オーストラリア連邦(Australia)
- 面積(k㎡):
- 7,741,220
- 海岸線延長(km):
- 25,760
- 人口(百万人):
- 25.5
- 人口密度(人/k㎡):
- 3.3
- GDP(bUS$):
- 1,380.00
- 一人当たりGDP(US$):
- 54,188.92
- 主要鉱産物:鉱石:
- 鉄鉱石、銅、鉛、亜鉛、ニッケル、金、銀、ボーキサイト、イルメナイト、ルチル、ジルコン、リチウム、ウラン
- 主要鉱産物:地金:
- アルミニウム、銅、金、鉛、鉄、ニッケル、銀、亜鉛
- 鉱業管轄官庁:
- 連邦政府: Department of Industry, Innovation and Science NSW州: Department of Plannning, Industry and Environment QLD州: Department of Natural Resources, Mines and Energy SA州: Department for Energy and Mining TAS州: Department of State Growth VIC州: Department of Jobs, Precincts and Regions WA州: Department of Mines and Petroleum NT準州: Department of Primary Industry and Resources
- 鉱業関連政府機関:
- Geoscience Australia (GA)、Commonwealth Scientific and Industrial Research Organization (CSIRO)
- 鉱業法:
- NSW州: Mining Act 1992 QLD州: Mineral Resources Act 1989 SA州: Mining Act 1971 TAS州: Mineral Resources Development Act 1995 VIC州: Mineral Resources (Sustainable Development) Act 1990 WA州: Mining Act 1978 NT準州: Mineral Titles Act 2010
- ロイヤルティ:
- NSW州: ベースメタル4% (出荷価値) QLD州: ベースメタル2.5~5.0% (金属価格に応じたレート) SA州: ベースメタル精鉱5%、地金3.5% (評価価値) TAS州: ベースメタル1.9~5.35%(売上・利益ベース) VIC州: ベースメタル2.75% (市場価値) WA州: ベースメタル精鉱5.0%、金属2.5% (販売価格ベース) NT準州: ベースメタル20% (利益ベース)
- 外資法:
- Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975 (2020年3月、連邦政府Frydenberg財務相は、外国からの全投資を対象に外国投資審査委員会(FIRB)の認可を必要とする暫定的措置を発表。同年6月5日に法改正の方針を発表。)
- 環境規制法 (環境影響調査制度、環境・排出基準の有無等):
- 連邦政府: Environment Protection and Biodiversity Conservation Act 1999 (EPBC Act)
NSW州: Protection of the Environment Operations Act 1997
QLD州: Environmental Protection Act 1994
SA州: Environment Protection Act 1993
TAS州: Environmental Management and Pollution Control Act 1994
VIC州: Planning and Environment Act 1987
WA州: Environmental Protection Act 1986
NT準州: Environmental Assessment Act 1994
- 鉱業公社(環境):
- なし
- 鉱業活動中の民間企業:
- BHP、Rio Tinto、Anglo American、Glencore、Newcrest Mining、Newmont Mining、Gold Fields、South32、OZ Minerals、Fortescue Metals Group、MMG、Iluka Resourcesほか多数
- 最終更新日:
- 2020年02月28日
1. 鉱業一般概況
(1)主要生産物
豪州は我が国の非鉄金属資源確保上、チリやペルーと並ぶ最重要国の一つである。石油・天然ガス・石炭・鉱物資源を含む資源産業が同国のGDPに占める割合は増加傾向にある。また、2018/19年度の資源・エネルギー品目の輸出額は281.3bA$と前年度比で22.5%上昇、全輸出額(物とサービス)に占める割合も60.4%(2017/18年度は56.9%)に増加し、資源産業は豪州経済に大きく貢献している。
鉱 種 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 対前年増減比(%) | 世界シェア(%) | ランク |
---|---|---|---|---|---|---|
亜鉛(千t) | 64,000.0 | 68,000.0 | 68,000.0 | 0.0 | 27.2 | 1 |
鉛(千t) | 35,000.0 | 24,000.0 | 36,000.0 | 50.0 | 40.0 | 1 |
金(t) | 9,800.0 | 9,800.0 | 10,000.0 | 2.0 | 20.0 | 1 |
イルメナイト(TiO2換算)(千t) | 250.0 | 250.0 | 250.0 | 0.0 | 32.5 | 1 |
ルチル(TiO2換算)(千t) | 29.0 | 29.0 | 29.0 | 0.0 | 61.7 | 1 |
ジルコニウム(ZrO2換算)(千t) | 47,000.0 | 42,000.0 | 42,000.0 | 0.0 | 67.7 | 1 |
タンタル(t) | 78,000.0 | 76,000.0 | 55,000.0 | – 27.6 | – | 1 |
鉄(百万t) | 24,000.0 | 24,000.0 | 23,000.0 | – 4.2 | 28.4 | 1 |
銅(千t) | 88,000.0 | 88,000.0 | 87,000.0 | – 1.1 | 10.0 | 2 |
ニッケル(千t) | 19,000.0 | 19,000.0 | 20,000.0 | 5.3 | 22.5 | 2 |
ボーキサイト(千t) | 6,000,000.0 | 6,000,000.0 | 6,000,000.0 | 0.0 | 20.0 | 2 |
リチウム(t) | 2,700,000.0 | 2,700,000.0 | 2,800,000.0 | 3.7 | 16.5 | 2 |
コバルト(千t) | 1,200.0 | 1,200.0 | 1,200.0 | 0.0 | 17.1 | 2 |
バナジウム(千t) | 2,100.0 | 2,100.0 | 4,000.0 | 90.5 | 18.2 | 3 |
銀(t) | 89,000.0 | 89,000.0 | 90,000.0 | 1.1 | 16.1 | 3 |
錫(千t) | 490.0 | 370.0 | 420.0 | 13.5 | 8.9 | 4 |
アンチモン(千t) | 140.0 | 140.0 | 140.0 | 0.0 | 9.3 | 4 |
セシウム(千t) | – | – | 7.1 | – | 3.2 | 4 |
マンガン(千t) | 94,000.0 | 99,000.0 | 100,000.0 | 1.0 | 12.3 | 4 |
マグネシウム(千t) | 320,000.0 | 320,000.0 | 320,000.0 | 0.0 | 3.8 | 5 |
レアアース(千t) | 3,400.0 | 3,300.0 | 3,300.0 | 0.0 | 2.8 | 6 |
出典:Mineral Commodity Summaries 2020
鉱 種 | 2016/17 | 2017/18 | 2018/19 | 対前年度増減比(%) |
---|---|---|---|---|
ウラン(U3O8、t) | 7,295 | 7,521 | 7,618 | 1.3 |
ボーキサイト(百万t) | 85 | 95 | 99 | 4.2 |
銅精鉱(千t) | 911 | 867 | 934 | 7.7 |
金(t) | 290 | 302 | 321 | 6.3 |
鉄鉱石(百万t) | 873 | 900 | 924 | 2.7 |
鉛精鉱(千t) | 401 | 341 | 371 | 8.8 |
ニッケル精鉱(千t) | 201 | 167 | 161 | – 3.6 |
銀精鉱(t) | 1,281 | 1,143 | 1,309 | 14.5 |
錫精鉱(t) | 7,292 | 7,059 | 7,438 | 5.4 |
亜鉛精鉱 | 846 | 949 | 1,235 | 30.1 |
リチウム鉱石・精鉱(千t) | – | 229 | 244 | 6.5 |
ダイヤモンド(千カラット) | 13,310 | 17,930 | 13,059 | – 27.2 |
出典:Department of Industry, Innovation and Science 「Resources and energy Quarterly・March Quarter 2020」、「Resources and Energy Quarterly Historical Data, March 2020」
(注):銅、金、鉛、亜鉛、銀、錫、ニッケルについては金属含有量。リチウム鉱石・精鉱については、炭酸リチウム換算量で、2016/17年度に関しては詳細データなし。
鉱 種 | 2016/17 | 2017/18 | 2018/19 | 対前年度増減比(%) |
---|---|---|---|---|
アルミナ(千t) | 20,599 | 20,280 | 20,103 | -0.9 |
アルミニウム地金(千t) | 1,519 | 1,564 | 1,573 | 0.6 |
銅地金(千t) | 448 | 369 | 435 | 17.9 |
金地金(t) | 337 | 344 | 318 | – 7.6 |
鉛地金(千t) | 172 | 154 | 136 | – 11.7 |
鉄及び鋼鉄(千t) | 5,345 | 5,709 | 6,052 | 6.0 |
ニッケル地金(千t) | 112 | 111 | 114 | 2.7 |
銀(t) | 1,000 | 928 | 1,051 | 13.3 |
亜鉛地金(千t) | 466 | 474 | 480 | 1.3 |
出典:Department of Industry, Innovation and Science 「Resources and energy Quarterly・March Quarter 2020」、「Resources and Energy Quarterly Historical Data, March 2020」
(2)鉱山開発・探鉱活動
豪州のレアアースプロジェクトでは、Lynas社が操業するWA州Mt Weld鉱山からのレアアース精鉱を処理するマレーシアの工場での操業ライセンスの延長を巡り、Lynas社とマレーシア政府の間で交渉が行われ、放射性元素除去施設の将来的な国外設置などを条件に、2020年2月に3年間の延長が認められた。また、Hasting Technology社が推進するWA州Yangibana、Northern Minerals社が推進するBrowns Range、Arafura社が推進するNT準州Nolansなどのプロジェクトが開発に向けた動きを活発化させているほか、ミネラルサンドからのレアアース鉱物回収を目指すプロジェクトも、WA州やVIC州で立ち上がっている。
一方、リチウムプロジェクトに関しては、2017年以降、新規のリチウム鉱山がWA州で次々と立ち上げられ、豪州におけるリチウム生産量を増加させていたものの、2018年初頭からリチウム価格が下落に転じたことで、一部の鉱山ではリシア輝石精鉱の生産調整が実施されている状況である。豪州における高付加価値化を目指して各社が計画していた水酸化リチウム製造工場の建設計画も、Tianqui社が2019年9月から行っていたWA州Kiwinanaの工場における操業立ち上げ作業を中止したと報じられているほか、Albemarle社がWA州Kemertonで実施している工場建設の遅延が報じられるなど、建設計画の見直しや白紙化が相次いでいる。
2.鉱業政策
豪州の鉱物資源の所有権は、国民の代理として連邦政府、州・準州政府に帰属する。近年は、クリティカルメタルへの関心が高まっており、2019年2月に豪連邦政府が20年ぶりに発表した国家資源白書(National Resources Statement)において、クリティカルミネラル産業育成は最重要課題の一つとして取り上げられている。現在のMorrison政権下では、ニッケル・リチウム等のバッテリーメタルに関する戦略策定、プロジェクト実施に関する協定の締結等、バッテリーメタル及びクリティカルメタルのサプライチェーンの確立に向けた動きが活発となっている。また、近年は資源開発において気候変動対策や環境保全、地権者保護を重視する方針も強まっている。
日 付 | 内 容 |
---|---|
2003年8月 | 連邦下院産業資源委員会は、探鉱事業に対する阻害要因調査と探鉱促進政策に関する提言を発表。 |
2003年9月 | 連邦産業観光資源省(Department of Industry Tourism and Resources:DITR)が探鉱 アクションアジェンダを発表。 |
2008年11月 | WA州のColin Barnett首相がウラン開発の解禁を発表。 |
2009年4月 | WA州でEIS(The Exploration Incentive Scheme)の探鉱支援策が開始。 |
2010年5月 | 連邦政府のRudd首相とSwan財務大臣、豪州の将来の税制に関する政府方針「Stronger・Fairer・Simpler-A tax plan for our future」を発表。 |
2010年7月 | 連邦政府のGillard首相、鉱物資源利用税(MRRT: Minerals Resource Rent Tax)を発表。 |
2012年7月 | 連邦政府、鉱物資源利用税(MRRT)を導入。 |
2013年7月 | QLD州、EISプロセスを簡素化し資源セクターへの投資を改善。 |
2013年9月 | 連邦政府、鉱山開発プロジェクトの環境承認手続きを合理化。 |
2013年10月 | 連邦政府、炭素価格制度と鉱物資源利用税を廃止。 |
2013年12月 | 連邦政府と各州及び準州政府、環境認可プロセスの簡素化に係る MOU を締結。 |
2015年1月 | 日豪 EPA が発効。 |
2015年3月 | 連邦政府による探鉱促進インセンティブ法案(Exploration Development Incentive: EDI)が成立。 |
2015年10月 | 労働法改正法案の上院可決。 |
2015年12月 | 連邦政府Turnbull首相(当時)、のイノベーション・サイエンスアジェンダ(National Innovation Science Agenda:NISA)を公表し、今後4年間で1.1bA$を予算化することを発表。 |
2015年12月 | 豪中FTAが発効。 |
2016年2月 | TPP(環太平洋パートナーシップ協定)に署名。 |
2016年5月 | 連邦政府、採取産業透明性イニシアティブ(Extractive Industries Transparency Initiative:EITI)に参加することを発表。 |
2016年12月 | 「建設・林業・鉱山及びエネルギー労働組合(CFMEU)」と「海事労働組合(MUA)」が合併を目指すことで MOU を締結。 |
2017年2月 | 連邦裁判所が先住民との土地利用合意に関し、合意には先住民側の登録された全ての請求者の署名が必要であり、そうでなければ当該合意は無効であるとする新たな解釈に基づく判決を下す。 |
2017年3月 | 2017-2022 年期の国家鉱物資源探査戦略(National Mineral Exploration Strategy 2017-2022)が、豪州政府間評議会で承認。 |
2017年6月 | 連邦政府、先住権原法(Native Title Act)改正。 |
2018年3月 | 連邦政府、国家資源白書(「National Resources Statement」)の発表。 |
2018年3月 | CFMEU(The Construction, Forestry, Mining and Energy Union)と TCFUA(Textile Clothing & Footwear Union of Australia)、MUA(the Maritime Union of Australia)の 3 団体が合併し、組合員数 14.4 万人を保有する「スーパー労働組合」Construction, Forestry, Maritime, Mining and Energy Union(CFMMEU)が発足。 |
2019年3月 | クリティカルミネラルの探鉱、採掘、生産、 処理に関する長期的戦略「Australia’s Critical Minerals Strategy」を発表。 |
2019年11月 | 連邦政府、米国とクリティカルミネラルに関する共同プロジェクト実施の協定を締結。 |
2020年1月 | 連邦政府、「Critical Minerals Facilitation Office」を産業科学エネルギー資源省内に設置。 |
2020年3月 | 連邦政府、カナダとクリティカルミネラルの相互協力に関するMOUを締結。 |
2020年3月 | 連邦政府、COVID-19の流行を背景に外国投資法(外資買収法)の改正を発表。 |
2020年5月 | 連邦政府、気候変動対策の投資優先度として「Technology Investment Roadmap」の政策討議文書を公開。 |
2020年6月 | 連邦政府、印とクリティカルミネラルの相互協力に関するMOUを締結。 |
2021年2月 | 先住権原改正法案が豪州連邦議会両院で可決。 |
(1)気候変動への連邦・州政府や鉱山企業の対応について
豪州の気候変動対策に関する世論の注目はここ数年高まっており、2019年5月に行われた連邦議会選挙では争点の一つとなった。急進的な気候変動対策を政策の一つとして掲げた野党労働党が、事前の下馬評で圧倒的不利と報じられていたMorrison首相率いる与党保守連合に劇的に敗れるという一幕もあった。豪州の東海岸ではここ数年、雨不足による渇水問題が顕在化していたことや、2019年末から2020年初頭に大規模な山火事が豪州東海岸を襲ったことなどが気候変動問題と関連して議論が行われる傾向があり、気候変動や環境問題は、豪州市民の関心事項の一つであり続けている。
2019年5月の選挙で勝利したMorrison政権は、パリ協定に基づく同国の温暖化ガス排出目標である「2030年までに2005年比26~28%削減」を維持し、経済的利害と社会的利害のバランスをとることを重要視している。その一環として、水素製造や炭素回収貯留(CCS)などの温暖化ガス低排出技術への投資を推進するため、同政府による投資の優先度を定めた「Technology Investment Roadmap」の政策討議文書を2020年5月に公開した。州・準州政府による気候変動への対応は各州・準州で異なるが、NSW州ではプロジェクト投資計画の審査で、サプライチェーン全体での温暖化ガス排出量(いわゆるスコープ3排出量)削減への対応不足で石炭開発計画が却下される例や、WA州では環境認可プロセスにおいてスコープ3排出量の考慮を盛り込んだガイドライン案が一時検討されるなど、先進的な取り組みが認められる州も存在している。企業も足元でESG投資への圧力が強まっており、BHPやRio Tintoなどのメジャー企業も独自の気候変動対策を実施しているが、連邦政府、州・準州政府、産業界で気候変動対策の足並みが揃わない状況が続いている。
(2)クリティカルミネラルを含む鉱物資源に関する戦略・動向について
豪連邦政府は、 2012 年 12 月に発表した「国家鉱物探鉱戦略(National Mineral Exploration Strategy)」を2017 年 3 月に修正し、豪連邦・各州政府首脳によって構成された豪州政府間評議会(Council of Australian Governments:「COAG」)により「National Mineral Exploration Strategy 2017-2022」として 2017 年 7 月に承認した。この中では、豪州は世界でも最も成熟した探鉱地域の一つであり、地表近くで比較的に簡単に発見され得る鉱化は殆ど残されておらず、今後豪州は魅力的な探鉱地域であり続けるための国際的な競争に晒されることから、更なる探鉱活動を促進する必要がある、と問題提起されている。また当初の国家鉱物探鉱戦略で提言されていた、地球科学データの提供(information)、鉱物資源探鉱への投資の促進(attractionplan)、地球科学分野の研究推進(research)を更に発展させ、①政府拠出資金による地球科学基礎データの収集と提供、②被覆層下の探鉱実施に必要な地球科学情報を提供するための組織を超えた研究事業の活用、③環境保護を目的とした地球科学基礎データの提供、④地球科学データの提供による地域社会の人々への貢献、の 4 つの目標が提唱されている。
2019年2月に豪連邦政府が20年ぶりに発表した国家資源白書(National Resources Statement)においては、クリティカルミネラル産業育成は最重要課題の一つとして取り上げられており、現在のMorrison政権によって積極的に取り組まれている。豪連邦政府は、2019年3月にはクリティカルミネラルの探鉱、採掘、生産、処理に関する長期的戦略「Australia’s Critical Minerals Strategy」を発表し、2020年1月には国内のクリティカルミネラル関連産業への投資促進を所管する「Critical Minerals Facilitation Office」を産業科学エネルギー資源省内に設置している。また、同政府は、既存のNorthern Australia Infrastructure FacilityやExport Finance Australia、Defense Export Facilityを通じて、豪州におけるクリティカルミネラルプロジェクトの開発に対する資金援助を行うとしたほか、2019年4月には、産学官共同研究プログラムの「Future Battery Industries Cooperative Research Centre (FBI CRC)」に25mA$を拠出することを明らかにしている。各州・準州政府もクリティカルミネラル資源の開発促進には積極的であり、長期的な戦略やプロジェクト開発の援助スキームの設置や、各州における優先プロジェクトの指定などが行われている。
豪連邦政府は、クリティカルミネラルのサプライチェーン構築に関する多国的な協力関係の構築にも積極的に取り組んでおり、米国(2019年11月)、カナダ(2020年3月)、インド(2020年6月)などとクリティカルミネラル分野における協力に関する協定を締結している。この中でも特に米国は、レアアースの軍需産業に対するサプライチェーンのセキュリティに関心が高いとされており、中国と米国・豪州の関係悪化が懸念される中、今後の各国の動向を注視する必要がある。
(3)先住民を巡る問題について
2017 年 2 月 2 日、連邦裁判所は先住民との土地利用合意に関し、合意には先住民側の登録された全ての請求者の署名が必要であり、そうでなければ当該合意は無効であるとする新たな解釈に基づく判決を下した。本件は WA 州政府が進めていた先住民との土地利用に係る合意に関し、これに反対する先住民 4 名が連邦裁判所に訴えたことによるものである。本判決前までは、土地利用に係る合意は過半数の署名があれば認められるとされてきたが、今回の判決により指名された請求者の全ての署名がなければ合意が無効になるとの判断が示され、2 月 10 日に国家先住権原審判所(National Native Title Tribunal)がこの判断に影響する全ての登記及び通知段階の先住民土地利用契約(Indigenous Land Use Agreement:ILUA)の登記を一時停止すると発表した。またこの判断により、既に締結された ILUA のうち約 150 件が無効になる恐れが生じたことから、資源業界や国家先住権委員会(NNTC)が連邦政府に対して先住権原法の改正を求める事態となった。
連邦政府は 2017 年 2 月 15 日に先住権原法の改正法案を連邦議会に提出、2017 年 6 月に同改正案は可決され、2017 年 2 月 2 日以前に既に国家先住権原審判所に登記済み、あるいは提出済みであるがまだ登記されていない ILUA は有効であること、ILUA に対して請求者全員の署名は必要ではないことなどが担保されることとなった。但し本問題に関しては、ILUA 以外に先住権原法で定められた「Section 31Agreements」と呼ばれる土地利用合意に関しても同様の問題があるとの指摘があり、今後さらなる訴訟・政治対応が発生する可能性が示唆されている。なお、上記の流れを受け2021年2月3日に、豪州の先住権原改正法案であるNative Title Legislation Amendment Act 2021が豪連邦議会の両院で可決されたことが一部報道で明らかになった。同改正法案は、現法で先住権原が適用される土地の探鉱権や採掘権の付与、先住権原の取得に関連して鉱業企業と先住民が締結する契約である「第31条契約」などにおける不透明性に取り組むものであるとされ、豪州鉱物評議会(MCA)は同法案の可決について「実用的で安定した先住権原システムを支えるものである」とし、歓迎の意を表明した。
2019年3月、豪連邦高等裁判所において審議されていた「Timber Creek」訴訟においては、先住権原に基づく権利が過去の行為により毀損或いは消失したケースにおける補償金の算定方法が初めて示され、「歴史的な」判決がなされたとされている。この訴訟は、NT準州のTimber Creek地域に先住権原を認められた伝統的土地所有者グループがNT準州を相手取り、先住権原に基づく権利を毀損或いは消失させた53の行為に対する補償を求めていたもので、2016年に土地所有者グループが勝訴したのに対し、豪連邦政府とNT準州政府が控訴していた。連邦高等裁判所は判決の中で、損失を「経済的損失」、「経済的損失に対する利子」、「非経済的損失(文化的損失)」に分類し、それぞれの補償額を初めて具体的に示した。豪州のMinterEllison法律事務所によると、今回補償額が算定されたのは、Timber Creek地域で伝統的土地所有者が先住権原を認められた土地のわずか6%ながら、1haあたりの補償額は200kA$であり、豪州全土の280百万haで認められている先住権にこの数字を適用すると膨大な金額になりうるとしている。
2020年5月には、Rio TintoがWA州で操業するBrockman 4鉄鉱石鉱山において発破作業を行った際に先住民の岩石住居遺跡Juukan 1とJuukan 2を破壊したことで強い批判を受け、その影響がBHPのSouth Frank鉄鉱石プロジェクトなど他社の鉱山開発プロジェクトや州政府・連邦政府の法制度にまで及んでいる。Rio Tintoは、同鉱山で行った発破作業に際し、WA州の先住民遺跡法に基づいた許認可を2013年に取得していたが、その後に行われた遺跡調査では、これらの遺跡が豪州の内陸における最古の居住跡である可能性が生じていた。Rio Tintoは同遺跡の保全に関しては、これを実施するために開発計画を変更する機会を数度にわたって逸し、2020年5月に先住民グループより遺跡保全に関する正式な要求書が提出された際には爆破に向けた作業が開始されていたとして、先住民グループに対し謝罪を行っている。Rio Tintoでは、2020年9月にこの問題の責任を取る形でJacques CEOなど同社の経営陣数人が辞任した。この問題は、WA州で改正が予定されていた先住民遺跡法や豪連邦の環境保護・生物多様性保全法の内容に影響を与えるとされているほか、QLD州やNSW州でも先住民遺跡保護の問題が先住民グループから提起されるなど、豪州全域に影響を及ぼしている。