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オーストラリアMinerals Week Seminar参加報告
「資源ブーム後の改革案(The Reform Agenda)」 < シドニー事務所 矢島太郎 報告 >
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セミナーの主な講演内容(1) Andrew Michelmoreオーストラリア鉱業協会会長(MCA, Chairman)・開会挨拶オーストラリアの鉱業分野は資源ブームが去り、コモディティ価格の低迷と資源輸入国の経済成長の鈍化の苦難に直面しており、状況は改善せずにますます悪化している。このような状況の下、鉱業界では政府の施策に期待が集まっているが、オーストラリアは適切な戦略(strategy)をもってこの状況に立ち向かう必要があり、本日、MCAが主催する本セミナーにおいては、今後のオーストラリアの鉱業界が取り組むべき戦略について産官学界からそれぞれの視点で示していく。 (2) Ian Macfarlane産業科学大臣(Minister for Industry and Science)・鉱業のオーストラリア経済への貢献についてオーストラリアは世界各国の中でも探鉱と資源開発分野で大きな成功を収めてきており、鉱業の経済への貢献が大きい。2013/14年度のGDP成長率は2.5 %であったが、その内の0.7 %はまさに鉱業によるものであった。 ・コモディティ価格資源ブーム時にコモディティ価格は急上昇し、わが国の経済に恩恵をもたらしたが、現在コモディティ価格は下降を続けている。しかし、現在のコモディティ価格は長期的には決して低い価格ではなく、適正な価格に戻ったと解釈するべきである ・鉱業が取り組むべき事項わが国の鉱業が今後も世界各国との競争に対抗していくためにはコストの削減と効率化に取り組む必要がある。鉱山機器に関して先進的な技術も有している。今後は研究も競争力を向上させるために重要である。 ・政府の取り組み政府はコモディティ価格をコントロールすることはできないが、投資を促進するための整備を行うことはできる。従って、引き続き鉱業分野への投資を促進するためのサポートを行っていく。また、共同研究プロジェクト(Cooperative Research Centre; CRC)を支援し、新規技術の開発と実用化も推進。最近、環境保護活動が鉱業を封じようとする動きが目立っているが、現政権は引き続き公平な立場でわが国の鉱業をサポートしていく。 (3) Andrew Mackenzie BHP Billiton最高経営責任者(BHP Billiton CEO)・鉱業のオーストラリア経済への貢献近年、オーストラリアの鉱物及び石油資源が、わが国を世界有数の経済国に成長させた。BHP Billitonも昨年度は90億A$の税金とロイヤルティをオーストラリア政府に納め、オーストラリアの経済に大きく貢献した。また、オーストラリアのみならずアジア諸国の建設ブームもオーストラリアの鉄鉱石に支えられているといっても過言ではない。 ・コモディティ価格中国は投資から消費へと経済の動向が変化し、経済成長が減速している。現在の市場では各種金属が供給過剰になっていることが主な要因となりコモディティ価格が低迷している。供給過剰が解消されるまでには時間がかかるかもしれないが、将来の価格上昇については楽観視している。 ・資源開発におけるオーストラリアの優位性オーストラリアは大規模な鉱床を胚胎する地質環境を持ち、また中国、インド、他アジア諸国に近いという地理的好条件、整備されたインフラ、労働者の教育水準の高さ、政治的な安定性、開かれた貿易市場を有するなど多くの点で、優れた資源開発環境を有している国である。 ・オーストラリアの鉱業が競争力を維持するために取り組むべき課題「技術革新」、「教育」、「透明性」を重視する必要がある。鉱物資源の輸出だけでなく、新しい技術を輸出する必要があり、資源開発と採掘技術を維持するための教育も大切である。また、オーストラリアの資源企業は成長と環境保護を実現するための技術革新と持続可能性に配慮する必要がある。さらに、オーストラリアの競争力を維持するためには企業だけではなく、政府の働きも重要である。 (4) Gary Banksオーストラリア・ニュージーランド政治学大学院学長(Australia New Zealand School of Government (ANZSOG), Dean)過去にオーストラリアの鉱業界が改革案を必要とするという事態に直面したことはあまりなかった。 現在のオーストラリアは高い生活水準が一般化したことで高コスト環境となっており、低迷する経済の先行きに明るい材料が少ない状況となっている。オーストラリアの生産性と各種手続きに関する透明性は決して高いとはいえないため、それらを向上させるための構造改革が先ずは必要である。 (5) 資源開発に対する反対活動に関するパネルディスカッション近年問題となっている環境団体による資源開発に対する行き過ぎた反対活動についてパネルディスカッションが行われた。石炭生産企業1名、ウラン探鉱ジュニア企業1名、資源開発擁護者1名、資源開発に対して中立の立場の者1名、反対者1名が参加し、意見をかわした。 石炭生産企業Whitehaven社のPaul Flynn CEOがMaules Creek炭鉱の開発の際に、環境保護団体によって行われた違法な妨害活動について紹介が行われた。炭鉱での反対活動は危険な行為でしかも違法行為であるため、徹底的に対応しなくてはいけないと述べた。 鉱山開発反対の立場を取る非営利団体Institute of Public AffairsのJohn Roskam理事は世界遺産のグレートバリアリーフに隣接するAbbot Point港の開発は、まるでモネの絵画に傷をつける行為と同じであると非難した。モネの絵画の1インチ四方を切り取るだけでも価値が失われると同様、資源業界にはモラルが必要と反論した。 中立の立場を取るコンサルタント会社JWS Research社のJohn Scales社長は、反対派は絶対数で少数派であるため、中立的立場にある80 %の住民に対して説明を行い、根気強く説得することで資源開発が可能となると説明した。 鉱山開発を擁護する立場を示すコンサルタント会社NyunggaBlack社のNyuggai Warren Mundine社長は、世の中で鉱山から得られたものを使っていない製品を見つけることは難しく、資源開発を否定すれば普段の生活にも困る状況を招くことになると説明、鉱山開発に対して寛容な姿勢を示した。 ウラン探鉱ジュニア企業Toro Energy社のVanessa Guthrie社長は以下のように説明した。反対活動は資源開発に必ずつきまとう問題であって無くなることはない。そして、反対活動は洗練されてきており、対応が難しくなっている。そのため、資源開発を実施するものは反対活動に対して毅然と対応しなければならないと訴えた。 (6) Tony Abbottオーストラリア首相(Prime Minister of Australia)![]() ・オーストラリアの資源産業オーストラリアは資源産業なくしては今日の豊かさを得られなかった。現在、資源関連の輸出額が本国の総輸出額の約60 %を占め、資源関連企業が1,040億A$の法人税を過去10年間に納めてオーストラリア経済に貢献している。オーストラリアは世界最大の鉄鉱石と原料炭輸出国であり、また近い将来、世界最大のLNG輸出国になる予定である。 ・政府の鉱業分野への支援現保守連合政権は、資源産業が世界で最も高い競争力を獲得することを目標にしている。そのために、鉱業の成長を阻害する鉱物資源利用税(Mineral Resources Rent Tax; MRRT)と炭素価格制度(Carbon Tax)を廃止し、ジュニア企業による未探鉱エリアの探鉱を促進するべく探鉱促進支援策(Exploration Development Incentive; EDI)を導入した。また、鉱業に関する各種申請の審査と承認にかかる時間も短縮していく。貿易に関しては、中国・日本・韓国と自由貿易協定(FTA)を締結したことにより、資源に関する関税の多くが撤廃される。政府は今後も投資、輸出、雇用を増やすための支援を継続する方針である。 おわりに今年のセミナーは資源ブーム後の鉱業界の進むべき方向性について産官学界の代表者から講演等が行われた。研究開発を積極的に行い、最先端の鉱山操業技術を開発・導入して生産性を向上させることで、国際的な競争力を維持していく方針が示された。本鉱業大会からは、コモディティ価格の回復を待つ受動的な姿勢ではなく、研究開発を行い新しい技術を開拓する積極的なオーストラリア政府及び企業の姿勢を感じることができた。 |
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