
カナダ東部の鉄鉱石プロジェクト(その1 現状)
< バンクーバー事務所 片山弘行 報告 >
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1. カナダの鉄鉱石鉱業米国地質調査所発行のMineral Commodity Summaries 2012によると、世界の鉄鉱石埋蔵量は鉄含有量で約800億tと推定されており、そのうちカナダの埋蔵量は鉄含有量で約23億tとされている。これは世界の埋蔵量のうち約3%を占める(図1)。
図 1 世界の鉄鉱石埋蔵量(鉄含有量(億トン)) (出典:Mineral Commodity Summaries 2012, USGS) カナダの鉄鉱石生産量は年産約3,000万t前後を推移しており、ほぼ全てがケベック州とニューファンドランド-ラブラドル州(以下、ラブラドル州と略す)に位置しているラブラドルトラフと呼ばれる地域から産出している。以前はオンタリオ州でも生産があったが、現在はブリティッシュ・コロンビア州で休止銅鉱山(Craigmont鉱山)の尾鉱から選炭用の磁鉄鉱をごくわずかに生産しているのみである(表1)。 表 1 カナダ各州の鉄鉱石生産量(単位:千t)
(出典:Natural Resources Canada) 世界的にはカナダの鉄鉱石生産量は大きいものではなく、特にオーストラリア、ブラジルが世界的な需要増加に合わせてその生産量を増大させるにつれて、世界の供給量に占めるカナダの割合は徐々に低下し、1995年には約4.2%だった占有率が2011年は約1.9%を占めるにとどまっている(図2)。
図 2 主要各国の鉄鉱石生産量(百万t)(出典:Raw Materials Data) カナダの鉄鉱石資源は概して品位が低いため選鉱が必要であり、その結果、性状として微粉となることが多い。したがって、微粉精鉱を加工したペレット、またはペレットフィード用微粉精鉱としての輸出がほとんどである。
図 3 カナダの鉄鉱石輸出相手国(出典:Statistics Canada)
図 4 日本のカナダからの鉄鉱石輸入量推移(出典:財務省貿易統計) 2. カナダ鉄鉱石産地 カナダの鉄鉱石は、ケベック州Ungava湾西岸からGrenville地質区に面するケベック南部までの延長約1,000 kmにも及ぶラブラドルトラフ地域を主たる産地としている。ラブラドルトラフ地域は、始生代のSuperior地質区とNain地質区に挟在する原生代のSoutheast Churchill地質区の西側に位置し、特にラブラドルトラフの西側では厚い堆積層を特徴としており、鉄鉱石を産するスペリオル型縞状鉄鉱層(Banded Iron Formation, BIF)はこの堆積層に認められる。 ● 細粒の二次鉄酸化物(赤鉄鉱、針鉄鉱、褐鉄鉱)からなる強度の弱い鉄鉱石。スーパージーン変質による溶脱と富化作用を受けてやや変成した細粒のチャート質な鉄鉱層。 ● 細粒の弱い変成作用を受けた鉄鉱層で、平均品位30%前後の磁鉄鉱及び赤鉄鉱。いわゆるタコナイト。 ● 強く変成作用を受けたやや品位の高い鉄鉱層。粗粒の鏡鉄鉱とそれより少量の磁鉄鉱からなる。メタタコナイトと呼ばれる。 ラブラドルトラフの鉄鉱層は、その岩相や変成度から3地域に分類され、Ungava湾西岸から南端部かけて位置する北部地域はメタタコナイトを主とし、激しく褶曲し、始生代の片麻岩を不整合に覆う。Labrador City近くまでの中部地域は弱い変成を受けたチャート質鉄鉱層を主とするが、一部でスーパージーン変質を受けて高品位化した鉄鉱石も認められ、これら高品位化した鉄鉱石は、選鉱などの処理を経ずに直接船積鉱石(Direct Shipping Ore, DSO)として出荷される。未変質の鉄鉱層はタコナイトとして採掘対象とされる。Labrador Cityを含む南部地域は、少なくとも2度の造山運動による褶曲、断層を受け、鉄鉱層は再結晶化で粗粒となった鏡鉄鉱質片岩となっている(図5)。
図 5 ラブラドルトラフ地域地質区 (出典:Mineral Deposits of Canada収録データより作成) 3. 稼行鉄鉱山 現在、カナダで稼行している鉄鉱山は8つあり、そのうちの6つがラブラドルトラフ地域に位置している(図6)。以下に各鉱山の概要を示す。なお、その他2つの鉄鉱山は、BC州のCraigmont鉱山(Craigmont Mines社)、ケベック州南部のチタンを主鉱種とするLac Tio鉱山(Rio Tinto、Fer et Titane社)である。現在稼行中の鉱山は、James鉱山を除いて低品位のタコナイトを採掘対象としており、選鉱を経た上で、微粉精鉱もしくはペレットの形状で輸出されている。 Iron Ore Company of Canada社(Rio Tinto:58.7%、 三菱商事:26.2%、 Labrador Iron Ore Royalty Income Fund:15.1%) (以下IOC社)所有でLabrador Cityの北約10 kmのラブラドル州に位置する鉱山。1962年に操業が開始され、現在までの総生産量は10億t(平均鉄品位39%)を超える。なお、2011年の生産量は1,346万t(Rio Tinto 2011年Annual Report)。2011年末時点での埋蔵量(確定+推定)は5億7,800万t(鉄品位65.0%換算)である。 ● Wabush(Scully)鉱山 Cliffs Natural Resources社所有でLabrador Cityの南約2 kmのラブラドル州に位置し、1965年以来操業している鉱山。2011年末現在の埋蔵量は6,920万t(確定+推定)。現在の生産能力は約560万t/年である。鉱石は赤鉄鉱主体であり、山元で重力選鉱し、精鉱を480 km離れたケベック州Sept-Îles港のPointe-Noireへ鉄道にて輸送、Pointe-Noireのプラントでペレット化し、同地の港湾施設から出荷している。一部精鉱はペレットフィードとして直接出荷されている。 ● Bloom Lake鉱山 Cliffs Natural Resources社が権益の75%をWugang Canada Resources Investments社(武漢鋼鉄集団公司の子会社)が25%を所有しており、Labrador Cityの南西約28 km、Mont-Wright鉱山の北約8 kmのケベック州に位置する2010年に操業開始した鉱山。鉱石は赤鉄鉱主体であり、2011年末現在の埋蔵量は3億6,110万t(確定+推定)。前述のWabush鉱山とあわせた2011年生産量は690万tであった(Cliffs社2011年Annual Report)。 ● Mont-Wright鉱山 ArcelorMittal Mines社所有でLabrador Cityの南西約30 kmのケベック州に位置する1976年から操業している鉱山。埋蔵量は10億t、マインライフは28年である。2011年は、後述のFire Lake鉱山と合わせて1,510万tの精鉱を生産、そのうちペレット生産は約900万tとなっている(ArcelorMittal社2011年Annual Report)。 ● Fire Lake鉱山 ArcelorMittal Mines社所有でMont-Wright鉱山の南約55 kmのケベック州に位置する季節限定(5~10月)で採掘されている鏡鉄鉱主体の小規模鉱山。一時休止していたが、昨今の鉄鉱石価格高騰を受けて操業を再開している。選鉱施設等が付随していないため、鉄道にて同社のMont-Wright鉱山選鉱施設まで運搬されている。 ● James(Schefferville)鉱山 Labrador Iron Mines社が所有し、2011年6月に操業開始したDSOを生産する鉱山。上記5鉱山が集まるLabrador City周辺には位置せず、Scheffervilleから約3 km南に位置している(ラブラドル州)。Scheffervilleでは、IOC社が1954~1982年にDSOを生産していたが、1982年に鉱山が閉山して以降は地元ファーストネーション(Innu)の拠点町となっている。 4. 開発プロジェクト 既存鉄鉱山周辺を中心に、現在複数の鉄鉱石プロジェクトが生産に向けて開発中である(図6)。 New Millennium Iron社が20%、Tata Steel社が80%を保有している次のDSO案件として最も期待されているプロジェクト。IOC社により1954~1982年まで操業されていた旧鉱山を中心としている。参入者であるTata Steel社は、本プロジェクトの初期投資のうち3億C$を拠出することで、マインライフにわたって生産物のすべてを引き取る権利を有している。 ● Mary Riverプロジェクト Baffinland Iron Mines社 (ArcelorMittal社: 70%、Iron Ore Holdings社: 30%)が保有するプロジェクト。今までの稼行鉱山等と異なり、ヌナブト準州のBaffin島北部、北緯71.18度の北極圏内に位置している。
図 6 カナダ東部地域の稼行鉄鉱山及び開発中プロジェクト (出典:Mineral Deposits of Canada収録データより作成) まとめ 将来の需要増大を背景とした供給能力の増強や州政府等による積極的な支援などから、鉄鉱石生産地域としてのカナダ東部、特にラブラドルトラフ地域に対する注目度が高まっている。本地域から産する鉄鉱石は概して低品位であるため、豪州やブラジルの優良案件と比較すると見劣りするのは否めないが、地政学的リスクが低い点などから、従来よりも相対的に魅力が高まりつつあると言えよう。 |
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