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メキシコメキシコ(United Mexican States)

面積(k㎡):
1,964,375
海岸線延長(km):
9,330
人口(百万人):
127.19
人口密度(人/k㎡):
64.75
GDP(bUS$):
1,258.14
一人当たりGDP(US$):
9,836
主要鉱産物:鉱石:
銅、鉛、亜鉛、金、銀、モリブデン、ビスマス
主要鉱産物:地金:
銅、鉛、亜鉛
鉱業管轄官庁:
経済省(SE:Secretaría de Ecomonía)
鉱山局(Dirección General de Minas)
鉱業生産地帯開発基金局(Dirección General del Fondo para el Desarrollo de Zonas de Producción Minera)
鉱山開発局(Dirección General de Desarrollo Minero)
鉱業関連政府機関:
メキシコ鉱業センター(SGM:Servicio Geológico Mexicano) 鉱業振興信託(FIFOMI:Fideicomiso de Fomento Minero)
鉱業法:
鉱業法(Ley Minera) 鉱区の期限は50年、探鉱鉱区と生産鉱区の区別無し
ロイヤルティ:
2014年1月施行の連邦関税法(Ley Federal de Derechos)に定められる鉱業特別税及び貴金属鉱業特別税がロイヤルティに相当
鉱業特別税(第268条):コンセッション及び国有鉱区保有者の純利益に対し7.5%を課す
貴金属鉱業特別税(第270条):コンセッション及び国有鉱区保有者の貴金属売上高純利益に対し0.5%を課す
外資法:
外国投資法(Ley de Inversión Extranjera) 外資100%の参入が可能
環境規制法 (環境影響調査制度、環境・排出基準の有無等):
生態系均衡環境保護一般法(Ley General del Equilibrio Ecológico y la Protección al Ambiente)
環境影響評価を環境天然資源省(SEMARNAT:Secretaría de Medio Ambiente y Recursos Naturales)に提出し、承認を受ける必要有り。SEMARNATが定めた環境・排出基準有り
鉱業公社(環境):
非鉄金属に関する鉱業公社はなし
鉱業活動中の民間企業:
Grupo México社、Peñoles社、Minera Frisco社等
近年の鉱業関連問題(資源ナショナリズム、労働争議、環境問題等):
2018年のAMLO政権発足以降、新規の鉱業コンセッション発給を停止。
2020年9月1日、経済省の鉱山次官室を廃止。
国税庁が脱税防止の取り組みとして鉱山事業者に対する付加価値税の追徴課税を強化、一部で訴訟に発展。
最終更新日:
2020年02月28日

1.鉱業一般概況

(1)主要生産物

メキシコは、中南米地域の代表的な鉱業国の一つであり、銅、鉛、亜鉛、金、銀、モリブデン等の多種類の鉱物資源に恵まれている。特に銀の生産量は、ここ数年世界第1位を誇り、その他のベースメタルないし貴金属の生産量はトップ10に入る。

2019年、日本におけるメキシコからの鉱石輸入に占める割合は、亜鉛14%、蛍石(セラミックグレード)29%、銀45%であり、日本にとって重要な資源輸入相手国である。

表1.メキシコの主要鉱物資源の埋蔵量
鉱 種 2017年 2018年 2019年 対前年増減比(%) 世界シェア(%) ランク
フッ素(蛍石)(千t) 32,000.0 68,000.0 68,000.0 310.0 21.9 1
亜鉛(千t) 20,000.0 20,000.0 22,000.0 10.0 8.8 3
銅(千t) 46,000.0 50,000.0 53,000.0 6.0 6.1 5
鉛(千t) 5,600.0 5,600.0 5,600.0 0.0 6.2 5
銀(t) 37,000.0 37,000.0 37,000.0 0.0 6.6 6
グラファイト(千t) 3,100.0 3,100.0 3,100.0 0.0 1.0 8
モリブデン(千t) 130.0 130.0 130.0 0.0 0.7 9
マンガン(千t) 5,000.0 5,000.0 5,000.0 0.0 0.6 9
アンチモン(t) 18 18 18 0.0 1.2 9
金(t) 1,400.0 1,400.0 1,400.0 0.0 2.8 12

出典:Mineral Commodity Summaries 2020

表2.メキシコの主要金属鉱石生産量
鉱 種 2017年 2018年 2019年 対前年増減比(%) 世界シェア(%) ランク
銀(t) 5,394.5 5,624.4 5,918.6 5.2 23.2 1
水銀(千t) 300.0 234.0 240.0 2.6 6.0 2
ビスマス(t) 513.0 334.0 291.0 – 12.9 12.1 3
ストロンチウム(t) 57,000.0 40,000.0 40,000.0 0.0 18.2 3
鉛(千t) 241.2 235.4 259.4 10.2 5.2 5
亜鉛(千t) 674.3 636.8 701.3 10.1 5.4 5
モリブデン(千t) 14.0 15.1 16.6 10.3 6.0 5
銅(千t) 742.2 751.0 769.7 2.5 3.7 8
金(t) 126.8 118.4 111.4 – 5.9 3.5 8
アンチモン(t) 256.0 310.0 300.0 – 3.2 0.2 8
マンガン(千t) 242.8 209.5 219.2 4.6 0.3 14
鉄(千t) 11,712.5 12,172.6 9,727.1 – 20.1 0.3 16

出典:World Metal Statistics Yearbook 2020,Mineral Commodity Summaries 2020

(2)鉱山開発・探鉱活動

メキシコ北西部(SON州)は、アメリカ北西部から連続するLaramaide造山帯の一角に位置しており、当該地域はBuenavista銅鉱山をはじめとする斑岩型銅鉱床のポテンシャルが高い地域として知られる。現在、SON州においてメキシコ大手Grupo México社等が銅を対象とした探鉱活動が行われている。

メキシコ北西~中央部は、地塁・地溝地帯として位置づけられ、浅熱水性金‐銀鉱床のポテンシャルが高い地域として知られる。現在、当該地域において、各社が金、銀を対象としたプロジェクトの開発が促進しており、2021年に計11件のプロジェクトが生産を開始する見込みである。

メキシコ北西~中央部(CHI州、DGO州等)は、広範に石灰岩が厚く堆積している地域があり、鉛、亜鉛、銀等を伴うCarbonate Replacement Deposits(CRD)のポテンシャルが高い地域として知られる。現在、当該地域においてメキシコ大手Fresnillo社等が鉛・亜鉛・銀を対象とした探鉱活動が行われている。

2.鉱業政策

近年のメキシコの鉱業投資額は、金属市況の下落・低迷に加え、前政権が2014年1月に施行した鉱業特別税及び貴金属鉱業特別税の影響により、探鉱投資、設備投資、維持管理費等が抑えられた結果、2016年まで4年連続で減少を続けてきた。2017年は、金属市況価格の回復傾向等から貴金属を中心とした新規プロジェクトへの投資が前年に比べ増加した結果、投資額全体が5年振りに前年比プラスとなり、2018年はプロジェクトの拡張、探鉱費が増加した結果、全体の投資額は2年連続で対前年を上回った。

2018年7月の大統領選挙にて左派政党である国家再生運動(MORENA)党のアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(Andrés Manuel López Obrador)氏(以下、AMLO大統領)が勝利し、同年12月にAMLO政権が誕生した結果、メキシコ鉱業会議所(CAMIMEX)は、新政権の鉱業を含めた経済政策の不透明性に対する懸念を表明し2019年鉱業投資額を前年比減となると予測した。その後、2019年7月に発表された年次報告書では、AMLO政権の鉱業政策が左派的な変革を伴うものではない等の動向を踏まえた結果として、2019年の鉱業投資額は2018年より9%増加すると予測を上方修正している。

表3.鉱業政策の主な動き
日 付 内 容
2004年9月 日本・メキシコ間で、FTAの要素を含む日墨経済連携協定(EPA)が締結。2005年1月に発効。
2005年4月 経済省は、同省の外局組織である鉱物資源審議庁をメキシコ地質調査所に改称する等の鉱業法改正案が成立。
2006年12月 カルデロン新政権が発足したが、引き続き鉱業は経済省の所管となっている。
2009年3月 メキシコ労働・社会福祉省は、坑内堀炭鉱の安全基準を確立するための新鉱業規則を承認。
2012年12月 Peña Nieto新大統領が主要政党と交わした合意文書に、鉱業活動地域に位置する地域住民への還元を目的として、現行鉱業法を改正する旨盛り込まれる。
2013年4月 政府は、ロイヤルティを導入するための鉱業法改正案をメキシコ議会へ提出。本税制改正法案は、下院、上院の審議を経て、2013年10月末に可決、成立し、2014年1月にこれら鉱業特別税率が施行された。
2013年5月 政府は、「国家開発計画2013~2018年」を公布した。
2013年12月 エネルギー改革のための憲法改正案がメキシコ議会で可決、承認された、
2014年5月 経済省は、「鉱業開発計画2013~2018年」を公布した。
2015年1月 メキシコ政府はEITIへの加盟を表明。
2016年11月 Zacatecas州知事は、高い環境汚染源と考えられる金属鉱物採掘・抽出企業に対し2017年から適用する新環境税の創設を提唱し12月に同州議会において全鉱種を対象とした新環境税の枠組みを承認した。
2016年12月 Peña Nieto新大統領は、連邦行政組織法等に従って、経済省に鉱山次官のポストを設置する大統領令を公布した。
2017年9月 政府は、ロイヤルティを財源とした鉱業基金の成果を公表した。
2017年11月 MORENA氏は大統領選挙を前に同党鋼領「2018~2024年国家プロジェクト」を発表。
2018年7月 大統領、連邦両院議員選挙に加え、州知事、州議会議員、市長などの公職が選出されるメキシコ市場最大の選挙が行われた。大統領選は、結党4年足らずの左派政党MORENA(国家再生運動党)のAndrés Manuel López Obrador氏が勝利を収めた。
2018年8月 米・メキシコの二か国間で行ったMAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉が大筋合意に達したと発表。9月には米国とカナダとの協議が合意に達し、3か国で妥結した。
2018年11月 MORENA党Angélica García Arrieta上院議員が鉱業改正法イニシアチブを発表したが、2019年4月に連邦議会上院・鉱業委員会は鉱業改正イニシアチブを否決した。
2018年12月 AMLO政権が発足すると政権与党の国家再生運動は鉱業基金の運営体制改革として鉱業基金の承認・運営体制の見直し及び分配率と分配方法の変更に関する新たな鉱業基金管理・運営規則を制定した。最終的には、鉱業特別税及び貴金属鉱業特別税のうち85%を教育省、10%を連邦政府、5%を鉱業部門管轄である経済省へ分配することとして、2019年12月の改正連邦料金法が可決された。
2020年1月 AMLO大統領は、環境及び社会的規範強化を目的に鉱業法の見直しを行い、必要であれば政権半ばに改正することも考えられると発言した。
2020年9月 与党MORENAのAlejandro Armenta Mier上院議員は、リチウム資源を国有化し、国有企業の設立を目的とする憲法第27条の修正案を連邦上院議会執行部に提出した。
(1) 鉱業基金運営に関する法令改正

2014年1月に施行された鉱業特別税及び貴金属鉱業特別税に基づく鉱業基金の一部の運用は、各鉱業州及び自治体で行われてきたが、AMLO現大統領はこれまでの鉱業基金運営において多数の汚職問題があったと主張し、2018年12月にAMLO政権が発足すると政権与党の国家再生運動(Morena)は鉱業基金の運営体制改革として鉱業基金の承認・運営体制の見直し、及び分配率と分配方法の変更に関する新たな鉱業基金管理・運営規則を制定した。しかしながら、鉱業基金の用途に関して連邦政府による案は長期に亘って定まらず、鉱業生産地域の経済活性化を目的とする住民対象の無利子融資案や住民への直接分配案と二転三転し検討され、最終的には鉱業特別税及び貴金属鉱業特別税のうち85%を教育省(Secretaría de Educación Pública: SEP)、10%を連邦政府、5%を鉱業部門管轄である経済省へ分配することとして、2019年12月の改正連邦料金法が可決された。関係者の反応として、Chihuahua州政府をはじめ、Zacatecas州、San Luis Potosí州の複数地方自治体がこれに反対し銘々にアンパロ訴訟(憲法権利保護に係る訴訟)を行い、最高裁判所首席裁判官は2019年3月、連邦政府による新たな鉱業基金管理・運営規則は違憲との見解から、原告側の複数自治体において新規則が適応されないとの判決を下し、これに対し大統領府法務部は同年5月に控訴している。

これまで各州政府及び自治体が鉱業基金の分配金を活用しインフラ整備や学校、医療施設建設といった地域開発プロジェクトを主体的に進めていたものの、今後は地元コミュニティが鉱山開発による恩恵を直接的に受けられなくなることから、不満の矛先は連邦政府ではなく、地元で活動する鉱山企業に向けられることも想定され、各企業はこれまで以上に周辺地域におけるCSR活動等への投資が必要となることが懸念されている。

(2)AMLO大統領、鉱業法見直しに言及、経済省は住民協議実施の具体的方策の検討へ

2020年1月、AMLO大統領は環境的及び社会的規範強化を目的に鉱業法の見直しを行い、必要があれば政権半ばに改正することも考えられると発言した。鉱業法改正に関しては以前から与党Morenaからの圧力が生じており、2018年には上院より改正イニシアチブが提出されていた(同イニシアチブは2019年に否決されている)。また同年6月、Graciela Márquez経済大臣は記者会見において、鉱業コンセッション付与前の段階における住民協議実施の義務付けを計画していることを発表したほか、鉱業振興信託(FIFOMI)のJosé Alfredo局長は、住民協議をどのように実施し、コンセッション付与のどの段階で取り入れるべきか定義するため政府内で協議中であることを明らかにした。鉱業プロジェクトに対する住民協議の実施は、以前AMLO大統領により提起されており、地元紙は、同経済大臣の発言が現政権にとってこの課題の優先順位が高いことを示していると分析した。

また、AMLO大統領は2019年3月の定例記者会見において、任期中の新規コンセッション承認を一切行わないと発表した。AMLO大統領は、鉱山開発ではなく投機を目的として獲得されたコンセッションが多数存在していると指摘し、鉱業権者に対して、これまでに承認されたものは生産段階に移行されるべきであり、現在存在している鉱区における採掘だけでも「1,000年あっても終了しない」と述べた。以降、新規の鉱業コンセッション発給の停止措置がとられており、2020年1月にPuebla州の先住民地域で行った演説では、現時点で鉱業コンセッションは1件も発給されていないことを現政権の成果として強調した。

(3)与党Morena上院議員がリチウム資源の国有化を目的とする憲法改正法案を提出

与党MorenaのAlejandro Armenta Mier上院議員は、リチウム資源を国有化し、国有企業の設立を目的とする憲法第27条の修正案を2020年9月8日付けで連邦上院議会執行部に提出した。修正案では、憲法第27条において、炭化水素資源は国家に属すると定められている条文にリチウム資源を追加するほか、国営石油企業(PEMEX)と同様の役割を担う「LITIOMEX」を設立し連邦政府が管理を行うことが提案されている。

Armenta議員は改正の動機として、メキシコでは世界最大級のリチウム鉱床が発見されており、炭化水素の代替エネルギーとして今後大きな需要が見込まれる一方で、現在国内の鉱業プロジェクト占有率は外国企業約70%、メキシコ企業約30%であるほか、リチウム鉱区に関しては、存在する31件中15件をカナダ企業が保有している状況であり、リチウム資源の保護とメキシコ企業による天然資源の採掘機会拡大の必要性があると主張している。なお、リチウム資源国有化に関して、Víctor Toledo前環境天然資源大臣(2020年8月に辞任)が過去に「メキシコにおいては、リチウムが石油に代わる新たな資源となる」と発言していたほか、リチウム資源の国有化を検討していることが2020年6月に報じられていた。しかしながら、AMLO大統領は当時Toledo前大臣の発言を否定し、「憲法第27条により、地表及び地下に存在する天然資源の所有権が国家に帰属すると定められていることから国有化の必要はない。鉱業の場合、コンセッション付与の条件が定められており、分析すべきは、リチウム資源開発の場合どのような条件でコンセッションが付与されるかということである」と強調し、経済省および環境天然資源省に追加の情報を求めると述べていた。

業界の反応として、メキシコ鉱山・冶金・地質技師協会(AIMMGM)のSergio Almazán会長は、「リチウム資源に対する投資は非常にリスクが高いほか、長年に亘って存在していた鉱業法制を変えることで法の確実性が失われることとなる」と述べたほか、鉱業専門誌Mundo MineroのAlberto López Santoyo編集長(前Sonora州鉱業部長)は、「現在までに、経済性のあるリチウムプロジェクトはSonoraリチウムプロジェクトの1件しか存在せず、10年以上の年月をかけて探鉱及び開発が進められてきたことから、政府がリチウム資源開発に関与するには既に遅い状況であると言える。更なる鉱床発見のためには国家予算から莫大な探鉱費の拠出が必要となるが、同プロジェクトと同規模の鉱床を発見する可能性はほとんど見込めないことから、炭化水素とリチウムのポテンシャルを比較するのはそもそも不可能である」と指摘した。

(4)経済省鉱山次官室を廃止

2020年4月23日、緊縮財政策として官報で政令が公布され、その中には中央省庁の次官室を10削減することが含まれていたが、その後経済省は2020年9月1日以降鉱山次官室を廃止すると発表した。なお、経済省によると、今後の業務は鉱山局(Dirección General de Minas)、鉱業生産地帯開発基金局(Dirección General del Fondo para el Desarrollo de Zonas de Producción Minera)、鉱山開発局(Dirección General de Desarrollo Minero)の3局に引き継がれることとなる。この決定に対し、CAMIMEX、メキシコ鉱山・冶金・地質技師協会(Asociación de Ingenieros de Minas Metalúrgicas y Geólogos de México : AIMMGM)、カナダ商工会議所をはじめとする機関及び関連団体は反対の意を表明する連名文書を発表したほか、各専門誌は今後投資環境面でさらなる不安要素になるとの懸念を示している。Quiroga鉱山次官は、各種手続きの迅速化をはじめ、メキシコ鉱業会議所(CAMIMEX)や組合と政府間の対話促進に貢献したほか、最近ではCOVID-19感染拡大により各種活動が規制されていた中、同次官の働きかけにより鉱業が必要不可欠な活動と指定され、各鉱山の早期操業再開を実現させた実績があった。

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