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報告書&レポート

2019年8月23日 シドニー 事務所 吉川竜太
19-19

International Lithium and Battery Metals Conference 2019参加報告

<シドニー事務所 吉川竜太 報告>

はじめに

International Lithium and Battery Metals Conference 2019は、大洋州鉱業冶金協会(AusIMM)と豪Murdoch大学の共催により、WA州パースで2019年7月3日および4日の2日間に渡って開催されたカンファレンスである。参加者数は220人であったが、リチウムの地質、探鉱、分析、選鉱、製錬、リサイクルなどのトピックに関する約40件の講演が行われ、特に選鉱および製錬などの技術的内容に関する講演が多いことが特徴として挙げられる。以下に、主要な講演内容に関して報告を行う。

1.地質・探鉱・鉱山操業に関する講演

1.1 A global overview of the geology and economics of lithium production
 (Mr. John Skyes. MinEx Consulting)

・鉱物資源市場の分析企業であるMinEx Consulting社による、リチウム鉱床に関する分析の講演。

・リチウム需要は今後、リチウムイオンバッテリー(LIB)向けに伸びていくことが予想されているが、性能や特徴の異なる多くの種類のLIBが存在するほか、国や地域によっても好みのLIBのタイプが異なることが予想され、リチウムを含むサプライチェーン需要の予測は非常に困難である。関係者の動きを見ていると、LIB向けリチウム中間材料としては、炭酸リチウムよりも水酸化リチウムを使用する動きが現時点では広がっているように思われる。

・MinEx社が把握している限りで、世界には389のリチウム鉱床が存在し、112プロジェクトでは資源量が算出されている(図1)。鉱床のタイプは「火成岩型(ペグマタイトを含む)」、「かん水型」、「堆積岩型(含リチウム粘土型を含む)」、「非在来型(石油かん水、地熱など)」の4種に分類することができる。火成岩型のプロジェクトは他の鉱床タイプと比較して生産コスト中の陸上輸送コストの比率が高い傾向にあり、特にリチウム含有量が比較的低いプロジェクトでは鉱山近くにおける水酸化リチウム・炭酸リチウム製造工場の建設が今後加速する可能性がある。かん水型は昔から言われていることではあるが、天日での蒸発に要する時間が長いことや濃縮が天候に大きく左右される点が問題となる。堆積岩型にはセルビアでRio Tintoが推進するJadarプロジェクトも含まれており、今後重要性が増す可能性が考えられる。非在来型のプロジェクトは現状では技術的問題が存在し、経済性に課題が残る。

図1.リチウム鉱床の分類について

図1.リチウム鉱床の分類について

(出展:MinEx社プレゼン資料より)

1.2 Greenbushes LiFe(Mr. Guy Meade. Production Manager, Talison Lithium)

・世界最大規模のリチウム・タンタル鉱山であるWA州Greenbushes鉱山を操業するTalison Lithium社による、同鉱山の概要に関する講演。

・Talison Lithium社は、中国Tianqi Lithium(成都天斉リチウム)社が51%、米Albemarle社が49%を保有。1886年に錫がGreenbushes鉱山周辺で見つかって以来、同地では100年以上にわたって断続的に鉱山操業が行われている。同鉱山には大規模な従業員キャンプ施設は無く、ごく一部を除く従業員の殆どが鉱山に車通勤しているのが特徴で、地域社会によく溶け込んでいると言える。鉱山としては世界的にも大規模かつ高品位なリチウム・タンタル鉱山で、インフラもよく整備されており、港にも比較的近いのが強みである。また、当地は雨がよく降るため、塩分を含まない雨水を選鉱などに利用できる点も、他の豪州内のリチウム鉱山に対して優位な点であると言える。

・現在、採鉱はC1ピットとC3ピットの2か所のピットで操業中。選鉱は品位別に2か所の工場でそれぞれ実施されており、1984年から操業しているTechnical Grade PlantではLi2O 5.0%~7.2%の品位の産業向けリシア輝石精鉱が必要に応じて5種類生産されている。一方、電池用など化学製品向けのChemical Grade Plant1ではLi2O 6.0%の品位のリシア輝石精鉱が生産されている。現在のリシア輝石生産能力は600千t/年で、今後さらに拡張される見込み。また、いずれの工場でもタンタル精鉱が副産物として生産されている。リシア輝石精鉱はばら荷と袋詰め荷の2通りで出荷され、ばら荷はBunbury港から、袋詰め荷はFremantle港から出荷している。

・現在、Chemical Grade Plant2を建設中で、2019年第3四半期には試験操業が開始され、フル操業達成後はリシア輝石生産能力は1.34百万t/年となる見込み。また、過去のタンタル尾鉱からリチウムを再回収するTailing Recovery Plant(33千t/年でLi2O 6.0%の品位のリシア輝石精鉱を生産予定、2020年第3四半期に試験操業開始予定)やChemical Grade Plant3(2021年第3四半期に試験操業開始予定)の建設計画は既に承認済み、Chemical Grade Plant4の建設を計画中である。

1.3 The Buchanan’s LCT Pegmatite Field(Mr. Steven Wilson. Strategic Metals Australia)

・QLD州北部にBuchananリチウム探鉱プロジェクトを保有するStrategic Metals Australia(以下、「SMA」)社による、プロジェクトの概要に関する講演。

・同社は、QLD州Cape York半島の付け根付近に320km2の鉱区群を保有しており、リチウムなどの探鉱を実施中である。同鉱区周辺ではリチウム・セシウム・タンタル(LCT)型ペグマタイト鉱化が認められ、歴史的にはタンタルや錫が採掘されていた。SMA社は2014年に鉱区を取得後、リチウムを対象とした探鉱を実施。鉱化と関係するペグマタイトは1.55Gaの年代を示す近隣の花崗岩から分化したとされるが、昨今QLD州地質調査所が実施した年代測定ではリチウム鉱化の一部は200Ma程度の年代を示し、リチウムは再移動している可能性もある。主なリチウム鉱物はリシア雲母で、中央の石英帯からリシア雲母・石英帯、リシア雲母・石英・曹長石帯、石英・曹長石・白雲母帯と外側に向けて分帯するのが一般的である。これらのペグマタイト鉱化の周辺には熱水変質帯が広がっており、鉱区内の何処かにリチウム鉱化の中心があることを期待している。

1.4 Guidelines for Reporting Resources and Reserves for Brine Deposits
 (Ms. Rebecca Holland-Kennedy. PepinNini Lithium)

・アルゼンチンにかん水リチウムプロジェクトを保有するPepinNini Lithium社による、かん水関連鉱床の資源量・埋蔵量報告の際のガイドラインに関する講演。同ガイドラインは2019年に豪州鉱業探鉱企業協会(AMEC)主導で作成され、鉱石埋蔵量合同委員会(JORC)に承認されている。

・かん水に溶解しているリチウムに代表される有用資源の資源量・埋蔵量計算は、鉱石の資源量・埋蔵量計算とは性質が大きく異なることに留意が必要である。かん水は地表下で流動し、汲み上げの過程で性状が変化する特徴がある。帯水層のジオメトリーや間隙率、比産出率、かん水中のリチウム含有率が重要なファクターで、リチウム資源量はこれらファクターを乗じて算出される。一般に、盆地構造中央部に分布するかん水のリチウム含有量は辺縁部のそれより高いが、周辺から新たに流れ込む水の影響も考慮する必要がある。

・比産出率の計測には帯水層のコアサンプルが必要であるが、一般に比産出率が高い帯水層は脆くコアの回収率が低くなるため、サンプリングが難しい。採取した試料は、劣化しないように密封して可及的速やかに分析所まで運び、各種物性データを測定する必要がある。また「代表試料」の定義も難しく、ダウンホール物理探査を実施し、サンプルからの測定結果を補正する必要がある。埋蔵量を試算する際は、一定期間のかん水汲み出し試験の実施と各数値のモニタリングや、盆地構造辺縁部におけるかん水と天水の混合に関するシミュレーションの実施が重要となる。

2.分析技術に関する講演

2.1 The Analysis of Lithium Battery Metals and Commodities Using Field Portable Techniques
 (Mr. Andrew Somers. SciAps)

・携帯型蛍光X線分析装置(XRF)や携帯型レーザー誘起ブレークダウン分析装置(LIBS)製造販売を実施するSciAps社による、携帯型LIBSに関する講演。

・昨今、技術開発が進んできたことによりフィールドで鉱物同定や元素定量分析が実施可能な機材の選択肢が増えてきた。LIBSはいわゆるレーザーを利用した非破壊型の分析手法で、水素からウランまで、XRFよりも幅広い元素の定量分析が可能である。小型化が進んでおり、SciAps社では鉱物資源向けの携帯型LIBSを取り扱っている。LIBSの強みは、XRFでは測定の出来ない炭素やリチウムなどの軽元素が測定可能であること、XRFでは正確な定量分析が難しくなる重金属を多く含む試料における比較的高精度の分析が可能なことである。注意点としては、直径数mmの照射面を持つXRFと比較してレーザー焦点が直径50μmと微小である点が挙げられる。なお、1分程度の測定で5mm×5mm程度の範囲の元素分布マップを作成することが可能である。精度の高い分析を実施するためには、アルゴンガスが必要となる。

2.2 Rapid field identification of mineral phases in LCT pegmatites:
  the application of RAMAN spectroscopy(Ms. Sophie Perring. Portable XRF Services)

・携帯型分析装置の販売・リースを行うPortable XRF社による携帯型ラマン分光計に関する講演。

・リチウム鉱床で認められる鉱物は白色で外見が似たものが多いが、リチウムが軽元素であるため既存の携帯型XRFでは測定できなかったり、化学組成中に水を含まないためスペクトロメーターでの測定が困難であったりと、鉱物の同定が困難なケースが多い。ラマン分光法は長年研究目的で利用されてきており、産業用としてはあまり注目をされてこなかったが、水を含まない高輝度鉱物を測定スペクトルから同定することが可能で、最近は携帯型のラマン分光計が開発されている。同社が取り扱う分光計にはペグマタイト鉱物56種類のスペクトル情報が登録されており、30秒から5分間の測定で鉱物同定が可能である。すでにWA州のいくつかのリチウム探鉱プロジェクトで実際に導入され、ダイヤモンド試錐のコアやRC試錐のチップなどの鉱物同定に活用されている。

3.リチウムの処理技術に関する講演

3.1 Eramet lithium direct extraction process(Dr. Fabien Burdet. ERAMET Ideas)

・ニッケル・ミネラルサンド・マンガン大手であるEramet社の鉱物、選鉱、冶金に関する研究部門Eramet Ideasによる、アルゼンチンにおけるリチウム開発案件「Centenarioリチウムプロジェクト」の処理プロセスに関する講演。

・Eramet社は、アルゼンチンSalta県でCentenarioリチウムプロジェクトを推進中。プロジェクトエリアは標高3,800mの高地であるが、資源量は炭酸リチウム換算(LCE)量として9百万tが見積もられている。最終投資判断はすでに2019年に実施済みで600mUS$を投じて開発開始、2021年に24千t/年(LCE換算)での生産開始を見込んでいる。同プロジェクトの最大の特徴は、かん水からの直接抽出によるリチウム回収が実施される点である。従来法である事前蒸発法はリチウム実収率が低い割に処理期間が長く、蒸発池のために広い土地が必要で、かつ大量の残渣を処理しなければならないという欠点があり、同社が採用するプロジェクトとしては基準を満たしていなかった。

・Eramet社は同プロジェクトにおけるかん水からのリチウム回収に当たり、同社が独自に開発した直接回収技術(図2)を利用する予定。この方法は、水酸化アルミニウム系の固形活性剤を充填したカラムに、事前に物理化学条件を調整した常温(20℃)のかん水を流し込むことでリチウムを固形活性剤に吸着させ、その後水によりリチウムを再溶解・回収するという技術で、90%のリチウムが水とともに回収できる。その後、メンブランフィルターによりカルシウム、マグネシウムの除去や貴液の濃縮が実施された後、熱乾固したものを再溶解した貴液からホウ素、カルシウム、マグネシウムを再度除去後、炭酸ナトリウムと反応させて炭酸リチウムを沈殿させ、遠心分離でバッテリー向け品位の炭酸リチウムを回収する。

・Eramet社は、現在ヨーロッパに於いて欧州工科大学院(EIT)と共同で地熱発電所の熱水からのリチウム回収技術研究開発を推進中である。

図2.Eramet社により開発されたかん水からのリチウム直接回収法のプロセス図

図2.Eramet社により開発されたかん水からのリチウム直接回収法のプロセス図

(出典:Eramet社ホームページより)

3.2 A review of lithium flotation methods and collectors used in lithium beneficiation plants worldwide
(Mr. Abdul Gorken. ArrMaz)

・工業用化学品(特に選鉱用薬剤)大手のArrMaz社によるリチウム鉱物の浮遊選鉱に関する講演。

・浮遊選鉱が開発されて1世紀が経過し、現在は100種類以上の鉱種で500百万tが毎年浮遊選鉱を経て生産されており、そのうち65%は硫化鉱物、20%は工業原料鉱物、15%は石炭となっている。リチウム鉱物を含む工業原料鉱物の浮遊選鉱は、硫化鉱物のそれほど研究が進んでいない。工業原料鉱物の浮遊選鉱に利用される捕集剤は、100年にわたって脂肪酸が大半のプロジェクトで利用されており、その他の選択肢も限られていることから、操業上のキーとなるのは調整剤の選択である。

・最近のリチウム市場への関心の高まりを受けて各プロジェクトの開発に向けた動きが加速してきたが、一方で鉱石の鉱物学への研究が不足しており、各社とも操業立ち上げに苦慮したり、選鉱工程の変更が必要となる事態が生じている。捕集剤として利用される脂肪酸の消費量が想定以上となり、コスト増、機材の汚れや過起泡による操業効率の低下の問題が発生している模様。ArrMaz社では、リチウム鉱山を操業する顧客と個別に協力契約を締結し、最適な捕集剤・調整剤・起泡剤を組みわせた「カスタムブレンド」を提供し、浮遊選鉱操業状況の改善に大きく貢献している。

3.3 The Flotation of Lithium Minerals from Hard Rock Deposits from Laboratory Testwork
  to Commissioning(Mr. Damian Connelly. Mets Engineering Group)

・豪州ベースのエンジニアリング企業であるMETS社による、リシア輝石の浮遊選鉱と試験操業に関する講演。

・一般的にリシア輝石などの珪酸塩鉱物の浮遊選鉱は、硫化鉱物の浮遊選鉱ほど効果的ではない。雲母含有量、水の性質と温度、スクレーパーの利用、捕集剤の多用など、クリアすべき課題も多い。浮遊選鉱のパイロット試験実施は必須で、プロジェクトごとに鉱物組み合わせや状態が異なるため、異なる給鉱品位や水温・水質の変化による影響、雲母や柘榴石含有量の影響などを確認する必要があり、最適条件に習熟するのに6~12か月以上が必要となる。選鉱の操業立上げ(Comissioning)はプロジェクトにとって最後の難関で、往々にしてパイロット試験の結果と乖離して想定より長期間を要するケースが多く、給鉱の破砕粒度や薬剤の組み合わせ・条件などの最適化に6~12か月の時間を要する。プラント設計や水質管理の不備は、操業に対して特に大きな負の影響を与えやすい。最近立ち上がった豪州のリチウム鉱山も、軒並み選鉱過程の操業立ち上げに課題があり、フル生産達成までに時間を要している。Talison Lithium社のGreenbushes鉱山は非常に良好な選鉱成績を示しているが、長年の経験・知見の積み重ねと、カスタマイズされて第三者は利用できない特別な捕集剤利用によるものである。

3.4 A New ‘closed’ process for lithium chemicals production from spodumene
  and other lithium-silicate minerals(Mr. Richard Hunwick. ICS)

・ICS社による、リシア輝石精鉱から硝酸リチウムを生成する新プロセスに関する報告。

・リシア輝石精鉱から水酸化リチウムを生成する従来法では、硫酸やソーダ灰などの薬剤コストの影響が大きいうえ、大量に発生する残渣の処分が問題となっていた。今後、電気自動車用LIB向けのリチウム需要は急速に伸びることが予測され、リチウム処理の拡大に向けて硫酸などの確保が大きな課題となる可能性がある。ICS社が保有する処理技術は、リシア輝石精鉱と天然ガス・硝酸を反応させて硝酸リチウムを形成するもので、硝酸リチウムに再度天然ガスで熱を加えることで酸化リチウムを生成し、残渣から硝酸を再生成することにより、繰り返し硝酸を利用することが可能となる。生成された酸化リチウムは、水を加えることで水酸化リチウムに変換することが可能で、また還元することにより金属リチウムの生成も容易に可能である。このプロセスは一部が閉鎖系であり、選鉱施設近くに設置することで残渣物の処分が容易になるなど、さらなるシナジーが期待できる。

おわりに

電気自動車の普及に伴うLIB向けリチウム需要の長期的な拡大がここ数年予測されており、リチウムが注目を浴びる中、リチウム資源を巡る技術開発も日進月歩の状況である。どのタイプのLIBが今後の主流となるかは、リチウム資源の需要量そのものや、炭酸リチウム・水酸化リチウムなどの中間材の需要に影響を与える一方で、それぞれの中間材の製造コストが普及するLIBのタイプに影響を与える可能性もあり、LIB関連資源を巡る状況は非常に複雑である。本カンファレンスで報告のあった、Eramet社のかん水からのリチウム直接回収法はすでに研究段階を経て実用段階に入っており、今後のプロジェクトの推移を注視する必要があると考える。

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