報告書&レポート
EV Supply Chain Festival参加報告
はじめに
新型コロナウイルスの影響により、2020年3月以降のカンファレンスやセミナーが軒並み延期又は中止となった一方で、Web会議システムを活用したウェビナーが頻繁に開催されるようになった。本稿では、2020年5月26~29日にかけてオンライン上で開催されたBenchmark Minerals社主催のEV Supply Chain Festivalについて報告する。このイベントは、電気自動車(EV)製造に必要となる原材料のサプライチェーンに焦点を当てており、以下に、興味深かった発表の概要を示す。
1.サプライチェーンの脱グローバリゼーション化について
(1)Robert Colbourn, Benchmark Membership Manager, Benchmark Mineral Intelligence
- 米国と中国の間の政治的な緊張は、新型コロナウイルスによりさらに高まりを見せており、全ての分野におけるサプライチェーンに影響を及ぼしている。リチウムイオン電池(LIB)のサプライチェーンにおいては、特に中国が中心的な役割を担っており、米国や欧州では課題となっている。
- サプライチェーンのうち、最初の採掘段階であるstage1について、リチウムは南米・豪州、コバルトはDRコンゴ、グラファイトは中国に存在している。化学プロセスとなるstage2については中国に集中しており、米国には存在していない。stage3のカソードやアノードはアジアにて製造され韓国や日本も含まれるが、中国にシフトしている。バッテリーセルの組み立て工程にあたるstage4もそのほとんどが中国で行われているが、米国・欧州にも存在する。このように下流側の状況は変化している。
- 2010年に発表された日産自動車株式会社のEVリーフのバッテリーサプライチェーンによると、製造工程はほぼアジアに集中していた。これに対し、2020年のTesla社のmodel 3のバッテリーサプライチェーンでは、stage4のセルの組み立て工程が米国にシフトした。さらに2030年に向けて、stage3のアノードやカソード製造工程のほか、stage2の化学プロセスまでが米国にシフトしようとしていると見込まれる。
- キーワードとして重要なのは、①サプライチェーンナショナリズム/セキュリティ、②サプライチェーンのロジスティックスの効率化、③OEMの経営状況、④低炭素化(ライフサイクルアセスメント、カーボンフットプリント)である。
- 中国は新エネルギー車の支援により、2029年に向けて101のメガファクトリーの建設を計画している。また上流産業については既に中国に存在しており、21世紀における世界の自動車産業を牽引することになる。これに対し、欧州は16のメガファクトリーが計画されており、欧州バッテリーアライアンスにより支援体制を整備している。米国では民間主導で8のメガファクトリー建設が計画されている。
(2)Emily Hersh, Managing Partner, DCDB Group
- 新型コロナウイルスは危機ではあるが、何かを破壊したり創造したりはしない。コロナ前から存在していた傾向を加速・増幅又は減速するだけである。コロナ以前からEV化の需要動向や環境保護、正極材原料の開発、投資動向などがポイントになっていたが、コロナ後は特に、①コロナによる景気減退のインパクト、②企業におけるサプライチェーンのローカル化動向、そして、③各国政府がどれくらいサプライチェーンのローカル化、強靭化、脱中国化を進めようとしているかがポイントになっている。
- これまで米国は、サプライチェーンを海外に外注してきた。EVに関して、政府は導入補助金や充電施設等のインフラ整備を行ってきた一方で、サプライチェーンを国内に戻す投資は行ってこなかった。サプライチェーンのローカル化は、経済的な観点というより国家安全保障的な観点が必要である。欧州や中国は、EV産業を成長させるためにバッテリーのサプライチェーンを構築する政策を打ってきた。
- 米国では、トランプ大統領が「Make America great again」の方針を打ち出している一方で、環境保護主義的な考え方を持つ政治家も存在する。こういった中でクリティカルミネラルの確保は、軍事的な需要とクリーンエネルギー需要という両面において必要とされている。しかし、環境派は鉱山開発による環境への悪影響という観点から賛同しない。こういった中で方向性を探っている状況である。
- 中国はバッテリーのサプライチェーンを国有化しようとしている中で、米国は中国を敵対視し、競争し、打ち勝とうとしている。ただし、バッテリーのサプライチェーンにおいて、下流以外では米国のシェアは0%である。そのような中で、米国では国内の企業連携を進めクラスター的にバッテリーサプライチェーンを構築しようとする動きがある。
- クリティカルミネラルの点において重要になっているのは、レアアースである。レアアースについては、その製造工程を完全に中国に依存している状況となっており、この依存状況への対応が求められている。米国ではクリティカルミネラルのリスト化を行い、その対応を進めているが、鉱石やプロセス技術はあるものの、環境的な論点が発生しているなど、プロセスが途切れてしまう状況にある。
2.バッテリーサプライチェーンの状況
(1)Simon Moores, Managing Director, Benchmark Minerals Intelligence
- EVサプライチェーンは中国が支配しており、特に化学プロセスでは中国が生産能力の大半を占めている。一方で、欧米ではカソードやアノードを全く生産していない。
- グラファイトのサプライチェーンに関して、各段階における中国の占める割合は次のとおりである。
フレークグラファイト | 中国所在65%、中国企業68% |
球状グラファイト | 中国所在100%、中国企業100% |
アノード | 中国所在86% |
バッテリーセル | 中国所在73%、中国企業64% |
フレークグラファイトの中国企業割合が中国所在割合より若干多いのは、マダガスカルに鉱山を保有しているためである。球状グラファイトでは、中国が100%を支配している。上流では中国の割合が大きいが、下流ではやや低くなる。バッテリーセルの中国企業割合が中国所在割合よりも少ないのは、日本や韓国の企業が中国で操業しているためである。
- ニッケルのサプライチェーンに関して、各段階における中国の占める割合は次のとおりである。
精錬ニッケル | 中国所在31%、中国企業27% |
硫酸ニッケル | 中国所在65%、中国企業58% |
カソード | 中国所在61%、中国企業54% |
バッテリーセル | 中国所在73%、中国企業64% |
各段階でわずかに中国企業の割合が低くなり、上流から下流に向けて中国の割合がわずかに高くなる。中流以降は中国が約2/3を支配している。
- コバルトのサプライチェーンに関して、各段階における中国の占める割合は次のとおりである。
コバルト探鉱 | 中国所在1%、中国企業37% |
コバルト精錬 | 中国所在68%、中国企業69% |
カソード | 中国所在61%、中国企業54% |
バッテリーセル | 中国所在73%、中国企業64% |
中国に所在するコバルト探鉱はわずか1%に過ぎないが、DRコンゴで鉱山を保有しており、中国企業の割合は高まる。中流以降は中国が約2/3を支配している。
- リチウムのサプライチェーンに関して、各段階における中国の占める割合は次のとおりである。
リチウム探鉱 | 中国所在10%、中国企業32%(米国企業の割合30%) |
リチウム化学物質 | 中国所在59%、中国企業54%(米国企業の割合28%) |
カソード | 中国所在61%、中国企業54%(米国企業の割合0%) |
バッテリーセル | 中国所在73%、中国企業64%(米国企業の割合8%) |
中国は原材料を自国にあまり持っていないが、中流以降で大きな割合を占めている。()内は米国企業の割合であり、上流では中国とほぼ同じ割合を占めているものの、カソードに至っては米国の割合は0%であり、米国の位置付けが非常に弱い。バッテリーセルについては、米国内にギガファクトリーを保有している。
- マンガンのサプライチェーンに関して、各段階における中国の占める割合は次のとおりである。
マンガン探鉱 | 中国所在6% |
マンガン化学物質 | 中国所在93% |
カソード | 中国所在61%、中国企業54% |
バッテリーセル | 中国所在73%、中国企業64% |
探鉱の割合は低いが、化学物質はほぼ中国が占めている。化学プロセスでは、特にマンガンが問題となっている。
- 上記の割合を総合すると、中国の占める割合は次のとおりである。
上流:マイニング | 中国所在23%、中国企業54% |
中流:リファイニング | 中国所在80%、中国企業70% |
中流:カソード・アノード | 中国所在66%、中国企業62% |
下流:バッテリーセル | 中国所在73%、中国企業64% |
上流では、中国に所在する企業よりも中国企業の割合がより高くなっている。上流では中国が支配しているとまでは言えないが、中流・下流で中国企業の割合が高くなっており、中国寡占の状況が見て取れる。
3.サプライチェーンのボトルネックについて
(1)Caspar Rawles, Head of Price Assessments, Benchmark Mineral Intelligence
- サプライチェーンにおいて原材料供給がクリティカルな状況となっており、低価格により投資や生産が妨げられている。コバルトに関しては、下流の生産能力は需要に対応できるが、上流投資が遅れている。当面は、コバルト供給は需要に対応できるが、2025年頃から不足する見通しとなっている。価格水準が高くならない場合は、開発が間に合わない可能性がある。リチウムも同様で、このトレンドは継続する見込みである。
- 精錬に関し、リチウムの化学プロセスにおいては供給不足が顕在化している。他の鉱物については、地域的な課題はあるものの問題は見受けられない。EUと米国は精錬生産能力が不足している。
- アノードとカソードの生産能力については問題がないが、一方で品質の問題がある。また、稼働率が低い問題も存在している。カソード生産は大幅な工場拡張により、過剰供給、低稼働率が顕在化している。一方で高品質のカソードは供給不足のままである。アノードも同様の状況にある。
- バッテリーセルについては投資が重要で、高品質のバッテリーが供給不足となっている。全てのバッテリーが同じように作られているわけではない。生産能力としては足りているが、高品質のバッテリーが不足している。
4.アノード/カソードに関する情報
(1)Andrew Miller, Product Director, Benchmark Mineral Intelligence
1986年 | ソニー社、初の合成素材を使用したLIBの商品化:硬質炭素(非グラファイト) |
2001年 | 硬質炭素は、より伝導性の高い構造に精製できないため、高いパフォーマンスを提供するにあたり、完全に球形の粒子であるNCMBが導入される |
2003年 | NCMBの高コスト化により、業界ではグラファイト炭素繊維に関心が高まる |
2005年 | 法外な価格により入手が限られるため、伝統的な合成グラファイトへ向かう |
2007年 | 日本ではより低い投入コストで望ましい粒子球状を達成するため、天然グラファイトの球状化が追求される |
2015年 | 天然グラファイトと合成グラファイトの間の議論が激化し、コスト、パフォーマンス、容量、ライフサイクルの全ての利益を最大化するため、これらのブレンドが模索される |
2025年 以降 |
シリコンやリチウムベースの技術(未商業化)などの添加物の使用増加を目指す |
- アノード材料は、今までもこれからもグラファイトが中心となる。グラファイトはバッテリー消費者のコスト要求を満たすことで、低価格水準を維持する見通しである。また、テクノロジーの改善により、シリコン添加物をブレンドした天然・合成グラファイトの最適なブレンドの達成に焦点が充てられる見込みである。
- バッテリーセルの単位容量あたりの世界平均単価は178$/kWhであり、トータルコストのうち材料の割合は65%、材料のうちアノードの割合は25%である。
1990年代 | ポータブルエレクトロニクスの容量と安定性の要件を満たすことができる唯一のテクノロジーとして、LFOが製品化される |
2007年 | より高い安定性と長いライフサイクルを有するLMOに対する業界の関心が高まる |
2009年 | 中国のeバス業界が、LFPを中心に低コストで長寿命なバッテリーを導入する |
2011年 | Tesla社の出現により、ニッケルベース(NCA)のカソード材料が注目される |
2013年 | 西洋の自動車メーカーがEVと内燃機関(ICE)の価格を同程度とするための取組を加速させ、より確実で安定的なNCMのバリエーションを追求する |
2017年 | ライフサイクルと安定性の制約があるものの、焦点はより高ニッケルのNCMのバリエーション(NCM811)へと向かう |
2020年 | 高ニッケルの追及が継続される中、コスト圧力により確実なテクノロジーの位置づけが高まる(LFP、NCM526/622) |
2022年 | NCMA、LMNO、NCM910のきざしが見られる見通しであり、これらはLIBの寿命を延ばす既存の効果的なバリエーションである |
- LIBのカソード材料の基本は、リチウム、マンガン、コバルト(含有量の割合は相対的に低下)、ニッケル(同割合は相対的に増加)のままである。実際の消費者ニーズとともに、安定性とコストのバランスを取る必要がある。化学が進化しても、既存のカソードが取って代わられることはない見通しである。
- バッテリーセルの単位容量あたりの世界平均単価は178$/kWhであり、トータルコストのうち材料の割合は65%、材料のうちカソードの割合は63%である。
- バッテリー生産者はアノード/カソード生産者と協力しなければならない。パートナーシップの組成又は上流への直接投資が必要となってくる。
- ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、EVとなるにつれて、より多くのカソード、アノード材料が必要となる。
(2)Albert Li, Senior Analysist – China, Benchmark Minerals Intelligence
- メガファクトリーは2015年には3つしかなかったが、2020年4月の時点では136も存在する(57GWh→2,213GWh)。
- アノード工場の国・地域別割合
既存:中国79%、日本17%、韓国4%、他のアジア0.1% |
建設中:中国92%、日本5%、韓国3% |
計画中:中国96%、韓国4% |
- アノード生産拠点については、中国の優位性が拡大している。新たな生産能力の90%以上が中国に立地される予定である。日本や韓国は依然として質の高い生産者だが、生産能力は求められるスピードの規模ではない。アジア外の欧州などでは、アノードの焦点はシリコンやグラファイトを使用しない将来のテクノロジーに当てられている。
- カソード工場の国・地域別割合
既存:中国75%、日本12%、韓国11%、他のアジア1.2%、北米0.9%、欧州0.03% |
建設中:中国82%、日本6%、韓国6%、欧州6% |
計画中:中国85%、韓国9%、欧州6% |
- カソードの生産拡大はアノードより積極的であるが、規模は依然として中国中心である。一方でアノードとは異なり欧州も含め地域の多様化が始まっており、2020年にはその拡大がさらに期待される。
5.テラファクトリーについて
(1)Simon Moores, Managing Director, Benchmark Minerals Intelligence
Caspar Rawles, Head of Price Assessments, Benchmark Minerals Intelligence
- バッテリーメガファクトリーの数は、2015年の3から2020年には136に増加した。米国では、2015年の2から2020年は8に増加しているが、中国や欧州ほどのペースではない。ここ1年のメガファクトリーの建設数は、中国46、欧州6、米国3となっている。中国ではほぼ週に1箇所の頻度で建設が進められている状況にある。2030年のバッテリー生産能力は、米国は4百万台相当、中国は33百万台相当の見込みである。中国がLIB競争で先を進んでいる。2019年の世界の生産容量は455GWhで、うち中国73%、米国10%、欧州6%となっているが、2029年には2,450GWhになると予測されており、うち中国70%、欧州16%、米国9%になる見込みである。中国はシェアを維持し続け、欧州が米国を抜いてシェア拡大が進む見込みである。
- Tesla社の登場により情勢が一変した。LIB工場のサイズは年々大きくなっており、1工場当たりの年間生産容量の平均は2015年には0.5GWhであったが、2020年には7.3GWhとなり、さらに2030年には18.9GWhに達するものと予測されている。さらにその先、今後予想されるテラファクトリーにおいては、その規模は1,000GWhすなわち1TWhにもなる。テラファクトリーの原材料への影響は莫大で、大規模な需要が発生する。
- Tesla社、CATL社、LG Chem社、BYD社はそれぞれ大規模な投資を計画している。このほか、VW社は中国のLIB製造会社のGotion社に対して1.1b€の投資を行い、Gotion社株式の26%を保有することとなった。VW社は2025年までに150万台のEV販売目標を持っており、これに応じてGotion社では2025年までに62GWhまで生産容量が拡大される予定であり、これには新たな16GWhの計画が公表されている。
6.英国における見え方
(1)Darryn Quayle, Mining Engineer and Specialist to the British Government
- バッテリー原料に関しては、英国政府は5年前から議論を開始し、The Faraday Institute や英国国際通商省(Department for International Trade:DIT)を通じて活動を行っている。
- 英国はEV移行について下表のような需要予測を行っている。
2025年 | 2030年 | 2035年 | |
---|---|---|---|
LIBセル(容量) | 8.75GWh | 42.5GWh | 175GWh |
リチウム(LCE) | 9,625t | 46,530t | 192,500t |
グラファイトアノード | 10,500t | 50,760t | 210,000t |
コバルト | 831t | 4,019t | 16,625t |
硫酸ニッケル | 7,350t | 35,532t | 147,000t |
- (「英国はLIBリサイクルの商業化が可能と考えているか?」という質問に対して、)The Faraday Instituteでは、商業化に向けた研究に取り組んでいる。リサイクルは重要であるが、リサイクルの時代が来るまでにあと15~20年を要する見込みである。
- 英国の国内市場のため、南米や豪州の企業が英国とパートナーシップを組むことについて関心を有している。
- 英国の価値観として、バッテリー原料が採掘できる国に対して付加価値を与えるべきだと考えている。また、鉱業を通じて、バッテリー原材料の採掘が可能である貧困国をより繁栄させる方策を模索する取組を行っている。
- 個人的には、英国は欧州のEV移行へのゲートウェイになれると考えている。英国には、すでに操業している製錬所があり、英国拠点の鉱業企業やファイナンスの強みもある。また、自動車生産に関わる人口は、直接・間接を含め100万人ほど存在する。ベンチャー企業もほぼ英国の企業である。これにより、英国はEV移行のシェアを獲得するためには有利な立場におり、成功する可能性もある。
(2)Simon Moores, Managing Director& Robert Colbourn, Manager – Benchmark Membership
- Richard Herrington教授が分析しているように、英国は2035年までに全ての販売車をEVとし、バッテリーはNCM811にする構想を持っており、原材料需要は2035年まで急激に伸びて、その後頭打ちとなると予測している。需要の25%を国産の原材料でまかなう必要がある一方で、豪州、チリ、中国との関係構築が重要である。
- EVへの移行は必ず起きるものであり、英国もEV化していく必要がある。しかし、EV移行への後押しするのが政府なのか企業なのかが不透明である。
7.英国内におけるギガファクトリーポテンシャル
(1)Stephen Gifford, Chief Economist, The Faraday Institution
- Faraday Challengeはエネルギー貯蔵テクノロジーのブレイクスルーを加速させ、EV化の世界的競争の中で英国に利益をもたらすことを目的としている。このプロジェクトにおいては、2021年3月までに総額274m£の投資が予定されており、108m£はUK Battery Industrialisation Centre、78m£はThe Faraday Institute、88m£はInnovate UK やUK Research and Innovation等とのコラボレーション研究開発に区分される。
- Faraday Institution の2019年版報告書によると、ギガファクトリー建設に関して英国は欧州の中でも遅れている。主なギガファクトリー建設は、LG Chem社のポーランドにおける工場(45GWh/年)、Samsung社のハンガリーにおける工場(16GWh/年)、CATL社のドイツにおける工場(14GWh/年)である。2020年版報告書においても、ギガファクトリーに関して英国は欧州の中でも後れが予想される。CATL社は2026年までに、ドイツErfurtの工場において生産能力を60GWhに拡大するプランを立てており、LG Chem社は2022年を目標にポーランドのWroclawに70GWhの生産能力を有する工場の建設を行っている。Northvolt社は、スウェーデンのSkellefteåにある工場の生産能力について2024年までに32GWhまで拡大する見込みであり、将来的には40GWhまで拡大する可能性がある。
- 現状では中国のバッテリーセルの生産コストは英国やドイツよりも低く、英国はドイツよりも若干低い。しかし、欧州のバッテリーセル生産は、政府の支援があれば中国とも競争できる可能性がある。
- リサイクルプロジェクトも存在するが、これは野心的なプロジェクトであり、未だ実現可能性について調査段階である。リサイクルに関しては、英国でもEUでも方針や規制があまりない状態である。
- 英国におけるEVと自動車合計の生産台数の2040年までの見通し(EV約150万台、自動車合計約210万台)については、新型コロナウイルスの影響を考慮していなかったため、現状ではこれよりも低くなる見込みである。
おわりに
新型コロナウイルスは世界経済に大きな影響を及ぼし、自動車販売台数も落ち込んでいる。本稿でも取り上げたEVサプライチェーンに関わる鉱山企業、製錬会社、自動車メーカー等に対する影響も甚大である。同時に、近年は環境意識の高まりも見られ、EVは特に環境への配慮の観点から注目を集めている。欧州では新型コロナウイルスからの復興対策として、景気刺激と環境配慮の2つを大きな柱としようとしており、このウェビナーからもわかるように、EV及びそのサプライチェーンへの関心がこれまで以上に高まっていると感じている。
このイベントでは、サプライチェーンのどこに課題があるのかについて、特に欧米の視点から議論される機会が多かったが、日本におけるEVサプライチェーンにも深く関係していることから、引き続き欧州から見たEVのサプライチェーン変化の動きについては注視していきたい。
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
