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報告書&レポート

2021年9月8日 ヨハネスブルグ 事務所 原田武
21-13

責任ある鉱物サプライチェーンに係るOECDフォーラム2021参加報告

―OECDデューディリジェンス(DD)ガイダンスに係る最近の課題―

<ヨハネスブルグ事務所 原田武 報告>

はじめに

2021年4月26~28日に、OECDフォーラム「責任ある鉱物サプライチェーン」1がWebinar開催された。フォーラム及び前後日程で行われたサブイベントのパートナーセッションも併せ50近い数の関連セッションが行われた。OECDデューディリジェンス(DD)ガイダンスが策定されて10年という節目を迎えたこともあり、中核となったフォーラムのセッションでは、DDガイダンスの導入に係る課題を取り上げたものが多く見られた。

責任ある鉱物調達に関して、当初は、中央アフリカ地域からの3TG(タンタル、タングステン、錫、金)を対象としていたが、近年は、鉱種や地域などの範囲拡大の傾向が顕著である。また、サプライチェーンの上流のみならず下流においても、ステークホルダーからのDDの要請は強まる傾向にあり、益々DDガイダンスの重要性は増すものと考えられる。しかしながら、本フォーラムで議論されているように、長く責任ある鉱物調達の取り組みを行ってきた零細採掘や小規模採掘事業(ASM)由来の3TGであっても、未だ多くの課題が残されている。それらの状況を知ることは、今後のDDのトレンドを考察する上で役立つものと考える。OECDから発行されている資料等を参照しつつ、今回のフォーラムにて取り上げられたDDガイダンスに関連したトピックスを整理した。

1.DDガイダンスの導入状況とその効果の測定

数年前よりOECDでは、DDガイダンスの導入状況を図るべくデータ収集を進めている。基本的なデータは、各企業が公開する自己報告書から収集された。ここでは、世界72か国の企業503社(うち、下流企業305社、製錬・精錬企業&商社137社、上流企業61社)の報告を元に、3TG以外の鉱種についても広く対象にして、DDガイダンスの導入(Uptake)状況を調べている。

DDの実践的なツールは、DDガイダンスの付属書であるAnnex IとAnnex IIに整理されている。Annex IではDDの実施のための「5段階のフレームワーク」が規定され、Step1(企業内の管理システムの構築)、Step2(リスクの特定と評価)、Step3(リスクに対処するための戦略構築と実施)、Step4(サプライチェーン内での第三者監査の実施)、及びStep5(DDの年次報告開示)から構成されている。Annex IIでは、サプライチェーンに悪影響を与えるリスクを「深刻な人権侵害」、「非政府武装集団への支援」、「公的または民間の保安隊への違法な支援」、「贈収賄及び原産地詐称」、「マネーロンダリング」、「政府への税金、手数料、採掘権料の未払い」の6項目に整理している。図1では、Annex Iの各Stepへの取組み、及びAnnex IIリスクへの取組みについて、2014年の状況と2018年の状況を比較している。いずれも年を経て実施割合の増加が確認でき、サプライチェーンへのDDの浸透状況にある程度の進展があったと言える。但し、項目ごとに見た場合、Step1(企業内の管理システムの構築)の伸びは最も顕著であるものの、Step2~4のより具体的なDDの内容に踏み込んだ項目の割合は伸びたとはいえ1~2割にすぎず、実際にDDを実施しているのはまだ少数派と言える。OECDとしては、今後もDDガイダンスの導入、特にStep2以降の中身への取組みを増やす働きかけに力を入れる必要があると考えている。

図1.企業の自主報告レポートに見るDDガイダンスの導入状況

図1.企業の自主報告レポートに見るDDガイダンスの導入状況

出典:OECD Trends in Stakeholder Reporting

DDガイダンスの導入状況の調査が行われる一方で、サプライチェーンへの効果(アウトカム)を計る試みもOECDにより進められている。今回のフォーラムに併せて、OECDからは、DDガイダンスの効果を測定するためのロジックとして“Monitoring and Evaluation Framework(M&Eフレームワーク)”2が発表された。今後、調査のためのハンドブックが策定され、具体的なデータ収集が実施される予定である。

本フレームワークの大枠は、大きく下記の3段階のアウトカムに分類されている(図2)。

  • 直近のアウトカム(Immediate level):上流企業・下流企業のDDガイダンス導入(Uptake)の進捗
  • 中間のアウトカム(Intermediate level):マーケットにおける責任ある取引の状況
  • 最終的なアウトカム(Ultimate Outcome):生産現場への影響(Annex IIの影響)と地元社会経済への影響

本フレームワークでは、毎年の経年変化を見るモニタリングと3~5年周期で行う評価の2つを組み合わせて行う。モニタリングでは、Ultimate Outcomeのインシデント件数などに絞りデータの収集を行う。評価では、各アウトカムに設定された指標に基づき、1次データ(企業や業界団体が取組むDDプログラムのデータ)及び2次データ(既存のデータやレポートのメタ分析)を分析することでDDの効果を推察する。また、発表された資料の中には、各チェックポイントにおける指標とデータソースの例が整理されている。

図2.M&Eフレームワークの概略図

図2.M&Eフレームワークの概略図

出典:Monitoring and Evaluation Framework, OECD 2021

2.サプライチェーンに悪影響を及ぼすAnnex IIリスク

OECDでは、DDガイダンスのAnnex IIリスク(深刻な人権侵害、非政府武装集団への支援、公的又は民間の保安隊への支援、増収賄・資金洗浄・脱税などの金融犯罪)に関連したレポート(報道、市民団体の情報、企業の報告など)を収集・整理したデータベース3の公開を開始した。本データベースにおいては、Web上から収集したレポートを、具体性のないものや内容的な重複等を除外した上で、鉱種(39鉱種)や関連国などのタグ付けにより仕分けしている。対象としたレポートは、2017年1月1日から2019年12月31日の間に発行されたもので、6か国語、1,233件に及び、各企業がDDを進める上でのリスク分析や優先順位付けへの活用が期待されている。

レポートの数を鉱種別で見ると3TG、コバルト及び貴石類に関するものが多く(図3)、また、合計1,233件のうち929件はDRコンゴに言及したものである。こうした鉱種及び国への話題の集中は従前からのことであり、容易に予想可能であるが、他方で、銅のようなベースメタルについての言及も多い。銅は、DRコンゴでのコバルト生産に随伴するために件数が多いと予想されるが、それ以外にも、南米での銅採掘コミュニティの抗議に対する治安部隊による虐待が頻繁に報告されていることも注目を集めている。

レポート全体の7割はメディア報道に由来するものであり、報道の過熱化により注目事案に関するレポート数の大幅な伸びが推測される。一方で、年次DD報告といった業界や企業からの報告に由来する情報はわずか3%程度であり、企業によるリスク特定の可視化の不足や詳細情報の欠如を反映していると思われる。

Annex IIリスクの重要度のレベルとレポート数は比例するとは考えられておらず、むしろ、レポート数が少数であっても、まとまった事案が報告されている鉱種や国には、Annex IIリスクが潜在するとして、DDの上で注目していくべきとしている。また、個々のレポートを読み進めていくと、表面化している問題の背景にAnnex IIに関連した事案が多く見られる。先住民の権利侵害に係るレポートの背景には人権侵害の問題が、環境問題に関連しては汚職問題が確認されるなどの事例である。こうした点からも、DDの対象とするテーマは、Annex IIリスクの範囲を越えて広がっていく可能性があるとして、パネラーの一人であるOECD Legal Expert のRashad Abelson氏は述べた。

図3.鉱種別レポート数(上位20位)

図3.鉱種別レポート数(上位20位)

出典:OECD Trends in Stakeholder ReportingのFigure 3.26, 3.27のデータを参照してJOGMEC作成

図4.Annex IIリスク別レポート数

図4.Annex IIリスク別レポート数

出典:OECD Trends in Stakeholder ReportingのFigure 2.1のデータを参照してJOGMEC作成

近年、DDの要請が、DDガイダンスにあるAnnex IIリスクだけでなく、環境や先住民問題、労働安全衛生などのリスクにまで広がりつつある。顧客からの要請に限らず、EUでは規制等に盛り込むことも検討されている。2020年12月10日に案文が提示されEUにて審議中の「バッテリー及び廃バッテリーに係るEU規則」(案)4においては、コバルト、天然グラファイト、リチウム、ニッケル及びそれらの化合物が対象とされており、条文にはDDの義務化が規定されている。DDの調査項目としては社会・環境リスクが含まれ、空気、水、土壌、生物多様性、健康、労働安全衛生、労働者の権利(児童労働を含む)、人権、コミュニティの生活といった項目が付属書(Annex X)の中に盛り込まれている。

また、ドイツでは、DDの法制化が検討されており、パネラーの一人でありドイツBGRのGudrun Franken氏からは、現在、ドイツ環境庁及びOECDと共同で環境DDツール「鉱物サプライチェーンにおける環境DDに関する実践的ツール」5を開発中である旨の説明がなされた。当該ツールは企業による環境DDを支援・促進することを目的とし、2022年までの参加型マルチステークホルダーによるドラフトの検討が開始された段階である。従前のOECDのDDガイダンスにて定められる5段階のフレームワークを踏襲し、特に鉱物採掘・処理・製錬に焦点を当て、環境リスクにどのように対応したらよいか、ベストプラクティスになる例を提供する。

ただ、環境リスクは、紛争地域や高リスク地域といった明らかに地理的に限定される性質のリスクではなく、使用する技術や現地の状況に応じて、各プロジェクト特有の事由によることが多い。そのため、リスクの範囲を紛争関連から環境問題に広げることで、他の商品や地域もDDの対象となる可能性がある。

Gudrun氏は、「環境DDを実施する上で、DDの強化を必要とする重大な環境状況(レッドフラッグ)をどのように特定するかが鍵になる」と述べる。概して、環境リスクの具体的な課題として、水資源の管理、温室効果ガスの排出、エネルギー消費、生物多様性などが挙げられる。「しかし、取引関係を断つべきとするレッドフラッグと、改善のためにより多くの関与を必要とする状況についての線引き、また生物多様性や水資源の保護などの環境問題についてのレッドラインは明確ではないと感じている」と述べた。

また同氏は、「範囲を広げて考慮すべき問題が増えれば、リスク評価は複雑になる。そのため、企業はサプライチェーンのリスク評価を外部のサポートに頼ることが多くなる。現状では、リスク評価の方法に透明性が欠如し、外部ステークホルダーが検証できないケースが見受けられる。結果、レヴューや評価の困難性が増すことになる。今回の検討では、手法や評価の透明性を高められるようにDDのアプローチを改善し、全ステークホルダーが利用できる手法を開発することを目指している」と語った。

3.リスク回避(De-risking)からリスク軽減(Risk mitigation)への転換

本セッションのOECD事務局によると、リスク回避(De-risking)とは、経済活動を行う者が、その活動に対するリスクを排除または軽減することを目的として、ある地域や活動から撤退することである。上流で言えばCAHRAsでの操業からの撤退であり、下流であれば、CAHRAs由来の素材を排除する動きと言える。

OECD DDガイダンスの根幹には、CAHRAsにおける鉱業を支援し、これらの地域の経済発展と生活を支えることであった。OECDのスタンスとしては、CAHRAsや零細採掘といったリスクのある供給先を単純に回避するDe-riskingよりも、リスクに関与し続け、より建設的な対応を取ることでのリスク軽減(Risk mitigation)を推奨している。

顧客や投資家からは製品において、児童労働や武力紛争といったあらゆる種類の問題がないことの確認が期待されるなか、企業としては問題のあるものから関わりを絶ち、完全に問題を回避する方向に動機付けされてしまう。しかし、OECDとしては、長きに渡る多くの取組みの結果、サプライチェーンにおけるリスク回避を続けることは困難であるという認識がかなり浸透してきたと考えている。

上流の業界団体ICMM(大規模鉱山を会員とする業界団体)のSarah Bell氏は、より多くの鉱物や金属を必要としている今、De-riskingは現実的ではなく、持続可能でもないと考えている。2020年には、同団体の会員資格要件である「ICMMの鉱業原則」6がESGの内容を強化する形で更新されており、会員企業の生産物が責任を持って生産されていることを、顧客やその他のステークホルダーに保証している。同団体会員のGlencoreやMMG社は、DRコンゴの困難な環境下でも活動し続けており、以前より地元雇用や資機材などの調達への貢献は大きい。最近では、ASMを大規模鉱山事業(LSM)と如何に持続的に共存させるかに焦点を当てた取組みもなされている。一例として、GlencoreはASMのフォーマル化を支援するFair Cobalt Alliance7に参画している。鉱山会社の持続的な操業には、投資家や顧客、パートナーシップの理解が不可欠であり、責任を持って供給するだけでなく、持続可能な社会環境を創造するための取組みが積極的になされていると同氏は語った。

インターネットテクノロジーの会社CISCO社のMaria Gorsuch-Kennedy氏は、同社はCAHRAs地域からの責任ある調達に積極的に取り組む下流企業の一つであり、責任ある鉱物調達に積極的な社内ポリシー8を持つことで、鉱物の供給路が拡大可能であると考えている。また、サプライチェーンにおいて、下流からは見えない部分を補間することが重要と認識している。業界団体、政府、市民社会などのステークホルダーとの連携を進め、責任ある調達を促進するプログラムにも参加している。そのような背景を活用し、同社の戦略的な技術であるブロックチェーン技術の鉱物トレーサビリティへの応用にも力を入れている。

4.鉱物サプライチェーンにおける汚職リスク

鉱物サプライチェーンDDの枠組みの中で、Annex IIリスクの一つである汚職や腐敗のリスクに如何に対処すべきか。これまでは、こうしたリスクは他のリスクの陰に隠れて見過ごされ、軽視されがちであった。最近になって、汚職は他のリスク(人権侵害、環境破壊、麻薬取引やマネーロンダリング等)と密接に関連しているという認識が高まり、今回のセッションのパネラーからも実例がいくつか紹介された。

汚職リスクに対しても、基本はOECDのDDガイダンスにて定められる5段階に沿ったリスクベースのアプローチになるが、汚職リスク特有の見方もある。既存の概念をわかりやすくQ&A形式(「汚職リスクが最も高いのは、どのような状況か?」など14の質問)で整理したガイドライン9が、OECDから発行されている。

パネラーの一人でNPO法人Resource Matters のElisabeth Caesents氏は、企業が抱える汚職リスクについて、採掘プロセスのどの段階で、どのようなリスクを探る必要があるのかを具体的に説明した(表1)。特に、プロジェクトの初期段階における鉱業権等の取得や、各種許認可取得などにおける国及び国有企業等との取引に不透明性がある場合、汚職リスクが高い。サプライチェーンをマッピングした上で、脆弱性を持つ国に由来するものか、サプライヤーや国有企業との関係はどうか、といった観点が、リスクベースのDDを行う上で重要である。

同氏によると、依然として本分野は報告の仕方にも課題が多い。既に訴訟や調査を行っている事案についての報告はされているが、予防や防止プログラムという観点での報告や情報開示については、各企業の取組みはあるものの具体的な進捗は遅れている。

表1.上流における汚職・腐敗に脆弱な環境
投資契約やライセンス取得 ・採掘権・探鉱権等の許認可について政治家が関与する場合
・鉱区入札や鉱区割当プロセスにおいて裁量がある場合
・情報(埋蔵量の評価など)の不一致、当局の法的・技術的能力の欠如が見られる場合
・コンソーシアムのパートナーの経験不足が見られる場合
・権利権益の所有が不透明な場合
・国有企業等の関与を強制するローカルコンテンツ要件がある場合
周辺コミュニティの同意や補償 ・自由意志に基づく事前の同意(FPIC)、環境・社会影響評価(ESIA)、住民移転の承認において、環境・社会影響の過小評価や経済利益の過大評価がある場合
・コミュニティの不透明な意思決定システム、限られた人たちによる協議やコミュニティのアクセスが難しい情報がある場合
採掘、生産、流通 ・脆弱な法規制:法律や規制の不備や偏った実施
・国有企業やその子会社との取引:不透明な組織を通した販売契約への優先的アクセス、利益相反のある役人を介した取引
・民間又は公的な治安部隊によって違法な採掘や取引を強要された経緯がある場合
・あまり実績を持たないサプライヤーとの不透明な契約や取引
・DD認証や輸送・輸出承認、鉱物評価に関する不正や汚職の履歴や評判がある場合
税金、課徴金、ロイヤルティ、その他の支払い ・裁量性のある税金や納付金、特に国有企業の関与、非公開な契約
・政府の能力不足や非効率性に起因する政府費用の発生
・サプライチェーンに関わる主要企業の所有権やガバナンスの不透明性
・寄付、慈善事業、社会開発基金、伝統的権力者への支払いに関する不明確なルールや弱いガバナンス

出典:OECD FAQ 2021のTable.1を翻訳しJOGMEC作成

5.現場におけるDDコストとその価値

3TGの上流企業(特にASM)にとって、DDコストは、操業上の大きな負担になる。一方で鉱石販売価格への転嫁が難しい現状がある。そのような背景から、DDの負担は上流企業にしわ寄せされているのではないか、あるいは下流企業はDDの価値を享受するだけではないのか、という問題意識がステークホルダーの間で持たれ、従前から専門家の間でも議論がなされてきた。今回、OECDは本テーマに係るポジションペーパー10を作成し、本議論の状況をまとめている。本OECDフォーラムでも、同ペーパーの筆者の一人であるOECD Legal Expert のRashad Abelson氏から概要のプレゼンがなされた。

鉱山現場のDDコストとしては、監査や認証プログラムに係るコスト、是正措置を実施するコスト、DD記録管理のためのシステム構築のコスト、リスク軽減のためのアクション・トレーニング等のコストが想定される。CAHRAsから市場にアクセスするには、このDD活動に高額な負担が必要とされている。しかし、3TGの市場力学が買手市場になっている現状において、ASMがそのコストを鉱石販売価格に転嫁することが難しい。また、下流の中には、CAHRAsからの原材料を避けるDe-riskingの考え方(前章参照)や低リスク地域産鉱物へのプレミアムなどの優遇、DDのない鉱物であっても低価で受け入れてしまう市場の実態もあり、きちんとDDを行ったASMの原材料の価値が損なわれる状況もある。ASMにとっては、DDを実施する価値は、専ら「市場へのアクセス」のみであり、鉱石自体の価値を上げるものではないと認識されてしまう。実際のDDの価値を享受するのは下流ばかり、という発想はこのような実情が背景にある。

既に、こうした現場のDDコスト問題を解消する取組みはいくつかなされており、今後、本問題の解消のヒントになることが期待されている。本セッションの中でも、以下のコストシェアモデルやコスト削減を支援する取組みが類型化され、紹介された。

  • モデル1(iTSCiプログラム):上流業界団体による上流DDへの貢献。3Tの製錬所・精錬所を含む下流企業が活用できるDD情報を収集・処理するプログラム。資金は賦課金と業界団体(iTSCi)の会費によって賄われる。賦課金は販売される鉱石の金属量や輸出量から算定し、主に輸出業者から徴収される。
  • モデル2(Just Goldプログラム):DDの取組みにインセンティブを与え、ASMの金市場へのアクセスを促進する。国際NGO IMPACTが開発したプログラムであり、ASMと同者由来の金に関心を持つ下流のバイヤーを結び付ける。DDシステム実施のために、鉱山労働者及び上流関係者に技術支援及び能力構築を提供し、その後、金市場価格(LBMA)に基づく購入価格の合意を形成する。当初の資金は政府及び民間の寄付金によって賄われ、プロジェクトが拡充すれば、金の販売で賄われる。
  • モデル3(RMIの製錬/精錬所監査への補助金):下流企業を中心に構成されるRMI、その会員の会費及び任意拠出金を基に、製錬所/精錬所の最初のDD監査費等を補填する。
  • モデル4(Fairmined Premiumプログラム):金のASMに対して、Annex IIリスクのみならず、環境や労働安全衛生に配慮した高い水準の生産を奨励する。独自の認証を取得したASMに対し、金市場価格に4,000US$/kgのプレミアムを支払うことで、ASMのDD実施を下流企業が支援する。

いずれもコスト問題に対する完璧な解決策ではなく、鉱種や地域において限定的な解決策であり、拡張させるには課題が多くある。パネルディスカッションの中では、それ以外にも、コスト負担を軽減するための種々の提案が出された。上流DDの費用を負担するため、すべての金属の消費者が、少額を負担する世界的な基金設立の検討などが挙げられた。また、DDのデータに対して利用者が課金するという考え方もある。近年、ブロックチェーン技術を活用したトレーサビリティの導入が研究されているが、サプライチェーンにおけるDDコストを平準化するという点が、この考え方に繋がる。持続可能性に関連した債券やローンなどの金融商品の開発といったアイディアも提案された。

パネルディスカッションにおいては、下流企業からHewlett Packard(HP)社が参加し、同社のDDの取り組み状況が紹介された。サプライチェーンのマッピングや透明性確保のためのDDコストのみならず、外部コンサルタントによるサプライチェーンリスクの技術的調査も行っている。上流DDの情報には大きな価値を認めており、業界団体による上流DD支援やコミュニティ支援のためのファンドにも同社は拠出している。HP社にとって責任ある鉱物資源調達は、最も顕著な人権リスクの一つと認識しているが、DD自体の直接的な価値やサプライチェーン内の人々に与える影響を理解し、伝えていくことは難しいと感じている。また、DDを行うことで、風評リスクの回避、市場へのアクセスや適正な価格を保証することができているとも考えている。

今回公表されたOECDポジションペーパーでは、その表れ方は多様な形があるものの、DDの価値はサプライチェーン全体のものであり、下流企業及び政府によるこれまで以上の財政支援を行う必要性があるというスタンスが示された。DDのみならず、高リスク地域におけるビジネスコスト削減のためには、鉱物生産国のセキュリティ、金融、インフラ、ロジスティクスへの投資が必要である。不正な材料や適切なDDがなされていない原料の取引に対抗するという点では、政府の取組みだけでなく、業界団体の自主規制も必要であるとしている。

6.業界団体におけるDD基準の同等性評価

ステークホルダーのESGへの関心がより高まる中で、大規模鉱山会社をメンバーとする各業界団体において、ESGを含むDD基準やベンチマークなどの自己評価ツールが開発され、導入されてきた。しかし、各々の業界の注目するテーマや背景によって内容に差異が見られ、消費者や投資家などの下流サイドから見ると、類似した基準が乱立し、その微妙なニュアンスの違いまでを理解して、ステークホルダーが評価に活用することは大変困難な状況になっている。監査を受ける上流の鉱山会社にとっても、何度も同じような監査を受けることは非効率となる。最近では、業界団体間でも、本問題意識を共有し、基準の同等性の評価や相互認証の可能性を検討し、生産者の自己評価ツールとしてのベンチマークの整理が積極的に行われるようになってきた。

今回のフォーラムのサイドイベントとして、ICMMと下流企業からなる業界団体RMIがセッションを主催し、金生産者の業界団体WGCもパネラーとして参加した。いずれの業界団体も独自に自己評価の基準を持つ。同様にESG項目に対応する業界団体のDD基準としては、アルミの業界のAluminium Stewardship Initiative(ASI)、カナダ鉱業協会Mining Association of Canada(MAC)が発行するものもある(表2)。近年、これらの業界団体にてコミュニケーションを取りつつ、同等性評価の合意がなされ、その結果が公表されるようになってきている。

表2.国際的な業界団体が持つ金属鉱物生産現場のESGを含む自己評価基準の例
組織名 自己評価基準 概要
Responsible Minerals Initiative(RMI) Risk Readiness Assesment (RRA)11 2017年7月発行。50以上ある国際標準やガイドラインの持続可能性基準を32項目に整理、21鉱種を対象。銅産業業界のCopper-MarkとCriteria Guideを発行して解釈を共有。
RMAP ESG Standard12 2021年6月発行。RMAPの第三者監査に活用。RRA(上記)及び親組織RBAのValidated Assessment Process、19の国際的なESG基準との一致。ISO14001, ISO45001にも準拠。
International Council on Mining & Metals(ICMM) Mining Principles 2003年に持続可能な開発のための10項目を策定。2018年にPerformance Expectationsとして38項目を策定。2020年の更新にてESGリスクを強化。50か国650以上のアセットが対応。
World Gold Council(WGC) Responsible Gold Mining Principles (RGMPs)13 2019年9月発行。金鉱山セクターを対象とした10項目51の指標からなる。
Aluminium Stewardship Initiative(ASI) ASI Performance Standard14 2014年12月発行。アルミニウムのバリューチェーンを対象とした59の指標からなる。
Mining Association of Canada(MAC) Towards Sustainable Mining(TSM)15 操業現場レベルのパフォーマンス評価のため、8項目30の指標からなる。

出典:各団体のHPからの情報を使用してJOGMEC作成

操業現場を持つ鉱山会社や製錬会社にとっても、基準ごとの監査や保証の重複は負担となる。部分的にも、重複の同等性が評価され、監査や保証の効率化の進展が望まれている。パネラーであった金生産者Newmont社の担当者Claire Larner氏は、業界団体間で行われている同等性評価によって要件の解釈が明確になり、非常に役に立っていると評価している。同社では、近年、複数の基準(ICMM Mining Principles, WGC CFG, WGC RGMPs, MAC TSM, Global Industry Standard on Tailings Management)を一つのプログラムで評価して、監査していくCombined Voluntary Commitment Assessment(CVCA)プログラムというツールを開発して、実装している旨が紹介された。

下流からは、Ford Motor社の担当者Alessandra R. Carreon氏もパネラーに参加した。同社の「責任を持って生産された材料のみを調達するという企業理念」に基づき、高い水準の検証・保証プログラム(特に3TG、コバルト、マイカについて)をサプライヤーに求めている16。同氏は、「サプライチェーンの最上流での責任ある調達の確保は、そこに至るまでの独立した第三者機関による検証・保証プログラムに大きく依存している。サプライチェーンの様々な階層で異なるプログラムが働いているのが現状であるが、個々のスキームや競合するスキームの標準化・効率化を推奨し、業界にも働きかけている。ただ、同等性を得ることで、その有効性が犠牲にならないようにも留意しなければならない。」と述べた。

また、同氏は、「2021年2月にはIRMA(Initiative for Responsible Mining Assurance)17との間でメンバーシップを締結した。同団体は、産業規模の鉱山サイトの客観的かつ独立した第三者検証を提供しており、その活用はFord社における保証プログラムの充実を図る上でも役立つと考えている。同団体の監査は、統合され、効率化された監査アプローチを追求しており、複数のプログラムの要求を1つの監査で対応する。厳格な基準かつ効率化された統合監査はプロセス疲労を回避するために重要と認識している。」と語った。

おわりに

今般のフォーラムには、政府や国際機関、下流・上流の企業、市民社会団体、銀行・投資家、コンサルタント等、様々な関係者がパネルディスカッションに参加していた。基本的にはDDの取り組みを推奨する人たちによる議論がなされていた。DDを推進する上で、De-riskingの考え方やASMのDDコストの問題などが議論されていたが、その背景には、DDを行う上で、インセンティブやその価値をどのように見るかという、そもそもの疑問がある。エンドユーザーに近づき、鉱物のソースである上流から離れるほど、DDに見る価値は変わってくる。大きくは上流と下流においても、その認識にはギャップがあるという。これらの議論を聞く中で、DDの効果やその価値をサプライチェーン全体で共有することの難しさを実感した。

一方で、ESGへの関心が高まる中で、ASMのみならず、LSMにおいても、DDへの取り組みは進む。また、EUに見るような規制面での協議も進展している。エネルギートランジッションに伴う金属の需要増が予想される中、益々、サプライチェーンの透明性が問われる機会が多くなる。そのような状況下、DDの取組みを強化していくという意思がフォーラム参加者の間で共有されており、そのためにもサプライチェーンの各アクターがDDの効果やその価値に関する考察をより深化させていくことが期待されている。

(参考文献)


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おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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