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報告書&レポート

2019年9月5日 金属企画部 調査課 畝井杏菜
19_08_vol.49

2018年の亜鉛需給動向

<金属企画部調査課 畝井杏菜 報告>

はじめに

2016年以降、大規模鉱山の閉山や亜鉛鉱山会社の減産により、亜鉛の鉱石供給は大きく減少し、さらに中国でも環境規制の影響で同国鉱山及び製錬所で操業を停止する企業が出たことにより、2019年半ばの現在まで亜鉛は供給不足の状態が続いている。また亜鉛鉱石減産と時を同じくして、中国は環境保護法を一新し、環境規制を強化した。この影響で同国鉱石生産も減少し、需給逼迫感が拡大した。

こうした亜鉛供給不足を背景に、2016年から2018年にかけて亜鉛価格は急激に上昇し、2018年1月には3,609.5US$/tの高値をつけた。亜鉛価格の急騰により、2016~2017年に大小の亜鉛鉱山プロジェクトが進展し、2018年は複数の亜鉛鉱山が新規開山あるいは生産再開を迎えた。

本稿では、2018年の亜鉛市場について、世界の供給及び需要の動向を確認し、市場全体の先行きを見通しながら、中国の動きについて需給動向への影響を把握するため、各状況をまとめた。2017年以前については、過去の金属資源レポート(18_03_vol.48「世界の亜鉛需給動向」、1707-02-vol.47「世界の亜鉛需給動向」)を参照いただきたい。

1.2018年の亜鉛市場動向

(1)世界の亜鉛需給バランス

2000年代からの動向を振り返ると、中国経済が目覚しく成長したことにより、亜鉛を含む世界の非鉄需要は急速に拡大した。特に亜鉛については、中国が世界最大の亜鉛生産国でもあったため、同国の増産及び需要拡大が世界市場に影響し、大きく亜鉛供給を伸ばした。図1に示すとおり、世界の亜鉛需給は2000年から2015年にかけて1.5倍に拡大した。しかし、2015年以降の世界亜鉛需給は横ばい、もしくは減少傾向を辿った。

2016年以降の鉱石生産が大きく減少した背景は、2015年に鉱量枯渇を理由に豪州・Century鉱山やアイルランド・Lisheen鉱山などの年産100千tを超える大規模鉱山が閉山したこと、また資源価格安が続き、亜鉛価格も一時1,500US$/tを下回る安値へ下落したことにより操業停止に至る中小規模の亜鉛鉱山が複数出たことによる。2016年には亜鉛生産最大手のGlencoreも年間500千t近くを減産した。世界的な亜鉛鉱石減産を受け、2016年には中国の亜鉛鉱山は増産に転じ、また亜鉛在庫の使用が増えたことで一部不足を補えたことから、同年の亜鉛需給バランスは128千tの供給不足に留まった。しかし、2017年には中国で環境規制が進んだ影響により複数の鉱山や製錬所が操業停止し、在庫も大きく減少したことから需給バランスは急激に悪化し、461千tの供給不足へと拡大した。

図1.世界の亜鉛鉱石生産・地金生産・地金消費推移(2000~2018年)

図1.世界の亜鉛鉱石生産・地金生産・地金消費推移(2000~2018年)

(出典:ILZSGよりJOGMEC作成)

図2.亜鉛需給バランス

図2.亜鉛需給バランス

(出典:ILZSGよりJOGMEC作成)

2018年は豪州・Dugald River鉱山(生産能力170千t/年)や南ア・Gamsberg鉱山(生産能力250千t/年)などの新規大型鉱山プロジェクトや豪州・Century鉱山の尾鉱から亜鉛を回収するプロジェクト(生産能力264千t/年)が開始したほか、亜鉛価格上昇を背景に進展した複数の中小プロジェクトが生産開始を迎え、年産能力1,000千tほどが追加された。ただし、通常鉱山の稼動開始からフル生産までの立ち上がりには1~2年を要することが多く、中国では2018年も環境監査で複数鉱山で操業停止が続き減産したことから、亜鉛鉱石不足は継続した。国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)の最新の発表によると、2018年の亜鉛鉱石生産は12,743千t(対前年比1.7%増)とわずかに増加したものの、鉱石不足が亜鉛地金生産に影響し、亜鉛地金生産は13,169千t(対前年比0.4%減)と生産が滞った。

2018年の亜鉛消費については、前年と横ばいだった。図3に示すように、過去10年以上に亘り急速に拡大してきた中国需要は、2015年以降は年間6,500千t前後で緩やかに減退しており、中国以外の世界の亜鉛需要も年間7,100千t前後で推移しているため、世界全体の需要としては弱含んで推移している。2018年については、米中貿易摩擦の影響により、中国(対前年比1.3%減)及び台湾(対前年比2.9%減)で需要が縮小し、一方米国(対前年比3.5%増)で需要が伸びた。その他、ベルギー(対前年比5.6%増)やポーランド(対前年比13.2%増)でも需要増、トルコ(対前年比7.1%減)などで需要減となり、世界の亜鉛地金消費量は13,678千t(対前年比0.04%減)となった。

図3.世界の亜鉛地金消費推移(2009~2018年)

図3.世界の亜鉛地金消費推移(2009~2018年)

(出典:ILZSGよりJOGMEC作成)

(2)LME亜鉛価格

こうした亜鉛の供給不足を受け、亜鉛価格は急騰した。2016年以降継続して右肩上がりの状態が続き、亜鉛のLME価格は2015年の年間平均が1,933US$/tであったところ、2016年は2,095US$/t、2017年は2,896US$/tと上昇した(図4)。

2018年のLME亜鉛価格は、3,377US$/tの高値でスタートし、LME在庫の減少と需給タイト感を好材料に上昇傾向を辿った。2018年2月16日には3,618US$/tの高値をつけた。その後は、中国経済成長の鈍化や米国利上げ観測によるドル高を嫌気して下落傾向に転じた。さらに2018年3月には米国が中国からのアルミニウム輸入制限を行うなど米中貿易摩擦の動きが見られ始め、2018年6月には米国が50bUS$相当の中国製品に追加関税25%を課す旨を発表。これに対し中国も報復関税を発表、更に米国が200bUS$相当の中国製品に10%の追加関税を課すことを検討することを明らかにし、中国も対抗措置の警告をした。これにより、米中貿易摩擦の激化、及び非鉄製品に対する追加関税の影響や需要の先行き懸念が拡大した。また2018年は価格の上昇を受けて亜鉛生産プロジェクトの開始が複数相次いだことにより、亜鉛鉱石の供給不足懸念も緩和したため、亜鉛価格は下落基調に転換し、それまでの記録的高値への反動もあり、2018年9月17日には2,287US$/tへ値を下げた。その後、2018年末には2,500US$/t水準で推移し、2,510.5US$/tで取引を終えた。

図4.亜鉛価格推移(2016年1月~2018年12月)

図4.亜鉛価格推移(2016年1月~2018年12月)

(出典:LMEよりJOGMEC作成)

2.中国亜鉛市場の動向

中国は、亜鉛鉱石生産・地金生産・地金消費において、いずれも世界の約4割を占めており、亜鉛市場において重要な国のひとつである(図5)。2000年頃は、中国の亜鉛生産及び需要は世界市場の20%強を占めていた。その後、同国経済成長とともに世界の亜鉛市場における中国の存在感は急速に大きくなり、2016年には世界生産の40%を占め、需要は50%近い割合を占めた(図6)。しかし、その後は環境規制の影響による一部鉱山・製錬所で操業停止となったことや中国経済減退で需要も停滞し、中国の亜鉛市場に占める生産・消費のシェアは減少に転じた。

図5.亜鉛の世界生産量及び消費量の国別シェア(2018年)

図5.亜鉛の世界生産量及び消費量の国別シェア(2018年)

(出典:ILZSG)

図6.世界の亜鉛鉱石生産・地金生産・地金消費推移(2004~2018年)

図6.世界の亜鉛鉱石生産・地金生産・地金消費推移(2004~2018年)

(出典:S&P Global Market IntelligenceよりJOGMEC作成)

2018年は、亜鉛価格の高騰を支援材料に中国以外の世界市場における鉱山生産は順調に増加し、亜鉛需要も増加した。しかし、中国においては2018年も亜鉛生産及び需要は伸び悩んだ。亜鉛価格の上昇にもかかわらず、中国需給が好転しない理由は大きく二つある。ひとつは、中国政府の進める「New Normal」政策、もうひとつは環境規制の強化である。

(1)中国の経済動向

かつて、中国政府は高いGDP成長率を維持するため、景気刺激策としてインフラ投資を積極的に進めてきたところ、2014年に習近平国家主席が、中国は「新常態(New Normal)」に入りつつあると述べ、低成長を志向するようになった。その結果、政府主導のインフラ投資型景気刺激策が減少し、また政府が経済引き締め策として不動産に対する規制を強めた結果、不動産投資も縮小し、非鉄需要拡大ペースは緩やかとなった。図7に示すとおり、中国における亜鉛需要は、製造業に30%、建設・不動産に22%、インフラに22%と、3つの事業分野で全体の3/4を占めている。図8に各分野の投資額伸び率の推移を示すが、固定資産投資額全体としては年々減退傾向にあり、2014年末には15%あったところ、2018年には5%程度まで減退した。分野別に見ると、インフラ関連投資が2017年以降大きく減少しており、大きく亜鉛需要に響いた。その他、新規建設投資も2016~2018年にかけて鈍化傾向を辿り、製造業関連投資については、2017年までは低調であったところ2018年は金属製品関連や電気機械関連分野が好調で3年ぶりの水準に回復した。中国は、次世代情報技術や新エネルギー車など10の重点分野と23の品目について製造業の高度化を目指すという「中国製造2025」を掲げており、米中貿易摩擦による輸出製品を主とした不景気感にも拘らず、国内製品向け需要の高まりを背景に製造業固定資産投資が伸びた。しかし、2019年に入ると不況の影響により再び低迷するようになった。

図7.中国における亜鉛用途

図7.中国における亜鉛用途

(出典:安泰科)

図8.中国の固定資産投資額および各関連投資額に係わる伸び率の推移(対前年同期比)

図8.中国の固定資産投資額および各関連投資額に係わる伸び率の推移(対前年同期比)

(出典:CEICよりJOGMEC作成)

上記理由のほか、図9のとおり2018年の中国自動車新車販売台数は2,808万台(対前年比▲2.8%)と28年ぶりに前年割れした。景気悪化に加え、小型車減税措置の完全終了によって販売が低迷したと思われ、自動車ボディやパーツのめっきに使用される亜鉛においても需要に影響があったものと思われる。また図10のとおり、消費財小売売上高も年々減退していることがわかる。2019年第1四半期には対前年比7.2%まで落ち込んだ。

図11に中国製造業PMI(Purchasing Managers’ Index)を示す。PMIの数値が50を上回ると景気改善、50を下回ると景気悪化と判断されるが、2017年は数値51~52で緩やかな景気改善傾向を辿っていたところ2018年半ば以降、数値は下落傾向に転じ、2018年末頃より概ね50を下回る結果が続いている。政府のNew Normal政策により、市場が緩やかな成長ペースへとトーンダウンしていることに加え、2018年は米中貿易摩擦の影響により輸出向け製品を中心に需要が冷えこんだ影響が及んだ可能性もある。新規輸出向け製造業PMIは、全体の数値を大きく下回って推移している。

図9.中国月別新車販売台数推移(台)

図9.中国月別新車販売台数推移(台)

(出典:CEICよりJOGMEC作成)

図10.中国消費財小売売上高(対前年比)

図10.中国消費財小売売上高(対前年比)

(出典:CEICよりJOGMEC作成)

2019年上半期もその動きは継続している。2019年3月、中国・全国人民代表大会で景気刺激策(インフラ投資の拡大、地方特別債発行、減税など)の計画が発表されたことから、建設・インフラ分野での需要増加が期待されていたものの、図8のとおり2019年上半期の固定資産投資は対前年比4~6%成長に留まっている。特に民間による固定資産投資が弱まっており、米中貿易摩擦に起因する先行き不透明感の高まりが、消費や設備投資へ影響しているものと思われる。中国製造業PMIも景気判断の基準となる50を下回る数字が続き(図11)、また中国自動車販売も2019年上半期は1,230万台(前年同期比12.4%減)と低迷しており、需要の弱さが浮き彫りになっている。国汽車工業協会による2019年販売予測は2,810万台となっており、自動車向け亜鉛需要が回復する見込みは薄い。

図11.中国製造業PMI

図11.中国製造業PMI

(出典:CEICよりJOGMEC作成)

(2)中国における環境規制

中国における環境規制については、2015年1月に環境保護法が施行して以降、同国の第二次産業に対する取締りが急速に広まった。それまでも2013年6月に既に大気汚染(“大気十条”)に対する規制を強いてきたところ、2016年2月に水質汚染防止行動計画(“水十条”)、5月に土壌汚染防止行動計画(“土十条”)を打ち出し、重金属汚染防止(鉛、水銀、カドミウム、クロム、ヒ素)について厳しい基準が定められた。2016年11月に発表された国務院「規制対象汚染物排出許可制実施方案」では、事前に汚染排出許可証取得の手続きが必要と定められ、非鉄製錬業やめっき業界は2017年末より適用された。本法により、許可取得のために環境アセスメントが必須となるほか、定期的に排出物に関する報告をする義務が課せられるなど負担が増した。また、汚染物質排出業者は環境モニタリングが必要であるが、省・市等地方生態環境局より重点汚染排出企業に指定された場合はオンラインモニタリング設備を自社で導入する必要があり、環境当局とネットワーク接続しなければならない等監視が厳格化する。企業側に設備の導入・保守費用負担が課せられる。

また、2015年7月に「環境保護査察方案」が策定されたことにより中央環境査察チームが構成され、2016~2017年に環境監査が進められた。対象は、鉱山会社から製錬所、製造工場などへ拡大し、操業停止になる企業が多数出てきたために亜鉛生産・供給フローの中で様々なボトルネックが発生し、需給ともに縮小する結果となった。

さらに、2018年1月からは「環境保護税法」が施行された。大気や排水などに含まれる物質や固形廃棄物及び騒音へ課税されるもので、鉱産物サプライヤーの負担はさらに拡大し、操業コストが増大した。環境汚染が確認された企業は、改善策が講じられるまで上限無く罰金が科せられるため、早急な対策が必要となる。

各企業は環境対策を整えなければ銀行の融資を受けられない等、経営にも影響が出るため、環境規制に従うほかなく、各製錬所や工場は排出を許可枠内に留めるため、あるいは赤字経営を回避するため、環境設備の導入のためなど、様々な理由により操業を止めたり稼働率を下げたりと減産する動きが出た。そのため、亜鉛需要と供給と両面で低迷する結果となった。

また、鉱山・製錬所においては、汚染排出物許可枠を理由に、原料の取り扱いに慎重になり、品位が低い鉱石等を取り扱うことが難しくなることに加え、TCが改善した今後においても既存製錬所においては汚染廃棄物許可枠を超えるような大幅な増産は容易ではないと考えられる。

3.世界の亜鉛プロジェクト動向

(1)亜鉛の探鉱動向

図12に、2018年の探鉱投資予算の鉱種別の比率を示す。銅・ニッケルはグラスルーツでの探鉱が3割を超えているのに対し、亜鉛は2割を下回り、多くがマインサイトでの探鉱に充てられている。

図12.2018年の探鉱投資予算(mUS$)

図12.2018年の探鉱投資予算(mUS$)

(出典:S&P Global Market IntelligenceよりJOGMEC作成)

図13に示す亜鉛にかかる探鉱投資予算の増減を見ると、2016年以降2年連続で増加し、2018年は資源価格の回復などを背景に672mUS$(対前年比37.5%増)と6年ぶりの水準に回復した。企業によるボーリング活動も対前年比で11%増加した。(詳細は、19_04_vol.49「2018年世界の探鉱動向」を参照)

図13.亜鉛の地域別探鉱投資額推移(mUS$)

図13.亜鉛の地域別探鉱投資額推移(mUS$)

(出典:S&P Global Market IntelligenceよりJOGMEC作成)

興味深いのは、亜鉛価格が高騰し、探鉱投資額も大きく伸びたにもかかわらず、プロジェクト毎の平均初期投資額が低水準にとどまっている点である。

図14に亜鉛のプロジェクト毎の平均初期投資額推移を示すとおり、過去約20年の動きを見ると、概ね亜鉛価格の上昇とともにプロジェクトあたりの初期投資額は拡大する傾向を辿ってきた。収集したデータのばらつきや初期投資額の「平均」であるがゆえに一部巨額が投じられたプロジェクトに引っ張られた数字であることを前提にしても、2016~2019年(上半期)は亜鉛価格の伸びにも拘らず100bUS$を下回る水準にとどまっている。2006年に亜鉛価格が急伸した時期も、初期投資額は平均100bUS$水準ではあったが、当時はLME価格が1,000US$/tの水準にあったところ中国の経済成長で異例的に価格が高騰した経緯がある。2000~2004年は初期投資額が平均50bUS$だったところ、その後亜鉛価格が高騰し、2010年以降も価格が2,000US$/t台へ引き上げられたことで、2008年までには平均初期投資額も3倍となる150bUS$水準へ引き上げられた。

しかし、現在の亜鉛供給不足や価格の高騰は2015年頃より予見されていたことであり、実際に2017~2018年は3,000US$/t台の高値で推移したものの、プロジェクトへの投資は伸びなかった。こうしたデータから推測すると、亜鉛については操業停止鉱山の再開発や既存鉱山の周辺開発など、既存のインフラや選鉱所を利用できるような低予算で開発可能なエリアでの探鉱が活発に進んでいるトレンドにあることがわかる。

また、可採年数(鉱石生産量/確認埋蔵量)が銅の場合40年、ニッケルが39年、鉄鉱石が56年、ボーキサイト(アルミニウム)が100年であるのに比べ、亜鉛は18年と、他の非鉄に比較して圧倒的に可採年数が短い。将来的な安定供給のためには、持続的な探鉱・開発・生産が必要であり、足元の不安定な需給改善のためにも早急に埋蔵量を確認することが必要であることから、ブラウンフィールドでの探鉱が進んでいると言える。

図14.亜鉛のプロジェクト毎の平均投資額推移

図14.亜鉛のプロジェクト毎の平均投資額推移

(出典:S&P Global Market IntelligenceよりJOGMEC作成)

ただし、2019年に入り、足元の動きは急激に弱まっていると見られる。2018年後半に資源価格が軟調推移したことや世界の政治的緊張のため、亜鉛のみならず非鉄全体において探鉱部門への投資意欲が減退し、図15に示すとおり、ボーリング活動は急激に縮小している。2019年の探鉱投資額も減少する見込みである。

図15.企業によるベースメタルボーリング結果の報告件数

図15.企業によるベースメタルボーリング結果の報告件数

(出典:S&P Global Market IntelligenceよりJOGMEC作成)

図16に示すとおり、亜鉛鉱山全体の約3/4は操業コストが2,000US$/t以下となっている。逆に言えば、2,000US$を超えるプロジェクトは1/4を占める。さらに操業コストが2,500US$/tとなる鉱山は、中国の中小規模鉱山が主であるが1割程度存在し、今後の亜鉛価格によっては操業を維持できない可能性がある。特に中小規模鉱山や操業再開の鉱山などは操業コストが高くなる傾向にあり、2018~2019年に操業開始した鉱山は操業停止鉱山の再稼動プロジェクトも多い。

例えば、カナダ・Myra Falls鉱山は2015年10月に価格低迷により操業停止に至り、2018年第3四半期に操業開始(その後、コンプライアンス上の問題により一時停止、2019年4月に再稼動)した鉱山であるが、操業停止・再開時期から見て、操業コストは2,500US$/tを上回っていると見られる。同様の操業コストが2,500US$/t前後の鉱山は複数あると見られるところ、亜鉛価格が2019年4月の3,000US$/tを上回る高値から7月には平均2,440US$/tと急落している状況において、今後の鉱山操業および鉱石供給の継続性が懸念される。

足元増産傾向にある亜鉛は今後需給バランスに向かうと考えられる。亜鉛が供給過剰にあった2008~2012年の亜鉛LME価格は1,800~2,200US$/tで推移した。今後の亜鉛価格も2,000US$/t前後へ接近する可能性がある。本章「(2)新規開発プロジェクト動向」において詳細を述べるが、今後大型案件も控えていることから、足元の価格においても再び供給不足に転じる可能性は低いものと思われる。しかし、2019年既に縮小傾向を示している探鉱活動は今後しばらくは伸び悩むと考えられ、亜鉛の可採年数の短さを考慮すれば、次の亜鉛供給不足に転じるタイミングはさほど遠くないかもしれない。

図16.世界の亜鉛鉱山操業コスト

図16.世界の亜鉛鉱山操業コスト

(出典:S&P Global Market IntelligenceよりJOGMEC作成)

(2)新規開発プロジェクト動向

「1.(1)世界の亜鉛需給バランス」にて述べたとおり、2018年には複数の亜鉛プロジェクトが生産開始し、1,000千tの生産能力が追加された。代表的なプロジェクトを表1に示す。

表1.主要な操業開始鉱山
プロジェクト名 地域 オペレーター 規模(千t) 生産開始時期
Century Tailings 豪州 New Century Resources 264 2018 Q3
Gamsberg 南ア Vedanta 250 2018 Q3
Lady Loretta 豪州 Glencore(Mt ISA) 142 2018 Q4
Empire State 米国 Titan Mining 50 2018 Q1
Myra Falls カナダ Nyrstar 30 2018 Q4
Rosh Pinah ナミビア Trevali 25 2018 Q2
King Vol 豪州 Actus Minerals 20
Chinchillas アルゼンチン Puna Operations(JV) 6 2018 Q3

(出典:ILZSGよりJOGMEC作成)

このうち、最大のプロジェクトはNew Century Resources社の豪州・Century Tailingsプロジェクトである。本プロジェクトは、2015年に閉山したCentury鉱山の尾鉱から亜鉛を回収するものであり、2018年9月に生産開始した。同鉱山は、MMG社が露天掘り採掘を行っていたが、鉱量枯渇を理由に2016年に選鉱プロセスを終了した後、2017年2月にCentury Mine Rehabilitation Project(CMRP)社に鉱山を譲渡した。CMRP社はMMG社の支援により、閉山を進める計画を進めていたが、Attila Resources社(後のNew Century Resources社)がCMRP社の株式70%を取得し、2017年8月に尾鉱からの亜鉛回収事業のFSに着手することを明らかにした。同年10月には、Century鉱山の全ての権益がNew Century Resources社に譲渡され、資源量の確認や再稼働に向けた資金融資が進んだ結果、2018年に生産開始に至った。また、今後は新鉱体の開発も検討されており、2020年第3四半期までに追加のFSが完了する計画となっている。

2017年11月に計画より早期に稼動開始したMMG社・Dugald River鉱山は、生産開始後10か月で生産量100千tを越え、2018年1月に同年の生産量は120~140千t/年の見込みであることを発表、2019年3月には2018年生産量は147,320tに達したことを明らかにし、2019年生産量は165~175千tを見込んでいることを発表した。また南ア・Gamsberg鉱山は2018年に試験操業を開始したが、2019年2月に正式に開山した。初めの13年間の操業をフェーズ1として進め、その後フェーズ2、フェーズ3と計画されており、長いマインライフが期待されている。

今後の亜鉛鉱石供給の動きとして、表2に2019年操業開始の主な鉱山、表3に2020年以降操業開始予定の主な鉱山を示す。2019年操業開始鉱山の生産規模はいずれも小さく、操業停止鉱山の再開や、既存鉱山の拡張プロジェクトが主である。

表2.2019年操業開始計画中の主要鉱山
プロジェクト名 地域 オペレーター 規模(千t) 生産開始時期
Iscaycruz(再開) ペルー Glencore 80 2019
Zawar(拡張) インド Hindustan Zinc 70 2019
Sindesar Khurd(拡張) インド Hindustan Zinc 30 2019
Obruchevskoe カザフスタン Kazzinc(Glencore) 40 2019
Rey de Plata(再開) メキシコ Industrias Penoles 40 2019
Woodlawn 豪州 Heron Resources 35 2019
ScoZinc(再開) カナダ ScoZinc Mining 25 2019

(出典:ILZSGよりJOGMEC作成)

表3.2020年以降の操業開始計画中の主要鉱山
プロジェクト名 地域 オペレーター 規模(千t) 生産開始時期
Zhairem カザフスタン Kazzinc(Glencore) 150 2020
Shalkiya カザフスタン Tau‐Ken Samruk 110 2021
Neves Corvo ポルトガル Lundin Mining 80 2020
Aripuana ブラジル Nexa Resources 65 2021
Korbalikhinsky ロシア UMMC 55 2021

(出典:ILZSGよりJOGMEC作成)

具体的には、まずGlencoreが豪・Lady Loretta鉱山に続き、ペルー・Iscaycruz鉱山の操業再開を計画している。Glencoreは2015年に亜鉛価格低迷を理由に複数鉱山を操業停止・減産させたが、豪・McArthur River鉱山などの減産鉱山では既に生産を増やしており、Iscaycruz鉱山が再開されれば、全ての操業を回復させることとなる。

また、Hindustan Zinc社は、Zawar鉱山やSindesar Khurd鉱山の拡張を完了させる計画である。同社は世界最大の亜鉛鉱山であるインド・Rampura Agucha鉱山を保有しているが、同鉱山も露天掘りから坑内掘りへの移行を進めている段階で、現在はシャフトやプラント建設を進めているため、今後Rampura Agucha鉱山生産も増加が見込まれる。

2020年または2021年に操業開始予定の鉱山は比較的生産規模が大きいものもあり、特にGlencoreがカザフスタンで進めている2つの新規鉱山開発プロジェクトは100千t超えとなっている。Zhairem鉱山は2017年に建設を開始、初期投資額420mUS$の規模(南ア・Gamsberg鉱山が552mUS$、豪・Dugald River鉱山が750mUS$)となっており、現在は選鉱施設やインフラ施設建設が完了している。また、Shalkiya鉱山は2009年に設備メンテナンスのため操業停止した鉱山で、2020年に坑内掘りで年産55千t規模のプロジェクトを開始する。ごく簡易の施設・設備だけが設けられていたため、尾鉱ダムなどの設備や堆石場、排水処理設備などを含め様々な施設・設備を建設する必要があり、初期投資額は470mUS$の計画。2021年には追加で年産55千tを拡張する計画となっている。

4.2019年の亜鉛市場動向

2018年は、記録的な亜鉛供給不足により、2018年初めには亜鉛価格も高値がついたが、鉱山生産の伸びや需要面での弱さを背景に、価格は軟調に推移した。その価格の弱さは2019年も続いており、2019年1~4月のLME価格は上昇傾向を辿ったものの、4~7月は急落し、10か月ぶり安値をつけた(図17)。

図17.亜鉛価格推移

図17.亜鉛価格推移

(出典:LMEよりJOGMEC作成)

図18~20にILZSGの2019年8月の月次発表を示す。図18に示す2019年の鉱山生産は、1月及び2月に中国が旧正月で減産したことや豪州で発生した洪水被害により亜鉛精鉱積出港であるTownsville港への鉄道が休止したことで大きく減産したものの、2017~2018年と比較して生産量は順調に増加している。最大の亜鉛生産国である中国での生産量は2,072千t(対前年比0.7%減)と伸びていないものの、世界最大の亜鉛鉱山であるRampura Agucha鉱山で坑内掘りが進むインドや、新規鉱山が操業開始した南アや豪州で増産した。世界全体の2019年上半期における鉱石生産量は6,355千t(対前年比1.9%増)となった。

図18.世界の亜鉛月別鉱石生産量推移

図18.世界の亜鉛月別鉱石生産量推移

(出典:ILZSG)

図19に地金生産量を示すが、2019年は、1~2月の中国の減産に加え、2018年10月に操業停止したロシア・Electrozinc製錬所(生産能力100千t/年)の影響もあり、製錬所での地金生産は鉱石生産ほど伸びている様子はない。ただし、6月以降TCの増加や環境監査への対応を完了したことなどを背景に中国製錬所で増産傾向にあると報じられていることから、今後は増産へ向かうものと考えられる。中国の2019年1~6月地金生産は2,815千t(対前年比1.3%増)となり、1~2月生産が大きく落ち込んだが3~6月で急速に生産を伸ばした。世界全体の2019年上半期における地金生産量は6,513千t(対前年比0.4%減)となった。

図19.世界の亜鉛月別地金生産量推移

図19.世界の亜鉛月別地金生産量推移

(出典:ILZSG)

図20のとおり、需要については月ごとの変動は激しいが、概ね横ばいとなっている。米国や韓国などを中心に、世界全体では概ね消費は増加傾向にあるものの、最大の消費国である中国では亜鉛需要が低迷していることから伸び悩んでいる。中国の2019年1~6月地金消費は3,077千t(対前年比0.01%増)と横ばいに留まり、世界全体の2019年上半期における地金消費量は6,513千t(対前年比0.2%増)となった。

図20.世界の亜鉛月別地金消費量推移

図20.世界の亜鉛月別地金消費量推移

(出典:ILZSG)

おわりに

2018年の亜鉛平均価格は3,454.5US$/tと高騰し、世界で亜鉛プロジェクトが進展した。2018~2019年に生産開始のプロジェクトの多くは、既存鉱山の拡張や操業停止鉱山の再稼動であり、初期投資額が少なく、開発から生産開始までの期間が短いという特徴がある。鉱山生産は順調に増加し、亜鉛需要も増加した。2019年も複数の亜鉛鉱山が生産開始し、TC改善により製錬所の稼働率も向上することが期待される。亜鉛の供給不足は大きく改善する見通しである。

足元は、新規鉱山プロジェクトについてはフル稼働にいたるまでに時間を要するため、需要を十分に満たすまでには至らず、供給不足は続いている。しかし、亜鉛LME価格は2019年4月以降下落傾向を辿っており、現在(2019年8月)2,200US$/t台を推移している。2017年以降は逆鞘(現物価格が先物価格を上回ること)が続いていたが2019年8月に順鞘に戻っており、市場の需給逼迫感は緩和してきた様子である。

一方、米中貿易摩擦の影響などで中国国内の消費や設備投資が弱く、亜鉛需要は前年から横ばいとなる見込みである。中国政府は、地方インフラ投資の促進を明らかにしているものの、足元固定資産投資額の成長率は横ばいに推移しており、需要を大きく引き上げるには至っていない。さらには、製造業も不況の様子であり、自動車販売も前年割れで低迷している中、亜鉛需要を好転させるような見通しが無い状況である。そうした雰囲気の中、亜鉛鉱山生産が増加しており、中国製錬所の稼働率上昇も期待される。輸入鉱石よりもTCの高い国内鉱石を求める中国国内製錬所からの引き合いが増加すると見られることにより、中国の亜鉛鉱山生産も増加を辿るであろう。中国国内で増産された地金は、中国国内需要を満たし、中国の亜鉛地金輸入は減少へ向かい、対中輸出していた亜鉛地金は余剰となる。亜鉛の供給不足感は急速に改善されるものと見られる。

現在の亜鉛市場は、この数年の供給不足構造から脱する過渡期にあり、かつ中国の「量より質」の安定成長志向や環境規制強化などの影響を受け需給拡大一辺倒だった傾向から変化している過程にある。様々な内政・外政的影響が強くなり、中国の経済成長と亜鉛生産・消費の動きが一致しなくなっており、これまで以上に亜鉛需給見通しが困難となってきたように感じる。2019年上半期の亜鉛市場は、2018年までの供給不足の余波や新規鉱山立ち上がりの過程にあったため、需給逼迫感が漂っていたものの、足元亜鉛価格が急落していることから、状況はまさに転換の過程にあるといえるだろう。

ただし、米中貿易摩擦の成り行きや世界的な自動車市場の動向が不透明であり、亜鉛需要が成長へ向かうのか、このままの水準で今後も続くのか、図りづらい。さらに近年操業を再開した鉱山等のオペレーションコストは比較的高い傾向にあるため、今後数年で複数の新規プロジェクトや大規模鉱山が立ち上がり世界的に亜鉛精鉱の供給が増えれば、多くの中小規模鉱山の競争力が失われるものと思われる。2019年8月現在で2,200US$/t台の安値まで価格が落ち込んでいることを勘案すれば、今後の亜鉛価格の動向によっては一部鉱山で生産が再び停滞する可能性がある。

長期的に安定的な亜鉛の供給を確保するためには、新鉱体の発見や新規プロジェクトの開発、操業コストの低減が望まれるが、世界的な政治経済の先行き不透明感により探鉱活動も進みづらい状況となっており、長期的な亜鉛市場見通しは未だ混乱している。

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