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報告書&レポート

2019年12月19日 ロンドン 事務所 倉田清香
19-32

欧州のバッテリーリサイクルの現状

―International Congress for Battery Recycling 2019 参加報告―

<ロンドン事務所 倉田清香 報告>

はじめに

環境への影響や原料の供給不足への不安からバッテリーのリサイクルへの関心が高まっている。欧州でのバッテリーリサイクルに関する情報収集を行うため、2019年9月18日から20日にフランス・リヨンにおいて開催されたInternational Congress for Battery Recycling(ICBR)2019に参加した。同会議は欧州のバッテリーやリサイクル協会がバッテリーリサイクルの市場予測、新規プロジェクト、バッテリーのリサイクルに関するブロックチェーン技術の活用案、欧州での規則に関する動向を主題としたものだった。欧州ではバッテリーのリサイクルに関する規制への関心の高まりが強く、欧州委員会の他、世界中からバッテリー生産会社、自動車生産会社、コンサルタント、鉱山会社等、合計320名が参加していた。本レポートでは、欧州から見たバッテリーリサイクル現状を紹介する。

1.EUから見たバッテリーリサイクルに関する規則と動向

Circular Economy Perspectives for the Management of Batteries Used in Electric Vehicles

講演者:Pierre Gaudillat氏、欧州委員会(Joint Research Centre)

欧州委員会は、政策の立案過程において独自の証拠を示しながら、バッテリー用の金属とそのリサイクルに関わる政策を推進している。その中でも欧州委員会のバッテリーリサーチセンターはパフォーマンスと耐久性、安全基準、持続可能性、サーキュラーエコノミー、原料をテーマにしている。また、欧州委員会はBattery Directive(電池指令)、European Battery Alliance、Strategic Action Plan on Batteriesを策定している。

1.1.EU内の経済にとっての長所/短所/新たな機会

欧州委員会は図1のように欧州におけるEVバッテリーのバリューチェーンを評価している。 例えばリサイクルについては、企業競争力、インフラ整備、政策面に関して、EU経済として強みがあると評価しており、引き続き、強化・サポートし続ける必要があるとみている。

一方、EVバッテリーのリユースとEV以外目的での再利用に関しては、政策的な課題を有しており、今後、見直しを行う必要があるとみている。同様に、原料調達に関しても課題を有しており、改善が必要とみている。

原料の供給に不安を抱えていることから、バッテリーセルの生産にも制約がかかっている。そこで、リサイクルが重要であると考えている。

図1.欧州委員会から見たEVバッテリーバリューチェーンの長所と短所

図1.欧州委員会から見たEVバッテリーバリューチェーンの長所と短所

(出典:Hill N, Clarke D, Blair L, Menadue H, Ricardo Energy & Environment, ‘Circular Economy Perspectives for the Management of
Batteries used in Electric Vehicles – Final Project Report 2019. This was commissioned by EC Joint Research Centre1

将来対策が必要な課題としては、以下のものが挙げられる。

  • リユース及びバッテリーのEV以外利用といった今後の成長市場の定義が定まっていないこと
  • バッテリーの性能に関する統一基準がないこと(基準が生産者ごとに異なる)
  • 透明性の確保が必要なこと(生産者責任だけでなく資金調達にあたっても必要。また、V2G(Vehicle-to-Grid)にも必要)

1.2.短期的政策と中期的政策の優先

欧州委員会は下記を、短期的及び中期的な政策の優先課題とすべきと考えている。

  • 現行基準や定義が法的に定まっていないことを見直す。現時点の規制体系は、現在の市場と適合していない(例:生産者責任や廃棄物の定義など)。
  • それぞれのバリューチェーン内での透明性の向上。これに関しては、サプライチェーンを通じて情報にアクセスしやすい環境を構築し、市場関係者がより多くの情報に基づいた選択ができるようにする。
  • より資源を効率的に使うために、既に行われているリサイクルや、新規のリユース・EV以外利用の対象をより確実なものとする。
  • モニタリングとレポートのフレームワークを確立して、問題要素を集める。これによって、バッテリーのライフサイクルでどのくらい環境への負担があるのかを理解する。

リチウムイオンバッテリーのリサイクルに関しての以下のフォローアップスタディーを行う。

  • EOL(End of Life)のコストを把握する(回収、扱い方、分解、リサイクル等)
  • 適切な処理のため、持続可能なEOLシステムをデザインする
  • EU内経済におけるバリューを創出し、維持する。
  • 種々のシナリオ上のマテリアルフローを把握する。

欧州委員会はリサイクル推進のための制度構築に向け多くのことを検討しており、今後、EUがサーキュラーエコノミーの先頭に立つチャンスがあると主張をしていた。

2.ノルウェーのバッテリーリサイクルの現状

Status from Norway

講演者:Guro Kjørsvik Husby氏、Chief Communication Officer, Norsirk AS

EU内でEV化が進んでいる国の一つであるノルウェーでのバッテリーリサイクルプロジェクトについて説明が行われた。

ノルウェーではEV導入に対するインセンティブが強化されている中、バッテリーのリサイクルにも力を入れている。現時点で行われているプロジェクトとしては、Batteriretur社はすでにEV内の高電圧システムをノルウェーのSandefjordで分解しており、バッテリーを分解するためのより大きな工場をFredrikstadに建設する許可が下りるのを待っている。

Hydro社が主なプロジェクトオーナーとして進めようとしているR&D LIBリサイクルプロジェクト(LIBRES)では、ノルウェーのリチウムイオンバッテリーリサイクルのパイロット工場のデザイン基準を開発している。このパイロット工場は2025年にはノルウェーの消費量に対応できる規模となる予定。

他にも、南ノルウェーで行われているBATMANプロジェクトは、バッテリー原料の再利用に関して取り組んでおり、Eyde-cluster社、Glencore Nikkelverk社及び他のパートナ―等と共同でバッテリー原料のリサイクルに関するプロジェクトを実施する予定。

ノルウェーでの生産に関しては、SIEMENS社はTrondheimに工場を所持しており、単位バッテリー300~400MWhのバッテリーモジュールを生産する能力があると見込んでいる。90%のバッテリーモジュールはノルウェーのサプライヤーから、また、バッテリーセルはアジアから届く。

Corvus Energy社は海事部門のバッテリー用の生産工場を2019年9月6日に稼働させた。

BEBA社とGraphene Batteries社はリチウム・硫黄電池の開発に成功しており、これからノルウェーでバッテリーセル生産を実施する予定を立てていると予想される。

FREYR社は、ノルウェーのMo I Ranaにある35万m2の敷地に32GWhの生産能力の工場を建設しようとしている。これによって、フル生産状態ではEV60万台分のバッテリーを供給することができる。予定通りにいけば、建設は2021年から実施し、その2年後から生産が始まる予定。

3.リチウムイオンバッテリーリサイクル市場見通し

Update of the Lithium Batteries Market

講演者:Christophe Pillot氏,Director, Avicenne Energy France

Avicenne Energy社のChristophe Pillot氏の講演より、バッテリーのリサイクル市場の見通しをまとめた。図2のグラフは、2000年から2030年の間の世界中の充電式バッテリー市場のトレンドと見通しを示したものでり、2015年からリチウムイオンバッテリーの容量が急激に増えていく見通しである。パックレベル (充電式バッテリーのセル)の市場規模の予測について、2015年から2025年の年平均成長率はxEV用のリチウムイオンバッテリーが19%増、xEV用以外のリチウムイオンバッテリーについては12%増、鉛バッテリーが5%増である。

図2.2000年から2030年の間の世界中の充電式バッテリー市場のトレンドと見通し

図2.2000年から2030年の間の世界中の充電式バッテリー市場のトレンドと見通し

(データ出典:Christophe Pillot, Avicenne Energy)

バッテリーのリサイクルと充電式バッテリーは少しずつ増える見通しだが、未使用リチウムイオンバッテリーの価格が毎年どんどん安くなっており、リサイクル市場は未使用リチウムイオンバッテリーとコストで競争するのが厳しい状況。リサイクルしたバッテリーの5%は不良品であり、市場に出すことができないのが難しいところでもある。

4.コバルトとバッテリーバリューチェーン

Cobalt and the Battery value Chain

講演者:Carol-Lynn Pettit, Cobalt Institute

リチウムイオンバッテリーには欠かせないコバルトに関して、Cobalt Instituteはコバルトのバッテリーへの重要性とリサイクル率に関する発表を行った。Cobalt Instituteはコバルトの持続可能な生産、消費を目指して、生産者、需要家、リサイクル業者、トレーダー等により構成される業界団体で、コバルトに関わる情報収集・交換の他、業界を代表して各国政府や国際機関等への提言等を行っている。

コバルトは多くのバッテリー(LCO、NCA、NCM111、NCM532、NCM622、NCM811)に含まれており、リチウムイオンバッテリーに不可欠な原料である。バッテリーバリューチェーン上、鉱山で生産されるプライマリーコバルトとリサイクルされたコバルトはどちらも同じ価値を持つ。

2018年のデータによると、世界のコバルトの53%がバッテリーに使われ、16%は航空機、ガスタービンエンジン等のSuperalloys、8%はhard metalsに消費された。つまり、世界中で生産されたコバルトの半分が、充電式バッテリーとして、温室効果ガスの排出削減に貢献している。

なお、コバルトの用途によって、リサイクル率が異なる(Superalloysリサイクル率90%、家庭用バッテリー10-30%、EVバッテリー90%、マグネット10%、ポリエステル用の酸化触媒の触媒90%) 。技術的にはリサイクルが可能なものだが、現時点では回収率が低い。これから徐々に改善することを願っている。EVバッテリーに関しては、回収システムを築き上げることが重要と考えている。

コバルトのライフサイクルアセスメント(LCA)についての報告書を2016年に発表しており、新しく2020年にアップデートする予定。この報告書では、コバルトの生産と環境への影響等について記載している。

おわりに

リサイクル原料を使用したバッテリーは未使用原料のバッテリーよりもコストが高い。そして、未使用原料のバッテリーの方がリサイクルしたバッテリーよりも寿命が長い。未使用原料のバッテリーのコストが毎年徐々に下がっていることから、リサイクルしたバッテリーは未使用原料のバッテリーとコストで争うことができない状態だと多くの参加者は話していた。しかし、新しい鉱山において開発決定から生産までたどり着くのには平均して8年間必要となることから、バッテリー原料の金属が供給不足になったときにはリサイクル原料の使用が必要となる。今はリサイクルのコストが合わなくても、取り組みを進めることは大事だと大手企業は主張するが、他にも政府からの補助金がさらに必要という声も多かった。この会議では、規制作りやリサイクルに関するデータ・情報収集への関心の強さが印象的だった。


  1. https://publications.jrc.ec.europa.eu/repository/handle/JRC117790. page vii

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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