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報告書&レポート

2020年6月17日 バンクーバー 事務所 川井隆宏
20_04_vol.50

カナダの鉱物及び金属計画(CMMP)について

<バンクーバー事務所 川井隆宏 報告>

はじめに

2019年3月にカナダ連邦政府より公表された「Canadian Minerals and Metals Plan(以下、CMMP)1」は、カナダの鉱物・金属産業の将来を、今後数十年にわたって長期的に競争力のあるものとしていくためのフレームワークとして、2018年から2019年にかけて実施されたカナダ全域での広範な対話を経て取り纏められた鉱業分野の長期計画であり、政府、産業界、Indigenous People(以下、先住民族)等の利害関係者が共有するビジョン、原則、戦略の方向性が網羅されている。策定にあたっての対話の参加者は、先住民族、イノベーションの専門家、民間企業、業界団体、非政府組織、若者の代表者及び全国のカナダ人等と多岐にわたる。

本稿では、CMMPの概要について以下のとおり報告する。

1.CMMPのビジョン及び概要

カナダの鉱業関係者が共有するビジョンの前身としては、1994年に連邦政府、州・準州政府、産業界、先住民族、環境団体、及び労働者の代表により署名されたホワイトホース鉱業イニシアティブで確認・共有されたビジョンである「政治的及びコミュニティのコンセンサスに支えられた、社会的、経済的、及び環境的に持続可能な繁栄する鉱業」がある。CMMPではこのビジョンを更に発展させて、近年のカナダ鉱業界が直面する現実・課題(気候変動問題、先住民族の参加、持続可能な開発、社会的受容性など)を反映させており、具体的には以下の新たなビジョンが採用されている。

1.1.CMMPのビジョン ―カナダは主要な鉱業国―

カナダは、すべてのカナダ人に利益をもたらす競争力があり、持続可能で責任ある鉱業の本拠地である。明確で予測可能な規制環境、革新的なクリーン技術のソリューション、及びベストな管理慣行を備えた、鉱業関連の科学、技術、社会的及び環境的慣行におけるグローバルなリーダーである。熟練した多様な労働力、魅力的な投資環境、先住民族とのパートナーシップ、コミュニティとの強い関係を誇る。

1.2.ビジョンを導くための原則

ビジョンの達成に向けての原則として、以下事項が掲げられている。

  • 一連の鉱物の開発により、進化するグローバル経済に必須な製品を提供し、かつカナダ全域(北部地域、遠隔地、孤立したコミュニティ、都市を含む)にとって実質的な社会経済的な裨益をもたらす。
  • 人的、社会的、経済的、環境的な持続可能性をコンセプトとして、包含する責任ある鉱物の開発を行う。
  • 新興のグローバルな力学や新しいフロンティアへの反応及び適応を可能とする業界に対する大胆なビジョンである。
  • 最先端の科学、エンジニアリング、イノベーションにより鉱業セクターの競争力を高め、責任ある業界慣行を推進する。
  • 強力なナショナルブランドとグローバルリーダーシップにより、国内外でのカナダの利益を前進させカナダの地域経済を強化し、カナダの価値観を促進する。
  • 管轄権の尊重、効果的な立法及び規制の枠組み、コミュニティエンゲージメント、パートナーシップを土台とする。

CMMPには、ビジョン達成に向けた一連の具体的かつ政府(連邦・州・準州)間で調整された行動(アクション)が含まれており、これは別途CMMPアクションプランとして公表されている2。2020年3月には短期的なアクションを定めた第1段アクションプランが公表されたが、これは2020年から2022年にかけて段階的に更新されていくとの事であり、その後3年毎の新たなアクションプランとして継続される予定である。

具体的なアクションが想定されている分野としては、後述する6つの戦略の方向性に沿って、税制・資金インセンティブ整備、規制環境の調整、地球科学データの更なる利活用に向けた取り組み、土地アクセス及び利用に向けた先住民族との和解の取り組み、インフラ整備、鉱物処理の研究開発などが想定されている。

2.CMMPにおける6つの戦略の方向性と、第1段アクションプラン

CMMPは6つの戦略の方向性、即ち「経済開発と競争力」、「先住民族の参加促進」、「環境」、「科学・技術・イノベーション」、「コミュニティ」、「グローバルリーダーシップ」が定められている。各方向性において目指すところと、2020年3月に公開された第1段アクションプランで盛り込まれた短期的なアクションについて、以下で紹介する。

図1.CMMPのビジョン達成に向けた6つの戦略の方向性

図1.CMMPのビジョン達成に向けた6つの戦略の方向性1

2.1.経済開発と競争力

「経済開発と競争力」の方向性では、カナダの鉱業セクターの事業環境・イノベーション環境が世界で最も競争力を有し魅力的な投資先となることを目指して、鉱山開発サイクルにおけるすべての段階(探査前段階から開発後の閉鎖段階まで)で競争力を持ち、資源(重要鉱種を含む)の責任ある開発を行っていくための戦略“全カナダ地球科学戦略(Pan-canadian Geoscience Strategy)”を、2022年までに策定することが第1段アクションプランで公表されている。

全カナダ地球科学戦略の策定にあたっては、連邦政府、州政府、準州政府の地質調査所メンバーからなる国立地質調査委員会(National Geological Surveys Committee)が主導するとしている。

また、当該戦略策定にあたっての情勢認識としては、電気自動車(EV)とエネルギー貯蔵市場の急速な拡大、クリーンエネルギー技術と再生可能エネルギーの採用、及び防衛技術の進歩に合わせて重要鉱種に対する世界的な需要が、今後ますます増加していくとの見通しに基づいており、新しい地球科学・鉱物探査、鉱業技術の研究開発(R&D)、鉱物・金属の加工・転換工程のイノベーション等が重要な焦点になるとの認識を基本としている。

そのうえで、全カナダ地球科学戦略では、各州政府の地質調査所の強みに基づき、次世代技術、ビッグデータ、その他の破壊的なイノベーション技術を活用して同政府が有する地球科学データの可用性及びアクセス可能性を高め、また地球科学分野への更なる資金拠出の評価を行い、地球科学イノベーションに関する国内外の協力強化を推進していく内容になるとしている。

図2.全カナダ地球科学戦略(PGS)の策定に向けたタイムライン

図2.全カナダ地球科学戦略(PGS)の策定に向けたタイムライン2

2.2.先住民族の参加促進

「先住民族の参加促進」の方向性では、先住民族の経済的機会を増やし、かつ先住民族と政府との和解のプロセスを支援することを目指している。カナダの鉱業では先住民族が重要な役割を果たしており、2020年時点で鉱業セクターでは16,500人以上の先住民族が雇用されている。これらの仕事の大部分は上流の鉱山事業で、先住民族は労働力の12%を占めている。先住民族を雇用する民間セクターとして、鉱業セクターはカナダ国内で2番目に大きな産業となっており、そのため遠隔地における先住民族コミュニティにとって多くの場合、探鉱及び鉱山事業が唯一の経済活動となっている。

先住民族の鉱業への参加は、主に事業活動におけるリスクを低減したい民間事業者と、社会経済的な便益を確保したい先住民族コミュニティとの間で締結された合意を通じて推進されている。2018年時点においては、民間事業者と先住民族コミュニティの間で420を超えるアクティブな協定が締結されている。

このため鉱業セクターは、先住民族と政府との経済的な和解の鍵となる産業と認識されており、CMMPにおいても「先住民族の参加促進」が戦略の方向性として定められている。第1段アクションプランでは、この分野の短期的アクションとして鉱業分野における先住民調達会議(Indigenous Procurement Conferences)の開催が公表されている。

当該会議は先住民族のビジネスリーダーや組織、州、準州政府の連携のもとで、カナダ全土において2020年11月~2021年1月にかけて開催される予定であり、これらの会議は、先住民族と地域社会の経済的機会を増やすことを目的とし、個々の会議は、各地域の鉱物開発の専門知識、優先事項、鉱物開発の現実を反映するように調整されるとしている。また、会議後のフォローアップとして、2022年3月にベストプラクティス、成功事例、ケーススタディの概要が公開される予定である。

また、先住民族の参加促進に向けた関連施策としては、連邦政府は2019年8月に、従来の“環境影響評価法”に代わる新たな“影響評価法”を施行している3。これは事業者に、事業計画段階から先住民族への事前協議を求めるもので、先住民族の知識、文化的な考慮事項、習慣、科学的情報等を事業に反映させて、先住民族の事業への参加促進を促す内容となっている。

図3.先住民調達会議の開催におけるタイムライン

図3.先住民調達会議の開催におけるタイムライン2

2.3.環境

「環境」の戦略の方向性では、鉱山開発サイクルのすべての段階で、厳しい環境パフォーマンス目標を課して開発を行うことで地域社会の期待に応えつつ、市場に持続可能な形で生産された製品を提供し需要を満たすことで、カナダ鉱業に対する高い信頼性を獲得していくことを目指している。

特にこの分野で注目されているのは、昨今、気候変動が鉱山開発サイクルのすべての段階で、それぞれの地域特有の影響を与えていることが課題となっていることである。例えば、北部地域では冬季の重要なインフラとして活用されているアイス道路の信頼性・耐用能力が低下しており、また、鉱山計画においては現在及び将来の永久凍土条件を考慮する必要がでてきている。気候変動に強い鉱業セクターとしていくために、インフラストラクチャ、輸送システム及び水の供給、並びにサプライチェーンやグローバル市場の混乱に関連するリスクに対処する必要がある。

そのため、第1段アクションプランでは、2021年までにNOAMI(National Orphaned or Abandoned Mines Initiative)に対する委任事項の拡大を図ることが公表されている。NOAMIは、2002年に各政府の鉱山大臣の要請を受けて設置された複数の利害関係者メンバーから構成されている諮問委員会であり、カナダ国内で所有者不明または所有者に是正する財政的能力がなく、孤立又は廃棄された鉱山(Orphaned or Abandoned Mines:OAM)の修復実施における様々な問題や取り組みを検討している。検討内容については、政府間ワーキンググループを通じて各政府の鉱山大臣に報告を行っている4

具体的なNOAMIの新たな検討スコープとして拡充を図る委任内容については、別途ワークショップを開催のうえ決定するとしているが、新たなNOAMIは気候変動関連のリスク、特に以下に焦点をあてた検討を行うようにしていく方針とされている。

  • レガシー鉱山を修復するためのオプション
  • 閉鎖計画、将来のOAMサイトの防止
  • 新規鉱山での財政的保証の向上
  • 尾鉱ダム
  • 鉱区放棄
  • リスク評価と公開報告を含む法律、規制、及び/またはガイドライン
  • 革新的な技術・実証
  • 鉱山廃棄物からの有価物回収オプション及びリクラメーション費用の回収
図4.NAOMIの委任事項拡充に向けたタイムライン

図4.NAOMIの委任事項拡充に向けたタイムライン2

2.4.科学・技術・イノベーション

「科学・技術・イノベーション」の方向性は、カナダ鉱業の競争力を高めるために重大な源泉とされており、先進的な科学・技術・イノベーションの適用・推奨により、新規の鉱物ポテンシャル把握、鉱物資源量の拡大、鉱量の拡大、開発リードタイム短縮(発見から開発まで、下流工程の時間短縮含む)を図っていくことが引き続き必要とされている。また、生産的でクリーンで持続可能な産業をサポートするための技術・プロセスの研究開発・実証を前進させていくことも重要であるとしている。

目指すべき将来の鉱山ビジョンは廃棄物ゼロの鉱山とされており、社会経済的利益を増大させながら、ビジョンを実現するための技術、プロセス、規制がプロジェクトに確実に適用されていくように産業界、コミュニティ及び政府が協力をしていくことが必要であるとしている。

「科学・技術・イノベーション」の分野においては“全カナダ地球科学戦略”を活用して、次世代の地球科学の知識とツールを開発し、より高品位な鉱床、またはより深い鉱床を効率的に探査・開発の対象としていくことが焦点になる。また、鉱山操業現場の電化及びクリーンエネルギーの利用、新しい技術・データ・AI活用、及びカナダ輸出製品やサービスに付加価値を創出することがこの分野において鍵になるとされている。

そのための政府の役割としては、高度なスキルを持つ労働力確保、イノベーションの促進、クリーン技術や持続可能な慣行の適応促進、そして機敏で効果的な規制の提供が重要であるとされている。また、それに加えて政府は、利害関係者と協力して鉱業イノベーションエコシステムを変革し、革新的な技術やプロセスにおいて、カナダがグローバルリーダーとなっていくうえでの役割を果たしていくことが必要であると認識されている。

「科学・技術・イノベーション」の分野における第1段アクションプランでは、鉱業関連の大規模イノベーション課題に取り組むためのインセンティブを2022年までに整備し、2025年までに開発した技術やプロセスの商業化による収益化を目指すターゲット目標が公表されている。

大規模イノベーション課題としては、例えば水処理における課題(淡水利用量削減、廃水排出量の最小化)や、重要鉱種における課題(重要鉱種バリューチェーンにおけるプロセスや技術の開発促進等)への挑戦を想定している。

図5.イノベーション課題への挑戦に向けた環境整備のタイムライン

図5.イノベーション課題への挑戦に向けた環境整備のタイムライン2

2.5.コミュニティ

「コミュニティ」分野の方向性では、カナダ国内のコミュニティにおける鉱業リテラシーの向上を図っていくことを目指している。鉱業に関連した活動は、いまやカナダ国内のすべてのコミュニティ(大都市、遠隔地における地方コミュニティ含む)において重要な存在感を持っているが、日常生活に欠かすことができないクリーンなテクノロジーアプリケーションやハイテク電化製品、その他の製品やサービスの需要をより高いレベルで満たしていくためには、原材料を提供する鉱業に関するコミュニティにおける意識と理解を、今後より高めていく必要性が認識されている。

鉱業リテラシーの向上は、コミュニティの鉱業事業に対するサポートを促進させ、探鉱及び鉱山事業を前進させることに繋がり、また優秀な人材を鉱業関連の仕事に引き付け、投資を呼び込むことにも繋がる。

鉱業事業の成功は、コミュニティが鉱山開発サイクルのすべての段階に参加できるようにしていくことに大きく依存している。そのため、鉱業に関連する知識と教育ツールでコミュニティをサポートし、コミュニティが鉱業関連の活動に備えて、情報に基づく意思決定ができるようにしていくことは重要であるとされている。これを通じて、コミュニティと鉱業事業者との間の信頼関係を築きバランスの取れた関係を促進することで、鉱業事業に関連したリスク(コスト、プロジェクトの確実性、評判)の緩和に繋げことができるとしている。

また、カナダの鉱業セクターの持続可能性と成長は、将来のデジタル鉱山への発展に向けて優秀で多様な労働者を引き付け、維持する能力に依存している。今日、カナダの鉱業セクターは労働者の高齢化や、若年層の業界離れ、また女性やマイノリティ層が少数しか存在していない状況など、いくつかの人的資源と多様性の課題に直面している。そのため、鉱業リテラシー向上は、鉱業関連の仕事において、優秀で多様な人材を引き付けるための鍵にもなると考えられている。

第1段アクションプランでは、鉱業分野の教養を向上させるためのアクションとして“全カナダ鉱業リテラシーハブ(pan-Canadian mineral literacy hub)”の立ち上げが公表されている。全カナダ鉱業リテラシーハブは、カナダ鉱業界のリソースへの集中アクセスポイントとして機能し、管轄区域間で知見や先住民族の伝統的知識を共有し、鉱業でのキャリアにつながる学術的及び専門的なプログラムとリンクするとのことである。

また、全カナダ鉱業リテラシーハブはカナダ人向け鉱業キャンペーンを主催するとしており、この全国的キャンペーンにおいてはSNSプラットフォーム(LinkedIn、Instagram、YouTube、Twitter、Facebookなど)も活用されるとの事である。

「コミュニティ」分野のターゲット目標としては、2025年までに鉱業分野における優秀人材の確保、及び将来人材の才能開発を目指した教育ベースのイニシアティブ導入、2030年までに鉱業従事者の更なる多様化(女性の従事者比率30%など)を目指すことが公表されている。

図6.全カナダ鉱業リテラシーハブ立上げに向けたタイムライン

図6.全カナダ鉱業リテラシーハブ立上げに向けたタイムライン2

2.6.グローバルリーダーシップ

「グローバルリーダーシップ」の分野の方向性では、責任ある事業活動と持続可能な鉱業における国内及び国際的な取り組みにより、カナダ鉱業のブランド化を図ることを目指している。

世界的に、消費者は鉱物及び金属のサプライチェーンと、それらを原材料とする最終製品との相互関係に注目し始めており、主要な国際企業は原材料調達における透明性基準を確立し、サプライヤーはグローバル市場にアクセスする場合に当該基準を満たすことが求められている。これに応えるためには、カナダの輸出品(海外操業のカナダ企業からの製品やサービス含む)が最高クラスの環境、社会、労働基準に準拠している必要がある。

カナダ鉱業の現状認識としては、カナダの優れたガバナンスと持続可能な鉱山開発の実践は世界的に評価が高く、カナダ鉱業セクターは競争上の優位性をもっていると考えており、他国はカナダにおける先住民族との関係構築、コミュニティとのパートナーシップ構築、環境保護方法を模範とし注目しているとの認識に立っている。

この分野におけるグローバルリーダーとしてのカナダの評判を高めるためには、こうした国内外でのカナダ鉱業の責任ある事業活動と持続可能な鉱山開発の取り組みについて、投資家に対してひとつの統一された力強い表明方法によって、カナダ独自の優れた価値として提示していくことが必要であるとされており、これによってカナダ鉱業を優れたガバナンスと透明性のモデルとして国際的な評判を高めることで、成功に導いていくことが必要であるとしている。

第1段アクションプランでは、2022年3月の「カナダ鉱業ブランド」立ち上げのタイムラインが公表され、これに向けてブランドを活用する利害関係者向けに有益となるツールやリソースの確立を進めていくとしている。

図7.カナダ鉱業ブランド化に向けたタイムライン

図7.カナダ鉱業ブランド化に向けたタイムライン2

3.各州政府のCMMPへの対応

カナダにおける鉱物資源の所有権・管轄権は、ほとんどの場合、州又は準州によって規制されており、各管轄区域には独自の鉱業、環境、労働安全衛生に関する法律がある。また、税制や環境等の分野では連邦政府と各州政府が共同で管轄している。CMMPは、連邦政府、州政府、準州政府が参加するカナダ全域における計画という位置付けになるが、鉱物資源を管轄する各州政府の役割が尊重されており、各州政府がそのニーズと優先順位に従って参加することとなっている。また、活動の度合いも各州政府の判断にゆだねられている。現状において、CMMPへの各州政府の対応は温度差がみられており、BC州は積極推進派、ON州、SK州は不支持の立場を示している。

2019年3月に連邦政府よりCMMPが発表された直後、ON州のGreg Rickford北部開発エネルギー鉱山大臣及びSK州のBronwyn Eyreエネルギー資源大臣は、経済的問題への対処策が不十分との理由により、州政府としてCMMPを承認しないことを共同で表明している5両州はCMMPを不支持とする声明の中で、鉱業などのエネルギー集約型セクターは、エネルギーコストの急増に苦しむ大きなリスクにさらされているが、CMMPはこの問題に対処していないと主張しており、特にSK州のウランとON州の鉄鋼等の金属貿易をめぐって直面している課題を念頭に、企業が透明かつ安定した効果的な方法で、国際市場にアクセスできるようにする計画を連邦政府が立てていないとの批判を展開している。

一方で、その他の州政府はCMMPを承認しているが、そのなかでも特にBC州政府はCMMPを積極推進する立場であり、連邦政府よりCMMPが正式発表される前から、CMMPと共有する方向性でもって以下のような具体的な措置を次々に実行している。

  • 2019年1月、BC州に鉱業投資を呼び込むインセンティブ措置としてBC州探鉱税額控除(BC Mining Exploration Tax Credit:BCMETC)及びフロースルー株式税額控除(BC Mining Flow-Through Share Income Tax Credit:BCMFTS)の恒久化を発表6
  • 2018年、BC州北西部地域における鉱業活動を推進するパートナーシップとして、先住民族、鉱業事業者、州政府が参画するアライアンス(BC Regional Mining Alliance)設立7
  • 2019年11月、先住民族の権利に関する国際連合宣言(United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples, UNDRIP)」を遵守する法案(Bill 41)を可決8。本法案は州内での鉱業を含む事業活動において「事業の影響を受ける先住民族との自由意志による、事前の十分な情報に基づく同意」を求めている。
  • 2018年にBC州環境影響法(Bill51)が改正9、2019年12月に本改正を受けて環境影響評価ガイドラインを改定。BC州政府は環境影響法の改正は3つの目的があるとしており、まず州民の環境影響評価への意義のある参加を可能にすることにより、環境影響評価法の透明性を確保し州民の信頼を醸成すること。次に、先住民族の環境影響評価への参加をさらに促進し、州内の先住民族との和解を加速すること。そして、環境保護と持続可能な発展の両方を可能にする明確な道筋をつけることであるとしている。

また、2020年1月にバンクーバーにて開催されたAME Roundup(BC州鉱業大会)では、BC州のMichelle Mungall天然資源大臣が登壇し、BC州の鉱業界の将来に向けて、2018年に政府内に鉱業ジョブタスクフォース(Mining Jobs Task Force)を設置して州内の探鉱・鉱業事業の強化策の検討を進めてきたことが紹介され、当該タスクフォースの提言を受けて10、BC州政府は同州鉱業における先住民族の参加促進や、鉱業の責任あるブランド化等の取り組みを進めているとの状況が共有された。なお、BC州鉱業のブランド化に関しては、グリーンな方向性で進めていくとし、二酸化炭素排出量の削減に不可欠なクリーン技術(EV等)を支えているのは同州の鉱産物であるといったことへの理解を高めていくことで、ESG投資に係る投資先として同州鉱業が選ばれるようにしていくとのビジョンが共有されている。

4.CMMPに対する産業界の反応

CMMPが発表された直後の2019年3月3日付けで、カナダ鉱業協会(Mining Association of Canada)は、カナダ鉱業セクターが現状において競争上の優位性を失っていることを認めたうえで、CMMPが問題に対処できると信じているとの声明を発表している11

業界の見解では、CMMPで概説された対策は、鉱業セクターの競争力を高めるものであり、インフラストラクチャへの戦略的投資の増加、探鉱を後押しする資金調達と課税システムによるサポート、より効率的な規制環境整備の促進、先住民族へのトレーニングイニシアティブと鉱業イノベーションへの投資促進に役立つロードマップを描くものであるとしている。カナダ鉱業協会のPerre Gratton会長は声明の中で、カナダのすべての政府がCMMPを実行に移すための措置を講じれば、探鉱及び鉱山開発投資に係る競争環境は大幅に改善されると語っている。

おわりに

CMMPの第1段アクションプランが発表される直前の2020年2月、カナダの調査会社Fraser Instituteは2019年版の世界の鉱業投資魅力度の調査結果を公表しており、その中でカナダの州・準州が、10年ぶりに魅力的な管轄区として上位10位以内(世界76管轄区域中)にひとつもランクインすることがなかったことが報告された12。投資魅力度指標に基づく地域別総合ランクでも、カナダは欧州や豪州に次ぐ3位(昨年度までは4年連続で1位獲得)と順位を落とす結果となった。順位を落とした理由は各州によって異なっており、特に大きく順位を落としたSK州(2018年:3位、2019年:11位)では、税制に対する懸念の高まりのほか、規制の重複・矛盾、貿易障壁が投資家に不透明感を与えているとのことであった。また、QC州(2018年:4位、2019年:18位)においては、環境規制や事業開発に係るコミュニティとの社会経済的合意条件に対する懸念の高まりが表明されている。

CMMPの目指すビジョンとカナダ鉱業界の現実とのギャップ、あるいはビジョン達成に向けた各政府の施策を規制強化ととらえる投資家の戸惑いが、少なからずこのような評価結果の一因になったのだろうと思慮するところ、足元の競争力低下に歯止めをかけて、状況を好転させる効果的なアクションをカナダ鉱業の利害関係者が一丸となって早期実行に移していけるのかが、今後の焦点になるものと考える。


  1. The Canadian Minerals and Metals Plan
    https://www.nrcan.gc.ca/sites/www.nrcan.gc.ca/files/CMMP/CMMP_The_Plan-EN.pdf
  2. The Canadian Minerals and Metals Plan, Action Plan 2020
    https://www.minescanada.ca/sites/default/files/cmmp-actionplan2020_rev52_feb_29_2020-a_en.pdf
  3. Impact Assessment Process Overview
    https://www.canada.ca/en/impact-assessment-agency/services/policy-guidance/impact-assessment-process-overview.html
  4. National Orphaned/Abandoned Mines Initiative website
    http://www.abandoned-mines.org/en/
  5. Statement by Ontario and Saskatchewan on the Canadian Minerals and Metals Plan
    https://news.ontario.ca/mndmf/en/2019/03/statement-by-ontario-and-saskatchewan-on-the-canadian-minerals-and-metals-plan.html
  6. カレント・トピックス19-13(2019年5月9日):カナダ連邦とBC州の探鉱税控除政策について
    http://mric.jogmec.go.jp/reports/current/20190509/113060/
  7. BC Regional Mining Alliance website
    https://amebc.ca/bc-regional-mining-alliance/
  8. Bill 41 – 2019: Declaration on the Rights of Indigenous Peoples Act
    https://www.leg.bc.ca/parliamentary-business/legislation-debates-proceedings/41st-parliament/4th-session/bills/first-reading/gov41-1
  9. カレント・トピックス19-33(2019年12月26日):加BC州における環境影響評価法の改正について
    http://mric.jogmec.go.jp/reports/current/20191226/122073/
  10. BC Mining Jobs Task Force Final Report
    https://www2.gov.bc.ca/assets/gov/business/natural-resource-industries/mineral-exploration-and-mining/memp_10535_task_force_report_final-rev.pdf
  11. The Mining Association Canada, News release
    https://mining.ca/press-releases/canadian-minerals-and-metals-plan-step-forward-canadas-mining-sector/
  12. Fraser Institute Annual survey of Mining Companies 2019
    https://www.fraserinstitute.org/sites/default/files/annual-survey-of-mining-companies-2019.pdf

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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