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報告書&レポート

2021年4月2日 ロンドン 事務所 倉田清香
21-05

バッテリーメタルの動向について

2020年秋冬の欧州内セミナーでの情報収集

<ロンドン事務所 倉田清香 報告>

はじめに

新型コロナウイルスの金属市場への影響は大きく不安定な状況が続く中、2020年10月のLMEウィークでのWood Mackenzie社のプレゼンによると、2020年の欧州における自動車販売台数に占める電気自動車(EV)の割合は中国を超えた。EVへの移行が加速していく中で、バッテリー金属の需要が増加し、その注目度も高まっており、本レポートでは2020年後半に行われたBenchmark Battery Day 2020(9月)、国際非鉄研究会(10月)、LME ウィーク(10月)におけるアナリストの今後のバッテリーメタルトレンドの分析のほか、Benchmark Week 2020(12月)におけるアノードとカソードの課題と開発状況を記す。

1.リチウムの動向

バッテリー金属の1つであるリチウムの市場見通しについて、LMEウィークにおけるRoskill社、Argus Media社及びWood Mackenzie社の分析を紹介する。

1.1.Lithium Sustainability and Cathode Applications(2020年10月LMEウィーク)

講演者:Jake Fraser, Senior Consultant, Roskill

リチウム市場のトレンドに関して、2018年時点における主要な水酸化リチウムのマテリアルフローによれば、原材料はチリ、アルゼンチン又は豪州から中国へ渡り、中国で製錬・アップグレードされた後、韓国又は日本の市場に渡っていた。しかし、2020年には、ロシアが製錬・アップグレードの市場に加わった。これにより、チリとアルゼンチンからの原材料は中国又はロシアで製錬されるようになっている。ロシアで製錬された水酸化リチウムは、韓国の市場に渡る。豪州からの原材料は2018年から変化はない。

講演者:Oliver Heathman, Manager – Mining & Cost Research, Roskill

リチウムの生産コストのトレンドに関しては、2010年から2016年の間の炭酸リチウム換算量(LCE)1t当たりの生産コストは毎年平均3%増加し、約3~3.5kUS$の間だったが、2017年から約5.5kUS$に急増し、2018年はロイヤルティが2017年と比べて2倍ほどに急増したことによって、全体のコストが約6.3kUS$に増加した。2019年のロイヤルティは2018年と変わらなかったが、鉱山での操業コストが下がり全体として約5.5kUS$に下がり、2020年前半は全体的に約5kUS$に下がってきている。このトレンドはリチウム価格の変化に沿っている。

講演者:Dom Wells, Analyst, Roskill

環境対応の重要度が高まる中、リチウムに関連する二酸化炭素排出量について、その増減要因の分析を実施。増加要素としては以下が挙げられる。

  • リチウム商品の需要の増加
  • 精鉱からの供給シェアの増加
  • 生産からの二酸化炭素の排出量が従来よりも2.5~3倍増加
  • かん水からのリチウム生産における直接抽出(Direct Lithium Extraction, DLE)技術の活用増加(水の使用量は減るが、二酸化炭素の排出量は増加)
  • 排出量の大きな水酸化リチウムの需要の増加

排出量の減少要素としては以下が挙げられる。

  • 持続可能なゼロ炭素燃料のより世界的な使用
  • 鉱物及びかん水処理並びに精錬のエネルギー効率の向上
  • 鉱山から製錬所までの工程の統合
  • 採掘国における精製
  • 中国の石炭生産から離れ、天然ガスの更なる使用

1.2.Building a European Battery Supply Chain

講演者:Thomas Kavanagh, Senior Metals Reporter, Argus Media(2020年10月LMEウィーク)

現状のリチウム価格は供給過剰により低下しているが、2020年から2030年にかけて、リチウムの需要は75千tから1.4百万tと18倍になる見通し。

欧州にとって、リチウムを欧州内で賄うことが重要となる。欧州内の新しい5つのプロジェクトは今後2、3年間で生産が開始される予定とされている。

表1.欧州内のリチウムプロジェクト
会社名 プロジェクト名 埋蔵量(tLCE)
European Metals Cinovec チェコ 7.22百万
Infinity Lithium San Jose スペイン 1.6百万
Deutsche Lithium Zinnwald ドイツ 76万
Savannah Resources Mina do Barroso ポルトガル 70.7万
European Lithium Wolfsberg オーストリア 27万

EU内のリチウム埋蔵量に対する各社の割合は、Cinovec 68%、San Jose 15%、Zinnwald 7%、Mina do Barroso 7%、Wolfsberg 2%、その他1%となっている。

リサイクルに関しては、Northvolt社がスウェーデンのEtt工場でリチウムイオンバッテリーのリサイクルから50%を回収することを目標としている。2022年には操業が始まり、年間250千tのバッテリーセルをリサイクルする能力を有する予定である。このほか、Umicore社のベルギー工場は、現在年間7千tのバッテリー原材料をリサイクルしている。Volkswagen社はドイツのSalzgitterで2020年からリサイクル工場の操業を始め、能力は年間1.2千tであり、バッテリー原材料の90%をリサイクルすることを目標としているが、このリサイクル率はあまりにも野心的と見ている。

1.3.LME Week Forum

講演者:Gavin Montgomery, Head of Battery Raw Materials Research, Wood Mackenzie(2020年10月LMEウィーク)

リチウムにおいては、生産量の増加が需要量の増加より早すぎて供給過剰な状態となることが投資家及び中期的な見通しにとって問題である。Tesla社のElon Musk CEOも「リチウムは石油とは異なる。リチウムは供給過剰であり、しかもどこにでもある。」と過去にコメントしている。

1.4.Top 5 Lithium Trends of 2020

講演者:Jose Hofer, Senior Analyst, Benchmark Minerals Intelligence(2020年9月Benchmark Battery Day)
  1. 新型コロナウイルスによるバッテリー需要の回復は遅れたが、トレンド的には増加する見通し。新型コロナウイルスからの復興のための経済対策により、中期的にバッテリーの需要が回復すると予測。
  2. リチウムの低価格圧力はまだまだ継続する見通し。
  3. メジャー企業からの資本削減により、下流部門の投資のコミットメントを達成するための必要な成長がもたらされていない。
  4. EV導入のOEMのコミットメントにより、OEMは上流に注目するようになってきている。
  5. リシア輝石からのリチウム生産は、投資不足から生じる今後のリチウム供給不足に対応しなければならない。

2.コバルトの動向

バッテリー金属の中でも特に注目されているコバルトの見通しについて、LMEウィークにおけるWood Mackenzie社及びArgus Media社の分析を紹介する。

2.1.LME Week Forum

講演者:Gavin Montgomery, Head of Battery Raw Materials Research, Wood Mackenzie(2020年10月LMEウィーク)

コバルトの中期的な供給過剰は、長期的な課題を覆い隠す。コバルト需要の増加に向けて望ましいケースは、5G及びバッテリーサプライチェーン内における主要なプレーヤーが長期的な供給契約を締結すること、小規模コバルト採掘がフォーマル化することである。一方、コバルトの需要が減少する要素には、ニッケルの量が多くコバルト不使用のバッテリーセルの増加、LFPバッテリーのシェア増加、中期的な供給過剰による投資抑制が含まれる。

2.2.Building a European Battery Supply Chain

講演者:Thomas Kavanagh, Senior Metals Reporter, Argus Media(2020年10月LMEウィーク)

コバルト市場においては、供給不足がこれからのバッテリー生産に影響を及ぼす可能性があると見ている。コバルトの安定供給への不安から、BMW社とManegem CTT社、GlencoreとSamsung SDI社のような長期的供給契約が締結されている。

コバルトのボトルネックには、DRコンゴの不安定性を含む。複数の企業はDRコンゴからのコバルト供給をサプライチェーンから外そうとする努力をしているが、全ての企業がDRコンゴをサプライチェーンから外すことは難しい。また、欧州化学機関(European Chemicals Agency、ECHA)がコバルトに対してより厳しい規制を課している最中であり、長期的にコバルトサプライチェーンに影響を及ぼす可能性がある。自動車生産者にはコバルトを使用するEVバッテリーの活用を避ける会社もあるが、業界全体でそれは不可能だと見ている。

3.ニッケルの動向

ニッケルついては、バッテリーメタルとしての需要よりも他の需要がニッケル市場の大半であるが、近年は徐々にバッテリーメタル用の生産が増加している。

ニッケル市場の見通しについて、国際非鉄研究会における国際ニッケル研究会及びRed Door Research社の分析並びにLMEウィークにおけるWood Mackenzie社及びArgus Media社の分析を紹介する。

3.1.INSG Review of Global Nickel Use and Production and Forecasts for 2021

講演者:Ricardo Ferreira, Director of Market Research and Statistics, INSG(2020年10月国際非鉄研究会)

新型コロナウイルスによる不安定な状況は2021年にも続く見通し。2020年の世界のニッケル市場需給は供給過剰であり、2021年も小規模だが引き続き供給過剰と予測している。短期的には中国とインドネシアにおけるニッケル銑鉄生産には不確実性がある。

インドネシアが2020年初めにニッケル鉱石の輸出を禁止したことで、中国に向かう量はより少なくなっている。中国への主な供給者はフィリピンとなり、それ以外の供給者を探す必要がある。インドネシアでは中国が後押ししているニッケル銑鉄プロジェクトの生産が拡大し、2021年には中国を抜いて最大の一次ニッケル生産国となる見通し。

中期的・長期的には、バッテリー用のニッケル需要を満たす十分な供給量が存在することが重要である。進行中の複数の可能性のあるプロジェクトが存在するが、ファイナンス、パートナーシップ、環境(深海への廃滓廃棄)等の問題が解決される必要がある。

生産能力の高いHPALプロジェクトとして、いずれもインドネシアにおけるPT Halmahera(年間生産見込量37千t)、PT QMB New Energy(同50千t)及びPT Huaqai(同30千t)が挙げられる。

3.2.Nickel after Covid-19: What Has Changed?

講演者:Jim Lennon, Managing Director, Red Door Research Ltd(2020年10月国際非鉄研究会)

新型コロナウイルスはニッケルの供給・需要のファンダメンタルズに悪影響を及ぼし、需給は供給不足から供給過剰となった。この状況はこれから2、3年続く可能性もある。この不安定な状況が続く中、ニッケルの価格は高止まりしている。これは中国のステンレス鋼の力強い回復と米ドル安によってサポートされている。

インドネシアにおけるニッケル生産量の著しい増加により、短期的にはニッケル供給量が増加している。特に、バッテリーに使用されるニッケル量の増加が見られる。これは、中国の投資家がインドネシアのニッケルに投資したことよるところが大きい。ニッケル価格はインドネシアの鉱石輸出禁止の発表後に下落したが、現状ではV字回復しつつある。

ステンレス鋼がニッケル消費量を未だ独占しており(70%)、バッテリーの割合は7%のみである。中国のニッケル生産量は2020年1月に大幅に減少したことにより、中国のステンレス鋼の消費量は2020年3月で大幅に減少したが、現状はV字回復しつつある。仮に新型コロナウイルスが落ち着いた場合には、2021年にはステンレス鋼の需要は回復すると予測している。

ニッケル銑鉄はインドネシアのニッケル鉱石輸出禁止後に再評価され、2019年半ばからの新しいインドネシア国内のプロジェクトにより、2021年から中国とインドネシアの生産量に差が出ると予想される。もし、HPALプロジェクトが延期された場合、ニッケル銑鉄/FeNiをMatte/精錬に加工することによりバッテリー用ニッケルの原料とする可能性がある。HPALのこれまでの実績は不安をもたらしている。インドネシアのHPALプロジェクトは環境及びコストを考慮に入れなければならない。環境に関しては、例えばPNGのRamuプロジェクトは深海への廃滓廃棄を行っており、この製品をバッテリーへの使用を受け入れない自動車生産者もいる。このため、深海への廃滓廃棄ではなく廃滓の脱水処理が最終的には行われるようになると、Red Door Research社は考えている。コストに関しては、コバルト依存度が高いことである。これにより、前回のインドネシアにおけるHPALプロジェクトは予定より建設に時間を要し、莫大な資本コストがかかった。

3.3.LME Week Forum

講演者:Sean Mulshaw, Research Director – Nickel Markets, Wood Mackenzie(2020年10月LMEウィーク)

新型コロナウイルスによる感染第2波が2020年末以降発生すると仮定した場合、2021年のニッケル価格は下落し、生産量も減少、その結果ニッケル市場の再バランスには2023年までかかると予測している。このケースでは、2020年の世界需要は前年比6.4%減、2021年には1.4%しか回復しないと予測している(ベースケースで4.7%減、4.6%増)。生産量に関しては、2021年から300~350千t減少すると予測している。

2025年まではニッケルは最も供給過剰な鉱種の1つであり、低価格であると予測している。これは、新型コロナウイルスによる需要への悪影響とインドネシアのニッケル銑鉄の急拡大による供給過剰のためである。

中国はニッケルを自給自足できるようになってきており、今まで中国へのオフテイクに頼っていた生産者には厳しくなってきている。

3.4.Building a European Battery Supply Chain

講演者:Thomas Kavanagh, Senior Metals Reporter, Argus Media(2020年10月LMEウィーク)

高純度のニッケルがバッテリーには必要だが、環境対応を求める声を高まりにより、ニッケルの上流開発における規制がより厳しくなってきている。

現状の年間20千t以上の生産能力がある硫酸ニッケルプロジェクトは、北米に3つ、アジアと豪州に2つ、アフリカに2つ、欧州には1つ(スウェーデンのRönnbäckenプロジェクトであり、年間生産能力は27千t。)。

EUの重要な原材料リスト(クリティカルマテリアルリスト)には現在ニッケルは含まれていないが、EUは将来的に考え直す必要があると考えている。

4.その他のバッテリー動向

4.1.Tesla Battery Dayの概要(2020年9月)

Tesla社は2020年9月23日にBattery Dayを開催し、同社のElon Musk CEOは以下の点を発表した。

  1. 25kUS$相当のEVを製造し、EVバッテリーコストを半減させる。
  2. 現行のバッテリーセルの能力向上させたである46-80モデルを開発する。この名称の由来は長さ46mm×高さ80mmから来ており、現行モデルの5倍のエネルギー密度、6倍のパワー、16%長い航続距離を有する。
  3. 2022年までには100GWh、2030年までには3TWhの生産能力を目指す。
  4. アノードに関しては、ベースメタルの代わりに冶金シリコンからアノードを製造し、航続距離を20%増加させる。シリコンの粒子膨張が発生することなどがまだ課題である。
  5. カソードに関しては、ハイニッケルカソードの開発とコバルトの不使用に取り組んでいる。
  6. カソード生産を北米でローカライズするため、北米にカソード製造施設を建設する計画である。

4.2.Tesla Battery Dayに対するアナリストの反応

Tesla Battery Dayに対して、Benchmark Mineral Intelligence社がAnalyst’s Reaction to Tesla’s Battery Day from EV Seriesと称するウェビナーを開催した。ここでのアナリストの意見を紹介する。

4.2.1.Simon Moores, Managing Director, Benchmark Minerals(2020年9月Benchmark Battery Day 2020)

Tesla社は、カソード生産を2022年から開始したいと発表した。Tesla社は「Battery Day」で公式に上流にも関わっていくことを発表したが、疑問や課題が多い。

Tesla社のバッテリーは世界初の米国製EVバッテリーであり、現行バッテリーの5倍のエネルギー密度、航続距離は16%以上増加、パワーは6倍増加の予定。同社の米・Fremontバッテリー工場は「パイロット工場」の予定だが、世界で13番目に最大の工場となる。

リチウム生産に必要なリシア鉱石はおそらく主に豪州、南米から確保すると思われるが、実際にはどうなるのかが楽しみである。

アノード材料をグラファイトからシリコンに切り変えるという発表に関しては、シリコンアノードの安全性の課題をどう解決するのかが不明である。シリコンアノードは電源がオフの状態でもまだケミストリーがアクティブな状態であり、安全性の問題がある。

Tesla社はバッテリーコストを抑制すると発表したが、仮にリチウムとニッケルの価格が上昇した場合に、どうなるのかは明らかではない。

4.2.2.Vivas Kumar, Principal Analyst, Benchmark Minerals(元Tesla社社員)(2020年9月Benchmark Battery Day 2020)

Tesla社を退職したのは16か月前であり、同社の「Battery Day」で発表されたプロジェクトはすでに実施・開始していたものばかりだった。公式に発表されるのにここまで時間がかかったのは驚くことではなく、これからこのプロジェクトがアクティブになるまでには時間がかかるのも想定内である。

Tesla社の「Battery Day」で発表された内容でポジティブだと思った点は、コバルトのサプライチェーンの透明性のためのイニシアティブ、米国がサプライチェーンに関わるように後押しするためのイニシアティブである。また、「sell to pack」技術を採用し、モジュールを組み立てずにバッテリーセルをそのまま入れることができることで、コストを抑えることができる。

しかし、「Battery Day」で発表されたタイムラインが現実的なのかが気になるところ。低炭素フットプリントに関しては、どのようにしてこの目標を達するのかについての説明がなかった。意欲的な数字を発表していたが、説明が欠けていたのが印象的である。カソードの件に関しては、コバルトの使用を廃止することには更に疑問と不安を抱いた。リシア鉱石からリチウムセルまでの生産段階の説明が欠けており、「Battery Day」での塩と水を混ぜればいいという説明は雑すぎるとの印象を持った。

ニッケルの生産増加を動機付けるには、呼びかければいいというわけではない。確実に投資に対するリターンがあるか等が生産増加に導く手段である。

4.2.3.Casper Rawles, Head of Price Assessment, Benchmark Minerals(2020年9月Benchmark Battery Day 2020)

Tesla社にとって、コストの抑制は重要なことである。上流により関わっていくことはTesla社にとって課題になり、「Battery Day」で発表したタイムラインよりも時間がかかると思われる。もし、サプライチェーンの段階をスキップすることができるのであれば、他の企業もとっくにスキップしているだろう。しかし、自動車業界にはTesla社のような会社が必要である。

4.3.EV用バッテリーの動向

4.3.1.LME Week Forum

講演者:Gavin Montgomery, Head of Battery Raw Materials Research, Wood Mackenzie(2020年10月LMEウィーク)

新型コロナウイルスの影響に拘わらず、2020年は欧州にとってEVの年になる。欧州のEV販売台数は、2020年4月から7月にかけて、約25,000台から約110,000台に増加した。なお、同時期の中国での新エネルギー車(NEV)の販売台数は約75,000台から約100,000台に増加した。

現状のリチウムイオンバッテリーサプライチェーンは北東アジア(中国、韓国、日本)が中心になっているが、将来的には欧州内のサプライチェーンが立ち上がると思われる。

Tesla社を始め、EV生産者はサプライチェーン内で統合を始めている。Tesla社は、独自のセル生産から、カソード生産、化学物質精錬、採掘まで行いながら安定供給を確保している。他にも、BYD社はセル生産、化学物質精錬、採掘まで行っている。Volkswagen社、GM社、Daimler社、ホンダ社及びBMW社は独自のセル生産は行っているが、他のプロセスには取り組んでいない。

4.3.2.Nickel:From Mine to Cathode – How is the Market Evolving?

講演者:Greg Miller, Analyst, Benchmark Minerals(2020年9月Benchmark Minerals World Tour East, Nickel Special)

中国から韓国への安価なNCMバッテリーの輸出は2020年前半に前年同期比で44%増加した。中国国内のEVの売上が回復してきたことによりセンチメントが向上してきている。また、欧州の売上が過去最高を記録している。2020年上半期において、欧州での売上は中国よりも成長している。

地政学的な問題としては、インドネシアのHPAL工場は基本的に中国企業が保有者である点である。これにより中国の存在感がEVのサプライチェーンにおいて高まることになり、供給の1国依存が高まってしまう。

図.1は、今後10年間に建設が予定されているカソードの生産能力について、現在建設中のものと計画中のものを比較したものであるが、EVに搭載されるバッテリーのカソードは、LFPとNCM811の割合が増加していくと予測している。

図1.建設中(左)及び計画中(右)のプロジェクトにおけるカソードの種類及び割合

図1.建設中(左)及び計画中(右)のプロジェクトにおけるカソードの種類及び割合

新型コロナウイルスは2020年のニッケル需要を停滞させたが、今後10年間でリチウムイオンバッテリーはニッケルの主な需要先となる。バッテリー需要においてはニッケル含有量の多いカソード材料への移行が推進されている。これによりセルのコストが低下し、エネルギー密度が高くなる。

4.4.企業からみたアノードとカソードの課題と開発状況

4.4.1.Sustainable Production of New Generation Anode Material

講演者:Sai Shivareddy, R&D Manager, Talga Group(2020年12月Benchmark Week 2020)

Talga社は100%再生可能エネルギーによる電力からリチウムイオンバッテリーのアノードを生産している。以下の3つのバッテリーアノード製品を紹介する。

  • Talnode®-C:早い充電、高パワー、高能力、低温度パフォーマンス
  • Talnode®-Si(現在拡大中):グラフェン・シリコンアノードであり、エネルギー容量が基準よりも50%高い
  • Talnode®-E(開発中):固体電池用のグラファイトを基にしたアノード

この中でも注目したいのは、シリコンアノードである。シリコンアノードは理論的にはグラファイトアノードの10倍以上のエネルギー容量が可能である。しかし、現状ではシリコンには大きな課題があり、3~5%程度という少量しかグラファイトの中にブレンドされていない。より大きなエネルギー容量は、EVの航続距離の長距離化や軽量化(より小さなバッテリーサイズ)等のバッテリーに関する課題解決につながるため、シリコンの使用はEVの活用とコスト抑制に大きな影響を与える。

シリコンアノードの課題には大きく分けて2つある。1つ目は、シリコンのボリュームが充電・放電のサイクルの中で300%程度変化することである。一方、グラファイトは10%程度しか変化がない。2つ目は、ボリュームの変化により粉砕・破損、集電体からの剥離、厚い個体電解質界面の形成を含む幅広い課題が存在することである。

Talga社のTalnode®-Siは良い結果を出していることから、開発を加速しやすくなっている。予備的FSは、生産の選択肢の可能性も出てきている。

Talga社は英国でTalnode®-Siの生産を立ち上げる計画に対してInnovate UKから520kA$を取得した。

4.4.2.Nickel – the elephant in the room

講演者:Sam Riggall, Managing Director and CEO, CleanTEQ(2020年12月Benchmark Week 2020)

バッテリーメタル(特にニッケルとコバルト)の問題は、これらの需要が高まる中で、2030年までに需要を満たす供給ができるかどうかである。新しいニッケルの生産施設を建設するのに5~10年を要する。インドネシア以外では、現状建設中のプロジェクトは限られた数しかない。

2020年7月にTesla社のElon Musk CEOによって発信された、ニッケル増産を求め環境に配慮した方法で大量のニッケル供給できる鉱山会社と巨大な長期契約を締結する、というコメントは問題解決にならないと考えている。理由としては、金属を確保しても価格の変動が課題となる(コバルトの場合、400%程度の価格変動、ニッケルは1,000%程度の価格変動)。ニッケル及びコバルトはバッテリーコストの20~60%を占めることから、このような価格変動のリスクは重大である。

CleanTEQ社では、豪州でSunrise Battery Materials Complexプロジェクトを行っており、約100万台のEVにおいて同プロジェクトのニッケル及びコバルトが使用されている。

同プロジェクトでは、バッテリー用のニッケル及びコバルトを直接供給して中間供給及び第三者による精錬プロセスを無くし、サプライチェーンを短縮してコストを抑制することができる。同プロジェクトの精錬所では消費されたカソードからニッケルやコバルト等をリサイクルできる設計になっている。さらに、鉱山の副産物であるスカンジウムは、航空宇宙用や自動車用の軽量で、耐食性・成形性があり、プリント可能なアルミニウム合金(printable aluminium alloys)を供給する。

おわりに

国際非鉄研究会、LMEウィーク及びBenchmark Minerals EV Seriesにおけるアナリストの分析によると、新型コロナウイルスは2021年にも生産、供給、操業への影響を及ぼすと予測されているが、EVへの移行トレンドは以前と変わらず、むしろ欧州ではEV化が加速したと分析されている。

リチウムに関しては、生産側が需要に早く対応できており、供給過剰のトレンドが続くと予測されている。コバルトに関しては、自動車生産者がコバルト不使用の目標等を発表しているものの、アナリストの分析ではコバルトのバッテリーメタルとしての需要は残ると予測されている。ニッケルに関しては、生産時のファイナンス及び環境汚染の課題が注目されており、バッテリーに使用されるニッケルは、特に環境に配慮しなければならない傾向が感じられた。

また、現在のバッテリー動向において、Tesla社の発表の金属業界への影響は大きいと感じた。Tesla社が脱コバルトやLFP活用を発表した後のLFPの世界シェアの見通しが増加したほか、Talga社のプレゼンテーションを2019年時のものと比較すると、2020年はシリコンアノードが主な内容となっていた。注目されているバッテリーの種類は引き続き変化しており、これからは今まで注目を浴びていなかった金属も注目を浴びる可能性もあると感じたカンファレンスだった。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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