閉じる

報告書&レポート

2021年7月16日 ヨハネスブルグ 事務所 原田武
21_02_vol.51

南アフリカ共和国におけるPGM供給の最近の動向

<ヨハネスブルグ事務所 原田武 報告>

はじめに

2020年は、南アフリカ共和国(以下、「南ア」という。)にてコロナ禍に伴うトラブルや精錬所の事故などが重なり、PGM生産が減少した。一方で、世界経済のコロナ禍からの復興過程で、ガソリン車の排ガス浄化触媒に使われるパラジウムやロジウム、燃料電池用電極触媒として注目されるプラチナ、イリジウム、レニウムの価格の上昇が見られる。世界的な環境重視の情勢を背景としたPGM需要の変化の中で、供給サイドの動向とその背景について、主にPGMメジャーであるAnglo American Platinum(Amplats)社、Impala platinum(Implats)社、及びSibanye-Stillwater(Sibanye)社の3社のプロジェクトに注目して整理した。

1.PGM価格の急騰と南アPGM生産の減産

2020年の実績ベースで、南アのプラチナ生産量3.22百万ozは、世界の鉱山生産4.94百万ozの約65%を占めており、隣国ジンバブエの0.48百万ozも加えると、約75%が南アを経由して輸出されている(「Johnson Matthey Pgm market report, May 2021」のデータ1を参照)。南アにとって、プラチナを含むPGMは海外輸出高のトップであり、最重要の輸出品目である。2021年の南アPGM事業は、好調な操業と急騰したPGM価格の恩恵を受け、各社とも良好な見通しを持っている。4E(プラチナ、パラジウム、ロジウム、金の4元素)バスケット価格指標の推移を現地通貨ランド(ZAR)建てで見れば、2020年から2021年にかけての著しい伸びが明らかである(図1)。

図1.PGM(4E) Basket Price指標の推移

図1.PGM(4E) Basket Price指標の推移

※ プラチナ、パラジウム、金の価格はLBMAの月平均、ロジウムはスポット価格の月平均をS&P Global Market Intelligenceより引用してJOGMECにて作成。

※ Basket Price指標(ZAR/4Eoz)は4E(プラチナ、パラジウム、ロジウム、金の4元素)の南アランド(ZAR)建て価格から、プラチナ価格58%+パラジウム価格32%+ロジウム価格8%+金価格2%の合計を指標2として計算して図にプロットした。

南アにおける2020年のプラチナ生産量3.22百万ozは、前年比約26%の減であった(「Johnson Matthey Pgm market report, May 2021」のデータを参照)。最近のPGM価格の高騰は、南アからの供給不安が一つの引き金になったと考えられる。この減産の直接的な要因としては、2020年2月に起きたAmplats社の製錬・精錬工程における事故が挙げられ、図2に示すように、同社の2020年前半及び後半の生産量減は顕著であった。

図2.PGM各社の精錬PGM(3E)半期生産量比較(2020  vs 2019)

図2.PGM各社の精錬PGM(3E)半期生産量比較(2020 vs 2019)

※ 各社のアニュアルレポートのデータを利用してJOGMEC作成。

※ 3Eはプラチナ、パラジウム、ロジウム3元素の合計。

南アにおいては、図3のように、PGM鉱山にて生産した精鉱をメジャーが有する製錬所(Smelter)や精錬所(Refinery)にて処理をして出荷がなされている。Amplats社が有する大規模な製錬・精錬所では、直営の鉱山からの精鉱のみならず、他社鉱山の買鉱や委託製錬も多く行われており、その工程における事故の影響は大きかった。

ACP(Anglo Converter Plant)と呼ばれる精錬の前工程(Amplats社の4つの製錬所からのマットをWatervalにあるACPにて処理して精錬工程に送る)にて発生した事故の影響で一時は生産が止まり、同社は取引における不可抗力条項を発動した時期もあった。その後、2020年12月に入って修繕が完了し、年内に通常操業に戻っている。2020年の精錬PGM生産量は減少したが、この間の製錬所における在庫は増えており、Amplats社は今後2年をかけて在庫の処理をしていくとしている。そのため、2021年の精錬PGMの生産量は、コロナ禍前のレベルを超えて増加する可能性があると考えられる。

図3.主要鉱山・製錬・精錬所のフロー

図3.主要鉱山・製錬・精錬所のフロー

※ 各社のアニュアルレポート等を参照してJOGMEC作成。

※ ■を付記した鉱山は深部従来型採掘、▲は浅所従来型採掘を主体とする鉱山。

2.南アの従来型採掘の鉱山とコロナ禍の影響

2020年の南アPGM減産には、Amplats社のACPにおける事故が影響した一方で、同年及び2021年はコロナ禍の鉱山操業現場への影響が危惧され、度々その状況が南ア国内にて注目されてきた。鉱山からの生産量の変動を見る限りにおいては、完全なロックダウン体制が敷かれた期間(2020年3月末~4月末)を含む2020年前期に大きく減産したが、その後の回復は早く、2020年後半以降の生産量は、ほぼ前年並みに戻っている。但し、その過程で南アPGM生産の要になる深部従来型採掘を行う鉱山への影響が顕在化しており、南アPGM産業が有する課題の一面が伺える。

南アの金やPGM鉱山においては、従来型(Conventional)と言われる採掘方法による生産がかなりの量を占めている。どの精錬までのプロセスを見ても、図3に図示した通り、従来型(■や▲のマークを付した鉱山)に由来する鉱山が入っていることがわかる。

南アPGMを含むリーフ(鉱層)を採掘する上で、採掘方法は、図4のように従来型採掘(Conventional)、機械化採掘(Mechanised)、それらの中間のハイブリッド(Hybrid)のように大きく分類される。中でも深度1,000m以深を採掘する従来型は、深部従来型採掘(Deep Conventional)と呼ばれている。近年は、重機を導入する機械化採掘の鉱山も増えてきており、南アにおける従来型採掘は減少傾向にあるが、それでも南アPGM生産の約半分ほどが深部従来型採掘に由来する。現在操業中のImpala Rustenburg鉱山(1969年より操業)やMarikana鉱山(1975年より操業)など、古くからの鉱山がこのタイプの例として知られる。これらの鉱山は、西リム(PGMやクロムを産するブッシュフェルト岩体を東・西・北に分けている)のRustenburg市(プレトリアの西方約150km)周辺に集中している。

図4.南アPGM鉱床の採掘方法分類

図4.南アPGM鉱床の採掘方法分類

※ Musingwini, C. and Minnitt, R.C.A. 2008, Ranking the efficiency of selected platinum mining methods using the analytic hierarchy process(AHP)より引用。

従来型採掘では、1m前後のリーフを追いかけて採掘を進めるが、坑内は天盤が低く重機が入り難いため、労働集約型の操業となる。そのような鉱山では、生産コストにおける人件費が多くを占め、操業コストの8割を占めることもある。図5にあるように、PGM業界における深部従来型採掘に従事する従業員数(コントラクターも含む)は突出している(図5の赤棒が深部従来型採掘)。過酷な労働環境を反映して、労働争議が激しさを増すこともあり、過去には半年を超える長期のストライキや大規模な闘争を経験したこともある。

図5.PGM主要鉱山別従業員数(2019)

図5.PGM主要鉱山別従業員数(2019)

※ 各社のアニュアルレポート、Mineral Council SAのデータを利用してJOGMEC作成。

図6は、今回のコロナ禍において、この深部従来型採掘の鉱山操業が、他の採掘タイプよりも大きな影響を受けたことを示している。南アでは、前出のロックダウン期間中には露天採掘以外の鉱山操業は100%休止したが、2020年4月末以降はその後段階的に解除がなされ、同年6月にはフル操業が許可されるようになった。2020年の半期ごとの生産量を比較してみると、完全なロックダウン体制にあった上半期における深部従来型採掘の生産量の減少が顕著である。労働者が多い分、他の採掘タイプよりも復旧により手間が掛かり、その影響が生産量に及んだと考えられる。但し、下半期には前年同期並みの生産量に戻っており、結果的にはロックダウンの影響はあまり長引くことはなかった模様であり、一時的な減産で済んでいる。

南アの労働集約型の現場作業は、コロナ禍などの危機的状況の影響を受けやすいほか、労組の問題や事故等のトラブルのリスクもある。しかし、深部従来型採掘の鉱山は、現在も南アPGM生産にとって重要な位置づけを担っている。以下に、この深部従来型採掘に注目しつつ、各PGMメジャーの生産状況を整理した。

図6.操業形態別PGMに関する2019年及び2020年における半期ごとの生産量の比較

図6.操業形態別PGMに関する2019年及び2020年における半期ごとの生産量の比較

※ 各社のアニュアルレポートのデータを利用してJOGMEC作成。

3.深部従来型採掘鉱山の行く末

南アでは、例年PGM業界関係者が集まるカンファレンス「PGM Industry Day」が行われているが、直近では2021年3月にバーチャルイベントとして開催された3。そのセッションにて、「従来型採掘のPGM鉱山は、南アから無くなりつつあるのか。」との主旨の司会者からの質問に対して、本セッションに参加したAmplats社、Implats社、及びSibanye社のPGMメジャー3社のCEOがパネラーとなり、以下のとおり各社の見解を述べた。先の図5にあるように、雇用に直結する従来型採掘鉱山の先行きについては、南ア国内にて高い関心が持たれている事項であり、本観点に関する各パネラーの見解に注目が集まったと言える。

3.1.Implats社の場合

上記の質問に対して、Implats社CEOのNico Muller氏は、「現在の市場とPGM供給源を考えた場合、今後7~10年は従来型採掘にも強い未来があるが、その先がどうなるかが問題。これまで同社のポートフォリオのバランスにおいて、浅所機械化採掘への移行を野心としてきており、これからもそれは変わらない。」と語った。

浅所機械化採掘への移行は、同社の鉱山の埋蔵量の経年変化に現れている。図7にあるように、年を追うごとに、深部従来型のImpala Rustenburg鉱山が減少傾向を示すのに対して、浅所機械化採掘のZimplats社(Implats社のジンバブエ子会社)やTwo Rivers鉱山(Implats社46%シェア)の有する埋蔵量は増加傾向にあることがわかる。2015年にはImpala Rustenburg鉱山の埋蔵量が群を抜いて大きかったが、今やZimplats鉱山の埋蔵量が圧倒的に大きくなっている。

図7.PGM埋蔵量(4E純分量)の推移(Impala Rustenburg, Zimplats, Two  Rivers)

図7.PGM埋蔵量(4E純分量)の推移(Impala Rustenburg, Zimplats, Two Rivers)

※ S&P Global Market Intelligenceのデータを利用してJOGMEC作成、Two Riversは全権益分。

一方、生産量においては、深部従来型採掘であるImpala Rustenburg鉱山の占める割合が大きく、その重要性が認識できる。プラチナ生産においては、同鉱山の生産量に占める割合が50%以上になっている(図8)。また、ロジウム、イリジウム、ルテニウムといったマイナーなPGMについては、同鉱山の貢献が6割以上を占めており、現状ではPGM生産の要になっていると言える。

 図8.PGM元素別鉱山生産実績(Implats社2020年実績)

図8.PGM元素別鉱山生産実績(Implats社2020年実績)

※ Implats Annual Results 2020のデータを利用してJOGMEC作成。

一方で、南アにおける電気料金や人件費の上昇に伴い、操業コストは年々増加する一方である。そのトレンドは10年ほど前からより顕著になり、南ア鉱山業界にとって深刻な課題となっている。Impala Rustenburg鉱山では、非採算性シャフトの閉鎖やリストラを進め、より採算性の高いシャフトの開発を進めてきた。そのため、2014年以降のコスト上昇の傾向は多少緩やかになっているものの、上昇傾向自体は止まらない(図9の青線)。操業コストの抑制と同時に資本投資(Capital Expenditure)も抑えられ、近年の生産は2005年頃までの生産規模と比較すると、大きく減少していることがわかる(図10の青線)。但し、近年の動き(2014年の大規模ストライキ時の落ち込み以降)には、生産量に上昇トレンドも見て取れ、同鉱山における当面の生産レベルの維持は可能であるとImplats社は見ている。

図9.操業コストの推移(Impala Rustenburg, Zimplats)

図9.操業コストの推移(Impala Rustenburg, Zimplats)

※ Implats Financial Report(各年度6月末)のTotal Cash Cost per 6E(プラチナ、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、金の6元素)を利用してJOGMECにて作成。2021年のデータは、2021年度半期(2020年12月末期)レポートのデータを利用。

※ 現地通貨ランド(ZAR)表示。

図10.資本投資の推移と生産量の推移(Impala Rustenburg, Zimplats)

図10.資本投資の推移と生産量の推移(Impala Rustenburg, Zimplats)

※ Implats Financial Report(各年度6月末)の数字を利用してJOGMEC作成。

※ 現地通貨ランド(ZAR)表示。

3.2.Sibanye社の場合

深部従来型採掘のリストラを図りつつ機械化への移行を目指すImplats社に対して、Sibanye社は、2016年から2019年にかけて深部従来型採掘のアセットを積極的に取り込み、PGMのポートフォリオを拡張してきた経緯がある(図11)。同社は、PGMを扱う以前から金における深部採掘を手掛け、南アの深部従来型採掘の経験を有する鉱山会社である。Sibanye社CEOのNeal Froneman氏は、「ウルトラディープの南ア金鉱山と比べれば、PGMはディープ又はミディアムディープと呼ぶべきか。新規PGMプロジェクトについては、露天採掘が可能であればそれに越したことはないが、深部鉱山であっても良質なものであれば、喜んで購入したい。」と語る。最近も、深部従来型採掘のMarikana鉱山におけるK4シャフトの開発に大規模投資を決めている。

図11.Sibanye社の埋蔵量(PGM純分量)の推移

図11.Sibanye社の埋蔵量(PGM純分量)の推移

※ (1)Amplats社からの買収、(2)Aquarius Platinum社の買収、(3)米Stillwater Mining社の買収、(4)Lomin社の買収

※ Sibanye Mineral Resources and Mineral Reserves Report 2016~2020の数字を利用してJOGMEC作成。Rustenburg、Kroondal JV、Mimosa JV、Marikanaについては4E(プラチナ、パラジウム、ロジウム、金の4元素)、Stillwater、East Boulderについては2E(プラチナ、パラジウム)の値。いずれも権益相当分。

南アSibanye Rustenburg鉱山(2016年にAmplats社より買収)及びMarikana鉱山(2019年にLomin社を買収)では深部従来型採掘を主体としており、両鉱山がSibanye社の生産の要となっている。特に、プラチナは同社生産の7割、ロジウム、ルテニウム、イリジウムに至っては8割近くを2つの鉱山で担っている(図12)。

図12.PGM元素別鉱山生産実績(Sibanye社の2020年実績)

図12.PGM元素別鉱山生産実績(Sibanye社の2020年実績)

※ Sibanye社が公開する統計データ(Historical statics by operation)を利用してJOGMEC作成。

Sibanye社がこれらのアセットを引き継ぐ前からシャフトの整理合理化が行われ、リストラが進められてきた。操業コストの推移は、引継ぎ前後でのコスト計算に違いがあるため、単純な比較はできないものの、総じて上昇傾向にある(図13)。

生産量は、2005年頃と比較して大きく下げており、過去のストライキや最近のコロナ禍でも影響を受けて、大きく生産量が落ち込むこともあった資本投資についても、引継ぎ前から低水準で推移しており、維持コストのみになっている(図14)。

図13.操業コストの推移(Sibanye Rustenburg, Marikana)

図13.操業コストの推移(Sibanye Rustenburg, Marikana)

※ Rustenburgのデータは、Sibanye Operating and financial results(2017~2021)のOperating Cost(ZAR/4Eoz)及びAmplats Annual Result(2008、2016)のCash Operating Cost(ZAR/6Eoz)をプロット。

※ Marikanaのデータは、Sibanye Operating and financial results(2017~2021)のOperating Cost(ZAR/4Eoz)及びLonmin Annual Report(2017、2018)のCost of Production(ZAR/6Eoz)をプロット。

※ 2021データはQ1のデータをプロット。

※ 現地通貨ランド(ZAR)表示。

図14.資本投資の推移と生産量の推移(Sibanye Rustenburg,  Marikana)

図14.資本投資の推移と生産量の推移(Sibanye Rustenburg, Marikana)

※ 3E(プラチナ、パラジウム、ロジウム)生産量は、S&P Global Market Intelligenceのデータを利用してJOGMEC作成。

※ Rustenburgの資本投資(Capex)は、Sibanye Annual ReportとAmplats Annual Resultsの数字を利用してJOGMEC作成。Marikanaの資本投資(Capex)は、Sibanye Operating and financial、Lonmin Annual Report及びS&P Global Market Intelligenceのデータを利用してJOGMEC作成。

※ 現地通貨ランド(ZAR)表示。

3.3.Amplats社の場合

Amplats社は、2015~2018年までに高コスト鉱山の売却や閉山措置を行い、同社の深部従来型採掘のポートフォリオ(図15のRustenburg鉱山等)の整理が行われた。コスト増や労務リスクが負担となる深部従来型採掘をリストラしつつ、Mogalakwena鉱山のような露天採掘・浅所機械化採掘の低コスト鉱山を主力に位置付けている。埋蔵量からも、同鉱山は他のプロジェクトを寄せ付けない規模であることがわかる。同鉱山における採掘対象は、北リムのPlatreefと呼ばれるリーフであり、東・西リムに位置する鉱山に比べ、パラジウムの品位が比較的高いのが特徴である。同社のパラジウム生産量の半分以上を同鉱山が担っていることがわかる(図16)。

図15.PGM元素別4E(PGM3E+Gold純分量)埋蔵量推移(Amplats社)

図15.PGM元素別4E(PGM3E+Gold純分量)埋蔵量推移(Amplats社)

※ Amplats Ore reserves&mineral resources reportのデータを利用してJOGMEC作成。

Amplats社のもう一つの旗艦プロジェクトとしてAmandelbult鉱山があり、深部従来型採掘を主とした鉱山である。西リムに位置しており、UG2リーフを採掘対象としていることから、ロジウム、イリジウム、ルテニウムの品位が比較的高く、それら元素の生産量が他より突出していることがわかる(図16)。

図16.PGM元素別鉱山生産実績(Amplats社)

図16.PGM元素別鉱山生産実績(Amplats社)

※ Amplats Annual Results 2019のデータを利用してJOGMEC作成。コロナ禍の影響を受ける前の状況を見るために2019年データを利用。

現在同社の稼働鉱山のうち、深部従来型採掘はAmandelbult鉱山のみになっている。コロナ禍の2020年度の状況でも、露天採掘のMogalakwena鉱山においては生産量への影響が比較的少なかったが、深部従来型のAmandelbult鉱山は生産量を大きく落としている(図17の青線)。同鉱山では、2014年にも生産量の急落が見られるが、長期のストライキの影響であり、深部従来型採掘の労務リスクの大きさが伺える。

資本投資については、Mogalakwena鉱山もAmandelbult鉱山も同様の傾向で、リーマンショック前後に突出した大規模投資がなされたが、それ以降は低水準に落ち込んでいた。ここ数年は、上向きの傾向を見せている(図17)。

Amandelbult鉱山では、坑内機材の近代化や低床式の重機の導入などを進めて坑内作業の安全性や効率化を進めるとしているが、年々のコスト増は抑えられず増加傾向にある(図18の青線)。

図17.資本投資の推移と生産量の推移(Amandelbult、Mogalakwena)

図17.資本投資の推移と生産量の推移(Amandelbult、Mogalakwena)

※ Amplats Annual Resultsのデータ及びS&P Global Market Intelligenceのデータを利用してJOGMEC作成。

※ 現地通貨ランド(ZAR)表示。

図18.操業コストの推移(Sibanye Rustenburg、Marikana)

図18.操業コストの推移(Sibanye Rustenburg、Marikana)

※ Amplats Annual Results(2016, 2020)のCash Operating Cost(ZAR/6E)のデータを利用してJOGMEC作成。

※ 現地通貨ランド(ZAR)表示。

3.4.PGMメジャー各社の資本投資

これまで低水準であった資本投資も、最近では上向きの傾向を示している(図19、表1)。今後の投資の予定も各社から発表されているが、Implats社とAmplats社は浅所機械化採掘の既存プロジェクトの生産拡張のための投資を、Sibanye社は深部従来型採掘のMarikana鉱山への大型投資を決めている(表1)。

図19.PGMメジャーの資本投資(Capex)の推移

図19.PGMメジャーの資本投資(Capex)の推移

※ 各社Annual Financial Reportのデータを利用してJOGMEC作成。各社の会計年度には違いがあるが、図中にて会計年度の調整は行っていない。

※ 現地通貨ランド(ZAR)表示。

表1.PGMメジャーの今後の投資計画
今後の投資計画 2020年度
Capex実績
2021年度
Capex見込
Implats社 ・Zimplats Mupani鉱山の開発に4年間で4.3bZAR(約284mUS$相当)を投資予定。資本投資によりPGM 180千oz/年の増加を見込む。
・Two Rivers JV(Implats社46%シェア)の拡張に4年間で5.7bZAR(約377mUS$相当)を投資予定。資本投資によりPGM 180千oz/年の増を見込む。
4.5bZAR
(287mUS$)
6.0~6.8bZAR(383~434
mUS$)
Sibanye社 ・Marikana鉱山のK4シャフト再開発に8年間で3.9bZAR(約270mUS$)を投資予定。K4シャフトはマインライフ50年間、PGM 250千oz/年の生産ポテンシャルを有する。 2.2bZAR
(133mUS$)
※SAのPGM部門のみの数字
3.8bZAR
(253mUS$)
Amplats社 ・Mogalakwena鉱山の新規選鉱場の建設等を含む生産拡張に13~23bZARを投資予定。現状の生産量に対し、PGM300~600千oz/年の増加を見込む。
・Mototolo JV(Amplats社のシェア50%)の隣接鉱区Der Brochen鉱床の採掘開始に3.9bZARを投資予定。Mototoloの生産量(PGM 223千oz/年)からの25%増を見込む。
6.9bZAR
(422mUS$)
7.0~7.5bZAR
(428~459
mUS$)

※ 各社アニュアルレポートを参照してJOGMEC作成。

公表された投資計画は、総じて、従前からの事業の拡張や以前手掛けたものの保留とされていたパイプライン事業の再開であり、新規事業という色合いは薄い。Implats社CEOのMuller氏は、今回の投資計画について、「最も魅力的な投資機会は自社内にあり、現在の財務状況からして十分可能である。」と語る(PGM Industry Day 2021)。

また、業績好調な中でも、各社とも新規投資には慎重な構えを示している。Amplats社CEOのNatascha Viljoen氏は、「南アのPGM企業は、過去10年以上にわたって余剰のプラチナが南アから供給された結果価格が低迷し、バランスシートにストレスがかかり、既存の事業や新規事業に十分な資金を供給できないという状況を経験してきた。現状では、すべてのPGM企業が株主への利益還元を強く意識している。新規プロジェクトにむやみに資金を投入するのではなく、規律を持って活動していく。」と語っている4

Sybanie社CEOのNeal Froneman氏は、「プロジェクトのパイプラインの中には、すぐに準備できる優れた案件がいくつかあるが、南ア国有電力会社ESKOM社の電力料金高騰や信頼性、経済の脆弱さ、規制の不確実性といった問題は解決されておらず、現状で、取締役会の承認を得られるプロジェクトは僅かしかない。」として南アの投資環境は投資家に優しくないと評しており、資本投資を抑制している旨を述べている5

おわりに

PGMメジャー各社における戦略に多少の違いはあるものの、いずれにおいても、当面は深部従来型採掘の鉱山がPGM生産の要であり続けることは間違いない。パラジウムの供給源は比較的多様化し、深部従来型採掘以外の鉱山からの生産も多い。一方で、最近高騰を示すロジウム、水素燃料電池等の新たな需要で注目されるプラチナ、ルテニウム、イリジウムについては、深部従来型採掘の貢献は大きい。しかし、深部従来型採掘の鉱山には、操業コストの増加や労務関連のトラブルなど、操業に影響するリスクが内在している。それらリスクを踏まえた上で、今後もPGMの需要を支える重要な供給源として、南アPGM生産の動向を注視していく必要がある。


  1. Pgm market report May 2021(matthey.com)
  2. プラチナ投資のエセンス プラチナ入門 – 投資への手引き 2020年6月(platinuminvestment.com)、PGMランド(ZAR)建てバスケット価格(ZAR/4Eoz)
  3. The PGMs Industry Day(pgmsindaba.com)
  4. Business Day, BL Premium, 25 March 2021, Maximum of five good years for PGMs, warns Amplats CEO Natascha Viljoen
  5. Business Day, BL Premium, 11 May 2021, Adverse environment deters PGM Investment, says Neal Froneman

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

ページトップへ