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報告書&レポート

2021年6月11日 リマ 事務所 初谷和則
21-09

ペルー大統領選決選投票の結果と鉱業関係の反応

<リマ事務所 初谷和則 報告>

はじめに

2021年6月6日、ペルーにて大統領選挙の決選投票が行われ、急進左派のPedro Castillo候補が得票率50.193%を得て、0.386ポイント(約7万票)の僅差で右派のKeiko Fujimori候補をリードしている(日本時間2021年6月10日午前6時現在)。ペルーは、銅や鉛・亜鉛等金属資源の重要な産出国であるが、Castillo候補は選挙期間中から、国の富を公平に分配するための手段としての「資源の国有化」に言及するなど、資源政策を変える意向を表しており、今後の政権運営が注目されている。

本レポートでは、今回の大統領選挙の動向と、これまでに報じられている現地関係者の意見をまとめた。同国の鉱業セクターに係わる読者のご参考になれば幸いである。

1.大統領選挙の動向

(1)第1回大統領選挙

2021年4月11日に行われた大統領選挙は、各与野党より選出された総勢18名により争われた。得票第1位は18.9%を獲得したPedro Castillo候補(急進左派、Perú Libre党)、第2位は13.4%を獲得したKeiko Fujimori候補(右派、Fuerza Popular党)となり、1位候補の得票数が過半数に満たなかったことから、同年6月6日に決選投票(第2回大統領選挙)を実施することとなった。

第1回大統領選挙の結果の詳細や両候補の人物像・政策については、既報のカレントトピックス21-08:ペルー大統領選と鉱業政策を参考にされたい。

(2)各候補の意見・提案

第1回大統領選挙後の各候補の意見・提案のうち、鉱業に関するものとしては以下が挙げられる。

  • 2021年5月1日、Cajamarca州で行われた大統領候補のディベートにおいて、Fujimori候補は、鉱山企業が納付する所得税の50%に相当し、操業地域の自治体や自治体や国立大学などに対し交付されている鉱業Canon税について、その40%を地域住民に直接支給することを提案した。
  • 2021年5月17日、Perú Libre党(Castillo候補)は「汚職なきペルー200周年」と題される、就任後最初の100日間に直ちに適用される政策プランを発表した。鉱業に関しては、「政策提案4」の「超過利益を得る企業による公正な寄与」にて、資源を国有化し、即ち新たな税制やロイヤルティ制度のもとで、資源がペルー国民のために役立てられなければならない、としている。
  • 2021年5月30日、首都Limaで行われた大統領候補のディベートにおける鉱業関連の提案や主張は次のとおり。
(Castillo候補)
  • 鉱物資源を「持ち去る」大企業と契約の再交渉を行い、国の富を取り戻す。
  • Tia Maria銅プロジェクトおよびConga金プロジェクト開発の反対。
  • 民間投資は歓迎だが、明確なルールのもと労働者を搾取しないことが条件。
  • 経済全般に関する政策や方針としては、市場が国をコントロールするのではなく、国が市場を管理するべきである。現在の経済モデルの変更が必要。
  • 輸入は禁止しないが、国内生産を保護する。FTAをはじめとする国際協定の見直しに着手する方針である。
  • 契約の見直しについては、まずは企業と交渉を行う。
(Fujimori候補)
  • 鉱業Canon税40%を地域住民へ直接交付する。
  • 増税による徴収分を農業振興(灌漑設備など水資源関係の整備)に充てる。
  • 資源採取産業は国の経済にとって必要不可欠である。

(3)事前調査

民間調査会社Ipsos社によって決選投票前に実施された模擬投票の結果は、表1のとおりである。

表1.決選投票前における模擬投票の結果
候補者名 5月14日 5月21日 5月28日 6月5日
Pedro Castillo 51.1% 52.6% 51.1% 49.6%
Keiko Fujimori 48.9% 47.4% 48.9% 50.4%

第1回大統領選挙の得票率が、Castillo 候補18.9%、Fujimori候補13.4%(5.5ポイント差)であったことを踏まえると、相対的にはFujimori候補が支持を伸ばした結果となった。また、決選投票前日にはFujimori候補が上回った形となり、接戦のまま投票日を迎えた。

(4)決選投票の結果

国家選挙管理局(ONPE)による日本時間2021年6月10日午前6時現在の発表によると、開票済み(Actas Procesadas)99.821%、集計済み(Actas Contabilizadas)98.481%の状況において、得票率としては図1のとおりCastillo候補が50.193%、Fujimori候補が49.804%と、僅差でCastillo候補がリードしている。有効/無効の判断が見送られた票の判定が終わっておらず、勝者は確定していない。

図1.ONPEウェブサイトで随時アップデートされる投票状況

図1.ONPEウェブサイトで随時アップデートされる投票状況

https://www.resultadossep.eleccionesgenerales2021.pe/SEP2021/EleccionesPresidenciales/RePres/T

首都のあるLima州と地方州における投票結果について、Fujimori候補はLima州では優勢であるものの、Castillo候補は地方の大規模鉱山が位置する多くの地方州で圧勝となっている。

表2.Lima州と大規模鉱山が位置する地方州の投票結果
州名 Castillo候補得票率※ 位置する主要鉱山名
Lima州 35.401%  
Ancash州 58.383% Antamina
Apurimac州 81.475% Las Bambas
Arequipa州 64.841% Cerro Verde
Cajamarca州 71.275% Yanacocha
Cusco州 83.173% Antapaccay
Junin州 58.157% Toromocho
Moquegua州 73.135% Cuajone
Tacna州 72.565% Toquepala

※:ONPEウェブサイト(日本時間2021年6月10日未明)に基づく
なお、勝利した候補者の大統領就任は2021年7月28日の予定である。

2.決選投票直後の現地の反応

(1)市場の動き

決選投票の翌日2021年6月7日、現地通貨ソルが売られ、ドル為替相場終値は史上最高を更新し3,938PEN(ヌエボ・ソーレス)まで高騰。Lima株式市場(BVL)は一般株価指数が7.75%下落、午前中には株式取引が20分間中断した。

(2)鉱業関係者(Buenaventura社Benavides社長)のコメント

  • 今回の選挙結果はペルー社会の深い分断の現れ。国会の議席配分に見られる社会の分断が、大統領選によって改めて示された。
  • 対話による合意形成を繰り返し行っていくことが何よりも重要。
  • 次期政権は保健、経済再生、ガバナンスに優先的に取り組むべき。
  • 特にCOVID-19パンデミックにより政府の予算利用能力の低さが改めて浮き彫りとなった。地方分権プロセスが実施されたにもかかわらず、地方農村部の国民は現状に不満であることを表明した。従い、地方分権の制度やプロセス、財源の使い方について見直しが行われるべきである。

(3)Perú Liber党関係者(Francke経済政策担当)の鉱業関係のコメント

  • Castillo候補当選の場合、次期政権は、全ての政治勢力や社会組織、企業、専門家から幅広く意見を聞き、合意形成を行いつつ運営されるべきである。勝利できたとしても、ほぼ半分は反対票であり、幅広く意見を聞かずに政権運営を行うことは不可能だ。
  • 鉱業をはじめとする資源採取産業については、Peru Libre党のCerron党首が政党理念で示すような、外国投資追放の提案は馬鹿げている。
  • 但し、特にリチウムをはじめとする鉱物資源については、資源ポテンシャルをより有効活用できるよう新たな探鉱や開発の方法を十分に検討したい。
  • 現行の経済モデルにより、鉱産物生産は大きく伸びたが、ペルーに対する納税額はまだ不十分であり、この点を改正したいと考えている。
  • 現在の鉱業権付与制度では、鉱山企業は非常に低額の鉱区維持量を支払い、探鉱や開発を行う権利を得ている。憲法は地下資源が国家に帰属することを定めているものの、現行制度は企業に対して、鉱物の取り扱いについて非常に大きな自由を与えている。
  • 銅の価格は、現在4.7US$/lbと半年前の約2倍に高騰している。ペルーにおける銅の生産コストはUS$1.0/lb。チリはUS$1.4/lbだが、超過利益税が(下院で)承認された。我々の提案は、この超過利益を教育や保健の改善に役立てたい。
  • 鉱業Canon税については、地方自治体による投資能力の欠如や汚職が問題となったことは確かであり、これらの問題解決に取り組まなければならない。
  • しかし、ペルーにおける保健・教育分野の公的支出が低いことは確かな事実であり、これらの質を高めるには予算が必要である。

おわりに

2021年5月31日、ペルー保健省によりCOVID-19に関連する死亡者数が大幅に上方修正されて184,507人(115,165人増)となり、死亡率が世界最大となった。この国内のパンデミックによる打撃及び海外との貿易の低迷により、ペルーの経済成長率(世銀予測)は前年比マイナス11.1%となった。

その一方で、銅価が10,000US$/tを突破し、5月10日には史上最高値を更新した。そういった背景から、ペルーの主要産業である鉱業をどう活かして、どのように経済の立て直しや貧富の格差の是正、都市と地方の分断の解消を進めるのかが、次期政権に突き付けられた課題であると考える。

新大統領の就任後は、新しい産業政策・地方振興政策が次々に発表されると思われる。引き続き、同国の鉱業を巡る政策動向に注意して参りたい。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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