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報告書&レポート

2021年7月6日 バンクーバー 事務所 佐藤佑美
21-10

Vale・Sudburyニッケル鉱山ストライキの動向

<バンクーバー事務所 佐藤佑美 報告>

はじめに

Valeが操業する加ON州Sudburyニッケル鉱山において2021年6月1日、労働組合によるストライキが発生し、同社は緊急時対応計画に基づき同鉱山及び製錬所の操業を停止した。

本件は、労働組合員による労働協約案の否決に端を発したものであり、当初は数週間内の合意形成が期待されていたところ、2021年6月14日にはValeが提示した労働協約案(2回目)を再び否決。同社に対する組合員の不満が高まっており、市場では徐々に不透明感が強くなっている。

Sudbury鉱山における2020年の生産量がVale全体に占める割合は、ニッケル約25%、銅約20%、コバルト約10%となっている。また、我が国はVale製品を含む粉末状金属ニッケルの約9割をカナダから輸入している。このため、Sudburyニッケル鉱山におけるストライキが早期に収束することが期待されるが、2021年6月28日時点において労使双方の協議に進展はみられていない。

本稿では、同年6月28日時点までの当該ストライキの概要及びその動向について紹介する。

1.従来の労働協約

従来Valeは、Sudburyニッケル鉱山・製錬所の鉄鋼労働組合(United Steelworkers、以下「USW」という。)第6500支部及びPort Colborne精錬所のUSW第6200支部との間で、5年毎に労使交渉を行ってきた。2020年は2015年に締結された労働協約の更改年に当たるが、新型コロナウイルスの感染拡大による経済不確実性を理由に内容は据え置かれ、組合員の62.8%による賛成の下、2020年6月1日付けで、2021年5月31日までを契約期限とする異例の年間労働協約が発効された(USW第6500支部と第6200支部との合同協約)。2015年当時締結された労働協約の主な内容は、以下のとおりである。

  • 基本給の引き上げ(初年度:1%、2、3年度:1¢/時、4年度:2.5¢/時、5年度:1.5¢/時)及びCOLA1の支給
  • 4,500US$のサイニングボーナス(契約一時金)
  • 眼科、医療、傷害保険の適用範囲拡大
  • 苦情処理手続きや永年勤続表彰、外注などに関する契約条文の見直し

2.労働協約更改案(1回目)の否決とストライキの発生

2021年5月31日に期限を迎える労働協約の更改に向けた本格的な交渉は、2021年3月に開始された。同月、地元の商工会議所を対象に行われたプレゼンテーションでは、Valeから従業員の声に積極的に耳を傾ける姿勢が示され、これを受けてUSW第6500支部は、Sudbury事業の拡張計画を歓迎するとともに、同社との前向きな交渉に期待する旨の声明文を発表している。しかしながら、USW第6500支部は2021年5月27日に「ストライキ・ペイ」の申請に関する通知を発しており、後述のとおり契約期日前日に暫定合意声明が発表され、慌ただしく投票が行われたという流れを踏まえると、この時点において少なからず組合員による反対が想定されており、ストライキの可能性があったことが示唆されている。

USW第6500支部及び第6200支部は2021年5月31日午前、Valeと暫定合意に至った旨を公表し、組合員に対して全会一致で賛成票を投じることを推奨すると通達。だが同日午後にかけて投票が行われた結果、USW第6200支部所属の組合員からは賛成を得られた一方、USW第6500支部所属の組合員は投票率87%で7割が反対票を投じたため、本案は否決された。2021年6月1日にはUSW第6500支部所属組合員によるピケッティングが開始されたことから、Valeは緊急時対応計画に則りSudburyニッケル鉱山・製錬所の操業を停止した。なお、同鉱山・製錬所のストライキは、2009年7月の発生から収束までに約1年を要した長期ストライキ(2011年6月16日付 カレント・トピックス2011年25号:長期化したVoisey’s Bay鉱山労働争議問題 参照)以来初となることから、多くの地元メディアが大々的に取り上げた。

労働協約更改案(1回目)の主な内容(一部抜粋、意訳)は、以下のとおりである。

  • 過去1年間の継続的な努力を表彰するものとして、2021年6月1日時点におけるすべての従業員を対象とした2,500US$の手当
  • 2021年6月1日時点におけるすべての従業員を対象とした3,500US$のサイニングボーナス(契約一時金)
  • 基本給の引き上げ(初年度、2年度:0.5%/時、3、4、5年度:1.0%/時)及びCOLAの支給
  • 確定給付型年金:
    • 2022年6月1日:勤続年数30年以上、65歳未満の退職者に対する最低給付額の50US$引き上げ(3,800US$/月)及び基本給付額の1US$引き上げ(62US$/年)
    • 2025年6月1日:勤続年数30年以上、65歳未満の退職者に対する最低給付額の50US$引き上げ(3,850US$/月)及び基本給付額の1US$引き上げ(63US$/年)
  • 確定拠出型年金:
    • 2022年1月1日以降、マッチング拠出とは別に加入者掛金拠出を可能とする(基本給の1~19%の範囲内)
    • 2021年6月1日以降、新規雇用者を対象に加入者掛金拠出への自動加入登録を行う(基本給の6%)
  • 健康保険:
    • 2021年9月1日以降、処方薬補償の適用範囲を以下のとおり変更する:
      • 必須のジェネリック医薬品を対象とする
      • 延命治療薬を除き、市販薬を対象外とする
      • 自己負担額を処方箋ごとに4US$とする
      • 調剤費用のVale負担上限額は、処方箋ごとに最大10US$までとする
    • 2021年6月1日以降の新規雇用者は、退職後、すべてのグループ保険の適用対象外とする
    • 2021年7月1日以降、眼科検診代をグループ保険の適用対象とする
    • 2021年6月1日以降、業務外の傷病手当を700US$/週に引き上げる

労働協約案(1回目)の主な焦点となったのは、新規雇用者を対象とした退職後のグループ保険の廃止であった。鉱山操業現場では粉塵などにより将来的な健康被害に晒されるリスクがあるほか、仮に福利厚生が複層化された場合には組合員間で不和が生じ、次回以降の労使交渉で不利になりかねない。また、足元ニッケルや銅価格が高値圏に上昇し期待が高まる中、小幅なベースアップや健康保険の縮小は、同社が十分な利益を従業員に還元しないものと捉えられ、新型コロナウイルスの感染拡大下で様々な規制やリスクに晒された従業員にとっては受け入れ難い内容であった。

3.労働協約更改案(2回目)の否決と交渉の継続

2021年6月1日以降、ValeとUSW第6500支部は双方ともに「協議中」として沈黙を保っていたところ、6月13日付けでValeから提示された労働協約案(2回目)が公開された。

労働協約更改案(2回目)の主な内容(1回目からの変更点(一部抜粋、意訳))は、以下のとおりである。

  • 過去1年間の継続的な努力を表彰するものとして、2021年6月1日時点におけるすべての従業員を対象とした2,500US$の手当を削除
  • 2021年6月1日以降の新規雇用者は、退職後、医療貯蓄口座を開設することができ、Valeによる1,000US$/年の拠出を受ける(55歳以上、勤続年数20年以上あるいは30年以上)

USW第6500支部は、新型コロナウイルスの感染拡大下において昇給なく務めた従業員にとって、2,500US$の手当の取り消しは不当だと批判。本案には従業員の懸念が全く反映されていないとして組合員に対して反対票を投じるよう通達し、投票の結果、2021年6月14日に労働協約案(2回目)は全会一致で再度否決された。Valeは、USW第6500支部による組合員への勧告に対して遺憾の意を表明し、依然としてピケッティングが継続していることから、Sudburyニッケル鉱山・製錬所の操業停止を継続している。

おわりに

2021年6月28日時点において双方の協議に進展はみられていないが、約10年前にストライキ長期化の主な要因となった代替労働者の雇用は行われていない。Valeは2021年6月17日に開催した従業員向けのミーティングの中で、既存のSudbury鉱山は鉱床の深部化や品位の低下などの問題に直面しており、開発コストが他の事業と比較しても高水準にあると述べ、現行の健康保険制度が企業コストを圧迫していることを訴えた。しかしながら従来、同事業はSudbury地域からの労働者が多数を占めているため、親世代が享受してきた福利厚生が自らの世代、あるいは将来世代で制限されることに対する反発は強く、新型コロナウイルスにより抑圧された不満と相まって、資源大手は厳しい立場に置かれている。一方で、同社はこれまで地元経済に大きく貢献してきており、約10年前の苦い経験を繰り返したくないと考えている従業員も少なくない。

2020年のSudbury鉱山の主な製品生産量2は、ニッケル43.2千t(2021年Q1:12.0千t)、銅76.5千t(同:19.4千t)、コバルト454t(同:96t)で、2018年に操業を終了した加MB州Thompson製錬所からの精鉱受け入れを加味した場合、同事業の製品生産量はVale全体のそれぞれ約25%、約20%、約10%を占めている。ニッケルに関して、我が国はVale製品を含む粉末状金属の約9割をカナダから輸入しており、数々の重要な用途に使用されている。現時点においてはストライキの長期化による影響は未知数であるが、早期の収束が期待される。


  1. Cost of Living Allowanceの略。消費者物価指数及びインフレ率を考慮し、基本給とは別に生活費手当として支払われる。
  2. “Vale’s Production and Sales in 4Q20 and 2020” & “Vale’s Production and Sales in 1Q21”, Vale

参考
USW LOCAL 6500, April 23, 2020
USW LOCAL 6500, March 26, 2021
USW LOCAL 6500, June 1, 2021
USW LOCAL 6500, June 13, 2021
ニュース・フラッシュ2021年6月3日付 加:Vale、労働組合との交渉決裂によりSudburyニッケル・銅鉱山、製錬所の操業を一時停止
ニュース・フラッシュ2021年6月17日付 加:Sudburyニッケル・銅鉱山ストライキ、労働組合はValeの提案を再度拒否

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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