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報告書&レポート

2019年7月3日 ロンドン 事務所 吉益英孝
19-17

2019年PGM市場の見通し

―ロンドン・プラチナウィークから―

<ロンドン事務所 吉益英孝 報告>

はじめに

白金族金属(PGM)の市場関係者が一堂に集うプラチナウィークが2019年5月13日の週に英国ロンドンで開催された。5月10日にPGM専門コンサルタント会社のSFA Oxford社が主催した『The Oxford Platinum Lectures 2019』には、大手生産者を始め、銀行等の金融機関、トレーダー、宝石需要関係者等が参加した。本稿では、SFA Oxford社による2019年のPGM市場の見通し及びBASF社の講演概要を紹介する。

写真.The Oxford Platinum Lectures 2019の会場となったOxford大学自然史博物館

写真.The Oxford Platinum Lectures 2019の会場となったOxford大学自然史博物館

1.PGM市場の見通し

1.1 講演:The Platinum Standard 2019 – An agenda-setting industry review/preview
<講演者:Beresford Clarke氏(Managing Director and Head of Research, SFA Oxford社)>

ここ10年でPGMの需要は増加傾向にあるが、一方で欧州のディーゼル車の販売台数は2016年をピークに減少傾向に入り、欧州で新たな排出ガス規制Euro 6が導入されれば、減少傾向に拍車をかける可能性がある。欧州のディーゼル車販売台数は2016年には6.9百万台であったが、2018年には1.7百万台減少し5.2百万台となった。特にドイツ、英国におけるシェアの低下は大きい。

Euro 6の基準は2021年以降にNOx排出量が80mg/km以下となっているが、Land Rover社等はその基準を満たすディーゼル車を開発しており、ディーゼル車でも基準を満たせることを自動車会社が示した例と言える。EUは排出基準を消費者にわかりやすくするため、排出基準のインデックスを新たに定め、Euro 6基準を満たしている車はAグレード(NOx排出量が80mg/km以下)とわかりやすい表示とする。

欧州のディーゼル車販売台数の減少傾向は続くものの、2019年は0~5%の減少で落ち着くのではと予想する。乗用車におけるディーゼル車のシェアの低下は加速する一方、商用車についてはディーゼル車の需要が期待でき、重視している。

中国は環境規制を強化していることから、PGMの需要は伸びることが期待されるが、電気自動車(EV)の普及がどこまで進むかにもよる。

宝飾品需要については、プラチナの最大の需要家である中国における減少が大きく、他の地域での伸びを相殺してしまっている。中国での販売促進が鍵となってくる。

投資用需要については、2019年第1四半期には大きな買いが入るなどETFが存在感を発揮しており、50~100US$/ozの価格影響力があると考えている。

鉱山からのPGM供給については、鉱山操業コストは低水準にあるものの、現在のPGMバスケット価格傾向は80%の鉱山が利益を確保できるラインを割り込む恐れがあり、鉱山企業にとっては打撃となっている。

2019年の価格の予想はプラチナが825US$/oz、パラジウムが1,325US$/oz、ロジウムが2,820US$/ozとした。

1.2各PGMの市場見通し(SAF Oxford社発行レポート『The Platinum Standard May 2019』より)

1.2.1プラチナ市場見通し

プライマリーの供給については、2018年のプラチナ価格の下落(2018年平均価格879US$/oz、2017年比7.3%の下落)にも関わらず南アの生産量は2%増加し4,460千ozとなった一方で、その他の地域からの生産は5%減少し、世界全体では1%の減少で6,115千ozとなった。南アの生産者は生産性と安全性の向上に積極的に取り組んでおり、生産量の増加につながっているとみられる。2019年も南アの生産量は増加する見込みであり、前年比5%増加し4,685千ozと予想され、世界全体では前年比5%の増加となり6,400千ozと見込む。

リサイクルについては、近年では原材料構成が異なるディーゼル微粒子捕集フィルターが従来のディーゼル酸化触媒のリサイクル網に入ってきており、リサイクル業者にとっては新たな課題となっている。しかし、プラチナのリサイクル量は米国や欧州における増加を受けて2018年に前年比7%増加の1,420千ozとなり、2019年も前年比5%増の1,495千ozと見込む。

需要については、2018年における需要の最大セグメントであるディーゼル車排気ガス浄化触媒と宝飾品の需要がそれぞれ前年比6.5%減の3,105千oz、4.5%減の2,355千ozとなり、石油産業用、ガラス製造等の産業用需要は前年比12.1%増加したにも関わらず、全体としては前年比1.5%減の7,365千ozとなった。2018年の投資需要の増加は15千ozに留まった。ディーゼル車排気ガス浄化触媒と宝飾品の需要は引き続き弱い見通しであり、触媒向けは前年比3.1%減の3,010千ozと見込む。宝飾品の最大マーケットである中国の需要は継続して減少しており、全体では前年比1.9%減の2,310千ozが見込まれる。その他の産業用需要は前年の高いレベルを維持する見込み。一方、ETF投資については活発であり、2019年第1四半期では690千ozが買われている。これら需要全体では2019年は前年比2.1%減の7,210千ozと予想した。

以上のことから需給バランスについては、2018年は685千ozの供給過剰、2019年は1,185千ozの供給過剰と予想する。

表1.SEA Oxford社によるプラチナ需給見通し  (単位:千oz)
2017年 2018年 2019年
生産量 6,125 6,115 6,400
触媒需要 3,320 3,105 3,010
宝飾品需要 2,460 2,355 2,310
産業用需要 1,700 1,905 1,890
総需要 7,480 7,365 7,210
リサイクル 1,890 1,935 1,995
需給バランス 535 685 1,185

(出典:SFA Oxford社資料よりJOGMEC作成)

1.2.2パラジウム市場見通し

プライマリーの供給については2018年は前年比1.6%減の6,970千ozと見られる。2019年は南アの精鉱在庫の処理が進むこと、北米におけるSudbury鉱山の生産回復とBlitz鉱山の立上げ、Nornickel社の生産増が貢献し、前年比5.3%増の7,340千ozになるとみられる。

価格高により2018年のリサイクル量は前年比5.3%増の2,495千ozになると見込む。2019年も引き続き価格高による増加が予想され、前年比5.8%増の2,640千ozになるとみられるが、リサイクル在庫や精錬所の処理量の制限が課題と考えられる。

需要については、2018年は価格高によるその他産業用需要の減少を排気ガス浄化触媒の需要が補い、結果として横ばいの10,295千ozとなった。2019年も同様の傾向で、その他産業用需要は前年比3.0%減、排気ガス浄化触媒の需要は前年比1.6%増となり、全体ではわずかに増加し、前年比0.7%増の10,365千ozになると見られる。

以上のことから、2018年の需給バランスは2017年と同様の水準で830千ozの供給不足となった。2019年は不足幅は縮小し385千ozの供給不足となる見込み。

表2.SEA Oxford社によるパラジウム需給見通し (単位:千oz)
2017年 2018年 2019年
生産量 7,080 6,970 7,340
触媒需要 8,220 8,305 8,435
宝飾品需要 225 220 210
産業用需要 1,850 1,770 1,720
総需要 10,295 10,295 10,365
リサイクル 2,370 2,495 2,640
需給バランス ▲845 ▲830 ▲385

(出典:SFA Oxford社資料よりJOGMEC作成)

1.2.3ロジウム市場見通し

南アからのプライマリーのロジウム供給はBokoni鉱山とLonmin社からの生産減がMototolo鉱山とMarula鉱山、Kroondal鉱山の生産増を相殺したことにより2018年は630千ozとなり、世界全体では前年比1.5%減の775千ozとなった。2019年はロジウム含有量の多いBooysendal South鉱山、Styldrift鉱山、Two River鉱山からの生産増が予想され、南アからの生産量は670千ozとなる見込み。世界全体の生産量は前年から45千oz増加し、820千ozとなる見込み。

排気ガス浄化触媒のリサイクル量については、価格高により継続して増加が見込まれ、2019年には前年比6.1%増の350千ozと予想する。

中国の排気ガス規制の強化により排気ガス浄化触媒の需要が伸びているため、中国のロジウム需要も安定的に増加が予想され、世界全体の需要は2019年875千ozと見込む。その他の産業用需要については、2018年は前年から45千oz増の230千ozだったが、ガラスファイバー製造向け需要は堅調で2019年は210千ozとなる見込み。

以上のことから、ロジウムの2018年の需給バランスは15千ozの供給過剰、2019年は85千ozの供給過剰となる見込み。これは南アからの供給が堅調であることが主な要因である。

表3.SEA Oxford社によるロジウム需給見通し (単位:千oz)
2017年 2018年 2019年
生産量 785 775 820
触媒需要 850 860 875
産業用需要 175 230 210
総需要 1,025 1,090 1,085
リサイクル 300 330 350
需給バランス 60 15 85

(出典:SFA Oxford社資料よりJOGMEC作成)

2.排気ガス浄化触媒のプラチナ使用への転換

講演:Why should the automotive market switch back to platinum?
<講演者:Dr Matthias Dohrn氏
            (Senior Vice President, Global Precious and Base Metal Service, BASF社)>

排気ガスの規制の厳格化に伴い、ここ10年でPGMの需要は1.9%、供給は1.4%、排気ガス浄化触媒のリサイクルは0.9%増加したとみている。

プラチナとパラジウムの価格差の拡大は、排気ガス浄化触媒製造においてパラジウム使用からプラチナ使用への転換の動機となるが、PGMの需給ファンダメンタルや排気ガス規制の動向なども考慮する必要があるため、判断が難しい。

一般的に新たな材料で排気ガス浄化触媒を製品化するためには、触媒メーカーの開発に6~12か月、テストに6か月、自動車会社との調整や交渉に6か月、自動車会社の採用、価格交渉、認証などに6~18か月かかるため、最大で3年程度の期間が必要となる。触媒メーカーや自動車メーカーも一時的なプラチナとパラジウムの価格差拡大だけでは転換の判断はできない。また、排出ガス規制の強化により、排気ガス浄化触媒の製造が複雑化し、製品試験も厳格化されつつあることも課題であり、転換のハードルとなっている。

BASF社ではパラジウムからプラチナへの転換については、2024年までに20%程度は起こる可能性があると見ているが、自動車メーカーの判断によるところが大きい。各社はEVの普及には苦労しているところもあり、しばらく内燃機関の自動車を使うことには変わりないので、パラジウムの需要は堅調に推移すると考えている。一方、ディーゼル車が今後また勢いを盛り返すということはないだろうと考えている。

おわりに

関係者はプラチナ需要の喚起を模索しているが、ディーゼル車向けの排気ガス浄化触媒に代わる大きな需要を創出するのは容易ではないと考えられる。セミナーではマーケティングを駆使して中国やインドの宝飾品需要を拡大させるべきとのPlatinum Guild International社の意見や、各国に燃料電池の利用や水素社会の推進を働きかけているとするAnglo Americanの発表もあったが、どこまで効果があるかは未知数である。欧州や中国を中心にEV化への流れは加速しており、各国の排気ガス規制の強化は短期的にはPGMの需要にプラスの要因としながらも、ディーゼル車が需要を大きく伸ばすという状況にないため、排気ガス浄化触媒の需要の回復への期待は薄いだろう。燃料電池車の普及についてもここ数年は楽観的な講演が見られたが、今年はEV化の加速を受けてか、トーンは控えめな印象を受けた。

本レポートで紹介したセミナー以外でもプラチナウィークを通じて関係者と意見交換をしたところ、プラチナ価格の低迷は継続する一方で、パラジウム価格は堅調に推移するとの見方が大勢を占めた。BASF社のDr Matthias Dohrn氏の講演の通り、価格差が拡大すれば触媒におけるプラチナ使用への転換が起こるが、どの時点で転換が進むのかは自動車メーカー各社で判断が分かれると考えられる。燃料電池車の普及に関しては悲観的な意見が目立った。

プラチナウィーク期間中は南アの総選挙の開票が行われており、ANCの勝利が伝えられ始めていたが、南アに資産を持つ鉱山企業からはANCの勝利は好意的に受け止められ、鉱山業界にとって投資条件の改善につながるのではと期待感を持つ関係者が多かった。

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