閉じる

報告書&レポート

2020年6月12日 ロンドン 倉田清香、金属企画部 新藤徹
20-07

Advanced Automotive Battery Conference Europe参加報告

<ロンドン事務所 倉田清香、金属企画部 新藤徹 報告>

はじめに

2020年1月12日から16日にかけて、Advanced Automotive Battery Conference EuropeがドイツWiesbadenで開催された。本カンファレンスは車載用電池関連では最大規模と言われ、米国、欧州、アジアの各地域でそれぞれ毎年開催され、欧州では今回が10回目となる。

本稿では発表内容の内、アナリストから見たEV普及の見通し、EVバッテリーで最も問題視されているコバルトで世界最大シェアを占めるDRコンゴからの調達リスク等を紹介し、電池関連情報の提供を図りたい。

1.eLNO®:Next-Generation High-Energy Low-Cobalt Cathode Materials for Greater Stability and Safety

発表者:Eva-Maria Hammer, Product Innovation Manager, Johnson Matthey

英貴金属化合物メーカーのJohnson Matthey社は、コバルトの重量比率が8%未満のニッケルリッチ正極材“eLNO”を開発中。詳細情報は開示されなかったが、層状のニッケルリッチ酸化物にドーパントを添加するとともに、表面加工することでNCM811の2/3のコストで同程度の性能が期待できるとの説明であった。

尚、2022年よりポーランドにて10千t/年で生産開始し、将来的には100千t/年まで生産を拡大する予定。

図1.正極材のコスト比較

図1.正極材のコスト比較

出典:同社ホームページ

2.Raw Materials Post 2025:Where Will They Come From?

発表者:Andrew Leyland, Head of Strategic Advisory, Benchmark Mineral Intelligence

世界の自動車市場でのEVの販売シェアは、2019年時点では3%。今後の見通しとして、低成長シナリオでは2025年:10%、2030年:25%、2035年:42%、2040年:61%に、高成長シナリオでは2025年:14%、2030年:34%、2035年:57%、2040年:82%と拡大する見通し。

図2.EV販売シェア推移

図2.EV販売シェア推移

出典:同社プレゼンテーション資料

各国においても、EV普及促進に向けて以下目標に関する声明が出されている。

  • 米国:連邦政府は未設定ながら、10州が2050年までにすべての車をゼロエミッション・ビークルに。
  • カナダ:2030年までにEVの販売シェアを30%に、ケベック州では2050年までに排出量をゼロに。
  • メキシコ、ブラジル、イタリア、日本、韓国:いずれも2030年までにEVの販売シェアを30%に。
  • 英国、フランス:内燃機関(ICE)車の販売を2040年までに終了。
  • ノルウェー、オランダ:ICE車の販売を2035年までに終了。
  • ドイツ、イスラエル、インド:ICE車の販売を2030年までに終了。
  • EU:2030年までのICE車の販売終了を検討。
  • 中国:EVの販売シェアを2020年までに5%、2025年までに20%に。

また、バッテリー業界では将来的にはコバルトが全く必要なくなるとの予測もある。DRコンゴのMutanda鉱山の一時停止はコバルト供給の柔軟性を示すが、新たな供給源に対する心配は依然として未解決のままである。現状のコバルトの需要は120千tで、2025年には230千t、2030年には285千tと短期的には増加の見通しである。

車載用電池の現状のサプライチェーンはコストが高く、自動車メーカーは「適切でない」場所に仕事を与えている。必ずしも世界に分散する現在のサプライチェーンに限らず、特定の地域内で完結させることで効率及び安定を追求できる可能性もある。

尚、自動車大手によるリチウム鉱山買収の可能性に関する会場からの質問に対し、少なくとも今後2、3年はないであろうとの見解であった。

図3.世界各地に分散(左図)、特定地域内で完結(右図)するサプライチェーン

図3.世界各地に分散(左図)、特定地域内で完結(右図)するサプライチェーン

出典:同社プレゼンテーション資料

3.Breaking the Raw Materials Supply Barrier

発表者:Milan Thakore, Senior Research Analyst, Wood Mackenzie

世界のEV普及はまだ黎明期と言え、10年後でもまだ程遠い状況と予測する。具体的には、BEV/PHEVの販売シェアは2025年:7%、2030年:14%、2035年:24%、2040年:38%と徐々に上昇するも、2040年でも内燃機関(ICE)車のシェアは半分以上で、前述のBenchmark Mineral Intelligence社に比し慎重な見通しがなされている。

図4.EV販売シェア及び二次電池需要の見通し

図4.EV販売シェア及び二次電池需要の見通し

出典:同社プレゼンテーション資料

主要なバッテリーメタルの供給リスクは、以下の通り。

  • リチウムは需要拡大のスピードと比較して増産が先行したため、価格下落を引き起こした。今後も価格は下落基調なるも、かん水からの増産不調と鉱石からの生産の合理化が反発のポイントとなり得る。
  • コバルトは価格低迷下、今後も主要生産国の地位を占めるDRコンゴの不安定さが懸念される。加えて、Mutanda鉱山の再開延期と、児童労働等のESG面での透明性確保もリスクである。
  • ニッケルは、インドネシア等の新規HPALプロジェクトの進捗及び高レベルのNPI生産が価格の下押し圧力となることが懸念点である。

4.Challenges and Opportunities for Cobalt Supply in the DRC.

発表者:George Heppel, Senior Analyst, Head of Cobalt Research, CRU

DRコンゴのデータは信頼性が必ずしも高くなく、しかもその多くを中国系を始めとする非上場企業が保有していることから入手も困難な状況にある中、独自に現地で収集した情報を基に、同国のコバルト操業の状況が説明された。

歴史的に見て、DRコンゴからの供給障害が過去のコバルト価格急騰の主要因となっている。Mutanda鉱山の休止により、2020年は鉱山からの供給は前年比で減少するも、これまでアフリカに累積した中間在庫により相殺されてしまう。

同国のリスクとしては、規制・政治的な側面もあるが、電力不足も挙げられる。Mutanda鉱山の停止で一時的には緩和されるものの、今後5年以内の生産開始に向けて現在開発が進んでいるプロジェクトも複数あり、電力能力増強に対する長期的な投資が必要である。2013年に発表されたInga 3水力発電所が建設されれば、4,800MWの発電能力ゆえ鉱山需要の充足に十分ながら、2016年に世界銀行が同発電所建設プロジェクトから撤退した。2020年に入り、DRコンゴ政府がアフリカ開発銀行と資金調達に関して協議中とされているが、今後の進捗は不透明な状況にある。現実的な見通しとして、発電能力が増強されるまでに3~5年は掛かるであろう。

5.Cathode Market Expansion:Challenges and Opportunities

発表者:Tom Van Bellinghen, Marketing & Sales Director, Rechargeable Battery Materials, Umicore

同社は世界のリチウムイオン電池の正極活物質に関して20%のシェアを誇り、電池のリサイクル事業も展開している。

EV用バッテリーでは単位重量当たりのエネルギー密度だけでなく、単位電力量当たりのコストも重要な要素である。コストは原材料費及び加工処理費に、電力量は技術に依存し、同社は中程度のニッケル量で高電圧の実現を検討しており、これまでのところNMC721が最良との結果が得られている。

また、今後はコストに加え、二酸化炭素排出量等のライフサイクルアセスメントの観点が、正極材についても重視されると思われる。

おわりに

本カンファレンスには延べ1,000名以上が、自動車メーカー、化学品メーカー、鉱山会社等の幅広い業種から参加しており、日系企業の姿もまま見られた。内容も電池化学、安全性、原材料の需給等、多岐にわたる盛り沢山なものであった。一方で、一時の熱狂的とも言えたEV普及への期待が落ち着きつつあるセンチメントが感じられたことが印象深い。

また、本文で取り上げたトピック以外では、欧州の電池リサイクルに対する姿勢が印象的であった。地域を挙げての電池産業の育成に際し、廃電池の流通はまだ本格化していない状況にもかかわらず、最初からリサイクルを組み入れた循環経済を構築すると打ち出しており、その構想力と同時に学ぶべき点が多いと感じ入った次第である。

欧州は自動車産業のみならず、環境対応面においても思想、技術開発及びその社会実装でこれまで世界をリードし、今後もその手綱を緩めることはないと思われる。それぞれの状況に応じ自ら考え行動することが大事であるが、そのための参考とすべく引き続きその動向にはアンテナを張り続けたい。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

ページトップへ