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報告書&レポート

2021年5月25日 金属企画部 調査課 小口朋恵
21-08

ペルー大統領選と鉱業政策

<金属企画部調査課 小口朋恵 報告>

はじめに

2021年4月11日、ペルーにて大統領選挙が行われ、急進左派のPedro Castillo候補が得票率19%を得て1位となったが、得票数が過半数には至らなかったことから、得票率第2位の右派Keiko Fujimori候補とともに決選投票に進むこととなった。決戦投票は2021年6月6日に実施される予定であるが、この決選投票が行われる前に、ペルー大統領選挙の結果をおさらいし、今後の動向を考えていくこととする。決選投票に残った候補のひとりが急進左派であり、ペルーにとって重要な産業のひとつである鉱業分野において、大幅な現状変更の可能性が出てきたためである。

まずは2021年4月11日に行われた選挙結果をまとめ、決選投票に残った2候補の主に鉱業に関する政策、それに対する業界関係者等の反応や、鉱業分野への影響等についてみていくこととしたい。

1.2021年4月11日の大統領選挙

(1)事前調査

今回の大統領選挙には、表1のとおり総勢18名が立候補した。毎回大統領選に出馬している候補や元大統領等も含まれるが、このうち有力候補とされたのは、表1にも示すとおりYonhy Lescano候補(Acción Popular党、右派)、Hernando de Soto候補(Avanza País党、右派)、Rafael López Aliaga候補(Renovación Popular党、右派)、Keiko Fujimori候補(Fuerza Popular党、右派)、Verónika Mendoza候補(Juntos por el Perú党、左派)、George Forsyth候補(Victoria Nacional党、中道)等であった。現地調査会社が行ったアンケートによる支持率の変遷では、2021年3月中旬頃はLescano候補が1位、Mendoza候補が2位であったが、同年4月上旬の支持率はde Soto候補とFujimori候補が同率1位で並ぶなど、有力候補の間で支持が揺れる状態であった。投票前の報道では、いずれの候補も支持率が13%に満たず、有力候補とされた上記6名のうち誰が勝ってもおかしくない状況、と言われていた。

このように候補者が乱立する背景として、政党の多くは政治的有力者が立ち上げた個人政党であったり、既存政党の看板を替えた政党であったりと1経緯は様々であるが、いずれにしろ政党数が多く、またその影響力も全国的ではないといった事情があるとみられる。

(2)結果

2021年4月11日の投票の結果、Castillo候補が18.9%で1位、Fujimori候補が13.4%で2位となった。得票1位の候補の得票数が過半数に満たなかったことから、決選投票に進むこととなり、決選投票は同年6月6日に行われる。なお、大統領就任は同年7月28日の予定である。

Castillo候補が1位となったことについて、同候補は選挙戦において当初は支持率が5%に満たないほぼ無名の候補であり、多くの人が予想していなかった結果といえる。それまで人気のあった左派のMendoza候補が後半失速したことで、ここからこぼれた左派票を取り込んだ結果とみられている。

(3)決選投票に残った候補者の略歴

Pedro Castillo候補は、Cajamarca州生まれの51歳で、元教師である。2017年に教師のデモを全国的に主導したことで政治的頭角を現した人物で、現地報道において「maestro」、あるいは「profesor」(いずれも「先生」「教師」等の意)との枕詞で形容されている。また白いカウボーイハットがトレードマークとなっている。

一方のKeiko Fujimori候補は、言わずと知れた元大統領Alberto Fujimori(任期:1990~2000年)の長女である。首都リマ生まれの45歳、祖父・祖母共に熊本県出身でやがてペルーに移住し、Keiko2は日系移民三世にあたる。父が大統領在任中であった1994年に両親が離婚したことから、弱冠19歳にてファーストレディーに指名された。その後政治家となり、在任中人気が高かった父Albertoの支持層を取り込み、政治家となって以降の支持率は安定して高かったが、2011年、2016年に出馬した大統領選挙ではいずれも「反Fujimori派」(antifujimorismo)の存在が足かせとなり、決選投票で敗北している。更に、伯・Odebrecht社関連の汚職問題でKeiko自身も資金洗浄疑惑がかけられ3、2018年10月に警察に拘束されており、本事件で検察は現在も起訴中である。

表1.大統領一次選挙結果
候補者名 政党名 政治的立場 職業 得票率
Pedro Castillo Perú Libre 急進左派 教師 18.9%
Keiko Fujimori Fuerza Popular 急進右派 企業経営者 13.4%
Rafael López Aliaga Renovación Popular 急進右派 起業家 11.8%
Hernando de Soto Avanza País 中道右派 経済学者 11.6%
Yonhy Lescano Acción Popular 中道右派 弁護士 9.1%
Verónika Mendoza Juntos por el Perú (JPP) 中道左派 心理学者 7.9%
César Acuña Alianza para el Progreso 中道右派 起業家 6.0%
George Forsyth Victoria Nacional 中道 元サッカー選手 5.7%
Daniel Urresti Podemos Perú 右派 元軍人 5.6%
Julio Guzmán Partido Morado 中道 経済学者 2.3%
Alberto Beingolea Partido Popular Cristiano 中道右派 弁護士 2.0%
Daniel Salaverry Somos Perú 中道右派 起業家 1.7%
Ollanta Humala Partido Nacionalista Peruano 中道左派 元軍人・元大統領 1.6%
José Vega Unión por el Perú 急進左派 労組代表 0.7%
Ciro Gálvez Renacimiento Unido Nacional 左派 弁護士 0.6%
Marco Arana Frente Amplio 左派 社会学者 0.5%
Andrés Alcántara Democracia Directa 左派 弁護士 0.4%
Rafael Santos Perú Patria Segura 中道右派 起業家 0.4%
(白票) (12.4%)
(無効票) (6.3%)

(太字の候補者は有力候補、塗りつぶし枠は決選投票に進んだ候補)
(選挙結果の出典:ONPEサイト(https://www.resultados.eleccionesgenerales2021.pe/EG2021/)2021年5月13日閲覧)

2.各党の政策

決選投票に進んだ2名が所属する各政党の政策プランの中で、鉱物資源政策に関連する部分を抜粋の上、以下に列挙する。

表2.決選投票に進んだ各候補者所属政党の政策プラン(抜粋)

<Perú Libre党(Castillo候補)>

  • 導入:資本主義/ネオリベラル経済モデルから「人民市場経済」(国家は経済活動に積極的に介入する一方、人権や環境の尊重、汚職回避などを条件として富や豊かさの創造を推進)への転換。
  • 非再生資源への依存から再生資源への転換:石油・天然ガス、鉱物などの有限資源への依存から、科学、技術、イノベーションなどの無限な資源へ。
  • 国家・多国籍企業間の契約見直し:現行契約では多国籍企業が利益の7割を留保、国への納付は3割のみという許容しがたい状況。契約の見直し・再交渉により、企業30%、国70%の利益配分を提案。
  • 戦略セクターの国有化:企業側が契約の見直し交渉に応じない場合、鉱業・天然ガス鉱床、通信事業などの国有化も辞さない。
  • 国家財源の見直し:天然資源国有化。過去に民営化された全コンセッション(道路、鉄道、港湾)や公社、FTAその他国際協定の見直し。
  • 主要戦略的資源の主権回復と管理:鉱物、石油天然ガスなどの主要鉱床の国有化により主権を回復し、所在地の州政府へ管理権限を移譲すべき。なお資源採掘企業で最も難易度が高くハードな業務を行っているのはペルー人であり、外国人は必要不可欠な存在ではない。

<Fuerza Popular党(Fujimori候補)>

  • ペルーは伝統的な鉱業国との前提のもと、鉱業活動は農業や牧畜業など他の生産セクターと調和を図り、自然環境や地域コミュニティの尊重のもと実施されるべき。
  • 国内に存在する豊富な鉱物資源を適切に活用するための合意形成が必要。
  • これまでの政府は小規模・零細鉱業の合法化の成果を十分出せていない。
  • 「A.環境を尊重した環境規則の確実な履行。企業・コミュニティ間の対話促進におる社会争議防止、鉱業プロジェクト推進」、「B.既存法規の見直し」、「C.既存の小規模・零細鉱業法制度の見直し、操業エリアに応じた制度の適用」、「D.特に大・中規模鉱山における、環境規則の確実な履行」、「E.農業と鉱業の健全な共存」、「F.エネルギー鉱山省や環境省職員の対応能力向上や増員による、社会・環境許認可プロセスの改善」、「G.土地、水資源、国有地の利用許可に関する行政手続を、環境面に配慮しつつ簡素化」、「H.手続簡易化と政府の伴走支援による効果的な鉱業合法化プロセスの促進」を提言。

3.決選投票に向けた選挙戦

(1)選挙戦概要

Castillo候補とFujimori候補の決選投票に向けた選挙戦は、ペルー国民にとってもいわば「究極的」な選択となっており、支持率は揺れているが、2021年4月11日の投票後はCastillo候補の方が支持を拡大、特に地方(南部)での支持を得ていたが、基本的には中間層~貧困層に人気であり、また反Fujimori派の票も集めている。

一方のFujimori候補は、上記のとおり父Fujimori元大統領の支持層に支えられ、今回の決選投票において首都リマで支持が高く、40代以上の富裕層に人気である。また反左派の票を取り込み、現在の「変革を伴う経済モデル」を維持すべきと考える有権者の票を集めている。そのほか、当選すればペルーにとって初の女性大統領となることから、その誕生を望む女性層からの支持もあるとされている。

しかし、Fujimori候補の場合、かつて経済対策とテロ対策に尽力し多大な功績を残した父の面影が強く、Fujimori元大統領が未だに一部から強く支持されている一方で、その強引な手法等から反Fujimori派も一定数存在し、かつKeiko自身も伯Odebrecht社に関連する汚職問題で追訴されたこと等でKeikoを敬遠する有権者もいることから、Castillo候補が反Fujimori派の票を取り込む形となっている。

決選投票を控えた各候補の支持率は、現地調査会社アンケート結果によると、2021年4月下旬の時点でCastillo候補41.5%、Fujimori候補21.5%とCastillo候補が倍の差をつけていた。2021年5月初旬には、Castillo候補43%、Fujimori候補34%と、Fujimori候補が追い上げを見せており、同年5月中旬現在は、Castillo候補とFujimori候補の支持率が拮抗し始めている4。このなかで、双方の対立候補の支持層が、一概に形容できない面はあるものの、右派と左派のみならず、首都と地方、富裕層と中間~貧困層、と分かれ、国が分断される形になりつつあるとみられる。

(2)鉱業政策

Castillo候補が所属するPerú Libre党の政策プランの中で鉱業に大きく影響する施策として注目されるのは、国家・多国籍企業間の契約見直しである。契約見直しにより、企業と国の利益配分を30:70とすることを目指し、企業側が契約の見直し交渉に応じない場合は鉱業・天然ガス鉱床などの国有化も辞さないとしている(表2)。

この施策の扱いが注目されているが、ペルー国会は細かく政党が分かれており、大統領選と同日に行われた議会選挙の結果、130議席中Castillo候補が所属するPerú Libre党が最多の37議席数を獲得したものの、計10政党が議席を分け合う形となった5。このため、大統領がいくら過激な政策を打ち出したとしても、議会承認には複数政党の支持を得る必要があることから、現地の鉱業関係者は大統領の大胆なコメントをあまり真正面から受け止めず、敢えて楽観視もしくは様子見的なコメントをしている模様である。

こうした現実を見越してか、Castillo候補が所属するPerú Libre党のAna María Córdova法的代表者は、大統領当選が現実的となってきたことを踏まえ、鉱業セクターでは地域住民がより受益することを目的とする国家・多国籍企業間の契約の見直しを優先し、国有化は行わないほか、民間投資は歓迎するとの方針を示し、今後政策プランの一部修正を発表するともコメントしている。また、決選投票に向けた地方遊説の中で、大統領に選出された暁には外国(鉱山)企業との契約を見直し、そこで得られた資金を新型コロナウイルス(以下、コロナ)ワクチンの購入に充てる、とした。また公約に憲法改正を掲げており、これによりビジネスエリートを弱体化させ、経済において国家の支配的な役割をより強くしたい、と述べている。

Fujimori候補は、「経済活性化のためには大規模鉱業プロジェクトを解禁すべき、頻繁に紛争の火種となっているがここは調和して取り組むべき」としており、大規模鉱業プロジェクトへの民間投資は2百万人の直接雇用を生み出すとして、歓迎の立場である。但し、「(Tía María銅プロジェクトの水問題等を念頭に)水はまず飲用水の確保が第1、その次に農業・畜産業、最後に鉱業に回すべきもの」と発言し、現地の問題に配慮する姿勢も見せている。決選投票に進んでからは、鉱業で得られた富をより均等にペルー国民に配分しコロナワクチンも供給する、ペルーの鉱業Canon税の40%を地域住民に直接支給する、等といったポピュリズム的な発言が目立つようになってきている。

(3)国内鉱業関係者等の反応

以下に、現地報道から抜粋した、鉱業関係者等のコメントを簡単にまとめる。いずれのコメントも、現状の大幅変更には批判的であるものの、概ね冷静な見方とみられる。

  • ペルーの弱点は、鉱業に限らず民間企業活動全体に対する信頼の欠如である。ペルーの鉱区付与や鉱業行政手続、規制は明確で、交渉や汚職発生の余地がない優れたモデルであり、ラテンアメリカや南米諸国の中にはペルーの制度を参考にする国もある。憲法や鉱業セクターの構造を変えようとする提案は誤りで、制度自体の変更は必要ない。必要なのは信頼構築である。(弁護士)
  • Castillo候補は過激な主張の一方、Fujimori候補も課税強化の可能性があり、どの候補が当選してもペルーの投資リスクは高まる。供給減のリスクが高まる結果、銅価格や株価上昇をもたらす可能性がある。(アナリスト)
  • ペルーにおける経済格差の原因は財源不足ではなく、行政能力の欠如にある。増税は投資減退をもたらし問題解決にはならない。(鉱山会社社長)
  • ペルーの現行憲法は強靭であり、仮にCastillo候補が当選しても鉱業の終焉を意味しない。但し同候補が、国会が改憲のための憲法制定議会招集に応じない場合、国会閉鎖も辞さないと発言している点は注意すべき。(鉱山会社社長)
  • 現時点で鉱山企業による納税その他の負担額は利益の77%にのぼり、企業や投資家の取り分は23%程度である。(鉱業石油エネルギー協会(SNMPE)会長)
  • どちらの候補も新政権を運営可能とする政策を提示していないことから、いずれかを支持することはできない。このうちCastillo候補の共産主義は我々を貧困に陥れるものである一方、Fujumori候補の市場経済政策も大多数のペルー人が受益するためのツールに欠いており、民衆による大きな反発が起こることが必至である。どちらの選択肢も持続不可能であり、経済や医療危機に対処もできない。言い換えれば、これは2名の候補者の選挙戦ではなく、選挙の姿を借りた「階級闘争」である。(de Soto元大統領候補)

(4)その他反応

2021年4月11日に急進左派候補の1位通過が伝えられると、ボリビアのEvo Morales元大統領は即座に反応し、Castillo候補に架電の上、祝福のコメントを発出し、同候補への支援を約束した。

リマ証券取引所(BVL:Bolsa de Valores de Lima)のペルー総合株価指数は2021年4月19日、Castillo候補への警戒感から対前週末比約3%下落したが、同年5月に入りFujimori候補の支持率上昇で反発している。

またペルーは世界でもチリに次ぐ重要な銅鉱石生産国であり、Castillo候補が大統領に当選した場合の、世界のペルーへの投資マインドの減退や相場の下落が懸念されている6

(5)講評

Castillo候補による、民間企業の「国有化」、という言葉はインパクトが強い。そのためこの言葉が独り歩きしてはいけないが、実際のところ民間企業の国有化は、他の南米諸国で必ずしも成功もしくは当初の目的を果たしていると言えない現状から、安易な国有化は行われないものと推測される。隣国ボリビアにて、Castillo候補よりも何倍も過激であったEvo Morales元大統領の時代は、毎年5月1日のメーデーに突如民間企業の国有化を発表し、もはやお馴染みのイベントと化していたが、そんなMorales元大統領でも鉱山の国有化には慎重な面もあった。また、Castillo候補は政治・経済全般に関する知識の浅さが露呈、気軽に大胆な内容を発言し、後で撤回や訂正を繰り返していることから、業界関係者も市場への影響や対外的な理由で、一言一句に敢えて細かく反応していないと思われる7。更にCastillo候補は、ディベートに応じない、Cerrón代表が打ち出した上述の表2の政策プランに替わる政策を打ち出せていない8、あるいは政策を担う専門家チームを明らかにしていないなど、支持層を繋ぎ止める方策を取れていないようである。このような政治家としての経験不足、詰めの甘さといった弱点が露わになりつつあることが、Fujimori候補との差が徐々に縮まってきている要因とする向きもある。

とはいえ、現行契約の見直しや税制の変更といった動きは注意すべきと考えられる。Castillo候補による「鉱山企業は利益の70%を手元に留め、30%のみを国に納付している」との認識は恐らく誤りで、上記のとおり「実際の企業の納税その他負担額が既に70%を超えている」という指摘もあるが、事実関係はどうであれ、公約に掲げた「契約の再交渉」、もしくは税制改革等の手段を用いて企業からの取り分を増やす動きに出てくる可能性がある。

こうした法整備や制度改革といったハード面での変更以外にも、地域住民の扇動といったソフト面での動きにも一層注意せねばならないであろう。Yanacocha金鉱山のある北部Cajamarca州出身のCastillo候補は地方に支持層がある中で、出身のCajamarca州に位置するConga金プロジェクトや、南部であればLas Bambas銅鉱山、Tía María銅プロジェクトに代表される鉱山やプロジェクトでは、現地コミュニティ等とその是非を巡って揉めている。かつてCastillo候補自身が教師のデモを先導した過去や同氏の出自に鑑みても、同候補が地域住民側の立場であることは容易に想定できる。このことによって、進み始めていたプロジェクトが再び振り出しに戻るような事態は避けたいところだが、これまで比較的順調だったものが再びこじれ、プロジェクトが停滞するような可能性も十分考慮しておかなければならない。

一方で、市場経済推進派であるFujimori候補を手放しで迎える訳にもいかないであろう。ペルーもコロナによって経済に大打撃を受けている。2020年の経済成長率はマイナス11.5%、2020年第2四半期にはマイナス30.2%という世界でもワーストに入る記録であった。この経済の立て直しは誰が大統領になろうと急務であり、かつて「フジショック」と呼ばれる大胆な経済政策の実施で経済指標を大幅に改善、ペルー経済を立て直したFujimori元大統領の輝かしい功績から、その娘に類似の手腕を期待する声もあろう。しかし、国内に一定数は存在する「Fujimori嫌い」に加え、Keikoにつきまとう汚職や国会での過去の振る舞いによるイメージ悪化は、本人に実力や手腕が伴っていたとしても想像以上に暗い影を落としている9。また、支持を得られていない中間層~貧困層対応からか、増税やそれで得られた富の再分配といったようなポピュリズム的発言をし始めていることにも留意しなければならないであろう。

おわりに

ペルーでは、2021年5月9日時点でコロナの累計感染者が185万人、死亡者数が64,103人と、人口比では世界最多の死者数となる中、2021年2月、臨床試験前の中国製未承認ワクチンを、Vizcarra元大統領をはじめとする政治家、閣僚、高官等計487名が国民より先に秘密裡に接種していたというスキャンダルが発覚した。国内がコロナで未曽有の危機に直面している中で政治家がこのようなことをしていては、2016~2020年の5年間に4回発生した、相次ぐ大統領の交替劇で元よりあった政治不信を一層助長するであろう 。ペルー国民の「嘆かわしい」という感情も察するに余りあり、国民の政治離れが進んでもおかしくない状況ではあるが、一方でこの「国民的諦め」が実は最も困った事態である。有権者ひとりひとりが自らの清き一票を誰に投じるべきか、真剣に考えて選択しなければ、誰も想定していなかった驚く結果を招くことは、他国の選挙の歴史をみても自明である。2021年4月の投票では、コロナ感染を恐れて投票所に行くのを躊躇した有権者も多かったとみられるが、2021年6月の決選投票に向け現地の関心は高まっている様子から、国内での徹底した議論の結果、よりふさわしい候補が選ばれることを望む次第である。

いずれの国も、打ち出す政策はコロナ対策に押され気味で、鉱業国では特に重要な鉱業政策等が見過ごされたまま選挙を迎える形になりがちだと感じるが、急進左派のCastillo候補が当選した場合、地方で頻発している地域住民・先住民による鉱業プロジェクトへの反対運動は一層激しくなり、プロジェクトの実現はより遠いものとなる可能性がある。そのほかにも、反鉱業派の地方自治体首長の動向、多国籍鉱山会社との契約見直し、税制改革等、何らかの形での改革は行われる可能性が高く、鉱業活動への影響は避けられないと見てよいのではないかと考えられる。

一方のFujimori候補も、汚職疑惑等でかつてよりもイメージが悪くなっている点は否めず、それ以上に反Fujimori派の「Fujimori嫌い」は根深いほか、父Albertoには反民主主義・独裁(自己クーデター、報道規制、汚職)、反人権(虐殺罪で禁固、治安部隊による誘拐、失踪、拷問等)のイメージが強い。左派には当然のことながら、比較的教育レベルが高く、人権や民主主義擁護の意識が高い若者や学生等の間でも、これら負のイメージが広がっているようである。日本にとっては、日系人の大統領誕生は歓迎すべきものであり、ペルーとの外交関係もより良いものに発展できる可能性を大いに秘めているが、人気取りに必死さが垣間見えるFujimori候補が打ち出す政策は、必ずしも企業寄りとは言えない可能性もあり、一方で地域との問題を抱えるプロジェクトを強行させて争議がより深刻化する可能性も否定できないことから、注意しなければならない。

いずれにしろ、2021年4月11日に行われた選挙結果から、Castillo候補かFujimori候補のどちらかが大統領になることは確定している。どちらが大統領となった場合でも、具体的なその影響及び対応策について、今から十分に検討しておく必要がある。

最後に、本稿執筆にはJOGMECリマ事務所発行のニュースフラッシュを引用したほか、同事務所の栗原健一前所長と村井裕子事務所員から助言を得たことを申し添える。また、本稿は2021年5月18日現在の情報を基にしている。


  1. 歴史のある政党は、Yonhy Lescano候補が所属するAcción Popular党(1956年~)、PPC(Partido Popular Cristinano)党(1966年~)等がある。
  2. 以後、父Alberto Fujimori元大統領と区別する必要がある場合は、「Keiko」と表記する。
  3. ブラジルの建設大手Odebrecht社が、2016年、0.4bUS$超の賄賂をもって周辺諸国等にインフラ事業を拡大した事件。ペルー関連では、Toledo元大統領が大洋間横断道路(Interoceanica)南部第2区及び第3区の建設工事を同社に受注させる見返りに20mUS$を収賄、Humala前大統領の国民主義党陣営の選挙キャンペーン資金として同大統領が2010~11年の間に計3mUS$の献金を収賄、といった同社との贈収賄にまつわる一連の汚職事件である。
  4. 2021年5月7日付の市場調査会社DATUM社発表のデータではCastillo候補41%、Fujimori候補36%、同年5月10日付CIT(Centro de Investigación Territorial)社の発表ではCastillo候補38.2%、Fujimori候補37.3%である。
  5. 議席の内訳は、Perú Libre党37議席、Fuerza Popular党24議席、Renovación Popular党13議席、Acción Popular党16議席、Alianza para el Progreso党15議席、Avanza País党7議席、Juntos por el Perú党4議席、Somos Perú党5議席、Podemos Perú党5議席、Partido Morado党4議席。なお、ペルー議会は一院制である。
  6. SNMPEによると、2011~2020年、地方政府の鉱業Canon税やロイヤルティによる収入は概ね全体の税収の22%を占める。特に鉱業Canon税やロイヤルティ収入のある州政府では、税収のうち平均61%が鉱業に由来する収入であり、地方政府にとって鉱業が重要な収入源であることを謳っている。
  7. 一方で、Castillo候補への全面支持を表明したMendoza元候補の副大統領候補、De Echaveエコノミストは、「Castillo候補をはじめとする左派が提案する国有化は、鉱物や炭化水素資源を、まずは自国の発展や自国民の生活(国内需要や産業育成)を優先目的として利用することであり、決して民間鉱山企業を公社に変換させる国有化や国営化ことではない」と説明し、JPP党は政策チームの人材など提供する可能性もあるとされている。
  8. 2021年5月14日現在。その後、2021年5月16日付でCastillo候補は政策プランを公表し、鉱業関連では「超過利益税の導入、ロイヤルティの算定ベースを利益から売り上げに変更、税安定化契約の再交渉」といった内容が含まれている。
  9. Kuzcynski~Vizcarra政権時代、国会で過半数の議席を持っていたFujimori候補のFuerza Popular党が政権運営を妨害したことでも、更にイメージが悪化したとされている。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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