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報告書&レポート

2020年7月30日 金属資源技術部 目次英哉
20_06_vol.50

坑内掘金属鉱山の操業現場における岩盤応力情報の取得・利用のされ方

<金属資源技術部 目次英哉 報告>

はじめに

金属鉱物資源の鉱石採掘現場の多くで、地表近傍の鉱石の枯渇に伴い、露天掘りから坑内掘りへの移行や採掘レベルの深部化が進んでいる。世界には既に地表下2,000m以深の大深度で操業する鉱山が多数あり、その数と深度は今後も増加すると予想される。大深度で操業する鉱山では、岩盤に周囲から加わる力(岩盤応力)が大きく、開削された坑壁の変形(盤膨れ、座屈)のほか、崩落(落盤)や岩塊突出(山撥ね)が起こり易いため、今後このような岩盤の不安定化に伴う障害を回避する手段の必要性が増すと予想される。

最近の岩盤工学・岩石力学分野の国際学会では、岩盤応力の状態を定量的に把握・解析する事で、こうした障害を回避した事例が多く報告されている。かつて金属鉱山での岩盤管理・坑道の支保・補強は技術者の経験と勘で対応されたようであるが、近年は計算技術の進歩で岩盤を三次元モデル化して挙動を数値計算によって予測する事が可能となり、坑道設計や支保補強工事の仕様検討に活用され始めた模様である。

こうした事例の紹介では、しばしば鉱山操業現場での岩盤応力実測の困難さが言及されている。応力測定器具の使用条件が鉱山現場の作業環境にマッチせず、良質なデータを多数かつ頻繁に取得する事が非常に困難なため、限られた現場応力情報を様々な工夫や代替手段で補強・解釈し、上述の三次元モデル化・数値計算に使用している実情が、個々の事例から見て取れる。

本稿では、最近の資源開発現場における岩盤力学分野の研究や取組みにおいて、岩盤応力に関するどのような情報がどうやって取得・利用されているかの事例収集を試みた。対象としたのは、2019年6月に南アで開催された大深度・高応力鉱業国際会議(Deep Mining 2019)と、同年9月にブラジルで開催された第14回国際岩石力学・岩石工学会議(ISRM 2019)の学術講演の内容である。取りまとめにおいては、内容の学術的な吟味・評価は行わず、最近の当該分野の研究・取組みのトレンドの一面として、専門技術者ではない者が感覚的に理解出来る説明を意識した。その結果、専門用語の一部を学術的に厳密な定義とは多少異なる形で説明している部分が含まれている点をご留意願いたい。

1.岩盤に加わる応力およびその坑道への影響

1-1.岩盤応力の基本事項

地下のある位置での岩盤応力は、その上位の岩盤の重さによる荷重と、上部地殻の造構運動をもたらすテクトニックな力から成る。前者の向きと大きさは地表地形と深度、周辺岩盤の密度分布が判れば理論的に推定出来るが、後者はその地域の地殻上部に固有するローカルな力学状態に依存し、その向きと大きさは実測しないと判らない。

三次元空間内での岩盤応力は、ある方向を向いた微小平面に加わる力の単位面積あたりの大きさ(圧縮を正、引張を負とする)で示される。これを微小平面に垂直及び平行な成分に分解した時、垂直な成分(図1の左σ11、σ22、σ33)を垂直応力、その他の平行な成分を剪断応力と呼ぶ。前者は岩盤を押したり引いたりして圧縮ないし膨張させるのに対し、後者は岩盤にねじれ・歪みを生じさせ、力学的な不連続面(割目、断層、空洞など)により近傍の岩石を不安定化させ、坑壁の変形・崩落等の原因となる。

二種の応力成分の大きさは、平面の向きによって異なる。ある平面の向きで剪断応力がゼロになる場合の垂直応力を、一般に主応力と呼ぶ。岩盤応力を直交する三平面に対する3つの主応力の大きさと向きで表した時(図1の右)、この3つを大きさの順に、最大、中間、最小主応力と呼び、通常それぞれσ1、σ2、σ3で示される。

図1.直方体に加わる応力の表示法

図1.直方体に加わる応力の表示法

(左)各面に加わる応力をⅩ1、Ⅹ2、Ⅹ3座標の成分に分解して示したもの。成分σ11、σ22、σ33が垂直応力、他の成分は剪断応力。

(右)各面の剪断応力成分がゼロになる向きになるよう直方体を回転させ、応力を三つの面の垂直応力(主応力)だけで示した状態。

一方で、地域規模のある一定範囲の岩盤全てに均等に加わる応力を、ここでは「広域応力」と呼ぶ。これは岩盤力学的には、人為的改変が無い範囲の全ての地点の岩盤応力を測定して平均した値と考える事も出来る。広域応力は通常、それを上述の3つの主応力の大きさと向きで表現される。

坑内掘り鉱山の岩盤には、鉱山開発以前にはその地域の広域応力が全体へ均一に加わっていたはずだが、坑道や採掘空洞が形成されると、その近傍の岩盤中ではそこから空洞に向かう方向の応力が解放され、応力状態が変化する。こうした変化を経ていない自然状態の岩盤応力は、過去にその岩盤に加わっていた初期応力(initial stress)、鉱山から離れた場所の岩盤に加わっている遠方応力(far field stress)など、位置付けにより呼び方が変わるが、本稿では全て「広域応力」と統一する。

1-2.坑道の向きと広域応力との関係

均質・等方的な岩盤中に開削された坑道の坑壁は、理論的には坑道が広域応力の最大主応力σ1の向きに掘られた時に最も安定する一方で、中間主応力σ2の向きに掘られた時に最も不安定だと言われるが、これを現場で実証する事は難しい。研究用の地下空洞でそれを試みた事例について、以下のとおり紹介する。

事例1:実験坑道の進行性崩落の再現と予測(論文1)
図2.URL実験坑道の断面と広域応力との関係

図2.URL実験坑道の断面と広域応力との関係

灰色部は進行性損傷の範囲(論文1)

カナダの放射性廃棄物地下処分技術の研究施設URL(Underground Research Laboratory)の均質な花崗岩中にσ2方向の実験坑道が開削され、その壁面に生じる損傷を数値シミュレーションで再現した上で、この坑道の向きが異なっていた場合の状況を予測した。

この実験坑道に加わる主応力は様々な手法により計測され、σ1が傾斜14°で強度60±3MPa、σ2は水平で強度45±4MPa、σ3は傾斜76°で強度11±2MPaと判定されていた。坑道は直径3.5mのTBMにより、σ2の向きに25m掘削された無支保の円形トンネルで、切羽が0.5m前進する毎に後方の基準断面で坑壁の変位や歪み、鉛直上下の岩盤内の歪み原位置応力が測定された(図2)。

URLの花崗岩中の実験坑道では、坑壁に進行性の損傷が生じる事が知られており、坑壁近傍の岩盤で局所的に偏差応力(空間的に非対称な成分から成る剪断応力)が増大し、岩石の結合力を超えて塑性変形させる事で生じると考えられていた。実験坑道では応力が最も大きくなる天盤と底部のσ3の向きの壁で破砕・崩落が進み、天盤には深さ50cm(トンネル直径の14%相当)のV字型の切れ込みが発生した。

こうした進行性の損傷発生を三次元有限要素法による岩盤挙動シミュレーションで再現するために、弾性変形域を超えて塑性変形する際に砂や粘土が示すような粘着力低下とせん断抵抗が生じるとの想定を有する、通常の岩盤モデルでは使わない非線形・結合力低下・摩擦強度上昇(CWFS)モデルが採用された。実験坑道から水平片側と直上に80m遠方までの岩盤三次元ブロックを設定し、このブロックにCWFSモデルを反映した物性を設定し、実験坑道と同じ広域応力状態下(ただしσ1を水平、σ3を鉛直に設定)で坑道を開削した場合の坑壁の応力集中による損傷・天盤崩落の発生状況を、掘削0.5m毎に計算した。その結果、塑性変形時の結合力低下と摩擦角可動化のパラメータを適切に設定する事で、天盤のV字型の切れ込み発生がほぼ再現された(図3)。

図3.σ<sub><p class=2の向きに開削された坑道の天盤崩落の再現” width=”790″ height=”275″ class=”size-full wp-image-126475″ /> 図3.σ2の向きに開削された坑道の天盤崩落の再現

(左)URL実験坑道の坑壁損傷再現用の三次元岩盤の
ブロックモデル

(右)坑道天盤に生じた進行性崩落の形状実測値と三次元再現シミュレーションの結果との比較(論文1)

さらにこの結果を用いて、実験坑道がσ1とσ2の双方に45°で斜交する向きに掘られた場合の坑壁の損傷度が、現状再現シミュレーションの条件を用いて予測された。その結果、天盤に生じるV字型の切れ込みはσ2に平行な場合よりもやや小さくなるが、加えて片方の側壁だけが崩落する非対称な損傷が予測された。これは、最大主応力の向きが力学的境界である坑壁と斜交するため、坑道側壁近傍の岩盤に剪断応力が生じ、その状態が坑道の左右で異なるためである。

坑道がσ1の向きで坑壁が最も安定し、σ2の向きで最も激しく損傷するのであれば、両者に45°で斜交する向きの坑道の損傷はその中間程度と予想されがちである。しかしシミュレーション結果では、主応力に斜交する坑道でも天盤崩落は無くならず、更に側壁にも損傷が生じると予測された。これは、坑道の支保・補強を考える場合、主応力と斜交するよりはむしろσ2に平行な方が対応し易い場合もあり得る事を示している。

図4.σ1、σ2と斜交する向きに開削された坑道の天盤崩落の予測

図4.σ1、σ2と斜交する向きに開削された坑道の天盤崩落の予測

(左)(a)主応力とこれに斜交する坑道との関係、(b)坑壁に対する垂直/剪断応力に変換した状態、(c)坑壁損傷予測用の三次元岩盤ブロックモデル

(右)進行性崩落の三次元予測シミュレーション結果(右の図の右側、青い線で示された断面形状)(論文1)

地下の坑道配置を設計する際に、対象域の広域応力の主軸の向きが判っていれば、開削後の坑道壁に発生する損傷の度合いを予想する事が出来る。その坑道の用途や目的によっては、損傷が少なくなるよう設計する事で、操業時の坑道管理をより容易にする事が出来る可能性もある。

2.坑内掘り鉱山の坑壁安定性と原位置応力との関係

坑内掘り鉱山では、開削した坑道壁面を安定化させ、落盤や山撥ねを回避し必要な空洞形状を維持することが、安全操業上の絶対条件である。この基本的な作業を確実かつ効果的に実施するために、周辺岩盤の原位置応力の状態を知る事の重要性を示す事例が幾つか報告された。

事例2:豪州・CSA鉱山の坑壁変位の再現と予測(論文2、3)

豪州NSW州のCSA鉱山では、南北走向・急傾斜西落ちの頁岩中の層準規制型銅鉱体がサブレベル・ストーピング法にて採掘されている(図5)。

図5.CSA鉱山の坑道配置

図5.CSA鉱山の坑道配置

西側から東を望む。地表下1000m以深の採掘空洞は、
水色:砕石、ピンク:水硬セメント、赤:両者いずれかで
充填されている(論文3)。

鉱体を胚胎する頁岩は堆積構造に起因する物性の異方性を示し、コア試料の層理面と平行な向きの強度は直交する方向の1/5の値であった。これが原因で、層理面に沿って南北方向に開削された坑道の側壁が盤膨れ・座屈し坑内にせり出す変形が生じた。さらに坑道開削直後は顕著な変形が無い場所でも、近傍の鉱体の採掘が進み空洞が拡大するにつれ、変形が進行する場合があった。

坑壁の変形は深部ほど顕著になり、地表下1,530mのレベルでは従来の支保・補強工事では坑道維持が困難な状況となったため、それ以深の開発の際には以下の対策が講じられた(論文2)。

  • 鉱体下盤の坑道が頁岩の走向に対して40~45°で斜交する向きになるよう、坑道のレイアウトを変更。
  • 既存坑道の支保損傷度(坑壁変形、ネット内の岩塊集積、ボルト破損等)を指標化して評価し、その分布をマッピング。
  • 鉱山に出現する各岩相単位の坑道壁やボーリングコア試料の観察結果に二種類の岩盤評価基準を適用し、二通りの推定岩盤強度を割り当てる。
  • 既存採掘レベルの支保損傷度と推定岩盤強度を比較し、より相関が高い指標による深部での強度分布状況から、坑壁に顕著な変形が発生する場所を予測。

これらの対策により、坑道の支保・補強を、顕著な変位が予想される坑道で強化し、予想されない場所で簡素化する効率的な対応が実現した。

写真1.CSA鉱山における岩盤の力学的性質に起因する変形・破壊の状況

写真1.CSA鉱山における岩盤の力学的性質に起因する変形・破壊の状況

(左)頁岩コア試料を用いた層理面と平行な向きの載荷による一軸圧縮試験後の状態

(右)坑壁の盤膨れ・座屈が顕著な地表下1530mLのドリフト坑道(論文3)

こうした対応が講じられた1,560mL以深の坑道では、坑道開削後周囲の採掘が進んでも顕著な坑壁変形は生じず、支保の損傷度も小さく抑えられた(図6)。従前の経験に基づく坑道の支保・補強の仕様変更は現場にとって非常に大きな決断だが、この事例では、既存坑道の支保損傷度と岩盤評価指標に基づき推定した岩盤強度とが良く一致したため、この決断の説得力が増したと評価された。

図6.CSA鉱山の坑道レイアウト変更前(1,530mL)と後(1,590mL)の坑道支保損傷度の比較(論文2)

図6.CSA鉱山の坑道レイアウト変更前(1,530mL)と後(1,590mL)の
坑道支保損傷度の比較(論文2)

更にCSA鉱山では、岩盤応力の三次元シミュレーションにより、坑道壁面の変形状況の再現も試みている(論文3)。

  • 鉱山周辺の岩盤応力を様々な深度と手法で測定した結果から、σ1がほぼ水平南北方向を示す広域応力の状態を特定。
  • 鉱山開発に伴う坑道開削・採掘空洞拡大の経緯を空間と時間で再現する三次元モデルを作成し、周囲の岩盤の応力状態が、均質な広域応力から、各地点でどう変化して来たかを再現。
  • 再現された応力状態の変化が各位置の坑壁を変位させる状況を再現し、その程度の分布が支保損傷度のマッピング結果と一致するようにパラメータを調整し、岩盤応力の変化を再現(図7左)。
  • 坑壁に顕著な変形が生じた坑道断面の周囲の三次元モデルを切り出し、頁岩の層理面が作る強度異方性や塑性変形に関するパラメータを与えた特殊な三次元モデルを作成。
  • 先に再現した当該地点付近の岩盤応力の状態で坑道沿いの岩盤が示す変形の形状を再現し、それが実際に生じた左右非対称の変形と一致するようパラメータを調整、最適解を決定(図7右)。
図7.CSA鉱山における三次元岩盤応力シミュレーションによる坑道壁面の変形の再現

図7.CSA鉱山における三次元岩盤応力シミュレーションによる坑道壁面の変形の再現

(左)採掘空洞周囲の最大主応力の分布   (右)顕著に変形した坑道周囲の岩盤の塑性歪み量(論文3)

因みにこのシミュレーションでは、三次元モデルの各岩相ドメイン(三次元モデルの対象となる地質区分)に割当てる岩盤強度を、前述の坑壁損傷度と整合的だった指標とは別の指標に基づいて決めた方が、得られた変形度の分布と支保損傷度のマッピング結果との一致度が高かった。更に一つの岩相ドメイン内を、場所による推定岩盤強度の違いによって複数のサブドメインに区分する事で、一致度を更に高める事が出来た。

事例3:Cuiabá鉱山における鉱山地震による支保損傷の危険度評価(論文4、論文5)

ブラジルMG州の緑色岩類中のOrogenic Gold型金鉱床を、サブレベル・ストーピング法で採掘しているCuiabá鉱山では、採掘対象が地表下1,000m以深に達して以降、鉱山地震が増加した。震源の位置は時間と共に移動する静的なもので、採掘の進行に伴う岩盤応力の状態変化が地質構造中の弱線沿いの剪断を引き起こす事で生じると考えられている。その地震に誘発される坑道の落盤、山撥ね、鉱柱崩壊等の被害を極力回避し、労働者の安全を確保するために、鉱山地震の観測体制を整え、坑内を位置・深度で区分したエリア毎に、地震発生の危険度が評価された(論文4)。

図8.Cuiabá鉱山の深度800~1200mの間のエリア分け(論文4)

図8.Cuiabá鉱山の深度800~1200mの間のエリア分け(論文4)

採掘深度800~1,200mの範囲をエリア分けし、各エリアで発生する地震の特徴を以下の尺度で評価し、各々に閾値を設けて程度を係数化した。

  • 発生した地震の規模(マグニチュード、S波とP波のエネルギー比)
  • 地震発生と鉱業活動との呼応度(発破後の時間帯に集中して地震が発生する傾向の有無)
  • 累積発生頻度-マグニチュード曲線の傾き(b-value、全発生数中の規模の大きな地震の多さ)
  • RHA(山撥ね被害評価)指標(地震の放射エネルギー、見掛け応力、地震モーメントの総合指標)

大部分の地震のマグニチュードは0.5以下、S/Pエネルギー比は10以下で、これらが採掘に伴う応力変化で生じたとの解釈と整合的であった。地震発生エリア間で結果を比較し、他に比べて規模の大きな地震が多く、その鉱業活動との呼応度が高く、山撥ね被害評価指標の値が大きいエリアは、今後の地震被害発生リスクが高いと評価し、そのエリアの支保・補強工事の仕様を強化した。

表1.Cuiabá鉱山で発生した鉱山地震の波形データの各指標値とエリア総合評価結果


表1.Cuiabá鉱山で発生した鉱山地震の波形データの各指標値とエリア総合評価結果

更に同鉱山では、支保の損傷度の予測解析も行われた(論文5)。主要な恒久坑道の一つであるSerrotinho斜坑には、坑壁を巻立てたショットクリートの剥離や開口割目、ロックボルトの変形等の損傷が生じる場所があり、特に斜坑近傍のストープでの採掘開始後に損傷が顕著に進行し、変位は最大15cmに達した。結晶片岩の岩盤は複雑な褶曲変形を被っており、坑壁の岩盤の片理の向きは場所により変わるが、片理面が坑壁と平行になる部分に損傷が生じる傾向が認められた。

図9.Cuiabá鉱山の坑壁変形

図9.Cuiabá鉱山の坑壁変形

(上)a:片理構造と坑壁変形の関係、b:ボーリング孔の状況  (下)a:坑壁被覆の剥離、b:坑壁被覆の膨張

こうした坑壁の損傷状態を複数の指標により定量化し、総合的な損傷度を5段階に区分してマッピングした結果、顕著な損傷は特定のエリアに集中していることが明らかになった。その後の坑壁の変位の進行を週に一度の計測でモニタリングすると、損傷の集中するエリアでは変位の進行速度も大きかった。

図10.Cuiabá鉱山Serrotinho斜坑の支保損傷度のマッピング結果(論文5)

図10.Cuiabá鉱山Serrotinho斜坑の支保損傷度のマッピング結果(論文5)

図11.Cuiabá鉱山Serrotinho斜坑の坑壁変位量の再現シミュレーション結果

図11.Cuiabá鉱山Serrotinho斜坑の坑壁変位量の再現シミュレーション結果

これまでの採掘空洞拡大による周囲の岩盤応力増加によって、Serrotinho斜坑の坑壁に生じると計算された鉛直方向の変位量の分布。σHの矢印は広域応力のσ2(水平面内での最大圧縮応力)の向き(論文5)。

支保損傷が集中するエリアは、鉱山地震の発生と同様に、採掘空洞の拡大に伴う岩盤応力の変化が特に大きい場所ではないかと予想された。これを確認し、坑道の支保・補強をより効果的・効率的に行うために、採掘空洞拡大に伴う岩盤応力の変化を三次元岩盤応力シミュレーションで再現し、Serrotinho斜坑沿いで特にこの変化が大きいエリアの特定を試みた。

この鉱山では、周辺岩盤中での原位置応力測定の結果から、岩盤に加わる広域応力の状態が、後述の方法により、σ1の大きさは深度1,000m付近で約40MPa、向きは東西と決定されていた。

そこで、鉱山周辺の岩盤を構成する各岩相ドメインに三次元形状と物性値を割当て、その中に採掘空洞(ストープ)を配置した三次元空間モデルを作成し、これに上述の広域応力が加わる状態で鉱石採掘・空洞拡大が進む事により、斜坑周辺の岩盤の応力状態がどう変化するかを再現した。

その結果、再現シミュレーションで斜坑沿いでも特に応力変化が大きいと考えられた場所が、斜坑の支保損傷度マッピングで大きな損傷が集中するエリアと概ね一致した。こうしたエリアは、斜坑の向きが初期応力の主軸と高角度(120°程度)をなす場所であった。

ただし再現された坑壁の変形量は最大でも1cm以下で、実際に斜坑で生じた最大変形量15cmより一桁小さかった。一般に岩盤を均質連続体として扱う数値計算では、坑道壁面の変形の度合いは実際より小さく再現される傾向があると言われる。坑壁の変位の量や形状を正確に再現するには、事例2で用いられたような特殊なパラメータを組込んで岩盤の異方性や塑性変形の特性まで再現するモデルを用いる必要がある。

事例4:Kvannevann鉱山深部での高岩圧下採掘の数値モデルによる再現とモニタリング(論文6)

ノルウェー北部ヌールラン県に位置するKvannevann鉱山は、古生界変堆積岩類の東西走向・急傾斜互層中の縞状鉄鉱石層を100年近く露天採掘して来たが、切羽の深部化への対処のため2000年から坑内掘りに移行。Kvannevannピット底(海抜400mL)から幅(層厚)30~100mで更に深部へと続くØrtfjell鉱体を、鉱柱で区切った平均長さ60m前後のストープに区切り、320mLの中段坑道から削孔・発破し250mLの運搬坑道に落とすオープン・ストーピングで採掘。更に深部は、深度30m×距離22mの間隔で生産横坑を入れるサブレベル・ケービングにより123mLまで採掘する予定(図12)。

図12.Kvannevann鉱山の鉄鉱石露天掘りピットの地下での坑内採掘の概要

図12.Kvannevann鉱山の鉄鉱石露天掘りピットの地下での坑内採掘の概要

(a)Kvannevannピットの露天掘り現場衛星写真への坑内掘り範囲の投影(ピンク部分)。
(b)海抜400~250mL間のsub-level open stoping(紫・灰色は天盤として残置された鉱石、緑は鉱柱)。
(c)海抜250~123mL間のsub-level caving(左はV30×H22m間隔の横坑とその採掘範囲セルの配置)(論文6)

この最深レベルへのアクセス斜坑や周辺の坑内施設では、坑壁に明瞭な変位・変形が生じない状態で突然天盤崩落や岩塊突出が起こるという、硬い岩盤が高応力下で示す挙動が見られ、坑内保安上の問題になっている。一部の坑内施設では床面の隆起も生じており、大きな水平圧縮応力の存在が予想された。坑内の多くの深度・位置で行われた岩盤応力の原位置測定は、南北方向の最大主応力は大部分で25MPa以上、一部は40MPaを超える大きな値を示した。これは広域応力が採掘空洞の出現で解放・再配置された結果、特定の場所に応力が集中しているものと推測された。

この鉱山の坑内掘り深部でのサブレベル・ケービングは、東西に延びる鉱体の両端部で始まり、同一レベル内の鉱体を中央部に向かって掘り進み(図13(a))、最後に東西の空洞が合体する。従って採掘進行に伴い2つの空洞が拡大・接近し、間に残る未採掘鉱体に空洞拡大による応力再配置が集中して応力が大きくなると予想される。この応力は空洞が合体すると解放・再配置されることから、合体直前に応力が最大となり落盤や山撥ねのリスクが高まる採掘段階(critical mining step)があるはずである。従って各レベルの採掘計画中のどの段階がこの段階であるかを知る事は、坑道の支保・補強工事の設計と施工計画上非常に重要となる。

そこでこの鉱山では、深部鉱体の開発に伴い応力集中が生じる場所と時期を予測するために、岩盤応力の状態の数値計算による再現・予測用の三次元岩盤・空洞モデルが構築されている。採掘範囲の地質構造と坑道・採掘空洞の配置を三次元モデル化し、各地質単位には、当該岩石の物性値を各坑道・空洞が開削・採掘された時期を割り付けた。広域応力の状態は、過去の坑内での原位置応力測定結果に周囲の空洞の影響を加味した複数の想定から、後述する逆算法によって最も確からしいと判断され、最大主応力の向きが概ねNNW-SSEで水平(=地層の層理面に直交)という想定が採用された。

空洞の影響を反映した応力状態の数値計算は、空洞の拡大に伴う変化の過程を追うために、250mLまで採掘完了時点、221mLでの採掘進行途中の12段階、187mLで同じく36段階、153mLで10段階(途中で実績から計画ベースへ)、最後に123mLの採掘完了予定時の、計60通りの空洞配置に対して行われた。

図13.Kvannevann鉱山の坑内岩盤応力の数値計算結果

図13.Kvannevann鉱山の坑内岩盤応力の数値計算結果

(a)海抜221~187mL間の採掘がcritical mining stepにあった2015年12月28日時点の空洞分布における最大主応力の値の205mLでの分布を上から望む。東西の採掘空洞の間に残る未採掘鉱体に応力が集中し、35MPa超の大きな値が出現。(b)中央に残る鉱体を横断する断面(A-A-187)中の最大主応力の大きさの分布を西から望む。採掘空洞の底と187mL横坑の間の岩盤に応力が集中している。(論文6)

こうした三次元モデルによる数値計算の精度を検証・改善するには、採掘進行時の坑道の応力状態の実測値と再現計算結果の比較が必要である。本研究では、221mLと187mLにおいてサブレベル・ケービング採掘が進行していた期間に、坑内で応力集中が起こると予想された鉱体中央部の複数箇所で、坑壁の岩盤に加わる最大主応力の大きさを伸長計やドアストッパー法により長期間モニタリングし、その結果を、該当する採掘段階の空洞状況におけるその場所の応力状態の数値計算結果と比較した(図14)。

三次元モデルに基づく数値計算結果は、実測データと概ね同水準の応力値を示し、高い応力が加わる範囲も実際に発生した落盤・山撥ねや坑壁損傷のそれと整合的であった。各レベルでの採掘の進行中で、鉱体中央部の岩盤に加わる応力が特に大きくなるcritical mining stepの期間を特定する事も出来た。

図14.鉱体周辺の応力状態の推移を再現する数値計算の結果と実測値との比較の例

図14.鉱体周辺の応力状態の推移を再現する数値計算の結果と実測値との比較の例

221mLのある地点における水平二次元平面中の最大主応力の大きさを緑、最小主応力の大きさをピンクで示す。複数の条件設定による再現計算結果はどれも採掘作業がcritical mining stepを迎えた後に低下するが、最大主応力の実測値は逆に上昇している(論文6)。

ただし個々の地点での計算結果は、実測結果を十分に再現は出来ていない。特に実測データは空洞結合後に最大主応力が低下せず、むしろ上昇が続く場合が多かったが、数値計算はこれを示せなかった(図14)。原因としては、実際の採掘空洞では残った鉱石塊が上盤と下盤の間に挟まって鉱柱状になって応力を伝えるため応力解放が起こらない、あるいはモデルの岩石の挙動様式(塑性変形領域の有無など)や物性値の設定が実態と異なる、などの要素が考えられ、今後こうした点の改善を試みるとしている。

3.広域応力の測定・決定方法に関する課題

鉱山操業現場における岩盤応力と坑壁変形・支保損傷との関係の考察では、基礎情報として各現場の広域応力の情報が必要である。岩盤の力学的性質の異方性までを考慮した坑壁変形の少ない坑道レイアウトや、坑道開削後の応力変化の予測など、最新の解析技術を導入するためにも、広域応力の情報は欠かせない。

しかし現実的には、鉱山操業現場において広域応力の状態を正確に把握する事は非常に難しい。その理由の一つは、どの応力測定方法にも適用対象の制約(水没孔中での測定の可否、遠隔操作可能な距離の上限など)や取得可能情報の制約がある上に、測定作業には大きな手間と費用を要するため、十分な質と数の応力情報を取得するのが難しい事にある。更に、複数の原位置岩盤応力測定結果の間に大きな差がある場合、その不一致が単なる測定誤差なのか、あるいは局所的な応力変化が生じていると考えるかなど、その判断は難しい。

こうした背景から、今回の総括の対象とした2つの国際学会では、鉱山操業現場において正確な広域応力情報を取得する方法に関する研究成果の報告もあった。

3-1.坑内の他の情報を再現する事による「逆算」(事例3、論文5)

前出のブラジルCuiabá鉱山では、周辺岩盤の三次元応力モデルの設定条件として想定する広域応力(この場合は鉱山開発前の初期応力という位置付け)の状態を決めるために、坑内の坑道損傷度マッピング結果から、Back-analysisまたはStress Calibrationと呼ばれる手法を用いている。

同鉱山では鉱山周辺の岩盤中で原位置応力を測定した結果が複数存在したが、結果のばらつきが大きく、広域応力の状態を明確に決定出来なかった。そこで、広域応力を理論と単純化の仮定(σ3の向きは鉛直方向であるなど)を置いてσ1の向きや主応力成分間の比率など幾つかの係数で表現した式で表し、その係数に仮の値を置き広域応力を与えた三次元岩盤応力モデルにより、鉱山開発に伴う応力変化を再現した。

この仮のモデルが再現した原位置応力測定地点での応力状態は、多くの実測値と一致しない。そこでこの結果が実測値に近付くように、広域応力の式の係数の値を変化させながら、再現シミュレーションを繰り返し、原位置応力実測値を最も良く再現出来る係数の値を求め、これを鉱山周辺の広域応力(鉱山開発前の初期応力)の状態とした。これにより、更に深部を開発した際の坑壁変位の予測シミュレーションが可能となり、支保・補強工事の仕様変更に有益な情報を与えた。

図15.スウェーデンのMalmberget鉱山でのStress calibrationの例

図15.スウェーデンのMalmberget鉱山でのStress calibrationの例

広域応力の主応力の状態を4通りの異なる方法で想定し、三次元シミュレーションの結果と実測値との誤差が最小となる状態を選んでいる。(ITASCA社Websiteより)

このように、現場応力測定結果がそのまま広域応力を反映していると断言できない場合に、鉱山操業現場で取得可能な別の力学的情報(鉱山開発により変化した後の応力状態、坑道に生じた岩盤の変位状況など)を制約条件として逆解析的なシミュレーションで広域応力を「逆算」する事が可能である。ただしこの場合、広域応力以外の想定条件が詳細かつ正確に設定された三次元岩盤モデルが作れるだけの情報が揃っている事が条件となる。

3-2.限られた情報を用いた統計学的な「推定」(事例5、論文7)

ある岩盤内の特定の点で測定された原位置応力の値(主応力の大きさや軸の向き)は、岩石の力学的物性の不均質性や、断層・割れ目等の力学的不連続面の存在のため、複数の測定値は通常一致せずばらつきを示す。鉱山操業現場の場合、得られる原位置応力測定値の数はごく限られる場合が多いことから、少ない実測値のばらつきをどう解釈・処理するかが問題となる。

一般的な統計学(頻度主義確率論)では、岩盤応力は母集団である岩盤内の全ての点の原位置応力測定値の平均値であり、個々の応力測定値はその母集団からランダムに抽出されたサンプル値として扱われるので、その誤差や不確実性は議論されない。しかし実際には、岩盤の状態に起因する測定結果のばらつきが存在するほか、岩盤応力測定には現場状況に応じて多数の異なる手法が用いられることから、現場の状況や各手法の性格に起因する測定対象や測定項目の制約、測定値の誤差や偏りが存在する。

そこで、個々の現場応力測定値はサンプル値ではなく一定の幅を有する確率分布に従う事象であると考え、岩盤応力を個々の応力測定値群との間に因果関係を持った別の確率分布として推定する「ベイズ推定」が適用された。この推定法は、母集団の範囲限定が難しい実社会の事例(医学的診断やスパムメールの判定など)で利用されている。岩盤応力の推定では珍しくない、真値を推定する根拠としてごく少数の測定値しか利用出来ない状況では、その測定値の誤差や不確実性を考慮せずに広域応力を推定すると得られる推定結果が実態から大きく外れる可能性があることから、ベイズ推定を用いる事が提唱された。

この事例では、実際に取得された多数の主応力軸の向きと大きさの測定値の中からランダムに抽出した少数の測定値を用いて、全データの平均値(真の広域応力)を、一般統計処理とベイズ推定の2通りの方法で推定した結果が比較された。ベイズ推定では、まず一つの測定値を起点に、真の広域応力の状態を様々な参照情報(現場で観察された岩盤やコアの産状、試料採取地点の地表からの深度等)から推定される制約条件に従って分布すると想定し(事前分布)、この分布に従う乱数計算(モンテカルロ・シミュレーション)により、その確率密度分布としての係数を決める。次に別の観測値を与え、それが出現値として矛盾なく表現されるように先に決めたパラメータを修正し、推定の幅を絞り込む。この作業を利用出来る全測定値について行い、確率密度分布を得るのがベイズ推定である。

図16.応力の主軸の向きを少ない情報からベイズ推定で求めた例

図16.応力の主軸の向きを少ない情報からベイズ推定で求めた例

(左)全応力測定101件の主軸方向のプロット
(中)最大主応力σ1の向きを、ある10件の測定値(sample 5)からベイズ推定で得た確率分布の出現範囲(灰色)とその平均値(赤×)と、全測定値のベイズ推定で得た確率分布の出現範囲(青)とその平均値(赤○)
(右)中間主応力σ2の向きの確率分布と平均値を同様に示したもの(論文7)。

図16に示す通り、全測定値からベイズ推定した主応力軸の向きの分布範囲(95%確率での存在域)は、平均値の近傍に絞り込まれるが、測定値の数が少ないと平均値が不正確になるだけでなく、その分布範囲が広く(不確実性が高く)なる。従って少数の応力測定値の単純平均値を真の値と決めてかかる事は危険であり、ベイズ推定を用いて測定値の不確実性を定量的に考慮すべきであると、講演者は主張する。これは、応力の状態を正確に知るためには、極力多くの測定データを取得する必要があるという意味でもある。

また、応力の状態を暗示する情報であるが、測定値として扱う事が出来ない、例えば地質構造などの参照情報を事前に確率分布に反映させる事が出来るので、結果として応力状態の分布範囲を測定値の分布だけから機械的に求めるよりも狭く絞り込む事が出来るのも、ベイズ推定のメリットである。

4.応力状態のモニタリングの必要性

ストーピング法で鉱石を採掘する坑内掘り鉱山では、坑道開削後に鉱石採掘が始まり採掘空洞が拡大するのに伴い、近傍の坑道に加わる岩盤応力が初期応力の状態から次第に変化する事が、坑壁の変形や支保の損傷の原因になり得る。紹介した2つの事例では、坑壁変形と近傍の採掘空洞の拡大とが同時進行する状況からそれが推定され、三次元岩盤応力シミュレーションによりそれが再現された事で裏付けられた。

しかし、坑道の周囲の岩盤に加わる応力の状態変化が直接観測された事例は、今のところ非常に少ない。これは、開削後の坑道では坑壁の変位の進行が定期的に測定・モニタリングする事が普通に行われており、その結果から間接的に応力状態の変化が認知される場合が多いためであると考えられる。論文6で応力モニタリングに利用されたドアストッパー法も、坑壁の変位から岩盤応力の状態を推定する手法である。ただし、もし仮に空洞から離れた場所の岩盤に加わる応力の状態を長期的・連続的に観測しその変化を検知する必要性が生じた場合、それを確実に実現する現実的な方法が存在しないのも事実である。

岩盤の応力状態の定量的な原位置測定は、岩盤中に設けた空洞(坑道、ボーリング孔)の形状が、ジャッキ載荷やオーバーコアリング等により人為的に発生させた応力変化に応答して生じる変形・歪みを観測する事で行われる。しかしこの方法では、一度の応力変化に対して一度の観測しか行えず、定期的に観測するには毎回人為的な応力変化を起こす必要がある。これは鉱山操業現場で行うには余りに手間が掛かる作業である。また地震や火山噴火の予知に利用される精密な岩盤歪み計は、装置が大きく設置に非常に手間が掛かる上に、発破や重機での作業の振動等のノイズが多い環境下での観測には適さない。

鉱山周辺の岩盤の三次元モニタリング技術の発達で、正確な三次元モデルがあればかなり精密な岩盤応力の挙動を数値計算により再現・予想が出来るようになったが、こうしたシミュレーションは現場実測値をコントロールして実態に一致させなければ、それは単なる机上計算でしか無い。今後、より精緻な岩盤の挙動を再現・予想するためには、そのコントロール値となる岩盤応力の実測値がより多く必要となる。そのためには、測定の場所や回数を増やすだけではなく、定点での連続観測も必要となるであろう。鉱山操業現場が持つ、数値シミュレーション技術を有効活用したいというニーズに応える、岩盤中に設置した測定器具を長期間運用しながら継続的に応力の絶対値を観測する装置の実用化が強く望まれていると考える。

5.まとめ

  • 鉱石採掘現場の深部化により高い岩盤圧力の中での作業が増え、そうした環境下での坑道の保安管理と効率的な採掘活動実現のために、安定で損傷の少ない坑道の設計・管理が重要となっている。
  • このニーズに応える技術として、三次元岩盤モデルによる数値シミュレーションの利用が進みつつあり、これに欠かせない必須情報として、周囲の岩盤に加わる応力の情報を取得する必要性が高まっている。
  • 作業上の制約が大きい鉱山操業現場で利用可能で、多くの岩盤応力データが取得可能な岩盤応力測定法に対して大きなニーズがあるが、現状ではこれに十分応えるだけの測定技術・ツールが普及していない。

おわりに

本稿では、2つの国際学会で紹介されたトピックを概観し、鉱山操業現場の岩盤力学技術者の間で、現場操業の安全性・安定性確保のために原位置岩盤応力情報を取得し利用しようという技術的なトレンドに該当するものを抽出し紹介した。このトレンドは、鉱物資源の利用を続ける上で避けて通れない開発対象の深部化に対応するための動きであり、今後確実に利用が進む高速数値計算技術に基づく三次元岩盤シミュレーションの利用とは表裏一体の関係にある事から、一時の流行ではなく、この技術分野の長期的な方向性となる事は間違いないと考えられる。

この流れにおいて今後必要になると考えられることとしては、鉱山操業現場においてより質の良い岩盤応力情報を多く取得出来るような、より広い現場条件下での効率的・安価な岩盤応力測定技術の適用である。今後深部化する世界の資源開発現場でそのニーズが増すのは必至な状況においては、これが将来の鉱物資源開発を支える基礎技術の一つになると予想される。

我が国は、山がちな国土に多くのトンネルや地下空洞を利用した施設を建設し、地震予知のため上部地殻の動的データを取得して来た経緯から、地下の特定の場所の岩盤応力を現場で直接測定する原位置応力測定に関して多くの知見と技術を有する。我が国が培って来たこうした技術を、鉱山の開発・操業現場に適用化出来れば、このトレンドを加速させる役割を果たせる可能性があると考える。

そこで今後、現状の岩盤応力測定技術の課題と、それに対する解決策となり得る我が国の技術シーズについて、改めて総括する機会を持ちたいと考える。


<総括対象とした国際学会の予稿集>
ISRM 2019 論文集(“Proceedings of ISRM 2019”)
Proceedings in Earth and geosciences series, Volume 6, Rock Mechanics for Natural Resources and Infrastructure Development – Fontoura, Rocca & Pavón Mendoza (Eds), Proceedings of the 14th International Congress on Rock Mechanics and Rock Engineering (ISRM 2019), Foz Do Iguassu, Brazil, 13-18 September 2019,
Deep Mining 2019予稿集(“Proceedings of DHSM”)
W Joughin (ed.), Proceedings of the Ninth International Conference on Deep and High Stress Mining, The Southern African Institute of Mining and Metallurgy, Johannesburg,
https://papers.acg.uwa.edu.au/c/deepmining2019
<紹介した講演内容>
論文1:Vitali OPM, Celestino TB & Bobet A, 2019, ‘Progressive failure due to tunnel misalignment with geostatic principal stresses’ in “Proceedings of ISRM 2019”, pp. 2292-2299
論文2:B. Chapula, GB & Sharifzadeh, M 2019, ‘Strategies for managing large deformations at CSA underground mine’, in “Proceedings of ISRM 2019”, pp. 693-699
論文3:Sharrock, GB & Chapula, B 2019, ‘Anisotropic rock mass behaviour in large deformation ground at CSA mine’, in “Proceedings of DHSM”, pp. 307-322,
https://doi.org/10.36487/ACG_rep/1952_23_Sharrock
論文4:Dominoni, CMB, Fontoura, SAB, Cumming-Potvin, D & Cota, RF, ‘Seismic hazard assessment at Cuiabá Mine’, in “Proceedings of ISRM 2019”, pp.219-227
論文5:Costa, LCB, Padula, RC, Pimenta, LMV, Pereira, RS & Peterle, DT 2019, ‘Support and reinforcement damage initiation and design adjustments in a deep mine environment Case study: Cuiabá Mine, Minas Gerais, Brazil’, in “Proceedings of DHSM”, pp. 97-108,
https://doi.org/10.36487/ACG_rep/1952_08_Costa
論文6:Trinh NQ, Larsen TE, Molund S, Nøst B, & Kuhn A, ‘Numerical modelling of the high rock stress challenges at Rana mine, Norway’, in “Proceedings of DHSM”, pp. 109-122,
論文7:Feng, Y, Harrison, JP & Bozorgzadeh N, 2019, ‘Uncertainty quantification of in situ stress estimations: A Bayesian approach’, in “Proceedings of ISRM 2019”, pp. 1732-1739
<その他>
ITASCA Consulting社ウェブサイト、Malmberget鉱山でのStress Calibrationの紹介プレゼン
https://www.itascacg.com/technical-papers/three-dimensional-modeling-and-stress-calibration-for-a-complex-mining-geometry

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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