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報告書&レポート

2020年4月28日 メキシコ 森元英樹
20-06

メキシコSonora州に黒鉛鉱山を見た

―メキシコ事務所最終号―

<メキシコ事務所 森元英樹 報告>

はじめに

電気自動車が今後本格的に普及する上で、その電池材料としてリチウム、コバルト、ニッケルといった鉱物資源が注目を集めているが、負極材の原料として使用されるグラファイト(黒鉛)は世界生産量の約7割を中国が占めており、その中国も将来的には黒鉛の輸入国に転ずると予想されていることから、注目を集める素材である。

黒鉛は、メキシコにおいてもSonora州、Baja California州、Guerrero州、Oaxaca州と広い地域に存在すると報告されている。しかし、現在世界の黒鉛生産量のうちメキシコが占める割合は1%程度であり、さらにメキシコ国内において商業生産が行われている地域はSonora州のみである。今回、Sonora州において黒鉛を生産している事業者から黒鉛鉱山及び処理プラントの活動状況に関する情報を得ることができたことから、メキシコ黒鉛生産の現状として報告する。

1.Sonora州の黒鉛生産について

1.1.Sonora州の黒鉛生産量

国立統計地理情報院(以下、INEGI)の公表資料によると、2018年におけるメキシコ黒鉛生産量は対前年比136.5%増の4,130t(図1)となっている。近年の生産量推移として、2008~2015年は2014年(9,160t)を除き5,000~7,000t/年で推移してきたが、2016年は3,839t、2017年は1,746tと2016年以降急激に減少した。

Sonora州において黒鉛を生産するMinerales Industriales Sonora社(以下、MIS社)によると、この要因は、黒鉛を生産する鉱山が中小零細企業であることと、メキシコの輸送インフラの整備が不十分なことから国際競争力が低下したためであり、その結果、輸出量の数%を占めていたドイツへの輸出が減少し、2018年以降はドイツへの輸出実績はなくなった(2015年におけるメキシコの黒鉛輸出国の内訳は、米国94.8%、ドイツ2.2%、グアテマラ2.1%、その他0.9%)。さらに、最大の輸出相手である米Asbury Carbons社(本社:NJ州、以下、AC社)の需要が減少したことも、生産量減に影響を与えているとの説明であった。

図1.メキシコ黒鉛生産量

図1.メキシコ黒鉛生産量

(INEGI資料からメキシコ事務所作成)

1.2.鉱山の位置

メキシコ最大の鉱業州であるSonora州の鉱業事情については、2018年7月24日付 カレント・トピックス18-17:AMLO次期メキシコ大統領、鉱業に何を思う~大統領選挙とGrupo México社の拠点Sonora州のいま~の「2.Grupo México社が鉱業を牽引するSonora州の投資環境」において説明しているので、参照いただきたい。

黒鉛鉱山について、Sonora州経済省鉱業部課長に聞いたところ、Sonora州ではBaja California湾岸サイドに位置するGuaymas郡、州都であるHermosillo市(以下、州都)南東に隣接するLa Colorada郡、隣接するSoyopa郡及びSonora州南東に位置するNavajoa郡、Alamos郡で黒鉛鉱床が確認されている。しかし、現在開発が行われている地域は図2に示すとおり、La Colorada郡及びSoyopa郡のみであり、Alamos郡は過去に開発された実績があるものの、現在は全ての鉱山が休廃止閉山となっている。

現在操業中の黒鉛鉱山は、La Colorada郡La Estacada地区のCarricito鉱山及びSoyopa郡Onavas地区のChiripa鉱山である。なお、Chiripa鉱山南西数kmのSan José de Moradillas地区には、幾つかの休廃止鉱山が位置している。これらの休廃止鉱山は、1800年代後半に地元住民による小規模採掘活動が行われ、1910年代に入り米国企業による開発が進められ、1983年にCarricito及びChiripa鉱山を保有するMIS社が買収し、1997年まで操業を行った。休廃止鉱山としては、El Cochi鉱山を筆頭にLourdes鉱山やLa Cumbre鉱山があり、MIS社幹部の説明では、黒鉛の需要が増加し価格が回復した場合には、これらの休廃止鉱山からの黒鉛生産の再開は可能である。以下に、各鉱山の概況を説明する。

図2.Sonora州黒鉛鉱山位置概略図

図2.Sonora州黒鉛鉱山位置概略図

(INEGI資料に各鉱山等をメキシコ事務所にて記載)

1.2.1.Chiripa鉱山

Onavas地区にあり、州都から国道16号線及び未舗装道を合わせて約187kmに位置する。鉱体はマント及び一部鉱脈からなり、平均カーボン値(以下、カーボン値)は82~84%、確定・推定鉱物埋蔵量は900千tと推計されている。現在、需要に基づき400~800t/年の生産レベルで操業を行っている。

1.2.2.Carricito鉱山

La Estacada地区にあり、州都から国道16号線及び未舗装道を合わせて約90kmに位置する。南北約400mの鉱床が確認されており南部は貫入岩により押上げられた背斜構造を呈し、さらなる鉱床の拡大が期待されている。一方、北部は断層が入っていることから延長は期待できない。

鉱山には、斜坑軌道によるトロッコ積出設備(写真1)及び69m立坑巻き上げ搬出設備(写真2)を有するが、現在は立坑設備のみを使用している。また、立坑と斜坑は深部で連結しているため、斜坑は坑道内に空気を送り込む役割を果たしている。Carricito鉱山の勤務は20日の連続操業を行った後、10日間休業する体制で、2019年末現在の鉱山労働者数は14名である。現在、需要に基づき400~800t/年の生産レベルで操業を行っている。カーボン値は78~85%であるが、選鉱により86%まで上げることが可能である。確定・推定鉱物埋蔵量は700千t以上と推計されている。

  • 写真1.斜坑トロッコ積出設備

    写真1.斜坑トロッコ積出設備

  • 写真2.立坑による巻き上げ搬出設備

    写真2.立坑による巻き上げ搬出設備

(筆者撮影)

1.2.3.休廃止鉱山

San José de Moradillas地区には、過去に採掘が行われていた黒鉛鉱山が残されている。採掘が最も盛んであったのはEl Cochi鉱山であり、そこから北東約2kmにLourdes鉱山やLa Cumbre鉱山といった休廃止鉱山が存在する。これらの休廃止鉱山のうち、Lourdes鉱山権益の一部はAC社のメキシコ子会社であるGraphitos Mexicanos de Asbury社(本社:州都、以下、GMA社)が保有し、その他の鉱山権益はMIS社が全て保有している。El Cochi鉱山は、1.2で述べたとおり1800年代後半に地元住民、1910年代に米国企業による開発が行われ、1983~1997年はMIS社によって開発が継続されたものの、休廃止鉱山となった。鉱床は傾斜角60~70度で600m確認されており、4層のマントからなる。堆積層のレベル間隔は30mで、9レベル(最深部は地表下約300m)まで開発が行われた。しかし、現在レベル4以下は水没している箇所があり、採掘作業を再開するにはポンプによる地下水の汲み上げが必要となる。El Cochi鉱山の最盛期には、70~80人の鉱山労働者が従事していた。過去の開発時のカーボン値は85%であったが、MIS社幹部によると一部の鉱床には90~92%の高純度黒鉛が含まれており、価格によっては産出が可能とのことであった。

  • 写真3.坑口

    写真3.坑口

  • 写真4.坑内

    写真4.坑内

(筆者撮影)      

2.黒鉛処理プラントについて

MIS社が保有する2つの操業鉱山で生産される鉱石は、AC社のメキシコ子会社であるGMA社が保有する処理プラント並びにMIS社が保有する処理プラントで処理される。両社が保有するプラントは、州都とGuaymas港を結ぶ鉄道にあるTorres駅に隣接しており、州都から国道16号線及び未舗装道を経由し、約40kmの地点に位置する。

2.1.GMA社黒鉛処理プラント

GMA社が保有する処理プラントではMIS社から鉱石を買い取り、GMA社プラント敷地内(写真5)において天然乾燥させ含水率を7%未満にまで低下させた後に、同敷地内にあるプラントに送られ粉砕される。バイヤーの仕様により異なるが、動力による乾燥が行われ含水率2%程度まで低下後に粒径選別工程などを経て製品として梱包(写真6)され、トレーラー、鉄道(写真7)、もしくはGuaymas港から船積みで米国に輸出される。前述のとおり、2018年まではドイツ向け輸出の実績があったが、2019年からは大部分がAC社向け販売となっている。なお、GMA社処理プラントには、粉砕(クラッシャー)装置(写真8)、動力乾燥装置(写真9)、粒径選別装置、製品梱包装置(写真10)等が整備されており、カーボン値を測定・調合する分析室も併設されている。

  • 写真5.天然乾燥

    写真5.天然乾燥

  • 写真6.製品保管庫

    写真6.製品保管庫
    (白袋:2.2tバッグ、紙:25kgパック)

  • 写真7.プラント横を走る鉄道車両

    写真7.プラント横を走る鉄道車両

  • 写真8.粉砕(クラッシャー)

    写真8.粉砕(クラッシャー)

  • 写真9.プラント全景

    写真9.プラント全景
    (左:事務所・倉庫、右:動力乾燥機等)

  • 写真10.製品ホッパー

    写真10.製品ホッパー

(筆者撮影)

2.2.MIS社黒鉛処理プラント

GMA社プラントからTorres駅を挟んだ東約200mに位置し(写真11)、GMA社プラントと比較すると小型のプラントであり、2019年段階では整備中であった。なお、粉砕装置(写真12)は中国製を使用している。現在、同プラント敷地ではCarricito及びChiripa鉱山から産出された黒鉛を天然乾燥し、乾燥後はGMA社に売却している。その他、Sonora州の零細鉱山から低カーボン値の粗鉱を買い取り、処理し、泥材として国内企業向けに販売している。

  • 写真11.プラント全景

    写真11.プラント全景

  • 写真12.粉砕装置内部

    写真12.粉砕装置内部

(筆者撮影)   

おわりに

2019年末現在、メキシコで黒鉛の生産を行っているのはSonora州のみであり、カーボン値75~85%を有するChiripa鉱山及びCarricito鉱山の2鉱山のみが黒鉛の採掘を行っている。生産量は800~1,000t/年、処理された産物はほぼ全量が米国のAC社関連企業へ輸出されている。しかし、これらの事業は、鉱山操業を行うメキシコ企業MIS社、MIS社から粗鉱を買い取り、処理し米国へ輸出しているGMA社の独占状態にある。操業鉱山のほか、休廃止鉱山からの黒鉛生産の可能性があることから、米国以外の国への販売は可能と考えるが、2社による独占状態であることから価格交渉など厳しい条件が提示される可能性があり、また、輸出ルートの確保などの課題が残る。

最後に、2019年3月をもってJOGMECメキシコ事務所を閉所することとなった。2020年4月以降、中米・カリブ諸国の鉱業情報はバンクーバー事務所に引き継がれることとなる。これまで調査に協力をいただいた管轄国政府機関、企業関係者をはじめとした皆様に心から感謝を申し上げ、メキシコ事務所から発出する最後のカレント・トピックスとする。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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