閉じる

ニュース・フラッシュ

鉱種:
2019年8月19日 リマ 栗原健一

ペルー:Tia Maria銅プロジェクト、建設許可停止の影響

 2019年8月12~14日付け地元各紙によると、エネルギー鉱山省の鉱業審議会によりTia Maria銅プロジェクト(Arequipa州)の鉱山建設許可が最大120日間停止されたことを受けて、Southern Copper社は、同社が鉱山建設許可の取得に際し全ての法規や要件を履行したほか、本プロジェクトは世界最高レベルの環境基準を満たすとし、今後然るべき場所において現行法の枠組でこれらの事実の根拠を示し防御していく方針を明らかにした。さらに政府に対しては、建設許可付与の動機となった本プロジェクト建設の合法性や合理性、国にとっての便益性等について説明するよう要請したほか、市民社会や政府に対し、建設許可停止期間中における対話の促進を呼びかけた。
 Vizcarra大統領とArequipa州のCaceres知事の会合の録音記録流出に関しては、8月12日の週に入ってから、さらに新たな会話記録が公表された。この中で大統領は、法令に基づいた手順を踏まず許可の取消を行った場合、Southern Copper社が国に対し訴訟を行う可能性があり、そのような状況を避けなければならないと説明、その上で、州知事らが提出した見直し請求に基づく行政手続きを経て建設許可の差し戻しをすることが取るべき方法であり、大統領自らも支持するとの発言を行っている。さらに、1か月以内に(建設許可停止の)結果が出ない場合、抗議の激化を容認するとの発言を行っている。
 これを受けて、鉱業石油エネルギー協会(SNMPE)は、仲介者としての立場にある政府は透明性を保ち、双方からの信頼を得なければならないはずだとしたほか、鉱業審議会による判断は、政府が暴力に屈服した悪しき先例を作り出したとし、改めて政府に対する失望を表明した。またAraoz副大統領も鉱業審議会の決定は法的安定性を揺るがすものであり、鉱業に限らず投資全体に影響するものだとの懸念を表明した。
 Arequipa州の抗議デモは、下火になったものの依然として継続している。Cocachacra区のCornejo区長は、プロジェクト反対の理由として、鉱業によって豊かになった自治体は一つも存在しないと述べた。現在のTambo渓谷の居住者の60%は、鉱山開発によって元の居住地を追われ移住してきた人々であり、州内で操業している鉱山をみても住民の暮らしは改善しておらず、少なくとも現行の制度下において鉱山による経済的な貢献の可能性は認められないと主張した。またTia Maria銅プロジェクトに関しては、水源付近に位置するうえ、ピットから渓谷までの距離が800mと近すぎることから、経済協力との引き換えによるプロジェクト受け入れも考えられないとし、ピットの深さは300mであり河川や海水の汚染を引き起こすこと、粉塵が酸性雨をもたらす可能性があるとして、環境や農業、漁業への懸念を示した。またSouthern Copper社が実施した病院建設プロジェクトへの融資等は、住民の分裂を図ったものだとの見方を示した。
 一方Arequipa州のGutierrez副知事は、今回の抗議デモ激化の責任の8割はCaceres知事にあるとし、同知事は次期選挙に向けて左派候補者としての立場を強化する必要から、政治的な意図のもとにデモの扇動を行ったとの考えを示した。またTia Maria銅プロジェクトについては、開発には賛成であるが、Southern Copper社は既に多くの問題を引き起こして、信頼を失っており、他の企業による開発が望ましいとの考えを示した。さらに、大企業が撤退しプロジェクトが中止された場合、違法鉱業による占拠を受け、真に深刻な環境被害がもたらされることになると警告した。

ページトップへ