルギー)8産業であることが条件となる。税額控除は「払い戻し不可(non-refundable)」であり、所得税額を超えた請求はできない。

2.BCMETCの申請条件・申請方法

BCMETCの概要はBC州政府のwebサイト上に公開されており、探鉱会社が制度の利用を検討する際の適格要件、請求方法、留意事項等を説明している9。以下にはその概略を記す。

まず、探鉱会社に関する基本的条件として「BC州内で探鉱活動を行っていること」、「探鉱に関する支出を行っていること」、「申請年度最終日時点でBC州に居住していること(企業の場合は年度を通じてBC州内に恒久的施設を有していること)」の3点が挙げられている。ジョイントベンチャーのパートナーシップ等の構成員についてはその持分比率に応じた申請を行うことができるとされているが、連邦税法149条に基づき課税対象外となっている法人10及び労働者出資ベンチャーキャピタル等はその対象外である。

対象となる探鉱資源は、ベースメタル、貴金属類、石炭、ビスマス、塩化カルシウム、カオリナイト、石膏、ダイヤモンド及びオイルサンドである。オイルサンド以外の石油及び天然ガス等の化石燃料資源は対象外である。

税控除の対象となる“探鉱支出(Exploration Cost)”として認められるのは、BC州内で上記天然資源の存在、位置、資源量及び品位を特定することを目的とした活動に要した費用である。この例として「初期調査(Prospecting)」、「地質調査、物理探査、地化学探査」、「試錐」、「トレンチ調査、テストピット掘削、予察的な採掘試験」の4項目が示されている。

また、物あるいはサービスに関しては「使用時間または従事時間の90%以上をBC州内での探鉱活動に費やしていること」、「妥当な状況で使用・活動していること」、「他者によりBCMETCを請求されていないこと」が必要となる。

これらの探鉱支出として認められる具体的な例として、「旅費(食費、宿泊費、車両維持費及び燃料費」、「プロジェクト従事者及び監督者の賃金」、「コントラクター費用」、「探鉱に係る調査レポート費用」、「鉱区維持費(税金、保険料を含む)」、「機材リース費」、「バルクサンプル採取もしくは連邦法に定められるCEEに該当する探査を実施するための道路敷設費用」、「道路修繕費」、「放棄された鉱区と考えられる旧鉱山サイトにおける探査活動費」が挙げられている。また、探鉱支出として計上できない例として「連邦法に定められる開発費(CDE)に相当する活動」、「商業生産中の鉱山に関連付けられる探鉱活動」、「探査機械の減価償却費(ただし、燃料及びメンテナンス費は計上可)」、「調査以前に取得された物理探査データの購入費」が挙げられている。

通常、BCMETCは探鉱支出の20%を税額控除するが、マツクイムシ(Mountain Pine Beetle)被害地域での探鉱に対しては30%の控除率が適用される。2019年現在、州の東側60%以上の面積がこの対象となっている(図2)。

図2.BC州マツクイムシ被害地域

図2.BC州マツクイムシ被害地域

BCMETCの申請は、所定の様式(Schedule 421: British Columbia Mining Exploration Tax Credit11)を記入し、所得税申告(T2:Corporation Income Tax Return12)と併せて提出することによって行われる。2017年以降の支出に関しては年度終了後18か月以内に請求を行う必要がある。

なお、BCMFTSに基づく所得税控除も類似の申請方法を用いる。この場合は所定の様式(T1231:British Columbia Mining Flow-Through Share Tax Credit)を、個人所得税申告(T1:Income Tax Return)と併せて提出することによって行われる。

3. 制度のまとめ及び他州の制度について

BC州で探鉱を行う会社またはそれに投資を行うBC州の投資家は、基本となる探鉱・開発費控除に連邦及び州の税額控除を加えた3段階の所得税控除を受けることができる。その概略を表2に示す。表左列は探鉱会社向けの所得税控除、表右列は投資家向けの所得税控除である。基本的に探鉱会社が享受できる税控除に対して投資家向けの(スーパー・)フロースルー株式制度が一対一で対応する構造となっているが、一部内容が異なっている個所もある。

表2.所得税控除まとめ

表2.所得税控除まとめ

またBC州以外にも、オンタリオ州(ON州)、マニトバ州(MT州)、サスカチュワン州(SK州)がBC州のBCMFTSに類似する各州独自の税額控除を実施している。これらの州で探鉱を行う企業に投資する各州の投資家は、各州の控除率に応じた税額控除(表3)を受けることができる。なお、以前はケベック州(QC州)でも同様の税額控除(25%)が実施されていたが、現在は終了している。

トロントベンチャー(TSX-V)市場に代表される活発なカナダの探鉱投資の背景には、上記のような様々な税額控除の恩恵がある。いずれもカナダ国内の納税者であることが前提となるが、日本企業が投資判断を行う際に考慮に値する有用な制度であろう。

表3.各州の所得税控除政策
ON州
Ontario Focused FTS-Tax Credit
5%の税額控除13
2000年10月17日以降の支出が対象
MT州
Manitoba METC
30%の税額控除14
現時点では2021年4月までの支出が対象
SK州
Saskatchewan METC
10%の税額控除15

  1. これらの費用は「フロースルーマイニング経費」flow-through mining expenditures(FTME)として定義され、CEEと同様の条件となっている。
    https://www.nrcan.gc.ca/mining-materials/taxation/8874
  2. 連邦公式サイトにおける概説:
    https://www.canada.ca/en/revenue-agency/services/tax/businesses/topics/flow-through-shares-ftss/investors/flow-through-share-program-works.html
  3. Mining Tax Canada概説:https://miningtaxcanada.com/flow-through-shares/
  4. PDAC参考資料:https://www.pdac.ca/docs/default-source/communications/publications—news-activities/flow-through-brochure.pdf?sfvrsn=7423df1e_3
    連邦ITCEによる控除及びBCMFTSによる控除には所得税が課税されることに注意。
  5. 所得税率は投資家の純利益に応じて累進するため、便宜上最大値(2019年現在)で仮定。
    https://www.canada.ca/en/revenue-agency/services/tax/individuals/frequently-asked-questions-individuals/canadian-income-tax-rates-individuals-current-previous-years.html
  6. 同上。https://www2.gov.bc.ca/gov/content/taxes/income-taxes/personal/tax-rates
  7. 連邦METC及びBCMFTSに相当する税額控除(表G~Jに相当)は個人投資家のみを対象とし、法人には適用されない。また、法人の場合は所得税率が異なる(BC州の場合、連邦税率15%、州税率12%)点も留意が必要である。
  8. カナダ税法においてこれらはPrincipal-business Corporation (PBC)と定義されている。https://www.canada.ca/en/revenue-agency/services/tax/businesses/topics/flow-through-shares-ftss/glossary.html#pbc
  9. https://www2.gov.bc.ca/assets/gov/taxes/income-taxes/publications/cit-006-mining-exploration-tax-credit.pdf
  10. https://laws-lois.justice.gc.ca/eng/acts/I-3.3/section-149.html
  11. https://www.canada.ca/en/revenue-agency/services/forms-publications/forms/t2sch421.html
  12. https://www.canada.ca/en/revenue-agency/services/forms-publications/forms/t2.html
  13. https://www.ontario.ca/page/ontario-focused-flow-through-share-tax-credit?_ga=2.159594932.887998774.1550877586-2045595679.1550106376
  14. https://www.gov.mb.ca/finance/personal/pcredits.html#mineral
  15. https://www.saskatchewan.ca/business/agriculture-natural-resources-and-industry/mineral-exploration-and-mining/take-advantage-of-the-saskatchewan-mineral-exploration-tax-credit
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