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コンゴ民主共和国産等の紛争鉱物に関する米国の規制と関係業界の動向
<金属企画調査部 田原 由美子
廣川 満哉 報告> |
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1. DRCの鉱業概要と紛争鉱物の背景DRCはアフリカ第3位の面積234万km2、人口6,870万人を有する国家で、アフリカの中でも有数の資源国であるが、1996年から2003年までの内戦、政情不安により最貧国の一つとなった。内戦以前は鉱業が占める割合がGDPの25%、輸出額の3/4であったが、2000年には鉱業のGDPシェアは6%にまで落ち込んだ。2001年以降、カビラ大統領の暫定政権下での和平プロセスの進展が見られるにつれ徐々に情勢は安定化し、政府は鉱業を国内経済を支える柱の一つと位置付けている。ここ数年、欧米企業を中心とした鉱業投資が再び戻りつつあり、2008年の鉱業GDPシェアは13%となった 1。 (1)鉱業概況DRCにはアフリカのカッパーベルト(ザンビア~コンゴに続く銅鉱床帯)が分布し、世界第1位のコバルト埋蔵量を有し、かつては世界における主要銅・コバルト生産国であった。1970年代におけるコバルトの年間生産約1.75万t(世界第1位)1986年には銅鉱石生産47.6万t(世界第5位)であった。その後長期に亘る内戦状態により生産は落ち込み、2005年の生産は銅約7.8万t、コバルト約600 tにとどまっていたが、2009年に銅生産は38.4万tまで回復した。 (2)紛争の歴史 DRCは、1960年の独立直後から内戦が勃発し、第一次コンゴ動乱(1960~63年)、第二次コンゴ動乱(1964年)を経た後、モブツ大統領が独裁政権を握ったが、同政権崩壊後、第一次コンゴ内戦(1996~97年)、第二次コンゴ内戦(1998~2003年)を経験している 2。DRC政府によれば、内戦の死者は300万人を超え、死者380万人、国内避難民240万人、難民40万人とされる 3。 2. 米国金融規制改革法におけるDRC産等紛争鉱物規制の概要2010年7月21日に成立した米国金融規制改革法では、DRCおよびその隣国産の鉱物資源を使用した製品を製造する企業に証券取引委員会(SEC)への報告・web開示の義務付けが盛り込まれた。同法に基づき、2010年12月15日、鉱物資源の原産国、鉱物・エネルギー資源の商業開発等に関する規則案が公表された。以下は、開示された規制案の概要である。 (1) 対象企業:米国証券取引法に基づき、SECに対して報告書を提出している企業で、その機能または生産に紛争鉱物が必要な産品を生産する者。 (2) 規制対象:規制対象となる鉱物は表1の通りであり、これらの派生物も対象となっている。 表1. 米国金融規制改革法における規制対象鉱物とその用途
(3) 報告内容:対象企業は、DRC及びその隣国が紛争鉱物の原産国となっているか否かを、合理的な調査を踏まえ、年次報告書において開示することが求められている。 ● DRC及びその隣国が紛争鉱物の原産国となっていない(”DRC conflict-free”)と判断した場合:調査プロセスを開示すること、また同内容をweb開示すること及びその記録の保持が求められている。 ● DRC及びその隣国が紛争鉱物の原産国となっていると判断した場合、またはDRC及びその隣国が紛争鉱物の原産国となっていない(DRC conflict-free)ことを結論付けられない場合:調査結果を開示し、年次報告書の添付文書として「紛争鉱物報告書(Conflict Minerals Report)」を添付するほか、同報告書のweb開示が求められている。「紛争鉱物報告書」には、デューデリジェンス実施の手段等を含めるほか、米国会計検査院長官が定めた基準に基づく民間部門の独立第三者による監査報告書の開示も含めなければならない。 - DRC conflict-freeではない(DRC及びその隣国が紛争鉱物の原産国となっている)紛争鉱物を含む製品の説明 - 同紛争鉱物の選鉱施設 - 同紛争鉱物の原産国 - 同紛争鉱物の産出鉱山及び原産地を可能な限り特定するための取り組み (4) 今後のスケジュール:本規則案についてのパブリックコメント募集期間は当初2011年1月31日までであったが、30日間延長され2011年3月2日となった。そこで得られた意見などを踏まえ、最終規則が2011年4月15日まで(法案成立270日後)に公表されると見られている。 3. OECD:「紛争及び高リスク地域からの鉱物についての責任あるサプライチェーンのためのOECDデューデリジェンス・ガイダンス」についてOECDでは、2000年よりDRCにおける天然資源不法搾取問題についての専門家委員会が設置され、取り組みが進められていたが、2010年12月22日、OECDからガイダンス「紛争及び高リスク地域からの鉱物についての責任あるサプライチェーンのためのOECDデューデリジェンス・ガイダンス」が公表された。ちなみに米国金融規制改革法の規則案においても、年次報告書の添付文書としてデューデリジェンス実施のための手段等を「紛争鉱物報告書」に含めるよう記載しており、同規制案に対応する上でも参考となると思われる。本ガイダンスは、2011年2月のOECD理事会において、理事会勧告として採択される予定である。 (1) 本ガイダンスの概要:本ガイダンスは、企業が人権を尊重し、鉱物調達を通じて紛争に寄与しないよう促すことを目的としている。本ガイダンスの対象企業は、紛争地域または高リスク地域から調達される錫、タンタル、タングステン、それらの鉱石、または、その派生製品及び金を供給・使用する鉱物サプライチェーンの全企業としている。企業がサプライチェーンのデューデリジェンスに取り組むべき理由は、鉱物サプライチェーンにおいて、企業は意図しなくとも紛争に関与するリスクがあること、更にこのリスクは自社だけに留まらず、サプライチェーンの他の企業に端を発する場合もあるためである。 (2) デューデリジェンスに取り組むための5ステップ:鉱物サプライチェーンにおいてリスクに対応するためには、調達に関わるリスクを特定し、そのリスクの回避と軽減に取り組むことが必要とされている。本ガイダンス中では、デューデリジェンスに関して、次の5つのステップから成る枠組みを取り上げている。 5つのステップの枠組みの中で中心となるのは以下のような内容である。 ● 紛争及び高リスク地域から調達される鉱物の採掘、輸送、処理、取引、選鉱、製錬、精錬、合金製造、製造または製品の販売について現状を把握する。 ● サプライチェーン方針で設定された基準に照らして現状を評価することにより、現状または潜在的なリスクの特定・評価を行う。 ● リスク管理計画を採用・実施することで、特定のリスクを回避または軽減する。これにより、サプライヤーに対して以下のいずれかの決定を行うことが可能である。 - リスク軽減への取り組み実施による取引継続 - リスク軽減を目指すと同時に、一時的な取引停止 - リスク軽減への取り組みに失敗した場合、リスク軽減が不可能である場合、又は許容出来ないリスクが存在する場合、サプライヤーとの取引中止 デューデリジェンスの必要条件とプロセスは、各企業が鉱物サプライチェーンのどの位置に存在するか、また、どの鉱物に関わっているかによって異なる。しかし、企業はサプライヤーの選択や調達の決定について再度確認を行い、5つのステップに基づいたマネジメントシステムを確立すべきである。 (3) 関連事項国連安全保障理事会は紛争鉱物に関して2010年11月29日決議を行い、2011年11月30日までDRCの反政府勢力に関連した制裁措置を引き続き拡充することなどを承認した(Resolution 1952(2010))。更に国連の専門家グループは2010年11月29日に発行した報告書において、DRC産鉱物の輸入者、製錬事業者及び消費者に対して、リスク評価を取り入れたデューデリジェンスの実施を推奨しているほか、5ステップの枠組みも推奨しており、これに関しOECDガイドラインの参照も勧めている。安保理決議はこの専門家グループによるガイドラインの推奨を支持しているほか、国連加盟国にデューデリジェンス・ガイドラインへの認識を高めるため必要な取り組みを行うよう求めている。 3. 業界の動き:電子業界の事例 紛争鉱物への規制強化やガイダンス発行などの動きに伴い、既に自主的な取り組みを進めている業界もある。2010年12月、EICC(電子業界行動規範推進グループ)とGeSIが、「紛争に関わらない製錬(CFS)プログラム(EICC-GeSI Conflict-Free Smelter (CFS))」を立ち上げ、紛争鉱物に関してタンタル製錬業者の評価を初めて実施した。 (1)紛争鉱物への対応 EICCとGeSIは、2008年に紛争鉱物の問題に対してワーキンググループを発足させ、2009年末までに電子業界全般の金属使用状況と業界としての効率的な取り組みについての共同調査を実施した。電子機器製品に多く使用される鉱物としてタンタル、錫、コバルトを特定し、これら特定された鉱物の採掘工程までの調達ルートを把握していくための共同調査を進めた。 ● 業務プロセスの確認 - 紛争鉱物に関する企業方針や企業規範の評価 ● 鉱物分析についての確認 - 2009年1月1日以降に製錬業者により調達された全原料が、紛争地帯から調達されたものでないことを証明するための鉱物分析の実施 - 実際の鉱物採掘地域と原料調達地域名が一致しているかについての評価 - 「リサイクル」原料が、リサイクルの定義に当てはまるかの確認 CFSの評価は世界的に実施される予定だが、中国、マレーシア、ロシア、米国、インドネシアなどの製錬業者が中心となる見込みである。 (2)今後の予定現在は、タンタルの評価のみに留まっているが、2011年より錫、タングステン、金の製錬所にも拡大して行く予定である。また、当初はEICCとGeSIが本プログラムを立ち上げたが、現在は、製錬業者、米国政府の代表、NGO、錫・タンタルのサプライチェーン関係者、部品製造業者なども本プログラムの開発に関わっている。CFSプログラムは自主的な取り組みであるが、米国金融規制改革法の成立により本プログラムを用いる企業も増える可能性がある。 4. 今後の課題 米国地質調査所(US Geological Survey: USGS)によると、米国金融規制改革法のDRC産対象鉱物の生産量は下記の通りである。DRCから日本への鉱石輸入に関しては、タンタル鉱石約116 t(2008年)のみである。しかし、実際にはこうした鉱物のマテリアルフローは複雑であり、表2のように鉱山で生産されて直接取引される以外にもDRC産の鉱物は存在し、製錬などの過程で紛争鉱物が混ざる可能性も十分にあるほか、更にこうした鉱物はリサイクルされる場合もあり、より鉱物の追跡を難しくしている。 表2. 米国金融規制改革法の対象鉱物の生産量(2008年)
![]() 金融規制改革法の実際の適用にあたっては、以下のとおりまだ不明確な事項が残されており、これらは最終規則が公表されるまでにはある程度明らかになるものと思われる。 紛争鉱物条項の適用対象者は、「その機能又は生産に紛争鉱物が必要な産品を生産する者とされ、米国内の個人・企業の別や証券取引委員会への報告義務の有無を問わず全ての事業体が対象たり得るような解釈もあるが、現行の規則案では、適用対象者は同法により証券取引委員会に報告書を提出する株式発行者に限定されている。適用対象はDRC及びその隣国産と規定されているが、DRCの隣国には多くの資源国が存在するだけに隣国産まで適用されるかどうか注目される事項である。 5. おわりに 今後、米国株式市場に上場しているグローバルな企業は、米国金融規制改革法の直接的な影響を受けるほか、さらにサプライチェーンを通して、関連企業にも徐々に影響が広がっていくと思われる。企業が紛争鉱物対策に取り組むためには、OECDガイドラインの5ステップの枠組みに設定されているような取り組みが必要とされる。しかし、既存のマネジメントシステムに紛争鉱物に関する対策を組み込んで、リスクのあるサプライヤーを特定し、その連携を強化するなど、OECDの5ステップの枠組みに設定されている取り組みを具体的に実施するためには時間を要する。また、特に複雑なサプライチェーン上流まで遡ってリスクのあるサプライヤーを特定するには、企業毎に長期的な戦略・計画の策定が必要となるであろう。 1 USGS. 2008. “Minerals Yearbook" (MYB), "The Mineral Industry of Congo (Kinsasha)”. 2 三田廣行「アフリカの紛争の背景とその安定化への模索」レファレンス 59(2), 5-26, 2009-02. 3 藤原定「中部アフリカ諸国の政治情勢-植民地時代から現代までの権力闘争史」日本国際問題研究所, 2008.5. | ![]() |
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