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報告書&レポート

2019年9月26日 金属企画部 調査課 新藤徹、企画課 初谷和則
19-24

Cobalt Conference 2019参加報告

<金属企画部調査課 新藤徹、企画課 初谷和則 報告>

はじめに

電気自動車(EV)に搭載されるリチウムイオン電池の正極材向けの需要拡大が見込まれるコバルトは、DRコンゴが生産の過半を占め、また銅やニッケルの副産物として産出される点において、供給の脆弱性が見受けられる。コバルトの需給動向等に関する情報収集を行うため、2019年5月15日から16日に香港において開催された、Cobalt Institute主催「Cobalt Conference 2019」に参加した。以下に、主要な講演内容をまとめる。

Cobalt Instituteは、コバルトの持続可能な生産、消費を目指して、生産者、需要家、リサイクル業者、トレーダー等約20社により構成される業界団体で、コバルトに係る情報収集・交換の他、各種規制(保健衛生及び環境保護等)に対し、業界を代表して各国政府や国際機関等へ提言等を行っている機関である(本部は英国)。

写真1.「Cobalt Conference 2019」会場の様子

写真1.「Cobalt Conference 2019」会場の様子

1.コバルトの安定化

Stabilizing Cobalt – George Heppel, CRU

2017~2018年にコバルト市場に起きた状況を振り返る。2017年当時は、コバルト化合物は供給不足が将来続くと予想されたが、DRコンゴで小規模鉱山が増産し粗鉱が増え、中国の化合物工場がコバルト化合物の驚異的な増産を行った。従い2018年になると化合物工場の生産能力はボトルネックではなくなり、需給予測は大きく変わり、供給過多の予測となった。

また、コバルト地金に関して、2017年当時はDRコンゴのKatangaやブラジルのTocantinsの精錬所の閉鎖により、2018年には深刻な供給不足になるものと予想されていたが、地金価格上昇に伴う中国の精錬所での増産により供給過剰となり、地金価格は急落した。

上記の通り、化合物及び地金の供給不足は中国企業による投資活動で解消されたが、中間化合物である粗水酸化コバルトの供給懸念については、小規模鉱山の増産や計画されているプロジェクトの順調な立ち上げによる解消が期待されるも、依然としてリスクを孕んでいる。

図1.世界のコバルト化合物の需要と供給

図1.世界のコバルト化合物の需要と供給

(同社プレゼンテーション資料より)

2.DRコンゴのコバルトの供給

DRC Cobalt Supply – Paul Mabolia, CTCPM(DRC Ministry of Mines)

DRコンゴのコバルト生産量は、現在125千t(純分換算)であるが、Kingamyambo-Musonoi尾鉱からの回収、Kipushi鉱山の再開、その他の新規事業が開始され、2025年には200千tに達すると予想される。

図2.DRコンゴのコバルト生産量見通し(単位:t)

図2.DRコンゴのコバルト生産量見通し(単位:t)

(同社プレゼンテーション資料より)

最近3年間はコバルト価格は乱高下し、DRコンゴはそれに翻弄された。今後我々(DRコンゴ政府)は、これまで以上にコバルトの生産・消費の現場に関与し、また、Cobalt Instituteが形成するフレームワーク内での意見・経験の共有を図りたい(同フレームワークについては、5. CIRAFの創設にて詳述)。また、零細鉱業地域の貧困撲滅のために、十分な利益を確保可能な固定価格の設定を期待する。

現状、DRコンゴはコバルト製品の生産国ではなく、多くのコバルト原料~中間化合物が国外に流出しているとの認識である。今後は、付加価値の高いコバルト製品の産業バリューチェーンが発展することを期待する。

2018年のMining codeの改正は海外からの投資に悪影響を及ぼすことを念頭に置いた措置ではなく、DRコンゴと海外投資家の長期的なwin-win関係構築の精神に沿って両者間のバランスを取ったロイヤルティに変更したものである。

また、児童労働の問題は今に始まったことではないが、有効な対策を考えないとならない。

その他、電力不足が課題であり、Nzilo II、Busanga水力発電所建設事業が進行しても、引き続き400MWが不足すると認識している。Inga IIIの事業も重要視されているものの、これらの事業推進に5億US$弱の予算が必要である。

3.中国のコバルト市場の開発状況と展望

Development Status and Prospect of Cobalt Market in China – Joy Kong, Antaike/安泰科

中国へのコバルト原料の供給で最も多いのは中間化合物(=水酸化コバルト)であり、2018年では全供給量の70%程度を占める(純分換算)。それを中国国内でコバルト塩、コバルト地金、コバルト粉に加工する(2018年の生産割合はそれぞれ、84%、10%、6%である(純分換算))。

中国の電池向けコバルト消費量は年々増加傾向にある。特にNCM(ニッケル・コバルト・マンガン)正極材向けの伸びが著しく、LCO(コバルト酸リチウム)の伸びは緩やかである(コバルト純分ベース)。また中国は世界の正極材生産量のうち、2018年時点でNCMは70%、LCOは67%を占める。政府の補助金制度を受けて中国ではEVが多く生産・販売され、正極材向けコバルトも2018年まで順調に消費が拡大していたが、2019年に入り補助金適用条件の厳格化の影響で、生産・販売は急減した。しかしながら斯かる傾向は一時的なもので、中長期的には次世代車、特にEVの販売は増加傾向で推移、正極材の高ニッケル/低コバルト化のトレンドはあるものの、コバルト需要は堅調であろう。

図3.世界のLIB正極材生産量

図3.世界のLIB正極材生産量

(同社プレゼンテーション資料より)

4.LMEにおけるコバルト及びその責任ある調達

LME Cobalt and Responsible Sourcing – Hugo Brodie, LME

コバルトに関し、LMEではこれまで現物決済契約(Physical Settled Contract)のみを取り扱ってきたが、2019年第1四半期より差金決済契約(Cash Settled Contract)も追加導入予定。対象指標(Underlying Index)は、前者は指定がなかったのに対し、後者はFastmarkets MBの倉庫内標準品位コバルト価格(Cobalt Standard grade free market $/t in warehouse)を採用している。また契約期間(Contract Period)は、前者は3か月以内であれば毎日、3~6か月であれば週単位、7~15か月であれば月単位の取引が可能で、後者は15か月以内の月単位のみが設定される。

LMEは“責任ある調達(Responsible Sourcing)”を推進する。2017年に“責任ある調達に関する調査”を実施し、2018年にポジションペーパーを公開した。コバルトや錫1はリスクが高いため自動的に高フォーカスブランドに分類されるが、LMEで取り扱うその他全ての鉱種はOECDの指針に基づくレッドフラッグ評価(Red Flag Assessment)に基づきブランドの分類がなされる。

図4.LMEの評価フロー

図4.LMEの評価フロー

(LMEプレゼンテーション資料よりJOGMEC作成)

5.CIRAF(コバルト産業の責任ある評価フレームワーク)の創設

Establishing the CIRAF – Alice Valvodova, RCS Global

Cobalt Instituteは、2019年1月にCIRAF(Cobalt Industry Responsible Assessment Framework、コバルト産業の責任ある評価フレームワーク)を創立。CIRAFは、コバルトの生産者及び購入者が、自らの事業やサプライチェーンにおける責任ある生産及び調達リスクに関して、評価、緩和及び報告する能力を強化するための管理ツール・枠組である。

CIRAFで概説されているリスク評価と緩和のための管理フレームワークは、紛争地域及び高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンに関するOECDデューデリジェンスガイダンス(OECD Due Diligence Guidance for Responsible Supply Chains of Minerals from Conflict-Affected and High-Risk Areas)2と一致している。

CIRAFで管理される4つのリスク分類と9つのリスク領域
リスク分類 リスク領域
1.環境 ・空気/水/土壌環境への影響
・生物学的多様性への影響
2.労働安全衛生(OHS) 労働安全衛生と労働条件
3.人権(OECDデューデリジェンスガイダンスのAnnex IIで定義) ・紛争と汚職
・人権への影響
・児童労働
4.地域社会 ・零細鉱業
・生活
・移住

責任ある評価を可能とする具体的なCIRAFツールとしては、以下が挙げられる。既に約50%のCobalt Institute会員がこのツールを利用している。

  • ナビゲーションガイド
  • コミットメント声明
  • 評価ガイダンス
  • 評価ツール(生産者 and/or 購入者)
  • 規格参照文書
  • 公表ツール(生産者 and/or 購入者)
図5.CIRAFツールの一例:評価ツール

図5.CIRAFツールの一例:評価ツール

(リスク領域に関する自己評価のフローチャート)
(同社プレゼンテーション資料より)

6.DRコンゴの銅・コバルト鉱山におけるCIRAFの実施

Implementation of the CIRAF Framework for a Copper-Cobalt Mine in the DRC –Mark Hardin, CMOC

China Molybdenum(CMOC)社はDRコンゴのTenke Fungurume鉱山を操業。鉱区内の人口は、2007年に6万人であったのが2018年に60万人に急増するも、その中には不法な零細採掘に従事しているものが4千人程度含まれており、様々なリスクが生じている。

図6.Tenke Fungurume鉱山における不法零細採掘の影響

図6.Tenke Fungurume鉱山における不法零細採掘の影響

(同社プレゼンテーション資料より)

Tenke Fungurume鉱山では、リスク管理のために、①人権保障プログラム、②IFC(International Finance Corporation、国際金融公社)基準に基づいた環境・社会影響評価、③EMS(Environmental Management System、環境マネジメントシステム)の継続的な改善によるISO 14001の認証取得、④業界トップレベルの労働安全衛生の確保、を実施している。

更に、これら取り組み済みの活動に加え、CIRAFのフレームワークに早期段階から賛同し、活用を行っている。2018年に9つ全てのリスク領域において自己評価を試験的に実施しており、ほとんどの領域において、「適合(meets)」あるいは「基準を超える(exceeds)」の評価結果で、CIRAFの「公表報告ツール」に沿って情報発信を行った。

おわりに

メタル製品の生産者からエンドユーザーまで、“責任ある調達”の実施の必要性が求められている中、Cobalt InstituteがCIRAFと呼ばれる評価フレームワークを創立させるなど、生産・売買の透明性を高め、業界のイメージアップを図る具体的な取り組みが強化されつつあると感じられた。

中国のEV等新エネルギー車の普及政策のもと交付されてきた補助金が次第に削減される中、コバルトは今後も短期的には供給過剰になると捉えている関係者が多い。一方で、2019年8月に、最大のコバルト生産者であるGlencoreが保有するDRコンゴのMutanda鉱山(世界のコバルト生産量の約2割を占める)を、「2019年末を以て操業を休止する」と発表するなど、需給がタイト化する動きもみられる。コバルトを取り巻く市場の状況はボラティリティが高く、今後も注視が必要である。


  1. 米国の金融規制改革法(ドッド・フランク法)で規制対象とされる4鉱種の「紛争鉱物」の内の一つで、LMEで取り扱われている。
  2. デューデリジェンスとは、ある行為者の行為結果責任をその行為者が法的に負うべきか負うべきでないかを決定する際に、その行為者がその行為に先んじて払ってしかるべき正当な注意義務及び努力のことを指す。OECDの指針(=ガイダンス)は、事業者の活動が労働者、人権、環境、贈賄、消費者およびコーポレート・ガバナンスに負の影響をもたらす可能性があることも認識した上で、企業が自らの事業、サプライチェーンおよびその他のビジネス上の関係に関連する負の影響を回避し、それらに対処するため、リスクベースのデューデリジェンスを実施するよう勧告している。
    https://www.oecd.emb-japan.go.jp/itpr_ja/00_000485.html(OECD日本政府代表部)
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