フィリピン(Repabulic of the Philippines)
- 面積(k㎡):
- 300,000
- 海岸線延長(km):
- 36,289
- 人口(百万人):
- 109.2
- 人口密度(人/k㎡):
- 363.9
- GDP(bUS$):
- 313.60
- 一人当たりGDP(US$):
- 2,872.30
- 主要鉱産物:鉱石:
- 金、銀、銅、ニッケル、クロム
- 主要鉱産物:地金:
- 銅、金
- 鉱業管轄官庁:
- 環境天然資源省(Department of Environment and Natural Resources: DENR)
- 鉱業関連政府機関:
- 鉱山地球科学局(Mines and Geosciences Bureau: MGB)
- 鉱業法:
- 1995年フィリピン鉱業法(共和国法第7942号)
2012年フィリピン大統領令(Executive Order 79号)
- ロイヤルティ:
- 2013年大統領令79号施行細則(DAO No.2012-07及び改正令DAO No.2012-07-A)
- 外資法:
- 1987年オムニバス投資法(共和国法第226号) 1991年外国投資法(共和国法第7042号) 1995 年特別経済区法(共和国法第7916 号)
- 環境規制法 (環境影響調査制度、環境・排出基準の有無等):
- 2012年 鉱物資源の利用における環境保護と採掘責任を確保するための方針とガイドライン(DAO No.2012-7)
- 鉱業公社(環境):
- フィリピン鉱山開発公社(PMDC:Philippines Mining Development Corporation)
- 最終更新日:
1.鉱業一般概況
(1)主要生産物
フィリピンは、コバルト及びニッケルの埋蔵量で世界上位を占める。鉱石生産量はニッケルが世界第2位であり、ニッケル鉱石の2019年生産量は前年比約1.1%増の26.2百万t(鉱石量)となった。ニッケル価格の上昇及びインドネシアの低品位ニッケル鉱石再輸出禁止の2020年1月への前倒しの発表によって供給懸念が高まったことにより、生産額は前年比約10.6%増となっている。日本はフィリピンからニッケルや銅等を輸入しており、重要な貿易相手国となっている。
鉱 種 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 対前年増減比(%) | 世界シェア(%) | ランク |
---|---|---|---|---|---|---|
コバルト(千t) | 280.0 | 280.0 | 260.0 | – 7.1 | 3.7 | 4 |
ニッケル(千t) | 4,800.0 | 4,800.0 | 4,800.0 | 0.0 | 5.4 | 6 |
出典:Mineral Commodity Summaries 2020
鉱 種 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 対前年増減比(%) | 世界シェア(%) | ランク |
---|---|---|---|---|---|---|
ニッケル(千t) | 379.4 | 390.0 | 341.3 | – 12.5 | 13.2 | 2 |
クロム(千t) | 20.8 | 45.0 | 31.7 | – 29.5 | 0.1 | 15 |
コバルト(千t) | 4.6 | 4.6 | 4.6 | 0.0 | – | – |
出典:World Metal Statistics Yearbook 2020
(2)鉱山開発・探鉱活動
ニッケル部門では、稼働中の31鉱山のうち、13鉱山がメンテナンス等の理由で生産量無しとして報告している。また、副産物ではあるが、Taganito HPAL Nickel(THPAL)社によるシュウ酸スカンジウムの生産が2018年から開始され、2019年には前年比約3倍弱の12,854kgを記録した。なお、スカンジウムの生産は、フィリピン鉱業史上初めてのことである。銅部門では、Cebu島のToledo銅鉱山が過去最大の生産量を記録し、フィリピン全体の銅生産量の約63%となった。一方、金部門では、Oceana Gold社が地方自治体・中央政府との財政的及び技術的支援契約更新問題により、2019年後半以降生産を中止している。
2016年、住友金属鉱山株式会社(SMM)は、Taganito HPAL Corp.の権益のうち、12.5%をNickel Asia Corp.から追加取得した。これによりSMMの保有権益比は75%に増加した。
2.鉱業政策
近年、フィリピンでは鉱物資源の高付加価値化を意識した政策を進めている。
日 付 | 内 容 |
---|---|
2004年1月 | 鉱業を振興する旨の閣議決定、鉱業再活性化政策アジェンダの大統領令270号発布、行動計画の策定、鉱業開発会議の創設等、外国鉱業投資企業に対する支援体制の強化。 |
2007年5月 | 環境天然資源省は、国内65か所の休眠鉱区の監督権を鉱山開発公社に移管する省令を発行。 |
2007年6月 | 環境天然資源省は、財務技術支援協定(FTAA)の財務規定を定めるガイドラインの改定を行った。 |
2007年7月 | アロヨ大統領は、国の鉱物資源の開発利用を綿密に監視するため、鉱業監督機関であるフィリピン鉱業開発公社を環境天然資源省から大統領府へ移管する大統領令(E0)636号を発行。 |
2007年7月 | 環境天然資源省は、中小の鉱業事業者を対象に環境保護や安全性に関する規定の順守を義務付ける解明ガイドラインを発行。 |
2010年3月 | Ramos大統領は、国内産業振興のため鉱石輸出禁止を政府として検討していきたい旨を表明。 |
2010年6月 | Lorenzo Erin Tanada議員は、改正鉱業法案を国会へ提出。 |
2010年12月 | 環境天然資源省は、今後鉱山会社に対し総利益の5%相当のロイヤルティを課す方針を示した。 |
2012年7月 | 政府は、新たな鉱業政策内容を示す大統領令(No.2012-79)を正式に発効した。同大統領令は、鉱業セクターからの政府収入拡大、環境保護対策の改善及び鉱業に関連する国家法と地方法の調和等を狙いとしている。 |
2012年9月 | 環境天然資源省は、大統領令(No.2012-79)を実施するための施行規則(DAO No.2012-7(IRR))を発行。同IRRの規定により、ロイヤルティは2%から7%へ引き上げられる。 |
2012年9月 | 大統領令(No.2012-79)の一環として、各鉱業許可申請に係る手数料が大きく引き上げられた。 |
2014年1月 | 鉱業調整協議会が鉱業収入分配制度の見直し案を承認した。 |
2014年8月 | Paolo Benigno Aquino上院議員によって、未精製鉱石輸出の禁止を促す法案が提出され、国会にて審議されることとなった。また、Eripe John Amante下院議員が同内容の法案を下院に提出し、下院委員会では承認された。 |
2014年11月 | Francisco Matugas下院議員によって提出された鉱石輸出禁止法案が下院天然資源委員会で承認された。同法案では、鉄鉱石、ニッケル鉱石、クロム・マンガン鉱石及び他の戦略的金属の鉱石は輸出が禁止される。 |
2015年4月 | 政府は、行政規定DAO 2015-7を発行し、鉱業契約(MA)及び財政技術支援(FTAA)を有する鉱山会社に対し、環境マネジメントシステムISO14001の取得を義務付けた。 |
2016年6月 | Rodrigo Duterte氏がフィリピン大統領に就任。Gina Lopez氏が環境天然資源省大臣に就任。 |
2017年4月 | Lopez環境天然資源大臣は、環境に大きな悪影響を及ぼすとして、露天掘り鉱業禁止の政策をとると発表。フィリピン鉱業協会等は、同大臣が環境重視の農法に懸念を抱き、同大臣の継続に反対の意思を示した。2017年5月3日に任命委員会において、同大臣は任命を拒否されることとなった。 |
2017年5月 | Duterte大統領は、Roy Cimatu氏を新たに環境天然資源大臣に任命。 |
2019年8月 | 2017年1月から実施している低品位ニッケル鉱石(Ni品位1.7%未満)の輸出緩和措置の現行規則の期限を2年前倒し、2020年1月から再度輸出禁止とすることを決定する法令を制定。 |
(1) Duterte政権の鉱業政策の経緯
Rodrigo Duterte大統領が2016年に就任し、当初、環境天然資源大臣にGina Lopez氏(2019年8月に死去)を任命した。環境活動家でもあった同氏は環境保護重視の政策路線をとり、フィリピン全鉱山に対して法令遵守に関する監査を開始し、同時に新規鉱山プロジェクトのモラトリアムを実施した。この監査により、合計27社に操業停止・閉山勧告が発出されることとなった。また同氏は、環境に大きな悪影響を及ぼすとして、新規露天掘り鉱山開発も禁止した。これに対し、鉱業界は反対・対立の立場により同氏の大臣継続に反対の意思を示し、その結果同氏は2017年5月3日の任命委員会において任命を拒否されることとなった。
後任の環境天然資源大臣には、元軍司令官で中東特使であったRoy Cimatu氏が任命された。同大臣は就任当初から、責任ある鉱業を継続する限り事業を行うことを認め、鉱業界の意見を聞く姿勢を示した。しかし、Duterte大統領自身の鉱業と環境に与える影響に対する厳しい見方は変わっておらず、2020年現在、上記前大臣の鉱業政策から鉱業界寄りに変更されている点はあるものの、大きな方向性の転換にはなっていないのが現状である。
鉱山監査による操業停止命令については、対象27社全社がDENRもしくは大統領府に異議申し立てを行っていた(なお、異議申し立て中は操業可能)。1社はCimatu大臣就任直後に命令撤回されたほか、2018年の再調査により、DENRに申し立てを行った13社のうち1社は合格し命令取消、9社は改善を条件に命令取消、3社が不合格で鉱業権剥奪となった。大統領府に異議申し立てを行った残り13社についての結果は不明である。その後、2019年7月から第2回再調査が実施されるとの報道があったが、こちらもその後の状況については不明である。
新規鉱山プロジェクトのモラトリアムについては、2018年に投資誘致の目的もあり新規鉱山探査開発許可の審査及び発行について限定的なモラトリアムの解除を行った。但し、新規鉱山操業の許認可のモラトリアムについては解除となっていない。これについては、鉱山会社の負担増につながると考えられるロイヤルティの見直しや新たな鉱業税制制定と引き換えに解除になるとの見方がある。また、環境回復の目的では、生産量に応じて鉱山採掘面積を制限する法令が施行されている。
新規露天掘り鉱山開発禁止政策については、2017年10月にMICC(フィリピン鉱業産業調整会議)が禁止を解除する勧告を行う決議をし、11月初めに内閣に提出された。しかしこの勧告はDuterte大統領によって差し戻された(注:ニッケル鉱山については新規露天掘り鉱山開発禁止の対象にはなっていないとされている。)。その後、Cimatu大臣が継続を明言する等、依然として開発許可再開の見通しは立っていない(これに対しては、MICCは代替の採掘技術の検討を行っている)。2019年には鉱山の採掘、開発、保安に関しての鉱業法施行規則の改正、露天掘り鉱山採掘禁止に係る規定の見直し等が検討されているとの報道があり、今後の動きが注目される。
(2)インドネシアの低品位ニッケル鉱石禁輸前倒し政策に対する動向
インドネシア政府は2019年8月30日、2017年1月から実施している低品位ニッケル鉱石(Ni品位 1.7%未満)の輸出緩和措置の現行規則の期限2022年1月を2年前倒し、2020年1月から再度輸出禁止とすることを決定する法令を制定した。
インドネシア政府の政策決定を受けてフィリピン政府は、この状況は市場を活用する機会につながり、また、いかにより高品位のニッケル鉱石を供給できるかどうかが鍵となる、との見方を示した。一方、ニッケル生産については持続可能な開発を重視しており、現時点で規制緩和は検討していないとした。また、政府は2019年10月、上記監査による措置を受けていた会社を含む複数のニッケル鉱業会社に対する操業停止措置を解除している。
ニッケル大手Nickel Asia社は、Cagdianao鉱山の生産能力を2020年から1割増強する方針であることを明らかにしたほか、中規模ニッケル生産会社からも新規鉱山開発計画を発表する会社が出てきている。一方、上記のとおり、依然として大きな方向性の転換が見られない政府の規制が、新規開発の足枷になるかもしれないとの見方もある。また、コロナ禍の影響も大きいと考えられるが、2020年に入ってから新規開発・増産計画に関しては進んでいないと見られる。
(3)その他の政策路線変更に向けての動き
2020年、政策路線変更への政府内(DENR、MGB)の動きや鉱業界からの要望は強くなっている。DENRは引き続き、過去の鉱山監査による閉鎖・操業停止中鉱山に対する確認を実施し、コロナ禍対策としての雇用増加や国の鉱業収入増加にもつなげるため、残っている問題の無い鉱山の操業再開を行おうとしているとのこと。MGBも2020年9月初めに鉱業の潜在的能力を経済回復に役立てるべきという提言を行った。またMGBは、小規模鉱業に対し、鉱山の環境保護や安全のために費やす資金の拠出を求め、爆発物の使用を規制する政策を実現するために動いているとの情報もある。
また、主要鉱山企業数社もこれまでと変わらず、新規露天採掘鉱業禁止政策の廃止と新規鉱業契約締結のモラトリアムの解除を政府及び大統領に求めていく意向にある。また、コロナ禍後の経済の早期回復にも寄与する等の経済効果を強調した。それらを代表して、2020年12月にはフィリピン鉱業協会(COMP)Gerald H.Brimo会長(Nickel Asia社の社長)が「鉱業投資は新規鉱業契約締結のモラトリアムや新規露天採掘鉱業禁止等の不適切な政策により妨げられており、従って、業界には新規投資が無いため成長が見られず、経済への貢献を妨げていることになる。このような鉱物資源が多い国における金属鉱業が国民経済に実質的に貢献していない。」と発言した。
また2020年、MGBは閉鎖された鉱山における環境の修復等の措置及び維持のプログラム(CMP:Care and Maintenance Program)について、その実行に必要なガイドラインを制定し通達した。CMPは、鉱山閉鎖後の環境保護及び当事者の関与・労働者への手当を確保するために策定されるもので、当該閉鎖鉱山の安全・健康への危険性、環境・社会への影響、それらの緩和手法及び実施予算等を含むよう規定されている。責任ある鉱業としての、環境に配慮した鉱業を実施できるよう環境を整備する目的と見られる。