DRコンゴ(Democratic Republic of the Congo)
- 面積(k㎡):
- 2,344,858
- 海岸線延長(km):
- 37
- 人口(百万人):
- 101.8
- 人口密度(人/k㎡):
- 43.4
- GDP(bUS$):
- 41.44
- 一人当たりGDP(US$):
- 407.15
- 主要鉱産物:鉱石:
- 銅、コバルト、タンタル、ニオブ、タングステン、金、錫
- 主要鉱産物:地金:
- 銅、コバルト
- 鉱業管轄官庁:
- 鉱山省
- 鉱業関連政府機関:
- 鉱業登録所(Mining Registry)
- 鉱業法:
- 鉱業法(Mining Code(2002年7月11日制定、2018年6月8日施行))
- ロイヤルティ:
- 3.5%(非鉄金属、貴金属)、1.0%(鉄鉱石)、10.0%(戦略鉱物; コバルト)
- 外資法:
- 投資法(Investment Code(2002))
- 環境規制法 (環境影響調査制度、環境・排出基準の有無等):
- 鉱業権申請時の環境影響評価、環境管理計画の実施・策定義務あり。
- 鉱業公社(環境):
- Gecamines、Sodimico
- 鉱業活動中の民間企業:
- Glencore、Eurasian Resources Group(ERG)、MMG Ltd.、China Molybdenum、Zhejiang Huayou Cobalt等
- 最終更新日:
1.鉱業一般概況
(1)主要鉱産物
銅とコバルトが主要鉱産物であり、2018年の鉱業総売上高において、それぞれ50%と35%を占めている(IMF Country Report 2019)。携帯電話、ノートパソコン、電気自動車等に使用される LIB 正極材の用途が多いコバルトは主に銅の副産物として産出されるが、埋蔵量は世界の51.4%、鉱石生産量は71.4%と圧倒的シェアを誇っている。銅自体も同国南部のいわゆるカッパーベルト地帯に豊富にあり、アフリカでは第1位の生産実績である。
鉱 種 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 対前年増減比(%) | 世界シェア(%) | ランク |
---|---|---|---|---|---|---|
コバルト(千t) | 3,500.0 | 3,400.0 | 3,600.0 | 5.9 | 51.4 | 1 |
錫(千t) | 150.0 | 150.0 | 150.0 | 0.0 | 3.2 | 8 |
銅(千t) | 20,000.0 | 20,000.0 | 19,000.0 | – 5.0 | 2.2 | 10 |
出典:Mineral Commodity Summaries 2020
(2)生産量
鉱 種 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 対前年増減比(%) | 世界シェア(%) | ランク |
---|---|---|---|---|---|---|
銅(千t) | 1,094.6 | 1,225.2 | 1,433.4 | 17.0 | 6.9 | 4 |
コバルト(千t) | 73 | 104 | 100 | -3.8 | 71.4 | 1 |
錫(千t) | 10.2 | 9.0 | 6.3 | -30.2 | 1.8 | 9 |
タンタル(t) | 370 | 740 | 740 | 0 | 3.2 | 1 |
出典: World MetalStatistics Yearbook 2020、USGS Commodity Summaries 2020
(3)鉱山開発・探鉱活動
近年では、中国資本の進出が目立っており、代表的なプロジェクトとして、紫金鉱業によるKolwezid銅コバルトプロジェクト(柴金鉱業:72%)やKamoa-Kakula銅プロジェク(紫金鉱業:39.6%、Ivanhoe Mines社:39.6%他)がある。
開発段階の大規模プロジェクトであるKamoa-Kakula銅プロジェクトは、段階的に生産拡張して、最終的には粗鉱生産量18百万t/年(銅量で最高740千t/年)になる計画である。実現すれば、チリEscondida銅鉱山に次ぐ世界第2位の生産規模になる。複数の鉱床のうち、最初の開発にあたるKakula銅鉱床(粗鉱生産量6百万t/年)では、既に坑内採掘が着手されており、2021年に生産開始の予定である。IvanhoeMines社は、DRコンゴにてKipushi亜鉛・銅再開発プロジェクトも手がけている。
ワールドクラスの鉱床としては、Manonoリチウム・錫鉱床(Tanganika地方)があり、現在、豪AVZ Minerals社(同プロジェクトの65%権益所有)がFSを実施中である。資源量として6,620,000t(金属量換算)で、リチウム鉱床として世界で5番目の規模のペグマタイト鉱床である。タンザニア・Daressalaam港まで鉄道を敷設し、精鉱を出荷する計画である。
2.鉱業政策
DRコンゴ経済にとって鉱業セクターは中心的な役割を果たしている。鉱業がGDPに占める割合は、近年では25%を超えており、2018年には30%近くに達した。輸出総額に占める鉱業セクターの割合も高く、90%以上を占めることが多い。このため同国経済は、銅、コバルトの市況の変動に大きく左右されている。
近年では、Dodd-Frank法(米国金融規制改革法)やOECDの「紛争鉱物のサプライチェーンに関するDue Diligenceガイダンス」等の国際的な鉱物に係るサプライチェーンの透明化確保の動きもあり、DRコンゴでも各種の規制、零細採掘のフォーマル化の動きがみられる。
年 月 | 内 容 |
---|---|
1906年 | Union Minière du Haut Katanga社(UMHK。Umicore社(当時)の子会社)設立。Katanga州の鉱業権を独占し、銅やそのほかの金属を生産。 |
1937年 | 鉱業法制定 |
1960年6月30日 | コンゴ共和国として、ベルギー領から独立 |
1965年 | Mobutu政権成立(クーデター) |
1969年12月31日 | Mobutu大統領が、UMHK全施設の国有化を宣言 |
1968年 | Generale Congolaise des Minerais(GECOMIN:1971年にGECAMINESと改称)を設立し、Katanga州内の銅山100%管理 チリ、ペルー、ザンビアとともに、銅価格の安定のためにCIPEC(銅輸出国政府間協議会)を設立 |
1971年 | ザイール共和国に名称変更 |
1996年~1997年、 1998年~2003年 |
第一次コンゴ内戦、第二次コンゴ内戦 |
1997年 | コンゴ民主共和国に国名変更 |
2002年7月 | 世界銀行の支援による鉱業法制定(2003年6月施行) |
2006年2月 | 新憲法公布 |
2006年7月 | 独立以来初の本格的な民主選挙となる大統領選挙、国民議会選挙実施 |
2010年 | Gecaminesが民営化 |
2010年9月 | Joseph Kabila大統領(当時)が、DRコンゴ北東部(Kivu州北部及び南部、Maniema州)からの金、錫、タンタル鉱石等の鉱物の一時輸送停止を命じる。 |
2013年5月 | 銅及びコバルト精鉱の輸出禁止措置を発表(同措置は、その後猶予期間延長の措置を継続) |
2013年7月 | DRコンゴ東部の武装勢力による3TGの密輸阻止を目的とした新たな鉱物承認プログラムを開始 |
2014年7月 | 取産業透明性イニシアティブ(EITI)遵守国に認定 |
2018年6月 | 2002年鉱業法を改正・施行(2018年鉱業法) |
2018年12月 | 最大野党民主社会進歩同盟(UDPS)が擁立したTshisekedi大統領が勝利。 |
2019年11月 | 政令「戦略的鉱物の零細採掘活動のための保護策」を制定 |
(1)鉱業法
DRコンゴの銅・コバルト生産量は近年大きく増加し、アフリカで第1位の銅生産国となった。その一つの要因として、世界銀行の支援のもと2002年に策定された鉱業法(2002年鉱業法)により、これまでの国営鉱山企業Gecaminesによる開発ではなく、民間セクターを活用した開発を推進したことが挙げられる。特に、2002年鉱業法に基づき、政府と民間が締結している鉱業協定は、民間投資を誘致するために、外資鉱山会社にとって有利であった。
しかし、近年になって、DRコンゴ国内では当時の外資の鉱業権者に有利な鉱業協定を否定的に見る意見が強くなり、それを背景に2012年頃から2002年鉱業法の見直しの議論がされ始めた。結果として、2018年鉱業法は2018年3月にKabila前大統領の署名後、政府の承認を経て、2018年6月から施行された。
2018年鉱業法では鉱業プロジェクトのロイヤルティの増加や政府権益持分の増加(5%から10%)など、2002年鉱業法と比較して国の収益を増加させる法律となった。
また、2002年鉱業法では、鉱業協定に規定された条件に関連する法律が改正された場合でも、10年間は鉱業協定の条件を保証する安定化条項が規定されたが、2018年鉱業法ではこの安定化条項が削除され、既に鉱業協定を締結していた鉱業権者にも直ちに適用されることになった。
この安定化条項の削除に対する鉱業セクターの反発は大きい。鉱業セクターは、2018年鉱業法の政府ドラフトの段階で修正要請を出したものの、受け入れられなかった。鉱業セクターは、大統領選挙の結果を受けた2019年1月の政権交代により、2018年鉱業法の見直しを期待したが、2021年3月現在で、2018年鉱業法見直しの動きはない。2018年6月に施行した2018年鉱業法のポイントは、次のとおりである。
(鉱業プロジェクトの政府権益持ち分)
- 2002年鉱業法では鉱業プロジェクトの政府権益持分は5%と定められていたが、2018年鉱業法では10%に引き上げられた。この権益はフリーキャリーであり、希薄化もしない。既存の鉱業権にも適用され、鉱業権更新の際に政府に権益の移転が行われる。
- 鉱業権の有効期間は25年であり、その後15年の更新が可能である。更新ごとに政府へ権益5%を譲渡しなければならない。
(ロイヤルティ)
- 建設用原材料:0%
- 鉄鉱石・合金鉄:1.0%(2002年鉱業法では0.5%(以下同じ))
- 非鉄金属・ベースメタル:3.5%(2.0%)
- 貴金属:3.5%(2.5%)
- 宝石類:6.0%(4.0%)
- 戦略鉱物:10.0%
※戦略鉱物は「経済環境に基づいた地理的、戦略的に重要な性質を持つ鉱物であり、政府が特に関心があるもの」と定義され、鉱山省が決定する。2018年11月、政令によりコバルトが戦略鉱物に指定された。
(税金・関税)
- 法人税率は、2002年鉱業法から変更なく30%であるが、新たに「超過利潤税」が導入された。鉱物価格がFS時に比べ25%以上に上昇した場合、法人税率が50%になる。
- サブコントラクターがDRコンゴ資本である場合に、税金と関税の優遇措置を適用される。
- 資器材輸入時の関税は、生産開始後一律5%と優遇されていたが、2018年鉱業法では生産開始後3年間に限定。なお、生産開始以前は2%で変更はない。消耗品などについては10%、燃料・潤滑油については5%である。
(輸出収入の国内留保)
- プロジェクトの投資償還期間中、輸出による収入の60%は国内に留保し、海外債務への返済等の国外への送金を40%(2002年鉱業法では70%)まで認めるとした。投資資金回収後はDRコンゴ国内に輸出収入を100%留保しなければならない。
(国内企業の権益所有)
- DRコンゴ企業による10%の権益所有を義務付けた。
(国内コントラクターの活用)
- 鉱山のサブコントラクターは、DRコンゴ人株主が所有する(一般的にはDRコンゴ人が株の過半数を所有している)会社であることを求める法律(法2017Feb17/001)を遵守する。
(国内選鉱・処理)
- 鉱業権者はDRコンゴ国内で採掘された鉱石を選鉱・処理することが義務付けられており、当局にプロセシング計画を提出し認可を得ることが必要。
(安定化条項の削除)
- 2002年鉱業法では法律を改正した場合、変更内容の適用に10年間の猶予期間が保証されていたが、2018年鉱業法において廃止され、新条件が既存鉱業権者にも直ちに適用されるとした。
(2)鉱石・精鉱輸出の禁止措置の免除
DRコンゴ国内での鉱物資源の高付加価値化を促進することを目的として、2013年に銅精鉱及びコバルト精鉱輸出の禁止措置がなされた。しかし、DRコンゴ内の製錬能力の限界から実施が繰り返し、見送られてきた。最近では、2020年8月に鉱山大臣と主要鉱山会社との間で協議がなされ、引き続き銅を除く全ての精鉱輸出禁止を免除することとなった。銅精鉱については、その後、輸出禁止の免除期限を2021年4月12日までとした。
(3)サプライチェーンの透明性確保
1)零細採掘のフォーマル化
3TG(錫、タングステン、タンタル、金)に加えて、銅やコバルトの違法な零細採掘も多く見られ、鉱山会社とのトラブルになるケースが発生している。2019年6月、中国China Molybdenum社のTenke Fungurume銅・コバルト鉱山において、鉱山周辺の違法採掘者からの治安維持を目的に軍隊数百名が配備された。また、2019年7月には、Glencoreの子会社Kamoto銅・コバルト鉱山の露天掘操業現場で違法採掘者43名が亡くなる崩落事故が起きたが、その後鉱区の違法採掘者の監視のため、DRコンゴの軍隊が出動している。
鉱業法上は、鉱山大臣が地域を指定して、その中での零細採掘を合法的に行うことになっているが、実態としてインフォーマル(違法)な零細採掘が横行しており、児童労働や人権問題、労働安全衛生等の問題が見られため、現状では国際マーケットで受け入れられない。
政府は、より合法的な零細採掘を行うように、2019年11月には政令「戦略的鉱物の零細採掘活動のための保護策」を制定し、零細採掘のフォーマル化を目指す。これによって、児童労働の排除や透明性の確保等を規定するとともに、同国法人が零細採掘のコバルトを独占的に購入・販売することになった。Gecaminesとポートフォリオ省が、関連会社としてEGC(Enterprise Generale du Cobalt)を設立し、活動を開始している。
2)紛争鉱物調達に対する透明性確保
DRコンゴ産の紛争鉱物(3TGとこれらの派生物)の利用及び取引は、DRコンゴ東部における深刻な暴力、特に性的暴行やジェンダーに基づく暴力を伴う紛争や武装集団の活動の資金源となっているとの懸念があったことから、2010年7月21日に米国で成立したDodd-Frank法(米国金融規制改革法、Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act of 2010:H.R.4173)第1502条で、DRコンゴを原産とする「紛争鉱物(Conflict Minerals)」の利用及び取引について米国証券取引委員会(SEC)への報告義務が課されることとなり、2012年8月に紛争鉱物規則が公表された。これに対し、Joseph Kabila大統領(当時)は 2010年9月、反政府武装組織や民兵による生産元が不明な紛争鉱物の密輸を阻止するため、同国北東部(Kivu州北部及び南部、Maniema州)からの金、錫、タンタル鉱石等の鉱物の一時輸送停止を命じた。また、国内で操業する全ての鉱山会社及び貿易会社が鉱物資源のサプライチェーンに関して、OECDの「紛争鉱物のサプライチェーンに関するDue Diligenceガイダンス」に基づいた手続の実施を法律で義務付けた。
また、DRコンゴ政府は2013年7月に、紛争鉱物に関する同国の法律に違反する企業の取締りを強化し、同国東部の武装勢力による3TGの密輸阻止を目的とした新たな鉱物承認プログラムを開始した。これら各種の取組みの効果として2014年4月、国際的な電子機器メーカーを中心としたメンバーからなるElectronics Industry Citizenship Coalition(EICC)が構築したConflict-Free Sourcing Initiative(CFSI)の認可を受けた製錬所の15%が、DRコンゴといった紛争鉱物の原産国とされる国からトレーサビリティのあるコンフリクト・フリー(紛争と無関係)な原材料を調達していると報道された。また、2014年7月には、DRコンゴは採取産業透明性イニシアティブ(EITI)遵守国に認定された。
なお、紛争鉱物については、欧州でも独自の規則案の検討を進め、EU議会の国際貿易委員会は2015年4月、紛争鉱物の自己承認システムの義務付け規制法案を可決。また2016年6月には欧州3機関(欧州委員会、欧州議会、欧州理事会)は紛争鉱物規則策定に関して大筋合意に達し、同規則は2017年5月末に発効した。3TGについては、紛争地域及び高リスク地域から調達する輸入業者及び製錬・精錬業者に対し、OECD紛争鉱物ガイドラインで定められたデューデリジェンスを義務付けるなどの内容で、2021年1月より適用が開始されている。
(3)ブロックチェーン技術を利用したネットワーク構築
近年、鉱物のサプライチェーンの透明性について、エンドユーザーや企業の株主から強く求められる傾向にある。特に、零細採掘における児童労働が問題になるコバルトや武装勢力の資金源となり得る紛争鉱物については、OECD や産業界が示す責任ある調達の要件を満たすことが当面の課題である。
最近では、ブロックチェーン技術を活用して原産地から最終製品までの追跡を可能とするネットワークが構築されつつあり、RSBN(Responsible Sourcing Blockchain Network)はその一つである。ネットワークのメンバーは、自動車メーカー(Ford Mortor、Volkswagen、Volvo)や韓国に電池工場を持つLG Chem 社、中国系 Huayou Cobalt 社で構成され、IBM のブロックチェーン・プラットフォーム上にネットワークが構築されている。
