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南アフリカ共和国南アフリカ共和国(Republic of South Africa)

面積(k㎡):
1,219,090
海岸線延長(km):
2,798
人口(百万人):
56.5
人口密度(人/k㎡):
46.3
GDP(bUS$):
349.30
一人当たりGDP(US$):
6,186.28
主要鉱産物:鉱石:
石炭、白金族、金、クロム、マンガン、チタン、バナジウム、鉄鉱石、ウラン等
主要鉱産物:地金:
金、白金族、フェロクロム、フェロマンガン、コバルト、銅、ニッケル、アルミニウム等
鉱業管轄官庁:
鉱物資源・エネルギー省(DMRE: Department of Mineral Resources and Energy)
鉱業関連政府機関:
・CGS(Council for Geoscience):地球科学委員会
・MINTEK(Council for Mineral Technology):選鉱・製錬研究所
鉱業法:
鉱物・石油資源開発法2002(MPRDA:The Mineral and Petroleum Resources Development Act 2002)
ロイヤルティ:
Mineral and Petroleum Resources Royalty Act 2008
外資法:
鉱業はDMREの認可が必要
環境規制法 (環境影響調査制度、環境・排出基準の有無等):
National Environmental Management Act 1998, National Environmental Management Waste Act 2008
鉱業公社(環境):
AEMFC(African Exploration Mining and Financing Corporation):発電用石炭供給公社 IDC(Industrial Development Corporation):政策金融
鉱業活動中の民間企業:
Anglo American社、Sibanye社、Impala Platinum社、 Glencore、Rio Tinto、 South32社, Vedanta社他
最終更新日:
2020年02月28日

1.鉱業一般概況

(1)主要鉱産物

南アは多くの鉱物資源を有し、特に、白金、クロム、チタンについては世界第1位の生産量を誇り、この他、石炭、鉄鉱石、ウラン、金、亜鉛、バナジウム等を生産している。

表1.主要金属埋蔵量
鉱 種 2017年 2018年 2019年 対前年増減比(%) 世界シェア(%) ランク
PGM(t) 63,000.0 63,000.0 63,000.0 0.0 91.3 1
マンガン(千t) 200,000.0 230,000.0 260,000.0 13.0 32.1 1
クロム(千t) 230,000.0 200,000.0 200,000.0 0.0 35.1 2
ジルコニウム
(ZrO2換算 千t)
14,000.0 14,000.0 6,500.0 -53.6 10.5 2
金(t) 6,000.0 6,000.0 3,200.0 -46.7 6.4 3
ルチル(t) 8,300.0 8,300.0 6,100.0 -26.5 13.0 3
フッ素(蛍石)(千t) 41,000.0 41,000.0 41,000.0 310.0 13.2 3
バナジウム(千t) 3,500.0 3,500.0 3,500.0 0.0 15.9 4
イルメナイト(t) 63,000.0 63,000.0 35,000.0 – 44.4 4.5 6
レアアース(千t) 860.0 790.0 0.7 11
鉄(百万t) 770.0 770.0 690.0 – 10.4 0.9 11
コバルト(千t) 29.0 24.0 50.0 108.3 0.7 11
ニッケル(千t) 3,700.0 3,700.0

出典:Mineral Commodity Summaries 2020

(2)生産量

表2. 鉱石生産量
鉱 種 2017年 2018年 2019年 対前年増減比(%) 世界シェア(%) ランク
鉄鉱石(千t) 74,722.9 74,263.7 72,430.3 -2.5 2.5 6
クロム鉱石(千t) 16,587.7 17,575.3 17,664.2 -1.0 48.7 1
マンガン鉱石(千t) 14,357.9 14,918.2 17,009.0 14.0 21.4 2
チタン鉱石(千t) 2,285.0 1,873.0 25.1 1
バナジウム(純分千t) 14.2 14.9 18.8 3
プラチナ(純分t) 138.4 138.9 142.0 – 2.2 73.8 1
パラジウム(純分t) 79.2 79.1 85.3 7.8 39.2 2
ロジウム(純分t) 19.0 19.2 20.3 5.7 82.2 1
金(純分t) 137.3 117.1 105.0 – 10.3 3.3 9
銀(純分t) 62.5 46.5 55.9 -20.1 0.2 21
ニッケル(純分千t) 48.5 43.2 43.4 0.5 1.7 10
鉛(純分千t) 48.2 35.1 42.9 22.3 0.9 16
亜鉛(純分千t) 30.8 28.1 125.2 344.9 1.0 18
銅(純分千t) 65.5 46.9 0.2 13
ウラン(純分t) 258.0 204.0 137.0 – 32.8 0.3 11
蛍石(千t) 218 212 4.5 3

出典:World Metal Statistics Yearbook 2020;WMS Yearbook
Department of Mineral Resources and Energy, SAMI 2018-2019; DMRE
Johnson Matthey PGM Market Report May 2020; Johnson Matthey

(3)鉱山開発・探鉱活動 

将来の南ア鉱業を支える鉱種として、PGMの探鉱活動が進められている。また、国内の探鉱投資額は、一時期と比較して、大幅に減少しており、近年では100mUS$弱で推移している。

PGMに関しては、Styldrift鉱山の操業開始など新規や拡張による増産の報告がいくつか見られる。日本企業による投資も、PGMをターゲットしたPlatreefプロジェクト及びWaterbergプロジェクトが進められている。

他方で、金については、世界でも最も深部での鉱山開発になり高コスト化が進み、年々生産量は減少している。そのため、金鉱山開発の新規開発への投資が進まない環境にあり、2021年まで生き残る金鉱山は2つのみではないかとの見通しもなされていた。また、Anglo Gold社やGold Fields社などはいみゃ海外での収益が多くを占めており、南ア国内の金鉱山の売却や生産規模の縮小を行い、ガーナなどの西アフリカの金プロジェクトの開発に切り替えつつある。

2.鉱業政策

世界有数の資源国であるが、南アでは、かつての白人優遇(アパルトヘイト)政策により虐げられた黒人等の権利の回復や人種間経済格差解消のための政策が社会一般に取られており、鉱業政策もその影響を受けている。

近年では、就業人口を増加させるために、高付加価値化政策や新規投資促進にも取り組んでいる。

表3.鉱業政策の主な動き
年 月 内 容
1652年 オランダ、ケープ植民地設立
1910年 「南アフリカ連邦」独立
1911年 白人鉱山労働者の保護を目的とした鉱山労働者法の施行
1913年 黒人の居住地を制限する原住民土地法が制定
1961年 英連邦から脱退し、共和制移行(「南アフリカ共和国」成立)
1991年 アパルトヘイト関連法廃止
1994年5月 Mandela政権成立
1997年2月 新憲法発効
1996年 鉱山安全衛生法制定
2002年 鉱物・資源石油開発法(MPRDA)制定
2002年 鉱業憲章Ⅰ(Mining CharterⅠ)制定
2003年 「Broad-Based Black Economic Empowerment Act of 2003(「Broad-Based BEE 法」
2004年5月 鉱物・資源石油開発法(MPRDA)施行
2006年5月 貴金属法施行
2010年3月 鉱物・石油に関するロイヤルティ法施行
2010年9月 鉱業憲章Ⅱ(Mining CharterⅡ)
2018年2月 Ramaphosa大統領就任
2018年9月 鉱業憲章Ⅲ(Mining CharterⅢ)施行
2019年5月 鉱物資源省とエネルギー省を鉱物資源・エネルギー省に統合
2019年6月 炭素税施行
(1)Ramaphosa政権

2019 年 5 月 8 日に国民総選挙が実施され、与党であるアフリカ民族会議(ANC)が過半数の議席を維持した。その後の通常国会にて Cyril Ramaphosa 大統領の再任が承認され、就任演説では雇用対策の強化が強調された。組閣において、閣僚ポストを 36 から 28 に削減しており、鉱物資源省とエネルギー省の統合(Gwede Mantashe 鉱物資源大臣が鉱物資源・エネルギー大臣となる)をはじめ、14 省を 7省に再編し、行政をスリム化した。

(2)黒人経済力強化政策(BEE)

南ア政府の与党であるANC政権は、1994年のMandela大統領就任によるアパルトヘイト撤廃に基づき、人種間経済格差の是正を目的として黒人労働者の雇用促進と所得増加に力を入れており、本政策は「黒人経済力強化政策」(Black Economic Empowerment、BEE 政策)と総称されている。

各業界団体は独自の「BEE 憲章」を制定し、その業界の企業が達成すべき黒人優遇度合の数値目標(スコアカード)を定めている。鉱業界では、採鉱権を得るためには、後述の鉱業憲章の目標値を達成しなければならない。

(3)鉱物・石油資源開発法(MPRDA法)

MPRDA法は2002年に制定された南アの鉱業活動を統括する基本法で、その後2008年に一部改正された。この法律によって、すべての鉱物の試掘、探鉱及び採掘の権利は、国家に帰属し、これらの権利の取得等の申請は、政府に直接申請することとなった。また、BEE政策に基づき、採掘権は、鉱業における所有権及び事業管理の改革を実行するために必要なツールとしての機能を有するとともに、鉱業権保有者は、鉱山が立地する地域社会のみならず、鉱山の従業員が所属する地域社会に対しても、社会・経済的開発に貢献すべきであると規定するように、単なる鉱業管理という枠組みを超える位置付けとなっている。

2014年、同法の改正法案が国会を通過したが、戦略的に重要な鉱種については、生産者に対し、国内での高付加価値化を強制する権限を鉱物資源大臣に与えるといった内容が南アへの投資を妨げるなどの反対にあい、2018年9月に撤回が発表された。

(4)鉱業憲章(Mining Carter Ⅲ)

鉱業憲章は、2002年のMPRDAで導入され、鉱業セクターで歴史的に不利益を被ってきた黒人、カラード及びインド系南ア人への鉱山権益の「移行」を規定している。2002年の鉱業憲章Ⅰ及び2010年の鉱業憲章Ⅱと改正されてきたが、2016年4月に鉱業憲章Ⅲ改正案が当時のZwane鉱物資源大臣によって突如開示された。

その後、長らく議論がなされていたが、Mantashe鉱物資源大臣(当時)のもとでドラフトが再編され、南ア鉱業界との対話を経て、2018年9月に施行された。

(鉱業憲章Ⅲの概要(2018年9月公表))
  • 新規の鉱業権についてはBEE企業株式保有比率の下限を26%から30%に引き上げ。30%のうち、労働者及びコミュニティの保有比率はそれぞれ5%以上かつ譲渡不可であり、BEE企業の保有比率は20%以上とし、女性が保有するBEE企業に5%以上であると望ましい。BEE企業による株式売却譲渡は当該鉱業権の有効期間の3分の1を経過後であれば株式売却後も当該鉱業権に限りOEAE(Once Empowered always empowered)が有効。
  • 既存の鉱業権者で鉱業憲章Ⅲの発効前に以前の鉱業憲章に規定されたBEE所有の26%の基準を満たしていれば、鉱業権の移転もしくは更新までは当該鉱業権に限りOAEAが有効。
  • 鉱業憲章Ⅲの発効前に申請もしくは承認された鉱業権については権利発効日より5年以内に30%以上にすればよいとの経過措置が適用。
  • 鉱業憲章Ⅲ発効前にBEE所有の11%を免除する代替措置(beneficiation)を申請していた企業は、鉱業権の有効期間内は当該免除規定が適用。
  • コミュニティによる5%分の所有については、コミュニティ発展を目的とした組織に保有させる代替措置を設定。Social and Labor Plan Commitmentに従い、コミュニティ開発のプログラムをそのコミュニティで使用される最低2言語で作成することが必要。
  • MPRDAに従い、労働者のための住宅・居住条件計画を提出することが必要。
  • BEE企業からの調達率が引き上げられ、少なくとも鉱業資材は70%、事業全体のサービスは80%をBEE企業から調達することが必要。また、鉱物サンプルの分析は、100%BEE企業が行うことが必要。
  • 黒人の採用比率を次の通り引き上げ。
  • 取締役及びエグゼクティブ/トップマネジメントレベル:50%以上を黒人に、そのうち20%は黒人女性
  • シニア及びミドルマネジメントレベル:60%以上を黒人に、そのうち25%は黒人女性
  • ジュニアマネジメントレベルでは:70%以上を黒人に、そのうち30%は黒人女性
  • 障害者の雇用比率は1.5%以上
  • 人材育成として、必要なスキル開発に総投資額の5%を投資すること
  • スコアカード100%中50%以下はMPRDA違反として、制裁対象
(4)労働争議

南アは世界で最もストライキが多発する国の一つである。2012年8月に起きたLonmin社のMarikana白金鉱山でのストライキでは、労働者が暴徒化し46名が死亡する事件に発展した。背景には、NUM(全国鉱山労働組合)と、近年勢力を拡大したAMCU(鉱山労働者・建設組合連合)との対立という政治的側面や、南アの白金業界における生産者寡占化による業界の体質硬直化という産業構造面での特徴も指摘された。

その後、南ア政府は鉱業の安定性を回復するため2013年にアクションプランを立ち上げ、南アの法的枠組みと憲法に従った形でストライキが行われるべきであるとし、違法ストライキに対しては断固とした姿勢を取ることが示された。

こうした中、2014年にもAMCUによる白金生産大手3社のAmplats社、Implats社及びLonmin社の白金鉱山において、賃上げを要求する労働者7万人のストライキが発生し、約5か月に渡る長期ストライキとなった。2018年にも、Sibanye社の南アのすべての金鉱山にて、AMCUの組合員14,000人による賃上げストライキが発生している。

(5)統合資源計画

2019年10月、2030年までのエネルギー供給の指針を決める統合資源計画(IRP)2019が公表された。2030年の電源構成(発電容量)を石炭火力43%、風力23%、太陽光11%、水力6%、原子力発電2%、ガス及びディーゼル8%及びエネルギー貯蔵6%とした。石炭火力の割合を現在の71%から大きく下げる一方で、再生可能エネルギーを現在の17%から40%に増加させる計画である。

IRPを受けて、再生可能エネルギーを中心とした11,813MWの独立発電事業者(IPP)調達に係る公示がなされた。また、IRPには短期的な不足分2,000MWを別途に供給する緊急措置についても盛り込まれており、既に発電業者の選定が進められている。

近年の再生可能エネルギーのコスト低減に伴い、鉱山会社による自家発電の計画も増えてきた。鉱物資源・エネルギー省も規制緩和に取組んでいる。鉱業協議会によると鉱山による自家発電の計画中の発電容量の合計は2GWにのぼる。

ESKOMは、大きな政治・経済の課題となっている。老朽化した発電施設の維持、予算を大幅に上回った新規メガ発電所の建設資金、結果440bZAR(南ア・ランド:約29bUS$)に上る巨額債務を抱えており、ESKOM自身も財政、構造、運営上の問題を抱えていることを認めており、将来の電力供給の信頼性に懸念がある。鉱業協議会(Mineral Council)によると、ESKOMの電力の約30%は鉱業(製錬も含む)が使用している。

(6)炭素税

炭素税は、二酸化炭素の排出量に応じて課税される税である。炭素税の導入は、2010年来議論されてきたが、2019年6月1日に南ア議会で可決、施行された。2段階運用のPhase1は、既に2019年6月から実施(2022年まで)されている。CO2排出量1t当たり120ZARの課税がなされるが、95%の課税対象外措置のうち、鉱山を含む経済活動に伴う排出については60%が課税対象外になるものの、35%の免除措置については不透明のままである。2023年から2030年以降のPhase2については、CO2排出量1t当たり170ZARが設定されている。

鉱業協議会は、炭素税の運用に不明瞭な部分があること、特にPhase2の免税措置が設定されていないことは、南ア鉱業の競争力に悪影響を与えるとしている。

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