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  平成20年 5月 8日 2008年36号
カナダにおける直近の探鉱実績と税効果について

<バンクーバー事務所  武富義和 報告>

 カナダの探鉱はここ数年活況を呈している。これは、探鉱活動が単に金属価格、資源ポテンシャル、探鉱コストの要因のみで決定されるものではなく、政治的な安定性、税制等インセンティブも影響していると考えられる。ここでは、カナダ天然資源省が発表している2007年の探鉱についての簡単な分析、2008年の探鉱トレンドを紹介しつつ、探鉱活動に対する税効果についても言及してみることとする。

1. 探鉱概況
 カナダは世界で最も活発に探鉱が行われている国である。世界の21.2%を占めるカナダと比べると、豪州は12.4%、今話題となっているアフリカ諸国全体(南アを除く)でも12.5%と半分程度であり、カナダの探鉱実績は際だったものとなっている。

出所:MEG
図1.2007年地域別探鉱実績

 カナダ国内での2007年の探鉱支出は、2006年の19億C$から34%増加し26億C$を記録した。8年連続増、5年連続10億C$超の探鉱支出であり、1987年に記録した過去最高の24億C$を上回るものであった。
 なお、探鉱活動は、大きく初期ステージの探鉱と鉱床評価に分かれるが、それぞれの比率は概ね初期探鉱が8割、鉱床評価が2割となっている。
 探鉱経費の約半分は掘削であり、探鉱の主要な経費となっている。坑内外を含む掘削総延長は6.6百万mに上っており、これも1987年の記録を上回るものとなった。その次に大きいのが立坑掘削、連絡坑等主に鉱床評価に必要なRock Work(坑道探鉱:下記注参照)経費で9%を占める。これに、初期探鉱としての物理探査、地質調査が続いている。


図2.2007年探鉱支出費目

※注:”Rock Work”とは、立坑、水平坑道、立入坑道、掘上坑道、斜坑含む坑道探鉱のことで
岩石試料採取、排水を含む一連の探鉱作業をいう。

2. 州別の探鉱活動
 2007年の州別探鉱支出は、石油・ガス開発主体のアルバータ州を除き増加しており、特に上位5州のオンタリオ州(502百万C$)、ケベック州(430百万C$)、BC州(428百万C$)、ヌナバト準州(322百万C$)、サスカチュワン州(273百万C$)の合計1,955百万C$は前年度1,432百万C$から36.5%増となっており、2007年総計2,560百万C$の76%を占める。
 2008年はNWT準州、ノバスコチア州で若干減少するが、全体としては8%増の2,766百万C$と見込まれており、伸びはやや鈍化するものの引続き高水準の探鉱投資が展開される見通しである。


図3.カナダ州別探鉱支出


3. 鉱種別の探鉱実績
 2007年の鉱種別探鉱費はダイヤモンドと石炭を除き増加傾向にあり、その中でも貴金属が933百万C$と最も大きく貢献している。
 ベースメタルは613百万C$でこれに次ぎ、1982年に記録した582百万C$を上回り過去最大となっており、2008年には762百万C$に達すると見込まれる。
 ウランは昨今急速に増加しており、2004年の48百万C$から2007年には354百万C$と7倍増となり、鉱種別で3位にランクし全体の14%を占めるに至った。ウラン探鉱は、サスカチュワン州が最も活発であるが、ケベック州(Otish Mountains地区)、ニューファンドランド・ラブラドール州(Central Mineral Belt地区)、ヌナバト準州(Thelon、Hornby Bay Basin地区)での探鉱も活発化している。


出所:Nrcan

図4.鉱種別探鉱支出の推移(百万C$)

4.ジュニアとシニア
 最近のジュニアの活動は目覚ましく、2004年には探鉱投資額でシニアを抜き、現在に至っている。1999年におけるジュニアの探鉱投資は175百万C$しかなかったが、2007年には約10倍に当たる17億C$まで増加しており、その割合はカナダ全体の2/3に達している。なお、カナダの探鉱投資額は2008年にも微増し28億C$に達すると見込まれる。



 また、1案件当たり1百万C$を超える探鉱プロジェクト数は、2005年の179件から年々増加し、2006年256件、2007年335件2008年には347件と見込まれており、インフレ等の影響もあるが、年々探鉱規模が拡大傾向にある。
 探鉱に携わる会社数に視点を置くと、2007年に探鉱活動を行っているジュニアが648社で全体の8割強を占め、シニアは132社となっている。

5.探鉱に係る税控除とその効果
(1)連邦政府による探鉱費控除制度の概要
①探鉱費控除(Canadian Exploration Expense - CEE)
 カナダ探鉱費用(CEE)には、drilling、トレンチ、地質調査、物理探鉱、地化学探鉱等の探鉱費と生産前の立坑等開発費が含まれ、100%税控除対象となっている。これらの費用は、発生年度の課税所得額を上限に適用できる。発生年度に控除しなかった額は、累積カナダ探鉱費用(Cumulative Canadian Exploration Expense: CCEE)として計上累積され、無期限に繰越すことができる。

②フロースルー株式制度(Flow-Through Share Mechanism)
 フロースルー株式とは、株式発行法人が株式の対価額相当まで探鉱費用と開発費用を投じることが出来るという合意のもとに発行する株式をいい、税法上、探鉱開発費用はフロースルー株式を購入した投資家(納税者となる個人並びに会社)の経費(費用)とみなされる。
 株式発行法人であるジュニア探鉱会社は一般的に収益が上がっていないため税控除の対象外である。このため、探鉱費用と開発費用相当額をフロースルー株式という形に変え、これを購入した所得のある投資家に対して税控除の権利を与えるというものである。この制度では、投資家の所得税の課税対象額から株式投資額の100%まで控除することができる。当該株式購入額の5~7割が税控除の対象になるとともに、投資家にとっては当該株式保有による利益享受も可能となる。
 通常、収益の上がっていない会社は資金調達が難しいが、フロースルー株式発行法人であるジュニア等探鉱会社は、株式購入に当たってインセンティブのあるフロースルー株式を発行することにより、市場からの資金調達が可能となる。
 探鉱費(CEE)と開発費(CDE)のみがこのフロースルー株式の対象とされており、フロースルー株式発行企業の主要ビジネスが鉱業であることが前提条件となっている。

③探鉱開発投資税額控除(Investment Tax Credit for Exploration in Canada-ITCE)
 フロースルー株式を購入した個人投資家には、更に15%の探鉱開発投資税額控除が認められており、この制度は俗称「スーパー・フロースルー」と呼ばれている。2008年連邦予算において2009年3月31日まで延長されている。 これは、会社には適用されず、個人投資家のみに適用される。

④生産前探鉱支出控除(Pre-Production Mining Expenditures-PPME)
 フロースルー株式で手当していない経費で、2004年以降発生した生産前の鉱業活動での支出について、10%の控除を認めている。

(2)州政府による税控除制度の概要
 スーパー・フロースルーと同様な主旨で創設されており、BC州では20%、マニトバ州10%、オンタリオ州5%と独自に追加的な投資税額控除を認めている。
その他、BC州では20%の探鉱控除を行っており、松食虫被害にあった山林で探鉱を行う場合には更に10%上乗せし、30%の探鉱控除を行う制度を有する。

(3)税控除の効果
 特にフロースルー株式制度は効果的であり、株式発行により資金調達額は年々増加し、2007年は7億C$に達している。2007年の探鉱総投資額26億C$に占める割合は1/4を超えており、ジュニアの重要な探鉱資金供給源となっている。


出所:Nrcan

図6.フロースルー株式による累積資金調達(2001~2007)

 フロースルーの税効果の一例として、フロースルー株に1,000C$を投資した個人投資家は、連邦、州の税控除により正味コストがケベック州では284C$、BC州では383C$、マニトバ州では410C$になるという試算がある。これは、個人投資家がフロースルー株を購入すれば相当な節税効果があるということを意味しており、個人投資家の当該株式購入に対する大きなインセンティブとなっている。


出所:Nrcan

図7.フロースルー株式に対する正味コスト(2007年)

 その他、カナダ天然資源省は、内部利益率(IRR)を10%と仮定し、1993年時点と2003年時点での平均税率を国(州)別に試算している。それによると、1993年、2003年ともケベック州が第一位で、平均的税率はそれぞれ18%、17%となっている。また、平均的税率は、米国諸州を除けば減少傾向となっているが、中でも2003年時点では、カナダのケベック州、マニトバ州、ニューファンドランド・ラブラドール州、オンタリオ州、BC州が20%を下回る結果となっている。詳細は不明なるも、平均税率が30~40%であるメキシコ、インドネシア、チリ、PNG、西豪州等世界の主要鉱産国と比較すると、カナダ諸州の税率はかなり低く設定されているのが特徴的である。


6. 終わりに
 政府は、大規模な鉱業大会では必ず税制等を含めたセミナーを行い、内外の鉱業関係者に対してカナダへの投資促進を呼び掛けている。また、減税措置の延長、証券市場整備等により、しっかりと企業基盤を自国への投資に向けさせている。
 一方、民間は、トロント証券取引所(TSX)にシニア341社が上場し、2007年には118億C$を資金調達、また、TSX-ベンチャーにジュニア1,032社が上場し72億C$を調達し、探鉱開発を推進している。この資金調達額は世界の鉱業分野全体の実に36%に当たり、ロンドン証券取引所の20%を大きく上回る世界最大の資金調達市場となっている。
 このように、鉱業部門だけを見ても、政府は専ら鉱業投資環境、探鉱データの公開制度、地質データベース等を整備することにより民間投資を活性化し、民間企業は整備された税制、証券市場等の下で資金調達し、公開データを活用して探鉱推進するという、それぞれの役割分担が明確にできているようだ。
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。

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