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報告書&レポート

2020年10月14日 ヨハネスブルグ 原田武 報告
20-17

DRコンゴの零細採掘(Artisanal Mining)と責任ある鉱物調達

<ヨハネスブルグ事務所 原田武 報告>

はじめに

近年、「責任ある鉱物調達」の対象鉱種や地域が拡大の様相を見せるとともに、手掘りを主体とした零細採掘(Artisanal mining)における児童労働、人権問題、労働安全衛生等のリスクが注目されている。地元では、この零細採掘に生活の糧を見出す人々も多く、DRコンゴでの零細採掘者の数は数十万人にのぼるとされている。今後も、コバルトや3TG(紛争鉱物とされる錫、タングステン、タンタル、金)については零細採掘からの供給が継続し、そのような現場のリスクはますます顕在化していくと考えられる。下流セクターの中には、零細採掘起源の原料使用の排除や他の原料を指向する動きも見受けられる。その一方で、現場での働きかけで、サプライチェーンのリスクを前向きに克服することを指向する企業やNGO、政府機関等の動きもある。

2020年6月7日1と8月26日2に、業界情報誌Mining Review3が主催したDRコンゴを特集するWebinarが開催され、同国におけるArtisanal Mining(零細採掘)をテーマとしたパネルディスカションが行われた。Webinarの中では、コバルト零細採掘のフォーマル化事業のほか、3T鉱物採掘のデューデリジェンスを確保するiTSCiプログラムについて紹介がなされ、サプライチェーンの最上流にあたる現場の取組みの重要性が説かれた。本稿では、このパネルティスカションの内容を取り上げると共に、関連情報を補足して取りまとめた。

1.DRコンゴの零細採掘からのコバルト

1-1.コバルト市場におけるスウィング・プロデューサーとしての役割(Webinarの内容)

Webinarの中で、George Heppel氏(CRU, Senior Analyst)から、DRコンゴの零細採掘コバルトについての解説が次の通りなされた。

DRコンゴにおける零細採掘のコバルト生産量は変動性が高く、マーケット価格に応じて大きく変動する(スウィング・プロデューサーと呼ばれる)。零細採掘からのコバルトが、世界の年間生産量に占める割合は、1割を越えない時もあれば、価格が高騰した2018年時には2割近くを占めたこともある。2018年には、産業鉱山からの生産だけでは供給不足であったところ、零細採掘が需給ギャップを埋める上でのバッファーとしての役割を果たしたと考えられる。

最近の動きとして、DRコンゴから中国へのコバルト輸出の形態に変化が見られる。2016年以前において、零細採掘からのコバルト鉱石生産量と中国へのコバルト鉱石輸出量はほぼ連動しており、零細採掘による鉱石のほとんどは中国にそのまま輸出されていたと考えられる。しかし、近年、特に2018年の市場価格の高騰時には、零細採掘による鉱石の量が大きく増えたが、その一方で、中国への鉱石輸出量は変わらず、同鉱石生産量と輸出量の差が目立つようになってきた。これはDRコンゴ国内にてコバルト鉱石が処理され、水酸化コバルトの形で輸出されるケースが多くなっているためと推察している。鉱石がそのまま中国へ行くのであれば、比較的トレーサビリティは容易であるが、多様な零細採掘サイトから集積された鉱石がDRコンゴ国内プラントにて処理された上で輸出された場合、採掘現場からのトレーサビリティの困難さが増すことになるとHeppel氏は指摘した。

1-2.Mutoshiにおけるフォーマル化パイロット事業(Webinarの内容)

スイスを拠点とする商社Trafigura社のJames Nicholson氏(Head of Corporate Responsibility)からMutoshiコバルト鉱山でのフォーマル化(formalization)のパイロット事業について、次の通り説明がなされた。

Trafigura社は、2018年にDRコンゴにて銅・コバルト鉱山を操業するChemaf社と水酸化コバルトの取引を開始した。その一環として、責任ある鉱物調達やコミュニティに関してChemaf社を支援することが含まれていた。Chemaf社は、インド系中堅の鉱山会社Shalina Resources社の現地子会社であり、DRコンゴにて操業するEtoile鉱山をはじめ、銅・コバルト生産のアセットをDRコンゴ国内にいくつか持ち、年間5~7千tのコバルトを生産している。そのChemaf社は生産拡大のため、所有する鉱区のひとつであるMutoshi鉱区(Kolwezi市)について、機械化による鉱山開発の計画を検討していた。しかし、40km2の鉱区内には総計20,000人のコミュニティがあり、彼らの主な生計が零細採掘であったことから、当時、開発を行う上での課題となっていた。Trafigura社としても、零細採掘の鉱石を取り扱い、サプライチェーンに入れることに当初は抵抗があったという。その後の検討を重ねていく中で、国際NGO PACTやCOMIAKOL(地元の零細採掘協同組合)とのパートナーシップを構築し、Mutoshi鉱区において試験的に零細採掘のフォーマル化事業を進めることにし、2018年1月から開始している(その後、COVID-19感染予防のため2020年3月からプロジェクトを休止している模様)。

操業自体は、以下のようなシンプルなルールや資機材提供を行い運用されている。

  • サイトをフェンスで囲み、サイト専用のIDカードを携帯させ、関係者以外の立ち入りを規制
  • リスク管理、セキュリティ監査、保安具(PPE)の装着義務
  • 地質情報や採掘計画の提供、重機により表土や廃石の除去
  • ピットの深さを10m以内に制限
  • 勤務時間を規定、夜間労働は無し、無料の医療サービスを提供
  • (Trafigura社及び監査会社Kumi社による)定期的な調査や監査

取り組みの効果として、児童労働などの職場環境リスクは改善され、作業上の保安及びセキュリティが向上し、女性の作業員も参加できる環境になった。1,000人近くの採掘者が随時活動し、地元経済に対し年間約1mUS$をもたらすインパクトが見られた。ここでの知見は他のプロジェクトでも応用できる。

写真1.Mutoshiパイロット事業現場写真

写真1.Mutoshiパイロット事業現場写真

出典The Mutoshi Pilot Project 2019, Trafigura

(補足1)Mutoshiパイロット事業の仕組みと課題

Webinarでは詳細が紹介されなかったが、本パイロット事業のために組成されたパートナーシップの内容を補足する。Trafigura社のホームページ4において、同プロジェクトの仕組みについて以下のように概説されている。

  • 鉱区所有者であるChemaf社は、採掘を行う零細採掘者の協同組合としてCOMIAKOLを指名した。Chemaf社がCOMIAKOLから採掘された鉱石を買取り、Chemaf社のEtoile鉱山施設で鉱石は処理されるが、他の鉱山からの鉱石とは分離した工程で処理が行われている。
  • COMIAKOLのHSE(衛生・安全・環境)スタッフ、Chemaf社のHSEスタッフ、PACTの常勤代表者、政府の規制当局SAEMAPEの代表者の監視の下、零細採掘者による採掘が行われている。これらのメンバーでASM Committeeという運営委員会を設置して、課題の抽出や情報共有が行われている。
  • Trafigura社のCorporate Responsibilityの責任者が定期的(通常四半期ごと)に現場調査を行う。また、第三者評価機関として、Kumi Consulting社を任命し、運用状況の監査を受けている。
  • 本プロジェクト開始にあたり、Trafigura社はPACTとの間で戦略的パートナーシップを締結した。PACTは零細採掘のデューデリジェンスシステムであるiTSCiの現場での運営に従事してきた。零細採掘者との協働に関する豊富な経験と専門知識を要しており、本プロジェクトにおいてそれらの知見が活用されている。
  • PACTが取りまとめた事業評価は、四半期ごとにKumi Consultingが第三者評価者として監査を行う。OECDの「責任ある鉱物サプライチェーンのためのデューデリジェンスガイダンス」5、Trafigura社の「HSEC事業原則」6、IFCの「パフォーマンス基準」7等に照らした評価が行われる。

また、Trafigura社のホームページには、外部の経済専門家による評価レポート“The Mutoshi Pilot Project 2019”8が公開されており、その中で事業による成果や効果が検証され、一定の効果があったと評価されている。一方で、今後、本格的に操業を行う上での課題も見られる。本プロジェクトにおいては、開始当初の2018年、市況の良い状況では充実したプロジェクトとしてスタートできたが、2019年以降のコバルト価格の下落に伴い、事業運営に影響が見られるようになった。コバルトの売上高が伸び悩む中、保安用品の交換や廃石除去などの保安措置の頻度が低下した。また、Chemaf社の買取金額と近隣の他の取引価格の差が広がり、COMIAKOLがChemaf社への販売を保留する場面もあり、外部に販売する零細採掘者も出てきたという。

(補足2)DRコンゴにおける零細採掘

DRコンゴの場合、鉱業法において零細採掘に関して規定している。鉱業法によると、技術的及び経済的要因から、産業的な採掘は難しいものの、手掘りによる零細採掘が可能な場合、その鉱床は零細採掘エリア(Zone d’Exploitation Artisanale; ZEAs)として、鉱山大臣によって指定される(鉱業法第110条)。また、零細採掘者は、州知事から採掘許可カードの発行を受け(鉱業法第111条)、鉱石を販売する上で鉱業協同組合に属する必要がある(鉱業法第5条、第114条)とされている。

実際には、インフォーマルな零細採掘者が多く存在し、鉱山が操業する鉱区内外での零細採掘は常態化しており、鉱区保有者との間でトラブルになるケースが多々ある。近年では、2019年7月に、Glencoreの子会社Kamoto Copper Companyが操業する銅・コバルト鉱山にて、鉱区内にて活動していた零細採掘者40名以上が崩落事故にて死亡し、その後の立ち退きを巡る衝突から、軍隊が出動したケースがあった。当時、鉱区内には2,000人からの零細採掘者がいたとされる。同時期に同様なトラブルがChina Molybdenum社が操業するTenke Fungrume銅・コバルト鉱山でも起きている。

今回のMutoshiパイロット事業の場合も、以前よりChemaf社が保有する鉱区内でのインフォーマルな零細採掘の活動があったが、零細採掘者の協同組合COMIAKOLとChemafとの間で契約がなされたことが、フォーマル化の本パイロット事業を進める上で前提となっている。

(補足3)零細採掘のフォーマル化(formalization)とは

そもそも、この零細採掘のフォーマル化とはどのような概念として認識されているのか。ICGLR(アフリカ大湖地域国際会議)による零細採掘のフォーマル化ガイド20179では「零細採掘の持続可能な発展のための解決策は、セクターのフォーマル化による違法性の排除であると考えるのが一般的である。この文脈でのフォーマル化とは、採掘者またはそのグループに事業を行うための法的権利をライセンス化または帰属させること」とされている。

また、UNITAR(国際連合訓練調査研究所)の零細採掘Handbook 201810の中では、「正式な経済、社会、規制システムに、セクターを統合しようとするプロセス」としている。このプロセスにはいくつもの要素が含まれ多元的であるが、本Handbookの中では、プロセスのキーとして以下の6項目(図1)を挙げて議論がなされている。

  • 零細採掘のための鉱床の分布の把握及び現場の割り当て
  • 零細採掘者の組織化の促進
  • 零細採掘のための必要なライセンスや許可証の保有
  • 違法な取引の関与を排除すべく、公式なサプライチェーンの形成
  • 零細採掘の資金や技術支援、市場へのアクセス
  • 現場のモニタリングと規則の遵守
 図1.Key  components of the ASGM formalization process,

図1.Key components of the ASGM formalization process,

出典:HANDBOOK Developing National ASGM Formalization Strategies within National Action Plans, September 2018

最近出版されたWorld Economic ForumのWhite Paper 202011の中では、「零細採掘の現場において、基本的人権や環境基準に沿った業界スタンダードを開発すること」と理解されている。また、「基準の遵守を評価すべく日常的なモニタリングの実施やトレーニングなどの現場支援が含まれる」とされる。

フォーマル化のためには、インフォーマルな零細採掘者にライセンス取得や法的権利を取得させるのみならず、採掘現場における基本的な基準を持続的に遵守させる体制作りまでが必要になってきていると理解できる。現場の児童労働などのサプライチェーンにとってのリスクを排除する上で、この零細採掘のフォーマル化が有効であるという認識は産業界でも高まっている。最近の具体的な動きとしては、2020年8月に、中国のコバルトサプライヤーHuayou Cobalt社(浙江華友鈷業)、Fairphone社、Signify社、The Impact Facility等によってFair Cobalt Alliance12というイニシアティブが結成され、DRコンゴのコバルト零細採掘における児童労働の根絶、労働環境の改善や教育の支援を推進している。その後、GlencoreやEVメーカーのTesla社も同イニシアティブへの参画を決めた。以前より、Huayou Cobalt社は、同社子会社がDRコンゴに所有するKasulo鉱区にて、Mutoshi鉱区のパイロット事業と同様のフォーマル化を推進しているが、このプロジェクトは今回のFair Cobalt Allianceの取組みの一部として取り込まれると考えられる。

零細採掘のフォーマル化に関連して、最近DRコンゴ政府の政策面においても動きがある。メディア13によると、国有鉱山会社Gecaminesの関連会社が、零細採掘のコバルトを独占的に購入・販売するために、Gecaminesによる90%出資とポートフォリオ省による10%出資のEntreprise Generale du Cobalt(EGC)を設立し、活動を始めている。政府は2019年11月に、政令「戦略的鉱物の零細採掘活動のための保護策」14を発出し、戦略的鉱物を採掘する零細採掘に関するいくつかの規程を導入し、零細採掘のフォーマル化を目指している。その政令の中で、零細採掘における児童労働の排除や透明性の確保等を規定するとともに、国とGecaminesが共同で法人を設立し、鉱石の買取り及び処理した製品の販売を行うこととしている。なお、コバルトは、2018年の政令15によって戦略的鉱物に指定されており、EGCの設立は、戦略的鉱物(コバルト以外にコルタンとガリウムが含まれる)の中でもコバルトが最初の具体的な動きになる。

2.3T鉱物の零細採掘現場における透明性確保のための取組み

2-1.現場のデューデリジェンス(Webinarの内容)

UAE Halcyon社は、長年、中央アフリカからの錫・タングステン・タンタル精鉱の調達を専門に扱う商社であり、同社のDharam Kotecha氏(Director)は、責任ある鉱物調達のための現場のデューデリジェンスの実績を多く持つ。同氏は、Webinarで、採掘現場において実際にリスク評価を行う上での観点を概説した。まずは、サプライチェーンのリスクとは何かを特定することから始めるという。労働リスクに関して言えば、児童の強制労働や違法採掘などが該当し、セキュリティリスクであれば、治安部隊による違法行為や人権侵害がある。また、詐欺行為のリスクであれば、税金の虚偽、贈収賄、マネーロンダリングなどが該当する。これらの潜在的なリスクの可能性を認識した上で、当該地域の採掘現場を視察し、評価を行う必要がある。同氏はプレゼン資料の中で、以下のように視察時の観点を整理した。

  • 検証(Verification):現場から提出されたレポートは正確にリスクを表しているか?
  • 支援(Support):地元当局から、デューデリジェンスやトレーサビリティに関する理解が得られているか?
  • 特定(Identification):地元関係者との会話や観察からリスクを見出す
  • 妥当性(Plausibility):通常の生産パターンや方法がなされているか?
  • 積極的関与(Active Engagement):採掘者やトレーダーがどれだけトレーサビリティのプロセスを熟知して従事しているか?

また、同氏のプレゼン資料によると、2017~2019年の各種報告(iTSCi、RMI、ICGLR、PPAなど)において報告された事件(Incident)のうち、解決済み2,269件、未解決801件、対処中506件、不明355件と膨大な数になっている。但し、非政府軍隊が関与する事件は2015年からのIncidentの合計のうち0.96%程度あることが示されている。割合としては少ないが、数十件がIncidentとして確認されていることになる。

2-2.国際的な錫サプライチェーンのイニシアティブiTSCi(Webinarの内容)

国際NGO PACTのMickaël Daudin氏 (iTSCi Program Manager)がiTSCiプログラムの概要に触れ、質疑応答があった。

PACTは、ワシントンDCに拠点を置き、世界中の零細採掘を対象とした“鉱山から市場へのプログラム”(M2M)に取り組んでいる。中央アフリカの大湖地域(Great Lakes Region)、特にDRコンゴに焦点を当ており、3T鉱物を対象としたiTSCiプログラムの現地運営を行っており、とりわけ、環境コンプライアンスや児童労働問題を注視している。また、零細採掘の現場に関する知見を活かして、Mutoshiパイロット事業の現場にも関与している。

iTSCiは、国際錫協会(International Tin Association)を事務局とし、錫・タンタル業界の支援を受けて、DRコンゴをはじめブルンジ、ルワンダ、ウガンダの4か国において、3T鉱物の生産のトレーサビリティや現場のデューデリジェンスを支援するプログラムである。PACTとその現地パートナーがプログラム運営者として活動している。

2019年末までの実績の数字として、2,073か所以上の採掘現場をカバーし、約80,000人の採掘者等に関与した。また、毎月2,000t以上の鉱石供給に関与し、2011~2018年の総計で150千t以上になるとした。

図2.iTSCiプログラムに係る収支(左図)・対象サイト数(右図)の推移

図2.iTSCiプログラムに係る収支(左図)・対象サイト数(右図)の推移

出典:PACTホームページ16より引用

iTSCiにおける主要な構成要素は、鉱物のトレーサビリティのための袋詰めとタグ付けシステム(Bagging & Tagging)である。このプログラムを通じて、地元関係者の対話や協議を促進し、零細採掘者から政府の監督機関に至るまで関係者のアカウンタビリティの向上に繋げることが重要である。iTSCiは100%OECDデューデリジェンスガイドラインに沿った唯一のプログラムとされ、地元の採掘者や政府から支持されている。

iTSCiのBagging & Taggingシステムは、採掘現場にて、鉱物の袋詰めとタグ付けがなされ、iTSCi文書との紐づけがされる。この段階で、政府の監督機関と協力してリスクを抽出した上でインシデントレポートを作成し、問題があれば解決策を見出すことを行う。関連付けられたiTSCi文書とタグは、トレーダーから輸出業者を介して海外の製錬所にて受け取られ、鉱山サイトから最終目的地までの追跡を可能とする。(PACTホームページにて紹介されていたiTSCiの流れを図3に示す)

図3.iTSCiのモニタリングの流れ

図3.iTSCiのモニタリングの流れ

出典:PACTホームページ17より引用した図を基にJOGMECにて作成

Webinarの中では、事務局及び聴衆からの質問があり、パネラーの回答がなされていた。より詳細な状況を知る上での参考にすべく、質疑応答の内容を以下に掲載する。

(質疑応答1)「責任ある調達」に注目することで、3TG鉱物が紛争鉱物指定された時のように、DRコンゴからのコバルト需要は影響を受けるのではないか?

(Mickaël Daudin氏)2010年にドッドフランク法の施行により紛争鉱物が定義されたが、当時、それに対する準備ができておらず、DRコンゴとその周辺国からの3TGについて、「事実上の禁輸」(de fecto embargo)に繋がった。しかし、それによって同地域での紛争が無くなった訳ではなく、単純に地域からの鉱物供給を止めることで解決できる問題ではなかった。結局、被害を受けたのは地元の零細採掘者やコミュニティであった。iTSCiのようなデューデリジェンス・プログラムによって「責任ある調達」を可能とすることが、禁輸措置に代わる解決策になる。

コバルトについては、3Tとは違い紛争鉱物ではないが、近年注目されつつあり、解決されるべき問題がある。PACTはMutoshiコバルト採掘現場にてパイロット事業の実績はあるが、現状において、大規模に実施されている共通システムがないことが課題である。しかし、PACTは、Mutoshiパイロット事業から得られた課題を見る限りでは、これらの課題には対処可能であると考えている。

(質疑応答2)バッテリーメタル・サプライチェーンからの十分な関与があると思うか?

(Mickaël Daudin氏)DRコンゴにおいて、3Tセクターは100%零細採掘者によるが、コバルトは通常約10%程度と、零細採掘がサプライチェーンに占める割合には違いがある。我々と一緒にiTSCiプログラムに取組んでいる地元企業、3T鉱物の上流セクターであるが、その関与は積極的である。政府もOECDデューデリジェンスガイドラインを積極的に法規制に取り込む動きがあり、PACTも政府サービス機関や鉱山省と一緒に「責任ある調達」を向上させるべく取り組んでいる。私の意見だが、コバルトに関して、下流部門からのイニシアティブへの関与は薄い。リスクが高く課題が多いことから、零細採掘からの供給を止める動きもある。最終的には下流部門への利益になることを念頭において、上流及び下流の両方からの関与を考える必要がある。PACTが取組むiTSCiやMutoshiパイロット事業に解決策のヒントがあると考えている。

(質疑応答3)「責任ある調達」が零細採掘者や周辺コミュニティにもたらすメリットは?

(Dharam Kotecha氏)供給のフレームワークが合理化され、零細採掘者にとって、鉱物の販売時に適正な価格の受取りが保証されるようになる。富が得られるようになれば、これらの鉱物の透明性が確保され、下流セクターにとってのメリットに繋がる。透明性の確保はファイナンス等の資金調達の上でも重要なポイントになる。サプライチェーンの上流セクターへの投資が持続的に行われれば、地元プレイヤーの能力を増強することができる。投資により人的能力が強化されれば、紛争鉱物という考え方も減少し、世界のマーケットから受け入れられるようになる。零細採掘者やコミュニティにとって、デューデリジェンスは積極的なプロセスであり、リスクを受け止めて軽減することの方がリスクを放置し遠ざけるよりもメリットがあると認識されつつある。

(質疑応答4)トレーサビリティ向上のために、iTSCiプログラムが注力していることは何か?

(Mickaël Daudin氏)DRコンゴでは、あらゆる鉱物にリスクがあり、これらのリスクを軽減するにはいくつかの方法がある。iTSCiがもっとも重要視しているのが、デューデリジェンスである。PACTのチームが現場で行っていることは、利害関係者間の問題を現場で評価し、利害関係者間で問題を協議し、リスク軽減を図ること。そのためには、地元利害関係者のプログラムへの関与や協議を促進することである。地元の監督機関を議長とした委員会を形成し、iTSCiからのサポートやガイダンスを受けながら、リスク軽減のための措置やサプライチェーンのリスクについて、地元利害関係者間で協議する。アカウンタビリティの向上に繋がり、オーナーシップも形成される。iTSCiは、その後の会議で抽出されたリスクをレビューし、解決策を確立する。iTSCiの現場チームは、非常にハイレベルのリスクにまで(地元から国家に至るまで)対応するスキルを持っており、場合によっては制裁措置を科すことも行う。iTSCiは、年間約1,400件のインシデントを報告する。地元監督機関を対象にデューデリジェンスの実地訓練を行い、2019年には5,500人をトレーニングした。

(質疑応答5)零細採掘を続けるよりも、商業規模の鉱床を発見して、それを開発することの方が、フォーマルな鉱山セクターに繋がるのではないか?

(Mickaël Daudin氏)商業化の規模に適さない鉱床も多くあることは理解しなければならない。また、零細採掘からも利益は得られるし、責任と安全性を維持して資源を採掘することもできる。Mutoshiパイロット事業のような実例もある。商業化のために産業鉱山に移行させることは必ずしも必要ではない。零細採掘は利益が上がらず、責任を持った採掘ができないという考え方は間違った考え方であり、我々の現場の経験からしても、零細採掘で生計を立てることは可能である。

(質疑応答6)零細採掘のフォーマル化を実施する上で、零細採掘者は特別に税や売上からの徴収はあるのか?

(Mickaël Daudin氏)一般的には無い。零細採掘者からの税や参加費の支払いは必要ない。鉱山コミュニティ内での鉱物の売買になる。iTSCiやMutoshiパイロット事業においても零細採掘者からの特別な参加費は徴収していない。零細採掘者は参加費を支払うだけの財源をもっていないと認識することは重要である。

(質疑応答7)コバルトについても3TのBagging & Tagginigシステムと同様なプログラムを行うことはあり得るのか?

(Dharam Kotecha氏)PACTやiTSCiがコバルトについてどうようなことを行うかはわからないが、必ずメリットはあると思う。3T零細採掘においても、より世界中の採掘で受入れられればメリットはあるし、もし、コバルトでも始めることができれば、バイヤーの疑念を解消することに繋がる。

(Mickaël Daudin氏)これについては、国の要件と、どの企業が資金を拠出するかに掛かっている。

(質疑応答8)児童労働を無くして、鉱山コミュニティが資源から利益を得るようにするにはどうしたら良いのか?

(Mickaël Daudin氏)児童労働を使わずにコミュニティが利益を得ることはできる。PACTは数々のプロジェクトで児童労働に対抗している。児童労働はとても複雑な問題であり、まずはその原因を理解する必要がある。Mutoshiパイロット事業が良い事例であり、そこでは最初の6か月間で児童労働のインシデントの報告がなくなった。Chemaf社をはじめ事業のパートナーが周辺コミュニティに児童労働に関する注意喚起を行った。確実に児童労働を無くすためのいくつかの方法がある。

(質疑応答9)サプライチェーンにおけるトレーサビリティのための最大の課題は何か?

(Dharam Kotecha氏)現場の情報やデータの伝達のスピードにあると思う。採掘現場から製錬所まで、リアルタイムでの追跡を可能にするには、地元関係者にその重要性やスピードに関して教育していく必要がある。

おわりに

前半において、コバルト零細採掘のフォーマル化についてMutoshi鉱区の実例を取り上げた。後半においては、コバルトより先行して取組みがなされている3T鉱物について、その現場のデューデリジェンスのシステムiTSCiを取り上げた。

DRコンゴにおける3T鉱物のほとんどは、零細採掘起源である。特にタンタルは世界1位の生産量を誇り、世界生産の4割近くを占め18、その動向がサプライチェーンに与える影響は大きい。一方、DRコンゴの零細採掘コバルトについては、マーケットに占める割合は限定的であり、そのほとんどが中国に輸出され、中国の製錬所にて処理されることが多い。しかし、より下流の複雑なサプライチェーンをも考慮すると、最上流にあたる零細採掘コバルトの動向による影響は大きく、今後も注視する必要はあると考える。

零細採掘コバルトは、地元での経済的な位置づけのみならず、国際市場への影響力及び現場の児童労働等のリスクについて、様々な利害関係者の間でコンセンサスが形成されている。採掘現場におけるデューデリジェンスやトレーサビリティを可能とする現場の体制を構築するには、現場のフォーマル化が有効であると考えられているが、ベストプラクティスも少なく、ビジネスソリューションとしての問題も見られ、そのスタンダードの策定については今後の課題となっている。

現状、価格低迷の影響もあり、コバルトの零細採掘者の規模は縮小している模様である。フォーマル化の初期の形を作り、採掘者が増加したときに備えるには良いタイミングとの見方もある。最近のGlencoreやTesla社によるFair Cobalt Allianceイニシアティブへの参画、DRコンゴ政府による買取り制度の立ち上げなどの変化が見られることから、今後のコバルト零細採掘がどのように変化していくのかは注視していく必要がある。


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    https://www.miningreview.com/webinars/formalising-artisanal-mining-in-the-drc/
  2. “The global significance of the DRC’s battery metals”
    https://www.miningreview.com/webinars/the-global-significance-of-the-drcs-battery-metals-and-minerals/
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  8. https://www.trafigura.com/media/2433/2019_trafigura_the_mutoshi-pilot_project.pdf
  9. ASM FORMALIZATION GUIDE IN THE ICGLR MEMBER STATES, July 2017,
    http://icglr-rinr.org/media/attachments/2019/04/23/asm-regional-guide_formalization.pdf
  10. HANDBOOK Developing National ASGM Formalization Strategies within National Action Plans, UN environment, Global Mercury Partnership, UNITAR, September 2018
    https://www.unitar.org/sites/default/files/uploads/cwm/formalization_handbook_e_web_final.pdf
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  14. Decret No19/15 du 05 Nov 2019
    https://mines-rdc.cd/fr/wp-content/uploads/simple-file-list/decrets/Decret_Num19_15_du_05_Nov_2019_Poratnt_Cr%C3%A9taion_Organisation_et_Fonctionnement_de_ARECOMS.pdf
  15. Decret No18/42 du 24 Nov 2018
    http://congomines.org/system/attachments/assets/000/001/533/original/Strategic_Substances_Decree.pdf?1543917928
  16. https://www.pactworld.org/features/itsci-decade-success
  17. https://www.pactworld.org/itsci
  18. USGS Mineral Commodity Summaries 2020 (Tantalum)
    https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2020/mcs2020-tantalum.pdf

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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