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  平成23年 8月25日 2011年43号
バハカリフォルニア半島の鉱業の現状と
自然保護地域での鉱業活動について


< メキシコ事務所 高木博康 報告 >

 メキシコ北西部バハカリフォルニア半島は、現在のところ操業中の金属鉱山は存在しないが、メキシコで最も鉱業が盛んでメキシコの約70%の銅を生産するSonora州とカリフォルニア湾を挟んで相対しており、銅、金、銀等の高い資源ポテンシャルから今後の鉱山開発が期待されている。
 JOGMECメキシコ事務所は、2011年7月にBaja California州のEl Arco銅プロジェクト(Grupo Mexico所有)及びBaja California Sur州のEl Boleo多金属プロジェクト(加Baja Mining 70%、韓国企業団30%の権益保有)の開発現場を訪れる機会を得たので、両プロジェクトの現況等について報告する。また、両プロジェクトは自然保護地域内に位置しており、自然保護地域内での鉱業開発に必要な手続きについて関係者から聴取したので、併せてここに紹介する。


1. バハカリフォルニア半島の鉱業の現状

図1. Baja California半島の鉱業プロジェクト位置図(△は、金(銀)プロジェクト)
図1. Baja California半島の鉱業プロジェクト
位置図(△は、金(銀)プロジェクト)

(1) 概観
 バハカリフォルニア半島の鉱業プロジェクトとしては、Baja California州南端に存在するEl Arco(エル・アルコ)銅プロジェクトとBaja California Sur州北部に位置するEl Boleo(エル・ボレオ)多金属プロジェクトが比較的鉱山規模が大きく、開発も比較的進捗している。その他、Baja California州やBaja California Sur州南部の州都La Pazの南側には金・銀のプロジェクトが存在しており、カナダ企業等が探鉱開発を進めている。

(2) El Arco銅プロジェクト

① 位置
 El Arco銅プロジェクトは、バハカリフォルニア半島中央部、Baja California州南端のBaja California Sur州との州境界部に位置する(図1参照)。近傍の町は、約50 km離れたGuerrero Negro(ゲレロ・ネグロ:Baja California Sur州太平洋側)であり、Baja California州内の近傍の町は約100 km離れた太平洋側のSanta Rosalíta(サンタ・ロサリータ)である。なお、本プロジェクトは、その全域が自然保護地域の動植物相保護地域「Valle de los Cirios」に含まれる。

② 経緯
 El Arco鉱区周辺では、1930~40年代に米企業がCalmalli(カラマリ)銅鉱山の操業を小規模に行っていた。1968年にGrupo Mexicoの前身のASARCO Mexicana社が本鉱区の権益を獲得した(同社は数度の変遷を経て1999年にGrupo Mexicoの100%子会社となり、2000年に同鉱区はGrupo Mexicoのメキシコ鉱業部門であるMM社(Minera Mexico)の管轄になる。)。1970年代から総延長約90,000 mのボーリング探査を実施し、1975~76年には酸化鉱を対象としたリーチング試験、1995年~97年にはパイロットプラントを用いた選鉱試験を含むFSを実施した。
 また、地下水の資源調査が終了し、国家水委員会(Comisión Nacional de Agua)からSX-EWプラント操業、飲料水等に必要な地下水200 l/sの使用許可を得た。


③ 鉱床概要
 鉱床タイプは斑岩銅鉱床で、鉱床の上部50 mが酸化鉱、約10 mの混合鉱を経て、下部に硫化鉱が賦存する。1996~98年に行った資源量評価結果(銅価格は0.80 US$/lb)は、表1の通りである。なお、プロジェクトのFSでは深さ360 mまでを対象としているが、深さ600 mにおいても鉱化作用が確認されており、深部に探鉱余地が残っている。また、モリブデンも含有しているが、品位0.01%以下であり、少なくとも当面の間は開発対象としない意向である。


表1.El Arco銅プロジェクトの概測資源量

  概測資源量
(百万t)
平均品位 金属含有量
Cu(%) Au(g/t) Cu(千t) Au(t)
酸化鉱 288 0.35 - 1,008 -
硫化鉱 1,033 0.498 0.126 5,144 130.2
合計 - - - 6,152 130.2

(出典:Grupo Mexico社説明資料)


④ 今後の開発計画
 開発計画では、SX-EWによる銅カソードを35千t/年、硫化鉱の粗鉱処理量は100千t/日で銅精鉱を1,500 t/日生産し、マインライフは30年を予定している。30年間の総開発コストは、1,544百万US$を見込んでいる。
 2007年時点の計画では、銅精鉱は約220 m離れたBaja California Sur州のCalifornia湾側の港町Santa Rosariaまでトラックで輸送し、選鉱プラントで使用する海水はその道に沿ってパイプラインを敷設し輸送する予定であったが、約80 km離れたBaja California州のSan Fransquito町まで道路を新設し、その道路に沿ってパイプラインを敷設し、700 l/sの海水を輸送することとなった。この道路とパイプラインの敷設のための環境影響評価は2011年内に認可される見通しとのことである。また、San Fransquito港に鉱山用の埠頭を新設し、銅精鉱を船でCalifornia湾の対岸のSonora州のGuaimas港へ運搬し、Grupo MexicoがGuaimas港周辺に新設する製錬所に輸送する計画となっている。
 電力は、2007年時点では、200 MWの発電プラントを新設する計画であったが、計画の見直しを行っており、自然保護地域の環境に配慮するため、Sonora州から海底ケーブルで送電する案が有力になっている。
 2012年からは、SX-EWプラント建設工事を開始し、2015年からの操業開始が予定されている。開発工事期間中には3,000~5,000人の雇用が見込まれ、鉱山操業開始後には直接雇用1,500人及び間接雇用4,500人が見込まれている。このため、60 km離れたBaja California州内の国道沿いに町を作ることを計画している。

写真1. El Arco銅プロジェクトのサイト
写真1. El Arco銅プロジェクトのサイト

(3) El Boleo多金属プロジェクト

① 位置
 El Boleo多金属プロジェクトは、バハカリフォルニア半島中央部、Baja California Sur州北部のCalifornia湾側の港町Santa Rosalia町の近隣の海岸沿いに位置する(図1参照)。なお、本プロジェクトはその一部が自然保護地域の生物圏保護区「El Vizcaíno」内にある。

② 経緯
 ここでは、かつてBoleo鉱山・製錬所が操業されていたが、製錬所の粉塵による鉱害問題の発生で1985年に閉山した。その時発生した大量の尾鉱及びスラグは、今でもSanta Rosalia町内の堆積場に放置されている。
 加Baja Mining社は、2001年から探鉱及び鉱床評価を実施し、2006年に投資計画を発表、2008年には大韓民国鉱業振興公社(KORES)を筆頭とする韓国企業団が参画し、権益はBaja Mining社70%、韓国企業団30%となった。2007年に国家森林委員会(CONAFOR)から土地利用変更許可が認可され、環境天然資源省(SEMARNAT:Secretaría de Medio Ambiente y Recursos Naturales)から環境影響評価報告書の認可を受けた。その際には、本プロジェクトが「自然保護地域」に位置しているため、SEMARNATから国家自然保護地域委員会(CONANP)と協定を締結することを求められた。その協定において、環境に重大な影響を与えた場合の環境修復のための保証金として1百万US$を3年間で支払う旨を約束し、2010年までにその支払いを終了している。2010年10月からはプラント工事に着工している。

③ 鉱床概要
 鉱床タイプは層状鉱床であり、確定・推定鉱物埋蔵量は、表2のとおりとなっている。


表2. El Boleo多金属プロジェクトの確定・推定埋蔵量

確定・推定鉱物埋蔵量(百万t) 平均品位(%) 金属含有量(千t)
Cu Co Zn Mn Cu Co Zn Mn
85 1.33 0.08 0.55 2.92 1,131 68 468 2,482

(出典:Baja Mining社説明資料)


④ 今後の開発計画
 2012年中にプラント及びインフラ建設を終了させ、2013年Q1から操業を開始する予定である。マインライフは23年以上である。
 現在、1,600名の作業員により以下のようなプラント及びインフラの基礎工事が行われている。
 ・選鉱プラント:銅、コバルト、亜鉛の順で金属を抽出する。なお、マンガンの回収方法については現在検討中とのことである。
 ・硫酸プラント:硫黄を原料として硫酸を製造する。
 ・電力供給プラント:石油火力発電(20 MW)及び硫酸プラントの熱源を利用した発電プラント(42 MW)を建設する。
 ・海水淡水化プラント:鉱山サイトの沿岸の海水を淡水化する。
 ・埠頭建設:鉱山サイトの沿岸に埠頭を建設する。
 初期の資本コストは、889百万US$で、マインライフ23年間の平均キャッシュコストは0.29 US$/lb-Cu、税引後8%割引NPVは13億US$、IRRは25.6%と試算している。
 操業開始後最初の6年間の平均年間生産量は、銅 56.7千t、コバルト 1.7千t、亜鉛 25.4千t、23年間の平均年間生産量は、銅 38.1千t、コバルト 1.6千t、亜鉛 29.5千tと見積もっている。

写真2. El Boleo多金属プロジェクトのプロジェクトサイト
写真2. El Boleo多金属プロジェクトのプロジェクトサイト

2. 「自然保護地域」における鉱業開発に必要な手続き

(1) 「自然保護地域」に関する法律の規定等
 メキシコの環境問題の主務官庁は、環境天然資源省(SEMAENAT)であり、環境に関する法的枠組みは、生態系均衡環境保護一般法(Ley General del Equilibrio Ecológico y la Protección al Ambiente以下「一般法」)に基づく。
 メキシコにおいて、鉱業法に規定された探鉱、採鉱及び選鉱の各活動を実施しようとする者は、それらの活動が生態系に与える可能性がある影響について記述した環境影響評価報告書をSEMARNATに提出しなければならない(「一般法」第28条及び第30条)。それに対し、SEMARNATは申請を受理した日から60日以内に裁定を下さなければならない(同法第35条付属条項)
 自然保護地域については第46条以降に記載があり、中核地帯(Zonas Núcleo)においては生態系の調査やエコツーリズム活動等極めて限定された活動しか認められておらず、鉱業活動は実施できない(同法第47条の2)。一方、緩衝地帯(Zonas de Amortiguamiento)においては、以下に述べる一定の条件で鉱業活動が認められる。
 自然保護地域には、目的に応じ、生物圏保護区(Reservas de la Biosfera)、国立公園(Parques Nacionales)、天然記念物(Monumentos Naturales)、天然資源保護地域(Areas de Protección de Recursos Naturales)、動植物相保護地域(Areas de Protección de Frora y Fauna)、サンクチュアリ(Santuarios)等がある(同法第46条)(表3参照)。このうち、生物圏保護区、天然資源保護地域及び動植物相保護地域の緩衝地帯においては、鉱業活動が認められる特別開発区域(Subsonas de Aprovechamiento Especial)や、公共利用区域(Subsonas de Uso Público)、人間居住区域(Subsonas de Asentamientos Humanos)等の下部区分の設定が可能とされている(同法第47条の2第1項)(表4参照)。
 以上のように、自然保護地域において鉱業活動が認められるのは生物圏保護区、天然資源保護地域及び動植物保護地域の緩衝地帯に限られ、環境影響評価報告書の認可等に当たってSEMARNATから当該開発用地を特別開発区域に設定してもらう必要がある。なお、国立公園、天然記念物地域及びサンクチュアリ並びにその他の自然保護地域の中核地帯では鉱業活動は認められていない。
 また、生物圏保護区及び動植物相保護地域の緩衝地帯で生産活動を行う場合は、持続的な開発とともに地域住民の参加が必要条件になっており(同法第48条、第54条)、地元住民のプロジェクトへの参加が必要となる。
 SEMARNATは、自然保護地域における政策の決定、実施、評価等において、有識者から構成される諮問機関である国家自然保護委員会(CONANP:Consejo Nacional de Áreas Naturales Protegidas)が出す見解及び提言を尊重することとなっている(同法第56条の2)。Baja California半島の2つのプロジェクトの例では、SEMARNATは、環境影響評価報告書の認可に当たって、事業者にCONANPとの協定の締結を求めているが、法律に根拠規定は存在しない(SEMARNATが事業者等と協定を締結できる旨は同第47条に規定されている。)。


表3. 自然保護地域の種類、指定の理由等

種類 指定の理由 件数 面積(km2)
生物圏保護区 生物多様性を代表する種が生息している。 41   126,528 
国立公園

景観美、歴史的価値、動植物相の存在、観光開発への適性がある。

67   14,825 
天然記念物地域

特異な性質、美的重要性、歴史的又は学術的価値といった自然要素がある。

5   163 
天然資源保護地域

土壌、水資源、森林適性のある森林に所在する天然資源が存在する。

8   44,401 
動植物相保護地域

野生生物一般法、漁業法等の規定に従い、野生動植物相の種が存在する。

35   66,469 
サンクチュアリ

峡谷、遺跡、洞窟、セノーテ等の豊かな生息環境が特徴付けられる。

18   1,463 
合計 - 174   253,848 

(出典:CONANP;件数,及び面積はメキシコ全土)


 なお、メキシコにおいて最も自然保護地域の面積が広いのは、Baja California州で、面積は47,795 km2で同州面積の19%を占める。2番目に自然保護地域の面積が広いのはBaja California Sur州で、面積は32,538 km2で同州面積の13%を占めている。
 図2.は、自然保護地域の地図であるが、下記CONANPホームページでダウンロードや拡大することができる。
 http://www.conanp.gob.mx/que_hacemos/mapa.php

図2. 自然保護地域(薄緑色:生物圏保護区、オレンジ色:動植物相保護地域、濃緑色:天然資源保護地域)
図2. 自然保護地域
(薄緑色:生物圏保護区、オレンジ色:動植物相保護地域、濃緑色:天然資源保護地域)

(出典:CONANPホームページ)

表4. 緩衝地帯の下部区分
(生物圏保護区、天然資源保護地域及び動植物相保護地域に設定可能)

保存区域 学術研究、環境モニタリング、環境教育活動等に限定。
伝統的利用区域 伝統的かつ継続的な形で天然資源を利用、学術研究、環境教育、ツーリズム活動、エコ技術の活用等に限定。
天然資源持続的開発区域 再生可能天然資源の開発と管理、学術研究、環境教育、ツーリズム活動等に限定。
生態系持続的利用区域 現在、農業、牧畜、林業に利用されている区域。持続可能性を探究することが必要。
特別開発区域 生態系を守りつつ、インフラの設置、天然資源の採掘を目的とする公共又は民間の事業を行える区域。
公共利用区域 レクリエーション及び娯楽活動を実施するための支援サービスを展開するための施設を建設することができる区域。
人間居住区域 保護地域宣言前に人間が居住している区域。
回復区域 天然資源が深刻に変質し、回復プログラムの対象となる区域。

(出典:生態系均衡環境保護一般法第47条の2)


(2) 実際の手続きの例

写真3. Baja California半島にしか生息していない保護対象の植物「Cirio」
写真3. Baja California半島にしか
生息していない保護対象の植物「Cirio」

 El Boleo多金属プロジェクトにおいては、CONANPと協定を締結することで、開発予定地が特別開発区域に設定され、SEMARNATから環境影響評価報告書の認可を得ることができた。そのCONANPとの協定において、Baja Mining社は環境に重大な影響を与えた場合の環境修復のための保証金として1百万US$を3年間で支払う約束をし、2010年までにその支払いを完了したとのことである。
 一方、El Arco銅プロジェクトにおいては、現在のところCONANPから保証金の求めは無いが、これについてGrupo Mexicoの現地事務所責任者は、「Grupo Mexicoはメキシコから逃げ出す訳にいかないと判っているからではないか。」と言っていた。
 関係者の話によると、動植物相保護地域に位置するEl Arco銅プロジェクトも、生物圏保護地域に一部が位置するEl Boleo多金属プロジェクトも、環境影響評価報告書において、自然保護地域に関係した追加の対策として以下のような動植物の保護対策を盛り込んでいる。

① 保護対象の植物を伐採する場合には同じ種類の植物を同じ本数だけ植え換える。

② 開発によって影響を受ける可能性のある保護対象の動物を捕獲し、別の安全な場所に移送する。

 植物については、球状サボテン(Biznaga)、柱状サボテン(Cactus等)、Baja California半島にしか生息していないCirio等が保護対象であり、どこにどの植物が植わっているかの地図を作成するとともに、サイト内に植物を育成するための設備を設けている。

おわりに

 バハカリフォルニア半島は、豊かな自然環境を持ち、ラパス、ロスボカスといったリゾート地においては、ダイビング、スポーツフィッシング、ホエールウオッチングといった自然環境を利用した観光が盛んである。このような地域において、生態系均衡環境保護一般法に従い、自然と共存した形で鉱業活動を行おうとしていることは、環境と開発との狭間で揺れる他の諸国にとっても参考になるものと思われる。メキシコ事務所では、今後ともこれらのプロジェクトの進捗状況をフォローしていきたい。


おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。


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